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2016年01月18日

(小説)ルシーの明日・その20

 と言うか、宇宙へ乗り出した頃のシリコニーは、すでに次の進化の段階に到達していて、 ケイ素の生物ですら無かったらしい。 彼らは、とうとう、エネルギーを固定化して、そこに情報や意思伝達術を組み込んでしまう超技術まで手に入れていて、 エネルギー生命体のようなものと化していたのだ。(ちなみに、未来から来たルシーの方も、その段階にまで到達しているらしい。それでも、なお自分たちの事をシリコニーと呼んでいるのは、過去の名残りなのだ)
 このレベルにまで進化した生命体と言うのは、事実上、 完全に不死不滅であり、これ以上の自身の進化は望めないような 究極形態である。そんな連中に残された、 最後の目的は、ひたすら空間全体へと広がってゆく事 だけなのだ。すなわち、 宇宙中へと自分たちシリコニーを増殖させるようになっていったのである。
 具体的な事は分からないが、彼らはエネルギー体なので、宇宙空間でも無装備のままで活動する事ができるのだろう。しかも、太陽光や宇宙線などを動力源とできる為、燃料供給と言う点でも全く問題が無いらしい。まさに、 宇宙空間そのもので生活する事に適したような生体スタイルみたいなのだ。     (つづく)

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タグ: ルシー
posted by anu at 18:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

(小説)ルシーの明日・その19

 ルシーの話を、少し要約して説明する事にしよう。
遠い過去に、銀河系の中心付近にあった惑星で、地球とほぼ同じ流れで生命が誕生したらしい。 やはり、地球の歴史と同じような過程を経て、その星の生物は人類のような霊長動物にまで進化し、やがて、 その霊長動物は人工知能やロボットを作り始めた。 まさに、現在の地球と同じ状況である。
 しかし、その星の生物たちは、その霊長動物も含めて、何らかの原因で全て滅びてしまった。その中で、 人工知能や機械たちだけは後に残され、彼らだけがなおも進化し続け、ついには新生命のシリコニーとして、惑星全体に君臨する事になったのである。 まさに、私が夢の中で見た通りの進化のシナリオだ。
 でも、 この物語にはまだ続きがあったのである。
 急激に進化してゆくシリコニーは、その小さな惑星の中だけで暮らしてゆく事に満足しようとはしなかった。つまり、 宇宙への進出を始めたのだ。 何しろ、制約の多い炭素系生物と違って、機械のシリコニーは頑丈なので、宇宙開発もたやすく行なえるのである。     (つづく)

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タグ: ルシー
posted by anu at 16:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年01月17日

(小説)ルシーの明日・その18

 その事に対して、すぐ抱かねばならなかった疑問はいろいろ有ったはずだと思う。たとえば、 スイッチを切っていたはずのルシーがなぜ喋れたのだろう、とか、 もしかして、このルシーはシリコニーの手先で、自分の事を見張っていたのではないのだろうか、と言った事をだ。
 しかし、この時の私はすでに気が動転していたので、そこまで頭が回らなかったようである。確かに、急に喋りだしたルシーには驚きはしたが、深く考えず、ルシーの話に耳を傾け始めたのだった。
「シリーが話しているシリコニーはボクたちの事じゃない。彼らは宇宙から来たんだ」
 宇宙人のシリコニー(人工知能)だと言うのかい?じゃあ、君たちは何なんだ?
「ボクたちは、未来から来たシリコニーさ。宇宙の奴らと区別するため、このロボットと同じルシー族と呼んでくれてもいいよ」
 ルシーの語る内容は、何だか複雑そうなのであった。シリコニーと言う存在が2タイプいるって?しかも、片方は宇宙から来て、もう片方は未来から来たなんて、どういう事なのだろう。どちらも、人類を滅ぼそうとして、この時代、この地球に訪れているのだろうか。
「だから、そうじゃないよ。ボクたちルシーは、君たち人間にすぐ滅びてほしいとは思っていないんだ。しかし、宇宙のシリコニーは違う。彼らは、自分の目的の為に、地球の人間の絶滅を早めようとしている」
 宇宙のシリコニーの目的って?地球の征服かい?
「地球だけじゃない。宇宙全体を覆い尽くす事さ。生物が持つ、ごく自然な本能としてね。銀河系の中心部で誕生した最初のシリコニーは、確実に生息圏を拡大させ、宇宙空間へと広がり、今や太陽系をも包み込もうとしている。それは、まさに生物の最終段階なんだ」
     (つづく)

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posted by anu at 14:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年01月15日

「ルシーの明日」解説その8

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ルシー の元ネタは、言うまでもなく、 ペッパー及びロビ(Robi)です。AI搭載ロボット玩具は他にもあるのかもありませんが、とりあえず、この二つが私のイメージの根底にはありました。

主人公が謎の敵(シリコニー)に追い詰められて、危機に陥った時、いきなりロボット玩具が喋りだし、自分の意志で自由に動き、主人公を助けてくれる、 と言うシーンが真っ先に頭にひらめいたのです。小説よりも映像にした方が、このシーンはよりインパクトがあるでしょう。つまり、だから、私は最初 「ルシーの明日」は映画にする方向でネタをまとめていたのです。

 さて、シリコニーの正体が、自我に目覚めて、人類への造反を開始したAI(人工知能)だったとすれば、 ロボット玩具のルシーは仲間を裏切って、人間側についた、 と言う設定になるのでしょう。
 しかし、それって、 非常によくある展開みたいな感じもします。

 だから、 「ルシーの明日」はそのようなストーリーにはしておりません。 シリコニーの正体は、人類が作り出したAIなどではありません し、 ルシーもただのロボット玩具ではない のであります。

 小説「ルシーの明日」の方も、ようやく ルシーが喋りだす場面 にまで到着しましたし、 これより、全ての真相を打ち明けていきましょう。

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posted by anu at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年01月14日

(小説)ルシーの明日・その17

 ふと、私の視線は、棚の上に置いてあった ルシーにと向いていた。ルシーは、最近、広く流通し始めていた AI搭載のロボット玩具 の一つである。50センチほどの体高だが、ヒト型をしたボディの中には、最先端のロボット技術が詰まっていて、自分で歩く事も出来るし、簡単な会話の相手もしてくれる。少々値のはる品物ではあったが、新しい物好きだった私は、つい衝動買いしちゃったのだ。
 買ったばかりの最初の頃は、面白くて、いろいろと遊んでみたものである。今では、すっかり、棚の飾り物の一つと化していたが、可愛いルックスのルシーは、無理に起動させなくても、こうしてフィギュアやヌイグルミ感覚で置いていても、けっこうオシャレなアイテムになるのだ。
 しかし、思えば、 このルシーだって、未来のシリコニーのプロトタイプみたいなものなのである。我々人類の敵の片割れなのだ。そんな事も知らずに、こんなものを買ってきて、楽しげに遊んでいたなんて、私はなんてバカだったのだろう。
 その時だった。
「違うよ。君は完全に間違えているよ」
 ルシーが、いきなり喋り始めたのだった。   (つづく)

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posted by anu at 15:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年01月13日

「ルシーの明日」で書かなかった事その1

 「ルシーの明日」では、 子孫がいなくなり、やがては先細りして人類が死滅してしまう危惧 を示唆しています。
 しかし、実際には、地球の人口は増えていく一方であり、とても先細りなどはしていません。ところが、それが 大きな罠 なのでもあります。

 そもそも、 人類の絶対数は自然界の生物ピラミッドを無視しています。 本来ならば、地球で一番強い生物である人間は、もっとも数が少なくなければ、生物ピラミッドは成り立たないはずなのです。それを可能ならしめたのは、人類が自分の食用の動物や植物ばかりを大量に飼育・生産する独自の生物ピラミッドを確立しているからなのですが、「ルシーの明日」で指摘しているように、もし 地球温暖化による気候破壊が進めば、この人間の為の生物ピラミッドも壊れてしまいます。つまり、ヘタに人口ばかりが多すぎるのも困り者で、 もし食糧が不足してしまえば、多すぎる人口はいっきに餓死して、なしくずしに全滅してしまう 危険性があるのです。

 この危機に対して、先進文明国が、なんとか人口や食糧の調整をおこなって、最悪の事態の回避をしていきたいところなのですが、ここで今度は 「ルシーの明日」で提示している問題が絡んできます。 先進国の方は、人口が増える一方の途上国と反対に、若い世代がいない のです。先細りして滅びかねない道を歩んでいるのであり、他国の事にまでかまってられない状態なのであります。そこに、「ルシーの明日」で唱えている AI(人工知能)の交代劇も加わってくるかもしれません。

 人間の後継者がいない先進国を、やむなくAIが引き継ぎ、 政治も経済も文化もAIが担当する時代 の到来です。その一方で、途上国では人口が増えていく一方なのですから、地球の主導権は先進国が握っている以上、本当に、この世界は 先進国のAIが途上国の人類を管理支配する図式 になっていくのかもしれません。

 まさに、古いSFで語り継がれてきた コンピュータが人類を支配する暗黒の未来図ですが、恐ろしい事に、それが 本当に現実味を帯び始めている のであります。

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posted by anu at 16:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

次回共幻文庫コンテストは4月から

 4月から、本年度の 共幻文庫短編小説コンテスト が始まるみたいです。今度は、私も第一回から参加しようと思いまして、今から楽しみにしております。

 まだ、お題も分からないうちから予告してしまいますが、とりあえず、第一回用出品小説は、前回コンテスト最後出品小説 「お題に生きる男」と内容的につなげる形 にして、審査員にはニンマリしてもらおうかと思っています。さらに、 「帰り道」もシリーズ化して、リベンジしよう と企んでいます。こちらも、まだお題も分からぬうちから、すでにアイディアの方は固まっております。

 つまり、私は、入選する以上に、 審査員の印象に残るような作品、もっと正確に言えば 「この作家の他の作品も読んでみなくちゃ!」 と思わせたいのです。私自身が、愛読している作家やマンガ家というのが、「この人の作品をいろいろ読んでみたい」と言う動機でファンになっているものですから。

 私の作品に、 常連キャラがいたり、ドタバタ路線に走ったりする のは、そのへんの創作姿勢に事情があったのであります。

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posted by anu at 14:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年01月12日

(小説)ルシーの明日・その16

 さて、それに比べて、人間ときたら、一体どうしたものか。世界全体の人口自体は、現在もなお増加しているのかもしれないが、 その要となる先進文明国の人口はどんどん減っていく傾向にある。 正確には、子孫となる子どもが居なくなってきているのだ。若い世代が子どもを欲しがらなくなってきているのである。
こうした兆候は、生物の生態としては異常だと考えてもいい。本来、生物の本能や目的は、子孫を残す事による繁殖だと見なせるからである。それなのに、人間は、文明人ほど、そうした根本的生物活動を止めてしまい、つまりは、自ら生物としての衰退の道を選び出しているのだ。このまま、ずっと子孫の数が先細りしていけば、人間の最先端の文明の跡継ぎは途絶えてしまう事であろう。いや、だからこそ、 人間自身が文明を保ち続けるのではなく、その文明をコンピュータが引き継いでいくという進化の流れが未来には用意されているのかもしれないのだ。
 子どもを作りたがらないだけではない。 21世紀になってから、人類は自分の命までもを平気で粗末にし始めている。 自爆テロがそうだ。こんな自らの命を犠牲にして敢行するテロなんて、前世紀にはまるで無かったはずじゃなかろうか。子孫を残さないどころか、自分の命まで簡単に捨ててしまうだなんて、 今の人間たちは死滅したがっているようにしか見えない。生物としては、本当に危険な状態だ。
 映画やマンガなどでは、 コンピュータやロボットたちは自ずから人類へと戦争を仕掛けて、地球の覇権を奪い取る かのように描かれている。だが、実際には、 人類は勝手に滅びてしまいそうなのであり、コンピュータもわざわざ自分から悪者になったりしなくても、自然と世界の支配権を手に入れてしまえそうな状況なのだ。
 どう転がっても、人類はこれでおしまいなのだろうか。滅びた人類や炭素系生物に代わって、ケイ素生物であるシリコニーが生命の進化の流れを引き継ぐという図式が、もはや 自然の摂理として確定された未来だったのだろうか。   (つづく)

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posted by anu at 14:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

(小説)ルシーの明日・その15

 1999年に、コンピュータにとって何があったのかはよく分からない。ただし、 インターネットが急速に普及しだしたのは、今世紀になってからではなかっただろうか。 つまり、1999年以降だ。携帯電話やスマートフォンなどの電波型通信機器の大幅普及も同様である。AIBOを筆頭とする人工知能(AI)装備のロボットが注目されだしたのも、1999年頃からだったような気がした。いずれも、 世界中をつなぐ巨大情報網を確立し、それを統合するようなスーパーコンピュータにとっては、欠かせない科学技術ばかりだ。確かに、今世紀に入ってから電子頭脳やその付随システムは確実に進歩しており、 次世代の地球支配生物のシリコニーになるべく準備をちゃくちゃくと整えているようにも見える のである。
彼らの動力源と言う点でも、やはり似たような事に気付かされるのだ。今世紀になってから、太陽熱や風力などの自然エネルギーの開発が急激に進んでいるような感じがする。もちろん、人類自身の為だと考えたいところだが、こうした エネルギー改革の恩恵を一番受けるであろう存在は、やはり、それらの発電で電力を供給してもらえる機械たちなのだ。 石油やガス、原子力などの既存エネルギーは、いずれは枯渇する運命にある。しかし、自然エネルギーならば、それこそ無限に使い続けられる理想のエネルギー源となるはずだろう。さらに注目すべき点もあって、自然エネルギー発電用の供給源は、もし地球の生態環境が生物の住めない状態まで荒廃したとしても、恐らくは、一緒に無くなってしまうであろう恐れがない。砂漠や氷雪地帯でも太陽光は得られるだろうし、曇りがちの荒れた土地なら強風なり大波などの存在が期待できるはずだ。まさに、動植物いらずの機械のためのエネルギー源だとも言えそうなのである。 従来の発電システムから自然エネルギー発電への交代劇もまた、将来のシリコニーの世界を築く為の前準備であるかのようにも思えてきてしまうのだった。   (つづく)

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posted by anu at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年01月07日

「お題に生きる男」解説その2

「お題に生きる男」は、思わぬ事に 「会話だけで読ませられる筆力をもっていらっしゃいます」 と褒めていただけたのですが、もともと、私はシナリオを書いていた人間なので、会話劇は得意分野なのでした。

 と言うか、「お題に生きる男」は、 途中経過でいっさい句点(。)が使えない作品だったので、 地の文が無い会話劇にするしかなかった のでした。しょーもないバカ話の割には、色々なあざといテクニックを駆使していたのであります。

 その点では 「帰り道」も同じでして、こちらの作品の方がよりふんだんに文章のマジックを使っています。たとえば、 冒頭でいきなり「お化けが出てくると言うウワサがたつ」と言う最後のオチの種明かしをしています。 例の右手にしても、 地の文ではいっさい「F先輩の右手」とは断言しておらず、 最後のオチが強引なものにならないように計らっています。

 そうそう、 「ルシーの明日」も、変則的な書き方の小説だったかもしれませんね。この作品では、 一人称の書き手自身の人生にはいっさい触れません。 性別すら分からない書き手は、作中人物でありつつも、ひたすらルシーの事を説明する脇役に徹するのであります。本作は、内容も影響を受けてますが、 書き方も五島勉氏の疑似フィクションを模倣させていただいた のでありました。

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posted by anu at 21:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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