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analog純文

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2025.03.23
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『蛇にピアス』金原ひとみ(集英社文庫)

 先日、住んでいる地域の公民館のようなところで映画会をしていたので見てきました。
 上映していたのは、『狂った果実』という日本映画で1956年の作品です。
 石原慎太郎の小説が原作で、実質上の石原裕次郎のデビュー映画だそうです。

 これは私に映画の鑑賞能力がないというか理解力がないというか、少しおおざっぱな言い方をしますと、昔の映画(「昔」とは厳密に、いつからいつまでかということがいえないんですが)を見ていると、セリフ回しが全く平板で早口で、まるで読んでいるようじゃないかと思うことが多い(評価のきわめて高い小津安二郎監督の映画の中にも)と、感じてしまうんですね。

 しかしまぁ、そんなところに引っ掛かりながら、昭和31年頃の「太陽族」と呼ばれた青年たちの恋愛映画を鑑賞していました。
 主に金満家の家の息子や娘たち(後はいかにも戦後すぐらしい進駐軍=アメリカ人がらみの男)が、日々の退屈に任せてほぼ自由に自堕落に恋愛、あるいは情交をするという話です。しかし、中心となっている恋愛を追っていくと、それはきわめて純愛になっているというのが、やはり観客に対しての落としどころなのでしょうか、恋愛風俗はその時代としては不道徳でセンセーショナルであっても、好きという感情は古典的で、切なく愛くるしいという展開でありました。

 そんな映画を見て私は、ストレートな連想として、先日詠み終えた本書と同じだなと思いました。
 違っているのは、体に入れ墨を入れるとか、顔面を中心に何か所もピアスの穴をあけるとか、舌先を二つに割ってしまうとかだけで、実際、私は読んでいて、かなり終盤近くまで、本書の青春恋愛小説的展開に、少し恥ずかしいような感覚を持っていました。

 ただ、では全く従来の純愛小説と同じなのかというと、やはりそうではないだろうという気はしています。
 もう一度『狂った果実』の話題に戻ってみます。
 映画の中に、主人公の青年(若き石原裕次郎ですね)と彼女(のちに裕次郎と結婚をする北原三枝ですね)が夜、車で海岸に行くんですね。そしてそこでラブシーンとなるのですが、その場面が、まずキスをして岩場で二人が重なっていきます。しばらくシルエットのようなその場面が続いた後、彼女のスカートをゆっくりせり上げていく手が映って、そして溶暗となります。

 もちろん今見ればそれだけの場面なんですが、劇場公開時は、表現できる限界ぎりぎりのところ、観客にとっても唾を飲み込むようなシーンではなかったかと思います。
 やはり、このシーンはこの映画の価値として高く評価すべきなんだと思います。

 それと同じことが、本作品にも読めると私は思いました。
 刺青などについては、それこそ谷崎潤一郎の『刺青』(1910年作)に、はるかにクールな場面が描かれていますが、やはりスプリットタンの風俗を初めて書いたのは本書であり、それは一種の「不易流行」であるのでしょう。

 一方、上記に私は青春小説的と書きましたが、それは中心となっている展開自体が青春恋愛小説的であると同時に、本文随所に取り上げられている多くのエピソードの形や描写の仕方、また自意識や感受性の傾向などが、いかにも19歳の女性が描きそうな(あどけないといえばあどけない)ものであることもあります。
 ひとつだけ挙げてみます。

​ (略)無気力の中、私は結婚という可能性を考えてみた。現実味がない。今自分が考えている事も、見ている情景も、人差し指と中指ではさんでいるタバコも、全く現実味がない。私は他のどこかにいて、どこかから自分の姿を見ているような気がした。何も信じられない。何も感じられない。私が生きている事を実感できるのは、痛みを感じている時だけだ。​

 いかがでしょう。
 私は抜き出していて、この文章は、例えば太宰治の『女生徒』の中に紛れ込ませても、すぐには見分けがつかないんじゃないかと思いました。
 ただ、繰り返しますが、新しい風俗をその中に持ち込んだこと、それこそが、「不易流行」の新しい「流行」にふさわしい、と。

 そう考えると、本書が芥川賞を受賞したということもまた、いかにもふさわしい感じがしますね。
 なるほど、もとより芥川賞は、МVPでも三冠王でもなく、その半年間のフレッシュな最優秀新人王でありますものねぇ。

​​​
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Last updated  2025.03.23 08:28:16
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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