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2022年を振り返って、東京大学教授の宇野重規氏は18日の東京新聞に、次のように書いている; 2022年は、世界にとって、日本にとって、歴史的な一年として記憶されるだろう。世界については言うまでもない。ロシアによるウクライナ侵攻は、暴力によって多くの無辜(むこ)の民の命を奪ったばかりでなく、世界の分断を加速し、国際的な緊張をもたらした。軍事費の増大はエネルギーや物資の価格高騰とあいまって、人々の生活を直撃している。影響は今年行われた各国の選挙にも及び、世界の前途には暗雲が漂う。 日本もまた同様である。とくに年の後半になって、今後に大きな影響を持つ出来事が続いた。安倍晋三元首相の銃撃事件はそれ自体として大きな衝撃であったが、事件を契機に、旧統一教会問題と安倍氏の国葬問題が世論を揺るがすことになった。旧統一教会問題は、日本政治の暗部を浮き上がらせると同時に、政界の自浄能力の欠如を露呈した。根拠と基準の欠けた国葬の決定は、世論の分断を加速させるばかりであった。 ◇ ◆ ◇ 日本という国の土台となる方針の変更が、にわかに進んだことも重要である。東京電力福島第一原発事故以来、日本のエネルギー政策についてはさまざまな議論がなされてきた。それが突如大きく動き出したのが2022年である。国際情勢の変化を背景に岸田文雄首相は、既存の原発の再稼働のみならず、新増設や次世代型原発の開発へと大きく踏み出した。運転期間についても、60年の上限の撤廃が検討されている。 なるほどエネルギー危機が進むなか、日本社会を支えるエネルギーのあり方を考えることは急務であろう。脱炭素社会を目指した社会の取り組みも不可欠である。とはいえ、巨大な原発事故を経験し、多くの人々が故郷を奪われた日本社会において、原子力エネルギー政策をめぐる大きな転換が、かくも簡単に実現してしまうことには危惧を感じる。 はたして日本社会のよって立つエネルギーのあり方について、国民的な合意は形成されているのか。 そもそも再生可能エネルギーへの取り組みは十分に試みられたのか。 国際的なエネルギー危機に押される形で、日本の大きな方針転換が本質的な議論もなしに進んでいるとすれば深刻である。 ◇ ◆ ◇ 敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有についても、事態が大きく進むことになった。敵国のミサイル発射拠点をたたく能力を持てば、攻撃を思いとどまらせることができる。それゆえに、それは自衛の手段にほかならない。このような説明がしばしばなされるが、敵国に攻撃の兆候があれば攻撃できるという以上、専守防衛の原則が大きく変更となることは明らかである。どれだけの能力を持てば相手を抑止できるかわからない以上、相互の軍拡競争に歯止めがかからなくなる危険性も大きい。 そしてそのための防衛予算の増加である。政府は5年間で43兆円への増額を打ち出したが、「国内総生産(GDP)比2%超」という数字ありきに思えてならない。はたしてこの目標にどれほどの根拠があるのか。開かれた議論が十分になされたのか。財源についても明確な見通しがあるのか。疑問は尽きない。 大きな転換がしっかりとした議論もなしに進められるとすれば、民主主義の危機である。2022年を「いつの間にか、日本の未来が決まっていた」年にしてはならない。今が踏ん張りどころである。2022年12月18日 東京新聞朝刊 11版 5ページ 「時代を読む-議論欠如の『歴史的1年』」から引用 わが国の民主主義が危機的状況にある割には、この記事は穏やかな表現に満ちて、どこか他人事の「危機」を解説しているように感じられます。「大きな転換がしっかりとした議論もなしに進められるとすれば」という表現は、おかしい。「現に、大きな転換がしっかりとした議論を抜きにして、政権によって勝手に勧められている。これは問題だ」とはっきり表現するべきだと思います。防衛予算の倍増も原発の再稼働も、通常国会が閉会した後で内閣が勝手に「閣議決定」したもので、与野党間の「議論」は一切ありません。その理由は、与党側に野党と対等に議論する「資質」が欠けているからだと私は思います。野党には官僚上がりで政策通の人材が揃っている割に、与党はろくに勉強もしないで親の七光りで政治家になった世襲議員ばかりで、国会質疑と言えば官僚に書いてもらった答弁書を棒読み、それも漢字をしょっちゅう読み間違えるために「ふりがな」は絶対必要という、こういう低レベルの議員に有権者が投票を続ける限り、この国はいつまでたってもうだつが上がらず、庶民は苦しい生活に耐え続ける運命にあると思います。
2022年12月31日
しっかりした安全保障を得るために軍事費を倍増しようと言う岸田政権の方針が如何に間違いであるか、東京大学教授の石田淳氏は18日の東京新聞で、実例を挙げて次のように説明している; 敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有しても、日本の安全は高まらないと考える。攻撃を受けたときに限って武力行使をするとした専守防衛という長年の宣言政策の信頼が低下し、他国の不安をかき立てる。周辺国との緊張が激化して、さらに軍備競争が加速する「安全保障のジレンマ」から抜け出せなくなるからだ。 安全保障環境が厳しいから何か対抗するべきだというのは分かりやすい論理だが、それで本当に戦争が起こりにくくなるのか真剣に考えるべきだ。 例えば、1998年の北朝鮮のミサイル発射実験を受けて日米で共同研究を進め、日本政府は2003年に弾道ミサイル防衛(BMD)システムの整備を閣議決定した。だが、これは相手国のミサイルの軍事的効果を相殺するため、BMDの対応力を超えるミサイル開発への誘因となった。防衛力強化を期待して行ったことが逆効果となり、安全保障環境を悪化させたことを政府・与党は自覚した方が良い。 戦争は国家間の共通の不利益だ。中国などと、軍備管理によって武力紛争を回避する状況をどうつくるかを考える必要がある。 ロシアによるウクライナ戦争は、米ソ冷戦期の朝鮮戦争のような歴史の分水嶺になり得る。つまり東アジアの朝鮮戦争をきっかけに米欧の軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)の軍拡が加速したように、今回も欧州だけでなく日本も軍拡が進む見込みだ。これは非常に良くない傾向だ。 敵基地攻撃能力を保有すれば、軍拡競争は加速し相互不信が高まり、誤認による偶発戦争も起きうる。それが怖い。(聞き手・川田篤志)<いしだ・あつし> 専門は国際政治。2005年に現職。東京都立大教授などを歴任。東京都出身。シカゴ大博士。60歳。2022年12月18日 東京新聞朝刊 12版 3ページ 「私はこう考える-軍拡競争で相互不信高まる」から引用 この記事が指摘するように、日本政府は98年の朝鮮民主主義人民共和国のミサイル発射実験への対策として日米共同開発の弾道ミサイルシステム整備を閣議決定したところ、数年後に共和国はそのシステムを凌駕するより強力なミサイルを開発した。この例が示すように、軍拡競争では真の「安全保障」を得ることは不可能である。朝鮮戦争の後、70年間も東アジアに武力紛争がなかったのは、一重に日本が「専守防衛」を内外に宣言して実行してきたからであって、ここで日本が軍拡に踏み出せば、必然的に近隣国もそれに応じて軍拡に踏み出さざるを得ず、不毛な競争の果てには不幸な武力衝突が待っているのである。来春の統一地方選挙では、是非とも全ての自民党候補を落選させて、岸田政権に方針転換を迫る必要があります。
2022年12月30日
岸田内閣が改訂したという安保関連3文書について、元内閣官房副長官補の柳沢協二氏は17日の東京新聞に寄稿して、次のように述べている; 閣議決定された安保関連三文書には、「反撃能力の保有」「中国の戦略的挑戦」といった勇ましい言葉が並んでいる。世論調査では、防衛力強化の方向性をやむを得ないと受け止める声も多い。ウクライナの戦争や、台湾、北朝鮮を巡る情勢が緊迫し、戦争への不安を感じているからだ。 戦争の不安から「戦争に備えなければ」という発想が出てくる。一方、軍事衝突が起きれば国民の犠牲は避けられない。国民を守るには「戦争を回避しなければ」という発想が必要で、安全保障の目標を戦争の勝利に置くか、戦争の回避に置くかで政策は大きく違ってくる。だが、今回の三文書は防衛力強化の理由付けであり、「戦争が不安だから防衛力を増強する」とう発想に終始している。 例えば、敵基地攻撃は「やられたらやりかえす」という戦争の備えであり、それが抑止になるという論理だ。ただ、戦争に備えるには相手を上回る力と、国民を完全に防護する対策が必要になるのに、その見通し、つまりリスクが示されていない。政府も「国民が一人ぐらい死んでも良い」とは考えていないだろう。 戦争を回避するには、政治的な相違があることを前提にしたお互いの自制と対話が必要だ。例えば「台湾有事」についても、米中台それぞれに自制を求める外交という「対案」があるはずだが、検討の形跡すら見えない。 防衛費の財源が決まらないなど、積み残された論点はあまりにも多い。コストとリスクを説明し、「対案」を含めて議論することが求められる。(寄稿)2022年12月17日 東京新聞朝刊 12版 1ページ 「ウオッチ安全保障-外交で戦争回避 検討なく」から引用 ロシアがウクライナで戦争を始めたから、中国もどこかで戦争をするのではないかと考えるのは「素人の浅はかさ」というもので、ロシアの場合は「ロシア包囲」というアメリカの「侵略政策」に対抗する必要があって、アメリカの「手先」になりつつあったウクライナに侵攻したものです。しかし、中国は今のところ、ロシアのような差し迫った「危機」は存在しませんから、今ここでわざわざ台湾に軍事侵攻をしなくても、このまま経済関係を発展させていけば、自然の成り行きで台湾は名実ともに中国の一部になることは分かりきったことです。ただ、このような「自然の成り行き」を許せないのがアメリカ帝国主義で、ロシアを追い詰めた同じ手口で中国も封じ込めようとして、台湾に武器を売りつけたりしています。しかし、台湾の住民は賢明で、大量の武器をアメリカから購入した与党に対し11月に行なわれた統一地方選挙で「No」を突きつけ、蔡英文氏は与党の総裁の座を降りることになりました。日本人も、世襲の政治家に任せるのではなく、自ら考えて東アジアの平和を維持していくにはどのような政治が望ましいのか、選択していく必要があると思います。
2022年12月29日
今年の日本の状況は1930年代に経験した事態によく似ているとして、歴史家で学習院大学教授の井上寿一氏は17日の毎日新聞に次のように書いている; 年末に際して今年の回顧と来年の展望を記す。 2022年がロシア軍のウクライナ侵攻の年として記憶されることはまちがいない。23年に終結するとの楽観的な展望は退けられている。ウクライナを支持する日本は、対露経済制裁などをとおしてこの軍事紛争に関与していながら、当事国意識を欠く。 国内政治に目を転じれば、7月8日の安倍晋三元首相の銃撃事件の情景が浮かび上がる。衝撃の波紋は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の政治問題化となり、安倍元首相の国葬の是非にまで及んだ。閣僚の相次ぐ辞任を招き岸田文雄内閣の支持率は低下した。 首相の政治指導力が疑問視されるなかで、安全保障政策は大きな方向転換に向かって進んでいる。11月22日の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書を経て、今月末までに安保関連3文書(「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」)が改定される。 7年前の安保法制の整備をめぐる激しい論争とは様変わりで、大きな反対もなく、「反撃能力」の保有をめざして、防衛力が整備されようとしている。 以上の3つの事象は、1930年代の歴史との類推を促す。 第1にウクライナ危機は31年の満州事変に重なる。ロシアは国連の非難決議を受けながらも、ウクライナ侵攻を続けている。日本は国際連盟を脱退することになっても、満州事変を拡大した。2つの軍事紛争に類似するのは国際政策の限界である。 第2に安倍元首相の銃撃事件は32年の5・15事件に重なる。どちらの事件も直後は、犠牲者(安倍元首相と当時の犬養毅首相)に同情が集まった。ところがその後、世論の風向きは変わる。同情よりも旧統一教会と政治家の関係に対する非難が強まる。5・15事件後も裁判が始まると、国民は被告たちに同情するようになり、減刑嘆願運動を展開する。 第3に安保関連3文書の改定は、33年秋の「五相会議」に重なる。インナーキャビネット(内閣内の関係閣僚による小内閣)と呼ぶべき「五相(首相・陸相・海相・外相・蔵相)会議」は、国際連盟脱退通告後の外交・安全保障の基本政策を打ち出す。 満州事変は、国際連盟脱退通告を経て、33年5月末の日中停戦協定に至る。ここに事変勃発以来の対外危機は沈静に向かう。対外関係修復に向けた摸索が始まる。世界恐慌に伴う経済危機(昭和恐慌)も、高橋(是清蔵相)財政が功を奏して、沈静に向かう。2つの危機の沈静化は政党内閣の復活への期待につながる。直接行動の首謀者たちへの国民の同情は失われる。 このような国内状況のなかで、「五相会議」が開かれる。このインナーキャビネットにおいて、対米関係の緊張緩和をめざす外相に、陸相が同意する。満州の新事態の安定には米国の黙認が求められたからである。対する海軍は仮想敵国が米国で、軍拡をめざしていた。そこで海軍と融和すべく陸相が陸軍予算のなかから1000万円を譲り、蔵相も500万円の赤字公債の発行による上乗せを認めた。その代わり海軍も対米関係の基本方針を受け入れた。 危機の沈静化のなかで、外相と蔵相のポジションは相対的に改善された。36年に2・26事件が起きても、国民は反乱軍に同情しなかった。国民は戦前最高水準の経済成長を享受していたからである。ここには戦争とは異なる別の選択があったことを示している。 以上の歴史が来年の日本に示唆するところは何か。 第1に日本は国際政策の限界の克服をめざして、主要7力国首脳会議(G7広島サミット)に臨むべきである。ウクライナ危機が続くなかで、先進民主主義国日本は、国際秩序に対する責任を果たさなければならない。 第2に財政政策の再構築が喫緊の課題である。軍事費の拡大と赤字公債の増発を抑制しながら、「大砲もバターも」両立させた高橋財政の手腕に見習うべきだろう。このことは次の点との関連でも重要度が高い。 第3に外交・安全保障の基本政策をめぐる議論をとおして、与野党間で合意が形成されるべきである。この点に関連して、さきの有識者会議に財政当局の関係者が入っていなかったことは、その後の防衛費の財源をめぐる議論(増税や赤字国債の発行の是非など)の混乱を招いたのではなかったか。それはともかく、ウクライナ危機、台湾有事のリスク、北朝鮮のミサイル実験などによる国際的な緊張が高まるなかで、政争に明け暮れている暇はない。 2023年はポストコロナの世界のなかで、日本の真価が問われる年になるだろう。(学習院大教授)2022年12月17日 毎日新聞朝刊 13版 10ページ 「近代史の扉-危機の1930年代からの類推」から引用 満州事変の後はそのままズルズルと日中戦争になだれ込んでいったような印象を、中学・高校の歴史の授業から受けていたが、実際は国際連盟の非難決議に反発して連盟を脱退したとは言え、直後に中国とは停戦協定を結んだのだったとは、この記事を読んで始めて知りました。しかし、この記事の結論では、日本が民主主義先進国として国際秩序に対する責任を果たさなければならないと書いてますが、あまりにも抽象的で、どのような「責任」を自民党政府が果たせるのか、まったく想像できず、自民党政府がそのような「責任」を自覚してるとは考えられません。また、外交・安全保障の基本政策をめぐる議論をとおして与野党間で合意が形成されるべきであると、極めて一般論を述べているが、これは現実を無視した理想論に過ぎないと思います。現実の自民党政治家は、野党議員とまともな議論をする程度の「知性」を持ち合わせておらず、総理大臣ほどの人物であってさえ、「質問は事前に通告すること」などと条件付きで、事前通告によって官僚が作文を書いて、それを読むだけという情けない状態が「現実」であり、とてもその場で野党議員と「議論」をするなど、夢のような話です。したがって、如何に過去の歴史を解説していただいても、現実の自公政権にとっては「猫に小判」だと思います。
2022年12月28日
ウクライナの紛争の解決を日本の主導で実現するアイデアについて、毎日新聞専門編集委員の伊藤智永氏は17日の同紙に、次のように書いている; ジャベリン、スティンガー、ネプチューン、ハープーン・・・。夏ごろ、ウクライナ戦争で「活躍」する兵器の名前を訳知りに語るにわか軍事オタクがずいぶんいたものだが、冬を迎えてめっきり見かけなくなった。一方、軍事専門家や国際政治学者は、口をそろえて戦争の長期化を淡々と説く。 6月、別のコラムに「ゼレンスキー氏(ウクライナ大統領)は英雄か」という見出しで、ロシアが200%悪いにしても、ウクライナは100%正しいか、と疑問を呈したら、読者から頂いた手紙は賛否半々だった。応答のつもりで7月、「記者の目」に同じ見出しで再論したところ、今度は明確な異論は1通だけだった。 侵攻される1年前から、ゼレンスキー氏が「クリミア奪還」「ロシアの武力侵攻に対抗」「ミンスク合意Ⅱ(ウクライナ東部紛争の和平合意)完全破棄」と繰り返し表明していた強硬姿勢は、今やよく知られている。米国流の自由と民主主義の価値観を絶対視するバイデン氏(現大統領)らが、数年越しでテコ入れしてきた背景も明らかになっている。 米欧側かその意図を否定しても、ロシアのプーチン大統領は挑発されていると感じていただろう。さらにバイデン政権の異常な軍事支援を見れば、これがウクライナに戦場と死者を押しつけた米国の「代理戦争」である実態は、否定する方が難しい。 日本の防衛費大幅増は、中国・台湾を近い将来のロシア・ウクライナに見立てた政策の大転換だ。いや、買わされる兵器と地理的条件を見れば、日本も米国にとっては「東アジアのウクライナ」にならないと誰が言い切れよう。 岸田文雄首相は初めて北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席し、防衛費はNATO並みのGDP比2%を掲げ、英国・イタリアと次期戦闘機共同開発で合意した。NATO準加盟国気取りで来年の主要7力国(G7)議長国を務めることが、最優先の政治目標らしい。価値観外交の図式にはまりすぎて、逆に危うい。 ある大使経験者がつぶやいた。「一番重要なのはロシアを中国の側に押しやらないこと。それには議長国・日本が、ウクライナ即時停戦を主導するくらいの大胆さが必要だ。クリミア・南クリル諸島(北方四島)交換案とかね」 歴史的にロシア領のクリミアはロシアに譲る。交換でウクライナに北方四島を渡す。日本は戦後復興資金を出し、四島を引き取る。きっと防衛費増額分より安い。 「荒唐無稽と笑わば笑え。米国は仰天するよ」(専門編集委員)2022年12月17日 毎日新聞朝刊 13版 2ページ 「土記-ウクライナ即時停戦案」から引用 アメリカとNATOに包囲されて追い詰められたロシアにしてみれば、クリミアを領有した上でウクライナにNATOの基地を置かせないということは、ロシアの安全保障にとって必須事項である。ウクライナもいたずらに戦闘を長引かせて、いつまでも国民に犠牲を強いることを継続するよりは、何かの機会を得て取りあえず停戦する必要性は存在する。そこで日本が仲介に立って、国際社会としてロシアのクリミア領有を認める交換条件として、ロシアは北方四島をウクライナに譲渡する。それで「停戦」が成立した暁に、日本はミサイル攻撃で荒れ果てたウクライナの町並みの復興を経済的に支援をして、そのお礼に北方四島を譲渡してもらう。これはなかなか良いアイデアだと思います。日頃は親から受け継いだ政治家「家業」を息子に継がせることばかり考えている岸田氏が、こういう離れ業で「大仕事」をやってのければ、きっと日本中から尊敬される「大政治家」となることは想像に難くはないのですが、肝心の本人にそういう自覚があるのかというと、これは極めて悲観的にならざるを得ないと言ったところが「現実」です。
2022年12月27日
安保関連3文書を改訂したなどともっともらしいことを言って防衛費を倍増しようとする岸田政権について、元外務審議官の田中均氏は17日の毎日新聞で、次のように語っている; 安保関連3文書の改定は防衛費の飛躍的増額や反撃能力保有が前面に出ており、安保政策の大転換だ。にもかかわらず安保環境を改善するための議論が不十分で、表面的に防衛力を拡充することが目的となってしまっている。 世界第3の経済大国の日本が防衛費を国内総生産(GDP)比2%にすることは大きな方針転換だ。日本は軍事大国にならないよう防衛費を抑えてきたことが地域の安心材料になっていた。大事なのは、武器によらない力で安全保障を確保する国の姿を示すことだ。 反撃能力は抑止力を高めるものになるとは言えない。北朝鮮は反撃に対応する能力を開発するだろうし、急速に国防費を積み上げている中国にも抑止力として働くとは考えがたい。 両国が気にしている相手は米国だ。日米安保体制の信頼性を高める必要がある。米国や友好国と経済や外交なども含めて連携し、多国間で抑止力を築く「統合抑止力」を強化すべきだ。 日本は周辺地域の安全保障環境を良くする外交ビジョンを打ち出す必要がある。岸田文雄首相には外交によって平和を追求する決意を語ってほしい。(聞き手・宮原健太)2022年12月17日 毎日新聞朝刊 13版 3ページ 「ミニ論点-外交で環境改善を」から引用 安倍政権の下で長年外務大臣を務めた割には、防衛問題も外交問題もまったく素人の岸田文雄氏は、アメリカの要求を呑めば自らの政権の後ろ盾になってもらえるとの打算から、赤字国債を発行してでも武器を購入しようとの考えらしいが、これは、上の記事が述べるように、日本の安全補償を逆に脅かす愚策である。朝鮮戦争を除けば、戦後70数年間東アジアに武力紛争がなかったのは、一重に日本が「専守防衛」を宣言し防衛予算をGDP比1%を堅持してきた結果であり、これを倍増するということは、近隣諸国に無用の緊張状態を作り出す危険な政策である。個人的な打算で東アジアに無駄な武力紛争をひきお超す準備をするなど、許されることではありません。来春の統一地方選挙では、国民は覚悟して自民党に鉄槌を下す必要があります。
2022年12月26日
国会で審議することもなく、わが国の歴史と憲法の精神を無視して勝手に安全保障政策を変更する岸田政権を、メディアはどのように報道したか、ジャーナリズム研究者の丸山重威氏は11日の「しんぶん赤旗」で、次のように批判している; 11月下旬の「有識者会議報告」から首相の「防衛費倍増指示」、自公の「敵基地攻撃での合意」など、戦後日本の安全保障政策の大転換の動きが続いています。国会論議抜きで、憲法も歴史も無視、暮れの予算編成と防衛3文書改定を見据えた「段取り作り」です。 「防衛費増 『幅広い税目で』 有識者会議提言 与党内に異論も」(11月23日付)、 「防衛費『GDP比2%』27年度 首相が指示、大幅増額」(同29日付)、 「敵基地攻撃、自公が実質合意 抑止力高める必要性一致」(12月1日付)-いずれも「朝日」の1面トップ。単なる客観報道です。 しかし、社説などでは、「朝日」含め多くはさすがに警戒的。 「防衛費2%指示」には「倍増ありき再考求める」(「東京」11月30日付)、 「規模ありき 理解得られぬ」(神戸新聞12月2日付)。「敵基地攻撃」については 「憲法9条に基づく専守防衛を形骸化させる」(「東京」3日付)、 「先制攻撃になりかねぬ」(「毎日」3日付)といいます。 他方、例によって、「読売」は「総合力で安全保障の向上図れ」(11月24日付)、「産経」は「自公の反撃力合意 国民を守る歴史的転換だ」(12月3日付主張)と手放しです。 自明ですが、こちらが軍備拡張・強化すれば、向こうも一層身構える。そういう軍拡競争の世界にしないことが憲法の精神です。 しかし有識者会議には、その憲法学者はおらず、提言は憲法議論抜き。驚くことにメンバーには「読売」の山口寿一社長、「日経」の喜多恒雄顧問、「朝日」の船橋洋一元主筆ら、大新聞の現・元幹部らが入っています。 政府の審議会などにメディア関係者が入り「公正」を装う手法は以前から批判を浴びてきたもの。船橋氏は既に「朝日」を退職していますが、「読売」と「日経」の現職参加は報道機関としてどうなのか。姿勢はここでも問われています。(まるやま・しげたけ=ジャーナリズム研究者)2022年12月11日 「しんぶん赤旗」 日曜版 35ページ 「メディアをよむ-大軍拡に問われる姿勢」から引用 民主主義がまともに機能するための条件として、第一に「言論の自由」があげられます。一般市民が権力に睨まれて不利益を被ることを避けるために口をつぐむなどということがあっては、「言論の自由」は失われて権力者の「独裁政治」がまかり通るようになります。現代の日本では、本来は権力を監視する機能を有するはずのメディアの幹部が政府の審議会の一員となってそれなりの「報酬」を得ている関係で、その政府が国会と憲法を無視するような「動き」を見せても、メディアは自社の幹部に迷惑が及ぶことのないように、当たり障りのない記事しか書けない。これでは民主主義を守ることが出来ません。こうして私たちの社会が戦前のような状況に立ち戻ることを、どのように阻止するか、国民は真剣に考える時期に差し掛かっていると思います。
2022年12月25日
日本、中国、韓国の市民団体が「平和な東アジア」のために毎年開催している「歴史認識と東アジア」平和フォーラムについて、11日の「しんぶん赤旗」は次のように報道している; 岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「早期解決」で一致した徴用工問題(11月13日、首脳会談=カンボジア・プノンペン)。東京では同日、日中韓の市民が平和な東アジア共同体をつくりだそうと毎年開く「歴史認識と東アジア平和」フォーラムを開催(今年20回目)。問題の真の解決について日韓の2人が語りました。<本吉真希記者> 強制動員被害者(徴用工や女子勤労挺身=ていしん=隊)の問題をめぐっては、韓国大法院(最高裁)で2018年10~11月、三菱重工、日本製鉄(旧新日鉄住金)に被害者への賠償を命じる判決が出て確定しました。◆◆韓国「民族問題研究所」対外協力室長 金英丸さん 韓国の「民族問題研究所」の金英丸(キム・ヨンファン)対外協力室長は、大法院判決の意義を振り返りました。「日本の朝鮮に対する植民地支配が不法で、侵略戦争の遂行と直結する強制動員・強制労働が反人道的不法行為である点を明らかにした。これは、過去に全世界で帝国主義国家が強制的に広げた植民地支配が、必ず清算されなければならないことを明らかにした世界史的な判決です」 強制動員被害者らは1990年代後半から日本で本格的に裁判を起こしました。日韓の市民は被害者とともに、日本の植民地支配と侵略戦争の責任を粘り強く追及してきました。◆判決で謝罪と賠償を期待 金さんは「大法院判決は日韓市民の連帯闘争が勝ち取ったもの。被害者にとっては初めて自身の長い闘争が実を結んだもので、謝罪と賠償を通して権利回復の道が開かれることを期待した」とのべました。 ところが判決から4年たっても、企業は謝罪と賠償に応じていません。賠償のため日本企業の韓国内の資産「現金化」に向けた動きも止まりました。現金化は賠償金を支払ってもらえない被害者にとって「正当な権利行使」(金さん)です。しかし、現金化されれば「日韓関係が破綻する」という言説は両国に存在します。 「被害者は10代で植民地朝鮮から日本帝国主義の侵略戦争に引っ張りだされ、苦痛を受けた。踏みにじられた人権と尊厳を取り戻すために、生涯をかけてたたかっているのです」と金さん。”関係破綻”を強調して被害者を置き去りにする動きにこう問いました。「被害者の人権より重要な韓日関係、国益とは誰のためのものか」◆◆「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」事務局矢野秀喜さん 「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」事務局の矢野秀喜さんは、日本で強制連行訴訟が進行中だった97年当時の政府答弁を紹介しました。◆かつては認めた「国家の強制」 「募集、官あっせん、徴用などそれぞれ形式は異なっていても、すべて国家の動員計画により強制的に動員した点では相違なかった」(97年3月、参院予算委員会で辻村哲夫・文部省初等中等教育局長) こうした認識の背景に「村山首相談話」(95年)。「日韓パートナーシップ宣言」(98年)などがあったことは間違いないと矢野さんは指摘します。 「『談話』『宣言』で日本は過去の侵略、植民地支配がアジアや韓国の人々に多大な損害と苦痛を与えたことを反省し、謝罪しました。それが多くの国民に受け入れられていたのです」 「強制連行問題は、90年代は歴史の事実そのものを(現在のように)政府レベルで争うような状況になかった」と矢野さん。訴訟9件のほぼすべてで強制連行・強制労働の事実を認定。うち日鉄釜石など3件で和解解決しました。 一方、事実を否定する動きが各地で活発化し、現在に至ります。 矢野さんは、被害者が韓国で起こした裁判に日本企業は応訴しながら、大法院判決に従わないのはコンプライアンス違反だと批判。また、被害者と加害企業の間の訴訟に日本政府が介入するのは「民事不介入」の原則に反すると指摘します。 日本政府は65年の日韓請求権協定で「解決済み」と主張します。矢野さんは「65年時点で日本政府は植民地支配の反省も、強制動員被害者への謝罪もしていません。被害者は強制動員による肉体的・精神的被害に対する慰謝料を求めています。このような個人の請求権が消滅していないことは日本政府も繰り返し認めていることです」2022年12月11日 「しんぶん赤旗」 日曜版 32ページ 「植民地支配の責任 果たせ」から引用 かつての日本政府の歴史認識では、戦時中に朝鮮半島から動員された労働者は「募集に応じた者」「官あっせんに応じた者」「徴用された者」と類別はあるとは言え、いずれも当時の日本政府の都合で強制的に動員されたものであったとの認識であったため、早い段階で始まった中国人労働者が訴えた裁判では、訴えられた日本側企業は判決に従い相応の賠償請求に応じるという形で決着したのでした。ところが、韓国で徴用工だった韓国人が訴えると、同じような内容の判決が出て被告企業もその判決に従うつもりでいたのに、そこに「待った」をかけたのが安倍政権でした。安倍政権の不当な行動のせいで、日韓関係はいまだに異常な状態を続けています。問題を起こした張本人は、もういなくなったのですから、日本政府も元の「まともな歴史認識」を取り戻して、近隣諸国との常識レベルのまともな外交関係の再構築を考えるべきだと思います。
2022年12月24日
国会審議を抜きにして勝手に防衛予算を倍増すると言い出した岸田政権について、元文科事務次官の前川喜平氏は11日の東京新聞コラムで、次のように批判している; 岸田政権は5年間で43兆円をつぎ込むという大軍拡に乗り出した。そのためには大増税も厭(いと)わない。一方で子ども予算倍増の「道筋」は来年の「骨太の方針」まで先送りした。明らかに国民生活よりも軍事力増強を優先している。「先軍政治」と呼んでも間違いではない。反撃能力=敵基地攻撃能力=先制攻撃能力を「抑止力」だと言って正当化すれば、際限のない軍拡競争が生まれる。本来目指すべきは軍縮ではないのか。 しかし各種の世論調査でも防衛費増額への支持は軒並み50%を超えている。ロシアのウクライナ侵攻、中国の覇権主義的姿勢、北朝鮮によるミサイル発射などが人々の不安を掻き立てているのだろうが、こうした国際情勢に乗じて一気に軍事大国化路線を突っ走ろうとする政権の「世論工作」も功を奏しているのだろう。 9日、共同通信は防衛省が世論工作の研究に着手したと報じた。そこには主権者である国民を洗脳しコントロールしようとするあからさまな意図が露呈している。しかし政権側はすでに静かに広範に国民を洗脳してきた。NHKをはじめとするメディアに介入し、学校の道徳教育や歴史・公民教育を支配し、DappiなどというアカウントでSNSを掻き回す。 国民よ、国に騙(だま)されるな。正気を保とう。自分の頭で考えよう。(現代教育行政研究会代表)2022年12月11日 東京新聞朝刊 11版 25ページ 「本音のコラム-国民を洗脳する国家」から引用 岸田文雄という政治家は安倍晋三と同様、草の根から叩き上げたプロの政治家とは違って、親の七光りで何の苦労もなく自動的に議員になっただけの「見せかけ」の政治家であるため、有権者の支持があって議員をしているとの自覚に乏しく、マスコミがチヤホヤしてくれれば支持率も上がると考えているらしく、「子ども予算の倍増」という庶民の切実な願いに応える政策よりも、憲法の大原則を犯してでも人目を惹く「防衛予算倍増」を優先する、正しく「先軍政治」を行なっている。こういう「火遊び」のようなデタラメな政治を許していると、やがては本物の戦争を呼び起こすことになるのは、戦前の歴史を見ても明らかで、こんな政治を許しておいていいのか、よく考えるべきだと思います。
2022年12月23日
主権者である国民に何の説明もなく勝手に「防衛予算倍増」を決めた岸田政権の「暴走」に関連して、わが国の安全保障関係の諸状況について、15日の朝日新聞夕刊は次のように書いている; 11月6日、神奈川県沖の相模湾。海上自衛隊の創設70年を記念した国際観艦式が開かれた。米国やオーストラリア、カナダなど12力国18隻の外国艦艇が参加した。そのなかに、韓国海軍補給艦「昭陽(ソヤン)」の姿もあった。 韓国政府が昭陽の参加を発表したのは10月27日。海上幕僚長の酒井良が同月25日の記者会見で、回答期限を約2週間過ぎても韓国から回答が来ていないと説明した直後の発表だった。複数の日韓関係筋によれば、韓国は6月に観艦式の招待状を受け取っていた。 なぜ、参加の決定がこれほど遅れたのか。関係筋の一人によれば、大統領・尹錫悦(ユンソンニョル)の支持率が下がり始めた時期と招待を受けたタイミングが重なった。韓国政府内に「観艦式の参加を発表すれば、支持率がさらに下がるかもしれない」という懸念の声が出たという。 ■ ■ ■ 海自と韓国海軍の関係は2018年に急速に悪化した。同年10月に韓国・済州島で開かれた国際観艦式で、当時の文在寅(ムンジェイン)政権が自衛隊に対して自衛艦旗(旭日旗)の掲揚を事実上拒否したため、海自は護衛艦の派遣を断念した。同年12月には韓国海軍艦艇による自衛隊哨戒機ヘの射撃用管制レーダー照射事件も起きた。 結局、現在の尹政権はぎりぎりまで悩むという姿を見せることで、韓国世論に理解を求めるやり方を取った。 昭陽の乗組員は、祝賀航行部隊の一員として、艦尾に自衛艦旗を掲げた護衛艦「いずも」などの観閲部隊に敬礼した。ただ、潜水艦も含む艦艇4隻を派遣したオーストラリア、軍艦マーチを演奏したインドなどに比べ、補給艦1隻の派遣にとどまった韓国は目立だなかった。 首相の岸田文雄は観艦式での訓示で「海軍力は国益を守り、国家のプレゼンスを高める、各国にとって不可欠の存在」「自由で開かれたインド太平洋の発展のため、皆様の国々を始め、諸外国との協力関係を一層深めていく」と訴えた。 ■ ■ ■ 日韓両国は11月、首脳会談を開催した。徐々に関係改善の兆しが見えつつあるが、レーダー事件の真相究明と、自衛艦旗を掲げた海自艦艇の韓国入港の可否を巡る問題は残ったままだ。韓国メディアによれば、韓国国防省の副報道官は11月17日の記者会見で「韓国軍のレーダー照射はなかったという立場を改めて申し上げる」と述べた。 一方、岸田は訓示で「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と改めて強調した。そのうえで「安全保障の取り組みについて、透明性をもって国民のみならず、国際社会にも丁寧に説明していく」と訴えた。 だが、陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎(元陸将)によれば、「日本として防衛力をどう使うべきか」という議論が抜け落ちているという。 「例えば、台湾有事の際、自衛隊を台湾防衛に使うのか、南西諸島などへの防衛に限るのか、はっきりしません。(安全保障関連法で、集団的自衛権の行使が可能になる)存立危機事態ができた後、基本方針が不明確になっています。大方針の議論なしに、装備や予算の話に議論が集中しているのが現状です」 韓国を含む諸外国にも日本の「防衛力強化」の具体的な意味は理解されていない。=敬称略(牧野愛博)2022年12月15日 朝日新聞夕刊 4版 9ページ 「安保の前線を歩く(4)-日本の『防衛力強化』とは」から引用 韓国の人々が忌み嫌う「旭日旗」というのは、明治時代に創設された日本軍の「旗」で、その日本軍は朝鮮半島から中国大陸、東南アジアと侵略戦争と続けた挙げ句に1945年8月にポツダム宣言を受諾して敗戦を認め、極東軍事裁判の後に解散し滅亡した軍隊の旗でした。戦後に朝鮮戦争などがあって、最小限の自衛力を保持することは憲法も認めるところであると称して「自衛隊」を設置した際は、最小限の「反省」があれば、滅亡した軍隊の「旗」を復活させることはなかったはずですが、一般国民には秘密にして当事者だけでこっそり「旭日旗」を復活させたのは、今後への不吉な暗示として私たちは注意する必要があると思います。上の記事でも言及しているように、日本は国家の存立基盤が危うくなった場合は集団的自衛権を行使することになっているとは言え、中国が「一国二制度」を止めて台湾を併合することになっても、それは日本の国家としての存立を脅かすものではありません。それを、無理やりこじつけて武力介入しようとする必要性は、巨大な軍需産業を抱えるアメリカだけなのであって、アメリカという国は、世界の何処にでも難癖をつけては武力紛争を起こす国であることは、戦後の70数年を振り返れば明らかです。そういうアメリカに対し、私たちの日本は自主性を持って「中国の内政問題には不介入の方針であること、仮に『台湾有事』が発生しても日本は中立であること」を宣言し、万が一台湾有事が発生しても米軍の軍事介入に沖縄の基地は使わないように、今のうちから要請しておく必要があると思います。
2022年12月22日
安倍晋三議員が政権を担当した8年とその後安倍派の会長だった2年間の、合計10年の間にわが国の歴史教育がどのようにねじ曲げられたか、歴史家で都留文科大学名誉教授の笠原十九司氏は7日の「しんぶん赤旗」に、次のように書いている; 今年は、1937年12月に当時の中国国民政府の首都南京を攻略した日本車が引き起こした南京大虐殺事件(南京事件と略称)から85周年にあたる。 文科省の教科書検定強化によって、歴史教科書の南京事件の記述が大幅に後退し、ちまたでは「南京虐殺はウソ」論を展開する百田尚樹『日本国紀』がベストセラーになっている。高校では「南京事件は大学人試には出ないから勉強しなくてもよい」とされ、良心的な教師が授業で教えると、校長などから「偏った授業と世間から批判される」と圧力がかけられている。 日本は「国際的に恥ずかしい、こんなひどい国になってしまった」と嘆息するとともに、安倍政権によって失われた日本の10年を総括せざるを得ない。◆家永教科書裁判 司法が事実認定 筆者が南京事件の研究をするようになったきっかけは、家永三郎東京教育大学教授が自著の高校日本史教科醤にたいする文部省(当時)の教科書検定を、日本国憲法と教育基本法に違反すると訴えた家永教科書裁判(第3次訴訟)であった。 筆者は、家永三郎『新日本史』(三省堂)の「南京大虐殺」と、「日本軍の婦女暴行」の記述を不合格にした教科書検定の誤りについて、1991年4月、東京高裁における控訴審の証言台にたって、批判を展開した(東京地裁では家永側か敗訴していた)。筆者は「世界に知られていた南京大虐殺」と題する意見書を提出して証言をおこない、1993年10月の逆転勝訴の判決を獲得、最高裁判決(1997年8月)により家永側の勝訴が確定した。 日本の司法が南京事件の歴史事実を認定したことにより、中学、高校の歴史教科書の記述は大きく改善された。東京書籍の中学校歴史教科書(1984年版)は以下のようであった。 「ナンキンを占領した日本軍は、数週間のあいだに、市街地の内外で多くの中国人を殺害した。その死者の数は、婦女子、子どももふくむ一般市民だけで7~8万人、武器を捨てた兵士をふくめると、20万人以上ともいわれる。また、中国では、この殺害によるぎせい者を、戦死者をふくめ、30万以上と見ている。この事件はナンキン大虐殺として、諸外国から非難をあびたが、日本の一般の国民は、その事実を知らされなかった」◆教科書議連からしつような攻撃 1997年4月から使われた中学校7社の全歴史教科書に「従軍慰安婦」が記述されたことに衝撃をうけた安倍晋三氏は、事務局長となって「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を結成(後に「若手」を削除、教科書議連)、中学校の教科書から「従軍慰安婦」「南京大虐殺」をはじめとする侵略・加害の記述を削除させようと執拗(しつよう)な教科書攻撃を開始した。 2006年9月に第1次安倍内閣が成立すると、12月の国会で教育基本法改悪案を強行採決した。翌年2月、教科書議連は「南京問題小委員会」を発足させ、6月「調査検証の総括」を発表、「一次資料を中心に検証の結果、南京攻略戦が通常の戦場以上でも以下でもないと判断するに至った」と南京大虐殺を否定した。これが、安倍政権の教科書検定における「政府見解」とされるようになった。 第2次安倍内閣は2013年12月に文科省の教科書検定基準を改定、中学校教科書において、閣議決定した「政府見解」を記述できるようにした。19年度に新しい検定基準でおこなわれた中学校の教科書検定では、南京事件にたいする「政府見解」を記述するように圧力がかけられ、記述は大きく後退させられた。 「政府見解」をそのまま記述した教育出版の教科書は「占領した首都の南京では、捕虜や住民を巻き込んで多数の死傷者を出しました」としただけで、本文に南京事件の語はない。前述した東京書籍の教科書は、「犠牲者数を書くな」という教科書検定意見によって、1984年版には記述されていた犠牲者数の記述が、単なる「多数」に後退させられた。 「日中不再戦」の願いが、岸田政権によって危うくされている今こそ、南京事件、日中戦争の過誤の歴史に目を閉ざしてはならない。<かさはら・とくし> 1944年生まれ。都留文科大学名誉教授。『南京事件論争史』『日中戦争全史』(上・下)『通州事件 憎しみの連鎖を絶つ』ほか2022年12月7日 「しんぶん赤旗」 7ページ 「大虐殺否定に執念-安倍晋三元首相の10年」から引用 児童生徒が学習に使用する教科書は、「1+1=2」のような普遍性のある「真実」を記述するべきであって、政権担当者の都合によって「そんな都合の悪いことは書くな」などと政治的判断を教科書の記述に適用したのでは、これは教育が成り立ちません。算数も歴史も同じことです。安倍晋三氏による不正な政治は、教育に対する介入に止まらず、数々の分野に及びます。NHK会長の「人選」なども、安倍政権以前はNHK経営委員会が推薦した人物につき、国会の全会一致の合意を得て決めるという「慣行」があったものを、安倍政権からは自公両党の「強行採決」で決めるという悪習が定着したせいで、「政府が右というものを、左と放送するわけにはいかない」などとジャーナリズムの「いろは」も知らないような人物を会長にしたこともありました。その他、モリカケやサクラ問題など、公文書改ざんや国会での虚偽答弁の数々と、わが国憲政史上最悪の総理大臣であったと言えます。安倍晋三元首相の10年では、経済活動も低迷し、外交もまったくうだつが上がらず、この先もまだ苦難の道が続きそうな状況です。日本の政治をまともな姿に戻すために、何が必要か、真剣に考える時がきたと思います。
2022年12月21日
人々の心の奥底に潜む「ジェンダーに関わる神話」について、文筆家の師岡カリーマ氏は10日の東京新聞に、次のように書いている; 日本対クロアチア戦の会場アルジャヌーブ・スタジアムは、ご存じ故ザハ・ハディドの設計。イラク出身のアラブ系英国人建築家に対する関心はアラブ世界でも高く、今週もカタールのアルジャジーラ放送で、ザハに関する番組を見た。 建築界のノーベル賞と称されるフリッカー賞を2004年に女性として初めて受賞。それについて番組に出演したフランス語話者の専門家は言う。「建築は男性にしかできないというそれまでの偏見を、彼女は打ち破った」。なんと、21世紀になっても、先進的であるはずの欧米でさえ女性に建築は無理だと信じ続ける人がいたとは。その石頭ぶりには、呆(あき)れるより感心してしまう。 1994年、エジプト航空便の機内。まずアラビア語で行われたアナウンスで機長が女性だと知り、私と妹が「オーマイゴッド」と歓喜すると、近くの若いオランダ人夫婦が「どうしたの」と聞いてくる。「機長が女性」と教えると、男性の方が「降りたい」と言った。欧米人でもこうか、とその時も感心した。 その後エジプト航空は、まだ女性の自動車運転が禁じられていたサウジアラビアへ、機長はじめ全クルー女性の便を飛ばすという粋なことをしたが、私自身はエジプトを含め世界中の航空会社を利用しているわりに、女性機長に遭遇したのは結局、後にも先にもこの時だけだった。(文筆家)2022年12月10日 東京新聞朝刊 11版 25ページ 「本音のコラム-感動的な石頭」から引用 昔は、鉄道の職員というのは電車の運転手も車掌も駅員も全員男性で、トラックやタクシーの運転手も男性だったが、最近は人手不足のため「運転手は男性」などと言ってはいられない事態になったため、バスも電車もタクシーも女性が運転しているのを良く見かけます。しかし、建築の現場では相変わらず男性だけのような気がします。私の知ってる女性で父親が大工だった人が、自分は小学生までは「自分も大きくなったら父親のような大工になるんだ」と心に決めていたのに、中学生になったある日、父親から「女は大工にはなれない」と言われて大きなショックを受けた、と言ってました。その後、その人は心機一転、勉強に励んで医学部に進み、今は小児科の医師になったとうのは90年代の話ですが、内装工事を請け負う会社に女性のデザイナーがいるという話は聞きますが、女性の大工さんはまだいないのではないかと思います。上の記事にある「機長はじめ全クルーが女性の便」というのは、私もちょっと「パス」したいような気がするので、師岡カリーマ氏からは呆れられるか感心される「レベル」なんだなと、自省する次第です。
2022年12月20日
防衛予算を倍増すれば国防力も倍になるという岸田政権の幼稚な発想について、流通経済大教授の植村秀樹氏は10日の東京新聞で次のように批判している; 2015年に制定された安全保障関連法は、違憲とされてきた集団的自衛権を容認することで法的縛りを解いたが、実際に他国領土で武力行使をするための装備は日本になかった。今回、敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することで安保法は次の段階、実践段階に入るということだ。 自衛隊の歴史を振り返ると、日米安保条約の改定を巡る安保闘争があった1960年から米ソ冷戦が終結する90年ごろまで、防衛問題に関して国民が非常に反発するので、防衛政策にほとんど進展はなかった。 それが90年代以降、自衛隊のカンボジアへの国連平和維持活動(PKO)派遣、2003年のイラク戦争における復興支援と称した自衛隊の現地派遣など、海外での任務や活動範囲が広がり、変質してきた。 安保法制も含め変化の根底にあるのは、米国にとって軍事行動を共にする使い勝手の良い同盟国にすることだ。今回の敵基地攻撃能力の保有も、打撃力を持つ「真の独立国家」になりたい自民党と、米国の利害が一致した産物で、政府が合理的に冷静に必要性を検討したのか疑問だ。米国次第で次の戦争に日本が加担しないか危惧している。 日本は先の敗戦を受け、政治学者も憲法学者も一般国民も戦争体験があり、志のもとで平和憲法を持ち平和国家を目指していく方針を選んだが、各分野で戦争を知らない世代が大幅に増えた。国民も含めて「もうあんな思いをしたくない。戦争は嫌だ」との意識が希薄になってしまった。 日本が敵基地攻撃能力を持てば、中国がおののき抑止力となるというのは楽観的すぎる。中国は経済力も資源もあり、日本が軍拡してもすぐ上回ってくる。むしろ「北京に`ミサイルを撃ち込む準備をしているのか」と中国のナショナリズムを非常に刺激する。相手を刺激してなぜ抑止力なのか。米国と一緒に戦えば怖くないから、いざとなったら米国と戦うという属国としてのあり方でいいのか。日本は別の生き方があるはずだ。(聞き手・川田篤志)2022年12月10日 東京新聞朝刊 12版 2ページ 「私はこう考える-抑止力期待は楽観的すぎる」から引用 2015年に安倍政権が強行採決で可決成立したとする安全保障関連法は、十分な国会審議をしておらず強行採決に当たっては内閣法制局長官を無理やり安倍首相(当時)のイエスマンにすげ替えるという暴挙の果てに無理やり成立させた憲法違反の法律であり、これは無効な法律である。そのようなデタラメな法律に基づいた「次の段階、実践段階に入る」などと言っても、それは子どもの火遊びのようなナンセンスな言説であり、そのようなものに国家予算を充てることは許されません。仮に岸田政権が目論むように数年後に防衛予算を倍増してトマホーク・ミサイルを500基そろえてみたところで、中国は同じクラスのミサイルを2000発保有していると言われ、軍備の競争では中国をしのぐことは不可能です。そんなことよりも、日本の少なからぬ企業が中国に進出して現地で生産活動をしているからには、日中間に武力紛争を持ち込むことは、これらの企業に多大な損害をもたらすことになるわけで、中国を意識した軍備拡大は「百害あって一利なし」と考えるべきでしょう。そのような現実認識の上で、冷静に考えれば、わが国の「繁栄」は「軍備拡大」の先にあるのではなく、「平和外交」の先に存在するものであることを、政府も国民もしっかり認識する必要があります。
2022年12月19日
今年、自民党がある情報産業の会社にカネを出してDappiというアカウントでツイッターに野党を誹謗中傷する投稿をさせたことが問題になったのであったが、今度は防衛省が国の予算を使ってインターネットのインフルエンサーを抱き込み、自分に都合の良い「世論形成」をする術を研究することになったと、10日の東京新聞が報道している; 防衛省が人工知能(AI)技術を使い、交流サイト(SNS)で国内世論を誘導する工作の研究に着手したことが、複数の政府関係者への取材で分かった。インターネットで影響力がある「インフルエンサー」が、無意識のうちに同省に有利な情報を発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事で特定国への敵対心を醸成、国民の反戦・厭戦の機運を払拭したりするネット空間でのトレンドづくりを目標としている。◆「情報戦対処」名目 防衛省が姿を隠したまま世論誘導を図るのは、一般の投稿を装い宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」の手法と重なる。同省は「企業のコマーシャル技術と同じで違法性はない」と説明するが、研究であったとしても、憲法が保障する個人の尊重(13条)や思想・良心の自由(19条)に抵触する懸念があり、丁寧な説明が求められる。 中国やロシアなどは、人間心理の操作やかく乱を図る「情報戦」に活発に取り組む。防衛省は、戦闘形態を一変させるゲームチェンジャーになるとみて、日本も、この分野の能力獲得が必要だと判断した。改定される安全保障関連三文書にも、情報戦への対処力向上を盛り込む。 複数の政府関係者によると、防衛省が構想する世論操作は、まずAI技術を駆使してSNSにあふれる大量の「ビッグデータ」を収集・分析し、どのような対象に工作をするのがふさわしいかなどの全体計画を策定。ネットで発信力があり、防衛問題でも影響力がありそうなインフルエンサーを特定する。 さらに、インフルエンサーが頻繁に閲覧するSNSやサイトに防衛省側の情報を流し、インフルエンサーが無意識に有利な情報を出すよう仕向けるという。防衛省が望むトレントができれば、爆発的な広がりになるようSNSで情報操作を繰り返す。 2022年度予算の将来の装備品を検討する調査研究費を充てた。9月に委託企業公募の入札を実施。10月に世界展開するコンサルタント会社の日本法人に決定した。この会社は米軍の情報戦活動にも携わる。研究は23年度以降も3年間ほど続ける。<解説>憲法に抵触・思想統制の恐れ 防衛省がAI技術を駆使して、国内世論を誘導する工作の研究に着手した。中国やロシアが急速に「情報戦」を活発化させている動きをにらんだものだが、政府関係者からも「ソフトな思想統制につながりかねない」との批判が出ている。戦前の反省から「個人の尊重」や「思想・良心の自由」を掲げる憲法の下で許容されるのか。厳しく問われるべきだ。 政府・防衛省は数年前から「戦略的コミュニケーション」(Strategic Communication)として、防衛政策を進めるに当たり、国民世論が有利に動くよう手法や内容を選択して情報発信するようになった。例えば、日本周辺の中国軍やロシア軍の動向を詳しく集中的に発表して、関心が安全保障に向くように働きかける手法だ。 ある政府関係者は、AIを使用する国内世論の誘導工作についても「表面化していないが各国の国防、情報当局が反戦や厭戦の世論を封じ込めるためにやっていることだ」として、日本も取り組むべきだという。 しかし今回研究に着手した世論操作は、防衛省・自衛隊が姿を現した上で、起きた事象を発信し、関心を引きつけようとする戦略的コミュニケーションとは決定的に違う。企業のステマと似た性質がある。 防衛省・自衛隊による世論誘導工作は、軍事組織が国民の内心の領域に知らぬ間に直接介入する危うさをはらむ。 戦前・戦中には「大本営発表」のように、軍部が都合がいい情報だけを流し国民を欺いた。無謀な戦争に突き進み、国を滅ぼした反省を忘れてはならない。(共同通信専任編集委員 石井暁)2022年12月10日 東京新聞朝刊 12版 3ページ 「防衛省が世論工作研究」から引用 正体を隠して自分に都合の良い「世論」を作りだそうという発想は、いくらロシアや中国でもやっているとは言え、正体を隠して言葉巧みに高額寄付を「勧める」統一教会のようなマネを、国の予算を使ってやるなどと言語道断というものではないでしょうか。心底、国民のためであるとの自負があるのなら、正々堂々国会に提案して野党を説き伏せて納得させれば良いのであって、国民を騙して一定の方向に誘導しようという魂胆は、国民はそんなことを許してはならないと思います。
2022年12月18日
陸軍の反乱将校に暗殺された高橋是清について、元内閣府事務次官の松元崇氏は8日の朝日新聞に、次のように書いている; 戦前に首相や日銀総裁を務めた高橋是清は、日銀引き受けによる国債(借金)を財源とする経済対策で、昭和恐慌を乗り切ったことで知られる。しかし、是清研究で知られる元内閣府事務次官の松元崇氏は基本的に「財政健全論者だった」と話す。2・26事件(1936年)で陸軍青年将校に暗殺されるまで、軍部の暴走を抑えるために軍事費の抑制を主張していたからだ。歴史の教訓を聞いた。――高橋は積極財政論者にもてはやされています。 「誤解です。36年の2・26事件まで数年間の高橋財政を、当時の新聞は『健全財政』と呼んでいました。この間、一般会計の歳出はほぼ横ばい。確かに昭和恐慌を受け、31年に金輸出再禁止で低金利の状態をつくり、日銀の国債直接引き受けによる財源で、農村の疲弊対策に取り組みました。しかし、不況から脱したら緊縮財政にかじを切っています。事業家でもあった高橋は財政出動では経済成長ができないことを本能的に理解していたのでしょう」――高橋が健全財政を主張したのは、なぜですか。 「軍部の暴走を抑えるため、軍事費を抑制しなければならないという信念があったからです。陸軍が中国に進出する中、高橋は『国防は攻め込まれないように守るに足るだけでよい』とし、他国に侮られない軍備は必要だが、国力に見合ったものでなければならない、と考えていました」――当時、軍事費の財源はどう考えていましたか。 「高橋は増税には反対でした。一方、軍部は増税と合わせて『国債は国民の債務なるとともにその債権。内国債である限り国債の増加も国民全負担の増加にあらず、何ら恐れるに足らず』と主張していきます」 「81歳の高橋は36年度予算の編成で『公債漸減方針』を掲げます。初回の予算閣議では『ただ国防のみに専念して悪性インフレを引き起こし、その信用を破壊するごときがあっては、国防も決して安固とはなりえない』と軍部を牽制します」――それが軍部からの敵視につながったのですね。 「はい。この年の第4回予算閣議は17時間の長丁場で、陸軍の要求に『常識を欠いた幹部が政治にまで嘴(くちばし)をいれるというのは言語道断、国家の災い』と断じました。軍部への厳しい批判が報じられ、2・26事件につながり、日本は財政的な負け戦の状況で太平洋戦争に突入していきます」――岸田政権の防衛力の強化を高橋目線で考えるとどう見えますか。 「必要な軍備をすることは高橋の大前提。ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射、台湾情勢と厳しさは増しています。国を守るための必要な防衛力を整備し、外国から侮られないようにしないといけないと考えたでしょう。一方、恒常的な経費である防衛費を国債に頼ることは危険で、高橋が心配したように、軍事費の野放図な拡大や悪性インフレにつながるリスクが否定できません」「高橋は国際協調も重視しました。日露戦争と太平洋戦争の大きな違いは、欧米から戦費調達ができたかどうかでした。高橋は『根本』という言葉を好んで使いました。戦後の平和主義は日本の国是。歴史に学び、防衛力強化か根本から語られることが必要です」(聞き手・西尾邦明)<まつもと・たかし> 1952年生まれ。 76年、大蔵省(現財務省)入省、主税局や主計局を経て、2012~14年に内閣府事務次官。現在は国家公務員共済組合連合会理事長。著書に「恐慌に立ち向かった男高橋是清」(中央公論)2022年12月8日 朝日新聞朝刊 13版S 4ページ 「『国防は守るに足るだけでよい』戦前の高橋是清に学ぶ」から引用 むやみに国債を発行することに反対を唱えた高橋是清は、その時81歳だったというのは驚きです。当時は「文民統制」というルールも日本にはまだ伝わっていなかったと思われますが、それでも彼が「軍の幹部が常識も弁えずに政治に口出しするのは言語道断、国家の災いだ」と断じたのは優れた先見の明であったと言えます。しかし、そういう高橋是清のエピソードを語る松元氏の認識が「北朝鮮のミサイル発射、台湾情勢の厳しさ等により日本も国防力を増強するべきだ」という考えには賛成しかねます。「北」のミサイルはアメリカを標的とするものであって、その「ミサイル」で日本を恫喝したり実際に撃ち込んだりしても、「北」には何の利益もないことは「北」もよく分かっていることです。また、もし万が一、中国が台湾統一のために武力に訴えることがあったとしても、それは「日本国の存立が脅かされる事態」ではないのであり、中国の内政問題に過ぎないのですから、台湾問題が緊迫したからといって日本が武装を強化する必要性はありません。岸田内閣が、それでも「北のミサイル」や「台湾問題」を理由に武装強化しようとする意図は、「米朝問題」や「台湾問題」が武力紛争になった場合は、自衛隊を米軍の指揮命令系統の下において戦わせようとする「魂胆」であると考えるのが妥当だと思います。安倍政権のときに始まった憲法違反の「集団的自衛権行使」や、専守防衛を逸脱しようとする「過剰な防衛予算」の策謀については、断固反対の声を上げて行きたいと思います。
2022年12月17日
自衛隊の装備で何が不足なのかという「点」は抜きにして、とにかく防衛予算を倍増するのだという岸田政権の非常識な政策について、市民団体が抗議を声を上げたと4日の「しんぶん赤旗」が報道している; 「緊急事態条項反対」「武器より外交」「ミサイルいらない、9条守れ」など、さまざまな思いを込めたプラカードを掲げた約100人が国会前で3日、「3の日行動」に取り組みました。 毎月3日の午後1時からのこの行動。この日も無言で20分間、国会に向けてスタンディングをしました。 終了後、呼びかけ人で作家の澤地久枝さんは、1931年、日本の陸軍部隊・関東軍の陰謀で起こった柳条湖事件をきっかけに日本の中国侵略が本格化したと強調。「戦争で日本人も外国人もたくさん亡くなったのに、日本は教訓を学んでいない。国会中継を見ても、議員が過去から学ぼうとしていない」と、政府の軍拡路線への危機感を募らせました。 作家の渡辺一枝さんは「敵というのは戦争状態で交戦する相手のことであり、平時の今はいないはずだ」と述べ、国際問題は武力より外交で解決するべきだと訴えました。「『攻める』という言葉ではなく、『攻撃に備える』という言い換えた言葉が定着していくのが怖い」 埼玉県から来た女性は「いろいろなことがうそで塗り固められている。ここは短い時間だけ意思を示す場所。若い人にも来てほしい」と話しました。2022年12月4日 「しんぶん赤旗」 12ページ 「軍拡『過去を学んでない』-国会前3の日行動」から引用 この記事では、作家の澤地久枝氏が政府の軍拡路線に危機感を募らせたと書いているが、岸田政権の防衛予算倍増計画が「軍拡路線」と言えるほどのものなのかどうか、私は大いに疑問を感じます。自衛隊に限らず、トラックやバスの運転手も人手不足で、一昔前ならトラックもバスも電車も運転手は男性と相場が決まっていたのに、人手不足でそうも言っておられずに女性の進出が目立つ昨今で、岸田首相がアメリカの後ろ盾がほしいばかりにバイデン大統領に取り入ってトマホークを何百発も注文したところで、横浜港に届いたミサイル数百発を誰がどのように全国の自衛隊基地に搬入するのか、そんなものを全国に配備するほど国際情勢は緊迫しているのか、国会の審議を抜きにして勝手に財源をどうするなどと言う話を進めるのは止めさせるべきです。
2022年12月16日
隣国との関係がうまくいかない日本外交について、毎日新聞専門編集委員の伊藤智永氏は3日の同紙コラムに、次のように書いている; 大学生と話すと、日本のあちこちで見かける働く外国人への関心が高い。同世代の若者が異国で働く境遇、増え続ける背景は、自分の職への不安とも重なり、ひとごととは思えないのだろう。偽装移民・出入国管理制度のごまかしや非道も、今や常識に属する。 「こうした政策には、植民地支配という前史が影響している」 国会内で11月30日開かれた集まりで、NPO「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表理事の鳥井一平さんの話に得心するところがあった。法制度上の建前はどうあれ多くは不本意な形で、朝鮮半島から連れてきて働かせた徴用工たちの歴史を指している。 「人を使い捨てにしない、させない。国も企業も本気で共生社会を作る気なら、歴史の直視と反省がないと、前へは進めない」 同13日、約3年ぶりに行われた日韓首脳会談は、元徴用工問題の早期解決を図ると確認した。韓国最高裁判決で確定した元徴用工らへの賠償について、日本企業の韓国国内資産の「現金化」を避けるため、韓国の財団に両国の企業などが寄付して「肩代わり」させる案を韓国政府が検討している。 「請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済み」と突き放す日本側に配慮した玉虫色決着だが、韓国政府は国内を説得するため、日本側のなお「誠意ある呼応」に期待し、調整が続く。 2015年の慰安婦合意で外相だった岸田文雄首相は、合意が守られなかった苦い経験もあって、かたくならしい。自民党内も「一歩も譲るな」と強硬だ。 「日韓両国が21世紀の確固たる善隣友好協力関係を構築していくためには、両国が過去を直視し相互理解と信頼に基づいた関係を発展させていくことが重要である」 98年の小渕恵三首相と金大中大統領による日韓共同宣言(日韓パートナーシップ)。65年協定は20世紀末、最上級の外交文書で上書きされた。こう明記されている。 「小渕首相は、我が国が過去の一時期、韓国国民に対し、植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、痛切な反省と心からのお訃びを述べた」 「金大統領は、小渕首相の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるために、お互いに努力することが時代の要請である旨表明した」 民衆は政治のかたくなさにあきれている。立ち返るべき合意は、すでにある。(専門編集委員)2022年12月3日 毎日新聞朝刊 13版 2ページ 「土記-『誠意ある呼応』の手本」から引用 この毎日新聞の記事は、過度の政府批判を避けようとする余りに論点がオブラートに包まれたような印象で、もう少し本質をズバリ指摘するような表現にしても良かったのではないかと思います。徴用工問題で日韓関係が冷え込んでしまった責任は、一重に日本政府の誠意の無さに起因しており、日本側の問題であることは明らかで、中国で戦時中の「強制労働」が問題になったときは、労働者を使役した企業が判決に従って賠償責任を果たしたので、一応円満な解決に辿り着いている。したがって、韓国の徴用工問題についても、当初は被告だった日本企業は「中国の例」にならって裁判所の判断に従う予定だったものを、これに介入して問題をこじらせたのは安倍政権であった。強制労働が起きた時点で、中国は独立国であったが韓国は日本の植民地だったのだから、韓国の労働者が日本で働くことは当時の法律に基づいた施策であったので、今さら「損害賠償」の対象ではないというのが自民党政府の「理屈」であるが、そこには「植民地支配」に対する「反省」が皆無で、65年協定で解決済みという「理屈」も、65年当時日韓両国でかわした書面には「植民地支配に対する補償」であるとの文言は一言もないのであるから、政府自民党の「主張」は破綻しているのである。したがって、98年の「日韓パートナーシップ」が必要となったのである。
2022年12月15日
相模原市では来年春の統一地方選挙に立候補するつもりのレイシスト集団「日本第一党」のメンバーが時折、駅前に現われて街頭宣伝をするらしく、11月27日の神奈川新聞は次のように報道している; ヘイトスピーチを規制する条例を相模原市につくらせまいと妨害行為を続ける差別団体「日本第一党」が26日、同市南区の小田急線相模大野駅前でヘイト街宣を行った。差別に反対する市民に暴力行為を繰り返す萩山あゆみ氏がマイクを握り、暴力を肯定するレイシストのおぞましさにカウンター市民の怒りは頂点に達した。 街宣車の上に立った萩山氏は、暴力を振るっているのは自分なのに「抗議に集まっているのは、本村賢太郎市長がオーダーした極左暴力集団」とでまかせを言い、人権条例をつくろうとしている市長への嫌がらせを行った。 萩山氏が無関係な子どもを抗議の市民がけしかけたと思い込み、つかみかかったのは10月22日の街宣。30日にはカウンター市民に回し蹴りを見舞おうとした。その前には高齢男性に怒鳴りながら詰め寄った際に足を踏み、転倒させている。 萩山氏は何事もなかったかのように辻立ちを行い、来春の同市議選立候補予定者として活動を続ける。差別に反対する市民はこの日、「謝罪をしろ」と非難を浴びせたが、萩山氏はばかにしたような笑いを返して居直った。 この日は第一党最高顧問でネオナチの瀬戸弘幸氏、やはり市民への暴力沙汰と無断撮影で知られるヘイトカメラマンの谷地中忠彦氏も現れた。在日コリアンを侮蔑するヘイトスピーチを行った幹事長の中村和弘氏も無反省にマイクを握り、反社会的な振る舞いの歯止めのなさをあらわにした。 萩山氏に足を踏まれて転倒させられた横浜市の男性(70)は「謝ってほしいと頼んでも無視を決め込むばかり。暴力を否定しない人物は選挙に出るのはもちろん、人前で何かを訴える資格はない」と非難。「人を傷つけて何とも思わないのはレイシストだからだ。対話が通用しないのは萩山氏の態度から明らかで、罰則条例や包括的な禁止法で差別を厳しく規制していく必要がある」と話した。(石橋学)2022年11月27日 神奈川新聞朝刊 18ページ 「続く暴力 市民ら怒り-相模原」から引用 荻山あゆみという人物は、ツイッターの動画で見たところ50歳前後の女性であるが、性格は「凶暴」で「差別発言はやめろ」と抗議する市民に対し、「まわし蹴り」を試みるなど、よくああいうことが出来るものだと呆れてしまう。10月下旬から11月にかけて荻山あゆみ氏が市民に暴力を振るうシーンが度々投稿されたから、あのような動画を見た市民がまさか荻山氏に投票することはないだろうと思うが、果たして来春の選挙で荻山氏が何票獲得するのか、見ものである。
2022年12月14日
和田春樹著「日朝交渉30年史」(ちくま新書)について、岩波書店前社長の岡本厚氏が11月27日の神奈川新聞に、次のような書評を書いている; 今年は小泉純一郎元首相が北朝鮮を訪れ、「日朝平壌宣言」を発表してから20年である。そのとき約束された国交正常化はならず、交渉は断絶したままだ。最後に残った「戦後処理」として、これは異様な事態といえる。 一方、小泉訪朝で事実が明らかになった日本人拉致は、女子中学生が被害にあったということもあって、日本の多くの人びとに北朝鮮への憤激と被害者や被害者家族への深い同情を呼び起こした。その衝撃は日本社会を変え、いまも底流で揺り動かしている。 しかし、この20年(金丸信元副総理訪朝から数えると約30年)、何が起き、誰が何をしていたのかを知る人は少ない。 本書の著者和田春樹は、国交正常化を進めることが植民地支配清算のために必要であり、日本国民にとって取り組むべき課題だと考え、民間で運動し続けてきた日朝国交促進国民協会の事務局長である。その立場から、和田は20年を期して日朝国交交渉検証会議を組織し、政府関係者、政治家、ジャーナリストらに話を聞いてきた(私も途中から参加した)。この検証会議で、これまで知られてこなかった事実が数多く明らかになった。 本書は会議での証言などを一部取り入れながら、30年の交渉史をまとめたものである。それは、国交正常化を進めようとする側とそれに反対し、止めようとする側の激しい論争史、政治闘争史としても描かれる。最大の反対勢力として登場したのは安倍晋三という政治家であり、安倍政権であった。「安倍拉致三原則」が国交正常化を阻み、交渉そのものを座礁させてしまった。 和田は、協会の運動は敗北し日本政府も失敗したという。たしかに現状を見れば、その通りだ。しかしこの問題が国民的な課題である以上、敗北は敗北のままで終わることはできない。外交も結局、決めていくのが国民だとすれば、和田の意思を継いだ次の国民運動か準備されなければならないと思う。(岩波書店前社長・岡本厚)和田春樹著「日朝交渉30年史」(ちくま新書/968円)2022年11月27日 神奈川新聞朝刊 11ページ 「読書-”敗北”で終わらせずに」から引用 この記事が言うように、日本海の対岸に存在する国と国交がないというのは異常な状態である。正常な国交があって政府同士の情報共有があれば、国境を越えた不審者の行動なども情報を共有して犯罪を未然に防ぐというようなことも可能になり、不幸にして発生した「事件」があれば、被害を最小限にするための協力を得たり、また提供したりという作業も可能のはずであるが、現在のように「音信不通」であれば無駄に猜疑心やデマが横行するばかりで、何も良いことはありません。次の世代には、是非とも国交正常化を成し遂げてほしいと思います。
2022年12月13日
外国人技能実習生の労働問題について著作を発表してきたノンフィクション作家の安田浩一氏は、11月24日の朝日新聞の取材に応えて次のように語っている;◆気づかされた日本の差別 週刊誌記者だった1990年代。「雇用の流動化」が進み、労働問題に関心をもった。地方の労働争議などを取材するなか、「労働力」として受け入れが進み始めた外国人研修生・技能実習生が劣悪な環境に置かれているらしいと耳にする。フリーのライターになると、日本の社会から隔絶され、声をあげられずにいた実習生の姿をいち早くとらえた。2005の暮れのことだ。 深夜0時、岐阜市郊外の縫製工場の寮で若い中国人女性6人に会った。暖房設備もなくいてつく部屋でダウンジャケットを着たまま、寝床では湯を入れたペットボトルで暖をとっていた。日本人並みの給料がもらえると聞き、借金をして来日したが朝7時から深夜まで休憩なくミシンを踏む毎日。基本給は月5万円、残業手当は時給300円、休日は月1日。パスポートも貯金通帳も経営者にとりあげられていた。リーダー格の女性が涙を浮かべて言った。 「私たち、人間なんでしょうか」 あまりに重い現実を前に言葉を返せなかった。「まるで奴隷労働でした。国産を売りにする商品も外国人労働者に支えられていることを肌で感じましたね。この問題をちゃんと取材せねばと思いました」 実習生の実態を明らかにするため、全国を歩いた。彼らの故郷、中国の貧しい山村も訪ねた。06年、千葉県で研修生かあっせん団体理事らを殺傷した事件では中国の家族や現地ブローカーを取材、本にまとめた。「調べるにつれ人権侵害の制度を成りたたせている要因に日本の外国人差別の構造があるとわかった」 同年、栃木県で中国人研修生か警察官の発砲で死亡した事件では「射殺されて当然」と横断幕を掲げる人々に注目した。それはヘイトスピーチの問題に警鐘を鳴らしたルポ『ネットと愛国』(12年)の執筆へとつながる。「人間としての尊厳を奪いとり、社会を破壊するという点で、実習生問題とヘイトスピーチの問題は地続きです」 今も取材のたびに「人間なんでしょうか」と問われている思いがする。「でも今ならこう返せるかも。 『あなたも僕も人間です。人間を人間として見ない社会がおかしい。胸をはって人間としての権利を主張していきましょう』と」(林るみ)<やすだ・こういち> 1964年、静岡県生まれ。15年、「ルポ 外国人『隷属』労働者」で第46回大宅壮一ノンフィクション賞雑誌部門受賞。近著に『団地と移民』、『外国人差別の現場』(安田菜津紀氏との共著)など。2022年11月24日 朝日新聞夕刊 4ページ 「1語一会-私たち、人間なんでしょうか」から引用 研修生だの実習生だのとそれらしい名前を付けて「だから、一般の労働者より賃金が安くてもいいのだ」と雇用するほうが勝手に決めつけた「制度」は、始めから間違っている。その上、パスポートも貯金通帳も経営者が取り上げるなど、経営者に何の権限があってそのような「人権侵害」が許されるのか。これからの日本は、ますます少子化が進むのであるから、早い時期に外国人労働者の待遇を常識レベルに改善していかないと、円が安いこともあり、「日本で働く意味がない」ということにもなりかねません。外国人を見下して差別していられる状況は、この先あまり長くは続かないと思います。
2022年12月12日
森友学園問題で安倍首相が関与していることを隠すために公文書を改ざんさせられた公務員が自死に至った事件で、犠牲者の妻が真相究明の裁判を起こしたところ裁判所が門前払いの判決を出したことについて、元文科事務次官の前川喜平氏は11月27日の東京新聞コラムに、次のように書いている; 森友学園問題で決裁文書の改鼠(かいざん)を強いられたために自死に至った近畿財務局の赤木俊夫さんの妻雅子さんが当時の財務省理財局長佐川宣寿氏を訴えた裁判で、大阪地裁が門前払いの判決を出した。国家公務員が職務で損害を与えた場合、公務員個人は賠償責任を負わないという理屈で損害賠償請求を棄却したのだ。 しかし公文書の改竄は公務員の職務なのか?改竄を命じる命令は職務命令だと言えるのか?こんな違法行為を部下にさせても国家公務員は国に守られるのか?法は正義を実現するためにあるのではないのか?裁判所はこのように消極的であっていいのか? 雅子さんは損害賠償がほしくて提訴したのではない。夫を死に至らしめた者は誰なのか、その真実が知りたいだけなのだ。しかし、雅子さんが国を訴えた裁判で岸田政権は「認諾」という異常な手段で裁判を終わらせ、真相解明の機会を封じた。今また裁判所がそれを封じた。 公文書改竄事件の責任者は佐川氏だけではないはずだ。僕は当時の菅官房長官の指示があったと思うし、当時の安倍首相も了解していたと見ている。真の責任者は官邸にいたのだ。 この言説を名誉毀損だと思うなら、菅氏は私を訴えたらいい。私は喜んで受けて立つ。その時こそ裁判所で真実を明らかにできるだろう。(現代教育行政研究会代表)2022年11月27日 東京新聞朝刊 11版 21ページ 「本音のコラム-赤木俊夫さんを忘れない」から引用 「門前払い」と決めた大阪地裁の判決は、明らかに間違いである。上の記事が言うように、公務員が普通の仕事をしたのであればその結果について殊更に個人的責任を追及するのは酷だ、という理屈はあり得るかも知れないし法律で守るのが適切な配慮というケースもあり得るかも知れないが、「首相があのように言ったのだから、あの発言にあうようにこの公文書を改ざんしろ」という「命令」は「職務命令」ではあり得ない。上司と部下が路上を歩いていて、上司がいきなり「おい、前を歩いているあの女のハンドバックを取り上げろ」という「命令」は、職務命令とは言えず、ただの「犯罪強要」に過ぎない。そういう場合は実行犯の部下と一緒に命令した上司も逮捕されて有罪判決が出されて当然なのだから、森友学園問題に関わる公文書改ざん事件も同様の文脈で考えれば、赤木氏に「公文書改ざん」という「犯罪」を強要したのが安倍首相だったのか菅官房長官だったのか、これははっきりさせる必要がある。安倍氏はともかくとして、官邸では当然、菅氏から財務省の佐川氏に指示が行ったのは間違いないのであるから、大阪地裁の今回の判決は不当である。それにしても、先月末の新聞に「公文書の改ざんについては、菅氏から指示が出たのは間違いない」と書かれて、これがもし真実でないのであれば、現職の衆院議員である菅氏にとってはとんでもない「名誉毀損」なのであるが、新聞に書かれて2週間になろうとしている今日に至るも沈黙を守っている菅氏は、佐川氏に「改ざん」を指示したのは間違いない「事実」のようである。
2022年12月11日
岸田首相がいきなり防衛予算倍増を言い出した背景について、11月27日の東京新聞は次のように論評している; 敵基地攻撃能力の保有は、憲法9条に基づく専守防衛を変えるかもしれない重要な問題であるにもかかわらず、政府や自民党は水面下で準備を進めてきた。 第2次安倍政権の2018年には、相手の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」が防衛大綱に盛り込まれ、開発費などが予算化された。周辺国にも到達可能な長射程ミサイルだが、政府は日本の島しょ部防衛のためと説明。当時の安倍晋三首相も「敵基地攻撃の目的ではない」と述べていた。 だが、実際は「布石」だった。18年に国家安全保障局次長だった兼原信克氏は今年10月、本紙に「将来は反撃能力(敵基地攻撃能力)にしたいとの思いだった。周辺国が日本を射程に収める中距離ミサイルを持つ中、日本国民をどう守るか考えた結果だ」と証言。安倍氏も昨年11月の講演会で「スタンド・オフ・ミザイルを反撃能力でも行使できるようにすべきだ」と本音を明かした。 もともと自民党は、北朝鮮のミサイルの脅威が高まった04年以降、防衛大綱改定の度に政府への党提言で「敵基地攻撃能力の保有」を要求。保守派議員にとって悲願で「いつまで打撃力を米国に依存するのか」と不満を持ち続けていたが、政府・与党内の慎重論で実現しなかった。 潮目が変わったのは、20年6月の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画の中止だ。当時の安倍首相はミサイル防衛強化の行き詰まりを逆手に、代替策として敵基地攻撃能力の必要性を主張。3ヵ月後の首相退任前、異例の安全保障政策の談話で保有を促し、その後も最大派閥を率いる実力者として求め続けた。 「敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力の保有が必要」。20年の自民党総裁選で敗れて無役だった岸田文雄氏は21年3月に突然、敵基地攻撃能力の必要性を自らのツイッターで打ち出した。 ハト派と評される派閥「宏池会」会長の岸田氏は20年の総裁選で「法律的、技術的に本当に実行可能なのか」と慎重姿勢を示していたが、半年でひょう変。次の総裁選を視野に、安倍氏ら保守派議員の支持を得る狙いがあったのは明らかだった。21年の総裁選は、思惑通り保守層の後押しも受け、敵基地攻撃能力保有に慎重だった河野太郎氏に決選投票で勝利した。 自民党保守派の悲願と岸田首相の政治的思惑が絡み、敵基地攻撃能力を持とうとする現状について、流通経済大の植村秀樹教授(安全保障論)は「打撃力を持つ”真の独立国家”になりたい自民党と、米国の利害が一致した産物。合理的に冷静に必要性を検討したのか」と疑問を呈する。 敵基地攻撃能力の保有は、国民の代表である国会で是非を問う議論が十分に行われないまま、政府と与党の協議で決まろうとしている。(川田篤志)2022年11月27日 東京新聞朝刊 12版 2ページ 「検証・崩れゆく専守防衛-地上イージス破綻 逆手に」から引用 敵基地攻撃能力だの反撃能力だのと自民党が言い出したのは、安倍政権のときに秋田県と山口県に地上イージスの基地を作る計画だったものが、住民の反対運動で挫折したために出てきた代替案であるとのことだが、あの「地上イージス」はかなりいい加減な計画で、しかも秋田県の場合は住宅地のど真ん中に基地を置くという素人丸出しのデタラメであったため、頓挫したのは当然の結果であったと言える。今回の防衛費倍増の計画も、似たような低レベル政策で、予算額だけは倍増するが、その予算でどのような装備を揃えて何処に配置し、どのように運用する結果、どのような防衛効果が期待できるのか、などという「中身」は何も無いのであるから、無理してカネをかき集めてそれなりの装備品を購入しても、今は自衛隊の基地はどこも人手不足で定員割れしているのだから、新しい装備品の手入れなどにも事欠く始末で、結局は予算がついて購入はしたが、倉庫に積み上げてホコリを被るだけ、という結果は見えている。このような愚にもつかない計画は出来るだけ早く頓挫させるに限る。
2022年12月10日
必要最小限の自衛力で平和外交を77年も続けてきたわが国も、世襲の政治家が3代目ともなるとロクな人材に恵まれず、アメリカ政府の圧力に負けて余分な武器を購入することとなり、「反撃能力が必要」などと言い出したと11月26日の東京新聞が報道している; 自民、公明両党は25日、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向けた実務者によるワーキングチーム(WT)会合を開き、最大の焦点となる敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を巡る議論を始めた。政府は保有が必要との考えを初めて提示した。公明党が、保有の是非を判断する材料として、政府により詳細な説明を求めたため、協議を継続する。 出席者によると、政府は日本を狙ったミサイルを迎撃する現行のミサイル防衛(MD)システムで防ぎきれない場合に備え、必要最小限度の措置として反撃能力を保有したいと説明。国際法に反する先制攻撃は行わず、攻撃対象も国際法にのっとり軍事目標に限るとした。政府は、防衛力強化を検討する有識者会議の報告書の内容も紹介した。 公明党は、MDシステムの能力拡充が優先事項だと主張。その上で、日本の防衛に足りない部分があれば、反撃能力の必要性を検討するべきだと訴えた。保有を否定する意見は出なかった。自民党は、4月にまとめた政府への提言で既に保有を求め、対象はミサイル発射基地だけではなく、司令部などの「指揮統制機能等」も含むとしている。 政府は、日本が直接攻撃を受けていなくても他国を武力で守る集団的自衛権を行使する際、敵基地攻撃が可能との考えを説明。自公両党から異論はなかったが、公明党は具体的にどのようなケースが想定されるか例示するよう政府に求めた。次回会合は30日に開かれる。 与党協議に先立ち、公明党の石井啓一幹事長は記者会見で、抑止力強化のため敵基地攻撃能力の保有を容認する考えを示した。北朝鮮が迎撃困難なミサイルを開発していることに触れ、「しっかりとした反撃能力があると示すことが、結果として日本への攻撃を抑止する」と説明。同時に「反撃することが目的ではない。抑止が大きな目的だ」と強調した。(川田篤志)2022年11月26日 東京新聞朝刊 12版 3ページ 「『反撃能力必要』政府が初提示」から引用 わが国憲法は国の交戦権を認めないと明言しているのだから、反撃能力を発揮するために武器を購入するというのは「憲法違反」である。憲法がそのように定めたのは、以前の憲法下で300万人の同胞が国の始めた戦争に動員されて死亡し、2000万人のアジアの人々が日本軍の犠牲になったことを反省した結果であり、一昔前ならこのような「憲法違反」については労働組合が結集して「軍備反対国民会議」を立ち上げる所であるが、今はメディアも批判能力を喪失し国民も批判の声を上げる術を失っている。このような状態で、戦前の失敗をこれから繰り返すことは許されない。憲法を護る戦いを立ち上げるべきである。
2022年12月09日
テレビではチヤホヤされて人気の”論破王”ひろゆきの言動について、テレビ局報道記者の桜宮淳一氏が11月21日の「しんぶん赤旗」で、次のように批判している; 沖縄をめぐって、いつか見たような言葉と映像がネット上に現れた。 ひろゆき(西村博之)という人がいる。今を時めくユーチューバーであり、テレビでは”論破王”などといってもてはやされている、言論の世界では影響力をもつ人だ。このひろゆき氏が、新たな米軍基地建設が進められている名護市辺野古を訪れた。現地には新基地に反対する住民らが抗議の座り込みを続けていて、その日は「3011日」目だった。住民たちは看板に座り込んだ日数を書いて強い意志を示しているのだが、訪ねた時に人の姿がなかったことから同氏は「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」とツイード(10月3日)。看板の横でピースサインをして笑っている写真を添えた。これに30万人が「いいね」と賛同した。 この笑いはなんだろうか。誰に向けたものか。彼は「座り込み」という言葉を辞書で引くと座ったまま動かないとあるので、辺野古の抗議は「座り込み」とはいえない、という理屈を展開、だから「0日」が正しいと主張する。そして「3011日」と書かれた看板の横でうれしそうに笑うのである。 これを見て思いだしたのは、MXテレビで2017年に放送された「ニュース女子」という番組だ。DHCテレビジョンという制作会社が沖縄に取材したこの番組は、基地建設に反対する住民たちを「テロリストみたい」などと事実ではないことを並べ立てた。BPO放送倫理検証委員会は、番組を「重大な放送倫理違反があった」と厳しく批判した。この番組が最も罪深いのは、反対運動に関わる人々をあざけり、笑い物にしたことである。これは人の尊厳を深く傷つける行為である。 ひろゆき氏はその後も「もともと普天間の基地があった。まわりに住宅を造っちゃった」と、典型的な沖縄フェイクを発信するなど、基地反対運動に対して冷たい笑いを投げかけている。「ニュース女子」の悪夢が5年をへてよみがえったとしか思えない。考えが異なる相手を批判するのはいい。だが、あざける、笑い物にするというのは、もはや言論とはいえまい。それを多数の人が支持する現実がある。これは基地問題と同じように根深い問題だと思う。(さくらのみや・じゅんいち 在阪テレビ局報道記者)2022年11月21日 「しんぶん赤旗」 9ページ 「波動-沖縄を『笑う』人々」から引用 自分の主張が正しいことを説明するのに辞書を持ち出すのは稚拙である。辞書は言葉の定義を記述するものではなく、広く一般的にどのように使われているかを解説したものに過ぎず、毎日でも毎週でも「抗議行動」として「座り込み」を始めてから何日経ったかを記録するのは大事なことであり、たまたま自分が行ってみたらそこには誰もいなかったから、などと自分勝手な話にこじつけて「座り込み、してないじゃないか」などと言ってみてもしょうがない話だ。それに「もともと普天間に基地があった」というのは嘘で、普天間はもともと人々が平和に暮らした村だった。そこに戦争末期に米軍が上陸して地上戦になり、人々は戦禍を逃れて森に逃げ込んだから一時的に無人になっただけで、戦争が終わって人々が戻ったときには米軍に接収されていたのであった。そういう歴史も知らずに、勝手な理屈で「論破した」などと虚言を吐く者を人気者としてチヤホヤするテレビも罪深い。
2022年12月08日
今年は11月17、18日に開催された「全国夜間中学校研究大会」について、元文科事務次官の前川喜平氏は11月20日の東京新聞コラムに、次のように書いている; 17日と18日に埼玉県川口市で開かれた第68回全国夜間中学校研究大会に参加した。対面形式の開催は3年ぶり。この3年で夜間中学は7校増えて40校になり、来年度以降の設置を計画または検討中の自治体も多いため、参加者の顔ぶれは大きく変わった。 大会のハイライトは「生徒体験発表」だ。神戸の夜間中学に通う中国出身の女性は、本国で過ごした幼少期、暴力を振るう父親の下で学校に通えなかった。徳島の夜間中学に通う青年は、母親と死に別れたのちに預けられた里親の下で新設の夜間中学に入学することができた。東京の夜開中学に通う少女は長く不登校で引きこもっていたが、夜間中学で学ぶことによって自分は変われるのだと知った。彼らに共通するのは、夜間中学で学ぶ喜びを実感するとともに生きる喜びを見いだしたということだ。学ぶことは生きること、学習権は生存権でもあり幸福追求権なのだ。 増設の勢いがついてきた夜間中学だが懸念もある。設置自治体の中には夜間中学の意義を理解せず十分な支援を行わない自治体がある。夜間中学を減らそうとする自治体もある。入学者から次々に退学者が出ている新設夜間中学もある。 夜間中学に限らず学校は学習権と生存権という人権を保障する場だ。それを知らない教育関係者はまだまだ多い。(現代教育行政研究会代表)2022年11月20日 東京新聞朝刊 11版 21ページ 「本音のコラム-学ぶことは生きること」から引用 中央の政府与党はカルト団体と癒着して大問題になっている中、様々な事情で普通の中学校に通えなかった人たちがやり直しのために学ぶ場として必要な夜間中学校が、必要に応じて増えているというのは明るいニュースと思います。理解ある人々の努力でせっかく立ち上がった夜間中学校を、理解の無い自治体が廃止するというのは余りにも残念なことで、そのような困難も乗り越えて、必要な人たちに学習権と生存権を保障する場として夜間中学校を継続していってほしいと思います。
2022年12月07日
統一教会という宗教団体を始めた文鮮明と連携して日本に統一協会と勝共連合を設立した岸信介や児玉誉士夫について、毎日新聞専門編集委員の伊藤智永氏は、11月19日の同紙に次のように書いている; 旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)の政治団体・国際勝共連合は2日、安倍晋三元首相の死去以来自粛していた活動の再開を宣言した。「サンデー毎日」11月6日号で、共産党の志位和夫委員長がジャーナリストの田原総一朗氏に「最終戦争ですね」と問われ、「とことんやります」と答えた。すると勝共幹部が東京都内で街頭演説し「宣戦布告だ。受けて立つ。とことんやろう」と息巻いた。 勝共連合は1968年、統一教会の教祖が朴正煕軍事政権の韓国中央情報部(KCIA)に支援を受け、韓国と日本に創設した。 前年、衆院選で自民党が初めて得票率50%を割り込み、社会・共産両党推薦の美濃部亮吉都知事が誕生。68年は東大・日大紛争が始まり、日米安保条約の自動延長に反対する左翼の「70年安保闘争」が吹き荒れた世相である。 日本で協力したのが、笹川良一(初期の勝共名誉会長)・児玉誉士夫・岸信介のA級戦犯容疑者仲間だ。岸の獄中日記には「児玉君と碁を囲む」「笹川君と駄弁る」といった記述が随所に見える。 48年12月23日午前O時、東条英機らA級戦犯7人の絞首刑執行。翌24日午前、岸ら3人は他の容疑者16人と一斉に釈放された。米国の占領政策は、有力戦犯を反共指導者として活用する「逆コース」へかじを切っていた。 戦時中、上海で海軍の戦略物資を独占的に商った児玉は戦後、巨額の隠匿資金の一部を鳩山一郎に提供。日本民主党の結党資金になった。鳩山総裁の下、幹事長として実権を振るい、米国が「反共のとりで」として切望した保守合同を成し遂げたのが岸だ。 政権を取った岸は、米国の反共戦略に協力できる同盟関係へ日米安保改定を断行。自民党内の異論を封じる便法として、大野伴睦に政権を譲る空密約を結ぶ。立会人を務めたのは児玉だった。 岸と児玉は、CIA(米中央情報局)やロッキード事件との関係でも背徳の影を数多く残す。 晩年の岸の評。「笹川君に頼むと影響力を働かせてくれます。私の郷里に公民館を作ったんだが、カネを出してもらいましたよ」「児玉君は世間でいうほど力があったわけではないね。物事をまとめるというよりも、破壊力を持っていたのかもしれない」(原彬久編「岸信介証言録」より) 街頭の勝共幹部は、自民・立憲・国民・維新4党の名をあげ、こうも言った。「(旧統一教会が)解散しても(我々は)より鍛錬した団体として残る。政治団体・勝共連合は解散できない」。ずっと奥に根はある。(専門編集委員)2022年11月19日 毎日新聞朝刊 13版 2ページ 「土記-A級戦犯たちの残した根」から引用 統一協会の問題が報じられる関係で「勝共連合」が度々マスコミに取り上げられるが、勝共連合自体はその辺に掃いて捨てるほどいる右翼団体の一つに過ぎない小さな団体である。それにしても、戦後日本の政治は、右翼の児玉誉士夫が戦争中に溜め込んだカネと岸信介がCIAから提供されたカネで設立された自由民主党がリードしてきていたもので、出発点からしてあまり褒められた状況ではなかったのだということは、今後の日本の行く末を考えるについても記憶しておくべき事項ではあると思います。
2022年12月06日
イメージと裏腹 変化の歴史(5日の日記) 中北浩爾著「日本共産党」(中公新書)について、東京都立大学准教授の佐藤信氏が11月19日の朝日新聞に次のような書評を書いている; 日本共産党ほどイメージが先行する政党もなかなかないだろう。「共産主義」や「共産党」と聞くだけでおどろおどろしく、縁遠く感じる人も少なくない。 その強力なイメージは、日本政治の風景を裏から規定してきた。政財界における共産主義への警戒感は自民党への支持に結びついてきた。旧統一教会と自民党との瓢がりもその一端に過ぎない。非自民勢力でも、昨今の野党共闘に見られるように、日本共産党が結集に加われないのみならず、そのイメージが他党を分断することもある。 ただし、その先行するイメージとは裏腹に、日本共産党の実態がどこまで知られているか、心許ない。非合法時代に限らず機密が多く、また国際的な連関も多いだけに、バランスのとれた入門書もなかったから、仕方ないといえば仕方ないのだが。 そんななか、社会党を中心にした研究からスタートして、近年、自民党や自公政権について定評ある新書を刊行してきた政治史家が、結党100年に合わせて刊行したのが本書である。 最新の研究も踏まえて日本共産党の歴史を簡潔にまとめた本書だが、それでも440ページと分厚いうえに密度も濃い。ヒット作とはいっても積読(つんどく)になっている人も少なくないだろう。 それでも、本書を紐解(ひもと)けば、「共産主義」とか「共産党」とかいった言葉で一徹したイメージで語られる日本共産党が大きく変化してきたことに驚かされるだろう。今では護憲を謳(うた)っている党も、戦後長く日本国憲法を否定してきたのだから。そこには党内闘争や、ソ連共産党や中国共産党などの国際的な権威に翻弄(ほんろう)された歴史がある。これまで変化してきたのだから変化は可能だ、というのが著者のメッセージでもあろう。 こうして、本書は日本共産党の歩みを丹念に追うことで、そのイメージを揺るがす。どういうかたちであれ、「共産党だから」と思考停止しないために。現代政治に関心を持つ人こそ手に取るべきだ。<佐藤信(東京都立大学准教授)> 中北浩爾著「日本共産党」中公新書・1210円=4刷4万3千部。5月刊。担当者は「読者は政治に興味のある層だけでなく、歴史に関心のある人も。ニュートラルな視点が受け入れられているようだ」。2022年11月19日 朝日新聞朝刊 13版S 23ページ 「売れてる本-イメージと裏腹 変化の歴史」から引用 戦前の日本の天皇制政府はまるで徳川将軍の代わりに天皇が人民を支配するような旧態依然の弱点を内包していたから、学問的な根拠を基盤にした労働者の権利を主張する共産主義思想は、天皇制政府にとっては足元をすくわれそうな「恐怖」であったわけで、その分政府の「反共宣伝」は苛烈なもので、その名残はいまだに日本人の脳裏に沈殿していて、何かの弾みで意味の無い「反共宣伝」が繰り返される。しかし、現実の共産党は戦後の70余年の間に様々な議論を重ねて「党綱領」を改善し近代政党に脱皮しており、戦前の共産党とは似ても似つかぬ市民政党になっていることを、多くの人々に知ってほしいものです。
2022年12月05日
ある日の東京新聞には、戦争だけは絶対に駄目だという読者の投書が掲載された; 私は絶対という言葉が嫌いだ。世の中に絶対はないと思っている。ただ、戦争だけは絶対に駄目だと思っている。 父は体が弱く戦地に行かなかったが、行った仲間は全員戦死したそうだ。父が生き残れたからこそ私は生まれてくることができ、今は3人の息子も結婚し、4人の孫に囲まれて暮らしている。私の願いはただひとつ、息子も孫も誰ひとりとして戦争に行かせないことだ。 日本は平和な素晴らしい国だ。憲法9条が日本を戦争から遠ざけてくれるのなら、改憲には反対する。私たちは若者たちに平和な日本を残す義務があると信じている。奇麗事に聞こえるかもしれないが、そのために何をすればよいか、懸命に考えて行動して生きていきたい。2022年11月16日 東京新聞朝刊 11版 5ページ 「発言-戦争だけは絶対に駄目」から引用 この投書を書いた人は私とほぼ同年代で、我々の親の世代が働き盛りの頃、この国は戦争をしていた。それも隣国から攻め込まれたものではなく、今のロシアのように隣国へ侵攻して行ったのであった。そのような戦争をするべく、この国は国民に「天皇は神の子孫で、絶対に偉い」とか「他の民族と違って、神の子孫を国の指導者に戴くわが国は、他の国よりも優れている」というような教育をしたものであった。そういう神話を信じ込ませた上で、国を守るためには男子は命を賭けて戦うのだと教えられたのであったが、そんな作り話の上で始めた戦争に敗れて、戦後は神の子孫と言われた天皇も「あれば作り話だった」と宣言して、軍隊を持たない平和国家として再出発したのであった。それから77年経って、世襲の政治家が3代目ともなると、祖先の苦労を忘れてまたもや抑止力のために防衛費を増額などと言い出しているのは、愚の骨頂というものである。戦争は自然現象と違って、具体的な「原因」がある。ロシアがウクライナに侵攻したのは、東西冷戦が終わったときの「NATOは東方に拡大しない」という約束を反故にして、ウクライナにモスクワを射程に入れたミサイル基地を建設しようとしたことが原因であり、朝鮮民主主義人民共和国が執拗にミサイルの発射実験を繰り返すのはアメリカが朝鮮戦争を単に「停戦」にしただけで、終戦交渉をせずいまだに敵視政策をとっている、この不当な状況を打開するために共和国はアメリカに対して「対話」を要求しているのであって、韓国や日本を恫喝する目的でやっているものではないという「正しい理解」が必要です。その上で、東アジアの安定的な発展には何が必要なのか、考えていくべきと思います。
2022年12月04日
政府が憲法の平和主義を無視して防衛費を増額し保有する武器を増やそうとしていることについて、メディアの批判が弱いどころか政府の憲法無視を促進するかのような論調もあることについて、ジャーナリズム研究者の丸山重威氏は11月13日の「しんぶん赤旗」に、次のように書いている; 年末に予定されている安保関連3文書「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の改定のための「有識者会議」の議論が名前を伏して公開されています。「幅広い税目による国民負担が必要」などと「増税を容認する意見が大勢」(「朝日」1日付)です。 あわせて、新聞では「防衛力強化は財源も正面から議論せよ」(「日経」10月1日付)、「抑止効果高める戦略を築け」(「読売」同19日付)、「抑止には反撃力が必要だ」(「産経」11月4日付)との軍拡前提の議論も目につきます。 他方、憲法の「専守防衛との整合性が問われ、日本の防衛政策の大転換となりうる」(「毎日」10月9日付)、「軍事偏重の構えが、かえって軍拡競争を招き、地域の不安定化につながらないか」(「朝日」11月1日付)との主張がありますが、あまりにもひ弱です。 米韓合同演習が続く中で、2日、3日と北朝鮮の弾道ミサイルなどの発射(23発以上)が続きました。政府は連日「Jアラート」を発信しましたが、一体どう対応しようとしているのか。軍備強化しか見えてきません。 何としても政府は北朝鮮と外交ルートを開き、「脅威」をなくすよう求める。それを要求するのがメディアの役割です。 軍拡に拍車をかけているのは、岸田政権による「敵基地攻撃能力」検討。そもそも「外交安保政策の基本は戦争を始めない、始めさせないことだ。防衛力増強に偏った姿勢はこの基本に背く」(「東京」6月27日付)というのはどこまでいっても真理です。憲法で「戦争を放棄」し「戦力を保持しない」と宣言した日本の道は「外交」以外にはあり得ません。 いま、外交をそっちのけで「防衛力強化」に走る政府。脅威をあおり、動きに追随して、ただ情報を伝えるだけでは、ジャーナリズムの責任を果たしているとは言えません。(まるやま・しげたけ=ジャーナリズム研究者)2022年11月13日 「しんぶん赤旗」 日曜版 35ページ 「メディアをよむ-外交そっちのけの軍拡」から引用 ロシアがウクライナに侵攻したからとか、朝鮮民主主義人民共和国のミサイル発射実験が脅威だからなどと言ってアメリカから武器を購入すれば「抑止力」となって日本は安全になる、というのはほとんど幼稚園児の遊びのレベルの妄言である。今年の夏頃に、広島に勤務する自衛隊幹部が語ったところによると、近年は自衛隊に就職する人員が不足しており、防衛の現場も海上自衛隊の艦船を保守点検する人員がないために日常の整備作業も滞りがちで、「いざ、有事」となってもすぐには出動できない状態の艦船もあるとのことで、新たな武器の購入を考える前に人員の補充をどうするのか、真剣に考える必要があるとのことだった。自民党の政治家が本当にロシア軍の行動や朝鮮のミサイルに脅威を感じるのであれば、武器の購入の前に自衛隊の現場はどうなっているのか、一度は視察に行ってから、「安全保障」について考える必要があると思います。また、自衛隊とか武器というものは、武力紛争が勃発してから必要になるものであり、普通は平時から国際間にもめ事が発生しないように、常に平和外交を心掛け、紛争の火種を未然に防止するのが政治家の仕事でもあるという「政治の基本」について、自民党の議員諸君はまじめに取り組み学習する必要があると思います。
2022年12月03日
岸田政権がロシアのウクライナ侵攻を口実に防衛費を倍増するという方針を批判して、全国首長9条の会が集会を開いたと、11月13日の東京新聞が報道している; 憲法9条の改憲の阻止を目指し、自治体の首長や首長経験者らでつくる「全国首長9条の会」が12日、東京都内で第3回総会を開いた。73人が参加し、杉並区の岸本聡子区長や武蔵野市の松下玲子市長が地方自治や憲法をテーマにスピーチした。(松島京太) 総会は来年4月に投開票される統一地方選に向けて開催。採決されたアピール文では、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射を口実とし、岸田政権が掲げる防衛予算を増大させる方針を批判した上で、「9条は恒久平和の実現に不可欠だ」と訴えた。 松下市長は、市政運営のルールを定める自治基本条例が原則とする「協働」「情報共有」「市民参加」の3つのサイクルを重視していることを強調し、「議論を軽視している国政は大切な憲法をないがしろにしている」と指摘した。 岸本区長は「草の根の民主主義や地方自治の精神、憲法を生かしていきたい」と話した。総会には世田谷区の保坂展人区長も参加した。 会は2019年に設立。現在の会員数は計126人で、うち現職は11人。改憲阻止のほかに、沖縄などの基地移設反対や核兵器禁止条約への参加実現なども活動方針で掲げている。2022年11月13日 東京新聞朝刊 12版 23ページ 「平和実現へ9条守れ」から引用 国会審議で政府側の発言が怪しくなり出したのは森喜朗政権の頃からだったように記憶してます。それでも小泉純一郎政権までは、曲がりなりにもそれなりの質疑応答が出来ていたように思いますが、これが完全破たんしたのは安倍晋三政権からで、首相答弁となると必ず官僚の作文を見ながら答弁し、仕舞いにはその作文を棒読みする有様で、その作文作成のために「質問は、事前に通告すること」という無意味なルールが出来上がり、関連する質問をその場でいきなり聞くと「事前通告のなかった質問にはお答え出来かねます」などと恥ずかしげも無く胸を張って堂々応える様子には、国会の議論はかなり質が落ちたと感じざるを得ません。ロシアのウクライナ侵攻を口実に日本の防衛費を増額するという問題も、国会の論戦ではとても自民党の知能指数では野党の追及に対応できないことが予め分かっているため、閣議決定で法案を決めて、適当なタイミングで強行採決する算段と考えられるが、これは国会を蔑ろにするやり方で議会制民主主義を空洞化するファシズムへの道です。こういうお粗末な政党を与党にするのは危険であることを、国民はよく考える必要があります。
2022年12月02日
浜田敬子著「男性中心企業の終焉」(文春新書)について、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が11月12日の毎日新聞に、次のような書評を書いている; 中国共産党と、日本企業と、どちらが先に変わるのだろうか。どちらも、滅びるまで変わることはないのか。 新執行部が全員黒い背広を着た男性という、中国共産党大会の映像は異様だった。しかし、日本の多くの企業や団体の、役員会や幹部会も同様ではないか。 たとえば、林真理子理事長の選任以前の、日本大学の理事は全員男性だったという。学生や職員には、女性が多数いるにもかかわらず、だ。企業はどうか。さすがに上場企業ともなれば、役員会にも複数の女性がいるご時勢だろうが、常務会などの実質的な意思決定機関ではどうだろう。 そんな日本は、まるで幕末のようでもある。当時の幕府や諸藩は、欧米列強の脅威を目の当たりにしつつなお、「政治行政司法に携わるのは世襲の武士身分の者だけ」という体制を墨守し続けた。それ以外で優秀な者も、一部で下級の士分に取り立てられたが、上層部には上がれない仕組みだった。 しかし明治維新から四半世紀も経った頃には、武士階級以外の出身者があらゆる分野で、実力相応にリーダー層の大部分を占めるようになっていたのである。同様に日本の女性が、実力相応にリーダー層の相当部分を占める日は、いったいいつになったら来るのだろう。どういう形で「維新」を起こせば、そうなるのだろうか。 そのような疑問に答えるのが掲題書だ。ジェンダー平等の体制構築こそが企業生き残りのカギであること、「維新を待っている間に藩政改革」ということを、条理と実例をもって語る。「女性に昇進を打診しても断られる」とか、「キャリア志向の女性がお手本にすべき先輩が見当たらない」とか、「女性枠の設定は男性への不平等だ」とか、「あるある」の否定的見解の数々に、「そうではなくて、こうすべきでしょう」と、具体的な回答を快刀乱麻で返す。やったふり(ジェンダーウォッシュ)の企業と、本心から改めている企業の違いを、これでもかと明確に示す。 そんな掲題書の表題は「男性中心企業の終焉」だが、「ジェンダー平等企業の洋々たる未来」と裏返した方が、より内容がしっくりするだろう。そう、この本は、著者がキャリア女性として30有余年を生きてきた日本の、企業社会の不条理への怒りにも満ちているが、それ以上に、ようやく増えつつあるジェンダー平等の経営を実現する一部企業と、多様な価値観や働き方が共生できる未来への、賛意にあふれている。ジェンダーと聞いてどこか冷笑気分になる中高年経営者諸氏こそ、手に取って己の「幕末性」を確認するとともに、維新は不可避であること、そこに対応した先にこそ自社の発展があることを読み取るべきだろう。 いや、昭和型組織の男性幹部諸氏には、それは無理なのかもしれない。身分制度の否定とともに、幕府や諸藩は解体した。ジェンダー平等の実現とともに、昭和型の組織文化を固持する企業や団体も解体するかもしれない。改革の先送りは、要らなくなる側の自衛行動なのだ。だが、彼らの惰性がもう一年許される間に、日本のチャンスはもう一年失われていく。 すべての企業幹部がこの本を読んでほしい。「男性中心企業の終焉」が、「男性中心日本の終焉」につながってしまう前に。浜田敬子著「男性中心企業の終焉」(文春新書・1078円)2022年11月12日 毎日新聞朝刊 13版 14ページ 「今週の本棚-男性中心『日本』の終焉、となる前に」から引用 この記事はなかなかセンセーショナルである。封建社会から近代国家へ脱皮するために私たちの祖先は「明治維新」を実現し、士農工商の身分制を廃止して市民が平等の社会を実現したが、しかし、家制度はそのままで「夫唱婦随」とか、何かと女は男に依存する制度はそのままであったが、それから150年経って、今度はジェンダーによる差別を克服してジェンダー・フリーの社会を実現することが求められている。この記事が言うように、日本は国会も企業も男が支配して女は添え物程度の扱いであるが、これを克服できるか否かで、日本は「繁栄」と「衰退」の分かれ道に立っているというのであるが、果たして私たちの社会はどっちへ行こうとしているのであろうか。
2022年12月01日
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