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2021.02.10
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カテゴリ: アート
図書館で『現代に生きるサマセット・モーム』という本を手にしたのです。
モームの代表作と言えば「月と六ペンス」となるのかもしれないが、わたしの出会いは「アシェンデン」だったわけで・・・情報部に属してお国のために働いたモームを評価しているのでおます。






清水明著、音羽書房鶴見書店、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
名作『月と六ペンス』出版から一世紀、いま、時代の岐路に立つ人々への指針となるモーム文学の魅力。

<読む前の大使寸評>
モームの代表作と言えば「月と六ペンス」となるのかもしれないが、わたしの出会いは「アシェンデン」だったわけで・・・情報部に属してお国のために働いたモームを評価しているのでおます。

rakuten 現代に生きるサマセット・モーム



モームの代表作といえば、「月と六ペンス」でしょうか。
・・・で、この小説を読む際の勘所が語られているので、見てみましょう。
p42~45
<モームの主人公に託した真意>
 結局、ストリックランドは、自身の作品を完成させることによって、ようやく己の魂を解放させたようだ。自分だけでなく、他人をも犠牲にすることで、さらには人間的なしがらみをすべて断ち切ることによって、ストリックランドは最終的に勝利を得たようにみえよう。

 一般的にいえば、「人と人との共通の絆」(41章)を拒否するストリックランドの作品は、並の人間が理解出来ない風変わりなものになってしまっている、というふうに考えられる。しかし、そうした人間のもつ芸術観、すなわち常識はずれの奇怪じみた男の創作などを頭ごなしに無視し、嫌悪するような俗物的な芸術観をモームは、こういう小説を書くことによって批判しているのである。

 モームは、常々何ものかに憑かれたように行動する人間に興味を惹かれていて、そうした人物を作品の上で生々しく描いていた。『月と六ペンス』でも、モームはこのような人物の後半生を「私」の視点から語らせることになる。加えて、作品全体に強固なリアリティを与えるための工夫が、ストリックランド夫人やその家族の設定にあったのではないだろうか。

 作中では、パリでのストルーブ夫妻に関連するエピソードや、タヒチ島でのエピソードが読者に強い印象を与えるようにもみえる。しかし重要なことは、ストリックランド夫人に関連する話が最初の17章までの部分とエピローグのところに、前述の二つのエピソードを挟むような形で出てくる点である。こうした手法は、小説全体に微妙なアクセントをつけるだけに終わらず、陰影に富んだ効果を与えるのに役立っている。
(中略)

 また、主人公夫妻の関係に、通常はあまり意識にのぼらない夫婦生活における虚構とか幻想を意識する読者もいることであろう。モームはあるいは、夫婦の関係を通して、この物語に彼個人の抱く夫婦生活への幻影を投影したのかもしれない。もちろん作者モールが第一に描きたかったことは、平凡な生活を送っていて突如理想に取り憑かれてしまった男の人生であろう。

 しかしモームは、同じように芸術を志す人間として、この天才画家の生き方を理想とはするが、それがあくまで願望の域にとどまらざるを得ない、とわれわれに思わせる時がある。たとえば、未熟な青年作家だった頃の「私」がパリでストリックランドを探し出して詰問する挿話をここで取り上げてみたい。

「だが、いいですか、もしみんなが、あなたのような真似をするとしたら、この世の中はどうなりますか?」「これはまた馬鹿な話だねえ。みんなが僕の真似をしたがるなんて、そんなことがあるもんか。まず百人がとこ、九十九人は、平凡なことで満足しているんだ」。(14章)

 こうしたストリックランドの素っ気ない返答の中に、はっきりとモームの捉えた人生の真実の一面が浮かびあがってくる。モームは、自己ならびに語り手の願望でもあるような「月」的生き方への共感に劣らないくらいに、「六ペンス」に象徴される人物たちの、ストリックランド的生き方への様々な反応を鮮明に描き出している。ストリックランド夫人、その子供、親戚、ローズ・ウォータフォード、さらにはダーク・ストルーブもその範疇に入る「六ペンス」の世界に住人たちに多くの読者が自己の姿を見出すとすれば、それこそが『月と六ペンス』という小説のリアリティによるものであろう。





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Last updated  2021.02.10 00:17:23
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