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『殯の森』を観に、奈良へ行って来ました。=====前回の奈良旅行の際に、「一コマもがり」というサポーター制度に参加したのですが(経緯はこちら)、これは、一口2千円で、映画のサポーターになれる制度で、サポーターになると、 ・奈良での先行上映ご招待 ・フィルムを一コマ プレゼント ・パンフレットに名前が載るという特典があるのです。ええ。「奈良での」先行上映です。というわけで、「関西お出かけパス」を使って、朝から奈良入り。=====関西本線でウトウトして、目が覚めた時に「次は法隆寺」と聞こえたので、夕方までの時間を「法隆寺」で過ごすことに決定。 斑鳩三塔を中心に、近辺をウロウロしていたら、あっという間に一日が過ぎてしまいました。 -----さて、この映画が上映されるのは、なら100年会館。JR奈良駅前すぐにある、大きな建物。 設計は、磯崎新設計事務所ですね。ダイナミックで、面白い建物です。(磯崎新先生の作品と言えば、去年は水戸芸術館を訪れています→こちら)=====会場入りした所に、グッズ販売が。映画関連のグッズだけではなく、河瀬監督に関わっている人たちが手作りした小物などが売られています。どれも、温かみがある、シンプルなデザイン。何だかホッとする雰囲気があります。-----入り口のある2階に上がると、既に長蛇の列。しかし、まだこれは序の口でした。列が進み始めて、後ろを振り返ると、長い階段を経由して、広いロビーも貫いて、列は会館の外にまで!いったい、何人来ているのやら…?-----サポーター制度に参加したのは、約2000人だそうです。「認知症」や「介護」「命」など重いテーマを扱っているが故に、企業の協賛などは難しく、その代替策として、地元の方々に協力して頂く、この制度が立ち上げられたのだそうです。-----私がこの制度を知ったのも、奈良の居酒屋さんで。(その経緯はこちら)こういう地元に根付いた映画が、世界の賞を獲る、素晴らしいことです。(会場に置かれていたカンヌの賞状)-----そもそも、この映画の主役をされた、しげきさんも、地元の古書店主さん。この映画作りには、多くの地元ボランティアスタッフが関っています。-----ボランティアのリーダーをされたお茶農家の方は、「茶摘み」の最盛期だったため、カンヌには行けなかったとか。何とも微笑ましいエピソードではありませんか。=====舞台壇上にはピアノが置いてありました。客席ざわめく中、河瀬監督のご挨拶。-----なにより、まず、日本での公開に当たって、まず、奈良で公開出来ることが嬉しい、とのこと。-----カンヌ映画祭の授賞式の映像で見た時より、ずっとリラックスしてらっしゃるように見受けられます。-----そう。何となれば、この会場に集まっているメンバーは、今回の作品が、カンヌで賞を獲る前から、河瀬監督を「応援」してきた人たち。-----ざっと会場を見渡しても、老若男女、様々な年齢層の人がいて、どの顔も、何となく嬉しそうで、微笑ましい。奈良で生まれ、奈良に育ち、奈良を舞台に、奈良の人達と、映画を創り続けている河瀬監督にとって、奈良は、まさに「ホーム」。=====さて、上映に先立ってのピアノ演奏をつとめるのは、12歳の天才少女、坂牧春佳さん。彼女が、本編の演奏も担当しています。本編の収録は、森の中に河瀬監督愛蔵のピアノを持ち込んで行われました。-----「一度、森の中でピアノを弾いてみたいと思っていました。」「実際に弾いてみて、どうだった?」と監督。「実は、あまり憶えてないんです。」木々のざわめき、風の囁き、生けとし生き物達の息遣い、素直な魂の奏でる彼女の演奏は、それらと混然一体となって森の中を流れたのでしょう。それは、想像するだけでも幻想的な風景。(上映後のサイン会にて)-----「彼女に初めて会って、演奏を聞いた時、オーラを感じた。」と監督。この映画の主題曲は、スピード感のあるものでも、リズミカルなものでもありません。サティのような、環境音楽に近い、だからこその難曲。それを優雅に軽やかに弾きこなす彼女は、音楽をよく知らない私の眼には、正に天界の住人。心地良さに酔いしれました。-----ただ一つ残念だったのは、彼女の演奏中、遅刻してきた一人のおっさんが、足音高く、最前列まで向かっていったこと。あまりの非常識さに、誰も注意できませんでした。(注意するのも、迷感行為になりますしね…)彼女が何ら動揺せずに演奏を続けていたのは流石、ですが…無礼にも程がある行為であることを、弁えて頂きたいものです。=====ピアノ演奏に続いて、本編上映が終わり(本編の内容についてはこちら)河瀬監督と主人公を演じられたしげきさんの対談へ。最初に出演依頼を受けた時、エキストラだと思って軽く引き受けたら、主役だと言われて驚いた話や、食事がいわゆるロケ弁ではなく、ボランティアの方の手作りで、美味しかったこと、何ともほのぼのとした話が続きます。-----しかし、監督の演出は、大変厳しかったそうで、森の中をさ迷い歩くシーンでは、20分の山道を何往復もさせられ、疲れ果てた所で、ようやくスター卜がかかったそうです。「だから、山道で息を切らしているシーンは、本当なんですよ。」というしげきさんに答えて「だってね、すぐに、いらないセリフを喋ろうとするんですよ。口がきけないくらい疲れてもらおうと思って。」と即答する監督。お互いの信頼があって成り立っている演技だったのだな、ということが、良く伝わる会話でした。-----しげきさん、撮影開始直前に、歯が落ちてしまったのですが、監督は、そのままで良いと撮影をされたそうです。撮影後、歯を直したのですが、カンヌ出発直前に再びポロっと。「映画と同じ顔で、かえって良かったのかも。」としげきさん。=====対談の途中で、小さな子供が舞台袖から舞台上に出入りしていました。実は、この子、監督の2歳になるお子様。時々、監督がお子様を叱ったり、お子様がしげきさんの所へ行ったり、それでも、それが、別に不自然ではなく、邪魔にならない。なんだろう、この自然体なアットホームさは。(終了後に舞台上を撮影。舞台上左に見える小さな影がお子様。)-----そう思いながら、この「自然体」なリズムが、映画の心地よさに繋がっているのだ、と気が付きました。お仕着せの道徳でも、勧善懲悪でも、宗教観の押し付けでもなく、ただ、そこにあることを、あるがままに認め、許容していく。生命は尊いが故にこそ、死ぬことも生きることも、あるがまま。-----会場を出たら、優しい月が出ていました。命を軽んじることが、かっこ良いかのように、声高に叫ばれる今だからこそ。失われ行くもの、見失いがちなものを、大切にしたい、そう思うのです。=====『殯の森』2007年 日本 97分http://www.mogarinomori.com/監督: 河瀬直美出演: うだ しげき/ 尾野 真千子 / 渡辺 真起子 / ますだ かなこ / 他★★★★☆
June 23, 2007
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「殯(もがり)」とは、死者を悼む期間のこと。また、その場所のことを指します。=====深い緑の懐に抱かれて、静々と葬列が歩むシーンから、この映画は始まります。-----「生きている、ってどういうことですか?」老人ケアハウスでそう問う、33年前に伴呂「まこ」さんを失った、認知症の老人「しげき」さんが、この物語の一人の主人公。もう一人の主人公は、不慮の事故で子供を失い、夫に別れられ、(どういう事故か作品中では明らかにされません)看護士として新しい人生を歩み始めようとしている 若い女性「まちこ」さん。認知症の症状の中で、変わらず妻を想い続ける老人と、子を喪った哀しみにさいなまれ、もがき足掻いている若い女性と。-----前半、二人の出会いとディス・コミュニケーションが物語の軸になります。しげきさんの行動に戸感いながらも、真摯に寄り添うまちこさんに、主任は暖い声をかけます。「こうせないかん、てことはないから」段々に心を通わせていく二人。ニ人は「まこの墓参り」に向かいます。エンストした自動車をおいて、歩くことになったニ人は、深い深い「森」へさ迷い込み、何かに導れるように、「まこの墓」へと、森の奥へと向かっていくのでした…。ニ人が森の中で、出会い、見付けるもの。紡がれる、二人の絆。静かに流れるオルゴールが、二人の、いや、四人のを魂を、ゆるやかに結び付けます。-----作品中、セリフは極限まで削ぎ落とされ、その代わりに、森のざわめきが、場面を雄弁に物語ります。森は、決して沈黙しません。森は、たくさんの生命を包み込んで、そこに在ります。それは、『後巷説百物語』で語られた「山」と同じものです。だからこそ、そこでは死者に遭うこともできるし、死者への悼みを、自らの再生を、果たすことができる。-----「死」を媒介に結びつく二人の姿は、悲愴なものでも、哀しみに満ちたものでもなくて、ただ、そこにあることを認める、穏やかなものです。生と死の狭間、嘆きも哀しみも超えて、死をあるがままに受け入れる、「殯」はそのための準備期間だと言えるでしょう。生きる者と逝きし者は、時という壁に隔てられていても、同じ地平にあるもので、決して遠くにあるものではない。=====印象に残ったシーンから。-----雨激しき森の小川を渡って進んでいこうとするしげきさんに、まちこさんが「行かないで」と叫ぶシーン。川は彼岸と此岸の境界線。「行かないで」の悲痛な叫びは、喪ってしまった我が子を呼ぶ行為でもあります。-----雨に打たれて身体の冷え切ってしまったしげきさんを、まちこさんが身体を張って温めるシーン。私は、このシーンに、光明皇后のエピソードを思い出しました。施薬院を創設し、自ら病人を救って回ってらっしゃった皇后が、ある日、全身が爛れた患者の膿を吸って救ったところ、仏の姿となって、光明皇后の前に顕れた、という説話。この行為が、次の、そしてラストシーンの「救い」へと繋がっていくのです。=====決して、楽しい物語ではありませんし、分かりやすい映画でもありません。しかし、森の中での、主人公二人の「再生」に、生死のあわいに思いを馳せる時、静かな感動が心に拡がります。何度観ても、観る度に、違う風景が観えてくるであろう「深い」映画でした。=====『殯の森』2007年 日本 97分http://www.mogarinomori.com/監督: 河瀬直美出演: うだ しげき/ 尾野 真千子 / 渡辺 真起子 / ますだ かなこ / 他★★★★☆
June 23, 2007
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June 15, 2007
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June 2, 2007
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