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(幕が上がり、出囃が聞こえ、男が舞台上に出て来る。銀鼠の着物に、白っぽい帯、紗の羽織。札には「mrtk」とある。本職の落語家ではないようだが、喋るのが好きそうな顔である。スッと席に座り、扇子を前に置いて、深々と一礼。)(一呼吸おいて、客席を見廻し、おもむろに口を開く。)ええ、落語なんてぇ芸は、とにかく、お客様に聞いて頂く、これが大事なわけでございます。お客様がいなけりゃ、こりゃ、ただのひとり言だ。しかも、五月蝿い ひとり言でございますよ。一人で何役もやるわけですから。電車の中でやったりしちゃ、大変も大変。「そりゃ何だ熊さん」なんて、こいつ誰と喋ってんだ、ってことになっちまう。ま、近頃じゃ携帯なんてありますからね。電車の中で、一人言を喋っても、目立ちゃしないかも知れませんが、いやしかし、それはそれで、おかしな世の中でございます。さて、そんなおかしな世の中に、落語の、しかも一本気に、古典をやろうなんて奇特なやつがおりましてね。(羽織を、するりと脱ぎながら)二ツ目に上がったものの、どうにも、うだつの上がらないこの男、今昔亭三ツ葉という名前で、ございます。(ゆっくりとした一礼と共に、頭を下げた格好のまま、セリで下がっていく。同時に後ろの幕が左右に開いて、真白なスクリーンが見えてくる…)=====原作で「坊ちゃん」の徒名を持つ今昔亭三ツ葉は、気っ風の良い江戸っ子。口は悪いが、真摯で、真っ直で、憎めない、このキャラクターを熱演するのは、国分太一さん。正直、和服姿がしっくりきてないのですが(笑)、それが逆に、初々しさを失わない二ツ目、という役柄にハマっていて、とても爽やか。-----物語は、彼がひょんな事から、「話し方教室」として落語を教えることになる所から始まります。生徒となるのは…美人だけど無愛想な“黒猫”十河五月役に、香里奈さん。大阪弁で口は立つものの、クラスで浮いてしまう子供 村林優役に、森永悠希君。日頃の口は悪いのに、野球解説になると黙ってしまう、凄みある元プロ野球選手、湯河原太一役に、松重豊さん。-----さらに、三ツ葉の師匠役に、伊東四朗さん、三ツ葉の祖母役に、八千草薫さん、と、べテランが顔を揃え、東京の「懐しい」風景が彩りを加えます。=====『しゃべれども しゃべれども』の題名通り、「上手く思いを伝えられない」それぞれの奮闘を描いた、心温まる作品。自分自身に迷いながらも、人を教えることで変わってゆく(成長していく、とは少し違う)主人公。口に出さないながらも、その人柄に好意を寄せ、自分も変わろうとする、世代も性別も違う「生徒」達。-----監督は言います。「"上手くなる"物語の構造にはしたくなかった」と。「"上手くなる"ことが映画の到達点じゃない」とも。誰しも、調子の良い時と悪い時がある、男女の仲でも"ちょっといい付き合い"の度合いが増えた減った、という程度のものだ、と。 (映画パンフレットインタビューより)-----人生は常にアウフハーベン、とはいきません。七転八起。傷ついて、立ち上がって、落ち込んで、それでも日々は続いてく。知らず気付かず、同じようなミスを繰り返して、それに気付いて落ち込んで。この映画の居心地の良さは、登場人物のそれぞれが、「他人に責任を押し付け」ず、自分の問題として、「何か」を変えようとしている真面目さ、にあるんだ、と私は思います。=====この映画で、披露される落語は、『饅頭こわい』に『火焔太鼓』。どちらも、名作中の名作です。-----伊東四朗さんの「演技」もすごいですが、何より、国分さんの「演技」が絶品。「師匠の真似でしかない」レベルから「練習」の風景、「舞台で化ける」所まで演じ分けてしまうのですから、怖い。-----香里奈さんの、平板な落語も、役柄にハマっていて上手いですし、森永君の、「可愛い」落語も必笑です。-----そして、忘れてならないのが八千草さん。掃除をしながら、聞き覚えの『饅頭こわい』を暗誦して、「ふふ。私の方が上手い。」と呟くシーンがあるのですが、これが、本当に上手い。落語自体も上手くて、聞き惚れしてしまうのですが、セリフを言った後のいたずらな表情が、実に可愛らしい。-----残念ながら、松重さんの落語は聞けませんが、それ以上に、存在感ある演技で魅せてくれます。-----役者さん達の、演技の掛け合いだけでも、見ごたえ十分。=====原作では、話し方教室にもう一人加わり、さらに、三つ葉を見守るもう一人の「重鎮」の落語家さんが登場するのですが、それを削ったことで、原作の雰囲気を損なうことなく、物語がよりスピーディに、軽やかになっている気がします。-----また、物語の舞台を吉祥寺-中野ではなく、下町に変えたことで、映像としての「江戸」っ子らしさが際立っていました。印象的に描かれる浅草寺の鬼灯市。(香里奈さんの浴衣姿が、とても涼やかで素敵!)上野や浅草、池袋の寄席の姿。市ヶ谷の釣堀。雑司ヶ谷の鬼子母神の境内。ラストシーンが隅田川の上、というのも素敵。「江戸」は、正に「江」の街だったわけですから。-----こうやって、「江戸」情緒を織り込みながら、決してノスタルジーに流れることなく、物語は「今」に足を着けて、不器用な彼ら彼女らを、そして私達を、ふわりと包みます。見終わった後、誰かを訪って鬼灯市へ行きたくな…何だか、温かく優しい気持ちになれる、爽やかな映画でした。=====『しゃべれども しゃべれども 』2007年 日本 109分http://www.shaberedomo.com/監督:平山 秀幸出演:国分太一 / 香里奈 / 森永悠希 / 松重豊 / 八千草薫 / 伊東四朗 他 ★★★★★原作:『しゃべれども しゃべれども』 佐藤 多佳子-----佐藤 多佳子さんは、この作品で「本の雑誌」の年間ベストを受賞され、『一瞬の風になれ』では、「本の雑誌」の年間ベスト&2007年本屋大賞を受賞。そう言えば、先日東京に遊びに行ったときも、電車の中で『一瞬の風になれ』を持っている人を何人か見かけました。文庫派の私としては、文庫化が待ち遠しい作家さんです。
May 26, 2007
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19世紀後半、パリ。芸術を愛する世界中の才能の、夢と希望と未来が渦を巻き、美神(ミューズ)の微笑みと祝福が舞い降りた、奇跡の時代。ロートレック、ルノアール、ゴッホ、ゴーギャン、スーラ、、、近代絵画史上に燦然と輝くビックネーム達が、お互いを意識し、高めあい、腕を、人気を、天才を競った、芸術の黄金時代。これは、こんな時代を背景に、画家達の「絆」を描いた、正に「奇跡」の物語。-----近年の三谷幸喜作品の中でも、傑作と言ってよい、鳥肌が立つような、素晴らしい作品でした。=====己の天才と、社会の評価とのギャップが故に苦悩するゴッホ役に、技巧派 生瀬勝久。己の感性の命じるままに、筆をほとばしらせるゴーギャン役に、情熱派 寺脇康文。真摯に、冷静に己の天才と向かい合うスーラ役に、実力派 中井貴一。そして、その天才達を取り結ぶ、重要な役割を果たすシュフネッケル役に、名バイプレーヤー相島一之。それに、舞台上 紅一点の堀内敬子さん、生演奏で音響を担当する荻野清子さんを加え、この6名が、この濃密な舞台を引っ張っていきます。-----生瀬さんが、いつもの濃い演技ではなく、「引き算」の演技をするのも新鮮ですし、寺脇さんが、『オケピ!』の時以上に はしゃいでみせる一方で、シリアスな芝居を披露してみせるのも素敵ですし、中井さんの、変幻自在の「大人」な芝居ぶりは、本当に見ごたえ十分です。そして、相島さんの「人の良さ」溢れる味は、そのまま、役であるシュフネッケルの「人の良さ」へと結びつき、作品に点睛を加えます。-----三谷幸喜さんは、『オケピ!』に際して、ミュージカルの不自然さが苦手だという話をされていましたが、この作品は、内面表現に「歌」「音楽」が効果的に使われている、という点でも出色です。そのパートを担うのが、堀内さん。物語の狂言回しを担う、ルイーズという架空のモデル役を演じます。ノビのある、心にまで通るような、澄み切った歌声で、物語を朗々と紡ぎます。(彼女、なんと「劇団四季」出身。"ネコ"も、演じてられていたそうです。)そして、その伴奏をし、生で音響を奏でるのが、荻野さん。生であるが故の阿吽の呼吸で、物語を彩ります。=====しかし、この作品の素晴らしさは、役者のみによるものでは、もちろんありません。何と言っても、脚本が素晴らしい。笑いとくすぐりを、これでもかと詰め込みながら、きっちりと泣かせる落としにもっていく。こんなにも感情に揺さぶりをかける作品は、三谷作品の傑作中の傑作、『笑いの大学』『巌流島』に比肩すると言っても良いと思います。=====老女の昔語りから始まるストーリーは、早替えによって、エッフェル塔建設中のパリへ、黄金時代のパリへ、彼女と彼らの出会いの場面へと、一気に遡ります。個性的な面々が、個性的な登場とエピソードで紹介され、ヒロインをめぐるドタバタを通じて、一つになっていくエピソードで、客席を沸かせ、盛り上げた後、「彼らにとっても、忘れられない夜となりました。なぜなら、それは、彼らが力を合わせた最後の夜となったからです。」と、前半は締めくくられます。心憎いまでの劇構成。-----そして、後半語られる、「天才」達の、「天才」であるが故の、哀しい友情の物語。最後にスポットが当てられるのは、シュフネッケル。人の良い彼に対し、天才画家達が本音を吐露する時、理想郷は儚く崩れ去ります。ルイーズが、過去と現在の物語を語り終えた後、揚面は「物語のはじまり」へと、そこにかってあった、黄金の、密月の日々の最初の日へと遡ります。-----もちろん、これは、有名人の名を借りた、架空の物語。しかし、一方で、「平凡な日々を送る私達」にとっても、普遍的な物語。=====舞台奥に、建設途上のエッフェル塔の影が映し出されています。今はパリの名物である、この鉄塔も、この頃はパリの景観を壊すとして反対運動も行われていました。-----その姿は、ここに登場する作家達にも重ねあわされます。「今」を生きる彼らには、「未来」に己がどれだけ評価されるかを知る術(すべ)はない。-----それは、「今」を生きる我々とて同じ。私たちに「未来」の評価を知る術(すべ)はないのです。作中、シュフネッケルは、「絵の才能はないが、皆の絆(コンフィデント)であった男」として描かれます。そして、シュフネッケルへのルイーズからの囁きかけをもって、この物語の、真の主人公が、名バイプレーヤー相島一之さん演じるシュフネッケルであったことを、私達は知るのです。そう。これは、決して、天才たちの、手の届かない所にある物語ではなくて、「地上にある星」として生きる我々に送られたエール。うーん、いや、正に奇跡の傑作でした。=====パルコ プロデュース 『コンフィデント・絆』 @シアターBRAVA!(京橋/大阪城公園) 日程:2007/05/10(木) - /31(木) 脚本;三谷幸喜 演出;三谷幸喜 出演;生瀬勝久 / 寺脇康文 / 中井貴一 / 相島一之 / 堀内敬子 / 荻野清子 ★★★★★
May 26, 2007
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友人が、日頃、お芝居を評するのに、「しょっぱい芝居」と言っているのを聞いて、これまで、何となくで意味を理解してましたけど、今回、「あ!これが、しょっぱい芝居ってことだ!」と納得しました。「しょっぱい」、うーん。口にあわなかったですねぇ。-----えっと、自分でチョイスしたわけではありません。ご招待を頂いたので、両親と行って来たのですが…。=====『星野哲郎物語 妻への詫び状』(「父への」ではない。念のため)歌謡&演歌の大作詞家、星野哲郎さんの半生を描いた、自伝的作品。全編懐かしの名曲に彩られ、途中にはなんと、水前寺清子さんが「水前寺清子」役で登場して生歌を披露!(水前寺さんをデビューさせた先生なんだそうです。)-----それぞれのエピソードは、それぞれの曲を知ってて、好きなら、バックステージ物として、乗れるのでしょうけど。さすがに私の世代だと、別に思い入れないですしねぇ…。-----芝居としては…場転の間の悪さ(役者さんの着替え待ちなんだろな)もさることながら、台詞は冗長。話の構成も微妙。-----舞台は大げさで、お金がかかっていることは分かりますが、別に、家のセットを、丁寧に、時代ごとに造る必要あるか?その上で、場転に時間かかってるんだから、意味が分かりません。回り舞台とか使おうよ。=====役者さんは、ベテランばかりで上手いのですけど、それ以上でも、それ以下でもない。水前寺清子さん役の水前寺清子さんが、気迫の入った演技で、ステージシーンも、歌唱も見ごたえ十分でしたが…。=====えっと、これで3幕モノ?オチをばらすと、奥様が亡くなられた後で、遺品を整理していたら、浮気をした時に「焼いた」と言われていた、二人のラブレターが見つかって、ああ。迷惑かけたな、悪いことしたな、と。まぁ、それまでに、水前寺清子さんのデビュー・エピソードやら、ヒット曲を思いついた瞬間を再現したシーンやらが挟まるわけですが…。このラブレター、遠距離恋愛中に、ずっとやり取りしていた、ほぼ2日に1通という濃密なもので、これはこれですごい。すごいのですが…ストーリー全体が冗長すぎます。-----確かに、先生が作詞された曲は、びっくりするくらいメジャーなんです。『男はつらいよ』の主題歌とか、『黄色いサクランボ』(「わーかい娘が、ウッフン」っての)とか、『兄弟仁義』に『兄弟舟』、北島三郎さんにも、美空ひばりさんにも、書いていますし、『昔の名前で出ています』とか『アンコ椿は恋の花』とかって、有名なんでしょ? →【星野哲郎】wiki-----それでも、その半生記を舞台にして面白いか、と言われると。自費出版の自伝を読まされた、あるいは、『私の履歴書』を芝居にした、そんな感じ。=====うーん。私の方が場違いで、これを喜んでいるお客様を、「野田秀樹」だの「新感線」に連れて行ったら、「早すぎて分からなかった」「チータはいつ出るの?」とか言うんだろうな。芝居自体のつくりは丁寧で、良く出来たお芝居ではありましたし、幕の内弁当も上品で美味しかったので…。=====世代の差、というより、芝居に求めるものの差、なのかも知れません。昔、後輩と話をしたことがありますが、私自身は、芝居に「非日常」を求めています。「天才の日常」も、「等身大」に落としてしまえば、別に面白くも何ともない。てか、「等身大の日常」なんかより、ずっとドラマチックな現実を、私もあなたも生きているでしょう?-----本人は、「妻への詫び状」として、一大告白なのかもしれませんが、正直「そんな良い奥さんがいて、浮気なんかするなよ。」です。-----芝居として、ストイックに組み立てるなら、「遠距離恋愛中、ほぼ毎日ラブレターをやり取りしていた」「焼かれたと思っていた、ラブレターが見つかった」という所にしかドラマツルギーはないのですから、それ以外のエピソードは不要。-----歌のバックステージで綴るなら、「妻への詫び状」なんかやめて、あざとく、水前寺清子さんの新曲披露会にしてしまった方が、まだしも潔い。「物語」として作り込んでしまうなら、チータと浮気してたことにしたって良いんです。-----何だか、歯切れが悪くて中途半端。=====まぁ、水前寺清子さんの生歌を聴く機会なんてないでしょうし(自分から行かないですもの)、幕の内弁当も美味しかったですし、「しょっぱい芝居」とは何か、も学びましたし、何より、そう、招待でしたから。そもそも、招待されている対象が、私の両親より上の世代が中心でしたものね。仕方ない、仕方ない。-----ちなみに父は、「名取さんは美人だなぁ」とご満悦でした。…知らん。=====『妻への詫び状 作詞家 星野哲郎物語』 @大阪松竹座 (大阪/なんば) 日程:2007/05/05(木) - /23(木) 脚本:岡本螢 演出:山田孝行 出演;田中建 / 名取裕子 / 水前寺清子 他 ※ 関連HP→こちら ★★★☆☆ 原作:星野哲郎「妻への詫び状」※星野先生のオフィシャルページはこちら
May 22, 2007
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独り旅の夕食は、地元っぽい居酒屋で、地のお酒と、地の料理を頂くことにしています。-----今日のお店は「蔵」。日本酒は「ヤタガラス」。 お店の名物「キモ焼き」に、若鶏の串焼き、おでんを少々。 「キモ焼き」は、鳥の肝臓・砂肝・鳥のキンカンを、醤油や味醂で、こってりと炒りつけた料理。上にかかった山椒が、味を引き締めます。言っときますけど。美味しいですよ。-----何より、このお店、雰囲気が抜群。味のある、木作りの雰囲気、コの字型のカウンターテーブル、壁に貼られたオススメメニュー。今風のオシャレ、では決してないですけど、飾り気のない、アットホームな居心地の良さがあります。数年前、奈良で遊んだ時も、ここで夕食を頂いたんですよね。=====さて、ここのお店の掲示板で、気になるポスターを発見。「一コマもがり」あの『萌の朱雀』の監督、河瀬直美監督の最新作『殯の森』のサポーターになりませんか、というお誘いです。〆切が4/30で、郵便振込?29・30と休日なんだから、間に合わないかも。-----なんて思っていたら、翌日「遷都祭」@平城京跡で、ブースを発見♪無事に一口払込です。フィルムを一コマ貰えて、パンフに名前が載って、さらに、奈良での試写会に応募できるのだそう。受付けて下さったお姉さんが、笑顔で言います。映画を観に、奈良に来てくださいね。えぇー。それは…いや、でも、きっと。=====河瀬直美監督を知ったのは、もちろん『萌の朱雀』が賞を受賞したから、だったのですが、受賞から数年後、ある雑誌で、「奈良を拠点に活躍する若手女性作家」として紹介されているのを読んで、俄然、ファンになりました。-----奈良に生まれ、奈良に生き、奈良を生かす、その瑞々しい感性に、とても惹かれるものを感じたのです。その時は『萌の朱雀』を未見だったにもかかわらず。この作品も、奈良を舞台にしているそうで、その一端に関われる、というのは、とても嬉しい。=====何度行っても、行く度に発見のある奈良。街を誇りにし、大切に思う人達の息遣いが聞こえる街。そう、また、近いうちに、きっと。=====『殯の森』2007年 日本 97分http://www.mogarinomori.com/監督: 河瀬直美出演: うだ しげき/ 尾野 真千子 / 渡辺 真起子 / ますだ かなこ / 他(※この文章を書いた時、まだ、カンヌ受賞の報は届いていませんでした。受賞が何だか、自分のことのように嬉しいです♪)
May 1, 2007
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古い街並を保存する、ということが、不便な生活を強いる、ということになれば、それは「過去の遺物」の保存になってしまいます。昔の良さを採り入れつつ、「現代」の道具をどう使いこなすか。昔の生活の知恵と、「現代」の生活の良さを止揚していく。正に、活きた「温故知新」を達成する。難しいことですが、これからの時代創りのキーになるのは、こういうことなのだと、私は考えています。-----今、広島県の「鞆の浦」でも、このような論争が起こっていますが、本来「便利な生活」と「街並の保存」は、(難しくても)対立するものではない。鞆の浦にも、足を伸ばしたことがありますが、風光明媚で静かな、とても素敵な街です。あの風景を、「経済効率」「生活の利便」だけで失ってしまうのはあまりにも惜しい。-----「歴史」「文化」を持っている、ということは、限りなく豊かなことです。失ってから取り返すのは、より一層甚大なコストと労力がかかります。「歴史」「文化」がもとよりない、ないがしろにする人々が、どれほど「貧しく」なるのか、そんな環境で生まれ育った子供がどうなるのか、わざわざ太平洋の向こうの国を例を挙げるまでもありません。これからの日本が活きていく道は、「環境立国」「観光立国」「文化立国」でしかあり得ない、というのは、度々このblogで主張してきました。そのための投資をすることこそが、将来的な経済優位をもたらすのです。-----今井町で行われているのは、まさに、この将来のための投資であり、将来のための街創りと呼べるものでした。=====その象徴と言うべき施設が、今井まちづくりセンター。「昔ながら」を活かしつつ、「現代」の生活をするためのリフォーム・アイデアが、実際に建てられて、形を成しています。採光のための格格子なんてのは、、内庭に向いた壁を、太い木の格子にしたことで、違和感なく、光を室内に採り入れる工夫になっています。しかもこれ、耐震上、非常に強いらしい。アイデア、ですねぇ。-----受付のおじさんと、街づくりについて、色々話を聞いたのですが、その話は省略。詳しくは、下記の本をご参照ください。 『今井町 甦る自治都市』八甫谷邦明 編著この本、滅法面白い。地方分権とは何か、地方自治とは何か、について考えさせられます。そして、戦後日本が失ってきた、何か大切なものについても。=====続いて、街づくりセンター向かいの、称念寺にお邪魔します。入って正面に、明治天皇がお泊りになった記念の碑が立っています。その奥の神殿っぽい所に、机が出て、二人座ってらっしゃるわけですが…。-----とりあえず右手の本堂に手を合わせます。それにしても、門構えの立派さに比べて、なんだこの本堂の傾き具合は?屋根の重みで、歪んでしまっているとしか思えません。うーん。何だかなぁ。障子も閉まって、奥も見えないし。-----えっと。帰る前に、あのお二人を無視するわけにはいきませんわねぇ。こんにちは。こんにちは。こんにちは。このお二人、このお寺の檀家さん。瓦寄進の受付をされているそうです。瓦寄進? 本堂を修復する、ということですか?そう。この本堂、建替えが予定されているのですが、そのための費用、なんと20億円!国や地方から補助金が出るそうですが、1割は檀家負担…?1割って、2億円って、えっと、大金じゃないですか。ええ。そうなんですよ。この瓦寄進、檀家さん達が、持ち回りのボランティアで 受付をされているそうです。うーん。日頃、「地方文化こそ大切」「文化と環境を守れ」と言っている身がここまで話を聞いておいて、はい、さよなら、とは…いかねぇな。分かりました。一口、お願いします。ありがとうございます。ありがとうございます。では、2千円。-----寄進の瓦への名前の書き方には、このようなパターンが、とパターン帖を見せて貰います。オーソドックスに、県名と名前かなぁ…。あ。「書いてもらう」っていう選択もあるのか。なるほど。悪筆なので、「書いてもらう」で良いですか?せっかくですから、ご自分で書かれたらいかがですか?いや、字が綺麗ではないので。心のものですから。是非書いてください。筆ペンはしばらく愛用していますが、本物の筆は久しぶり。そういえば、奈良は筆の名産地でもあったよな、などと思いつつ、筆を握ります。心を込めて………うわ。悪筆だ。筆ペンと筆って、こんなに違ったか。はぁ。書道もなぁ。いつかやらなきゃ。-----それにしても、今回は、自分の懐から個人で出しているわけですが、源泉の場合でも、申告すれば、寄付金として控除対象に出来るのかしら?今はサラリーマンの立場にはないので、関係ないとはいえ、日本文化に理解のない議員の「水道代」に消えるくらいなら、こういう所に寄付をする方が、よっぽど有意義なんですけど。(↑上記文章は、該当議員の自殺前に書いていたことをお断りしておきます。)=====お寺を出て、自転車で街を流します。この風情、良いなぁ。-----軒先に、杉玉を3つぶら下げた河合酒造さんに到着。日本酒ですよ、日本酒♪とは言え、うちの「家」では日本酒を飲まないんですよね。買って帰っても、友達呼ぶことないし…。なので、入り口の「奈良漬」をチェック。あ、試食できるんですか。ええ。どうぞ。ありがとうございます。頂きます♪それは、瓜の深漬。へぇ。いや、いやみがなくて美味しいです。こっちは、浅漬ね。うん。分かります。私は深漬の方が好きかな。これは、西瓜。スイカですか!あ。瓜とはまた違いますね。これは、胡瓜。歯応えが良いですね、キュウリ。初めてかも。奈良漬は、アルコールのいやみがきついのもあるのですが、ここのは味が優しい。てか、美味しいです。迷いに迷って、瓜の深漬と胡瓜を購入。酒粕は、洗わずに、そのまま切れば良いですから。もちろん、酒粕を落として、別なもの漬けても良いですよ。ええ。是非そうさせて頂きます。=====いやぁ、堪能しました。これで今井町は一通り回ったことになるのですが、最後に告知。5/20(日)に、今井町町並み散歩があります。これには「茶行列」も伴うということ。そう、今井町は茶人 今井宗久の出身地でもあるのです。この「茶行列」についても、「はやりのフリーマーケットにしないと、人が来ないのでは?」という意見があったのを「フリーマーケットに“今井町らしさ”があるか?」という意見が上回ったとのこと。しびれますね。-----今井町でしかやっていない、だからこそ、人が集まるんです。ただのフリーマーケットなら、「わざわざ」今井町に行く必要はない。「たまたま」やってたら行きますけどね。「茶行列」、今年は東京に行っていたため、参加できませんでしたが、是非来年にでも足を伸ばしたいと思います。=====関連HP ・今井町並み倶楽部 ・重要伝統的建造物群保存地区(wiki) ・今井町バーチャルウォーク
May 1, 2007
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ここ数年、私が意識してきたのは、「日本の文化とは何か」でした。特に、ワタリウム美術館さんの企画で参加した旅行や街歩きは、円空や西行法師、世阿弥、岡倉天心、雪舟、小野小町等々の人物を切り口に据え、彼ら彼女ら所縁の地を訪ねることで、「日本文化の多様性」に思いを馳せるきっかけにもなってきました。「多様性」この言葉こそが、私自身のアプローチのキーワードなのだと思います。このblogでも何度か言及してきた「ゲニウス・ロキ(土地の地霊)」にせよ、環境問題に対するアプローチにせよ、芸術へのスタンスにせよ、その文化の「独自性」を「強み」として捉える、ということが根底にあります。旅が面白いのは、土地ごとに「文化の違い」を肌で感じられるから。どこに行っても画一の景色で、画一のサービスしか受けられないのなら、少なくとも私に「旅に出る理由」はありません。「ミニ東京」化した地方都市に足を伸ばすくらいなら、東京にいる方が、あるいは海外を訪れた方がよっぽど良い。それでも、私は日本の中にある「多様性」に、その懐の深さに、面白さに、心魅かれるのです。=====今井町に立ち寄ったのは、偶然でした。レンタサイクルで、橿原の博物館まで走った後、江戸時代の街並みが見られると聞いていたので、冷やかしのつもりで、足を伸ばしたのですが…。すげー。いや、本当、来て良かった。「ならまち」も愛してやまない私なのですが、この今井町は、それとはまた違う魅力に溢れています。=====今井町の歴史は、戦国時代に溯ります。一向宗徒が開いた称念寺を中心に発展したこの街は、織田信長の一向宗弾圧に対し、街に環濠を築いて抵抗を示します。しかし、明智光秀がとりなし、この街は守られることになります。千利休らと共に、織田信長の茶頭も務めた今井宗久は、この街の出身。江戸時代には、「海の堺 陸の今井」というほどに栄えていたそうです。で、今は、江戸時代の街並みの風情が残る町として、重要伝統的建造物郡保存地区となっています。=====まず向かった先は「華甍」。ここは明治時代に作られ、昭和年間は町役場として使われた建物で、現在は、観光情報センターになっています。あの、どこかで、美味しいお昼ごはんを食べたいのですが…。街のなかに、お蕎麦屋さんがありますよ。 いや、だって、お昼時でしたから。というわけで、美味しくお昼を頂いて、街散策に出発。-----時代劇の通りに迷い込んだような、それでいて、どこかモダンで、住んでいる人達の息遣いが感じられる、素敵な街並み。 この街の中は、碁盤構造になっているにもかかわらず、まっすぐ端まで見通せる道はなく、どこかで、少しずつずらしてあります。これは、矢や鉄砲での遠距離襲撃を防ぐための街のつくりなのだそう。-----公開されるおうちは、時期によって違う(常設のものもあり)そうなのですが、町方役人をやっていた今西家が公開中でした。 中に入って見上げる、とてつもなく立派な梁。ほれぼれします。今西家は町役人も兼ねていたため、ここの三和土(タタキ)が、お白洲としても使われていたとのこと。二階部分は、普通の商家では、使用人・丁稚の住居として使われますがこのお屋敷では、牢にもなっていたそうです。今西家には、ツバメが2組も巣を作っていました(写真で分かるかしら?)「ツバメが巣をつくる家は、幸せになる」と小学校の国語の教科書にありましたが、嘘か真かは知らず、しかし、ツバメのいる風景は、なんとも心が和むものです。-----それにしても、立派な「お屋敷」。しかし、この家も、改修前は、瓦の重みで家自体が歪んでしまっていました。改修前の写真があったのですが、なんとも…。立派に改修され、こうやって目にできることに感謝、です。
May 1, 2007
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