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2020.03.05
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​ロジャー・メインウッド「エセルとアーネスト ふたりの物語」元町映画館
​  2019年 12月 ​「ロング・ウェイ・ノース」​ というアニメーション映画を 元町映画館 で見ました。その時に予告編で見た映画が、この映画です。​

​​​​​​​​​​​​​ チラシをご覧ください。主人公の二人 「エセルとアーネスト」 が一人の少年を中に互いに抱き合っています。アーネストは協同組合の牛乳配達員、エセルはその妻です。少年はやがて成長して、下方の写真の男性、絵本作家の レイモンド・ブリッグス になります。
レイモンド・ブリッグス は、1934年の生まれで、今年86歳。我が家では 「さむがりやのサンタさん」 「サンタのたのしいなつやすみ」 の二冊を 「愉快な仲間たち」 が子供の頃、読んだと思うのですが、 「風が吹くとき」 という絵本でとても有名になった人です。

​​​ その ブリッグス が、自分自身が 65歳 を越えた頃、両親の出会いから死までの人生を 「エセルとアーネスト」 という絵本にしたそうです。​​​
 映画は実際に絵を書いている レイモンド・ブリッグス (多分)の仕事場のシーンを映し出します。実写です。影になっていてよく見えませんが、かなり高齢な男性が、紅茶にミルクを足して飲みながらふと、こんなことばをつぶやきます。
​​ 「こんな、何の変哲もない夫婦の話が、どうして、こんなに評判がいいんだろう?」 ​​
​​​ それから、彼は仕事机に向かい、机の上の白い紙に、鉛筆で誰かの姿が書きはじめます。だんだん輪郭が アーネスト になってゆきます。色がついて、動き出して、アニメーションの 「エセルとアーネスト」 が始まりました。とりあえず、最初の ​「うまいもんやな!」​ です。
 ロンドンの街の、漫画風の地図が映し出されて、地図の中で人が動いています。 ブリッグス の絵が動いています。​​​

​​ 窓を拭く エセル はメイドさんで、自転車で通りかかる 青年アーネスト に恋をします。それが物語の始まりでした。​​
 結婚、ローン、マイホーム、出産。戦時下の暮らし。戦後の社会。子どもの成長と自立・・・・。
​ イギリスの労働者階級のごく当たり前の生活が ブリッグス の素朴な絵のタッチそのままに、1930年代から半世紀にわたって描かれていました。​
 庭に花が咲いたことを喜び、自転車のハイキングで二人の夢を語る。幼子を疎開させ、防空壕を掘らなければならない戦時を嘆き、一方で、戦地で息子を死なせた友人を心からいたわる。勝手に学校をやめた息子に絶望し、自家用車を手に入れらる時代に驚く。そして息子夫婦に子どもができないことを寂しく思いながら老いてゆく。
​​ それが 「エセルとアーネスト」 「幸せな」人生 の姿でした。あの日、窓越しに出会ったことの 「よろこび」 の淡い光 が、二人の生活の上に静かにさし続けているかのようでした。​​
​​​ しかし、光はやがて消えてしまいます。 エセル
目の前にいる アーネスト​ を見失い、一人で旅立ちます。 エセル に忘れられた アーネスト も、やがて、一人ぼっちでこの世を去りました。​​​ ​  ​「生きる」​ ということの、途方もない ​「哀しさ」​ ブリッグス は描いていると思いました。最後に、痩せさらばえた父の遺体と出会う息子の姿を映し出して映画は終わります。エンディンテーマが流れて、エンドロールが終わっても涙が止まりません。​
 ぼく自身の年齢が、そう感じさせている面もあるかもしれませんが、傑作でした。
​​​​​​​​​​​​​
監督 ロジャー・メインウッド
製作 カミーラ・ディーキン  ルース・フィールディング
製作総指揮 レイモンド・ブリッグズ  ロビー・リトル  ジョン・レニー
原作 レイモンド・ブリッグズ
編集 リチャード・オーバーオール
音楽 カール・デイビス
エンディング曲 ポール・マッカートニー

声優
ブレンダ・ブレシン(エセル:妻)
ジム・ブロードベント (アーネスト:夫)

ルーク・トレッダウェイ(レイモンド・ブリッグズ:二人の息子)
2016 94 分イギリス・ルクセンブルク合作
原題「 Ethel & Ernest 2020 03 02 元町映画館no35

​​ ​​ ​​ ​追記2020・03・05​
​ 映画の中の エセル の姿を見た帰り道、 耕治人 という私小説作家の 「そうかもしれない」 という作品を思い出しました
まあ、ぼくがそう思うだけかもしれませんが傑作だと思います。 とても短い作品です。​
​​​ 認知症の妻と癌になった夫という 老夫婦の生活 が描かれています。病床の夫を車椅子で見舞った妻は、夫を見ても知らん顔をしています。看護婦さんが気を使って 「御主人ですよ」 と声をかけると、妻は 「そうかもしれない」 と答えます。​​​
 このエピソードが題名になっていますが、この作家は私小説、自分の経験した出来事を作品にしている人です。だから、実話なんですね。 エセル のエピソードとそっくりでした。 ​「哀しさ」​ が共通していると思いました。
 この作品は
​​ 一条の光・天井から降る哀しい音 」(講談社文芸文庫) という作品集で読めます。表題の二作と、三作セットで読んでみてください。ぼくは辛いので、当分読み直したりしません。
 ああ、それから ​​ 「ロング・ウェイ・ノース」 ​​ の感想はこちらからどうぞ。​
​追記2020・03・06
​「そうかもしれない」​ の、妻と夫との出会いは、記憶違いでした。大学病院に入院中の夫を車椅子で見舞う妻の発言でした。本文も訂正しました。
追記2023・02・03
​​ 「エセルとアーネスト」 の感想を修繕しました。そのついでですが、 ​耕治人​ の​ 「そうかもしれない」 ​の感想はこちらから​どうぞ。​​
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最終更新日  2023.12.27 22:48:31
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