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屋根に来てそらに息せんうごかざるアルカリ色の雲よかなしも (作品番号73) 2016年4月号 から 2020年3月号「NHK短歌」 誌上で 「宮沢賢治の短歌」 と題されて連載された、現代歌人たちによる「鑑賞」「解説」がまとめられています。
巨なる人のかばねを見んけはひ谷はまくろく刻まれにけり (74)
定型には当てはまっている、しかし既成の考えからは、なにかがずれている。ズレて今ガラ、不思議な魅力もある。これはどういうことなのだろうか、どのように読んでいったらいいのだろうか。(佐藤通雅)
ああこはこれいづちの河のけしきぞや人と死びととむれながれたり (680)
溺れ行く人のいかりは青黒き霧とながれて人を灼くなり (684)
ところで、 「春と修羅 第二集」 の「序」には 「北上川が一ぺん氾濫しますると百万疋の鼠が死ぬのでございますが」 と書かれており、大洪水が起こるたび、北上川流域の多くの人命が流され、失われた事実を賢治が念頭に置いていたことが分かる。(後略)
あるときは青きうでもてむしりあう流れのなかの青き亡者ら(685)
青人のひとりははやく死人のただよへるせなをはみつくしたり(686)
肩せなか喰みつくされししにびとのよみがへり来ていかりなげきし(687)
青じろく流るる川のその岸にうちあげれられし死人のむれ(688)
壮絶なスケッチである。溺れ、流れゆく人々のあまりに理不尽な死。生への激しい執着を抱えて亡くなった方々の凄まじい憎悪の魂が出現させる亡者同士の壮絶なバトルを、賢治は恐れおののきながら見ている。しかし、九首目(688)に冷静な目が一瞬入る。この一種のリアリティを引き寄せる。幻視だが、我に返った賢治が掴んだ現実であり、その有り様に非情が伝わる。(大西久美子)
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