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「みぎわの箱庭」 映画の感想は、うまく形になりません。映画をダシにして自分の思いを綴ることに対して、 「それはちょっとできないなあ」 というふうな気持ちになっているのですが、なにはともあれ、 「みぎわの箱庭」 という、この詩?、いや物語?を誰かに読んでほしいと思い、ここに引用しました。 映画は 「人が人と出会うこと」 、 「おもいを伝えること」 、 「おもいを聞き取ること」 、 それぞれの可能性と不可能性を、真摯に問い続ける4人の若者の姿を映し続けています。見ているぼくにも、その、一つ一つの 「問い」 が沁み込んでていくような、静かで誠実な作品でした。
それは、春になる前の寒い日のこと
午後の仕事が落ち着いて、ちょうどひと息入れようかというころにね
大きく大きく、地面が揺れた
遠くの海がたちまちふくれ、
そのままぱちんとはじけてしまって、まちに覆いかぶさった
雪降りの夜が明けて、
浮かびあがってきた風景に
みなが立ち尽くしていたときにね
男の人たち、壊れたまちまで降りて、生き残った人を探したんだよ
毎日毎日探してね
助けられた人もいたと思うが、
ほとんどは死んだ人だった
きれいに並べたその身体に、
まちの人らは別れを告げた
やがて海は戻っていって、
暮らしは落ち着いたんだけどね
ある男だけは、人を探しつづけていたんだって
あまりに毎日探すから、
誰かに会えたかと問う人がいてね
男はね、
会えなかったけど
たくさん話を聞いたと答えて、
つづけて何かをしゃべろうとしたみたいだけどね
そのままぴたっと
声が出なくなってしまったんだって
つぎの日、
いつものように
出かける男を見た人が
いたそうだけどね
とうとう戻って
こなかったんだって
荒野に草が伸びたころ、
波に置いていかれた種が、
山際にたくさんの花を咲かせたんだよ
その花畑には、
生きている人も死んだ人も
その場所にいない人も、
みな一緒にいることができた
死んだ人は、
この花畑は永遠だと言ったが、
生きている人は、
そんなことはないと言ったね
二年くらい
そんな時間があったみたいだけどね
ある朝ふと見あげると、
あたらしい地面が
ぽっかりと浮かんでいたんだって
それで、生きている人は、
さっそく上がってみようと言ったんだけどね
死んだ人は、
ここに残ると言ってうごかなかった
最初のころは
行き来もあったみたいだが、
しばらくすると、
上にもまちが出来てね
生きている人は、
すっかりそちらで暮らすようになった
生きている人は、
下のまちを忘れていくと言って泣いたが、
その場所にいない人は、
何もかも忘れないと言って笑っていた
死んだ人はもうあまり喋らなかったが、時おり歌をうたっていたね
海風と山風がちょうどぶつかるから、
上のまちはいつも大風なんだよ
でもね、ある昼下がりにほんのすこしだけ
風が止むことがあったんだって
すると、足元から声が聞こえてね
女が地面に耳をつけると、なにやら歌のようだって
その歌をよく聞きたかった女が、
地面を掘って掘って進んでいくと、
目の前がぱっと開けてね
そよそよと揺れる
広い草はらに着いたんだって
あたりにはぽつぽつと人がいたそうだが、
うたっていたのは、
壊れた塀に腰かけた初老の男だった
女はね、その人に頼んで、
歌を教えてもらったんだって
初めて聞く歌なんだけど、
なんだか懐かしいような感じで、
すぐに覚えられたんだって
しばらくふたりでうたっていると、
はるか天上から
娘の泣き声が聞こえてね
女は帰ることにした
それから何日か経ったある日、
女が娘と、
地底で聞いた歌をうたっていたら、
歌を教えてくれたあの男が
とても親しい人だとわかったみたいなんだけどね
どうしても名前が思い出せなかったんだって
その歌がね、いま子どもたちがうたっている歌だよ
女が掘った穴がこのまちのどこかにあって、
下のまちにつながる階段になっているんだって
ごらん
このまちの風景は、
そうやって出来たんだって
「瀬尾さんの本、そこの古本屋さんにも置いてますよ。」その時、笑いかけて、紹介してくれたカウンターのおねえさんの言葉がうれしかったのですが、買わなくてよかったですね。家にありました。(笑)
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