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ヤン・ヨンヒ「スープとイデオロギー」元町映画館
チョット、本が手元にないので確認できないままですが、 朴沙羅(パク・サラ)
という若い学者が書いた 「家(チベ)の歴史を書く」(筑摩書房)
の中に 「見えない歴史」
という言葉があったと思います。
著者の 朴沙羅
は、自分の伯父や伯母たちにインタビューすることで、自分には見えなかった、 1948年
以来の 家族(チベ)の歴史
を発見した好著だと思いますが、今回見た映画は 「オモニ(母)」
の 「見えなかった歴史」
を娘が発見する作品でした。作品は ヤン・ヨンヒ「スープとイデオロギー」
という ドキュメンタリー映画
です。
ぼくは、この監督の作品を見るのは初めてでした。
「なんか、けったいな題の映画やなあ」
まあ、そういう感じの軽い気分で見たのですが深く胸に残る傑作でした。
映画の主人公(?) 1930年生まれ
の オモニ(母)
は、映画が完成したときに 91歳
です。日本で生まれましたが、敗戦直前の大阪から父母の故郷、 済州島
へ疎開し、 1948年
、再び大阪に逃げ帰ってきて以来、70数年、大阪市の 生野区猪飼野
で暮らし来た女性で、いわゆる 在日コリアン
です。
映画は、今はなくなっているのですが、まだ、元気だった アボジ(父)
が 「日本人とアメリカ人以外やったら、誰でもええ。」
と、 娘ヨンヒ(監督自身)
に語るシーンを冒頭に据え、 50歳
を超えた娘が10幾つ若い 「日本人」の男性
と結婚することになり、挨拶に来る男性のために、 オモニ
が、おなか一杯朝鮮人参とニンニクを詰めた丸鶏のスープを料理し、振る舞うシーンへ続きます。
その後、このスープの作り手は、そのお婿さんに変わったりしますが、ことあるごとに作られる、この オモニのスープ
の、想像上の味のイメージが、この映画の傑作の味わいをつくりだしていると思いました。
で、 イデオロギー
は?ということですが、そこは作品を見て、考えていただくほかないと思います。
映画の終わりのほうで、老人性の痴呆を発症した オモニ
を連れて 済州島
に渡り、 4・3事件研究所
で、応対した職員に、 監督ヤン・ヨンヒ
が 「私はアナキストですが、」
と凛としたひびきの発言をするシーンがありますが、その響きの中にすべて集約されているとぼくは感じました。
1910年
の大日本帝国による植民地化にはじまり、南北朝鮮が現前する現在に至るまで、その時、その時の 「国家」
の名前で、何万、何十万という無辜の民が命を失い、いわれなき蔑視やヘイトに晒さらされ、 「見えない」
恐怖と不安の中で生きることを余儀なくされてきたのが朝鮮半島の人たちの200年だとぼくは思います。
監督ヤン・ヨンヒ
の オモニ
は、その最も悲惨な事件の一つに18歳で遭遇し、婚約者を失い、幼い妹を背負い、弟の手を引いて猪飼野に逃げてきた中で味わった、娘にさえも 「いえない」恐怖
に縛りつけられた、その後の 70年の人生
を生きてきた人です。
そして、いま、 90歳
を超えるようになって、認知症の混迷にさまよいこみ、 その恐怖
を共有した亡き夫をさがし、 その恐怖
が理想の国として夢見させた 北朝鮮
に差し出した息子たちの名前を呼びながら、幻の家族と共に生きようとしています。
娘の ヨンヒ
の 「アナキストです。」
という言葉の響きの中に、母や父や兄たち、すなわち、彼女の 「家族(チベ)」
を抱きとめ、抱きしめるための場所、国家やイデオロギーを超える場所に立とうとしている人間の、文字通りの愛と勇気のようなものを、ぼくは、感じました。涙がとめどなく流れるのですが、受け取ったのはかなしみだけではなかったと思います。
年老いた母と自分自身にカメラを向けることで、ドキュメンタリーの客観を超える作品を作り上げた 監督ヤン・ヨンヒ
に 拍手!
でした。
監督 ヤン ヨンヒ(梁英姫)
脚本 ヤン ヨンヒ
プロデューサー ベクホ・ジェイジェイ
エグゼクティブプロデューサー 荒井カオル
撮影監督 加藤孝信
編集 ベクホ・ジェイジェイ
音楽監督 チョ・ヨンウク
ナレーション ヤン・ヨンヒ
アニメーション原画 こしだミカ
アニメーション衣装デザイン 美馬佐安子
2021年・118分・G・韓国・日本合作
原題「Soup and Ideology」
2022・09・12-no104・元町映画館no144
追記2022・09・25
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