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2022.03.17
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第55話「懐恩の決意」

新帝・馬子澹(バシタン)は即位にあたり恩赦を実施、寧朔(ネイサク)軍も赦免となった。
城門では守衛たちが次々と晒し首を回収していたが、豫章(ヨショウ)王たちを見送りたいと集まった民たちが見守っている。
すると城外の露店でその様子を見ていた客たちが噂話を始めた。
「王妃は寧朔に行ったとか…」
「忽蘭(クラン)に連れ去られたという話もあるぞ?」
「反逆者の妻に転落か~」
しかし店主は王妃をかばった。

その話を農民に成り済ました蕭綦(ショウキ)が聞いていた。

その頃、忽蘭では和親の障害となる豫章王妃を乗せた馬車が密かに幕営を出ていた。
忽蘭王を信じて脱出を試みた王儇(オウケン)、しかし夜の林の中に独り放り出されてしまう。

一方、蕭綦は寧朔軍の首を運ぶ兵士たちを追跡していた。
山へ入った兵士たちは穴を掘って首を放り込みながら、豫章王妃は夫が死んだことも知らずに探し続けているだろうと笑っている。
すると蕭綦が現れ、兵士たちを皆殺しにし、殉葬させた。
…兄弟たちよ、お前たちが私のために受けた苦痛と屈辱を何倍にもして返す
…約束しよう、この蕭綦、皆のために必ず雪辱を果たす
蕭綦は松明を放り込み、燃え盛る炎に復讐を誓った。

王儇は夜の林に置いてきぼりにされ、怯えながらさまよっていた。
そこへ王儇の置き手紙を見た賀蘭箴(ガランシン)が迎えに来てくれる。

「もう大丈夫だ、一緒に帰ろう…神に誓ってもいい、命をかけて君を守る」

江南では王夙(オウシュク)が父に皇太后から届いた密命を見せていた。
王藺(オウリン)は妹をみくびっていたと後悔し、今や江夏王となった息子に判断を委ねる。
すると王夙は宋懐恩(ソウカイオン)を生かしたいと言った。
懐恩はこれまで我が身を省みず何度も阿嫵(アーウォ)を助けており、恩を返したいという。


王藺はあっさり息子の意見に従った。
いささか拍子抜けする王夙、すると王藺は王夙と阿嫵に恨まれても仕方がないという。
「お前たちと瑾若(キンジャク)に厳し過ぎた…瑾若に顔向けはできないが後悔はしていない
 私がしてきたことは自身のためではなく、王氏の繁栄のためだ」
歴代の皇帝は即位すると王氏の制圧を試みた。
王藺は側女の韓(カン)氏が懐妊して死を賜った時、自分の子は自分の手中に置くと心に誓ったという。
「二度と他人に抑えつけさせぬとな…」
「分かります」
「何を分かったと?本当に分かっていたのなら1人の女にうつつを抜かさなかったはずだ」
「…桓宓(カンヒツ)の件は私が間違っていました」
「これから頼れるのはお前だけだ…志を共にせぬか?」
王夙は思わぬ父の言葉に目を潤ませ、一緒に王氏を盛り返すと誓った。
しかし王藺は自分たち2人だけでは難しいという。
「助っ人が必要だ…」
王夙は懐恩のことだと分かった。

賀蘭箴は忽蘭王を訪ね、例え父でも王儇を傷つければ容赦しないと釘を刺した。
そこで王儇以外を妃にするつもりはないと宣言、髪の毛1本でも傷つければ忽蘭と決別すると脅す。
忽蘭王は憤慨したが息子は賀蘭箴1人だけ、結局、何も言い返すことができなかった。

新帝は軍の残党を排除する絶好の機会に大赦を行い、朝廷は戸惑いを隠せなかった。
丞相・温宗慎(オンシュウシン)だけは一挙に排除するのは難しいと理解を示したが、時局が急速に変化し、大臣たちも戦々恐々としてる。
そこで温宗慎は争う心を捨てて国のために働こうと団結を呼びかけた。
しかし皇帝に謁見を願い出ても馬子澹は会おうとせず、半日は書斎にこもって詩を書いている。
一方、忽蘭王も聞き分けのない息子に頭を悩ませていた。
賀蘭拓(ガランタク)は父子の争いに乗じて継承式を延期するよう提案したが、忽蘭王は継承式も婚礼も延ばすつもりはないという。
「もはや大成にとって王儇は重要ではなくなった…お前が人を送り始末してくれ」
「分かりました」
すると忽蘭王は明日にもカルに発って両部族の和親をまとめ、10日後には継承式と婚儀を行うと決めた。

粛毅(シュクキ)伯・宋懐恩の耳にもついに寧朔軍の凶報が入った。
そこで直ちに軍営を発とうとしたが、江夏王に足止めされてしまう。
ひとまず馬を降りて王夙と膝を突き合わせた懐恩、しかし怒りは収まらず、大王と王妃の潔白を証明するために命をかけると奮起した。
しかしどちらにしても江夏王がいなければ自分はとうに死んでいたと知る。
懐恩は皇太后の密命を見て呆然、悔し涙を流しながら、国に忠誠を誓った自分たちへの不当な扱いに憤った。
「豫章王のような英雄がこんな終わりを迎えるとは…あまりにも無念です…とても悲しい
 私がそばを離れたから…はっ!」
その時、懐恩は皇太后が大王を殺すために故意に自分を遠ざけたと気づく。
すると王夙は帰京を止めにきたのではなく、帰京後にどうするか相談したいと言った。
「どうだろう、このまま死を待つより命懸けで生きる道を模索してみないか?」
王夙は王氏という名家と豪傑の懐恩が手を組めば悪を根こそぎ排除し、この乱世で覇業を成し遂げられると訴えた。



懐恩は江夏王の提案を注意深く考えた。
幕舎を取り囲んだ兵士たちは剣を抜き、江夏王の合図を今か今かと待っている。
…杯が割れる音がしたら首をはねろ…
すると王夙はついに杯をゆっくり持ち上げた。
その時、懐恩がようやく重い口を開く。
「江夏王は私の命を救ってくださいました…
 条件があります、一緒に豫章王の潔白を証明してください
 それから…王妃を探しましょう」
「ふっ…もう探させている」
王夙は配下に下がるよう合図を送り、懐恩と杯を交わした。

賀蘭拓は方(ホウ)術士の天幕を訪ねた。
忽蘭王に王儇を殺せと命じられたが、和親がまとまって賀蘭箴が王位を継承すれば草原を統一する大王になり、自分が追求されるだろう。
「そうなれば私は草原と大成どちらでも罪人となる…トホホホ…」
しかし術士は失笑した。
「今、手を下さぬのなら、いつやるのだ?」

馬子澹の待ち人がついに皇宮に現れた。
書斎にこもっていた子澹は急いで寝殿に戻ると、憔悴しきった蘇錦児(ソキンジ)がへたり込んでいる。
「安平王…いいえ、皇帝陛下でした」
「ずっと探していたのだ…無事で良かった、阿嫵は?そばにいなかったのか?今どこに?」
「…亡くなりました」
錦児は皇帝が王妃をあきらめるよう嘘をついた。
実は逃亡生活を続けるうち王妃が豫章王の死を知って大病を患ったという。
錦児は皇帝の元へ帰ろうと再三、説得し、王妃も徐々に落ち着きを取り戻して行った。
すると王妃が豫章王を弔うため楝羽(レンウ)山に行くと言い出し、その言葉を信じてついて行ったが、山崖に到着すると身を投げたという。
「嘘だっ!…阿嫵が自死を選ぶはずがない…偽りだぁぁぁ!」
子澹は烈火の如く怒り出した。

つづく





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最終更新日  2022.03.17 23:03:50
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