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A・A・ミルンといえば『くまのプーさん』でおなじみの児童文学作家の顔が有名ですが、唯一長編ミステリーを書いています。それが『赤い館の秘密』です。
ミルンは、「序」で、自身のミステリー指向を述べています。平易な言葉で書く、不必要な恋愛シーンは書かない、一般読者以上の特別な知識を持たない素人探偵が謎を解決する、人間味豊かなワトソン役がいれば良いと。
その通りに『赤い館の秘密』は書かれています。読者に対してフェアで、わかりやすく、探偵役もワトソン役も親しみやすいので、読んでいて作品世界との距離が近く感じられます。
赤い館の主人マークの元に、ずっと会っていない放蕩の兄ロバートがやってきました。銃声がして、マークの秘書ケイリーと、館に客として滞在していたビルを訪ねてきたギリンガムがロバートの死体を発見します。
マークは行方不明。マークがロバートを撃って失踪した事件かと思われましたが…。
咄嗟の機転が利き勇敢な、ワトソン役のビルが好印象でした。探偵役のアントニイ・ギリンガムにも、もったいぶった態度は一切なく、二人の関係も良好です。
最後まで推理を引っ張って、関係者を集めて犯人発表というよくあるパターンだと、途中で嫌になることもありますが、『赤い館の秘密』は、順を追って読者にもついてこれるように説明されるので、すんなり読み進められます。
ギリンガムが途中でしまった、間違っていた、という推理路線の変更があって、そこでどんでん返しも起こるので、意外な展開も起こります。
クリスティー、クロフツ、ヴァン・ダイン、クイーンという錚々たる推理作家たちが活躍した時代に、1編の長編ミステリーで、ミステリー史上に名を残したミルンの作品、読む価値は十分にあります。
参照元:A・A・ミルン 古賀照一・訳『赤い館の秘密』グーテンベルク21デジタルブック
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