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コイユールは、安堵の表情で目を開くと、今一度、兵の患部を確かめてから、次の兵の元へと移動していった。
彼女の一族が代々持ち合わせてきた、その不思議な力――手を触れることによって、相手の苦痛を和らげたり癒したりする、ある種の自然療法的な力なのだが――は、こうして戦場で幾多の実践を重ねるうちに、いっそう磨かれ、力を高めていた。
次々と運び込まれてくるインカ兵や、スペイン兵、英国兵たちの間を忙しく行き交うコイユールの頬に、不意に、ポッと、雨粒が落ちてきた。
「雨だわ」
くっきりした目元を見開き、その野外の治療場で夜空を振り仰いだコイユールの背後から、老齢の従軍医が声をかけてきた。
「コイユール、手伝っておくれ。
負傷兵たちを雨に濡らして、身体を冷やしてはいかん。
急いで天幕の中に運び入れねば」
「はい!」
負傷兵たちの移動を手助けしようと彼女が身を翻した瞬間にも、すぐに逞しい体躯をしたインカ兵たちが走り込んで来て、手際よく負傷兵たちを広い治療用天幕の中へ運び入れていく。
「大丈夫、我々に任せなさい」と頼もしい笑顔を見せた兵士たちに、コイユールは長いおさげをはためかせて頷き、かわりに周囲に積み上げられていた薬草類の方へ走って行った。
貴重な薬草を雨で濡らして傷めぬよう、急いで拾い集めて両手いっぱいに抱きかかえると、自分も天幕の方に小走りで駆けていく。
そうしながらも、彼女の視線は、今まさに戦闘の真只中にあるスペイン砦の方へと吸い寄せられずにはいられない。
(アンドレス、今頃、どうしているかしら。
お願いだから無事にしていて…!)
◇◆◇お知らせ◇◆◇
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ご来訪くださる全ての皆さまに心よりお礼申し上げます。
申し訳ありませんが、次回の更新(土曜)は、用事でお休みさせて頂きますm(_ _)m
来週中には再開の予定ですので、今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします♪
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
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