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「撃ち落とせ!!」
間髪入れず、エドガルドの険しい号が飛ぶ。
火薬を雨に当てぬよう懸命の所作で狙撃兵たちが銃を構え、数十発の銃が飛び込んで来る謎の革袋に向かって火を吹いた。
それらの銃弾にあっさり貫かれた巨大な革袋の群れが、アラゴン軍の真上で、ブワアッ、と派手に炸裂する。
その刹那、それらの炸裂した革袋の中から、大量の水が噴き出した。
ザバァッ、と水音が鳴って、スペイン兵たちはもとより、アラゴン王子やエドガルド自身の上にも、多数の桶をひっくり返したような水が降りかかる。
「なんだ、これは、…ゴホッ…!
ただの水か?!」
既に豪雨に打たれて水濡れの冷えた体に、さらに大量の水を浴びせられて、馬上のアラゴンが、むせながら忌々し気に語を吐いた。
そんな彼の跨る艶やかな高級馬も、頭上で弾けた水に襲われて、ブルブル大きく身を揺すり、遠くまで水の雫を弾き飛ばしている。
「王子、大事ございませぬか?
どうも、ただの水のようではありますが」
アラゴンを案じつつも、自らもドップリと水を被って、全身から滔々と水を滴(したた)らせながら、エドガルドが苦々しい面持ちで周囲の状況を見定めている。
そうこうしている間にも、迫り来る新手のインカ軍からは、満タンに水を詰め込んだ革袋が次々と投げ放たれてくる。
それらは、ブヨンブヨン、と不格好に揺れながら宙を飛んで、見かけ上は、いかにも滑稽で、頼りなげである。
そのくせ、落下して、ひとたび革袋が弾けると、スペイン兵の上のみならず、彼らの大砲や銃、雨避(よ)けをしてやっとのことで守っていた火種や火薬の上にも、容赦なく水が降りかかり、まるで大勢の小悪魔たちが高笑いしながら水鉄砲を乱射し続けているような破茶滅茶な惨状である。
「ああっ……火種に水が…」
「あいつらぁ…!
我らの火器を台無しにさせるつもりだぞ!!」
「これでは、やっと持ち堪えていた火薬も使い物にならなくなってしまう……!」
アラゴン軍の砲手や狙撃兵たちが右往左往しながら、口々に悲鳴混じりの怒声を上げている。
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。
≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。
≪エドガルド≫(スペイン軍)
副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。
スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。
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