将軍家が泣いている・・・・・父上が泣いている
二条城の書院では、太田備中守を前に吉宗は語気を荒げています。
吉宗「黙れ、井伊直惟より聞いたぞ」
と言う吉宗に「けつしてそのような」と答える備中守に、
吉宗「では聞くが、・・・新吾に刺客を送りし覚えはないか」
おかしなことをおっしゃると、とぼける備中守に、吉宗は続けます。
・・・そればかりではない。新吾が法度を犯せしも、もとを正せば汝らに罪がある。京都御所の荒廃は、所司代牧野河内が禁裏の費用を着服せるものと聞くぞ。汝はそれを知りながら、新吾一人を責めたのであろう・・・と。
けっしてそのようなことは、と狼狽える備中守。「牧野河内の罪は、そちにも罪がないとはいえぬぞ。下がれ」と吉宗に言われ備中守が下がろうとしたとき、襖が開き、「一大事にございます。只今上様にお目通り致すとて、制止を押しきって、葵新吾様が」と吉宗に伝えられます。
止めるのも聞かず振り切りながら、「 将軍は何処だ
、 何処におられる
」叫びながら次々と襖をあけ 奥の部屋へと入っていきます
。








・・・ 新吾が直に会って申上げたいことが
、法度を犯した 新吾を罰することは勝手だ
が、 母上や酒井讃岐の閉門をしてはだめだ
と、新吾がお願いに参った・・・「将軍家は何処だ、将軍、将軍は何処だ」










最後の襖を開けた瞬間、新吾は書院の奥に 父吉宗の姿を見て立ちすくみます
。



人の距離は離れていますが 、新吾と吉宗は無言のままじっと向き合っている
のです。



そのとき、新吾は 吉宗の目にキラリと光る涙が零れるのを見た
のです。
新吾「 あの涙
・・・・・ 将軍家が泣いてい
る
・・・・・ 父上が泣いている
」
心の中で新吾はつぶやき、新吾も涙が込み上げてきます。



吉宗が小さく呟きます。
吉宗「 新吾
・・・」
新吾もまた小さく呟きます。
新吾「 父上
・・・」
新吾の父吉宗に対する 感情が高まり
、これ以上そこにはいられない程になり、新吾は 身を翻すと、白を駆け抜けて
いきます。
吉宗は、新吾に詫びるのです。「新吾、許してくれ。・・・父は将軍なのだ」と。 と
、城を駈け抜けて行きます。








新吾は、あてもなく 馬で駆けて行きます
。
新吾「将軍の涙、 新吾の父上の涙
・・・わしは父上に会った・・・ 父上の涙を見
た
・・・ それで十分だ
・・・わしはうれしい・・・ 何といわれようとうれ
しいのだ
」
父上、父上、父上~、 父上
~と新吾は繰返し泣き叫びながら・・・・・・。








(完)
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