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図書館で出会った女性への一目惚れや、予備校の友人との交流、そして彼等と盗み出すことになってしまったある一枚の絵を通して主人公の心を描いた表題作の他、高校生の夏にバイトをした西瓜を売るトラックの運転手の思い出「西瓜トラック」、精神病院で死んだ父の葬儀へ行った折に見かけた青年の「小旗」など、青年期の主人公の心理を中心に描いた短編集です。ありがちな成長物ではなく、多感な青年の迷いや感傷などの情景をそのまま綴ったような文章が味わい深いです。何が主題となっているのか掴み辛い部分もありますが、読んでいて浸透してくるような不思議な読後感の一殺。
2002年10月31日
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中国北西部の奥地で大規模な戦闘が発生した。ソ連との国境問題でもなく、演習でもない不審な空気の漂うその地域で今度はアメリカの偵察機が姿を消した。しかし数度の偵察やソ連との情報交換から導き出された結論は地球外生命体の侵略という衝撃的なものであった。攻撃面でも防御面でもこちらの科学力を凌駕する彼等に対抗するため世界は一致団結して事態の解決を図ろうとするが国際問題などでなかなか足並みが揃わず・・・小松左京得意(?)の危機小説の中でもかなり規模の大きなもので国同士がいがみ合い、牽制し合う現状の卑小さのようなものを感じました。 終わり方に少し歯がゆさがありますが、寧ろ現実的で納得できるかも知れません。気が重くなるので耐久力がある時に読みましょう。
2002年10月30日
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老病の身である父に代わって男装で従軍し、民心を考えない煬帝の強引な政治や戦争に翻弄されながらも力強く生きる花木蘭を中心に、隋王朝末期の中国を描いた長編です。花木蘭と聞いてもピンと来ない人も多いでしょうが、ディズニー映画「ムーラン」と言えばわかるかも?中国史上でも屈指の男装の英雄です。 この作品は花木蘭の個人的な生涯と言うよりも、滅び行く隋の描写に力が入っているように感じましたが、それでも歴史小説ではなく史上の人物を使いながら読み物として楽しめるものに仕上がっており、田中芳樹らしさが出ています。全体的にお約束な感もあるものの、題材的にも興味深い一殺。
2002年10月29日
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忍者ごっこが嵩じてアパートの屋根裏にアジトを作り、生き物の解剖をしたり、万引きや空き巣などの戦利品を貯め込む子供達を描いた表題作の他、精神病院の治療の一環として、人間関係を意識させるために患者達に映画を作らせようとする「もぐら」、著者が老いや人生について感慨にふける自分の陰部の「白毛」など、あまり脈絡の感じられない作品集です(笑)脈絡が無いというだけで、決してつまらないわけではなく相変わらずの一見支離滅裂なキャラクターや、それとは対照的なしみじみとしたエッセイなど、様々な作品が楽しめます。 マンボウシリーズのような無茶さとはまた違った味わいの一殺。
2002年10月28日
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日本最南端の島でのキャンプの様子を描いた表題作の他、「全日本いらないものベスト10」、同じ名字が集まる「椎名会の陰謀」、食べ物と作る人のイメージを考える「うどんとオバサン」、様々な「オロカな行列」など、食べ物や旅、著者の珍体験を綴ったエッセイ集です。葉が多く、傘のような外観のためそこで昼寝をすると気持ちが良いということで、別名“ヒルネの木”とも呼ばれるモンパの木の下のようにちょっと間抜けで穏やかな雰囲気が漂っていて気持ち良く読めました。内容や表現の面白さという意味ではこじーん的に原田宗典の方が好きなのですが、程良い力の抜け方は椎名誠独特の味わいがあります。 気楽に読める一殺。
2002年10月27日
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著者の代表作である「海と毒薬」の続編です。米軍捕虜の生体実験を手伝った過去を持つ医師と、新聞の連載で戦犯のその後を追い、彼の罪の意識の無さを指弾する記者を中心に、その周囲の人間模様と通して人間の悲しさや弱さ、生きるということを描いています。内容の濃さもさることながら、構成や人物描写がしっかりしており、読み物としても完成度が高いです。罪や命に対するそれぞれのキャラクタの考え方が特徴的で興味深く読めました。 当然、「海と毒薬」を先に読んだ方が話に深みが出ますが、この作品単体でもきちんと完結しています。 こじーん的には「海と毒薬」よりお薦め。
2002年10月26日
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気になる女性を見るとつい後をつけてしまうという性癖を持つ主人公が出会い、関わった女達とのやりとりや、周辺の出来事を通して彼の不気味な情念を描いた作品です。重い雰囲気のようなものは伝わってくるのですが、それによって何を表現したかったのかいまいち解りません。解説に何やら色々書いてあるけど本人でない以上、どうしても眉唾物に思えてしまうので、結局「これだから文学作品って奴は・・・」という代表的な一殺。年とってから読んだらまた違うのでしょうか。
2002年10月25日
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スッポンにマムシ、八ツ目ウナギ、白子、ホルモン、松の実や葉、果ては媚薬や仙薬など、滋養強壮を目的として食べられる様々な食べ物の効能や由来、それにまつわる話などを集めた作品集です。著者自身の体験や聞いた話が中心となっており、なかなか興味深いものはありますが、ちょっと情報が古いせいか眉唾ものも結構含まれています。 尤も、そういう話には「試していないので効果の程はわかりかねる」と注釈があるので手を出さなければいいだけの話ですが。かなり多岐に渡った食べ物(?)の紹介がされているのでネタとしてでも読んでおいて損は無い一殺。
2002年10月24日
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“失敬”、“ロハ”、“アベック”、“ノンポリ”など今は使われなくなった単語に軽妙な解説を添えた「廃語辞典」、「手垢のついた言いまわし」の使われどころやそれに対する印象、英米豪三国と冷戦に突入し、外来語の使用を禁止された日本を描く「言葉の戦争」など、日本語に関する題材を中心とした短編集です。普段何気なく使っている言語体系について考えさせられました。一口に日本語と言っても時代や地域、年齢層、果ては個人によっても少しずつ形を変える言葉というものの不思議さ、微妙さが上手く出ていると思います。題材がそういうものばかりなので興味無い人にとっては魅力半減以下でしょうが、良く纏まった一殺。
2002年10月23日
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矢を放った瞬間の人物が描かれている絵馬の前で矢に射抜かれて死んでいた男の下手人を発想の転換によって暴き出す表題作の他、瓦版の食物屋番付上位の店が次々と強盗に入られる「泥棒番付」、砂を金にする秘術を目の前で披露され、出資することにした強欲な金持の末路「砂子四千両」など、八丁堀の同心を主人公とした短編集です。仕掛けが面白く、庶民的、人情的な雰囲気は良いのですが主人公である筈の同心が話を締める程度の役でしかなく、いまいちキャラが立っていないように感じました。無理にシリーズものにせず、普通の短編集で作るか、もっとキャラの色を出した方が面白いんじゃないかな。それさえ除けば手頃に読める捕り物系の一殺。
2002年10月22日
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一家を皆殺しにするという脅迫状を受け取った資産家は、法医学界の権威であり明智小五郎と並ぶ探偵と言われる宗像隆一郎博士に調査を依頼した。 しかし、博士を嘲笑うかのように資産家の娘姉妹が次々と惨殺され、安全と思われた場所に匿われていた資産家さえも行方不明になってしまった。それらの事件現場には必ず三重渦巻きの指紋が残されており・・・という表題作の他、推理小説好きの警察官が解決したと思われていた怪事件の真相「石榴」、動機、物証が揃いアリバイも無く、犯人は揺るぎないと思われた事件のどんでん返し「鬼」の3編を収録した作品集です。少年探偵団シリーズではないものの、明智小五郎の推理が冴える・・・と言いたいところですが、今読むと何でみんな騙されてるのかわかりません(笑) 幾ら何でもそのトリックはあからさま過ぎではないかと。 それでも子供の頃にあれだけハマったということはトリック云々よりも講談調の文体や事件、人物描写など引き付けるものがあったのでしょうか。面白いと言うより懐かしい一殺。
2002年10月21日
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能登の地主の息子という立場を嫌い、東京でサラリーマンとしての生活を送っていた主人公だったが、30を過ぎた頃から家の歴史や伝統というものを守りたいと思うようになり、田舎に帰ることにした。 その際に叔父の会社で目に留まった女性を妻にして連れて行きたいと考えるが・・・という表題作の他、バブルの恩寵で贅沢し放題だったのが急転直下、会社が倒産したため田舎でぶらぶらしていた主人公が出会った犬の訓練士「きみにかぐや姫」など、昔話や童話を使ったタイトルが面白い短編集です。人間らしい生き方や男女間のかけひきなど、題材としては特に目立ったものはありませんが、どの作品も陽性で読み易いと思いました。 ただ、せっかくのタイトルがあまり活かされていないのが勿体無いかな。まあまあ手軽に無難に読める一殺。
2002年10月20日
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ある遊女を落籍かせたことがきっかけで兄と名乗る浪人に付き纏われ、更に金目当ての取り巻きや折からの不景気も手伝って身代を持ち崩してしまった主人公が、その遊女と隠遁生活をするようになって初めて得た安らぎやささやかな幸せを描いた表題作の他、平穏の世にあっては出世や人間関係の妨げにしかならない豪放で浪人骨のぶとい主人公の恋愛沙汰「濞かみ浪人」、貧しいながらも武士の魂を失わない少年や周囲の人々「さむらい行儀」など、やや庶民寄りの題材を中心とした短編集です。戦争や斬り合いのような派手さは無いものの、芯のある人物描写が読み易さと重厚さを兼ね備えています。どの作品もきっちり仕上げており、安心して読める一殺。
2002年10月19日
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オールナイトの映画館で出会ったとんでもない集団、小説の題材にもなったHなバイト、中曾根首相から招かれた園遊会での体験、突拍子も無い演出を見せてくれた結婚式、付き合っていた彼女の父に紹介された時の緊張など、哀愁編、冷汗編、ハラハラ編、色恋編の4章からなる著者のトホホな日々や思い出を綴ったエッセイ集です。あとがきにあるように、雑談を意識したという内容や文章はとにかくあげっぴろげで楽しく、気持ち良く読めました。 ここまでネタ満載だとトホホな体験を引き寄せる天性の何かがあるとしか思えません。無茶苦茶なのに狙ったような印象も受けず、気が乗らない時でもついつい読み進んでしまえそうな一殺。
2002年10月18日
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新宿歌舞伎町の闘争を描いた不夜城の続編です。育ての親の命令によって新宿へ潜入し、仕事を終えた後は速やかに脱出するという手際で数々の殺しを請け負ってきた主人公。 しかし今回は仕事の後も留め置かれ、ある上海マフィアの情婦のボディガードをするように言い渡された。今までにない事態に不安を感じ、独自に情報収集を始める一方で、情婦に狂おしい程の情愛を抱く主人公だったが、その背後では思いもよらない計略が進行していた。とても殺伐としています。 底無しの闇を感じさせる復讐への感情、そしてそのためには周囲の人間を操り、破滅へ向かって走らせることも厭わない強固な意志、それぞれのキャラクタが抱える想いが相変わらず鋭い筆で描かれていて良いのですが、前作ほどのメリハリが無く、ずっと重いのが気になりました。読み応えはあるので前作が好きな人ならどうぞ。
2002年10月17日
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タイトル通りです。 中南米で遥か昔から独自の文化を築き上げてきたナワ族、マヤ族、インカ族の間に伝わる神話や伝説を集めた作品です。数を紹介するために細かいディテールを省いたせいなのか、そもそもそういう内容なのかはわかりませんが、かなり理不尽な話が多いような気がしました。 各地を旅して冷たくした部族に不幸をもたらしたり、他の神の妻を勢力にものを言わせて奪ったりと、神のくせに人間的を通り越して好き放題やってるようにしか見えません(笑)ギリシャ神話などと共通するような部分もあってなかなか興味深いものはあるものの、少し物足りない感が残る一殺。
2002年10月16日
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単なる思い付きにしか見えない、或いは何を考えているのかわからない奇天烈な飲み屋や料理屋、関西弁や商人気質から考察する大阪人の性格、大阪をネタにした嘘新聞など、大阪の様々な側面を面白おかしく綴った作品集です。何と言うか、ノリがまさにこてこての関西系らしく、私にはちょっと合いませんでした(汗)内容的には面白かったり興味深いものもあるのですが、どうも強引だったり狙い過ぎるような印象があって、人によってかなり好き嫌いが分かれそうな気がします。本全体から大阪のオーラ(?)が漂ってきそうな一殺。
2002年10月15日
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台湾人と日本人の半々として上海、北京、香港などの組織の間を縫うようにして新宿歌舞伎町で故買屋を営んでいる主人公。 しかし、彼の元相棒で上海マフィアのボスの片腕を殺害して逃げていた男が歌舞伎町に戻ってきたことから事態は大きく動き始めた・・・自分だけしか信じず、生き抜くためにはどんなことでもする主人公の内面の描写が非常に迫るものがあって読み応えがありました。 他のキャラクターも良く立っています。ストーリーに関しては少し強引なのと現実味が無いのとで迫力はあるものの特に優れているとは思いませんが、とにかく人物描写が秀逸で彼等の行動に引き込まれます。重いけれど不思議な息吹を感じる一殺。
2002年10月14日
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はずみで上司に怪我をさせてしまい、会社をクビになった雑賀鉄平と、惚れていた女が結婚することになってしまった福永潤一。 高校以来の友人である二人が共に鬱憤を晴らすために訪れた温泉旅行で、彼等は謎の美女に出会った。何故か彼女に気に入られ、困ったことがあったらと誘われるまま入ってみた会社は何と、泥棒会社だった。無茶苦茶な設定や展開とは裏腹に、中身は意外と(?)しっかりした成長物でテンポ良く読み進められました。キャラ的に好みな鉄平が最後まで三枚目なのがちょっと残念だけど面白いので問題なし(笑) 若い2人が迷いながらも補い合って成長する様が爽やかな一殺。
2002年10月13日
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どの自殺の死に顔が美しいかという話から、死に顔のことまで考えたと思えるような自殺にまつわる出来事を綴った表題作の他、堕胎手術についての男女の心理ややりとりを描く「形見分け」、癌に対する恐怖を利用した「優しみの罠」など、医学を題材とした短編集です。題材の割に専門的な用語や内容は少なく、医学の周辺の人間模様が中心となっているため小説としてすんなり読むことが出来ました。 時代設定などやや古臭い点はあるものの、手堅く読める一殺。
2002年10月12日
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ジャンケンというものを全く知らない人に競技として確立されたジャンケンについての説明をする、というスタンスで描かれた表題作の他、時代劇の悪役専門役者である主人公の私生活「チャンバラ・ギャング」、郊外の駅の待合室で繰り広げられる朝から夜までの人間模様を淡々と綴った「待合室」など、人間観察を趣味とする著者の筆が冴える短編集です。題材の独特さ、人間描写の鋭さともに興味深く、面白く読めました。 一部題材がマニアック過ぎて微妙なものもありますが、それでも楽しめる文章は流石ですね。あまり状況や気分を選ばず気楽に読める一殺。
2002年10月11日
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常にネタのような日々を送っている(?)著者の学生時代、デビューするまで、そして現在までとサイバラの人格を作り上げてゆく過程がちょっと見えるような、お約束のエッセイ&漫画スタイルの作品集です。今回は銀玉親方はあまり絡まず、過去の人々や出来事の描写が多いちょっと珍しい展開ですが、若い頃から豪快な生き様を送っていたらしく、面白さは変わりません。寧ろ漫画部分は心を打つものが多く、その落差がまた楽しめるジェットコースターのような作品です。 オススメ。
2002年10月10日
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立場や性格は全く違いながらも一対の狛犬のようにお互いを思い遣り、固い友情で結ばれている水田と門倉。しかしその裏には水田の妻に対する門倉の想い、そしてそれを知りつつも見ぬふりしか出来ない水田の苦悩が渦巻いていた。 それでも友情は友情として共に支え合える不思議な関係を中心に、2組の家族を描いた短編連作集です。人の心の複雑さや哀しさを感じる一方で、友人というものの大切さが伝わってきました。 どうにもならない想いを抱えながら生きてゆく人間の強さ弱さという微妙な題材が良く描けていると思います。 薄いけど考えさせられる一殺。
2002年10月09日
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英雄としての素質と自覚を持ちながらも時代や土地に恵まれず、一生を賭けて仙台一国の平定のみに留まった伊達政宗の生涯を描いた表題作の他、画家には惜しい程の体力、剣技、気迫を持つが逆に災いして絵に反映されず暴れるという方向に出ていた田崎草雲が二天こと宮本武蔵の画を見たことで考えを変えてゆく「喧嘩草雲」など、才能を発揮する場に恵まれず、思うような業績(?)を残せなかった男達を中心に描いた作品集です。とは言え、悲哀や無念のようなものはあまり感じず、どこか傲然とした描写が、結果は出せなくてもそれはそれで人生だという気持ちで読めて悪くないです。順風満帆な人生とはまた違った爽快感のある一殺。
2002年10月08日
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向こうから惚れてきた筈が、いつの間にかトップスターになってしまった恋人に毎年バレンタインデーになると送られてくる大量のチョコレートに抱く思いを描いた表題作の他、常にぶつかり合い、激しい恋愛をしてきた相手が保護欲をそそる女性に惹かれてしまう「真珠の理由」、微妙な狎れや疲れの見え始めた夫婦を描いた5部作「勤め人のいえ」など、女性側の視点を多く使った男女間の機微を題材にした短編集です。奇妙な落ち着きと不安定さを併せ持つ雰囲気が独特で興味深く読めました。 諦めとも哀しみともつかない心理描写は女性ならではの味があります。 暗くはないけど沈んでしまうので気持ちが強い時に読むといいかも。
2002年10月07日
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花火大会でのアクシデントや電車で出会った絶叫男、貧乏な学生時代、酒での失敗、温泉旅行での出来事など、脂汗編、タメイキ編、困惑の旅編の3章からなる彼の日常や旅先での情けない体験を綴ったエッセイ集です。後書きで筆者も書いている通り、初期の作品のような我武者羅さは影を潜めたものの、程好く力の抜けた文章が相変わらずのトホホな内容と良く合っていて楽しく読むことが出来ました。 特に擬態語(?)の使い方が秀逸で電車の中などでつい吹き出してしまい、奇異の目で見られる恐れがあります。 オススメ。
2002年10月06日
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狂気と引き換えに不思議な能力を得た少女達-くるぐる-を使った見世物で生計を立てていた男の告白である表題作の他、兄を愛してしまった罪の意識から“精神電波”という妄想の世界へ逃げ込んでしまった妹「キラキラと輝くもの」、周りに解け込めず、虐められてばかりの現実を拒否し、異世界を作り出す「春陽綺談」など、日常に潜む狂気の世界を描いた短編集です。大槻ケンヂと言うとミュージシャン兼お馬鹿なエッセイストという認識しか無かったのですが(失礼)、正直面白いです。彼の歌詞の世界観に通じるものもある、不気味だけどどこか哀しいような雰囲気が良く出ており、文章的にも上手く纏まっていて読み易かったです。 オススメ。
2002年10月05日
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新選組の軍監として函館五稜郭の戦いに参加し、敗れた後に伊豆七島へ終身流刑を言い渡されたが赦免を受けて江戸へ戻った相馬主殿が過去の怨恨に巻き込まれる表題作の他、坂本竜馬暗殺の下手人である今井信郎の生涯を綴った「近江屋に来た男」、江戸柳生の二代目である宗冬がボウフラの動きから会得した「一つ岩柳陰の太刀」など、あまり陽の目を見なかった男達を題材にした短編集です。タイトルに惹かれて買ったのですが、新選組という点では全盛期の描写ではないため期待とは少し違いました。ただ、本流(?)ではない人物に視点を当てて歴史に果たした役割や、彼等の心境を描くという内容は面白かったです。文体や展開も無難に纏まっているのでマイナー好きなら読んでみても良いのではないでしょうか。
2002年10月04日
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好きな女に告白するという意志を確かめるために階段を飛び降りた青年、友人の妻の葬式に押しかけてきた愛人、昔の自分が忘れられず夜になると酒場で黙って座り続ける元やくざ、そして別れた妻の面影が背後に見える娘。新劇出身の役者、皮肉な演劇評論家、酒場のマスターという3つの顔を持つ主人公とその周囲の人間模様を描いた短編連作集です。わかっていながら面倒な生き方を選んでしまう男の性のようなものが感じられて、共感を覚えながらも出来ない自分に凹みながら読めました(笑) 乱暴で気紛れで頑固でもきちんと筋の通った主人公が魅力的です。短編で読み易いし、内容的にもあまり殺伐としていないので北方謙三初心者にもお薦めの一殺。
2002年10月03日
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バイオリンを習い、クラシックが大人の音楽だと思っていた主人公だったが、ある時ベンチャーズのパイプラインという曲を聴いてエレキの魅力に取り付かれた。殆ど形骸と化していた軽音部を辞めた少年からギターの手解きを受け、全く経験の無い2人の同級生を勧誘して頭数を揃えた主人公達は、夏休みにバイトをして楽器を購入してひたすら練習の日々を送りながら少しずつ腕を上げ、様々な体験を経ることで成長してゆく。まさに青春という感じの内容の臭さがロックという少し古臭い題材と合っていて気持ち良く読めました。ちょうど私の父母世代の名盤タイトルが数多く出てくるのも雰囲気があります。 お約束ながら完成度の高い一殺。
2002年10月02日
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少女という、女でもなく子供でもない特異な性を持つ存在に対して男性が抱く感情の分析や、その想いの昇華、様々な性愛の形の考察という内容の割に、素材のせいか淫靡さのようなものは感じないエッセイ(?)集です。ピグマリオニズムや近親姦は勿論のこと、ホムンクルス、マンドラゴラ、オートマタ、処女懐妊、春画など、ありとあらゆる性の形を独自の視点から綴った内容は非常に面白く読めました。 興味の無い人にとっては全く読む気がしない作品ですが、これくらいクセが強い方が評価もわかりやすくて良いかも知れません。
2002年10月01日
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