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かなり突拍子もないタイトルですが、中身は輪をかけて突拍子もない作品です。 ロンドンへ留学した夏目漱石は下宿で亡霊のような謎の声に悩まされ、教授に相談したところ、紹介されたのはかのシャーロック・ホームズであった。ところが彼はとんでもない変人で、漱石はすっかり愛想を尽かしてしまったが、謎の声はぴたりと治まった。お礼を言いにいった漱石だったがホームズは密室の中で人間が一瞬にしてミイラとなって死亡するという難事件に取り組んでおり、残された紙片に日本語らしき文字が書かれていたことから漱石も事件に巻き込まれてゆく。漱石とワトソンの視点で交互に書かれ、しかもそれぞれホームズの描写が全く違うという面白い構成で、題材の独特さもあって最後まで楽しく読めました。トリックとしてはまあ普通ですが、エンタテイメントとしては非常に評価できる一殺。
2002年11月30日
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高校時代の同級生が国際青年農業連盟の交流で訪れたブルガリアのある村で見かけたという大量の古いイコンを求め、その村へと飛んだ結末を描く表題作の他、ノルウェーへ旅立ったまま戻らず、そこで自殺してしまった婚約者の死の真相を探る「ヴァイキングの祭り」、五月革命で若い美術家と学生達が作るポスターを集めて展示会を開こうとパリへ向かう「残酷な五月の朝に」など、ヨーロッパの古い息吹が感じられる短~中編集です。時代設定としては50年も経っていない頃のものですが、良くも悪くも伝統やしきたりというものが根強く生きるヨーロッパの雰囲気が伝わってきました。 どこか屈折した主人公との絡みも良く、微妙な暗さが味わい深い一殺。
2002年11月29日
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「どくとるマンボウ航海記」で船のイメージが定着してしまった著者が珍しく(?)飛行機で冬の日本を飛び出し、ハワイ、タヒチ、フィジー、ニューカレドニア、サモアと南太平洋の島々をナマケモノの神の導きに従ってぶらぶらと渡り歩きながら体験した様々な出来事を綴った旅行記です。40年以上も前ということで、ハワイを除くと観光客も殆ど訪れず、のんびりした雰囲気の漂う人や街の描写と、著者の気紛れで突拍子も無い行動、そして鹿爪らしい文体が相変わらず楽しく読めました。 時代は感じさせるけどそれがマイナスに作用せず、趣のある一殺です。
2002年11月28日
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国産ハードボイルドの先駆者である生島治郎の直木賞受賞作、「追いつめる」の続編です。 私立探偵である主人公のもとにある老婆が訪れ、ブラジルまで出向いて行方不明になった自分の息子を探して欲しいと依頼してきた。 場所が場所だけにあまり乗り気でなかった主人公だったが、その依頼から手を引くよう脅されたことで逆に奮い立ち、事件の真相を探るために動き始めた。北方謙三より大沢在昌に近いです。 キャラクターや内容が単純という意味で。 わかりやすいのも嫌いじゃないのですが、お約束過ぎると少し興醒めの感があります。 ブラジルが舞台というのや依頼人のキャラクタは悪くないだけに主人公と展開の類型っぽさがどうも好みに合いません。正統派ハードボイルドが好きな人向けの一殺。
2002年11月27日
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初めて買った個人全集、台湾の漢方薬屋で買わされた百補丸、引っ越しのたびに持っていることを忘れて買ってしまうガラス用洗剤、買い物に連れ出されて所在無く買ったたこ焼き、珍しく早起きした勢いで買ってみたバナナなど、著者が買った様々なものとそれにまつわるエピソードを描いたエッセイ集です。相変わらずの軽妙な文体とトホホな体験が楽しく読めますが、“買う”というネタに限定されているせいか良くも悪くも纏まった印象を受けました。 こじーん的には普段(?)のエッセイの方がネタが多彩で好みかな。それでも面白いことには変わりありませんが。
2002年11月26日
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十二年ぶりに行った工場の大掃除で起きた「地下室の悪夢」、クローゼットの中に潜み、子供を殺すという「子取り鬼」、子供の頃、兄を殺した少年達が当時そのままの年齢で自分が教師をする学校へと編入してきた「やつらはときどき帰ってくる」など、ストレートな展開のホラー短編集です。著者の代表作である「スタンド・バイ・ミー」のような不思議な怖さではなく、ホラー映画に使えそうなこてこての内容が、ある意味割り切って楽しめます。 終わり方が暗いのもお約束で、ホラー好きなら無難に読める一殺。
2002年11月25日
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核実験による放射能の影響で信じられないような生物が蔓延る島での出来事を描いた表題作の他、脱走した殺人犯に妻と息子を人質に取られ、家に立て篭もられた主人公が犯人の妻と息子を人質に犯人の家へ立て篭もる「毟りあい」、人口が増え過ぎたことによる食糧難を解決するために定年を迎えた人間は家族によって殺され、食料にされる「定年食」など、相変わらずブラックな短編集です。内容はひどいことになっていますが無茶苦茶な中にもセンスが感じられて面白いです。 死やエロを軽々しく扱っているので人によっては不快感など覚えるかも知れませんが、こじーん的には小気味良いくらいです。変化球好きな人向きの一殺。
2002年11月24日
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「生きてるのがつまらない、という顔をしているな」電車の中で突然声をかけてきた老人の仕事を何となく手伝い始めた主人公。 しかし、危険ながら生きていることを感じさせてくれる仕事と相棒、そして見えてきた夢を掴むため大勝負に出た主人公達だったが・・・生きているから仕方なく働き、食べて寝るだけの日々を送っていた主人公が様々な感情に目覚め、強烈な個性で生き切る様が心に響いてきました。 不器用で頑固で一度決めたら振り返らずに飛べるキャラクタの描写がいつ読んでも惹かれます。 男の世界な一殺。
2002年11月23日
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癌に冒された自分を冷静に見据え、とにかく生き延びさせることばかりが重要視され、その生の内容や患者の心境というものが軽視されがちな医学界に疑問を投げかけ、残された生を「死の医学」のために捧げた精神科医である西川喜作の生涯を間近で綴ったルポルタージュです。医学の進歩した今も部位によってはほぼ死病である癌の他、残り少ない生をいかに充実して過ごせるかという、「死の医学」の重要さと、その割に研究の遅れがちな現実がひしひしと伝わってきました。 いかに死ぬかということはいかに生きるかということと表裏一体であり、機械や薬によって無感覚、或いは苦しみながらの延命よりも尊厳のある死を求めるという気持ちには共感を覚えます。重い一殺。
2002年11月22日
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ある女性に一目惚れし、日を追うごとに想いは胸を焦がさんばかりとなった主人公は、気の置けない友人に打ち明けることで波立つ心を鎮め、友人も出来る限り彼の恋の成就を願っているように見えた。 しかし皮肉にもその女性と友人は惹かれ合うようになり、主人公は失恋と友人の裏切りという二重のショックを受けるが、それを逆にエネルギーとしてつき進もうと決意する。愛というものの身勝手さや揺れ動く心、そして若さというものが良く描けており、その青臭さが半ば羨ましく読めました。そういう世代に戻りたいとは思いませんが、自分の当時を考えると、もっと何かに打ち込みたかった気もします。愛や青春という題材も文章も王道という印象の一殺。
2002年11月21日
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軽薄で流されやすく、喉元過ぎれば熱さを忘れ、自分の都合のいいことしか見ようとしない多くの人々を横目で見ながら自分の信条を貫き通す著者が考え方や人間観を綴った辛口エッセイ集です。断定的な文体と骨のある論理展開が幾らか好みが分かれそうですが、私は気持ち良く読めました。正論をぶつと言うよりも、へそ曲がりのさりげなく鋭い突っ込みというような内容が楽しめる一殺。
2002年11月20日
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ストリップ小屋からSMクラブの後輩として可愛がってきた子が小説で新人賞を受賞した。 何かと話題の絶えない彼女とその周囲の人間模様や出来事を描いた半自伝的小説です。どこまでが自伝かわかりませんが、黒人と付き合っているとか、小説の主人公がふしだらだと批評する良識ぶった評論家や読者などに憤りと諦めを感じる著者の気持ちや恋愛観がキャラクタ同士のやりとりを通して伝わってきました。主人公や後輩の強さ、明るさが気持ち良く読める一殺。
2002年11月19日
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離婚した夫が連れ去ってしまった息子を取り返して欲しいという依頼を受けた私立探偵の主人公。 しかし少年は自分を駆け引きのための手駒としてしか見ていない両親に強い不信感を持ち、何も教えられなかったため周囲への無関心という形で自信の無さをガードしていた。主人公は少年を母親の許へ連れ戻すのを止め、共に生活することで彼に自立の精神を教えようと決心した。乱暴で自意識過剰だが誇りや自分というものを確りと持っている主人公に触れることで少年が成長してゆく過程を描くという、ハードボイルドとしてはかなりありがちな内容ながら、テンポの良い展開と、芯のある主人公のキャラクタが気持ち良く読めました。 訳文もまずまず雰囲気を損なわない出来で、海外のハードボイルドはあまり好んで読まない私でも抵抗ありませんでした。 お薦め。
2002年11月18日
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飲み屋の借金を踏み倒して失踪した夫の始末のためにそのお店で働き始めた妻の心境を描いた表題作の他、小学校時代の同級生だと言ってあがりこみ、傍若無人に振舞った男との「親友交歓」、戦争で会社が潰れたのがきっかけで女に溺れてゆく夫とその妻「おさん」など、家庭の暗い部分を多く扱った短編集です。文章のせいなのか描写のせいなのか、内容の割に意外と重くない独特の雰囲気と、太宰にしてはあまり精神系(笑)でないのが読み易かったです。 人によっては深読みしたくなるかも知れませんが、私は文面通り、内容通りにしか受け取れないのでそれに関しては不明。 太宰初心者は「人間失格」や「斜陽」よりもこれを先に読んだ方がいいかも。
2002年11月17日
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戦前、戦後に渡る執筆活動で文壇に大きな足跡を残した著者が食道ガンの宣告から手術の前後における心境を綴った詩集です。1行から数ページに渡るものまで様々な詩が収められています。高見順という作家は寡聞にして知らなかったのですが、平易な文章で彼の死への恐れや迷い、覚悟などがストレートに伝わってきて悪くないです。 やや感傷的過ぎる嫌いはあるものの、死に直面するとそういうものなのかも知れないという気もします。 全体的に落ち着きのある一殺。たまには詩も良いですね。
2002年11月16日
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韓国から日本へ留学してきた著者が感じた日本人の国民性や、そこで知り合った韓国人ホステスたちの実態、彼女が日本に仕事を求める背景、韓国の変化などを綴ったルポエッセイです。隣国ながら観光や食べ物の情報くらいしか知らなかった韓国の実情や考え方などに驚かされました。 その歴史の違いのせいもあってか日本人とは対極的な性格の韓国人の良い面や悪い面が興味深く読めます。 主に男性社会とその中で水商売に手を染めてゆく女性というものが主題になっていますが、そこに内包されている多くの問題を考えさせられる一殺。
2002年11月15日
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「虚無への供物」、「ドグラ・マグラ」、「黒死館殺人事件」の三大ミステリィの流れを汲むアンチ・ミステリィの大作です。あるグループの1人がメンバーを登場させた推理小説を書き始めたことがきっかけで、その作品の進行に従い内容に対する推理比べを行おうとした矢先、本当に殺人が起こった。 その密室の謎に挑戦するメンバーだったが・・・という作品を書いている時に殺人が起こり・・・と、2つの世界が入れ子構造になっています。「虚無への供物」のように、様々な推理が出ては否定され、真実と思われたものも覆され、覆された推理に再び焦点が当てられ、様々な出来事が示唆を含んでいるような内容に加え、2つの世界の絡みが更に複雑さを増しています。考えるのが好きな人には向いていますが、そうでなければ頭が痛くなるかも知れません。 終わり方も何だかもやもやしていて解ったような解らないような気分です。人によって評価が大きく変わりそうな一殺。
2002年11月14日
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ジャングル、黒んぼ、人食い人種・・・漫画のようなイメージしか浮かんでこないニューギニアの山岳地帯へ分け入り、原住民と寝食を共にして彼等の生活や文化を調べ、感じたことを綴ったルポルタージュです。東南アジアのやや先で、第二次大戦末期の主戦場でもありながら、あまりに情報の無いニューギニアという国の一部が垣間見れ、非常に興味深く読めました。この旅が行われたのは40年近く前ということで、状況は大きく変わっているでしょうが、きちんと相手を理解しようと努力し、向き合えばそれなりの反応が返ってくるという、人種間の在り方の1つの形が見えてくるような気がします。 情報よりも心構えの面で得るものが多い一殺。
2002年11月13日
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どこへも行かないし、降りることも乗りかえることもできない。誰をも抜かないし、誰にも抜かれない。 そんな回転木馬の上で仮想の敵に向けて熾烈なデッド・ヒートをくりひろげる人間を綴った短編集です。 様々な人から著者が聞いた話という設定で小説でもノン・フィクションでもない雰囲気が独特です。半ズボンを選んでいる最中に自分が夫を憎んでいたことに気付いた妻、常に半分、その半分とターニングポイントを定めながら生きてきた水泳選手、気分も悪くなく、体調も頗る良いのに何故か嘔吐感だけが毎日襲ってくるという経験をした男など、奇妙だけどどこか現実的な内容が不思議な読み心地でした。 人生のおかしみのある一殺。
2002年11月12日
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ぱっとしない外見で気が弱く、能力が発揮できないため職場でも家庭でも軽く見られている主人公に持ち掛けられた復権のための「ありふれた手法」という表題作の他、妄想を持つ人々を上手く組み合わせてそれぞれに理想の世界を作る「総合診断所」、死の淵を彷徨っている人間にある幻影を見せて現世への執着を促す「天使」など、現状に不満を持つ人々を多く扱ったショート・ショート集です。優しげな文体や程良いウィットは相変わらずで心地良く読めましたが、題材がやや魅力に欠けるような気がしました。好みの問題もあるのでしょうが、夢があるという程でもなく、現実的という程でもないのが中途半端な印象です。尤も、星新一らしさは充分に味わえるので題材で躓かない人にとっては楽しめるかも知れません。
2002年11月11日
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原爆の黒い雨を浴びてしまった姪の縁談を何とか纏める為、当時の彼女や自分の日記などを相手に見せて被爆しながらも死の淵から這い上がった人々の精一杯生きる様を伝えようと努力する主人公の回想を中心に、原爆の悲惨さを綴った長編です。日記が中心となっているため、ストーリーに関してはあまり目を引くものは無いのですが、淡々と綴っているその日記がリアリティがあって迫ってきます。重く悲しい内容だからこそ、忘れてはいけない、きちんと向き合わないといけないと思わせられる一殺。
2002年11月10日
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連載を目前にして作品の題名が決まらず煩悶した挙げ句、開き直って「題未定」という題名で出そうと考えていた主人公に数多くの非難の投書が届いた。 しかもそれは未だ書かれていないはずの作品に対するものであった。更に未来の自分からの手紙が届き、その指示に従って旅に出た主人公を迎える信じられないような出来事。そして「題未定」が引き起こした事態とは?自分(?)をネタにしたSF長編です。「題未定」でそのまま出すというのも独特ながら、その作品中に題が決まらず苦しむ主人公が居り、既に「題未定」として出てしまった後の世界の主人公がが居り、更に・・・と、メビウスの輪のように捩れ、繋がっている世界の描写が不思議な感覚で読めました。 展開はかなり支離滅裂なのですが、オチだけはきっちり決まっているので読後感は悪くないですね。 ただ、お薦めできるかは微妙。
2002年11月09日
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著者の近況を綴った「日常への旅」、様々な思い出を描く「過去への旅」、外国で出会った人々や出来事「異国への旅」、なぜか女性の感想が中心の「日本への旅」の4部からなるエッセイ、紀行集です。人生論を語っていたかと思えばどの国、どの県に美人が多いか真面目に論議してみたりと、文体の緩急が効いており、楽しく読めました。 殆ど家に居ないのではないかと思われるくらいあちこち飛び歩いている旅の記録も興味深く、薄いながら内容の詰まった一殺です。
2002年11月08日
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高倉賢一郎という馬鹿げた本名のお陰で小学校の頃からあだ名は“高倉健”。 しかも幼い頃に父親を亡くし、体格に恵まれていた彼は自然と正義のヒーローとしての振舞いを身に付けていた。 そんな彼が17年に渡って守り、愛し続けてきた相手は友人である島村譲の中に棲む“リリー”という人格だった。 あまりにも脆く危うく哀しい恋と、その結末を描いた長編です。多重人格を扱った小説は多いですが、その発症した背景や消滅まできっちり描き込んでいるのが特徴的で、興味深く読めました。 傷付いた小さな魂が必死で自分を守るために作り出した人格の重さが伝わってきます。 悲しい中に生きることを考えさせられる読み応えのある一殺。
2002年11月07日
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何の変哲もないセールスマンだった筈の主人公がある朝目覚めると一匹の巨大な毒虫になっていた・・・というあまりにも有名な表題作と読んでて理解不能だった「ある戦いの描写」の2編を収録した作品集です。虫になった主人公が受ける理不尽ながら一般的な反応と思える仕打ちの描写が物悲しい雰囲気を醸し出しています。不可抗力の事態に際した人々の心理や諦めなどが伝わってきて色々と考えさせられました。 新潮文庫と訳を見比べて買ったのですが、個人的にこちらの訳の方が冗長さが無くて良いように思います。 「ある戦いの描写」はかなり謎ですが「変身」のためだけに買うのもあり。
2002年11月06日
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夜中に突如耐え難い程の空腹感に襲われた主人公とその妻。過去に空腹を満たすために相棒とパン屋を襲撃しようとして思いもよらない体験をした主人公はその呪縛が現在の空腹感に繋がっていることを悟ってパン屋を襲撃し直すという表題作の他、町で飼っていた象が居なくなってしまった経過「象の消滅」、どの作品かは忘れたけど“双子”と別れた後の“僕”「双子と沈んだ大陸」など、相変わらず独特の雰囲気を醸し出している短編集です。観念的と言うか、思索的と言うか、話を文章そのまま追っても意味不明ですが、作者の意図に関わらず、そこから何か掴めるかどうかで評価が分かれそうです。私は嫌いじゃないけど考えるのがしんどい時には避けたいですね。 気分に左右されやすい一殺。
2002年11月05日
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兄が魔法を使えるふりをして弟をからかう「魔法」、重箱を奪われたのに腹を立て、夫婦の狐を殺してしまった後に残された子狐を描いた「狐狩り」など、教科書にも良く取り上げられる作品を中心とした童話集です。童話としては教訓的な意味合いが少なく、子供や動物を主人公に淡々と物語を綴り、得るものは人それぞれに違うという印象の内容は確かに考える力を育てるのに良いかも知れないと思いました。 解説によると読んで聞かせるには小学校低学年、自分で読むには小学校高学年~中学校向きとなっていますが、私が読んでも充分に考えさせられます。小説とはまた違った感覚が新鮮な一殺。
2002年11月04日
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なまずに魅せられてしまった男と共に、巨大なまずを求めてイスタンブールまで出向くも一匹も釣れず、折角だからと本場のトルコ風呂を体験して帰る表題作の他、ミュンヘンで行われる世界最大のビール祭り取材の旅「西ドイツビールガブのみ血笑旅」、タイトルそのまんま「あやしい探検隊突如としてダンゴ屋を攻める」、バスでの「突然的帝都縦断101キロ1520円の旅」など、地球の反対側からちょっとその辺まで、著者の様々な旅の体験を綴った旅行記(?)です。行き当たりばったりで無茶な印象もありますが、それが旅の醍醐味だと感じられるような豪快さが読んでいて気持ち良いです。 規模の大小や距離の遠近ではなく楽しもうという姿勢が大事なんだとしみじみ思える一殺。
2002年11月03日
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本名も素顔も出生も全てが謎に包まれ、変幻自在神出鬼没、どんな厳重な警備も突破し、明智小五郎やジェームス・ボンドすら手玉に取る世紀の大怪盗ジバコの活躍を描く短編集です。無茶な設定に無茶な展開と、他の誰が書いても無理が出てしまうところを北杜夫ならではの文体が上手く制御しています。ノリはお馬鹿ながら笑いあり涙・・・は無いけどしみじみありと読んでいて心地良い一殺です。 オススメ。
2002年11月02日
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小笠原家の子孫と名乗り、家に伝わるという古書と古図を証拠に南方の無人島の開拓権を要求する浪人の調査を進めるうちに老中同士の権力闘争に巻き込まれる表題作の他、2度までも公使館襲撃に参加し、手柄を立てながらその要領の悪さから人に知られず鬱屈する「異人斬り」、あまりに強過ぎるが故に慢心し、わずかな弱点を突かれて敗れてしまう「弱い奴」など、どこか屈折した人々を中心に描いた短編集です。内容もさることながら題材そのものもあまり見ないタイプで興味深く読めました。 雰囲気的には爽快感に乏しく、寧ろやるせない印象もあるのですが、それが勧善懲悪物でも下町人情物でもない題材に合っていると思います。ちょっと変わった時代物を読んでみたい人にお薦め。
2002年11月01日
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