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筒井康隆『心狸学・社怪学』~角川文庫、1986年(1999年、17版)~ 心狸学編、社怪学編それぞれ7つ、計14の短編が収録されています。全部だと多いので、いくつかを紹介します。 心狸学編の最初に収録されている「条件反射」。交通事故で重体になった作家は、雌犬、豚、馬の臓器を移植され、生き延びます。それらの動物の特徴が行動に表れてくる様子は、滑稽でもあり、さらには恐怖感も覚えるのですが、それよりもマスコミや大衆が恐ろしいと感じました。 「優越感」は、団地の住民と建て売り住宅の住民が争い合う話です。標題にある優越感に、劣等感、虚栄心などなど、だれしも人間がもっている要素を、実に醜く描いてくれています。筒井さんの作品は誰にも容赦がないような感じで、人間って醜いなぁと再認識しつつ、自分もその人間であることをかみしめる次第です。他者を非難するのは簡単ですが、自分の非を顧みずに他者ばかり非難するのは滑稽きわまりないので、気をつけたいと思っています。 内容には深入りしませんが、「エディプス・コンプレックス」では、医者が、精神分析のために患者に薬を与えて、ラリさせる(変な日本語…)シーンがあります。その作者注で、作者もラリることにすると書いてあって、どきっとしました。フィクションですよね…。 社怪学編が、どちらかというと心狸学編よりも興味深かったです。「ゲゼルシャフト」も、マスコミ・大衆批判の性格が強いです。「ゲマインシャフト」は、世にも奇妙な物語にありそうなお話(いや、それは本書の全ての短編がそうですが…)。マンションに住む人々が、みな一種の家族として秘密を共有する。そのラストが恐怖を誘います。 本書の中で一番興味深かったのが、「原始共産制」です。東大紛争を踏まえているのですが、私はその事件をよく知らないため、当時の背景をつかめていないのが少し残念でした。ですが、とても興味深く読みました。塀に囲まれた世界で営まれている(原始)共産主義の生活。しかし、その中にも様々な矛盾があり…というところですね。このブログにはあまり政治的なことを書くつもりはないので(というか、書けるほど明確な政治的信条を正直まだ持っていません)、あまり立ち入るつもりはありませんが、あらためて考えさせられました。本作も、ラストが良かったです。 いままでの紹介でもいくつかふれましたが、まさに「マス・コミュニケーション」というタイトルの短編も収録されています。親の遺言で、生涯に2000人の女性を抱くことに捧げる男性が主人公です。彼の生涯は、結局マスコミに左右されることになるのですが、マスコミに踊らされる大衆の愚かさがよく描かれています。馬鹿らしい設定だからこそ、その愚かさがより浮き彫りになる感じですね。 私はテレビを観る時間よりも本を読む時間の方が圧倒的に長く、島田荘司さんや筒井康隆さんの作品を読んでいると、まあマスコミ不信気味にはなります。テレビを観ていても、あきれることもしばしばです。ですが最近、マスコミに踊らされる視聴者もどうなんだろう、ととみに感じます。某番組を念頭においていますが、番組の情報を鵜呑みにしてさんざん踊ったあげく、捏造が発覚すると手のひら返してテレビ局を非難。私は、捏造を肯定しているわけではありません。決して許されることではないでしょう。こんなことを書きながらも、たとえば「目がテン」とか、割と好きな番組はあります。そうした番組でももし捏造が行われていたなら、残念な気分にもなります。けれどもですね、マスコミに踊らされてある食品に飛びついて、マスコミの報道で捏造を知って、その情報を流したテレビ局を一方的に非難している視聴者・消費者の方がもしいるとすれば、その方々は自分のことを顧みることはしないのかな、と感じるわけです。あの種の情報番組の情報をうのみにしないようにという著書は既にあったにもかかわらず、捏造が発覚してから割と紹介され、注目されるようになりましたね。私はとても滑稽だと思っています。(追記:しかし、手のひら返したようにテレビ番組批判をしている実際の視聴者・消費者を私は一人も知らないわけで、そういう方がいることはマスコミの報道で知っているにすぎず、結局私がここで批判した「大衆」も、マスコミの報道で私が勝手に創りあげた「大衆」像です。結局、私もマスコミに踊らされていることになるのかもしれませんね) と、最近思っていることを本の紹介とあわせて吐き出してみましたが、とにもかくにも、『心狸学・社怪学』、楽しく読みました。風刺やらなにやらのきつさに時折辟易もするのですが…。最後に、私もどこかで多々滑稽な振る舞いをしていることを忘れないようにしつつ、気をつけていきたいと思っています。そもそも不特定多数の方の目に触れうるインターネット上に、このようにマスコミ批判を書くことが、どこか滑稽かもしれませんね。
2007.01.30
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森博嗣『ηなのに夢のよう』~講談社ノベルス、2007年~ いわゆるGシリーズの第六作です。むー、このシリーズではずっと書いているような気がしますが、一冊完結のミステリとしての性格は薄いです。というか、本書にいたっては、ここで展開される事件は(一般的なミステリの形では)完結していないといってもよいです。 10メートル以上高い木の枝にぶらさがっていた首つり死体。現場そばの絵馬には、《ηなのに夢のよう》の文字が書かれていました。その後も、不可解な状況で、首つり事件が相次ぎますが、それらの事件性が薄く、全て自殺と考えられる―そういう流れです。 感想も非常に書きづらいですね。本書の位置づけ(?)は、Gシリーズ(あるいは、S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季の全てを含めた)の転換点、というところでしょうか。なにぶん物覚えが悪いので、あれ、この人物とこの人物はいつの間に出会っていたのだろう、と思ったり、あれ、この人物ってあの人物だっけ、と思ったりしましたが、なかなかシリーズを読み返すのも大変なので、ずっと妥協しています…。 ただ、シリーズをずっと通して読んできているので、感無量になるシーンが多々ありました。本書単体では感想も評価もできませんが、そういう意味では面白かったです。 …このシリーズはとても記事が書きにくいですね。毎度短い文章しか書けません。 と思ったのですが、追記です。既読の方へのネタになりますが、うどんのところに笑いました。やられました…。 * * * 久々に記事を書き始めたわけですが、すごい勢いで迷惑トラバがきますね…。
2007.01.29
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島田荘司『最後の一球』~原書房、2006年~ 御手洗潔シリーズ最新作です。タイトルと帯の文句と謎の提示部分でだいたいオチは分かるので、ミステリとはいうよりも、友情物語とか、あるいはそのままスポ根ものとしての性格が強いですね。社会批判も興味深く、総じて、島田さんの作品はやっぱり良いなぁと思いました。安心して読めます。 以上で感想は言い尽くした感じがありますが(短いですが、とても面白く読んだのはたしかです)、以下、読書メモの意味もこめて、内容紹介と、あらためて感想を。 1993年。ロシア幽霊軍艦事件を終えて少ししてのことであった。御手洗たちのもとを訪れた一人の青年。彼は、自分の母親が自殺未遂をしたことを告げ、さらに自殺を企てないよう、御手洗に相談する。同時に青年が語ったお好み焼きおばさん(彼が働く美容院に、おいしくないお好み焼きを持ってきて、それで料金に代えようとする)に石岡は興味をもつが、御手洗は全く関心を抱かない。裏には、株式上場をとげながら悪質な手口で暴利をむさぼるサラ金(社名:道徳ローン)の存在があった。自殺未遂の女性が借金から逃れる手段はほぼないと御手洗もあきらめていたとき、思いがけない知らせが起こる。女性が、その道徳ローンから、彼女の債権を放棄し、彼女は一円も返済しなくてよいと連絡を受けたというのだった。彼女からの連絡とほぼ同時に、竹越警部から連絡が。サラ金企業の屋上で、いわば密室状態にもかかわらず火事が起こったというのだった。 *(以下、本作の主人公というべき、竹谷さんの経歴のような話になりますので、一応文字色を変えておきます。どきどきしながら読むという感覚を久々に味わったので) 竹谷の父は、道徳ローンの取り立てのため、自殺した。その後、彼は母親と二人で貧しい生活を送っていた。母親に苦労をかけさせないために、お金がいる。そのために、彼はプロ野球選手になると決意し、人の何倍もの練習をした。高校でもエースだったが、プロになる道はたたれる。彼は、社会人野球を続ける。全国の決勝戦で対峙した武智は、その後プロ野球入りすることがほぼ確定していた。武智のはからいもあり、竹谷は、契約金なしで同チームに入団することになる。当然二軍であったが、彼は監督からも見込まれ、さらに努力を続けた。 やがて、結局、一軍に長くとどまれなかったものの、竹谷はほとんど武智の専属のバッティング投手としてチームに残る。武智は、竹谷の優れたコントロールで、自分の弱点を克服していく。しかし、竹谷たちには思いがけない事態が起こった。武智が、逮捕されたのだった。 以前、本書購入の記事を書いたとき、私はスポコンものは苦手なので、どれだけ楽しめるかどうか、というようなことを書きましたが、とても楽しめました。先にも書いた通り、この物語はミステリというよりも、竹谷さんと武智さんの友情と成長が大きなテーマなのですが、この先どうなるのかとわくわくしながら読み進めました。島田荘司さんの作品で、御手洗さんシリーズだからこそ手に取ったものの、普通にはまず読まないタイプの物語なのですが。 涙もろい私ですが、泣くことはなかったですね。しかし、道徳ローンの不正はもちろん、裁判のあり方にいらだちを覚えながら読みました。現実がどの程度反映されているのか私には分かりませんが、納得いかないような裁判の話や検察の取り調べのことはニュースでも見ることがあります。不快ですよね。 いろんな記事に書いていますが、私は、読書は普段考えないことを考えるきっかけとしてもとらえています。そういう意味で、やはり島田さんの作品には考えさせられるなぁと思う一冊でした。
2007.01.29
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古野まほろ『天帝のはしたなき果実』~講談社ノベルス、2007年~ 第35回メフィスト賞受賞作です。以下、いつものように内容紹介と感想を。 主要登場人物は、県立勁草館高校の吹奏楽部の生徒八名、顧問一名。 三年生が引退し、僕―古野まほろら二年生が主体となってのぞむ初めてのコンクールが、冬のアンサンブル・コンサート。古野たちが演奏するのは、顧問の瀬尾が選んだ『天帝のはしたなき果実』。瀬尾は、演奏者である古野たち八人以外に、決して曲について口外しないように告げていた。 古野たちが練習に励んでいる一方、古野の親友であり生徒会長の奥平は、学校に伝わる秘密の解明に挑んでいた。学校にある、四つの絵。四つの獣の像。それらが持つ謎も含めた、七不思議の謎。古野が吹奏楽部メンバー修野から預かった、暗号の書かれたメモも学校の秘密の解明の鍵で、二人はその解明にも挑んでいた。そんな中、奥平が殺される。彼の死体には、首がなかった。 事件の捜査にあたり、軍部と警察の勢力争いも展開される。吹奏楽部メンバー切間の父親は軍部高官、瀬尾の同期の二条は警視正。古野たちは、二人と持ちつ持たれつの関係となり、事件を調べていく。コンサートに向けた練習とならんで。 その後も、関係者が不可解な死を遂げる。そして、コンサート当日、さらなる殺人事件が起こった。 メーリスなどで軽く内容は把握していましたが、パラレルワールドが舞台だということもあり、SFの要素もあります。メンバーがコンクール目指して練習する姿、コンクールでの熱演など、青春物(そんなジャンルがあるのか…)の要素も強いです。もちろん、若干の留保は必要ですが、ガチガチのミステリです。留保というのは、「読者への挑戦」にあたる部分でもほのめかされていますが、読者が、事件の全貌を一般常識と論理で解決できるわけではないからです。ガチガチのパズラーと、SF的読み物がうまく織り込まれているといったところでしょうか。 文体の方は、なれるまでしんどかったです。…漢字表記にカタカナルビが付されている言葉が非常に多いですし、日本語表記に英語、フランス語、(おそらく)イタリア語、ロシア語のルビというのもしばしばですし、別の記事へのコメントでむらきかずはさんが教えてくださったように、「うげらぼあ!」など、ひっかかるような台詞も多々ありました(私が覚えている限り、「うげらぼあ」は三箇所ありました。その他、はふう、なるへそ、などの言葉も気になりましたが…)。そこは好みの問題として割り切るしかないのでしょうか……。 もちろん、伏線だろうなぁという箇所は多々あるのですが、最初の事件が起こるまで200ページ近くあるので、ミステリの要素ばかりを期待しているとしんどいかなぁ、という気もします。途中で、そういう期待は抑えながら読みましたが、個人的には事件を解決していく過程が面白かったです。 コンクールで結果発表待っている間に、身内が殺されていることを知り、結果を知るためにその死を隠すとか、メンバーで謎解きを披露しあうとか…。しかし、極限状況なら逆にありなのかもしれない、と飲み込むとしましょう。それにしても、つっこみどころが多いなぁと思ったのは、この手の物語にはついてまわるものなのでしょうか。リアリティは希薄だと思うのですが、SFともうたっていますし…。 個人的に面白かったのは、古典的ミステリの要素がいろいろと盛り込まれていて、その点が嬉しかったのと、岸部露伴先生の名前が出てきたことですね。これはテンション上がりました。
2007.01.28
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西尾維新『化物語(下)』~講談社BOX、2006年~ あとがきによると、100%趣味で書かれたそうです…。それなのにというべきか、だからこそというべきか、大笑いの連続でした。その中でもぐっと涙ぐみそうになるシーンなんかもあるわけですが、そういうシーンをひっぱることなく笑いを織り交ぜてくるあたり、うならされました。 さて、全体の感想みたいなことを最初に書いてしまいましたが、簡単に下巻の内容紹介もしておきましょう。「第四話 なでこスネイク」阿良々木さんと神原さんが、忍野さんに仕事を頼まれて、古い神社を訪れます。仕事というのは、その神社の本殿に札をはるということだったのですが、その神社のある山で、二人は意外な人物と出会います。翌日はっきりと分かるのですが、その人物は、阿良々木さんの下の妹の友達、千石撫子でした。仕事を行った日、二人は、五つに切られた蛇を発見していました。再び千石さんと出会ったとき、二人は彼女を連れ帰ります。彼女についている蛇を祓うべき、阿良々木さんは忍野さんの元へ向かいます。「第五話 つばさキャット」阿良々木さんが怪異と関わるようになったのは、春休みに吸血鬼に襲われたことでした。そのとき、忍野さんとともに、彼を助けたのが、羽川翼さんだったといいます。ゴールデンウィークには、その羽川さんが猫に魅せられたということが、本編でもずっと語られてきているのですが、その猫が現れます。このブログの趣旨にそぐわない単語を出さざるをえませんが、登場シーンは単に猫耳の羽川さんです。そんな感じでテンション高いです。最後の物語ということもあり、それらしい話でもありました。 * * * 『化物語』では、物語のキーワードとなるのは、もちろん怪異だと思いますし、さらには家族だの恋愛だのということになるでしょう。そのあたりのシリアスな描写はそれはそれで、物語として面白く読んだのですが、阿良々木さんとその他の登場人物との掛け合いには何度も笑いました。阿良々木さんと戦場ヶ原さん(割と早く誰だか分かるのですが、一応伏せ字で…)の初デートは、最初は笑えるばかりというのに、素敵なところはきちんと素敵で良かったです。その後日譚にもほのぼのでした。 他に印象に残っているのは、ラジオ投稿ネタでしょうか。…割とベタな感じかもしれませんが、笑わされました。 そう、本書でも、忍野さんはやっぱりかっこよかったです。アロハのおっさんということですが、人間のかっこよさとは関係ないですね(笑) というんで(?)、とにかくエンターテインメント作品です。
2007.01.27
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西尾維新『化物語(上)』~講談社BOX、2006年~ あとがきを読むと感想がかきづらくなりますが、それでもいつも通りに書いていきましょう。 春休みに吸血鬼におそわれた阿良々木暦さんの一人称で話が進みます。彼とその周辺に起こる、怪異をめぐる三つの中編が収録されています。「第一話 ひたぎクラブ」 最初は、体重をなくした同級生、戦場ヶ原ひたぎさんをめぐる物語です。他人に壁を作り、友達を一人ももたない戦場ヶ原。たまたま、彼女に体重がないことを知った阿良々木さんが彼女のことを調べると、カッターナイフとホチキスを口内に入れられ、二度と彼女に干渉しないように脅されることになります。それでも、阿良々木さんは戦場ヶ原さんに干渉し、その怪異を解決できるかもしれないから力になりたい、というのでした。 阿良々木さんは、彼が吸血鬼になっていたところを助けてくれた「奇人」忍野メメのもとへ彼女を連れて行きます。忍野さんは、彼女の過去を聞きながら、彼女に起こった怪異を祓うのでした。 * メメという妙な名前ですが、忍野さんは案外かっこいいキャラです。いきなり、清楚なイメージとはかけ離れた言動をみせてくれる戦場ヶ原さんですが、彼女と阿良々木さんの掛け合いも面白いです。というか、各々の中編のメインキャラクタと阿良々木さんのやりとりはえてして面白いです。 さて、戦場ヶ原さんが体重を取り戻すシーン。話が話なので仕方がないかもしれませんが、それはどこか、京極堂さんの憑き物落としを連想しました。ともあれ、そのシーンがかっこよいです。「第二話 まよいマイマイ」 母の日に、家にいづらくなり、一人公園でたたずんでいた阿良々木さん。すると、そこにたまたま戦場ヶ原さんが現れます。前回のお返しがしたいという戦場ヶ原さんと、楽しいトークを展開するのですが、阿良々木さんは道に迷った女の子を見つけます。戦場ヶ原さんはもともとその地区の出身だったこともあり、女の子のいう住所に連れて行こうとするのですが、どうしてもたどり着くことができません。ここにも、怪異が絡んでいるのでした。 * これは、物語の展開としてとても面白かったです。女の子―八九寺真宵と阿良々木さんの間に割とスプラッタな戦いが展開されたりもするのですが、読んでいてびっくりできたのが良かったです。そして、これは切ない要素もありますが、いわゆるいい話です。良かったです。「第三話 するがモンキー」抜群にバスケットのうまい下級生の神原駿河さんに、とつぜんストーキングされるようになった阿良々木さん。彼女と戦場ヶ原さんには接点があり、そこが、ストーキングの理由でもあるのですが、神原さんも、怪異に悩まされていました。彼女は、その人の意に反する形で願いを叶えるという、「猿の手」に願い事をしていたのでした。 * もう、なんとも感想、というか内容紹介が書きにくくなってきます。ここでも、解決編(?)では、忍野さんがかっこいよいです。神原さんも独特なキャラで、褒め殺しタイプです。阿良々木さんのつっこみも、話を読み進めるにつれて楽しみになってきます。 * * * 第一話、第二話は、特に「家族」というのを一つのキーワードと思いながら読んだのですが、第三話は方向が違いました。そんなにスプラッタ(?)な戦闘シーンはなくても…と思うのも確かですが、怪異を祓うという形は面白く読みました。どの話にも、ミステリ的な謎解きの要素があって(明確に謎が提示されるわけではないのですが、不自然な部分が氷解する感じですね)、それが私には面白かったです。なんというか、そういうのに安心するのでした。
2007.01.27
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横溝正史『喘ぎ泣く死美人』~角川文庫、2006年~ いままでの作品集に収録されていない、横溝さんの初期の作品を集めた短編集です。ショートショートも収録されていて、たしかに、いままでに読んだことがないような作品も読むことができて嬉しかったです。 以下、簡単に内容紹介を。「川獺(かわうそ)」名家の令嬢、お蔦が、毎日のように夜になると出かけていく。村には、一揆を起こしたかどで殺された人々がまつられている祠が池のそばにあり、彼女はその湖に向かっているという噂がたっていた。さらには、嫁入り前のお蔦には悪いことに、その池の川獺の子供をみごもっているという噂がたった。それでも、夜には出かけていく彼女だが、ついには殺されてしまう。その後も、彼女の継母など、二件の殺人事件が続く。 * 久々に横溝さんの短編を読んだわけですが、本当にわくわくしながら読みました。なぜ、お蔦は夜になると出かけるのか。物語にはさらに、同じく夜になると出かける若い僧侶も登場し、彼らの関係やいかに、とどきどきするわけですね。 三人の人物を中心に、節ごとにその人物の焦点をかえていくという手法でした。節がかわると、どう話がつながるのかと気になるわけですが、楽しく読みました。「艶書御用心」友人から、14人の女性の袂に名刺を入れた男の話を聞いた水谷は、自分もそのまねをして、なんとか恋人をつくろうと考えた。名刺を配るものの、まったく返事がないと不安になっていたとき、彼にラブレターが届く。 * これは愉快な話でした。不審なラブレターなので、なにかとんでもない事件に巻き込まれることになるのかとどきどきしましたが、そんなこともなく、ラストはほのぼのでした。「素敵なステッキの話」 * 雑誌記者の本田さんが叔父からもらったステッキが、本田さんが担当する作家の間をめぐりめぐって…という話。こちらもほのぼのでした。「夜読むべからず」ロンドンのクラブに集まった人々が、怪談をしようという話になる。そこで、探検家のハンソン氏が、自分が南アフリカに行ったときに発見した奇妙な遺体と、その遺体の手が握っていた手記の話を始める。 * タイトルからも分かる通り、ホラーです。これもなかなかでした。「喘ぎ泣く死美人」 * 表題作です。ロンドン近郊の、幽霊話が伝えられる邸宅を買った夫婦。妻はアメリカ人で、幽霊を信じておらず、もしいるようなら会ってみたいという女性です。その夫が出かけた夜、広い邸宅で一人でいると、彼女も不安になってきます。そこに、女性と男性の幽霊が現れ、彼女たちが殺されるシーンが再現されるのでした。 タイトル通りに幽霊が登場するとは思っていなかったので、意外な感じでした。ホラーというか、幻想小説というか。やっぱりラストが良かったです。「憑かれた女」幻覚を見たり、悪夢にうなされたりして、ついには寝ることも不安になるほどの症状をもつエマ子。彼女がお世話になっているマダムから、エマ子を気に入ったという外国人男性を紹介される。ところが、外国人に奇妙な屋敷に連れられると、そこで彼女は、湯船で死んでいるように思われる女性と、夏にもかかわらず火が燃えている暖炉で焼かれている、女性の足を見ることになる。そして、彼女の関係者が次々と殺される。 * 同題の短編の原型だそうです。由利先生シリーズの一つのその作品は私も読んでいるのですが、すっかり内容を忘れていました。この短編集の中で一番長い作品です。《ショート・ショート・ストーリー集》 この部分には、9編のショート・ショートが収録されています。その中の一つには、山名耕作という作家が登場するのですが、横溝さんは「山名耕作の不思議な生活」という作品を発表しておられるので、ちょっとテンション上がりました。その他、「地味屋開業」など、ほのぼの作品がけっこうあります。「絵馬」 * 岡山県総社の元刑事・浅原さんから、過去の事件を聞く、というスタイルです。総社はうちから一時間ほどで行けることもあり、地元が舞台だとやはりテンションが上がります。老婆が何者かに殺される。物取りの犯行とも思われたが、それには不審な点も見受けられる。独自に捜査を進める浅原さんは、老婆をめぐって過去に起きた事件を知り、真相にたどり着きます。横溝さんの世界が堪能できる作品ですね。 その他、本書の単行本版にも収録されていなかった二編の短編が収録されています。 * * * 大きな仕事にも一段落つき、読書自体が久々で楽しみだったのに加え、久々に未読の横溝さんの作品を読めたので、とても良い読書体験でした。ユーモア作品もけっこうあるのが嬉しかったですね。「艶書御用心」が印象に残っています。
2007.01.27
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さて、先の記事にも書いた通り、修士論文も受理されたので、今日はいままで我慢していた本を買いました。辻村深月さんの『スロウハイツの神様(上・下)』、古野まほろさんの『天帝のはしたなき果実』、森博嗣さんの『ηなのに夢のよう』の四冊三作品です。特に古野さんのデビュー作が楽しみですね。これらの本を読むのも楽しみなのですが、まだ未読の本がたんまりあるので、ぼちぼち読んでいきます。さぁ、何から読みましょうかと、それを考えるだけでも嬉しくなってきます。というんで、またしばらく、本の感想などの記事をアップできると思います。しばらくまったく更新していませんでしたが、見に来てくださっている方々に励まされています。これからもよろしくお願いします。
2007.01.26
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久々の書き込みです。まずは挨拶ですが、修士論文が受理されました(研究室同期に感謝します)。これでやっと一息つけるので、しばらく少しのんびり過ごしながら、未読の本を読んでいきたいと思っています。 * * *さて、昨日は映画「犬神家の一族」を観てきました。私は、横溝さんの作品が大好きで多く読んでいるのですが、本作品の原作はそれほど…と思っていました。一家の遺産相続をめぐる血みどろの事件…。舞台があまりに固定されているのが、当時(高校生か中学生)の私にはあまりぱっとしなかっただと思っています。ところがところが、映画はけっこう面白かったです。石坂さんが金田一さんを演じるのを観るのは私にははじめてなのですが、金田一さんの雰囲気がよく出ていたと思います。若い俳優さんよりも、原作でイメージする金田一さんに近いですね。以下、簡単に内容紹介を。犬神家の当主が亡くなり、母親を異にするその三人の娘の子供たちが遺産相続に大きな役割を果たします。その当主は、犬神家の人間ではないけれどつながりの深い珠世が、三人の孫のうち誰かを選んだ場合、全財産を彼女に相続させるという遺言を遺していたのでした。彼らそれぞれの三人の母親、その家族は、自分たちに相続権がないことに憤りつつ、それならば自分の子供と珠世が結婚すればいい、と思うのでした。珠世が選ぶべき相手は、佐清、佐武、佐智の三人のうち一人。しかし、佐清は、戦争で顔にひどい傷を負ったということで、仮面をかぶっていました。それが、本物の佐清なのか、ということが問題になっている最中、佐武が殺されます。菊人形の首と、佐武の死体の首がすげかえられるという、陰惨な事件が起こりました。その中、佐清の指紋を調べると、間違いなく佐清の指紋であるという結果がでます。しかし、事件は続きます。佐智が、絞殺されます。発見時、その首には琴糸がまきつけられていました。菊、琴。これは、犬神家に伝わる家宝、斧琴菊(よき・こと・きく)になぞらえられた連続殺人だと思われました。そして、佐清は、斧で頭を割られ、湖に逆さに浮かべられていたのでした…。…軽く不本意な部分の残る内容紹介ですが、やむをえないですね。原作の、「すけきよ」を逆さにして、足だけ湖から出しているから、「よき」という見立てが、映画では説明されていなかったのが残念でした。湖もそう浅くはないでしょうに、どうやってあの状態を保つのかも気になりますが、やっぱり分かりませんでした。…などと言いつつ、スプラッタなシーンは目をスクリーンからそらしていた私です(苦笑)以下、ネタばれを含むので、文字色を変えておきます。金田一さんが、重要容疑者と思われた人物の無実を証明するシーンと、その後その人物が慟哭するところは、ぐっときました。金田一さんかっこいいなぁと思ったシーンです。私は横溝さんの作品が大好きで、金田一さんが登場する作品はほぼ全て読んでいると思うのですが(ジュヴナイルものの中には、未読の作品もあります)、その中で感じるのは、金田一さんの優しさです。もちろん、疑うときには様々な可能性を検討しつつ人を疑うわけですが、それでも、真犯人に対しても優しさがうかがえると思うのです。そんな金田一さんの優しさがうまく表現されているなぁと思いました。同じく金田一さんに関するネタでは、ラストシーンに感動しました。金田一さんを見送る、ささやかなお茶会を開くことになるのですが、主がちょっと目を離したすきに、金田一さんはこっそり帰って行きます。その後、お茶会に参加する方々が集まってくるのですが、あれ、金田一さんがいない、となるのですね。集まった中には、金田一さんがとまっていたホテルの女中さんもいるのですが、彼女は、金田一さんがおいしかったと言っていた卵をおみやげにと持ってきていたのです。その他、花束を持ってきている方もいたり。なんというか、もう、感無量でした。追記ですが、猿蔵さんがかっこよかったです。
2007.01.26
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本年もよろしくお願いします。 * 12月中旬くらいまでは、元日には一日中小説を読もうか、などと考えていたのですが、あまりにも誤算というべき状況にあり、今日も論文を進めておりました。それでも、順調に作業が進んだため、有意義な一日でした。 今年も、大晦日には素敵な一年だったと振り返られるような一年になりますように。
2007.01.01
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