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ジョナサン・カラー(荒木映子・富山太佳夫訳)『1冊でわかる文学理論』~岩波書店、2003年~ (Jonathan Culler, Literary Theory: A Very Short Introduction, Oxford University Press, 1997) 著者のジョナサン・カラーは1944年生まれで、2003年当時はコーネル大学教授。専門は英文学、比較文学で、訳者の富山先生によれば、もともとはフロベールの研究者だったとのこと。 本書はそんな著者が、文学研究に影響を与えた理論をたどる入門書です。 本書の構成は次のとおりです。 ーーー まえがき 謝辞 1 理論とは何か? 2 文学とは何か? 文学は重要か? 3 文学とカルチュラル・スタディーズ 4 言語、意味、解釈 5 レトリック、詩学、詩 6 物語(ナラティブ) 7 行為遂行的な(パフォーマティヴな)言語 8 アイデンティティ、同一化、主体(サブジェクト) 補遺 諸理論の流派と運動 これから、どうする(富山太佳夫) 読書案内 参考文献 ――― ふだん読まないジャンルに挑戦してみましたが、理解できない部分がかなり多かったです。十分なメモは書けませんが、印象的だった部分のみメモしておきます。 第1章は、一番興味深く読みました。Theoryという言葉の意味を考える事例も面白いのですが、ここではtheoryを、「単なる仮説以上のものでなければならないが、自明のことであってはならない。多くの要素間の体系的かつ複雑な関係を伴うべきであって、確証するのも反証するのも容易であってはならない」(4頁)としています。 また、理論の例として、ミシェル・フーコーとジャック・デリダの著作をやや詳しく紹介している部分も勉強になりました。 第2章以下はついていくのがやっと(というかついていけてもいない)というところですが、第7章では途中で挫折している(明快な解説だけは目を通した)オースティンの『言語と行為』の意義とそれへの反論などが示されており、個人的に有益な章でした。 補遺で、本論で言及される主な理論の流派と運動の概要が示されており、ここだけでも本書の価値は高いと思われます。 イギリス人が簡潔な入門書を作るのが好き、という指摘などのある訳者あとがきも興味深く読みました。(2020.09.27読了)・その他教養一覧へ ※2021.11.10西洋史関連(邦訳書)一覧からその他教養へ変更
2021.01.30
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泡坂妻夫『奇術探偵 曾我佳城全集(上)』 ~創元推理文庫、2020年~ 若くして引退した奇術師・曾我佳城さんが活躍する短編集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「天井のトランプ」教師の法界は、教室の天井にトランプが張り付けられていることに気づく。家の天井にも付いていて驚くが、自分の子どもが知っているという。誰がやり始めたのかを辿っていくうちに、法界は殺人事件を追う竹梨刑事と知り合うことになる。 「シンブルの味」アメリカ・カナダへ旅行に訪れていたメンバーの一人が失踪した。彼は前日、手品を披露する際に、手品用の指ぬきであるシンブルを飲み込むという芸当を披露していたが…。 「空中朝顔」曾我佳城を驚かせた、空中に咲いたような朝顔の由来とは。 「白いハンカチーフ」非常に衛生的な学生寮で起こった集団食中毒事件の真相は。 「バースデイロープ」ロープ奇術の得意な奇術師が招かれたホテルの一室で、ロープで絞殺された女性が発見された。バースデイケーキの蝋燭が意味するものとは。 「ビルチューブ」吹雪の夜、カナウマ荘に宿泊したメンバーたち。その一人が、燃やしたはずの紙幣を復元させる奇術を披露した翌日、彼は失踪し、メンバーたちのカメラのフィルムなどが消えていた。 「消える銃弾」銃を使った奇術中、本当に銃弾が発射され、アシスタントが死亡するという事件が起こった。奇術師はなぜ失敗したのか。 「カップと玉」奇術材料専門店、機巧堂に届けられた奇妙な原稿。それは、執筆者からのSOSだった。カップと玉の奇術を利用した暗号が示すものとは。 「石になった人形」有名腹話術師が、演技後、楽屋で死亡しているのが発見された。腹話術人形が入っていたはずの箱には、かわりに巨大な石が入っていた。 「七羽の銀鳩」鳩を使った奇術を演じていた男に起こった悲劇。佳城が見に来ていたその日、何者かに鳩が全羽すり替えられてしまっていた。 「剣の舞」三本の剣で女性の体を支える奇術を演じていた男が殺され、アシスタント女性も殺されていた。奇術を見ていた佳城が指摘した、奇術師の犯したミスとは。 ――― 自身も奇術家として有名な泡坂さんが描く、奇術探偵が活躍する短編集ということで、すべてにわたって奇術がモチーフになっています。 作品の発表順に収録されているそうですが、第一話の天井にトランプがはりつけられているというつかみから、もう物語に引き付けられました。 その他印象に残っているのは、「白いハンカチーフ」、「「石になった人形」、「剣の舞」です。「白い…」は、生放送の番組のなかで佳城さんがすぐに真相を見破るというスリリングな展開。「石になった人形」「剣の舞」は、ユーモアの効いた作品も多い中、シリアスさが強く、特に「剣の舞」のクライマックスで視点がかわるところは秀逸でした。(2020.09.16読了)・あ行の作家一覧へ
2021.01.28
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西洋中世学会『西洋中世研究』12 ~知泉書館、2020年~ 西洋中世学会が毎年刊行する雑誌です。 今号の構成は次の通りです。 ――― 【特集】カロリング期の記憶 <序文> 菊地重仁「記録を残し記憶が残る―カロリング期の史料と中世におけるカロリング期にまつわる過去の想起―」 <論文> 山本成生「〈グレゴリオ聖歌〉成立の記憶」 奈良澤由美「カロリング時代の組み紐装飾の記憶―「懐古的」礼拝空間演出の事例―」 鈴木道也「<Reditus Regni ad Stirpem Karoli Magni>再考」 小川直之「武勲詩におけるカール大帝の光明面(ライトサイド)と暗黒面(ダークサイド)」 津田拓郎「「大立法者」としてのカール大帝の記憶」 【論文】 木場智之「「社会的動物としての人間」と「政治社会」:フランシスコ・デ・ビトリアのテクストから」 仲田公輔「9-11世紀におけるビザンツ帝国からアルメニアへの聖十字架断片の奉遷」 三浦麻美「呪詛ではなく祝福を:マンスフェルト伯家と加門修道院ヘルフタに見る13世紀末の紛争と和解」 【新刊紹介】 【彙報】 ――― 特集は、西洋中世学会第10回大会で行われたシンポジウムを出発点とします(同シンポジウムについては『西洋中世研究』10、2018年、262-264頁に概要あり)。シンポジウム中、宮内ふじ乃氏による報告「行き交うベアトゥス写本の挿絵と文字」の論文はないかわりに、奈良澤論文と鈴木論文が追加されています。 菊池論文は1200年頃にシゲベルトゥスにより書かれた『年代記』を取り上げ、「カロリング期の記憶」という特集のテーマにまつわる諸論点を提示するとともに、特集に寄稿された各論文との関わりも示すなど、優れた特集の序文となっています。 山本論文は、カロリング期の音楽政策(典礼との関わりから)にピピンらの「記憶」が利用されていることを明らかにするとともに、音楽分野に関する「カロリング期の記憶」が後世にどのように引き継がれたかを今後の展望として示します。 奈良澤論文は、カロリング期に生まれた組み紐装飾の利用という観点から、ロマネスク期における彫刻分野での過去の記憶の利用を論じます。 鈴木論文は、ヴァンサン・ド・ボーヴェ『歴史の鑑』を中心とする歴史史料から、「シャルルマーニュの系譜への王統の回帰」(=論文タイトル)という言説の意味を探る試み。時代、史料ともに関心に近く、興味深く読みました。 小川論文は文学史料(武勲詩)に描かれるカール大帝像の分析から、彼が肯定的に描かれる事例と否定的に描かれる事例を抽出し、その意味を考察します。否定的に描かれる場合でも、カール大帝をおとしめるというよりは、「君主」の類型の代表として描かれているという指摘が印象的です。 津田論文は、実際にはカール大帝は大量の勅書を発布していないにもかかわらず、彼が多くの勅令を発出した「大立法者」であるというイメージがいかに創出されたのかを、中世の史料と近世の研究を丹念に読み込んで論じます。こちらも鈴木論文同様に興味深く読みました。 木場論文は、従来十分に研究されていないビトリア(1483-1546)による『政治権力について』における人間の社会性の議論に関する政治思想史研究。 仲田論文は、ビザンツ帝国からアルメニアへの十字架断片の奉遷は上下関係を示す一方的なものだという従来の見方を相対化し、様々な事例を挙げ、お互いに利害にもとづく交渉として奉遷がなされたことを指摘します。 三浦論文は伯家とその家門修道院の関係をめぐる一事例から、女子修道院ヘルフタが後期中世に果たした役割を論じます。 新刊紹介では32の欧文研究が紹介されます。小澤実先生による、中世グローバルヒストリーの著作3冊を紹介する部分は圧巻。また、栗原健先生による、中世における妖精について論じた書籍と、「僧院長がある日突然女性に変化し、男性と結婚して子供をもうけた後、再び男性の身体を取り戻す」という中世アイルランドで語られた異色の物語について考察する書籍の紹介も興味深いです。(2021.01.07読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2021.01.23
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金澤周作監修『論点・西洋史学』 ~ミネルヴァ書房、2020年~ 古代から現代までの西洋史における139の「論点」を示す珍しい著作です。 あくまで、西洋史の概説を示すことに目的があるのではなく、歴史学の営みの重要なポイントとしての「論点」を提示し、読者自身に考えてもらうことにポイントが置かれています。 項目ごとに見開き2ページでまとめられていて、その項目の史実(通説)を示したのち、「論点」としてその項目をめぐるこれまでの様々な学説などを提示し、さいごに「歴史学的に考察するポイント」として、論点をふまえた問題提起がなされる、という形式となっています。 本書の主な構成は次のとおりです。 ――― はじめに I 西洋古代史の論点(32項目) II 西洋中世史の論点(28項目) III 西洋近世史の論点(29項目) IV 西洋近代史の論点(26項目) V 西洋現代史の論点(24項目) 欧文参考文献 おわりに 研究者名一覧 人名索引 事項索引 ――― 冒頭にも書きましたが、本書に収録された多くの項目では、とりあげた項目をめぐるこれまでの学説を整理し、いかなる論争が繰り広げられてきたかが示されます。一方、わずかではありますが、具体的な学説は提示せず、やや概説的に、その項目にまつわるいくつかのトピックスを列挙するようなものもあったのは、少し残念でした。 なにしろ1項目見開き2ページですから、もっと深く議論を知りたい、と思う項目もありました。しかし、まさにそれが本書のねらいなのでしょう。各項目について、見開き欄外に主な邦語文献が示されており、巻末には項目ごとに主要な欧語文献が示されていますので、より深く気になった項目を調べることが可能となっています。(もっとも、本当の本書の趣旨は、「調べる」のはもちろんですが、その先の「考える」なのですが。) 個人的には、古代史の項目の一つ「ブラック・アテナ論争」は、一時期書店で関係する文献の背表紙をよくみていたので、名前は目にしていたことがありましたが、どんな内容なのかを知ったのは今回が初めてで、勉強になりました。専門に勉強している中世史の各項目を興味深く読んだのももちろんですが、ふだんあまりふれない近世史以降の時代についても、色々な項目にふれられることができたのは良い経験でした。 ふだんあまり読まない分野だったり、学説の提示がメインだったりすることもあり、なかなか読み進めることはできませんでしたが、それだけ各項目が濃い叙述だということと思います。 概説書でもなく、西洋史に関する事項をまとめた事典でもなく、あくまで主要な項目の「論点」をまとめたという希有な一冊です。勉強になりました。(2020.08.21読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2021.01.20
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乾くるみ『セブン』 ~ハルキ文庫、2015年~ 乾さんによるノンシリーズの短編集です。7をテーマにした7編の短編が収録されています。 「ラッキーセブン」生徒会メンバーの一人が7人でやるカードゲームを思いつく。みんなで試してみようとしたところ、悪魔が現れ、本当のバトルロワイヤルになってしまい……。という、非日常の要素もある、ゲームをモチーフにした短編。心理戦の駆け引きも面白いです。 「小諸―新鶴343キロの殺意」新興宗教の幹部たちが殺される。奇妙な装飾の意味とは。……本書の中ではミステリ要素が強い作品の1つ。343は7の3乗ですね。凝っています。 「TLP49」身に危険が迫ったとき、その後の49分間がきっちり7分ずつ、順番がランダムに経験されるという奇妙な体質を持った男。彼が今回タイムリープに入ったのは、彼の体質を知る同級生のせいだった…。こちらもSF感のある作品。どの順番でタイムリープするのか、危険な目に遭っている理由はなんなのか、はらはらしながら読み進められました。これは好みでした。 「一男去って……」7人兄弟の長男、春雄の母は、3月になると調子を崩し、子どもたちに暴力をふるってしまう。春雄が中学を卒業したその日、ついに母は七男を殺してしまい…。と、内容紹介だけ書くと重そうですが、本作は文庫でわずか4ページのショートショート、思わず苦笑してしまうお話でした。 「殺人テレパス七対子(チートイツ)」タレント活動もしている女流雀士の月見里亜弓がスタジオビルで撮影していた日、7組の双子の女性たちによる実験の番組も収録されていた。その収録中、とつぜん一つのスタジオに何者かが押し入り、スタッフを殺害して逃走してしまった……。と、こちらもミステリ色の強い作品の一つです。 「木曜の女」元司は、曜日ごとに、異なるタイプの女のもとで過ごしていた。しかしある夜、木曜の女が少しいつもと違うことを言い出して……。こちらはかなり直接的な描写がありなんとも紹介しづらいですが、意外な結末も用意されています。 「ユニーク・ゲーム」敵地に捕虜としてつかまった7人の兵士たち。捕虜の扱いになれていない敵は、ゲームで彼らの生き死にを決めるというが…。こちらは冒頭の「ラッキーセブン」同様、ゲームに主眼をおいた作品。2つのチームに分かれた彼らは、無事に全員生き残ることができるのか、はらはらしながら読みました。 最近乾さんの作品を次々と読んできていて、その作風の豊かさに驚かされていますが、本書は一冊で、とてもバラエティ豊かな短編が味わえる作品集となっています。(2020.08.18読了)・あ行の作家一覧へ
2021.01.16
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乾くるみ『六つの手掛り』 ~双葉文庫、2012年~ 林兄弟の三男、林茶父(さぶ)さんが活躍する短編集です。6編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「六つの玉」突然の事故で、現場近くの民家に泊まることになった林たち。翌朝、一緒に泊まった一人の男が死んでいた。事故ではないと感じた林だが…。 「五つのプレゼント」過去に、林の同級生が、当時付き合っていた恋人と同じ日に爆死した。恋人には、彼女を慕う研究室仲間たちからプレゼントが届けられていた。同級生が爆発物を送ったと警察は考えていたが…。 「四枚のカード」小山田教授の講義の補講に訪れた学生たち。その日、手品を得意とするカナダの学者が訪れ、学生たちにも、心を読むという手品を披露する。その後、小山田教授の研究室で作業していたカナダ人学者が殺されているのが発見される。 「三通の手紙」林が知人の市職員とスナックで過ごした夜、終電を逃す時間になり、常連の男の家に泊めてもらうことになった。男が旅行先で撮ってもらったという写真を見せてもらったりしながら過ごした翌朝、男と一緒に旅行に行っていた人物が殺されたという連絡が入る。男の家の電話に入っていた留守番電話の意味とは。 「二枚舌の掛軸」人を驚かせるのが好きな「御前様」こと松平は、隔月で晩餐会を開いていた。手品を通じて知り合った林が参加した夜、松平は対幅で飾ったら人が死ぬという掛軸を手に入れたという。その珍しい保存方法をクイズにしていた松平だが、その夜に殺されてしまう。 「一巻の終わり」ミステリ作家のもとに対談のため訪れた編集者たち。しかし手違い(?)で作家は日付を間違って覚えており、司会役の女性と決裂した毒舌批評家が作家の家を訪れていた。そしてその日、批評家が殺される。 ――― 山前譲さんによる秀逸な解説にもありますが、林兄弟のエピソードは、四男の真紅郎さんが活躍する『林真紅郎と五つの謎』、次男の林雅賀さんが活躍する『蒼林堂古書店へようこそ』がすでに発表されています。そして三男の茶父さんが活躍する本書は、論理が徹底されたミステリとなっています。 茶父さんが手品に精通しているということもあり、特に「四枚のカード」「三通の手紙」は、手品が謎解きにもつながっていて、好みの作品でした。(2020.08.16読了)・あ行の作家一覧へ
2021.01.13
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乾くるみ『セカンド・ラブ』 ~文春文庫、2012年~ タロウ・シリーズの長編です。有名な『イニシエーション・ラブ』を想起させるタイトルですが、直接の関係はありません。もっと、大きな事件が起きないけれど、すごい仕掛けが、というあたりは共通しています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 正明は、先輩に誘われ、元日夜にスキーに行くことになった。そこで、先輩の彼女の友人―春香と出会う。あまり話さない正明だが、少し彼女に惹かれていた。後日、彼女から正明に電話があり、やがて二人はつきあい始める。しかし、彼女は正明に番号を教えず、電話は彼女から正明への一方通行しかなかった。 ある日、二人がデートをしていると、春香そっくりの女性がスナックにいたと言い張る男と遭遇する。そして、男が口にした名前の店を、好奇心から訪れたところから、正明は少しずつ変わり始めていく。 ――― 『イニシエーション・ラブ』とはひと味違う、これまた驚きが味わえる作品でした。気になる描写はありましたが、まさかこんなことになるとは…。やられました。 楽しく読みましたが、なんとも感想の書きにくい作品ですので、このあたりで。※『イニシエーション・ラブ』は本作を読む前に読み返しましたが、2008年の記事から更新することは省略しています。とはいえ、2008年の記事ではいろいろ書いていますが、やはり2回読んで凄さがわかるというのを痛感した次第です。(2020.08.06読了)・あ行の作家一覧へ
2021.01.09
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乾くるみ『新装版 塔の断章』~講談社文庫、2012年~ 乾さんの単著でいえば3作目の長編にあたる、初期の作品にして、タロウ・シリーズ第1弾です。それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――『機械の森』という小説がゲーム化されることになり、企画に参加することになった小説家の辰巳まるみは、室長の別荘に招かれた。複数のメンバーで過ごした翌朝、室長の妹が別荘の塔から墜落死しているのが発見される。 辰巳は、企画担当の天童とともに、事件の真相を解明してほしいと頼まれ、調査を進めていくこととなるが…。――― タイトルどおり、本編は「断章」として、色んな場面が時系列に沿わずばらばらに提示されるという、独特の構成です。その構成への先入観から、とっつきにくいというイメージがあり、初期の『Jの神話』や『匣の中』を読んでいた頃には手に取らずにいたのですが、あにはからんや、これは面白かったです。 辰巳さんが『機械の森』を書くきっかけとなったと思われるエピソードや、事件が起こるまでの様々な過程やメンバーの思惑など、断片的に描かれながらもそれらがつながっていき、結末に向かっていくのを、わくわくしながら読み進めることができました。 この度読めて良かったです。(2020.07.29読了)・あ行の作家一覧へ
2021.01.07
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