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今回は、2008年1月に記事を書いた本のリストです。番号は、今年読んだ順番で、印象に残った本には☆マークをつけています。1.森博嗣『もえない Incombustibles』2.倉知淳『星降り山荘の殺人』3.筒井康隆『虚人たち』4.筒井康隆『革命のふたつの夜』5.島田荘司『高山殺人行1/2の女』6.二階堂黎人『地獄の奇術師』7.島田荘司『島田荘司very BEST 10』8.島田荘司『本格ミステリー宣言II ハイブリッド・ヴィーナス論』9.高田崇史『QED 諏訪の神霊』10.筒井康隆『日本列島七曲り』 ☆11.舞城王太郎『スクールアタック・シンドローム』 ☆12.森博嗣『タカイXタカイ Crucifixion』~1月総評~ 仕事がはじまったこともあり、読書スピードは遅くなったかと思っていましたが、こうしてみると思ったよりも読んでいますね。読書の中心は通勤・帰宅時の電車の中なので、どうしても文庫が中心になります。 一月ずつ読書記録をアップするなら、一月に最低一冊は☆マークの本を選びたいと思うのですが、悩みました。 好みは分かれるかと思いますが、筒井康隆さんの『日本列島七曲り』は面白かったです。いろいろあれですが、間違いなく印象に残った作品です。 舞城王太郎さんの『スクールアタック・シンドローム』は、久々に読んで面白かったですし、なにしろ思いもしなかったほどに泣けてきたので、☆マークをつけました。
2008.01.31
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森博嗣『タカイXタカイ Crucifixion』~講談社ノベルス、2008年~ Xシリーズ第3弾。この次の講談社ノベルスは『カクレカラクリ』で、その後はまたGシリーズに戻るそうですね。 では、本書の内容紹介と感想を。ーーー ある朝、有名マジシャン、牧村亜佐美の邸宅で、奇妙な光景が見られた。ゲートのすぐそばに立つ、15メートルほどのポール。そのてっぺんに、男がぐったりとひっかかっていた。 その場に居合わせた真鍋瞬市は、バイト先の探偵社の上司・小川令子にこの話をする。小川がこの事件に興味をもち、調査してみたいと思っている頃、同業者の鷹知から事件についての話がもたらされた。小川と真鍋は、鷹知や、偶然現場近くで出会った西之園と情報交換をしつつ、事件についての調査を進めていく。ーーー なんというか、最近の森さんの作品は、楽しく読んであまり印象に残らない、という感があるように思います。いろんなシリーズがからみあっていることもあり、印象に残らないのはなかなか厳しいのですが、これは私の記憶力のせいもありますね…。 最初の方の、真鍋くんと永田さんのトークがとても楽しかったです(カレーをめぐるあたり)。真鍋くんの雰囲気が良いですね。 事件の方は…ポールの謎の真相は、なんとなく想像がつきました。こちらは解決とあっていて嬉しかったです。 それから、殺人についての真鍋くんの見解もとても興味深く読みました。最愛の人を殺されたとき、その加害者の最愛の人を殺すというのはまだ分かるけれど、その加害者を殺しても無に帰すだけではないか、という意見。ときどき考えることがあるので、ふむふむと読みました。しかし実際には、その加害者(A)の最愛の人(Bさん)本人には恨みをもっているわけでもなく、そういう人を殺したいとはなかなか思えないだろうなぁなどとも思います。 …具体的になにかあったわけではありませんが、ときどき、こんなことを考えます。というか、いろんなニュースに接するたびに、考えさせられる、というか。 ふっと気付いたのですが、本書は、森さんの講談社ノベルス作品としては41冊目になります。これまでの作品を読み返すのがどんどんしんどくなりそうですね…(特に、S&Mシリーズは再読したいのですが)。(2008/01/27読了)
2008.01.29
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舞城王太郎『スクールアタック・シンドローム』~新潮文庫、2007年~ 3編の短編が収録されている短編集です。 単行本『みんな元気。』が、文庫化に際して分冊化され、本書はその第二巻にあたります。が、単なる分冊ではなく、本書の方には書き下ろし「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」が収録されているのがニクイですね。…あ、単行本での収録の順番も、文庫版では変わっているようです。 では、内容紹介と感想を。ーーー「スクールアタック・シンドローム」 3人の高校生が高校の623人を殺害し逃亡している頃、ソファの上から動けなくなった俺のところに大男がやってきて、俺が男の耳を噛みちぎって飲み込んだら、男は逃げていった。俺に精神科への通院を紹介しにきてくれた井上は、男を追っていき…。 15の時の俺の子どもは、学校の生徒や教師たちを殺していくノートをつけていた。なんとかひきこもりから脱しようとする俺は、息子と話をするため中学校へ趣く。「我が家のトトロ」 レモンスカッシュ(通称レスカ)という名前の猫がうちにきてから、僕たちの生活が変わり始める。僕は脳外科の医師にならなければならないという天啓を受け広告代理店をやめ、かわりに妻のりえがその広告代理店で働くようになる。娘の千秋はいじめにあいはじめたので、学期が変わってから転校させることにした。家では、レスカがぶくぶく太っていくが、千秋はある日、レスカはトトロで、レスカの背中に乗って飛んだのだ、と僕に話す。「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」 俺がつきあっている智春は、杣里亜をゴミ箱とみなして平気で殴っていたが、ある日杣里亜を殺してしまった。ところが杣里亜は、その名前の由来となった国ソマリアで俺と会い、この世に戻ってきた。これをきっかけに、智春は彼女と友達になることを決めたが、杣里亜は今度はふたたび変態叔父にいろんなことをされ、殺されてしまうことに怯えながら生活することになる。ーーー「スクールアタック・シンドローム」「我が家のトトロ」は再読ですが、ほとんど覚えていなかったこともあり、新鮮な気持ちで読みました。驚いたのは、泣けてきたこと。通勤と帰りの電車の中で主に読書するのですが、これが電車の中でなかったらぼろぼろ泣いたかもしれません。 もちろんそれは私の感受性が大きな要因だとは思うのですが、読点の少ないたたみかけるような文体で、話も割とアグレッシブでありながら、ぐっとくる描写が多々あり、良かったです。 いまさらですが、大男の耳を食べたり、なかなかシュールな世界ですよね。「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」は、そこに描かれているテーマは不快に感じるものも多いのですが、一人称の徳永さんが割と前向きというか、救いのあるような価値観の持ち主であることもあってか、読了後にひどく暗鬱な気持ちになるようなことはありませんでした。 ところで、「我が家のトトロ」に(名前だけ)登場するイゲラ君は忘れられません(笑)(引用)「あのな、言っとくけど人殺したりするなよ」「なんで?」「いろいろ大変だからだよ」 ―「スクールアタック・シンドローム」(2008/01/25読了)
2008.01.28
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なんと(?)、あの法月綸太郎さんの新刊です。法月さんの、カッパ・ノベルス初登場作品『犯罪ホロスコープI 六人の女王の問題』を購入しました。 星座シリーズと銘打った短編集です。タイトルにIとあるということは、同タイトルでII, IIIと出ていくのでしょうか。 短編集ですので、余力があるときに、寝る前などにぼちぼち読んでいきたいと思います。それでも、読了までは時間がかかるでしょうけれど。
2008.01.24
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筒井康隆『日本列島七曲り』~角川文庫、1975年~ 11編の短編が収録されています。下ネタのしょうもない話(それでいて社会風刺の感もあるのがすごい)からホラーから、バラエティに富んだ一冊です。「誘拐横町」と「融合家族」は、最初の設定が面白いのですが、あれよあれよと変な方向に進んでいくのがまた良かったです。前者は、Aさんが親しい人(Bさん)に子どもを誘拐(?)され、お金を工面するために自分も親しい人(Cさん)の子どもを誘拐して、Cさんもまた…と連鎖していくお話。後者は、同じ土地に二つの夫婦が家を建てたため、相手の寝室が自分の台所であるような、奇妙な家ができてしまい、二組の夫婦はそれでもそこで相手を無視して暮らしている、というお話です。「陰悩録」は、最近はこれが表題作なった本もあるかと思うのですが、それでタイトルは知っていました。しょうもない下ネタと思わせながら、どきっとする部分があり、やられました。「奇ッ怪陋劣潜望鏡」は、性を抑圧されていた男女が結ばれたとき、彼らが潜望鏡に見られるようになる、という話。行為を覗かれるところからはじまり、日常の中にも潜望鏡がどんどん出現するという、どこかホラーテイストもあるように思いました。「郵性省」…自慰行為をしてテレポーテーションするというとんでもない設定だけは聞いたことがあったのですが、これは笑えました。馬鹿馬鹿しい話はそれはそれで面白いのですが、これが真面目に(?)マスコミや政治の風刺になっていたり、その風刺の部分も楽しかったです。しょうもない話もここまでいくとすごいですね。 表題作の「日本列島七曲り」は、大阪に帰ろうとする社長が乗った飛行機がハイジャックされるものの、乗客も添乗員もその状況を楽しみ、機内はほとんどお祭り騒ぎになるという話です。ドタバタものでありながら、こちらもやはり社会風刺の一面もあって、面白いです。「桃太郎輪廻」もインパクトのある話でした。川に尻が流れてきて、その尻から生まれた桃太郎は、義母に貞操を奪われるのを避けるべく、観念的な場所たる鬼ヶ島へ向かいます。この中では、他の昔話もどんどん混じってきます。面白かった一節を引用しておきます(文字色は反転で)。過疎地帯の農村の、一軒の古ぼけた農家の裏庭で、白い犬が一匹、ここ掘れわんわんといいながら土を掘り返していた。「大判小判を掘り出して、何になる」と、桃太郎はいった。「お前、自分の生き甲斐を見つけるつもりはないのか。おれはこれから鬼ヶ島へ行くつもりだが、もし無駄に生きていると思うなら、ついてきてもいいぜ」。「そうだな」犬はしばらく考えてから、ゆっくりとうなずいた。「ついて行こう」 次の、猿と出会うときの猿との会話も面白いです。ちなみに、あらゆる登場人物や彼らの行動は、すべて観念的に読まなければならないようです。そう考えると、たとえば上の引用部分もなんだか深いですね。 ただのパロディかと思いきや、うまい設定もあり、面白い短編でした。「わが名はイサミ」イサムと呼ばれて腹を立てたり、自分が一番じゃないと嫌がる近藤勇の話。日本史に疎いのでなんともいえません…。「公害浦島覗機関(たいむすりっぷのぞきからくり)」公害を風刺した一編。どこか島田荘司さんの展開しておられる都市論・日本人論を連想する記述もあり、興味深かったです。「二人の秘書」は、労働組合などの風刺といえるのでしょうか。興味深いです。 最後に収録されている「テレビ譫妄症」は、ホラーテイストの作品。テレビを長時間観ていたテレビ評論家の下半身がある日とつぜん麻痺し、さらに様々な症状に襲われるという話。明らかにそれがあまり良くないことと分かっていても続けてしまう、人間のあり方の風刺にもなっていて面白いです。ーーー というんで、全体的に面白い短編が多くて、満足の一冊でした。いろんな意味で、なんでこんな話を書けるのだろうと思わされる作品が多いですが、そんな筒井さんの作品にはまってしまっています。(2008年1月22日読了)*なんだか楽天の禁止ワードにまたひっかかる言葉があったようで…。やわらかい言葉を選んだつもりでもこれでは、小説の感想も書きにくいですね。いわゆる有害サイト規制のためには仕方ないのでしょうから、こちらがなんとかするしかないのでしょうけれど。
2008.01.24
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高田崇史『QED 諏訪の神霊』~講談社ノベルス、2008年~ 毎年1月はQEDシリーズの新刊というのが定着していますね。というんで、今回は、諏訪大社にまつわる謎と、関連して起こる殺人事件の解明です。 諏訪大社について、いくつもの謎があるのですが、メインは二つあります。一つは、「御柱祭」。もう一つは、「御頭祭」です。 前者は、諏訪大社の上社2社、下社2社に、それぞれ4本ずつの柱をご神体として立てるという祭りなのですが、その過程では、決まった山で樅の木を16本切り、ひきずり、(上社の方では)木落坂では一気に転がり落とし、川で清め…という道をたどります。これらの過程にも謎があります。 そして、「御頭祭」では、75匹の鹿の頭を並べたり、その他動物を供物として捧げるような祭りなのですが、これはあまりにも血なまぐさいのではないか。といった、謎が指摘されます。 不勉強ながら、これらの祭りについてははじめて知ったのですが、興味深い祭りがあることを示し、そこにはこれこれの謎があり、ということを示してくれるところがとても親切で、それらの謎に魅力を感じて読み進めました。 一方、事件の方は、連続殺人事件が起こります。たとえば、最初の被害者は、近所の人の家の庭で殺されており、その遺体のまわりには大量に塩がまかれ、さらに遺体には松の枝が刺されている、という奇妙な状況で発見されます。さらに現場近くには、串差しにされた白兎の死体があるのでした。 その後の事件でも、奇妙な状況があります。 殺人事件の方自体にはそれほどの魅力を感じなかったのですが(不謹慎な文章になってしまいましたが)、諏訪大社にまつわる謎の解明は見事でした。 QEDシリーズを読むたびに思うのは、歴史を勉強する上での、考えることの重要さ。私はまだまだ知ることの方にウェイトをおいてしまっているので(それはそれで視野が広がり、豊かになると思っていますが)、それらの知識を駆使しながら、なんらかの問題設定をたてて解明していきたいものです。まだまだです…。 今回は、前作『QED~flumen~九段坂の春』に登場した鴨志田さんが登場します。桑原さんと棚旗さんについても、かなり露骨なツッコミがまわりから入るようになっていますが、はたして桑原さんは何を思っているのか、気になりますね。 棚旗さんがホワイト薬局につとめはじめて、この事件で7年になるそうです。なんだか感慨がありますね(今年は、高田さんのデビュー10周年だそうです)。(2008年1月20日)
2008.01.21
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島田荘司『本格ミステリー宣言II ハイブリッド・ヴィーナス論』~講談社文庫、1998年~ 『本格ミステリー宣言』に続く、本格ミステリーに関する方法論(評論)をまとめた1冊です。 本書は2部構成になっていて、第1部が、『本格ミステリー宣言』に対する反論への再反論といった性格も強い方法論の部分、第二部は、他の作家の本やアンソロジーの解説で書いた文章を中心にバラエティ豊かな文章を集めています。全体に通じているのは、これから本格ミステリーを書こうとする人々へ、あるいは既にミステリーを書いていながら、狭い世界にとじこもってしまうおそれのある作家たちへの警鐘であり、激励といった性格です。 まず、第一部で印象的だった部分について思ったところを書きたいと思います。 一つは、いわゆる「新本格」(島田さん自身、この名称は使わないようにしていますが)の作家たちの作風― つまり、「コード多様型」への警鐘です。これについて、島田さんはいわば「新本格の七則」として、彼らの作品が達成を目指すコードを列挙します。大きな流れは、閉鎖空間に集まった限られた人間たちが集まり、そこで複数の惨劇が起き、論理的な推理により探偵役が事件を説明するが、意外な人物が犯人でなければならない、といったところでしょうか。念頭にあるのは綾辻さんの作品です。 さて、こうしたコードに則って作品を作ると、それなりの作品は書くことができる。ところが、それはマンネリを伴うし、こうした多様なコードにのみしがみつくのは危険である、というのが島田さんの主張です(一方、こうした作風自体を島田さんは決して否定していません)。そこで、島田さんは、「本格」の条件としては、コードを最小限にし、柔軟な執筆を提唱しているわけです。すなわち、冒頭で(幻想的な)謎を提示し、論理的な説明によってその意外な真相を結末に示す、という条件ですね。さらにいえば、「本格」の最低の条件は、論理性(理屈っぽい小説)だと島田さんは主張します。幻想的な謎を、論理的な推理で解体して納得のできる真相を示せば、それ自体が意外性を生むことになります。 関連して、「新本格」の作家たちの人間描写について。「人間を描かない」ということは、「意外な犯人」という条件にとっては、不利になるというのです。「『意外な犯人』というのは、各人の人間性が色濃く作中に漂い、展開するからこそ、この人間はたぶん犯人ではなかろうという判断も読者に生まれるのであって、各人がどれも区別のつきにくい覆面、無声人間であるならば、犯人らしい人物とそうでない人物という印象も、読者には発生しづらい」(40頁)。鋭い指摘ですね。関連した指摘をもう一つ。「[新本格の諸作は]シンプルな論理的把握を困難にする人間の有機的発想や、理をはずれる複雑な動きはできる限り排除し、登場人物をあえてロボット化することで、生身の演じる殺人ドラマであるにもかかわらず、彼らを『本格パズル』という、設計図通りに動く精密機械の部分品化することに成功した」(88-89頁)。 私がミステリを読み始めた頃は、綾辻さんや二階堂さんのを好んで読んでいましたが、やはりそれはパズル的な部分を楽しんでいたのだと思います。いろいろ読む中で、物語性のある作品に好みがうつったとき、やはりこうした作品への評価は低くなってしまいます。その論理性を楽しむためにそうした作品を読むことも当然していくと思いますし、実際そうした作品が嫌いではないのですが、たしかに上記のようなコードを守っただけの作品には、発展性が望みにくいような気もします。 その点、島田さんはばりばり面白い作品を生み出しておられるので、それらの諸作もかんがみると、本書での提唱はとても説得力をもっているように思います。たとえば、『本格ミステリー館』での島田さんと綾辻さんの対談では、綾辻さんの方が論理的に話している印象はもちましたが、提唱と作風が発展性をもっているのは間違いなく島田さんだと思います。 副題にある「ハイブリッド・ヴィーナス」は、島田さんが考える「本格ミステリー」の姿です。ポーやドイルといった「本格ミステリー」の原点にあって、その姿は、「幻想詩という柔らかいもの」と、「論文という本来的に固いもの」の「幸福な結婚」でした。このことは、本来相容れない「水と油」が、「近代という魔法によって遺伝子結合されられた」ものとなぞらえることができます。そして、この魔法が生み出した「禁断の果実」が、ヴィーナスの姿にたとえられるのでした。 ちなみに、「幻想論」で語られる「幻肢」など、昨年10月に福山市で行われた講演会でうかがった話が書かれていて、なるほど、あのときのお話はこの本を大きな下敷きにしていたのかと合点がいきました。 さて、第二部の方は、「奇想の昏い森」と題する文章がとても面白かったです。こちらはもともと、立風書房の企画で鮎川哲也さんと島田荘司さんが日本のミステリー精選集を編まれたのですが、その第一巻『奇想の森』に島田さんが書かれた解説です。島田さんが一巻のために選ばれた「松本清張以前」の古典的な日本のミステリーがこの本に収録されていて、この解説にはそれぞれについてのコメントが書かれています。これがとても面白いのです。私は、古典的なミステリといえば、いわゆる三大ミステリ(奇書)と江戸川乱歩さんの作品を数編、横溝正史さんの作品の多くを読んでいるだけなのですが、ほかにもこんなにも面白そうな作品があるのかと、わくわくしながら読みました。アマゾンで見たところ、どうも『奇想の森』は絶版のようですが、古本で手に入れたくなります。 全体を通じて少し思ったのは、島田さんは北村薫さんや加納朋子さんなどに代表される、いわゆる「日常の謎」ミステリをどう位置づけておられるのかな、ということです。冒頭での謎は、日常の中で「あれっ?」と思われるような些細な謎。ところがそれが、思いがけない背景をもっていることを論理的に示す過程はやはり島田さんの提唱される「本格ミステリー」に位置づけられると思うのですが、一方、これらの作品は横溝正史さんなどの作品に比べれば、リアリズムが強いようにも思うのです。はて…?? もっとも、本書を読む限り、こうした「コード多様型」を脱した、論理性の強い諸作の隆盛は、島田さんは大歓迎しておられるだろうと考えます。(2008年1月17日読了)
2008.01.20
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島田荘司『島田荘司very BEST 10』~講談社BOX、2007年~ 『Reader's Selection』と『Author'sSelection』の2分冊で、それぞれ5作品ずつの短編(中編)を収録しています。 年末に買っていたのですが、なかなか通読はできず、読了に時間がかかりました。 掲載作品は次の通りです(内容紹介は、その短編がもともと収録されていた本の題名を示してリンクをはっているので、そちらを参考にしてください)。『Reader's Selection』1.「数字錠」(『御手洗潔の挨拶』所収)2.「糸ノコとジグザグ」(『毒を売る女』所収)3.「疾走する死者」(『御手洗潔の挨拶』所収)4.「ある騎士の物語」(『御手洗潔のダンス』所収)5.「最後のディナー」(『最後のディナー』所収)『Author'sSelection』1.「大根奇聞」(『最後のディナー』所収)2.「暗闇団子」(『踊る手なが猿』所収)3.「耳の光る児」(『溺れる人魚』所収)4.「傘を折る女」(『UFO大通り』所収)5.「山手の幽霊」(『上高地の切り裂きジャック』所収) 『Reader's Selection』は、アマゾンで掲載作品の希望をつのる企画があり、得票順に並んでいるようです。私も投票したのですが、2作入っていました。 島田さんも前書きでおっしゃっていますが、がちがちの謎解き重視というよりも、物語性の強い作品が選ばれていますね。私もそういった作品を選びました。「糸ノコとジグザグ」の評判が良いのは以前から知っていますし、初読のときもそれなりに楽しめたのですが、今回あらためて読んで、かなり面白く感じました。暗号に、時間制限による緊張感、そして人の温かさも感じられるという、充実した作品です。 私も1位に選んだ「数字錠」が素敵なのは言うまでもないとして、「最後のディナー」のラストは良いですね。ある人物のある一言を忘れていたので、あらためて大きな感動を味わうことができました。忘れっぽさが良い働きをしてくれます(笑) では、『Author'sSelection』の方の感想を。「大根奇聞」はもともと好きな作品です。「暗闇団子」は、ミステリというより、江戸のある男女を描く物語なのですが、あらためて読んでみて、これは面白いと思いました。余韻を残す作品です(最初に読んだときも好印象でした)。「耳の光る児」は、はじめて読んだときはあまり印象的ではなかったのですが(歴史の話はともかく)、今回並行して読んでいた『本格ミステリー宣言II』での論を参考にすると、深みを感じました。「傘を折る女」はすごいですね。話の流れは覚えていても、どきどきしながら読みました。被害者の女のとぼけ方がなんだかリアルで、こういう人間は本当に腹立たしいと思い、あまり同情できませんでした…。バスでの体験が大変だったのは分かるのですが。こちらは、ラストのシーンまでは覚えていなかったのですが、そこがまた良かったです。*収録作品の大部分が御手洗潔シリーズなので、所有作品一覧では、本書は御手洗潔シリーズの項目のところに並べています。*「耳の光る児」の事件年代が、あらためて読むと分かったので、「御手洗潔シリーズ略年表」を更新しています。 こちら。(2008年1月17日読了)
2008.01.19
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二階堂黎人『地獄の奇術師』~講談社文庫、1995年~ 二階堂黎人さんのデビュー作です。 では、内容紹介と感想を。ーーー 昭和42年(1967年)12月。 友人、暮林英希とともに、彼の家を訪れた二階堂黎人と義妹の蘭子は、家の前に立っていた怪しげな男に出会う。男は、顔中を包帯でまいており、左手はなく、包帯の下には、醜悪な顔があった…。彼は、「地獄から来た奇術師」と名乗り、英希の叔父、義彦をはじめとする、一家の殺害を予告する。 三人は、男をおって林に入る。黎人と蘭子は、男が入っていた防空壕に入っていくが、中に入ったはずの奇術師に後ろから襲われてしまう。そして、その防空壕には、英希の従姉妹の死体がぶら下げられていた…。 この事件をはじめに、暮林家に多くの事件が襲いかかる。ホテルでの毒殺事件、密室殺人事件…。「地獄の奇術師」の犯罪に、二階堂蘭子が挑む。ーーー 久々(10年ぶりくらいでしょうか)の再読です。この作品については、二つの読書時点での感想を書く必要があるかと思います。まずは、今回の感想から。 名前を聞かれた男が、「地獄から来た奇術師」と名乗り、黎人さんたちや警察たちも「奇術師」と彼のことを呼ぶのが、なんだか恥ずかしいなぁと思いながら読みました。私は乱歩さんはあまり読まないのですが、その影響があるのは分かるのですけれど…。横溝さんの、たとえば「幽霊男」などが恥ずかしいと思わないのは、横溝さんの大ファンであることと、やはり時代背景を考えてのことだと自己分析するのですが、二階堂さんのはどうも… (最近の、ラビリンスもしかり…)。といって、本作については、男が「奇術師」を名乗る理由があるといえばあるのですが。 わざとしているのは分かるのですが、お芝居みたいな(あるいはジュヴナイルのような…)台詞や地の文の言い回し、言い古された言葉ですが「人間が描かれていない」薄っぺらな登場人物たちも、どうも今の私にはあいません。私がよく読む作家さんたちがどれだけ「人間を描いているか」はともかく、二階堂さんのはどうも…(作中での言葉ですし、わざとかもしれませんが、『増加博士と目減卿』の中で、人間を描くのが大嫌いと言っているのも悪印象の原因となっていると思います)。 真相というか、犯人の動機について蘭子さんが語るところでも、なんであなたがそんなこと断言できるのか、と思わずにいられなかったり。犯人と動機について話し合う機会があったんでしょうか。かなりツッコミどころがありました。 まず、こうした批判的な読み方については、ここ数年の読書傾向が大きく影響していることをお断りしておきます。横溝さんでミステリに目覚めてから、綾辻さんや二階堂さんといったばりばりトリック重視の話を好んで読んでいた時期もあるのですが、加納朋子さんや北村薫さんの作品を読むようになってから、パズル的な、謎解き重視の話よりも、物語性のある話の方を好むようになってきているので。 …と、かなり批判的に書きましたが、やはり謎解きの物語としては良いと思います。特に、注釈によって、真相解明の際に、伏線のページを示しているのは良いですね。個人的には、まんまとミスディレクションにひっかかったのが悔しくもありました。 さて、最初に二つの読書時点での感想と書きましたが、はじめて本作にふれた頃のことについて書く必要があるかと思ったのです。というのも、最近はともかく、初期は二階堂さんが好きな作家の一人でしたから、好印象だったことも書いておかないとフェアではないように思うからです。 最初に読んだ二階堂さんの作品がどれかは覚えていませんが、図書館で見つけた『吸血の家』という本にとてもひかれたのが、読み始めるきっかけでした。それは立風書房さんのノベルスですが、タイトルも魅力的で装丁もかっこよいのです。いまでも、二階堂さんの作品の中で最高の読書体験は『吸血の家』だと思っています。 …それはともあれ。上にも書きましたが、当時は横溝正史さんと綾辻行人さんの作品をむさぼるように読み、いまでは毛嫌いしている某マンガのノベライズ作品さえも読んでいた時期で、とにかくトリックに興味を持っていました。そんな時期、二階堂さんの作品はとても魅力的でした。怪しげな登場人物に、惜しげもなく密室殺人が行われる物語(いまでは、その密室に必然性があるのかとツッコミをしてしまいますが…)。わくわくしながら読んでいました。 本書は、トリックや謎解きに重点をおいたパズル的な作品を読みたい方には、向いているかなと思います。 というんで、言うまでもないことですが、本への印象は読むときによって変わります。初期はわくわくしていた綾辻さんと二階堂さんの作品が、最近ではそれほどでもなくなってきたのが、私にとってはその例かと思います。 解説でも書かれていることですが、もう一つ付け加えておきます。それは、上でも少しふれましたが、注釈が充実していることです。伏線を示すだけでなく、本文中で言及されるミステリに関する情報や評価が注釈に記されていて、古典的なミステリについての良いガイダンスになっています。(2008年1月13日読了) * 昨年、最新作『双面獣事件』を購入しましたが、その前に対になっている『魔術王事件』を再読したいと思い、それなら蘭子シリーズを再読してみよう、ということで、今回本書を読みました。今年は、二階堂蘭子シリーズを再読するのを一つの目標にしたいのですが、作業の兼ね合いもあり、次にこのシリーズを読むのはずいぶん先になるかと思います。
2008.01.14
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今日は休日であること、講談社ノベルス新刊が出ているはずであること、古本屋の割引券があることから、本をがっつり買ってきました。といって、割引券のおかげで、出費もおさえられて満足です。まず、講談社BOKの新刊で、島田荘司さんの『Classical Fantasy Within 第一話 ロケット戦闘機「秋水」』を購入。ついにはじまった大河ノベルです。どうも、まったく新しい路線のようですね。講談社ノベルスの新刊からは、高田崇史さんの『QED 諏訪の神霊』と、森博嗣さんの『タカイXタカイ』の2冊を購入。ちょっとメモですが、第37回メフィスト賞受賞作である汀(みぎわ)こるものさんの『パラダイス・クローズド THANATOS』と、第38回メフィスト賞受賞作である輪渡颯介さんの『堀割で笑う女』は、今回は買いませんでした。前者は「美少年双子ミステリ」といううたい文句が好きになれないので見送り、後者は割合気になるのですが、お金と相談して見送りました。しかし私はいつからか、新刊は出た月あるいは翌月に買わなかった作品は古本屋に並ぶのを待つようになっているので、この2作もそうなるかもしれません。もう一つメモですが、島田荘司さんの『占星術殺人事件 改訂完全版』も買いませんでした。全集に収録されているのをノベルス版にしただけのようなので、こちらは全集を買ってすませようと思います。将来的に古本屋に並ぶか、ものすごく経済的に余裕ができれば、コレクションのために買うかもしれませんが。さて、古本の方は、気になっていた作品が買えて良かったです。小説関連では、島田荘司さんの『本格ミステリー宣言II ハイブリッド・ヴィーナス論』、筒井康隆さんの『日本列島七曲り』と『笑犬樓の逆襲』、舞城王太郎さんの『スクールアタック・シンドローム』を購入しました。特に『本格ミステリー宣言II』は欲しかったので嬉しかったです。舞城さんのも久しぶりですね。そういえば最近、新刊は出ているのでしょうか…。そして、マンガ部門では、山下和美さんの『天才柳沢教授の生活(1)』を購入しました。先日、柳沢教授のモデルになった小瀬大六さんの蔵書が元小樽大学に寄贈されたという新聞記事を読んで、久々にマンガを読みたくなったのでした。数年前、知人の紹介で読んではいるのですが、買ってはいなかったので。古本で買ったの小説関連の本は、全部短編集や評論集なので、電車の友にしたいと思います。
2008.01.12
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島田荘司『高山殺人行1/2の女』~光文社文庫、1989年~ トラベルミステリーのほとんどが鉄道ミステリーなのはなぜか。実際には、車で移動する人も大勢いるではないか―と、島田さんは疑問に思っておられたそうで、車でのトラベルミステリーに挑戦された作品がこちらです。 ではでは、内容紹介と感想を。ーーー 私―マリのもとに、不倫関係にある川北から電話がかかってきた。高山のアパートで、妻を殺してしまったという。彼を救うべく、彼の言うとおりにまずは東京の川北家に向かう。そこに電話してきた川北は、ある計画を話す。私が彼の妻の初子になりすまし、実際の死亡時よりも後まで生きていたように見せかけてほしいというのだ。そこで私は、初子の赤いオープンカーを運転し、高山に向かうことになる。 ところが、車の調子がおかしくなってしまう。そこで、通りがかったバイクの青年が助けてくれたが、その後は、行く先々でバイクの青年に狙われているらしかった。道路いっぱいにかかれた落書き、鍵がかかっているはずのトランクに入れられていた猫の死骸…。 車の修理のために向かった軽井沢では、さらに奇妙な状況が待っていた。もう一人の私が、私の行く先々で、自殺をほのめかしていたらしいのだった。ーーー 自分の行く先々で、もう一人の自分が動いていた、という状況では、吉敷竹史シリーズの『幽体離脱殺人事件』を連想しました。発表はこちらの『高山殺人行…』の方が先なのですが。この2作の類似については、解説でもふれられています。 不倫相手の危機を救うために奔走する一人の女性が主人公ということで、ばりばりの謎解きミステリーというよりも、彼女におそいかかる奇妙な出来事に重点のある、サスペンスに近い作品のように思います。もちろん、その奇妙な出来事の謎には、とてもわくわくさせられます。 真相は漠然とですが想像はついたのですが、サスペンスの風味を楽しみながら読みました。(2008年1月10日読了) * ところで、今月は講談社ノベルスから、『占星術殺人事件 改訂完全版』が出ます。講談社のメルマガによると、『占星術殺人事件』の英訳を参考にして改訂したとか。南雲堂から出ている全集に収録された『占星術殺人事件』と違いがあるのでしょうか…?? さらに、なんと来月は、『斜め屋敷の犯罪 改訂完全版』もノベルスで出る予定があるようで…!『斜め屋敷…』は文庫版でしか持っていないこと、ノベルス版が好きなことを思えば、買いたい気持ちも出てきます。全集もいつかは手に入れたいですし。悩ましいですね…。
2008.01.11
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筒井康隆『革命のふたつの夜』~角川文庫、1974年~ 8編の短編が収録された短編集です。それぞれについて簡単にコメントを。「母子像」私は、七ヶ月になる子どものために白いサルの玩具を買った。ところが、そのサルによって、妻と赤ん坊が消える空間にひきずりこまれてしまう。 ホラーテイストです。視覚的には、怖い絵になると思うのですが、一方では、あるいは美しい幻想的な絵にもなりそうな、そんな印象の物語でした。「くさり」猫を飼っても、ことごとくいなくなってしまう。それも、月曜日と決まっている。新しい猫だけはいなくならないように気をつけた私だが、やはり猫はいなくなった。父がしている実験と関わりがあるのか…。私は、衝撃的な事実を知ることになる。 こちらもホラーでした。変な言い方ですが、とても順当なホラーというか。30年以上前に発表された作品ですが、古さを感じません。「となり組文芸」これは面白かったです。町内の同人誌で人気作家になった人物と、その同人誌を主宰しながら人気がない人物の果たし合いとでもいいますか。楽しく読める話でした。「巷談アポロ芸者」アポロの打ち上げを報道するテレビ番組にひっぱりだこになるSF作家の話です。どたばたですね。「コレラ」最初数頁読んで、読むのをやめかけたのですが、いやな描写をとばしたら、なんとか読めました。東京中にコレラが拡大し、多くの人が死んでしまう話なのですが、なんともいやな気分(うわぁ…という)になりました。といって、それはえげつない描写もしっかりしているからそうなのであって、話自体は面白かったです。ラストも深かったです。「泣き語り性教育」あれなタイトルで話もあれですが、笑えました。性教育の授業を激しく動揺しながら行う校長先生に女子中学生たちが立ち向かう(?)のですが、学生運動のノリで批判するのにかなり笑えました。しょうもないといえばしょうもないのですが…。「深夜の万国博」万国博の深夜ルポを依頼されたSF作家の俺と、浮気相手の女性、話をもちかけた編集者の3人は、深夜の取材を申し込むものの、かたくなに拒まれる。何も責任をもたないという担当者から無理に許可をとった3人は、驚くべき事態に巻き込まれることになる。 こちらもなかなか面白かったです。編集者のキャラが面白いです。「革命のふたつの夜」大学紛争が展開されている大学の教授である村田のもとに、運動家の女子学生が一時の救いを求めにやってきた。そこから、俺の未来に二つの道ができる。 大学運動の熱い時代のことにあまり詳しくないので、時代背景を踏まえた楽しみは味わえなかったかと思いますが、興味深く読みました。ーーー 「母子像」「くさり」の2編が、特に印象に残っています。(2008年1月8日読了)
2008.01.10
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筒井康隆『虚人たち』~中公文庫、1984年~ 泉鏡花賞受賞作。 いつものような内容紹介が書きにくいので、つらつらと。 読点が少なく、改行も少なく、難しい言い回しも多く、読み進めるのがなかなか大変でした。 風景描写から自分の動作、思考にいたるまで、普通の小説なら省略して書き進める部分を徹底的に描いています。このあたりは自分で読みながらもなんとかついていけたのですが、さらに解説を参考にすると、普通の小説では省略されていることをあえて省略せずに書けばどうなるか、という挑戦もあります。 たとえば、「壁には山水画の掛け軸がかかっている」ですむ文章が、本作では、「山水画の掛け軸は汚れている。それがどんな山水画かよくわからないのは汚れているせいかもしれないがそもそも汚れていなくてさえよくわからない山水画だったのかもしれないし山水画という字が書かれているだけという可能性さえある」となります。一般的な小説では、その「山水画の掛け軸」がどんなものか分からないということを、逆に、どんなものでもありえるという風に書いておられるのだと思います。とまれ、本作は、こんな感じで進んでいきます。 この省略しない、ということから、かなり斬新な部分もあって、興味深く読みました。 なお、私は文学理論は詳しくないのですが、『文学部唯野教授のサブ・テキスト』では、『虚人たち』は、等時法で書かれた唯一の作品と評されています。先に書いたある試みを思うと、なるほどなぁと思います。 解説は、本書のことをとても愉快な本だと評しているのですが、愉快と思えるようなゆとりはなかったです…。 読むのがしんどかったですが、とても興味深い作品でした。(2008年1月3日読了)
2008.01.05
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倉知淳『星降り山荘の殺人』~講談社文庫、1999年~ 倉知さんの本の中では最初に買った本でありながら、読めていなかった一冊。 hina_maxさんの記事を拝読して、ぜひこれを機に読もうと思ったのでした。 スタンダード、直球ストレートな本格ミステリです。 ではでは、内容紹介と感想を。ーーー 課長に手を出してしまった杉下和夫は、異動により、いま人気の「スターウォッチャー」星園詩郎の付き人になる。その翌日、星園について、雪の積もった山深いキャンプ地に出張することになった。剛腕社長、岩岸が購入したさびれたキャンプ地を、星園をはじめ、UFO研究家の嵯峨島、作家の草吹あかねといった有名人を集めることでPRしようという企画のためである。 参加者は他に、岩岸と面識のある二人の女子大生、草吹の秘書、岩岸の部下。 初日の夜は穏やかに終わったが、翌日、事件が発覚する。岩岸が、宿泊していたコテージで絞殺されていたのだった。しかも、現場近くの雪面には、ミステリーサークルらしき奇妙な跡が残されていた。 警察に連絡をとろうにも、電話はなく、道は雪崩のため通ることができず、記録的な吹雪のため、救援もすぐにはこれない状況に陥ってしまう。 前夜、杉下は、岩岸のコテージで言い争うような声を聞いていた。しかし、当然ともいうべきか、そこにいたと証言する者は誰もいない。 社会から孤立した状況で、参加者たちが疑心暗鬼になっていくが、事件はさらに繰り返される―。ーーー ジャンルでいえば、純然たるフーダニットといったところでしょうか。論理の積み上げで犯人を示していく過程はわくわくします。これだけストレートなフーダニットを読むのも久々なような気もします。 特にメッセージ性もないので、それこそ、本書を買っていた当初だったらより楽しめたかなぁと思ってしまいましたが、そこはそれ…。 気持ちよくだまされました。(2008年1月1日読了)
2008.01.03
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あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いいたします。 さっそく、本の紹介にうつりましょう。今年の1冊目は、森博嗣さんです。森博嗣『もえない』~角川書店、2007年~ ノンシリーズの長編です。 まったく予備知識もないままに読んだのですが、割とミステリでした。犯人当てやトリックに重視があるのではなく、一人の少年とそのまわりの友人たちが織りなす物語が主軸ですので、ミステリとしてのウェイトは低いかもしれません。 では、内容紹介と、あらためて感想を。ーーー 同級生の杉山友也の葬儀に参列した僕は、後日、担任から呼び出される。杉山の父親が面会にきており、彼から、一枚の金属のプレートを渡される。それには、アルファベットで僕の名前が書かれていた。杉山が栞として使っていたという。 僕は、杉山の生前、彼から手紙を受け取っていたことを思い出す。未開封のままだった手紙には、友人の姫野がある女性と付き合わないようにしてほしいと書かれていた。 杉山は自殺したらしいこと。手紙にあった女性も自殺していたらしいことなどを知る僕は、違和感からか、杉山の死の周辺の事実を調べていくが、それはやがて、閉ざされた小学生の頃の記憶をたどることにつながっていく…。ーーー なんというか、クライマックスのあたりは他のシリーズでも定番の感じの展開でしたが、不思議と幻想的な雰囲気ももっているように感じる作品でした。 夢の描写が、詩的な雰囲気を演出するだけでなく、なにか過去にあるんだ、というもどかしさも示すような重要な役割も果たすのですが、一方で、やはりその幻想的な雰囲気が強いというか。 表紙が、なんだか哀愁を誘います。まさにこの表紙に抱くような感じを、読了後にも抱きました。(2008年1月1日読了)
2008.01.02
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