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一時期はネットで目にすることが多かった「NHKから国民を守る党」(以下「N国」)であるが,最近は大きな選挙もないせいか,以前ほどネット記事を目にする機会は減ったように思う。ただ,N国は判例雑誌の常連ともいえる存在である。NHKの受信料債権の時効期間に関する事例など,さまざまな裁判例を作ってきているが,スラップ訴訟がらみも多い。以前も紹介した事案があるが(過去日記,東京地裁H29.7.19判決),最新の時報にもN国のスラップが載っていたので,簡単に紹介していく。NHKにようこそ!(2)【電子書籍】[ 滝本 竜彦 ]今回の,千葉の事案(千葉地裁松戸支部R1.9.19判例時報2437号78頁)は,こうだ。N国に所属するニコ生主は立川市議選挙に立候補していたが,彼の動画などを見る限り,どうも立川市に居住実態がなかったらしい。それを,あるブロガーが批判するような記事を投稿したところ,ニコ生主がブロガーに対し,名誉毀損として200万円の請求をしたのだ。ひどく特徴的なのは,N国の党首がYouTubeで「この裁判はそもそも勝って,ブロガー君からお金をもらいにいくためにやった裁判じゃなくて,いわゆるスラップ訴訟,スラップていうのは,裁判をして相手に経済的ダメージを与えるための裁判を言うんですよ」などと,訴外であるがスラップを自白するような発言している。その他,求釈明に応じないなど訴訟追行の態度も非常に悪く,裁判所はスラップ訴訟だと認定した。この点は,以前紹介した東京地裁の判決と同じである。なぜ,動画で墓穴を掘ってしまうのか・・・。ただ,普通の裁判例と違うのは,ブロガー側からの反訴に対し,損害額として比較的高額の弁護士費用を認めた点だ。内訳としては,以下の通りで,合計78万5600円。本訴着手金 10万8000円(支払い済み)本訴実費 4万2000円(支払い済み)本訴報酬 34万5600円(支払い予定のもの)反訴着手金 10万8000円(支払い済み)反訴実費 1万2000円(支払い済み)反訴報酬 7万0000円(支払い予定のもの)慰謝料 10万0000円基本的に,損害賠償請求する場合の弁護士費用というのは満額認められることは稀で,せいぜい1割といったところ。今回の事案だと,本訴のスラップ額が200万円で,反訴で認められた慰謝料が10万円だから,本訴分で20万円,反訴分で1万円の合計21万円程度が普通だろう。支払い済みのものだけでなく,支払い予定のものも損害としているあたりも興味深い。ところで,以前の日記で紹介した東京地裁のケースだが,こちらも読み返してみれば,弁護費用の全額54万円が認容されていた。ただ,事案と異なり,反訴という形ではなく,前訴が終わったあと,後訴として前訴にかかった弁護士費用を請求したというものであるが,やはり全額認容である。(なお,不当訴訟とされた前訴でN国が請求した金額は10万円と低額)こうしてみると,今回の千葉地裁と以前の東京地裁の2件で,N国がらみの事件で2件とも弁護士費用全額が損害額として認められている。いろいろ分析してみたいが,よくわからん。時報の,過去のスラップとして紹介されていた,某宗教団体がやった7億円のスラップ(東京地裁H13.6.29判タ1139号184頁)や,伊那太陽光スラップ事件(長野地裁伊那支部H27.10.28時報2291号84頁)はいずれも慰謝料のみ請求されている事案であった。過失を超えて容易に故意まで認定できる事案だとか,違法性の強弱だとか,色々あるだろう。最近,SNSを見ているとスラップとしか思えない訴訟が増えているようなので,このあと裁判例の集積もあるだろう。個人的な見解を言えば,スラップ訴訟の場合,反訴や後訴で損害賠償請求をする場合,かかった弁護士費用の全額を認めてやっていいのではないかと思う。もともと,たとえば今回の千葉地裁の件だけど,普通に裁判所の従来の基準でやるとすれば,スラップで訴えられた時点で,弁護士費用相当額の全額の回収はできず,ある程度の損害が出てしまうわけだから。なので,膨大な資金力をもつ者からすれば,スラップ訴訟をやり放題である。実際,N国はスラップであることを認める動画を投稿するというあたり,勝ち負けを度外視し,相手にダメージを与える手段を洗濯している。なお,色々見ていたが,青森地裁弘前支部H20.3.27時報2002号126頁が,400万円近い弁護士費用を損害と認めている。なかなか,こんな事件はなかろうと思うのだが。(参考→東京地裁の過去日記)NHKにようこそ!(2)【電子書籍】[ 滝本 竜彦 ]
2020.05.20
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僕が「幸福の科学」という宗教団体のことを知ったのはいるのころだったか。大学2年くらいのころ,たぶん2004年前後くらいには,友人が「幸福の科学」にハマっていたのを一歩引いた目で見ていたから,このころにはネットか何かで知ったように思う。 『金田一少年の事件簿』でおなじみのさとうふみや先生が布教のための漫画を書いたり,政党まで作って国政に出たり話題に事欠かなかった。そんな幸福の科学の教祖,大川隆法の長男がYoutuberになったという話は聞いていたけれど,書籍を出したというので買って読んでみた。動画と違って,書籍だと目次で内容を拾い読みできるし,何より僕のような活字を読むのに慣れた人間だと,動画見るより早い。だいたい動画1本1時間とかとても見ることはできないよ。 幸福の科学との訣別 私の父は大川隆法だった【電子書籍】[ 宏洋 ] さて,本書の内容に入る前に,著者の経歴をざっと見ると,著者は教祖,大川隆法の長男である。幼少期は教団の後継者となるべく教育を受けていたが,本人曰く「受験に失敗したこと」から後継者をはずされ,ついには教団から離れたというのだ。 この手の暴露本というのはとにかく情報の精度が問題になりがちで,どの程度真実が書いてあるのかが極めてわかりにくい。著者の誤解もあるだろうし,嘘を書く場合もあるだろうし,あえてある事実を書かないことで読者を誤解させるなんてこともありえる。 特に,著者は幸福の科学アンチであるのだから,幸福の科学側としては色々言いたいこともあるだろう。 まず,著者は幸福の科学の教祖,大川隆法の霊能力を全く認めていない。 これは僕の個人的な感覚だが,幸福の科学という宗教は,かなり教祖である大川隆法の霊能力に寄るところが大きいと思う。特に「霊言」とかいって,歴史上の偉人の霊を呼び出してイタコのように喋ってみたり,さらには今生きている人間の守護霊を呼び出してみたりもする。 これを著者は全く認めない。エピソードとして,東日本大震災を予見できなかったことや,野田総理が「解散総選挙をやる」と発言していて,ニュース報道までされていたのを大川隆法が見逃したため,霊言の際には野田総理の霊に,「解散総選挙はしない」と喋らせたという話が紹介されている(本書32頁)。 このあたりの霊能力関係は,どうにもわからんのでパスである。 気になるのは,家庭環境である。 著者は,父・大川隆法のことを「大川隆法」と記載しているが,同じように母親についても「きょう子さん」と書いていたりする。 どうやら,大川隆法の方針で,子どもたちの前で一人称として「パパ」を使っているようだが,子どもたちには自分のことを「先生」とか「総裁」と呼ばせているそうなのだ(本書71頁)。著者も,親子の情というのが薄いようなことを書いているが,なかなかすごい家庭ではある。 あと,勉強部屋に監視カメラがあったとか,教育係の秘書にポケモンのゲームを破壊されたとか,このあたりは,たぶん,事実なんだろうなぁ,と思う。 そして,政治活動の話。 この部分を読むと,著者は2009年の選挙の際,大川隆法を諭し,説得したという話が書かれているが,これはどうなんだろう。 著者は1989年生まれ。ちょうど20歳くらいのころだ。そんな若さで,教団の行く末なんか相談されたりするものか,また教祖である父にこれほど意見をできるものか。 気になる脱会の話なのだが,ここはいまひとつよく分からない。 著者は教団を抜けてみたりするものの,映画作成が好きらしく,教団の映画事業があると戻ったりもしている。タレントとの結婚にしても,著者は「教団から強制された」としており,逆に教団は「著者の希望があった」としている。 また,Wikipediaをざっと見ていると,著者が教団でセクハラ・パワハラをしただとか書かれているが,本書にはそのあたりの事情が触れられておらず,よく分からない。 双方の主張が食い違うのであれば,真偽の判定は困難である。 まぁ,「こんな主張もあるよ」と軽い読み物として楽しむにはちょうどいい厚さだ。 このあたりは,後世の歴史家に任せようか,と思う次第だ。国政にもうってでた,平成の宗教としてはトップクラスの宗教だ。恐らく,100年もして,利害関係者が絶えた頃,客観的な歴史家が何事か論じてくれるだろう。 幸福の科学との訣別 私の父は大川隆法だった [ 宏洋 ]
2020.05.17
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日本の劇画王・梶原一騎が漫画界に与えた影響は絶大である。梶原漫画の哲学や台詞を借用した漫画は珍しくない。実はキン肉マンもかなりの部分で梶原漫画から借用しているものがあるところ、これは知られていないようだ。キン肉マンをより深く楽しむためにも、梶原漫画を読んでおいた方が良いだろう。このシリーズだけで何回もできるのだが、今回はモンゴルマンに絞って考察をしていきたい。キン肉マン 12【電子書籍】[ ゆでたまご ]おさらいだが、ラーメンマンという超人は、ウォーズマンとの試合で頭部をベアクローでえぐられ、再起不能になった。しかし、そんなラーメンマンは「霊命木」の発するガスを吸っているときだけ、普通に活動できるので、霊命木で作ったマスクをかぶり、モンゴルマンとして復活するのだ。この流れで、ラーメンマンが霊命木のマスクをかぶる必要があるのは理解できる。だか、なぜモンゴルマンとして姿を変え、正体を隠さなければならないのか?これについての明確な答えは作中で明言されてなかった。この答えは、漫画タイガーマスクで、ザ・グレイトゼブラと名と姿を変えてタイガーのため戦ったジャイアント馬場オマージュであろう。タイガーマスク(3)【電子書籍】[ 梶原一騎 ]ちょっと場面を切り取って見ていこう。(画像の引用は全て『タイガーマスク』3巻)タイガーマスクでは、覆面ワールド・リーグ戦という、覆面レスラーだけの大会が行われた。数々レスラーと戦い、傷つき、疲れ切ったタイガーマスクだが優勝するにはミイラとライオンマンの2人に勝たなくてはならない。そんな場面である。ここライオンマンの怪力に逆らう形で、謎の覆面レスラーが登場する!(タイガーマスク2巻136頁、「何者だっ、ライオンマンの怪力に逆らうやつは!?」)これが初登場の謎のレスラー、ザ・グレイトゼブラである。名を挙げるチャンスと見て、参戦したのだ。(タイガーマスク2巻138頁。有名になりたいシマウマ!)その上で、ゼブラは残った覆面レスラー(タイガーマスク、ライオンマン、ミイラ)の試合をまとめて終わらせるため、タイガー・ゼブラ組とライオンマン・ミイラ組によるタッグマッチを提案するのだ。(タイガーマスク2巻139頁、暴挙とも言えるタッグマッチの提案)よく訓練されたキン肉マンファンは、思い出せるはずだ。これと同じ流れでモンゴルマンは顔を名前をし、バッファローマンの1000万パワーに逆らってハリケーンミキサーを止め、「有名になりたいから」と参戦を表明したうえで、キン肉マン・モンゴルマン組とバッファローマン・スプリングマン組のタッグマッチを提案する。(『キン肉マン』12巻34頁。1000万パワーに逆らう場面。ラーメンマンって、こんなパワーキャラだっけ…?)(『キン肉マン』12巻39頁。突然のタッグマッチ)(『キン肉マン』12巻41頁。有名になりたい)また、試合運びでも、ザ・グレイトゼブラに変装した馬場は得意技の十六文キックを出そうとして、やめてしまう。十六文キックといえばジャイアント馬場の代名詞的な必殺技だから、正体がバレるのを嫌がったからだ。(『タイガーマスク』3巻160頁。得意の十六文キックを封印するゼブラ)同じく、モンゴルマンもラーメンマンの得意技、キャメルクラッチを途中でやめてしまった。これもやはり正体がバレるのを避けるためだ。(『キン肉マン』12巻68頁。得意のキャメルクラッチをやめるモンゴルマン)こういったシーンを見比べるにつけ、キン肉マンにおけるモンゴルマンが、梶原一騎の『タイガーマスク』の影響を全く受けていることを感じる。場面をなぞるあまり無理がでていて、「有名になりたいから」と言って参戦するのは、なんだか違和感がある。これは変装のためと好意的に解釈しても、1000万パワーのバッファローマンの怪力に逆らう形での登場は、テクニックが売りのラーメンマンらしくない。タイガーマスクの影響を受けて作られたと見るのが自然であろう。ただ、全く流れが同じというわけではない。違いは様々な面で現れている。第一の点として、正体を隠す動機である。ここは梶原一騎の方に軍配があがる。タイガーマスクにおいては、馬場は覆面レスラーではないので、覆面ワールド・リーグ戦に出るためには、とうしてもマスクをかぶる必要があった。また、ジャイアント馬場ほどの実力者だから、正体がバレていれば飛び入り出場は出来なかったろう。そういう意味で、必然性のある正体隠しであった。また、試合が終われば別に正体を隠す必要もない。早々にネタばらしが行われた。(タイガーマスク3巻190頁、早々に正体を明かす馬場)一方で、ラーメンマンがモンゴルマンに正体を隠す必要性があったかというと、そこに合理的な理由はなさそうだ。普通に、「キン肉マン、お前ばかりいい格好はさせないぜ!」とでも言って参戦すればいい。恐らく、「正体不明の超人が助っ人に来たら面白いだろうなぁ…」というコンセプトでモンゴルマンは生まれたのだろう。こういう面では見て、第一の動機面ではタイガーマスクの方が完成度が高く、自然なストーリー運びになっているといえる。では、第二の面として、覆面レスラーの魅力はどちらが描けているか。これは間違いなくゆでたまご先生である。タイガーマスクにおけるザ・グレイトゼブラはあくまで覆面レスラーワールド戦のみの限定キャラであった。早々にネタバラシがされると、このあと二度とストーリーには登場しないし、話題に出ることもない。一方でキン肉マンは暴挙に出る。モンゴルマンも試合後、早々に正体をバラしたはずなのに、これはなかったことになる。再びキン肉マンたちはモンゴルマンの正体を知らないていで話が進む。単純に「正体不明のキャラ」というのはそれ自体魅力かあるもので、リアルタイムの読者はモンゴルマンとラーメンマンの関係性について議論を楽しんだことだろう。このように、モンゴルマンは登場の仕方、第一戦の試合運びこそタイガーマスクのオマージュでありながら、モンゴルマンはいったん正体を明かしながら、再びバレバレの正体を隠すという暴挙によって、マスクマンの魅力を活かすことができた。この力技はゆでたまごにしかできない。ライブ感の魅力としか言いよう。キン肉マン 12【電子書籍】[ ゆでたまご ]
2020.05.06
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