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すっかり地球人になりきってしまったけれど、私はウルトラマンだ。地球に怪獣なんぞというものは一匹も現われやしないから、まったく出番がない。用もないのに、変身するわけにもいかないから、地球に赴任して20年、一度も変身したことがなくて、最近では、万が一、本当に巨大な怪獣が現れたときに本当に戦えるか心配になっている。 特に、空を飛ぶことだ。ウルトラマンは羽はないし、ジェット噴射装置もついていないのに、本当に飛べるだろうか、我ながら不安でたまらない。怪獣なんぞが現れないのを祈るしかない。やはり、平和が一番だ。#210
Jul 31, 2011
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とても悪い子供のファンデルは急行列車が大好きだ。急行列車は失礼な電車で、後から駅を出たというのに先に出た電車に挨拶することもなく、追い抜いていく。駅で停車している電車にまったく気づかないように、ただ迷惑なゴーッという騒音を投げ捨てるように、プラットフォームで立ちながら待っている大人や子供を突風で吹き飛ばすように走り去っていく。 そんな急行列車がファンデルは大好きで、ファンデルは外で走りだすと自分が急行列車になった気分になってしまう。雨が降って、水溜りのそばを人が歩いていると、ファンデルは急行列車になったつもりで、水溜りの中を走り抜けて水しぶきをその人にかけるのだった。怒鳴られても、聞こえないふりをして逃げていった。 急行列車よりも早い特急列車があることがわかると、ファンデルは特急列車になった。近くに人がいようといまいと水溜りの中に突っ込んで行く。 ある時、特急列車のファンデルは水溜りの中で転んで、頭から水の中に突っ込んだ。そしたら、ファンデルの泣くこと、泣くこと。水溜りの中でうずくまり泣いている。日頃のいたずら小僧が泣いているというので、近所の人々がさすがに心配して集まってきた。10人、20人とどんどん集まってくる。 するとファンデルは突然起き上がり、また水溜りの中を、それこそ力を込めて、走り始めるじゃないか、集まった人々にたくさん水を浴びせながら。
Jul 24, 2011
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フランケン嬢は、傷口の縫い目がいつまで経っても直らないのことにいらいらしていたわけではない。実際、彼女は、命と向き合うよりも傷口の再生を信じていた方が、心が安まった。日本の裕福な家庭に育ち、アメリカ人と知り合い、結婚して、シリコンバレーに来て、一瞬、ミリオネヤーの仲間入りしたというのに、そのアメリカ人がエンジニアとして優秀すぎたためか、もしくは、まったく逆にエンジニアとして2流だったためなのか、結果としてシリコンバレーでのビジネスは失敗した。といっても、フランケン嬢がちっぽけな日系企業に働いていたのは、生活に困っているからというよりは、日頃、家にいてもやることがないからだった。生活には困らないほどの資産は蓄えてあったし、家も自分のもので、フランケン嬢と彼女の夫だけでの支出はたいしたことはなかった。フランケン嬢は、自分の体はガラスのようにもろく、腕と足はやせ細り鳥の足のように見えるというのに、背中や腹部には確かにそこに肉があり、切開され、縫合されたという証拠の傷が残っていることに、不思議な満足感を覚えていた。傷がそうして残っていることが、死なない証拠とすら、信じていた。そう、確かにフランケン嬢は2,3年はこのオフィスで生き延びることができた。日常が彼女をきちんと支えてきた。朝、ジムが巨体を現し、その日は赤いミニスカートをはいていたフランケン嬢に、彼女は50歳は越しているのが確実であったのだが、「おい、いい男でも見つけたのか。」と挨拶をした。フランケン嬢は鶏のように口を尖らして「あんたの知ったことではないでしょう。」本気で言い返した。こんな日常がフランケン嬢にとっては、平穏な日々であった。今に思えば、彼女がその日を予見できなかったのは幸せだった。彼女は平穏な日々の中でその日を迎えることができたのだ#208
Jul 17, 2011
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一瞬の心のゆらぎが感動を引き起こしたり、美を捉えていたりする。しかし、その一瞬は、まさに一瞬のうちに錆びていく。その一瞬のために生きてきたかもしれないのに、一瞬が次の一瞬に呑み込まれていく。そして、秒と分と時間という砂塵の蓄積に埋もれていく。やがて風が吹いてくる。ぼろぼろとわたしが崩れ、飛び散る。
Jul 10, 2011
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若かったからだろう、シュロッサー家の娘はとどめをささないと気が済まなかった。それが魚であったか、カラスであったか、ナウマン像であったか、日によって異なるが、ある生命体がバラのとげのようなシュロッサー家の娘に毎夜殺害された。シュロッサー家の娘は日記をつけていて、そこには、今日もひとつ、明日もひとつ命が奪われるだろうと書いている。さらに、死骸は透明であると、彼女は述べている。殺害されたものが人間の時は、彼女はその死体を水の中に放り込んでいる。透明といえども、水とは屈折率が異なるので、その輪郭が浮きあがる。それがゆっくりと流れていく、終焉の海を目指して。ベッドに横たわるとシュロッサー家の娘はよくそんな夢想をした。それから落ち着いて眠りにはいっていくのが習慣だった。今日は隣に彼氏のジミーがいる、シュロッサー家の娘に背を向けて。寝ているのかもしれないし、寝ている振りをしているだけかもしれない。シュロッサー家の娘は深夜の暗闇の中で眼を開けていた。眼を閉じると川を流れてくる透明な人影が誰であるか、彼女は既に知っていた。
Jul 3, 2011
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