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一匹の若いピラニアが、水底に沈む木から突き出ている小枝に運悪く体を擦りつけてしまった。うろこが数枚はがれ、その下の肉がそがれ、水中に血が流れ出した。「痛い。痛い。」と助けを求めてはいけないと思った。何気ない風をして泳ぎ去ろうと思った。しかし、ミスを見逃さないし、許さない。かつての家族や仲間の目つきが変わり、他人になり食欲に満ちて(単純な生体反応を恨んではいけない!)そして、実行したわけだ。最後に、とてもきれいな白い骨が水中を漂っている。#215
Sep 25, 2011
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ポッドウエル嬢は才媛である。有名大学を出ていて、いかにも才媛という感じがするから、彼女は才媛であるのにちがいない。 営業としてがむしゃらにがんばるポッドウエル嬢は、彼女の華奢な体に不具合なほど大きなアメ車を運転する。ポッドウエル嬢は営業だから客を乗せて走らなければいけない。ポッドウエル嬢の車の運転は運動神経に比例してそれほどうまくなく、というよりは、かなり危険で、ぼこぼこと事故に会って、最初は素直に皆に事実を話していたのだが、そのうち恥ずかしくなって、なんとかそれを隠そうとし始めている。 ポッドウエル嬢は、ある日、得意先とのミーティングで突然ばたんと倒れて、床の上に猫のように横たわる。張りめぐらした神経がぷつんと切れ、意識を失う。購買部のフランクリンはポッドウエル嬢に近づき、手に触れ、彼女の顔をしげしげと眺めて、「ケオエツオオウト症候群ですよ。お嬢さん。」 ポッドウエル嬢は何か話そうとするのだが、どうもうまく話せないでいる。目が宙をさまよっている。 「無理してはいけませんよ。無理しては。生命には別段問題がありませんが、なにしろケオエツオオウト症ですから・・・・。」注)ケオエツオオウト症 一昨年の3月に学会で公式に発表された。長時間緊張を強いられ、その鬱屈感を解放できなくて、脳の一部の毛細血管の収縮が起きて身体機能が部分的に低下し、突然居眠りをし始める。肉体的にはまったく異常がなく、通常の検診では見つけられない。具体的な治療方法は確立されておらず、精神的に安静にしていること、発症し居眠りを始めても無理には起こさない方がよいとされている。イセエビの生き作りを大量に食べると有効とも言われている。 なお、ケオエツオオウトとは、この症状を発見した医療グループに参加していた研究者8名の名前の最初の一字をとって付けられた。低年齢層にも急激に広がっているため、近く政府の医療研究機関が対策プロジェクトを発足させる。 フランクリンは「空を飛ぶ魚、もしくは、犬を食べる猫」という協奏曲を口ずさみながら、にやにやとポッドウエル嬢の平らな胸を見ている。ドアの鍵をしめた会議室。フランクリンの幸福な時。眼を閉じて動かない女性をいつまでも眺めていられるという喜びにフランクリンは浸っている。眺めているだけで、フランクリンには十分なのである。#214
Sep 18, 2011
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炎天下で汗をだらだら流しているというのに、わたしは草むしりをしているときは無心になれた。 畑の中の通路に生えている雑草を抜こうとしたときに、そいつはわたしの二の腕を掴んできたのである。わたしは恐怖感に囚われ、そいつに地の底に引き釣りこまれるのかと思った。そいつは思いのほか非力で、わたしはそいつを白日の下に引きづり出すことができたのである。 そいつは飢えた子供のように骨ががりがりしていて、今までに地中に潜んでいたことを証明するかのように全身に泥が付着している。わたしの前に呆然と立ちすくんでいて、そこには周囲を威圧するほどの覇気はなく、ばつが悪そうに今どうすればいいのか悩んでいるように見える。 熱射がやはり体に堪えるのだろう。再び土の中に戻りたいのか、わたしの存在に気づかぬように腰をかがめて素手で土をほじくりだす。いくら体が細いからといって、体全体がそんな早く地中にはいっていくとは思えないのだが、確かにやつは土の中に帰っていったのである。 わたしは再び草を抜き始める。 そうすることが自分の心の平和を保つ唯一の手段であるかのように、草むしりに集中する。わたしは再発したことを医師から宣告された。一瞬とは言え、それを忘れさせてくれる土に感謝した。
Sep 11, 2011
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わたしの降りた駅を見放すかのように、最終電車がプラットフォームから離れていく。ほとんど人がいない車内が異様に黄色く輝き、この時間にあまりにそぐわない。 駅がこんなざわめいて、明るいというのに無言で人々が散っていく。 こうしてわたしは一人ぼっちになって家路を急ぐ途中で闇に溶けていく。体が溶けてわたしはなくなるのかと思っていたら、意識は闇の中で漂っている。 わたしの意識だけではない。誰かの意識も近くにあって、お互いに呼びかけることもなく漂っている。
Sep 4, 2011
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