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義妹が引っ越しをするという話が出ている。前々からそんなことは言っていたのだが、実際問題、彼女に一人暮らしをするだけの技量があるかと言ったら無理としか言いようのない状態だったし、なにより義母と義父が手放せなかったというのもありあるとしても随分先のことだろうな、と思っていた。が、いきなり目先の話になったのはつい最近のことである。正月に、義父と義妹からこの話が出た。物件も選んできて、すでに契約済みである。なんでそんなにこだわるのか分からなかったが、住むところは品川。もちろん賃貸とはいえ、新築マンション。2部屋以上ないと厭だし、広さも何平米以上ないと厭。そういっていた義妹である。さすがに2部屋以上は無理だったらしく、広さも少し無理がありすぎたらしく、選んだ物件は8畳のワンルーム。2月1日に鍵の引き渡しだから、その日に引っ越しをしたい。そういっていた義妹。……片割れがそればかりは止めた。絶対に無理だから、と。そんな義妹の引っ越し話に少し振り回されている。何とか説得して2月7日に引っ越しをすることで納得させた。1月末、なんていったら、ある程度荷物をまとめておかねばならぬ時期である。……が、義母からSOSの電話が入った。行かねばならなくなったのである。手みやげを持って片割れの実家へ向かった。なぜか道が混んでいて、いつもなら2時間半くらいで着くところが4時間近くかかってしまった。着いて早々、「遅いじゃない」と義母の出迎え。柚木崎は手みやげを渡し、片割れは義妹の部屋へ。義母の愚痴ともつかぬ愚痴を聞いていると片割れが大きく肩を落として降りてきた。荷物が少しでも出来ているかと思ったら持って行く雑誌がまとまっていた程度だという。「家具は? ベッドは? TVは? どうするの?」そう聞く片割れに、義妹は五月蝿いなぁ! と返した。引っ越してからでもどうにかなる、と思っているらしい。一人暮らし経験者は片割れと柚木崎しか居ないため、義妹を説得するのは必然的に柚木崎たちになる。引っ越すはいいけれど、これがないと困るよ、とか引っ越す日に持ってきてもらえば設置とか楽だよ、とかあの手この手で籠絡してようやくなんとか重い腰を上げさせた。電化製品を買いに行くことにしたのである。今日は下見だけでいいから、と言っておいたが片割れも柚木崎も買わせる気満々である。そうでないといつまでも買わないことが目に見えている。買わないで良いならそれでいいが、無ければないでいつまでも文句を言っているのも見えている。何とかして買わせるしかない。TVは液晶で25インチ以上ないと厭だ。もちろんワイドでBSチューナーがないとダメ。パソコンはVAIOじゃないと厭だ。TVとパソコンが一体? 冗談でしょう。そんな貧乏くさいことはしたくない。冷蔵庫だってある程度大きくないと厭。電子レンジ? パンは焼けないの?炊飯器なんて要らない。圧力鍋と土鍋があればご飯くらいなんとかなる。……理想が高すぎるのだ。とにかく、一人暮らしに対するあこがれがとても大きい。ドラマで見たような一人暮らしがしたくてたまらない。誰もに「素敵!」「すごい!」と言われるような暮らしでないと満足できないというのがよく分かる状態である。目眩がするほど自己顕示欲が強い。なんとか宥め賺して持ち上げ持ち上げようやく洗濯機とTV、冷蔵庫とオーブン電子レンジを購入させた。掃除機のことは考えていない彼女である。掃除……どうするつもりなんだろう。それは考えても仕方がないので、考えることをやめた。あとではた、と気づいた片割れがカタログを取りに店に戻った時である。義妹が柚木崎に近寄ってきた。なんだろう? と思ったら、棘のあるいい方をしたのである。「まさか、自分たちだけ 液晶テレビ買おうって言うんじゃないでしょうね?」……ウチも確かに、そろそろTV買い換え時である。しかし、ウチで欲しいと思うサイズの液晶は、とんでもない値段が付いている。まだ高い、そう思っているから、買う気にはなっていない。だからなにを言い出すのだろう、と驚いてしまった。義妹はさらに続ける。「私が我慢したのに、あんたたちだけ買うんだとしたら 絶対に許さないんだから!」さすがにこの言葉には義母が慌てた。許さないって……どうするつもりなのだ、と聞いたところ胸を張って言われてしまった。「勿論、私のと交換してもらうに決まってるでしょ。 そのくらい当然のことよね」……呆れて開いた口がふさがらなくなってしまった。そこへ片割れが戻ってきた。柚木崎のその状態を見て、目を丸くしている。なにがあったの? と聞かれたのだが、答えるのも虚しかったので話さなかった。あとで義母が話してくれるだろう。片割れが持ってきたカタログを義妹に手渡した。「サイズが分からないと困ることもあるからね。 買ったものをこの中から探しておいて これって○つけておくと、サイズがわかっていいよ」その言葉を聞いて、義妹は平然と片割れに言った。「思ったより役に立つのね。意外だったよ」……こんな義妹の引っ越しを手伝うのはいいことなのだろうか。ふと疑問に思ってしまった今日の出来事である。
2004.01.31
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昨日、厭なことがあったので寝起きが悪い。というより、殆ど眠ることが出来なかった。片割れにも話したのだが、柚木崎は間違えていない、おかしくないと言ってもらえたので善悪の感覚が狂いそうな職場にいるがなんとか持ちこたえている。仕事に行く時間はいつもより少し遅め。寝不足でだるい体をベッドに転がしていたら携帯に誰かからメールが来た音がした。しかし、起きあがる気になれない。そのまま放っておいたが、仕事に行く時間になったので仕方なく起き出した。片割れに「行ってくる」のメールを打とうとして気づいた。そういえばメールが来ていた。誰からだろうと思いながらメールチェックをするとなんと、差出人は親父様である。親父様からメールが来るのは初めてのこと。代打ちをしてもらったメールなら一度あるが今日のこの時間を考えると、親父様が自分で打ったとしか思えない。なにがあったのだろう、という思いの方が大きかったので開いてみて内容を読んで、唖然としてしまった。「プレゼントはなにがいい?」誕生日云々すら抜けているが、明らかに誕生日おめでとうメールである。今まで親父様、柚木崎の誕生日を正確に覚えていなかった。だから、こんな言葉が出たのは初めてのことである。年齢……覚えていてくれているのだろうか。ふとそんなことを思ってしまったが、嬉しいことには変わりがない。メールを返してもきっと読むのに一苦労するだろう。だから、帰ってから電話をしよう。そう思った。3日に別の部署へ出張しに行かねばならないのでその書類を提出し、あとは自分の仕事に没頭。昨日割り振られた訳の分からない仕事の件も自分で出来る限りのことしかできないことを上司に報告するしかない。そう腹を括って始めることにした。この職場にまだ居るつもりであるならば腹を括らねばならぬなら腹を括ろう。そう、どこかで吹っ切ったように思う。ふと、メールに気づいた。数人の人からおめでとうメールが届いている。それだけで心が暖かくなった。少なくとも柚木崎は、この人たちに大事にされている。誕生日を覚えて貰えていて「おめでとう!」と言ってもらえる。それだけのことかもしれないが、それが嬉しい。夜、親父様に電話を掛けた。1度目は出てくれなかったが、2度目に出てくれた。「ごめんな、ごろべぇ(実家のインコ)と遊んでて 出るのが遅かったみたいだ」照れたような声である。初メールありがとう、というと、嬉しそうな声で言っていた。「やっぱりな、初めて出すメールは身内でないとな」こんなところに拘りを持っていたらしい。いかにも親父様らしいな、と思いながら2月半ばには行けると思う、と告げると「じゃあ、お母さんの誕生日と一緒に盛大にいこう」と楽しそうに話してくれた。母の誕生日は2月13日。2週間後だ。そのころには行けるといいな、と言うと早くこい、と言われてしまった。親父様との電話を終えて暫くしたら九州の友人からも電話がかかってきた。「こんばんにょ。誕生日おめでとうなのだ」疲れた体を宥めながら電話をくれているのが分かる。嬉しい。しばらく話して電話を切った。気持ちが本当に暖かい。祝ってくれた皆様、どうもありがとうございました。柚木崎は本当に、嬉しかったです。本当に、本当にありがとうございました。
2004.01.30
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毎年、この日になると思い出す。そういえば、恩師の誕生日が今日だな、と。柚木崎が現在生きていられるのは、この人に出会えたからだといって過言ではない。それだけの影響力を柚木崎にもたらした人である。だが、この人とはもう、よほどの偶然がない限り出会うことはないだろう。そういう人に、なってしまった。ふと今年の今日はいつもと違うことも考えた。恩師に最後にあった時の、恩師の年齢に柚木崎は追いついてしまったのだな、と。恩師と柚木崎は13才年が離れていた。だから、ふとそんなことを思ったのだろう。なんだか恩師はとても大人だったのに自分は全然自分の目標に追いついてないことを思い知らされ少し苦笑してしまった。そういう意味でも恩師の背中は大きい。もう見ることのかなわない背中だが、どう転んでもかなわないな、と苦笑いが漏れてしまう。大好きで尊敬していた恩師。今はどこでなにをしているだろう。願わくば妹と柚木崎が大好きだった心からの笑顔を今では浮かべられるようになっていて欲しい。これだけを切に切に願っている。そんなことを思いながら仕事をしていたら同僚たちの華やかな笑い声が後ろから聞こえた。ちょうど用事もあったので持って行かねばならぬモノを持ってそちらへ行くと柚木崎の姿を見た同僚たちはぴたりと口を噤んだ。少し小さなテーブルが半分ほど見え、そこに座る後輩たちの姿が見えた。どうやらティータイムらしい。いつものことだが、やはり嬉しい気分がするものではない。用事のある先輩の名を呼んだのだが、返事がなかったのでもしかしたらすれ違ったのかもしれない、と思い、その場に背を向けた。そんな柚木崎の背中に、別の人の声が刺さった。「あいつ、まだ辞めないの? いつまでも居座られちゃうざいって~の」どっと笑う声がさらに突き刺さる。そのなかには声を掛けた先輩の笑い声も。要するに、柚木崎にいて欲しくない席だと言うことだ。しかも、声の主は……彼の人である。片割れが自分に惚れていると思っている、彼の人。部外者が入ってのお茶会。しかも、柚木崎を嫌っている人がいるから居て欲しくない。そういうことなのか、と納得した。気分は悪いが、仕方がない。そういうならお茶会が終わってから用事をすませに行くしかない。そう思って、いつまでも響いている華やかな笑い声に背を向けた。言いたい放題かの人がいっているのも聞こえる。あいつらはまだ子どもが出来ないのか。子ども好きなあいつ(片割れのこと)が可哀想で仕方がない。とっとと別れて自分と再婚すればいいのに。その準備は進めてる。問題はない。自分と一緒になれば子どもなんてすぐ出来る。別れてやらないなんて、最低の人間がやることだ。爆笑の渦とどこまでも続く納得の出来ない言葉。気分が悪い。吐いてしまいそうなほど気分が悪い。あと少し、あと少しと思いながら時間が過ぎていくのをやり過ごした。気づいたら薄いコーヒーカップを握りしめて割ってしまっていた。やばい。怪我をしなくて済んだが、危険すぎる。我慢の限界を、越えてしまいそうだった。そこへ救いの声、というか、何というか。上司が一人、そのお茶会の場にひょっこり顔を出したようだ。彼の人の声の質が明らかに変わる。上司、一瞬唖然としたようだが、続いた言葉に思わず椅子からずり落ちそうになってしまった。「あれ? お茶の最中だった? 邪魔しちゃってごめんね~」……仕事中だぞ、上司(^^;それを許していいのかおい。多少の時間ならともかく、もう2時間以上やってるぞ(^^;そう思ったが、壁越しの出来事。声は届かない。上司と彼の人が話している声が聞こえる。やがて、「おじゃましました~♪」と彼の人は出て行った。時は既に柚木崎の帰宅時間である。気分が悪かったのもあるので、とっとと帰ることにした。先輩に渡さなければならないものを持ち、再び隣へ。行くと、「お疲れ様~」とお茶会解散の声が聞こえた。よろしくお願いします、と通りがかる先輩に渡すモノを渡し、柚木崎もとっとと帰ろうとした時である。「ちょっとまって!」先輩に引き留められた。振り返ると、一枚の紙をぺらぺらと振っている。「あのね、来年度のローテーション、決めたから」はぁ? という感じである。そんな話、いつしたんだ?柚木崎は加わっていない。なのに、決めたからとはどういうことだ?混乱している柚木崎を尻目に、先輩は矢継ぎ早にローテーションの話をすると「じゃ、よろしく」と帰ってしまった。呆然とするしかない。呆然としたまま家に帰って、腹が立って仕方がなくなった。それって単なる押しつけじゃないか?柚木崎の意見は聞かなくていい、そういうことか?やれといえば何でもやるから押しつけてやれ。そういうことなのか?今回、また初めてやる仕事が増えた。なにをどうしたらいいのか全く分からない意味不明の仕事である。そんなこともいきなり押しつけて、なんだというのだろう。腹が立って腹が立って仕方がなかった。こんな厭な思いを抱えて、柚木崎はそのうち辞表を叩きつけてここを辞めるのだろう。もう堪忍袋の緒は革ひも一枚、というところである。これを引きちぎった時、柚木崎は……どんなことをするのだろう?我ながら想像がつかないところが怖い。
2004.01.29
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時々、ふと振り返りたくなることがある。誰かに呼ばれた気がして、なのだが、実際に呼んでいる人は近くにいなかったり、身近にいなかったりしている。そんなことが本当にたまにあるのだが、今日、久しぶりにそんな気分におそわれた。なんだろう。少しだけ、胸騒ぎがする。柚木崎には、片割れ以外で常に気にしている人が数人いる。多くは仲の良い友人だが、一人だけ例外がいる。傍にいられなくなった人。その人も含めて、両手で数える程度の数である。仕事をしている時でもプライベートでも、心のどこかが常に気にしている。どうしているだろうか、元気だろうか、淋しい思いをしてないだろうか。そうやって気にしている人のウチの誰かがたとえば怪我をしたとしたりする。そのタイミングとこちらが無意識に思っているタイミングが合うと同じ場所を同じように怪我したりするので少し怖いところもある。(以前何度かこういう経験をしたことがあった)今回の「呼ばれた」感じは、少し違う。なんだか淋しげに、小さな声で呼ばれた感じ。誰だろう?今現在、柚木崎の周りでこういう呼び方で柚木崎を呼ぶ人はいない。だからかもしれない、余計に気になる。誰が呼んでいるのだろう?思わず声の感じで振り返ってしまったがもちろん姿を見ることはかなわない。呼んでくれたのは誰ですか。なぜ、そんな声で柚木崎を呼ぶのですか。気になる……。明日あたり、余裕が出来たら気になるところを見て回るか。
2004.01.28
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今朝の話である。昨日に比べ、少し遅めに自宅を出た柚木崎。いつものように車にエンジンを掛け、暖気をしてから片割れに「行ってきます」のメール。ターンテーブルに車を載せた時のことである。ちょうど、自宅マンションの陰から小さな制服を着た男の子がまろびでてきた。どこかの私立幼稚園に通う子どもらしい。こちらも初めて見る子どもなのでつい見てしまったがその男の子にしてみてもこの場所で人を見かけるのは初めてだったらしい。きょとんとした顔でまじまじと柚木崎の顔を見ている。にっと笑って「おはようございます」と声を掛けると初めて照れたような笑顔で小さく「おはようございます」と返してくれた。それに気づいたのだろう。男の子の後ろからタックルするように若いお母さんが飛び出してきた。別に取って喰うつもりもないんだが、と思いながら警戒もあらわにこちらを見ているお母さんにご挨拶をし車を回し始めた。すると、先ほどの男の子は目をきらきらさせて見ている。やっぱり男の子。気になるらしい。お母さんが手を引っ張って連れて行こうとしてもこちらが気になって立ち止まったまま見ている。可愛いなぁ、と思っていたらとうとうお母さんは男の子の腰をひったくるように抱え上げて歩き出してしまった。抱え上げられながら手を振ってくれた男の子。柚木崎も手を振りかえした。じつはこのときまだ気づいていなかったのだが。この子の少し後ろを弟が歩いていたようなのである。お母さんは柚木崎を警戒してすたすたと歩いて行ってしまう。きっと弟くん、慌てたに違いない。自分とほぼ同じ大きさのピチューを抱きかかえぽてぽてと歩いていたに違いないのにお母さんがいきなり速度を速めてしまったので半泣きの顔で追いかけ始めた。柚木崎が彼に気づいたのは、車に乗ってからのことである。歩道を突っ切らなければいけないので勿論速度は微速である。サイドブレーキをおろし、ギアをチェンジしてフットブレーキから足を離しかけたちょうどその時。弟くんがぽてぽてと走って来たのが見えた。陰から飛び出してきた(と言うほどの早さではないが)のである。飛び出しには違いがないので、ブレーキを踏み直す。ウチの車はまだブレーキパッドが馴染んでいないらしく強めにブレーキを踏むとタイヤが鳴る。その音が出てしまった。必死にお母さんを追いかけていた弟くんがこの音に気づき、こちらに注意を向けた途端である。躓くものなどなにもない歩道で、彼は見事に顔面から転んでしまったのである。あちゃ、と思った。これは痛い。きっと大声を上げて泣き出すに違いない、そう思った。慌ててギアをパーキングに入れてサイドブレーキを引いて歩道に頬をすり寄せている彼に近づいた。しかし彼はむくりと起きあがると不思議そうに周りを見回した。そう。抱えていたピチューのおかげでかすり傷一つ無かったのである。洋服に付いてしまった泥を払い、ピチューを拾って同じように泥を払ってあげているところで先ほどのお母さんが顔色を変えて戻ってきた。どうやら弟くんのことをすっかり忘れていたらしい。「ウチの子になにするんですかッ!!」怒鳴られて驚いた柚木崎と、今まで泣かないで我慢していた弟くん。しかし、弟くんはお母さんの怒鳴り声に驚いて泣き出してしまった。お子さんが転んだので、と説明をするとどうやら車と接触したのではないかと疑ったようである。しかし、車はそよ風ほども接触していない。停まっている位置と弟君の転んだ位置を見れば明白である。口の中でなにかをもごもごと言っていたが、その若いお母さんは先ほどと同じように弟くんをいきなり抱え上げると柚木崎からピチューをひったくって背を向けた。多分、見知らぬ人だから警戒したのだろう。警戒しても仕方がない、そういう世の中である。子どもに「人を見たら泥棒と思え」と教えるのはきっと親としても嬉しいことではないだろう。先に歩いていた男の子も、この弟くんも確かに可愛らしかった。お兄ちゃんの方に至っては人なつっこい面があるようだ。それは美点にこそなれど、欠点にはならないはずだ。しかし、そういう彼だからこそ、お母さんは余計にピリピリしているのかもしれない。しかし、お母さん……。もう少し余裕を持っても良いのではないだろうか。弟くんが転んだのは貴女を追いかけたから。そのことに気づいて欲しいな、と思った柚木崎である。
2004.01.27
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ここのところ、職場のメールに見覚えのない名前が並ぶ。日本人の名前ならともかく(いや、これも困るのだが)全てが全て、外国人の名前、及びメールである。タイトルも勿論英語。しかし、覚えがない。人にも国にもタイトルにも。だから、メールを開かずに捨ててしまっている。柚木崎、職場のメールアドレスは、信用した人にしか教えていない。自ら信を置いた人には、教えることがあるが滅多に教えているものではなかったりする。だから、漏れた情報はどこからなのか、全く見当がつかない。何かあった時の連絡先として、人に教えているのは、某WEBメールのアドレスである。こちらのWEBメールもかなり信用度が高くメールアドレスもこだわってつけたから気に入っている。残念なことに近々サービスが終わってしまうようなのだが。それはともかく。届くメールのアドレスをみるとなぜかUKが多い。UKがらみの仕事はしたことがないので知り合いも勿論居ない。中にはドイツだったりイタリアだったり、果てはロシアというものもある。全く知り合いはいない地域なので、速攻ゴミ箱行きになるメールなのだが、きちんと柚木崎のメールアドレス宛にsubjectに柚木崎の名前が入ったものまであったりするので時々悩むことがあるのも事実である。基本的に、知らない人からのメールは開かない。Microsoftの名前を騙ったメールもあるので、そういうメールも開かない。アップデートは定期的に自分でやるし、片割れともウィルス情報は常に交換し合っている。ここのところ、こんなウィルスが蔓延し始めているらしい。まさか、と思いながらメールを開かずに調べてみるとやはり添付ファイルがある。しかし、ないものもある。全く本当に見当がつかない。とりあえず、開かず削除。それしかないが……気になる。
2004.01.26
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先週からなかった休みがやっと来た、と言う感じである。2週間休みナシで連続出勤はさすがに体に堪える。しかし、まだ終わったわけではないので、気を抜いてしまうと大変なことになる。風邪を引いている人が周りに増えてきた。どの人もみんな、「風邪引いてる余裕なんてどこにもないんだけど…… 移さないようにしないといけないよね」といいながら、げほげほ咳をしている。マスクをしていない人が殆どだから、咳を始めるとあからさまに顔を顰める人も多い。風邪引いてる時は仕方がないよな、と思いながらなるべく喉を潤した方がいいのだろうと思いつつ、お茶を入れたり(緑茶は殺菌作用がある)のど飴を引っ張り出したり(炎症を抑えてくれるだろう)いろいろと考えながら動いていた。そんな咳をしている人がたくさんいる職場にいながら柚木崎、帰宅後にうがいをするのをすっかり忘れている。手はきちんと洗うのだが、うがいをするのを忘れていては意味がないような……。せっかく気にして「イソジンガーグル」をくれた人がいるのに、なんとなくうがいを忘れてしまうのは困ったモノだ。それに気づいたのがしかも今日というあたりで柚木崎がどれだけ暢気ものか、判断ついてしまいそうである。なるべく早く帰れる時には早く帰って夕飯の準備もそこそこに眠っていたから、体力的にはまだどうやら温存されているモノがある様子。だが、片割れはその「曖昧さ」を許してくれない。「とにかく寝ること! それだけで疲れは取れるんだから!」そういって柚木崎をベッドに押し込む。そうでなくても寝るのが好きな柚木崎である。そんなことを言われると、放っておかれたらすぐ爆睡してしまう。そんなこんなで気づいたら一日パジャマのままで過ごしてしまった。気づいたら片割れは買い物に行ってくれていた様子。「今日の夕飯はイサキの塩焼きだぁ」なんて嬉しそうに活きの良さそうなイサキを見せてくれた。ご飯も炊いてくれている。なんと、風呂まで沸いている。なんだかすっかり甘えてばかりで。お互い仕事をしているのだから、お互いにフォローしようと話していたのに、これでは片割れにやってもらってばかりになってしまう気がする。もう少しやらなきゃなぁ、とイサキにかぶりつきながら思った今日の出来事である。それにしてもゆっくり休めた。また明日から頑張らねば。
2004.01.25
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自分の中で折り合いをつけること。時々苦労はするが、総じて出来ないことではなくなった。そう、思っていたのだが……。出来ないことをやるつもりはないし、背負うつもりもない。出来ないのにそんなことをしてしまったら、まず相手に対して失礼だし、周りに迷惑を掛けることにもなる。いくら良心が痛もうと、手がわきわきしてしまおうと出来ないことは出来ないのだ、と自分で自分に言い聞かせてそういう場合は諦める。謝る。手を出さない。これは鉄則にしておくべきだ、と自分で思っている。出来ないからと言って、そのまま甘んじるつもりはない。現在の自分にキャパが足りないと分かっているから手を出さないだけで、いつかきっと出来るようになってやる、という思いを持ってる。そのためのステップアップには努力を惜しまない。人のため、ひいては自分のため。プライベートでも仕事でも。そうやって出来ることと出来ないことの折り合いをつけている。先日、メンタル系の仕事をしている人がふらりと訪ねてきた。直接話したことは殆ど無いが、見かけることは見かけるので、挨拶を交わす程度の人である。その人がいきなり訪ねてきたのでびっくりした。茶を出して椅子を勧めると、椅子に座るなり柚木崎の目を覗き込んできてこういった。「あなたの話をいろんな人から聞いています。 聞いていると、どうにもあなたが病んでいるように思われて お休みを取るよう勧めに来たんです」きっと、柚木崎はぽかんとしていたに違いない。その人は「聞いた」という話を自分が「病んでいる」と思った根拠をいろいろと話して聞かせてくれた。どれをきいても「確かに」と思える内容である。但し、それが本当に柚木崎の取った言動なら、である。細かい点はいくつか確かに言った。いくつかは確かに取った行動である。しかし、聞いているとそれに尾ひれ背びれ胸びれがついて一人で勝手に泳ぎだしてしまったとしか言いようがない。そう言うと、その人は哀れむような目つきになった。「そういう人は多いんです。 自分が心の病と認めたくないがために、そういう人は」そうではなく、と一つずつこのときはこういう発言をしている、このときにはこういう行動を取っていると説明をしたらますます哀れんだような目つきになってしまった。「そういう一つ一つを細かく覚えていることを取っても 病んでいるとしか思えないのですよ」そう言われてしまった。……一つ一つ詳細に言えるのは、その日になにがあったかを業務日誌に書いているからである。モノによっては会話の内容、自分が取った行動まで書いてある。特に誰かに聞いてやったことなどはきちんとその記録が取ってある。それらのことを説明すると、その人は大きく一つ、ため息をついた。「本当に、全ての行動が示してますね。 あなたは疲れてます。休みを取るべきです。 できないことをやらなければと 足掻いているのもわかりませんか? すこし休むべきですよ」そう、言われてしまった。柚木崎には、最初からこの人が柚木崎を「病んでいる」と思って全てをそういう目で見てきているとしか思えない。自分の中で出来ることと出来ないことの区別はつけている。出来ないなら出来ないと、きちんと言っている。出来ることは出来ることと、きちんと引き受けてやっている。そう、自分では思っているのに、傍から見たらそうではないのだろうか?なんだか境界線が曖昧になりそうな気配である。まずは自分の足下を固めよう。そうここのところ、思っている。
2004.01.24
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悩む言葉をいろいろ言われることが増えてきた。特に悩むのは、ある二人からの言葉である。どう受け取って良いものか首をひねってしまうことをいわれている。一人の人は、片割れが自分を好きだとずっと思いこんでいる人。既に一度結婚し、今は離婚してバツイチとなっている。離婚した、と柚木崎が聞いたのは別れてから随分あとのことらしいが、周りの人には結構言い回っていたらしい。「独身に戻ったから、あっちもとっとと別れればいいのに。 そうすれば一緒になれるんだけど」この発言自体でも悩んでしまうのだが(片割れは全くそんな感情を持ったことがないと言い切っている)最近は顔を合わせると言われることがある。「なんで別れないの? 子どもが居ないんだからとっとと別れればいいのに。 自分が一緒になったら子どもなんてすぐできる」……これはセクハラと取っていいのだろうか?それに加えて、わかれろとは……。肉親でも何でもないのにこういってくるこの人にはちょっとどころかかなり参っていたりする。もう一人は、意味不明なことをいってくる人である。意味不明というか、言いがかりというべきだろうか。なにか一つうまくいかなかったり、失敗したりするとすぐに柚木崎のせいにするのである。もちろん、身に覚えのないことまでいわれたりするので、これに関してはかなり困っている。いきなり柚木崎の元を訪ねてきて「あなたこれはいったいどういうことですか?」と、怒鳴ってくるのである。なにか自分がやったことならともかく、この人とは仕事上のつきあいすらなかったりするので、なぜこういうことを言われるようになったのか見当もつかない。相手は長時間文句を言い続けることを前提に飲み物をコーヒーカップに入れて持ってくる念の入れよう。この人の場合、長居をする気満々である。来客があろうと予定が入っていようとなんだろうと関係ない。とにかく、自分のいいたいことをいわないではいられないし、こちらが曖昧な返事をしようものなら大変なことになる。ある程度の覚悟が必要なのだが、そういう覚悟をする前にやってくるから困りものである。その方、今回はなにを思ったか、柚木崎にこういってきた。「私のパソコンの調子が悪いのはあなたのせいです!」……全く柚木崎、その方のPCをいじっていない。それどころか、どこのメーカーのパソコンで、OSがなんなのか、どのくらいのキャパを持っているのかなど全く何の情報も持っていないのだ。しかし、その人にはそんなことは関係ない。なにを根拠に言われているのか分からないあたりが困りものなのだが、とにかく何かが気に入らなかったのだろう。理由を聞いてみると、「あなたがわけのわからないことをしているのがいけないのです。 きちんと筋道を立てて物事はやりなさい」やっぱり理由になっていない。それどころか、やっぱりなぜこんなことを言われているのか全く分からない状態である。これらはいったいどう取ればいいのだろう?しばらくまた頭を悩ませなければならないらしい。
2004.01.23
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今日会った片割れの友人からいわれた言葉である。お国は遠く、シンガポール。赤道近くからの来客である。一族全員が集まって台湾へ遊びに行き、彼らだけはそのまま帰国せず、日本まで足を伸ばして来たそうなのである。来日するとは聞いていたが、多分日程的には会えないだろうね、と話していたのに急遽会えることになって出かけることになった。今回のお客様は柚木崎も、一度お会いしたことがあるご夫婦である。シンガポールに行った時にお世話になった。本当に久しぶりに会うことになるのだが、片割れの会社の関係者である。柚木崎、特に親しいというほど親しいわけではない。お目にかかりたいのは山々だが、おじゃまじゃないかと危惧していた。しかし、片割れに要請され、出かけることに。全部で8人来るので、店を探して欲しいと言われなにが好みかを聞いて探し出し、仕事が終わったら直行するようにした。それにしても、こういう時に限って仕事が終わらない。店自体は前もって片割れにメールしておいたので、仕方なく少し遅刻させてもらうことにした。ところが、いざいってみると、まだ誰もいない。片割れはぽつんと駅で待っていてくれた。聞くと、まだ到着してないそうなのである。会社のメンバーも「いずこ?」という状態である。携帯で連絡を取り合いながら移動しているうちに一組の夫婦と合流。そう。みんな片割れ繋がりで、もう片方は全く関係がない。だから柚木崎も呼ばれたのである。しかも初対面……いいのだろうか?挨拶している間に連絡が入り、お待ちかねのご夫婦が来た。「Long time no see!!!」と叫ばれ、ご主人と奥さんに熱烈な抱擁を受けた。一度お会いしただけなのに、覚えていてくれたらしい。めちゃめちゃ強行軍の日本旅行である。つい先ほどまで、河口湖にいたというのだから驚いた。しかも、聞くとあと1時間ほどで乗らなければ行けない電車が来てしまうと言うのである。これから京都へ行く、というのだからその行動力たるや、本当に脱帽してしまった。だが、そんな事情なので、急いで店を探さねばならない。しゃぶしゃぶが好き、と聞いていたので、そういうお店をチョイスしておいたのだが、こんな急ぎでは無理というもの。仕方がないので、他に「美味しい」と分かっているお店へ飛び込みで入ることにした。店に入って暫くすると、もう一組のご夫婦が到着。片割れと、先ほど来たご夫婦の旦那さんの上司に当たる人と、その奥さんのお二方である。奥さん、舞台女優さんだと聞いていたが、本当に綺麗な方で驚いてしまった。とにかく客二人に何かを食べさせねば、と急いで結構大量に注文をした。これも食べさせてあげたい、あれも食べさせてあげたい状態である。しかし、出てくるのが非常に遅い。真っ先に出てきたのはワカサギの南蛮漬け。生ビールすら出てきたのはそのあとである。参った。しかし、料理は美味しく、お客さんの二人も喜んで食べてくれた。嬉しいことだが、残念なことに、一番食べさせてあげたかったものは出てくることなくタイムアップ。顔見知りで荷物持ちを兼ねてお見送りに行くことになってしまった。「See you!」あわあわと準備に追われながら、二人はそう言い残して次の目的地へ。次はいつ会えるか分からないが、近いうちにまた会えると嬉しいと思う。
2004.01.22
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昨日今日と少しのんびり。明日からまた怒濤の日々が始まるという状態の仕事。少しのんびりなのは、前もって出来ることをやっておいたからに過ぎないのだが、なんだかそれが思い切り誤解されまくっていることを改めて知ってしまった。火曜日からずっと早番が続いている。起きるのも勿論早いので、少し疲れが溜まっているからかちょっとしたことで苛々してしまったりする自分が居る。そんな自分を厭だと思いながら明日から始まる仕事の最終確認をしていた。明日から始まる仕事は、うちの職場全体が関わる仕事である。期間は1週間。日曜はさすがに休みだが、土曜もいつもとかわらない時間である。前もって準備しなければいけないことがあり、その準備が出来るように、先週の水曜あたりにある資料が届いていた。柚木崎もそれに気がついていたので、合間合間を縫ってちまちまその仕事をし、下準備にあたるそれが終わったのはつい一昨日の話である。昨日と今日は、少し落ち着いて自分の年間を通してやってきた仕事のまとめをしておこうと思っていた。もちろん、のんびりやっていくつもりである。しかし、思い通りに行かないのが仕事というもので。気づくと走るわ走るわ。相変わらず椅子に座っている時間は少ない状態になってしまった。突然の仕事が結構多いからである。その仕事を持ってくるのが、後輩なのだ。「あの、これやってください」「机の上に資料置いておくのでまとめてください」「外線の電話出るの大変なので、転送しておくから出てください」言い出したらきりがない状態になった。多少手伝えることがあるのなら、と思い、最初のうちは笑顔で聞いていたのだが、さすがに疲れてきたので聞いてみた。仕事を回してくるのはいいが、一気に来すぎ。なにしてんだ? と。すると、後輩はけろっとこういったのである。「暇なんでしょ? 私は忙しいんです。 文句いわずにやってください」思わず、「あのなぁ」と声を荒げてしまった。荒げた、というより、ドスが利いたというべきかもしれない。誰が暇だよ誰が! と怒鳴りたくなったのを必死で抑えて仕事をしている人間に、暇とかそういうのがあるわけないだろうと返事を返した。しかし、途中で大あくび。「だから暇なんでしょ。さっさとやれっての」めちゃめちゃ腹が立った。口の利き方ってもんをしらんのかこいつは。後輩ながらさすがに限度があると思い、口を開き掛けたが、唐突に突き抜けてしまった。腹が立ちすぎて、もうどうでも良くなってしまったのだ。どうでもいいというか、投げてやれ、みたいな状態である。だから、そのまま後輩に投げ返してやった。「こっちも忙しくて手が離せないから、自分の尻は自分で拭いな」意地の悪いいい方である。自分でもそう思うのだが、それ以外の言葉が出てこなかった。仕方がない。言ってしまったものは取り戻せない。PCに向かっていた後輩の顔が真っ赤に染まったが文句を言われる前に柚木崎はとっとと退散してしまった。相手にしているだけもったいない。そう思ってしまった。そんな状態で自分の席に戻り、PCに向かうと、来る予定だった上司の一人がちょうど到着した。まじまじと柚木崎の顔を見て、にやりとわらう。「これあげるから元気出してよ」渡されたのは紙袋一つ。どう見てもお菓子の包みが入っている。「みんなで分けて、って言おうと思ったけど、 一人でがめちゃっていいや(笑)」自宅近くの美味しいマドレーヌのお店からマドレーヌを買ってきてくれたそうなのである。気分が滅入っていたところなので、甘いものは嬉しい限りだ。しかし、がめてはまずいだろう。そう思って箱を開けたら、ブランデーケーキが一本まるまる入っていた。それだけでも持ち帰れ、といってくれたので、そればかりはお言葉に甘えることに。こんなことで気分が少し浮上するのは笑えてしまうのだが、ものではなく、気持ちが嬉しかったから浮上したのだと今頃になって思っている。モノだけではきっと、凹んだりしたままだったろう。上司の気持ちが嬉しかったのだ。あのなぁ、な後輩は相変わらず一人で忙しがっている。少しは周りを見回して欲しいなぁ、とマドレーヌ片手にため息をついた午後の出来事である。
2004.01.21
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中国人の上司が鼻歌交じりで「やほ~」と入ってきた。そういえば今日は彼女が来る日であった。他の上司たちはまちまちなのだが、彼女は前もって、「この日に来るからね」といっていたのをすっかり忘れていた柚木崎。慌てて椅子から立ち上がって、上司に思いっきり笑われてしまった。恥ずかしい……。上機嫌の上司は、ふらりと柚木崎の机の近くに来ると「お願い事していいですか?」と聞いてきた。なんなりと、と答えると交通経路を出して欲しいという。どこまでですか、と聞くと、六本木まで。何時頃までに到着がいいのかなどを尋ねてあっさりとその時間に着くようなルートを探し出す。どの時間のどの電車に乗ればいいのかすぐに出てくるようになったというのは本当に嬉しい。その経路をプリントアウトしていると、「これから若い子たちとご飯を食べに行くの」という。その場所が六本木なのだと。ちょっと興味がわいたので、なにを食べに行くのか聞いたところ、中華料理だという。生粋の北京人である上司の舌にあう、中国料理の店があるのだといっていた。それがここである。リーズナブルな上に、きちんと本場の味が楽しめるのだ、と彼女は弾んだ声で話してくれた。だから若い子たちに今日はおごろうと思って、と。中国大使館に勤めていた中国の方が始めたお店とのこと。それは確かに本場の味が楽しめるかもしれない。彼女に空き時間、中国を教えてもらっている子たちである。これは喜ぶだろう。聞くと、きちんと北京ダックもまるまる1羽出てくるのだ。いいなぁ、そういうところは暫くご無沙汰している。一緒に行きませんか、と誘って貰えたのだが、残念ながら今日は約束が入っているため、行けない。本当に本当に残念に思いながら行ってらっしゃいと送り出した。ぜひ六本木に行く時にはいってみてね、といわれこれは行かなきゃですね、と答えた。六本木。こうしてまた、行きたいお店が増えた。これは嬉しいことである。しかし、六本木は遠い……。
2004.01.20
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今日で殆どの上司がしばらくの休暇に入る。次に会うのは4月半ば。それまで長い休暇に入る。上司だけ、という状態ではあるが、何となくホッとするような気もしなくもない。暫く休みがある上司たちのあるいみ最後の出勤日である。やることがたくさんあって結構慌ただしい。走り回ることも多いが、デスクワークも多いのがこの時期の特徴かもしれない。書類作成やら伝票作成やら郵送物発送準備やら……。きづくとお昼休みをすっかり忘れているし、気づいたらもう仕事終了の時間だった。慌ただしく動いているから、意外なところで意外なものにぶつかったりする。柚木崎はどうやら、右足をぶつけるのが多いようだ。気づいたら痣が出来ていたのが右膝上。そして今日は右の踝上を思いっきりぶつけてしまった。レーザープリンターが載せられた台車に……。さすがに重たいものを載せているものだけある。痛かった……。なんで右足ばかりなのだろう、と考えて思い当たったことがある。柚木崎の机の配置である。自分の椅子に座るためには、30cmの隙間を通らねば入れない。自分の机の角とシュレッダーの間が入り口である。机と椅子の間は80cm。もちろんすぐ後ろは壁である。袖机が一つの机、プリンタ台の上にはカラーレーザープリンタ。PC本体が横に入ってさらにその下にスキャナーが横たわる。狭いスペースに一生懸命組み込んだ成果である。机の上は勿論、殆どスペースがない。モニターを交換したいと本気で考えているが、予算の関係上、難しいだろう。そんな感じなので、自分の机に着こうとすると、30cmの隙間を通る。出る時も勿論、通らないと出られない。入る時は右足からはいるが、気にしているからぶつけない。出る時は左足から出るので、右足を気にしていない。だからぶつけるのだ。現在、30cmの出口がさらに長くなっている。プリンターを置いた台車のおかげである。置き場がないから暫く置いておいてくれ、と言われそのままにされているプリンターである。こいつが一番痣を作る原因となっているのは言わずもがな。いつ移動してくれるのかな、と思っているのだが、担当者はいつまで経っても口を噤んでいる。聞かなければ、と思っていたら休みを取られてしまった。……聞くのを忘れないようにせねば。そんなこんなで、暫く会えない上司のために奔走中である。今日も痣が増えていたら厭だなぁ。
2004.01.19
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今日はセンター入試2日目である。相変わらずお偉いさんたち相手に一日を過ごす仕事である。同じ仕事を4回続けているが、飽きることがないのはなぜだろう。多分、このお偉いさんたち、話が面白いからと思われる。昨日の頭痛は無事に治まり、というかなんとなく「痛い気がする」程度になったので今日も元気に仕事に出かける。やはり朝が早いからか、少し眠い気もするがそれで痛みが麻痺してるならそれもよし。そう思って出かけていった。昨晩も降り続いた雪は日陰を残して既に溶けてしまっている。北向きの道路や東西に向けて走っている道路は少し滑りそうな気配をしている雪が残っていたがウチの子でも無事に走れる程度のもので今年はタクシー通勤しなくて済んで良かった。受験生にしてみても天候により電車が遅れたりするハプニングはないのはきっと嬉しいことに違いない。早く終わってくれること。これが一番嬉しいことなんだろうな、と思いながら仕事を淡々とこなした。今日は4つの試験。午前中に長い国語の試験があり、それ以降は時間も短くなる。終わる時間も昨日と比べて1時間以上早い。しかし、片づけを考えると……結局はかわらなくなるのかもしれない。早く帰れることを期待して、早く片づけることを自らに課して仕事を進めていった。しかし、である。そうは問屋が卸さないのがうちの職場というべきか。片づけを終えて鍵を閉めて。全部の荷物をまた戻しに行った時のことである。「もう終わったの?」居丈だかな声が聞こえた。厭な予感がする。振り返ると、怖いことで有名なある人が立っている。「終わりました。お疲れ様です」責任者である先輩が頭を下げ、みんなで頭を下げると呆れたように先輩の方をその人は叩いた。「おかしいわねぇ、 Aさん(先輩)は私たちの手伝いをしてくれるっていってるのに 後輩のあなた達がやらないで帰ろうなんて。 ずいぶんと偉くなったものね?」はいぃ? と語尾を上げて片方の眉をつり上げたくなった。誰がそんなことを言っている?先輩が困ったような顔をして呟いた。「私はそんなこと言ってない……」しかし、そのかたは聞こえないふりをした。フリをしたのが分かる、そういう仕草をした。「先輩より先に帰ろうなんていい度胸してるよね。 あんたたちには人を手伝ってあげようっていう優しさはないの? 自分たちの仕事さえ終わればそれでいいわけ?」……いつもこの方のやっていることである。人に言うということは、自分に跳ね返ってきていることに気づいていないのだろうか。気づいていないのだろう、なぁ……。と、視線が柚木崎を貫いた。「家が一番近い人なのに、帰ろうっていうの? 図々しいわよね。 あんた何年この仕事してるわけ?」なんか言いがかりに近くなってきた。それに加えて面倒になってきた。要は自分たちの仕事を(同じような仕事はとっくに終わって戻っている。 それ以外の通常業務と半々の仕事が残っている)手伝えといっているのだ。しかも、これは強制である。残業手当もつかない柚木崎たちにいうのは間違っているのだが、使って当たり前程度にしか思っていないその人にはそのことをいっても無駄なことは分かっている。(以前バトルをしたことがあるが、全然人の話を聞いてなかった)仕方がないので、とっとと終わらせるに限る。そういう結論に達した。片割れが待っていてくれているが仕方がない。結局もとの仕事場のところまで戻って何かをやるという仕事を3往復させられた。しかも、割れ物(さらに重たいもの)を持って、である。一つでも割ったら大変なことになるからね、と目を三角にしていわれてしまっている。なんだか継母に虐められる継子のようだと同じように手伝わされた人と笑いあったことは内緒の話である。万歩計は2万5千歩を越えた。昨日も約2万2千歩である。それにしても疲れた。受験生の皆さんもお疲れ様です。無事に皆さんが希望校に合格することをお祈りしています。
2004.01.18
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今日はセンター入試の日である。今日・明日とやらねばならない仕事とは、センター入試の手伝いだったり、する。これが毎年、結構骨なのだ。柚木崎は今年も本部庶務の仕事である。某大学にて本部詰めのお偉いさんたち相手の仕事だ。この仕事、朝から晩までという仕事だったりする。誰よりも早く仕事に来て、誰よりも遅くまで仕事をする。そういう場所である。今年は去年より30分早まった、7時30分に出勤だ。起床時間は6時台。家は遅くとも7時に出なければならない。代休はずっと先にならねば貰えないのでかなり体力が落ちる。結構、本当に、つらい。初日は5つ試験があるので、帰宅時間は夜の8時を過ぎる。気を遣い、気を配り、気を回し、先回り。理不尽なことを言われては顔に出さないようにしながらなんとか過ごした1日。それでもやっぱり少し緊張はしていたのだろう。自宅に帰った途端、一気に体に来た。まず、微妙にいたいかな、と思っていた頭が一気に痛みを増した。金槌で殴られているような痛みである。同時に左目の奥がずきずきと痛み出す。心拍数に合わせて痛い。このパターンはヤバイ。基本的に肩のこりや首のこりから来ているように思うので、片割れにお願いして肩もみをしてもらう。普段も固いが、こういう時はさらに驚くほど固いそうなのである。10分ほど肩もみをしてくれたがとうとう片割れが音を上げてしまった。全然こりが取れない、という。多分、雪が降っているからだと思う。柚木崎が職場について暫くしたら、雪が降り始めた。一日降り続いている。今日は驚くほど寒い。底冷えしている。その当たりも関係していたのかもしれない。マッサージをしてもらい、少しは楽になったように思うのだが、相変わらず痛いのには変わりがない。柚木崎の仕事時間が長いことを知っていたので、今日は片割れが掃除から食事からの家事一切をやってくれた。助かった、本当に。片割れが作ってくれた夕飯を食べ、九州のお嬢(と呼んでいる友人)からもらった薬を飲み、しばらく大人しくしていると、薬が効いてきたのか、痛みが少し和らいできた。この間に風呂に入って、とっとと寝る。それに限る。そう思って即実行。片割れがやはり、風呂まで沸かしておいてくれたので本当に本当に助かった。明日には痛みが取れていると良いのだが。休むわけにはいかないからなぁ。
2004.01.17
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明日明後日の仕事に関することで、今日は連絡会がある。毎年この時期にある恒例行事で、連絡会自体も仕事の終わりの時間近くにやるのが通例。しかし、今年は何かが違う。何事も早い気がするのは気のせいだろうか。連絡会開始時刻は14時。どう考えても通常の仕事が慌ただしい時間である。だが、行かなければならないのは分かっている。次々に来る上司たちに14時から席を外すから、と説明し万全に準備を整えたはず……だったのだが。予想外のことはいつでも起こるもの。それを実感したのは14時まであと10分に迫ったときのこと。人の出入りが激しくなった。どうやら、上司の一人が何かをやったらしい。そして、その上司は……いない。どうやら少しの間、席を外しているようだ。当の上司は今日帰ってしまったらあとは4月まで来ないのである。探す方としては必死になる。このままでは行けそうにない。仕方がないので、担当部署に電話を掛けた。すると、担当の人は出てしまったあとだったが、同僚が出た。「仕事が一段落したらでいいですよ」助かった。出来るだけ早く行きますので、と答えて電話を切った。だが、1時間を過ぎても、まだ行ける気配はない。……もう一度電話を掛けた。連絡会には出られそうもない。あとで出ている人に聞くので、力仕事の方はなるべく行く。そういうと、相手は苦笑気味だった。仕方がない。そういう部署にいるのだ、柚木崎も相手も。電話を切って5分もしないうちに電話がかかってきた。人の対応をしている真っ最中、少し困ったが、出ることに。明日明後日一緒に仕事をする人からである。「持って行くものがたくさんなので、至急手伝いお願いします」いうだけいって切ってしまった。……やばい。行かねば。こうなるともう、仕方がない。背に腹は代えられない。手近にいた上司に声を掛けた。「済みません、この件、お願いしてもいいですか?」結構普段から仲の良い上司だったので、快く引き受けてくれた。助かった。これで行ける。要領等を手短に話して、取るものもとりあえず一気にダッシュを掛けた。とにかく急がなくてはならない。走るの苦手な筈なのだが、走らざるを得なかった。ココにいる、といわれた場所が経由地になるが、そこには既に探し人はおらず、もう直接行くしかない状況になってしまった。他の部署まで歩いて5分。途中、経由しなければならないことを考えると、歩いて10分はかかる。それを3分で駆け抜けた。本気である。最後のエレベーターでようやく追いついた。不機嫌な顔で大きな台車を前にした同業者。忘れていた。この人は口の利き方を知らない人だった。覚悟するしか、あるまい。そう思ったところでもう一人駆け込んできた。先輩である。同じく、明日明後日一緒に仕事をすることになっている。「ごめ~ん、忘れちゃってた~」この人にはどうやらちゃんと敬語を使うようだ。おかげで柚木崎も助かった。お疲れ様です、と声を掛けると、目配せされた。本当に助かった……。他に代わってくれる人がいるならなんとかなるが、なかなかそうはいかないのが現在の柚木崎の仕事である。柚木崎だけでなく、同業の人たちはみな同じと思う。この時間に集合というのは無理難題に近いのだが……。改善、されないだろう、なぁ……。
2004.01.16
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今日来る上司の一人が、2月の誕生日だと聞いた覚えがある。人の誕生日を覚えることが苦手な柚木崎は曖昧な「月」でしか覚えていない。きちんとメモしてわかりやすいところに書いていないと本当に忘れてしまうのだから困ったものだ。片割れや実の親の誕生日すらたまに曖昧になるのだから困ってしまう。なにとセットにしたら覚えやすいだろう?少しそんなことを考えたりしている。今日来る上司の場合もそうなのだ。なんか、誕生日の話というのをした覚えがある。2月のいつだったか……いくら思い出そうとしても思い出せない。2月。それだけは覚えている。おなじ水瓶座だ! と盛り上がったはずなのだ。そのあたりでしか覚えてない当たりが悲しい。だが、その2月、その上司とは会う機会がない。なので、前もってプレゼントを渡そうと用意していた。忘れないように鞄に入れなければ……。誕生日プレゼントは、誕生石を使ったブレスレットである。あまり装飾品を普段着けていない女性の方なのだが、指輪とブレスレットは時々しているのを見ていた。それなら、と思ったのだ。幸い、2月の誕生石である紫水晶は手元にたくさんある。これでブレスレットを作ってあげれば、と思い立ったのはその話をして数日後のことだった。作り上げるに必要な日数……1日。否、1時間ほどで作業完了。デザインはどうであれ、できあがった。長さ的にも無難な長さにしてある。どうだろう。喜んで貰えたら嬉しい。そう思いながら小さなジュエリー用の袋に入れた。職場に来た上司に、少し早いですが、と渡すと目をきらきらと輝かせた。手作りなのでそんなたいしたものではない。だが、いつもお世話になっているので気持ちはこもっているものでは、ある。少し緊張しながら見守っていると、袋を綺麗な指で開いてあけ、中を覗き込む。小さな歓声が上がった。どうやら喜んで貰えたらしい。少し胸をなで下ろす。「これ、もしかして手作りですか?」アメリカに長くいた女性なので、実は少し英語なまりがある。それがチャームポイントの彼女は、大きな栗色の瞳をこぼれんばかりに見開いてブレスレットを見ている。可愛い。思わず頭を撫でたくなるほど可愛い。一緒にいたJが思わず頭をぐりぐりと撫でていたのがよく分かる。羨ましいぞ、J。手作りだから頑丈ではないのだけれど、と伝えると嬉しそうに顔をほころばせてくれる。喜んで貰えたようで、柚木崎としても嬉しい。早速着ける~、と身につけてくれて、一日着けたままで過ごしてくれた上司。喜んで貰えたのは本当に嬉しい。本当に少し(?)早かった誕生日プレゼントだが、こういうのもたまにはよいのかもしれない。……ちゃんと人の誕生日は覚えような、自分(^^;
2004.01.15
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今日も一人、これで最後という上司が来る。ご家族の問題とご自身の問題とを抱えながらずっとこちらを支えてきてくれた方である。年上の方に言うのは失礼かもしれないが、小柄で可愛らしい素敵な女性だ。年明け初めてお目にかかったその方は、今までと変わらぬ笑顔で入ってきた。手にはたくさんの荷物を抱えている。いつもの光景と余り変わらないが、手荷物に紙袋が多いのが気に掛かる。案の定、「ご挨拶に」とひとつ袋が手渡された。こちらのみなで食べて欲しい、と。その方のご自宅近くで有名なお菓子屋さんのお菓子である。ありがたく頂戴し、机の上に広げる。甘い香りがふわりと漂った。そしてね、と今度は鞄をごそごそ。一瞬警戒しそうになったが、すぐに思い当たる。この方はハーブティーやら紅茶やらをたくさんこちらにご寄付くださる方なのだ。おかげさまでこちらの上司たちはみな、美味しい紅茶というものに目がなくなってしまった。罪作りな人ですね、と以前からかったら、そうでしょう? と目をきらきらさせて答えてくれた冗談の通じる人でもある。そんなことを思い出しているうちに鞄の中から次々と取り出されたのはやはりたくさんの種類の紅茶だった。一つは「睡蓮」と名付けられた紅茶。どこの銘柄のものだか、柚木崎にも分からない。見たことがない缶のデザインだったからだ。他にもハーブティーを数種、紅茶が2種。「たくさん一気にごめんなさいね」そう恐縮するその方。そんな、恐縮するのは柚木崎の方である。趣味で好きでいろいろ持ってきたお茶。上司たちに出していたら、この方がウチにもあるからとくださって今では持ってきていただくお茶の方が多くなってしまった。それなのに、こんな謝られるなんて、何か違う。こちらも深々と頭を下げた。大切に美味しくいただかせていただきます。他の上司たちが仕事で席を外したとき、その方はこっそり柚木崎に耳打ちしてきた。「あのね、おまめなんだけどね」この方は煮豆を作らせると天下一品の腕前の方である。今までたべたことのある煮豆の中でこの方の作られた煮豆以上のものを、柚木崎は実は、食べたことがない。嬉しいことに、この方は出会って以来、いい豆が手に入ったからといっては煮豆を作り、柚木崎にくださるのである。これほど嬉しいことはない。ありがたくいただき、片割れと奪い合うようにして食べている。その豆、というのだから、なにかあったのだろうか。「今年の豆は、イマイチみたいでね、美味しくないの」泣いてしまいそうな顔をしている。この方のそんな顔を見ると、柚木崎はどうして良いか分からなくなってしまう。困った。どうしよう。「だから、今回は持ってこなかったんだけど…… またお豆を煮たら、持ってきて良いかしら?」辞める自分が来るのはおかしい? そう小首をかしげて涙目で聞かれ、柚木崎は首をブンブン横に振ってしまった。そんなことはない。いつでも遊びに来て欲しい、と。来て貰えたら柚木崎は勿論、他の上司たちも喜ぶから、というと嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑みをこぼしてくれた。その目尻から涙がぽろりとこぼれ落ちた。淋しいからお別れは言わないね。そういって帰っていった上司。他の上司たちともお別れを言わなかった。いつかまた! それだけ。それでも涙をぽろぽろこぼしながら帰っていった上司。いつでも本当に遊びに来てくれると嬉しい。
2004.01.14
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今日でもう、出勤してこなくなる上司が居る。理由は、おばあちゃんになったから、とのことで、何とも周りを驚かせてくれた上司なのだが、実際そういう理由で退職されるのだから仕方がない。在職中、とてもお世話になったので、心ばかりのお礼を用意させて頂いた。上司がおばあちゃんになった年の、イヤーズプレートである。柚木崎は上司にあげたのだが、上司がそれを孫が成人したときにあげるのは全然気にしないつもりでいる。同じ年だから、上司がそのつもりならそれでいい。それで良いと思うなら、それで。そう思っている。記念のものだ。喜んで貰えるなら、嬉しい。そう思って購入し、先日受け取りに行ってきた。忘れないように持ってきたのだが、肝心の上司はなかなかこない。まさか休みなのでは、と不安に思った頃、ようやく顔を覗かせてくれた。「今日でお終いです。お世話になりました」そう上司は頭を下げてきた。こちらこそ、と頭を下げる。多分、歯がゆい思いをしたこともあるだろう。気が回らなくて苛々したこともあるはずだ。しかし、この上司はいつもにこにこと笑みを絶やさず、長期休暇の前には「お世話になりました。また休み明けもよろしく」と何かしらを手渡してくれるような上司だったのである。……すっかりそれを失念していた、と言っていい。いままでいろいろありがとうございました、とイヤーズプレートを手渡した。おばあちゃんになった記念で購入させて頂きました、と話すと嬉しそうに声を上げて笑ってくれた。そして、その笑いを納めると、目尻を拭いながら「あなたにね、たくさんおせわになったから、これ」と小さな包み紙を鞄の中から取りだしてきたのである。焦ってしまった。こちらがお祝いのつもりで手渡したのに、なんかお礼を期待したみたいになってしまった。いやいや、と辞退すると、どうしてももらって欲しいのだ、と言われてしまった。そこまで言われては受け取らないわけにはいかない。ありがたくいただきます、と頂戴した。自宅に帰ってから包み紙をあけると、有名ブランドのハンカチが2枚入っていた。一枚はどう見ても片割れ用である。そういえば、帰りがけに言っていた。「配偶者の方にもよろしくお伝え下さい」と。柚木崎がこうして仕事に専念できるのは配偶者の支えがあってこそだと思うのだ。そのおかげで自分は楽しい時間を過ごせた。ひいては、配偶者に間接的に支えてもらったようなものだから。本当は直接お礼を言いたいのだが、お会いする機会がないので、伝えてください。そう上司は帰りがけに言っていたのだ。その話を片割れにすると、半分照れたような笑いを浮かべていた。「そんな、気にしなくて良いのにね」片割れにも嬉しい言葉だったに違いない。これでお別れだけれども、なんだか気持ちがとても暖かくなった。またいつかお会いできる日を願って。
2004.01.13
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慌ただしくなる前の最後の休みである。のんびり過ごして体力温存、を目指している。眠れるだけ眠って、きちんと食べて適度に運動。なんだか小さな子どもの頃に戻ったような感じである。昨日片割れが交換してきてくれた自動掃除機は今日もガインガイン言いながら元気よくぐるんぐるん回っている。結構綺麗にしてくれるので重宝しそうだ。楽しそうに電源を入れているところを見ると片割れはどうやらこいつを気に入っているらしい。(そういう柚木崎も気に入っているが)気が向くとつい動かしてしまう当たりが笑える。動きがまた、笑えてしまう。そんなヤツに掃除は任せて洗濯ものを洗って干して。そこまでやったら眠くなってしまった。どうにも怠惰なのか、これから(さらに横に)成長するのか。どちらなのかわからないが、少し眠りたいな、と片割れに伝えたら、あっさり「おやすみ」と返事が来た。……柚木崎が寝ている間にガンダムのゲームをするつもりらしい。目が覚めると、TVの音は途絶えていた。人のいる気配はする。もそもそ起き出して居間をみると、片割れが残りわずかのピースを握りしめて2000ピースの完成間近なジグソーパズルに取り組んでいた。年末からずっと持ち越していたあれである。あと200ピースほどが嵌らない、分からない。途中で飽きて放り出してしまっていたのだが、さすがにこれでは終わらない、と片割れが取り組む気になったようだ。途中から参加した柚木崎だが、やっぱり難しい。変形ピースが一つもないのだ。一つ一つのパーツも小さく、あまり特徴らしい特徴もない。しかし、実は次が控えていたり、する。狼の絵柄。柚木崎と片割れが、多分一番気に入っている画家のもの。これをやるためには、こちらを片づけねばなるまい。二人でうんうんうなりながら、時々愚痴を言い合いながらなんとかあと数ピースまでにこぎ着けた。その時、既に日は落ちて夕飯時。柚木崎が戦線離脱をした直後のことである。「戻っておいで~」いきなり声がかかった。なんだろうと戻ってみると、最後の1ピースが載っている。「はい」にこやかに指さされた。最後の1ピースをはめ込む権利をくれる、というのだ。これは今まで頑張った人の権利だろう。そう思って、少しずらしただけで「はい」と手渡した。「ずるい」そういわれて、また少しずらして「はい」これでは終わらない。が、譲りたくない。何度かこれを繰り返して、最後には二人で台紙を軽く叩いてはめ込んだ。完成、である。それにしても長かった。何ヶ月かかったんだろう?実質、やらなかった時期を抜かしたとしても、一月はかかっていると思われる。アクリル板を上に乗せ、枠を固定して完成型にした。……しかし、やはり置き場に困った。とにかく大きいのだ。現在、とりあえずとりあえずの形で、和室の壁に立てかけてある。これから先、どこに飾ることになるのか検討するようだ。次のものも含めて考えなければなぁ……。
2004.01.12
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今日は柚木崎、少し不調である。来週は休みナシの出勤になるので、少しでも体力を温存するため、今日はのんびり過ごすことに。午前中は消防点検やら配水管清掃やらなんだかいろいろ入ったので慌ただしかったのだが、お昼を過ぎるとぱったりと静かになった。ご飯を食べて、なんか不調に気づいた柚木崎。そんな柚木崎を置いて、片割れは「面白いものを取りに行ってくる」と、P屋へ出かけていってしまった。珈琲を飲みながら柚木崎は留守番である。お腹が痛いなぁ、眠気が収まらないなぁ、とうつらうつらしながら一日を過ごす。調子が悪いときの柚木崎はいつもこうだ。自宅にいるときだと、半分起きて半分寝ている。そんな状態である。寒気と眠気、背中も痛い。そんなことを考えながら起きたり寝たりの繰り返し。ご飯を食べることすら忘れてしまったりするのでさすがにそれはヤバイだろうと片割れと一緒に先に食べておいた。その後は本当にのんびりのんびり、である。気づくと、夜の7時頃。片割れがやっと帰ってきた。手には大きな荷物を抱えている。どうりで玄関を開けられなかったわけである。(チャイムを鳴らしてきたので何事かと思ったのだが)嬉しそうに抱えている荷物はなんだろう。薄いが、大きめの段ボールである。もう一つはビニール袋。ビニール袋の方はすぐに分かった。お米である。2kg、交換してきたらしい。新潟のコシヒカリと交換してくるのだ。面白いものと交換があるものだな、といつも思う。もう一つの箱はというと……。いそいそと片割れがあけている。「面白いもの♪」出してきたものを見て、びっくりである。なんと、これの類似品なのである。結構大きなものだったらしい。おもしろがっていた片割れが分かる気がする。早速充電をしながら待つ片割れに夕飯を準備する柚木崎。さて、動いたらどんなものか。楽しみである。きちんと掃除してくれるならこれは大当たりかもしれない。
2004.01.11
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年末にあるお店で依頼していたものが届いている筈なので、今日はそれを受け取りに行く約束がある。行かなきゃだね、と片割れと話していたものの、起きたのはなんと昼の2時過ぎ。余りにも遅すぎる起床時間に、お互い思わず顔を見合わせて苦笑してしまった。余りにも怠惰すぎやしないか……。そこからブランチを作って食べて。遅まきながら出かける準備。午後3時頃に家を出た。お願いをしておいたお店までは、車で20分ほど。少し混んでいる道をのんびり進んで店に着くと、担当してくれている女性が見あたらない。どうやら他の客の相手をしている様子である。それならそれでいいか、と別のものを見ながらその方を待つことにした。面白いもので、店長が最初に気づいてくれた。「あけましておめでとうございます」と声を掛けてきてくれる。こちらもご挨拶を返すと、きちんと名前まで覚えていてくれて、話しかけてきてくれた。そんな常連、と言うほどではないし、毎度高価なものを買う客でもない。それでも、年に一度は大抵顔を出すから、覚えてくれているのかもしれない。他にも店員はいるが、なぜか遠巻きに見ている。なぜだろう……。そんなことを思っていたら、担当の方が商談を終えた様子である。「あら、あけましておめでとうございます」やはりすぐ気づいてくれて、ご挨拶してくれた。こちらも改めて挨拶を返す。頼んでいたものは無事に届いているとのこと。早速見せてもらうことにした。今回は、2003年のイヤープレートを2枚お願いした。ウチで気に入っている、「リンドナー」という洋食器のメーカーのものである。濃紺と金の使い方が綺麗で、とても気に入っている。兄のところの子どものお祝いと、職場の上司の「おばあちゃんになった記念」である。そう話したら、担当の女性は明るい笑い声をたてた。「その、『おばあちゃんになった記念』っていいですね。 喜んで頂けると嬉しいのですけれど」その通りだ、と本当に思う。上司のおばあちゃんになった年=孫の生まれた年。その人が孫に後々あげてもよし、そう思って同じ年のものを選んだ。喜んで貰えたら嬉しいと、本当に思う。兄のところには宅急便で送るので、厳重にパッキングをして貰って、手渡しできるものはギフト包装をして貰った。リボン使いもまた綺麗で嬉しい。職場の先輩の結婚祝いも実は考えているのだが、と話をしたらやはりイヤープレートを勧められた。ただ、柚木崎たち的には、先輩にはリンドナーをあげたくなかったり、する。なんて言えばいいのか分からないのだが、気持ちの問題なのかもしれない。そんなこんなで悩んでいる最中である。さて、なににしようか……。あぁ、それより先にまず、兄のところに送らなければ。姪っ子の名前で送るかな(笑)
2004.01.10
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昨日から仕事が始まった。本格的なスタートは今日からと言うべきかもしれない。上司たちが続々と来るようになるのは、今日からのことだからである。今日、最初に会った上司。年始の挨拶をしたところ、「あのね、おみやげ」と言って小さな袋を手渡してくれた。なんだろうとあけさせて頂くと、チョコレートである。いつもよくしてもらっているから、とにこにこしている。ありがたく頂戴することにした。柚木崎は柚木崎で片割れの実家の方面で買ったおみやげを既に机の上に広げてある。「ご自由にお召し上がりください」という状態。その話をすると、嬉しそうにその上司は一つ持ち帰っていった。まさかその上司からもらったものがしばらくの間、続くとは思ってもみなかった。嬉しいやら嬉しいやら嬉しいやら……頂き物をあとで見てみて驚いた。なんと、今日だけでチョコレートを5箱も頂いている。しかも全て、どこそこのブランドという名の通ったお店のチョコレートばかりである。も、もしや早すぎるバレンタイン? と思ってしまうほどなんだかバラエティーに富んだチョコレートが所狭しと紙袋の中に収まっていた。柚木崎はチョコレートが嫌いではない。むしろ、好きな方である。ビターであればビターであるほど好みになる。ミルクチョコよりビターチョコ。ホワイトチョコレートはチョコレートに非ず、と職場の先輩と意見が一致したことがある。そのくらいビターチョコは好きである。別にその話を上司たちにしたことはないのだが、みんながみんな、揃えたようにビターチョコばかりなのには驚いた。嬉しい限りである。しかし、この大量のチョコレート。どうしよう、と悩む方が先かもしれない。好きではあっても、一度に食べる量などたかがしれている。食べられる量、と言った方が良いか。これを全て消費するには、一日幾つ食べればいいのだろう?片割れと分けるにしても……結構な量になりそうな気配である。どうするか。とりあえずは冷蔵庫に入れておこう。
2004.01.09
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柚木崎は今日から仕事始めである。いきなり早番で驚いたが、行ってみるとまだ誰もいなくてさらに驚いた。職場の鍵を開けていろいろ準備をしていると外線の電話が鳴った。出てみると、同じく早番出勤の後輩である。「新年早々ごめんなさい、熱が出て行けません」暫く前から下がらないのだという。体力も相当消耗しているに違いない。ゆっくり休んでお大事に、と告げて電話を切った。他の同僚たちにメモでその件を伝え、たまりに溜まっているはずの郵便物などを受け取りに行った。書類などを取り扱っている部署に行くと、驚くほどの郵便物などが溜まっていた。段ボール箱に2箱以上、優にある。うかつにも台車で来なかった。失敗してしまった。仕方がないので、持って行けるだけ先に持って行くことにする。左腕に抱えられるだけ新聞と郵便物、右腕に書籍の詰まった段ボール箱を一つ。さすがに書籍が詰まっているものは重たい。落ちそうになる郵便物を抱え直し抱え直ししながら戻る途中で中番の後輩一人に出会った。新年最初のご挨拶を交わすと、後輩はおずおずと顔を覗き込んできた。「あの、おも、そうなの、で……一つ持ちましょうか?」なぜか言葉がとぎれとぎれである。大丈夫と笑って答えると、顔を真っ赤にしていきなり頭を下げた。「ごめんなさい! 年賀状、住所間違えて出したので戻って来ちゃいました! 封筒に入れて送り直したんですけど、届きました?」思わず吹いてしまった。そういえば、昨日届いていた。片割れと二人で「ぎりぎり間に合ったって言ってあげなきゃね」と言っていたのをすっかり忘れていたのである。無事に届いたことを知らせると、本当に照れたように顔を赤く染めたまま、もう一度「やっぱり一つ持ちます」と本が詰まった段ボールに手を伸ばしてくれた。よほど恥ずかしい思いをしたに違いない。今度はありがたくお願いすることにした。先に持ってきた方をより分けている間に、その後輩が残りを台車で取りに行ってくれた。置いてきた殆どが後輩の仕事の関連のものだったらしい。より分けなければいけないものを少し柚木崎に渡してくれると、残りを全て自分の机に持って行った。より分けていると、結構な数の年賀状が出てきた。上司たちに宛てての年賀状なのだが、中には後輩宛のがあったりして驚いてしまう。肩書きが全く違う上司がいたりして、これにも驚いた。いろいろな郵便物があるものである。今年海外留学に行っている上司からもニューイヤーカードが届いていた。もう少しで戻ります、と書いてある。もう1年が過ぎるのだな、と漠然と思いながら封を開け、全員が見られるように掲示しておいた。今日は一日、居なかった間の仕事に追われる。さて、そろそろ暖気が終わる頃かな?
2004.01.07
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冬季休業最終日である。なんだか休みがあっという間に終わってしまったように感じてならない。その話を片割れにしたところ、「半分以上を寝て過ごしてたからね」と笑われてしまった。事実、かも、しれない……。今のうちに出来ること。そう思って、片割れを送り出して、まず洗濯。そういえば出かけていたので溜まっている。ガインガイン洗濯機に働いてもらっている間に掃除機をかけてみる。……? 電話が鳴っているような?慌てて掃除機を止めると、柚木崎母からの電話だった。「Mちゃんからお年始もらったからお礼いっといてね~」この一言のみである。留守電でもよかったかもしれない。もう一度掃除機の電源を入れて掃除をする。端っこ隅っこ上の方。きちんと掃除機を掛けていると、時間が経つのが早い。気づくと洗濯機は「お仕事終了!」と告げている。一服しがてら洗濯物を干しに行く。ベランダの外は空気が冷たいが、さわやかな天気である。洗濯物が乾くのは早そうだ。少し嬉しくなって干していると、隣でがたりと音がした。お隣さん(面識殆ど無し)がどうやらベランダにいた模様である。たまにこの方、柚木崎や片割れが煙草を吸っていると大きな物音を立てて部屋の中に戻っていく。一緒がいやなのか、単なる偶然なのか。ああまただ、と思いながら洗濯物を干し終えた。暫く外でぼ~っと景色を眺めると、日差しの色はすっかり冬で、こんなことも見落としていたんだな、と認識させられた。たまにはこういうのんびりも、いい。部屋に戻って冷えた体を温めるが如く、また掃除機を動かしてみる。手の感覚が殆ど無い。そこまで冷えたつもりはないのだが。掃除を終えて、ブランチにしてみる。時間をそろそろ職場時間に戻さねばならない。そう思わなくても、仕事に行くと勝手に戻るので問題ないのだが、たまには前日から戻すもよかろう。年末からここ数日に掛けて、片割れにゲームを占領され始めた。弟分が遊びに来たとき、やってないゲームを先にやられたのが少し悔しかったらしい。「る!」と一言だけ言うと、片割れがおもむろにゲームを始めてしまったので、暫く柚木崎は大人しくジグソーパズルをやっていた。今日は午後から少しやるか。明日から仕事だ。今週はまだのんびり出来るが、来週からは殺人的スケジュールに突入する。2月5日くらいまでは多分、風邪も引けなければ熱も出せない状態なので今のうちに体力を温存しておかねば。
2004.01.06
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朝から片割れが憂鬱そうだ。今日から仕事始めだからかもしれない。目覚まし時計が鳴っても止めるだけ。布団を引っ張っても寝返りを打つ。全身で「自分だけ仕事行くのはいやだぁ」と言われているようでなんだか申し訳ない気がしたのだが、そろそろ起きてもらわねばならない。でないと遅刻である。まず、布団をはがす。一番上の一枚を剥ぐと、一枚柚木崎の掛けていたのを持って行く。だめじゃん、ともう一枚剥ぐ。う~と呻って丸くなる。残り2枚。一気に剥ぐと寒いかもしれない。暖房を入れるため、一時休戦。……布団全部、もう一度かけ直している。また一から始めなければ。今回は2枚ずつ剥がしていくことに。重たいけれど、2枚一気に剥ぐとやっと目を開けた。少し涙目なのは寝起きだからだろう。「おっきろ~!」とかけ声をかけてさらに2枚。あれ? 1枚?? ……蹴落としてあった(笑)「さみ~~~ッ!!」と悲鳴が上がって片割れが一気に起きる。良きかな善きかな。ごめんよ片割れ。今日明日と君だけ出勤だ。柚木崎はあと二日、ゆっくり休ませてもらうことにする。来週は休み無く働くことになるから許してくれ。そう思いながら玄関先まで見送る。「ずるいよ~、ずるいよ~」といいながら片割れが出勤していった。ごめんよ、片割れ。柚木崎はこれからまた一眠りする。君の分まで寝ておくから許してくれたまえ。そうメールしたら、片割れは泣いていた。ウチの柚木崎のみ休みの場合のこれがパターンになりつつあるのかもしれない。
2004.01.05
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昨年からずっと続けているものがある。というより、終わらないものがある、と言った方が正解か。そのものとは、ジグソーパズルである。初めて2000ピースを購入したはいいのだが、余りにも細かい図柄、わかりにくいパーツで作業は難航している。あともう少し、というところまできているのだが、そこから先が牛歩となってしまっているのが現状だ。片割れが「ねこ」といって譲らない白い子虎2匹は出来ている。間に挟まった地球もできあがった。空も夜空の部分を埋めるのは難しかったが、なんとか埋めた。残るは山肌なのである。その山肌、輪郭は既に去年のうちにできあがった。そこから先が難航しているところなのだ。山の、雪が残っているところは所々できあがっておいてある状態。陽が当たって光っているところも、なんとかできあがっている。問題はその他の山肌、である。どこがどこに繋がるのか、全く見当がつかない。できあがったパーツも、どこにはまるか分からないのに、この状態ではいつまでも終わらない。どうしたものか……。絵を見ても、嵌るところが分からないので、少しずつ、パーツを覚え込んで当てはめ当てはめやっている。格段にできあがる速度が落ちた。できあがりました! と報告できるのはいつのことやら。片割れ共々小さくため息をついた。まだ少し、時間がかかりそうだ。
2004.01.04
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昨晩遅くに帰宅して今日は自分たちが住んでいるところ近くに初詣に行く予定。とはいえ、帰りが遅かったこともあり、案の定気づいたら12時を回っていた。二人して怠惰な生活を送っている気がする。昼の12時過ぎに起き出して、まずご挨拶。自宅で迎えた新年ということで、と二人でくすくす笑った。家の中で祀ってある神様にもご挨拶。今日も良いお天気である。適当にブランチを作って食べ、のんびり着替えをしのんびりのんびり出かけていった。地元の初詣、といっても、電車などを乗り継いでいく。少し大きいところに毎年行っているのだ。明治神宮とか成田山とか佐野厄よけ大師とか。そういうところではないのだが、関東3大不動の一つらしい。とても立派な建物が点在しているところである。今年は特に、新撰組がTV放映されるとのことで、人気がまた出たらしいという話を聞いている。最寄り駅から一つ電車で下って、モノレールに乗り換え。ゆっくりと動くモノレールに揺られながら不動尊の近くの駅に到着。既に夕暮れが迫っているが、時間的にはまだ早い。どこからか甘い良い香りが漂ってくる。何の香りだろう、と香りの元を辿ると、あちらこちらで甘栗を売っていた。甘栗を焼いている香りが漂っていたのである。これも冬の風物詩の一つなのかもしれない。やがて人並みが一方向に向かいはじめ、押し流されるように目当ての不動尊へ歩かされるようになる。向かいからも帰路につく人たちの流れがある。面白いもので、綺麗に別れている。川の流れのようだが、どこかに境があるらしい。そんなことを思っているウチに山門に着いた。流れから少しはずれ、口をすすいで手を洗って身を清め。当たり前のようにやっていたのだが、同じようにやっている人は少ない。みんな一直線に境内へ向かう。信号待ちで人がとぎれたのを見計らって流れに乗り、片割れと共に5円玉を準備して列についた。流されていく、流されていくと言う感じであっという間に境内へ。お賽銭を投げるにも、立ち止まることを許されない。人並みの間をすり抜けながらお賽銭を投げて、流されながらお願いをして。ふと足元を見ると、賽銭箱に入らなかった小銭がたくさん散らばっている。同じように足元を見た若い男の子が、一緒にいた女の子に話しかけているのが聞こえて笑ってしまった。「これ、拾って投げちゃダメかな?」人のふんどしで相撲を取ってはいけません。境内から放り出されるように出ると、あとは楽だった。参道には出店が並んでいる。片割れはこういう出店を冷やかしながら歩くのが好きだ。そうそう。お守りなども返さなければいけない。新しいお守りも買わなくては。出店を冷やかしながら歩いて、お守りを返し。近くでお守りをいくつか買った。あとは帰るだけである。来たときとは違うルートで今度は帰る。今度は電車で一気に帰る。買い物もしたいと思っていたからだ。自宅最寄り駅まで数駅。少しだけ買い物をしてバスで帰った。この駅から帰るときはいつもタクシーばかりだったのでたまにはバスも良いかもしれない。余りにも路線が多すぎて混乱しかけたが、無事に目標時間までには帰ってくることが出来た。新しいお守りをもち、新しい守りを置く。新年らしいな、と今頃思う。
2004.01.03
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昨日から片割れの実家に来ている。義兄たち夫婦と一緒に泊まるスペースがない、と言うことで、交代で行くことになっているのだが、義兄たちは年末から行っているので、ウチは昨日からということになったようだ。まだパターンが決まっていないので、決まるまでは変動があると思われる。昨晩、義妹が引っ越すことが決まったと報告があった。結局、自分で探してやっぱり新築マンションに住むことにしたらしい。そのあたり、拘りを持っているみたいだったので決まったならそれはそれで良かったのではないかと思っている。しかし、引っ越し期日が問題だった。2月1日あたり、という話なのだが、前もって片づけとかも手伝って欲しいのだという。柚木崎、そのあたり一番忙しい時期だったりするので難しいと答えると、義妹は明らかにむっとした。「なに? 手伝いたくないからってそういうこというの?」完全にむくれてしまう前に、片割れが助け船を出してくれた。毎年のことで、今年に限ったことじゃないし、誰も厭だとか言ってないから、と。それでもむくれたままの義妹に、義母が続ける。「いいじゃない。家の人だけ来てくれれば。 お義姉さんも来てくれるって言ってたでしょ?」……痛い言葉である。柚木崎を家族と見なさない、と言われたような、そんな感じ。あとで片割れにそういうと、気のせいだと言われたが、自分の問題とはいえ、疎外感を感じたのは確かな話である。そんなこんなで義兄夫婦は帰宅、柚木崎たちは泊まることになった昨晩。すっかり雨戸を閉めるのを忘れて眠ってしまった。目が覚めたときには既に日は昇り、障子越しの暖かな日差しが寝ていた和室に降り注いでいた。こういうのも久しぶりでいいな、と思ったときである。どこからか小さな羽ばたきが聞こえた。すぐ間近のようだ。そっと障子を開けると、まばゆい光が差し込んできた。静かな朝である。日差しが暖かいのか、飼っている柴犬が眠たげな目を上げる。丸くなってひなたぼっこをしていたらしい。その先の槙の木に、小さな姿が見えた。メジロのつがいである。時々くるのよ、とは聞いていたが、本当に間近で目にしたのは初めてのこと。実家にも来ていたので見たことがないわけではなかったが、1羽が見張りをし、もう1羽が木に置いてある蜜柑を啄む姿は愛らしく、優しい日だまりの景色だった。上の1羽はきょろきょろと辺りを見回し、本当に警戒している気配である。下の1羽は蜜柑を一心不乱に啄んでいる。暫くその景色を眺めていたいと思い、窓辺に座って柴犬と同様、日差しを楽しんでいたら柴犬が誰かに呼ばれたのだろう。ぴくりと身じろぎした。その途端。警戒していた上の1羽が、ぴりり、と警戒の鳴き声を発し素早く飛んでいってしまったのである。下で啄んでいた1羽は驚いた様子で、それでも少しの間、未練があったようで蜜柑を啄み続け。少しの後に、後を追うように飛び去ってしまった。メジロを驚かせた当の柴犬は、尻尾をゆっくり振ってこちらを向いている。どうやら柚木崎が動かないのを見て、中に入れてくれるかもしれないと思い至ってしまったようだ。室内外の犬ではないので、いれてあげることは出来ない。ごめんよ、と小さく声をかけたところで片割れが目を覚ました。新年早々、なんだか気持ちがささくれ立っていたが少し和む景色を見せてもらった気がしている。野鳥が遊びに来る家って、こういう小さな幸せが転がっているのかもしれない。
2004.01.02
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年の初めの一日である。今年はいい年になると良いな、と心から思って起きたのに、実際居間に降りてみると、そうはいかなかった。正直げんなりしている。柚木崎の顔を見るなり、親父様が嬉しそうな顔をして話しかけてきた。年始の挨拶も抜きに、である。よほど話したいことがあるのだろうな、と思ったから静かに聞いていて驚いた。父の友人の家に泥棒が入ったというのである。昔から仲の良い友人で、某所にかなりの土地を持つ人である。お金持ちなのだが、全然そういうところがないので、親父様から話を聞くまで全然知らなかった。その人の家に、とびっくりしていたら、新聞を差し出された。ココに載っている、と嬉しげな親父様。この時点で、かなり胃がむかむかしていた。記事を見ると、特に名前が出ていない。しかし、知っている人が見たら分かる程度の情報は載っている。まさかね、と最初に思ったのは母だったそうだ。その話を親父様にしたら、親父様はいそいそと電話をかけたそうなのである。「新聞に載ってたけど、泥棒入ったのはお前の家か?」その話をする母の顔も苦々しげだった。言わなければ良かった、と思っていたのかもしれない。怪我などしなかったのかと聞いたら、やっぱり嬉しそうにそんなのしてたら話をするもんか、という。だんだん気分が悪くなってきた。自分の父親ながら、なんでこんなに嬉しそうなのだろう。人の不幸を嬉しげに話す人を見るのは不快なのに。なんで友人なのにわからないのだろう。実兄を見ると済ました顔でTVを見ている。片割れは困った顔をしている。どうしたものか、気分が悪すぎる。気を取り直して、と思ったのだろう。母が雑煮の準備を始めた。みんなでテーブルを囲み、雑煮をよそって。新年の挨拶をして雑煮を食べ始めた。昨日のおせちの残りももちろん食べる。きんぴらはあっという間になくなってしまったのだ、と母は気を紛らわすかのように笑顔で話す。凄いよね、と笑う柚木崎。兄がぼそりと「辛いって言ってたのは誰だよ。喰わなきゃ良いのに」と呟いたのが聞こえた。辛いと言ったのはもちろん柚木崎である。唐辛子の辛さが今回のは響いた。唇がひりひりする、と笑いながら母に言ったのは昨日のこと。母も「少し辛かったかもね~」と笑っていたのに。柚木崎が憮然としたのが分かったのだろう。母が兄を軽くにらんだ。が、やはりなにも言わない。雑煮を食べ終わり、片づけをし、父方の親戚の家に行くことになっていたので準備をしていたときである。親父様が何かを思いついたようにはしゃいだ声を上げた。「そうだ。あの記事、切り抜いてヤツに持って行ってやろう。 滅多に新聞に載ることなんて無いんだから」せっかく忘れかけていたのに、一気に思い出させられた。母が今年初めて親父様に意見した。「やめなよ。そういうのは嬉しくないよ」だが、親父様は聞こえないふりをして新聞を探し、鋏を取れと柚木崎に言う。我慢できなくなった。柚木崎の家でこういうことがあり、親父様からこんなふうにされたら……絶対、我慢できない。許せなくなる。「やめたほうがいいよ」口を開いた。気分が悪かった。本当に吐いてしまいそうなくらい気分が悪かった。なんて悪趣味。なんて性格が悪いんだろう。そう思ってしまった。親父様には悪気はない。それは分かっているのだが、やっていいことと悪いことがあるのではないのだろうか。すると、親父様はいきなり振り返ると手元にあったティッシュボックスを投げつけてきた。「五月蝿い。お前は黙ってろ」……怒鳴られた。正直、今でも気分が悪い。しばらく親父様の顔を見たくない。柚木崎に愚痴を言いながら兄には一言も言わない母にも。しばらく、顔を見たくない。せっかくの新しい年なのに、しょっぱなから気分悪くスタートしてしまった。今年はどんな年になるのだろう。
2004.01.01
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