Nonsense Story

Nonsense Story

2005.07.21
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カテゴリ: 童話もどき



 野上の家の居間で、お姉ちゃんは強張った表情で電話の子機を受け取った。ミツルは後で代わるということになったので、お姉ちゃんが電話機のボタンを押すのを横でじっと見ていた。
「お母さん? うん、大丈夫だよ。・・・・・・うん、そう。野上にいる。ミツルも一緒」
 電話に出たお母さんはかなり取り乱して声が大きくなっているみたいで、受話器からかすかに声が漏れてきていた。それに対してお姉ちゃんは、いつもより小さいくらいの声で、短く受け答えしている。それが、お母さんに動揺を悟られないためだってことを、お姉ちゃんの子機を握りしめる手が物語っていた。
 どうやらお父さんはミツル達を探しに出かけているようで、家にいないらしい。お母さんはあと三十分してもミツル達が見つからなかったら、警察に連絡しようと考えていたみたいだった。
「・・・・・・私、心配かけたことは悪いと思ってるけど、家出のことは謝らないよ」
 しばらく黙ってお母さんの話を聞いていたお姉ちゃんが、思い切ったように口を開いた。
「お父さんとは仲直りしたの? 原因は何? また、子供には関係ないって言うの? 私達、二人が仲直りするまで帰らないからね」
 小さかったお姉ちゃんの声が、だんだん大きくなっていく。それにつれて、声の震えもはっきりと聞き取れるようになった。それでも構わず、お姉ちゃんは続けた。
「お母さん達がずっと仲直りしないなら、絶対家には帰らない! お父さんやミツルと分かれて暮らすくらいなら、ずっとここにいる! ミツルと二人で生きてくから!」
 ほとんど泣き声を上げてるみたいにそう叫ぶと、お姉ちゃんはミツルに子機を押し付けるようにして渡した。傍に控えていたおばあちゃんが、そっとお姉ちゃんの肩を抱く。そして同じように傍にいてくれたおじいちゃんが、ミツルの肩を軽く叩いて、お母さんと話すよう促した。
 ミツルは、喧嘩した友達に話しかける時みたいに緊張しながら、そっと子機を耳に充てた。小さな穴からは、お母さんの嗚咽が聞こえてきて、ミツルの心は何かに握りつぶされそうになったみたいにキュッと痛んだ。お母さんの命は間違いなく縮まっているように思えた。
「ミツル? ミツルなのね? 大丈夫? 怪我はしてない?」
「・・・・・・ぼくは大丈夫。こんな時間に子供だけで出てきちゃってごめんなさい。いっぱい心配かけちゃって、本当にごめんなさい」
 ミツルは心の底から謝った。謝るから、何度でも謝るから、お母さんの命がこれ以上縮まりませんようにと祈りながら。
「無事ならいいから。すぐにお父さんに言って迎えに行ってもらうから」
「それは待って!」
 お母さんには悪いけど、命は縮めてほしくないけれど、ミツルはこのまま帰ってお母さんを安心させてあげるわけにはいかなかった。一番伝えたいことは、訴えたいことは、もっと別にあるんだから。


つづく








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Last updated  2005.07.22 01:27:36 コメント(12) | コメントを書く


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ふーたろー@ Re[5]:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) あやきちさんへ 返信大変遅くなって申し…
あやきち@ Re:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) お久しぶりです、お元気でしょうか? 今…
ふーたろー5932 @ ぼっつぇ流星号αさんへ お返事遅くなりまくりですみません! こ…
ぼっつぇ流星号α @ いやー 猫がいっぱいだーうれしいな。ありがとう…
ふーたろー5932 @ 喜趣庵さんへ お返事遅くなってすみません! 本当に元…

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