Nonsense Story

Nonsense Story

2007.09.20
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カテゴリ: 奇妙な隣人



 田尾さんというその子は、あの少女と同じ制服を着たまま難しい表情をした。
「本当に、彼女に会ったんですか? うちの制服着て、左頬に痣があったって、マジで確信持てます? てか、あたしをからかってないですか?」
「からかうなんてとんでもない!」
 うちの隣人じゃあるまいし。俺は力いっぱい否定した。
「でも田尾さん、やっぱり知ってるんだ? 会ったっていうか、見ただけなんだけど。一週間くらい前に雑居ビルの屋上にいたのを見て、危ないなって思ってて・・・・・・。彼女、怪我とかしてない?」
 田尾さんはしばらく俺の顔を鑑定でもするように見詰めていたが、小さく溜息を吐いて、口を開いた。彼女の鑑定眼では、俺は嘘をついてはいないと出たらしい。
 ところが、田尾さんの発言に、俺はまたしてもショックを受けることとなる。
「怪我するも何も、あたしの知ってる『左頬に痣のあるうちの学校の女の子』って、とっくの昔に死んでるんですよ」
「え?」
「去年の今頃だったかな。真夜中に、八階にある自宅マンションのベランダから飛び降りて」


 バイトから帰って、田尾さんから聞いた話を先輩にしたところ、「あ、そう」という素っ気無い反応しか返ってこなかった。この人は何か知っていたんじゃないかという疑念が広がる。
「先輩、あの時、彼女に何言ったんですか?」
 先輩の耳打ちで、あの娘の表情が変わったのだ。自殺した人間に、彼は更なる追い討ちをかけたのではないだろうか。この人ならやりかねない気がする。でも、彼女の翔び方だけを思い出すと、全てを吹っ切ったような、何か完全なる勝利を手に入れたような、そんな前向きな印象も受けた。
「知りたい?」
 嫌に可愛らしい素振りで小首を傾げる先輩に、呆れつつも頷く。すると彼の顔に、左口角だけを上げた底意地の悪そうな笑みが広がった。
 やばい。
 そう思った時には既に遅く、がっちりと腕を掴まれて引き寄せられていた。
 先輩はあの娘にしたのと同じように、俺の耳元に口を寄せて囁く。
「『もっと高い所から飛べよ。分かってるんだろ?』」


 慣れというのは怖いもので、一度落として立ち直ってしまえば、その後、いくつ単位を落としても気にならなくなった。そんな今の俺は、あの娘に勝っているのか負けているのか。まぁ、人の命が切れる間際に一際輝くものだとするのなら、まだまだ勝つチャンスはいくらでもあるだろう。
 そう思っているうちは、勝てないのかもしれないけれど。



5.5.翔ぶ少女 終
’07.9.16









なんかよく分からん話ですみません。
NUMBER GIRLの『TRAMPOLINE GIRL』を聴いて浮かんできた話でした。









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Last updated  2007.11.08 22:39:40 コメント(8) | コメントを書く


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Comments

ふーたろー@ Re[5]:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) あやきちさんへ 返信大変遅くなって申し…
あやきち@ Re:奇妙な隣人 9.5.猫 3(06/11) お久しぶりです、お元気でしょうか? 今…
ふーたろー5932 @ ぼっつぇ流星号αさんへ お返事遅くなりまくりですみません! こ…
ぼっつぇ流星号α @ いやー 猫がいっぱいだーうれしいな。ありがとう…
ふーたろー5932 @ 喜趣庵さんへ お返事遅くなってすみません! 本当に元…

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