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河北新報夕刊1990年2月24日仙台うまいもの事始め(4完)炉ばた/素朴な温かさ縄のれんをくぐって、ガタゴトと障子を開ける。「おばんです!」と優しい声が出迎えてくれる。ここは仙台市青葉区国分町の「炉ばた」(加藤潔店長)。「炉ばた焼きじゃなくて、炉ばただでば」と、かすりのもんぺをつけた奥さんの加藤和子さん。「ここは人のぬぐもりがあんでねえの」この「炉ばた」、造り酒屋「天賞」の会長だった天江富弥さん(五十九年死去)が昭和二十五年に開いた。”天賞”の売り上げを伸ばすために富弥さんが考えたアイデアだった。囲炉裏の周りを木のカウンターで囲む店内は、広さ約三十平方メートルで十八人が座れる。満員になるとちょっと窮屈だが、「そごは”そですり合うも他生の縁”て言うじゃない」と和子さんは笑う。 酒や料理は、囲炉裏の前に座った和子さんが、約一メートルの柄のついた、スプーンを大きくしたような「ぼっけべら」(ドジョウをすくうへらで他店では使っていない)で、「はいよ」とよこしてくれる。このスタイルをまねして全国に広まったのが「炉ばた焼き」だ。”炉ばた”は商標登録されてあるため、よその店では「炉ばた」の名称は使えない。当時囲炉裏の前に座って客の相手をしていた富弥さんは、お客さんから”おんちゃん”と呼ばれて親しまれていた。おんちゃんはしゃれ者。京都の造り酒屋で修業している時も、花柳界に顔が利く粋人だった。そんなおんちゃんの話を聞きたくて、お客さんは「炉ばた」に足を運んだ。今、囲炉裏に座っている和子さんも負けてはいない。「東京弁で”そうですね”は、津軽・南部・仙台弁で”んだっきゃ、ほだへ、そっしゃ”と言うのよ。私は四カ国語をしゃべれるよ」などと言っては客を喜ばせる。ある常連客は「酒はうまいし、料理も珍しいけど、何か言うとポンポン返事を返すおかみさんの話が面白い」と言う。料理もいろいろある。そばの実を雑炊にした酒田の「むきそば」。ハタハタの入った汁「しょっつる」「きりたんぽ」は秋田名物だ。壁には、みの、輪かんじきが掛かっており、雪国の昔風の家を思い浮かばせる。「炉ばたは東北の博物館だ」という客もいた。出店当時からのスタイルを踏襲している加藤夫妻にも一つだけ気掛かりなことがある。「この辺も家賃が高くなって、店を続けるのが大変になっている人もいるようです」写真/熱いから気を付けて-。囲炉裏を囲んで酒を飲むのが仙台の粋人■今回の記事シリーズ 仙台うまいもの事始め(その1)牛舌焼き(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その2)回転ずし(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その3)冷やし中華(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その4)炉ばた(2025年11月24日)■関連する過去の記事 冷やし中華と牛タン(09年6月22日) 冷やし中華の龍亭(シリーズ仙台百景 22)(07年6月29日)
2025.11.24
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河北新報夕刊1990年2月23日仙台うまいもの事始め(3)冷やし中華/タレが決め手「冷やし中華を冬に売り出してもいいんじゃないか」今月十九日夜、仙台市青葉区一番町にある中華料理店「仙台飯店」の座敷に、宮城県中華料理環境衛生同業組合(千葉北男理事長)の役員八人が顔をそろえた。話し合いのテーマは「仙台で生まれた冷やし中華をどうPRしていくか」。組合は県内の中華料理店が集まって、昭和四十一年に発足した。数年前から「冷やし中華をもっと全国に売り込もう」という機運が高まり、PRの戦略を練るため時々役員が集まっている。「ポスターを作るのはいいが、それだけじゃだめだ。『これぞ仙台の冷やし中華』というものを作ったらどうだろう」と浅野安弘専務理事。PR活動を強く推進している人だ。「喜多方ラーメンのようにブームを起こすためには、各店統一された”仙台の冷やし中華の味”が必要になる」と説く。仙台で生まれ育った人でも「冷やし中華は仙台が発祥」と聞くと「えっ、うそでしょ」という反応を示すことが多い。「中にはラーメンと同じで、中国から来たんじゃないの」という人もいる。が、冷やし中華はまだ五十一歳。昭和十四年仙台生まれなのである。仙台市青葉区錦町の「龍亭」。この店の先代四倉義雄さん=昭和五十年死去=が今の組合の前身である「仙台支那料理同業組合」の創立者。その四倉さんのところに組合員がやって来て「夏は暑くてしなそばが売れない。ざるそばのように冷やしちゃ食えねえものかね」と話をもちかけた。昭和十四年の夏のことだ。「タレをおいしくすれば冷やして食べられるかもしれない」。四倉さんはピーンときて、毎日タレ作りに励んだ。夜中に店を終えた組合員が「龍亭」に集まり「そばつゆがいいか、酢を甘くしようか」と試行錯誤を繰り返した。「龍亭」の現在の店長である四倉蝶(ちょう) 子さんは「三カ月ぐらい毎日研究して、今のような味の冷やし中華ができたようです」と語る。浅野さんが経営する仙台市青葉区一番町の「味一番」では夏の真っ盛りの八月で、一日に注文される冷やし中華は五十人前ぐらいと昔より減っている。「クーラーの普及で、暑いから冷やし中華を食べるという人は減ってきた。これからは、おいしいから冬でも食べると言わせたいもんだね」と意気込む。仙台市若林区連坊小路の「志のぶ」(佐藤健吉店長)では冬でも冷やし中華を出している。どうして、とたずねると「食べたいというお客さんがいるからですよ」と、分かりやすい、商売人らしい答えが返ってきた。写真/冷やし中華を作る技は今でも受け継がれている■今回の記事シリーズ 仙台うまいもの事始め(その1)牛舌焼き(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その2)回転ずし(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その3)冷やし中華(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その4)炉ばた(2025年11月24日)■関連する過去の記事 冷やし中華と牛タン(09年6月22日) 冷やし中華の龍亭(シリーズ仙台百景 22)(07年6月29日)
2025.11.24
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河北新報夕刊1990年2月22日仙台うまいもの事始め(その2)回転ずし/安さ大当たり「客がいっぱい集まってくるような何かいいアイデアはないかい」仙台市でラムネ製造会社のほか、教育用品の販売、ホテル経営など次々に事業を成功させていた江川金鐘さん=「元禄」社長(68)=の所へ、閑古鳥でも鳴きそうな近くのすし店の主人が相談に来たのは昭和四十一年。金鐘さんはアイデアマン。既に二十代でラムネやサイダーなど清涼飲料を作る機械を発明し、特許を取っていた。相談を受けて、とっさに思い浮かんだのが、大阪に住んでいたころ一皿十円のすし店が大繁盛していたこと。「いっそ屋台でも開いて、そこで安いすしを握ってみてはどうだい」一皿二十円のこの屋台ずしは大当たり。うわさを聞いた客が連日ワンサカ詰め掛け、長い行列ができた、という。ただ欠点は、お客さんを長く待たせなければならないこと。金鐘さんがまたまたアイデアを出し、カウンターを丸くすることを勧めた。確かに面白い発想だったが、今度は作る方が大忙しで、それこそぐるぐる目が回る。「それならすしを回してしまえ」仙台市の一番町にベルトコンベヤーを使った回転ずし「元禄寿司」がオープンしたのは昭和四十二年。金鐘さんが四十五歳の時だった。それまですしといえば、フグや懐石料理と並んで高価な食べ物とされていた。それが一皿五十円と安い値段の魅力もあって、サラリーマンが昼食時には列をなして食べに来て、一般のすし店から反感を買うほどだった。「多くの人にすしを安く食べてほしかった」と金鐘さん。今では、店も国内外に直営・フランチャイズ合わせて二百十店に上っている。「元禄」の専務江川進興さん(37)は「ネタは生産現地から大量に仕入れ、大冷蔵庫で保存、そこから各店に搬送する効率的な流通システムを取っているのがうちの自慢です」と安さの秘密を説明する。土、日曜日の昼過ぎ、仙台市郊外の回転ずし店は家族連れでにぎわう。「わさびを抜いとこうか」と子供に話しかける店員。「これからは職人かたぎの人より、経営センスを備えた人が必要になる」と話す進興さんは、すしを握る機械を発明、特許を取っている。「企業は同じことを続けたら停滞してしまう。常に新しいものにチャレンジしていかないとね」写真/気軽に食べられる回転ずしは仙台生まれ■今回の記事シリーズ 仙台うまいもの事始め(その1)牛舌焼き(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その2)回転ずし(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その3)冷やし中華(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その4)炉ばた(2025年11月24日)■関連する過去の記事 冷やし中華と牛タン(09年6月22日) 冷やし中華の龍亭(シリーズ仙台百景 22)(07年6月29日)
2025.11.24
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家の中の整理をしていたら古い新聞記事切り抜きが出てきた。1989年(末尾に注)の河北新報の夕刊で、2月21日から24日の連載「仙台うまいもの事始め」だ。以下にテキストでその概要を記す。2月21日河北新報夕刊(リード文)牛舌(たん)焼き、回転ずし、冷やし中華、炉端焼き。この四つに共通するものは何だかお分かりですか?。実はいずれも「仙台が発祥の地」と言われる食べ物です。真偽のほどはさて置き、全国的にもポピュラーになった大衆料理を、元祖はいつひらめき、どう工夫していったのか。アイデアがビジネスの決め手になる今、仙台発祥のグルメの周辺を探ってみた。(4回統き)仙台うまいもの事始め(1)牛舌焼き/筋入れに極意牛の舌がおいしいなんて、一体、だれが最初に思いついたのか。「昭和十年ごろだったかねえ。東京で日本料理の修業をしている時に知り合ったフランス料理のコックが言うんだよ。牛の舌ほどうまいものはないってねえ。まさか、と思って自分で焼いて食べてみたら、これが本当にいい味なんだ」牛舌焼きの生みの親、仙台市青葉区の「太助」の社長佐野啓四郎さん(74)は初めて牛舌と出合った約五十年前を懐かしそうに振り返る。昭和二十三年、日本人の口に合うような味に工夫した牛舌焼きの商売を始め、今や経営するお店は仙台、盛岡市に四店。さらに、牛舌焼きの技術を仕込んだ弟子、孫弟子の店が北海道から九州まで散らばり、その数は百店以上に上っている。牛の舌はだいたいビール大瓶一本の大きさ。硬い皮を包丁でむいたあと、ハムを切るように手のひら半分大にスライスしていく。塩・コショウで味付け、一晩寝かせて炭火で焼けば出来上がり。作業は単純そうだが、かむごとに口全体にジワーッと広がるあの風味を出すには隠れた”技”がある。「スライスした一枚一枚にお客さんが食べやすいように包丁で筋を入れるが、表面だけをそっと切り込むのがコツ。完全に切っては味が染み込まないんだ」と娘婿の佐野初男さん(45)。”技”はこのほかにもある。お客さんが食べる時に振り掛ける唐がらし。下ごしらえに使う塩とこしょう。その混ぜる割合や量。「何十年やっても難しいよ」と啓四郎さんは笑う。牛舌には付きもののあのとろけるようなテールスープだって単純ではない。「味付けや水とテールの割合は秘伝中の秘伝。微妙に味を左右するんだ」佐野さんの店で、ビールを飲みながら牛舌焼きを食べていた相馬市のおじいさんは「牛舌を初めて食べたのは東京オリンピックの前あたりかな。”こんなうまいものがあるなんて”と感動したねえ。それ以来ずっと牛舌焼きは仙台で食べている」と話す。仙台に出張でやって来るビジネスマンの中には牛舌を食べるのが楽しみという人も多い。仙台で生まれ、日本中に広まった牛舌焼き。啓四郎さんは「お客さんに喜ばれる味を守るということは大変なことなんだ。毎日緊張していないとね」と職人らしい厳しさを見せた。写真/牛舌焼きの元祖・佐野啓四郎さん。焼き加減を見る姿が生き生きしている(注)私は2月21日夕刊から同24日夕刊とだけメモしていて、年次は不明だが、カレンダーで日曜を含まない年、また記事中「青葉区」の記載があることから政令指定都市移行後の1990年2月と推定した。東京にいた時期で地元ネタを勉強したのだろう。平成に切り替わった頃のビジネス事情などが、記事には感じられる。また、今では表記は「牛タン」で定着だが、当時は「牛舌」だったのだ。■今回の記事シリーズ 仙台うまいもの事始め(その1)牛舌焼き(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その2)回転ずし(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その3)冷やし中華(2025年11月24日) 仙台うまいもの事始め(その4)炉ばた(2025年11月24日)■関連する過去の記事 冷やし中華と牛タン(09年6月22日) 冷やし中華の龍亭(シリーズ仙台百景 22)(07年6月29日)
2025.11.24
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よく、その県の県民のうち、自県出身者の次に多いのはどの県の出身者か、という話題が上るが、それをマップにしたものを見ることもある。東日本の県では東京都が多く、関西では大阪府が、九州では福岡県が多いようだ。こうした議論の根拠になるのが、人口移動調査である。■国立社会保障・人口問題研究所 第9回人口移動調査第9回(2023年)の調査結果を見てみよう。「Ⅳ.出生地と現住地」では、調査対象者の現住地(調査時の居住地)と出生地を都道府県単位で比較している。各県で生まれた人が調査時どこに居住しているか(表Ⅳー1)では、どの県でも調査時の半数以上は出生した県に住んでいる。従って、どの県においても出身は地元の県が第1位だ。もっとも、東北や九州ではその割合は他より低い傾向にある。・出生地と同じ県に住んでいる割合(カッコ内は、他県に住んでいる割合、上位3県、%)、前回第8回 全国67.8 (東京都5.7 神奈川県3.8 埼玉県2.9) 68.6 北海道80.2 (東京都5.2 神奈川県3.4 千葉県2.3) 79.4 青森県68.1 (東京都7.4 神奈川県4.5 埼玉県3.1) 69.4 岩手県63.0 (東京都8.1 宮城県5.7 千葉県4.6) 67.7 宮城県74.3 (東京都5.7 神奈川県4.7 埼玉県2.4) 77.5 秋田県61.8 (東京都9.7 神奈川県6.6 埼玉県4.6) 65.4 山形県67.8 (東京都6.4 神奈川県5.2 埼玉県4.8) 70.6 福島県63.5 (東京都7.6 埼玉県6.2 神奈川県4.7) 68.4 東京都63.6 (神奈川県9.1 埼玉県9.1 千葉県7.6) 65.1 沖縄県84.6 (東京都3.4 神奈川県2.9 愛知県1.8) 88.0 他県に住んでいる人の現住地の第1位は、東日本では東京都となっている県が大半だが、群馬県では埼玉県が第1位(東京都が第2位)、東京都の場合は、神奈川県、埼玉県、千葉県となる。岐阜県と三重県で愛知県が第1位に、福井県と滋賀県で大阪府が第1位になるが、以西では、広島、福岡、沖縄で東京都が第1位になっている以外は、多くの県で第1位を占めるのが、大阪府、福岡県だ(兵庫県、広島県も登場する)。表Ⅳー2は、その県に住んでいる人が、どこで出生したか。どの県でも、現住地の県で出生した割合が一番高い。こうした同一県出生者の割合は、東京圏や大阪圏で相対的に低い。現住地と別の県で生まれた人については、近隣県の出生者が多いが、三大都市圏以外の地域では隣接していない東京圏や大阪圏の出生者が相対的に多い地域もある。・現住地と同じ都道府県で生まれた人の割合、カッコ内は、他の都道府県・国外で生まれた人(割合の高い上位3地域、同順位がある場合は5地域まで)、他県だが県名不詳、出生地不詳。最後は、現住地と同じ県で生まれた人の前回第8回の割合(単位は%) 全国67.8 ( 東京都3.3 大阪府1.9 国外1.4 0.9 2.7) 68.6 北海道87.3 (国外1.3 東京都1.2 青森県0.7 0.5 2.2) 87.3 青森県87.1 (岩手県3.2 北海道1.2 宮城県1.1 0.3 2.9) 86.4 岩手県85.3 (宮城県2.8 秋田県1.3 青森県1.0 0.2 4.0) 87.6 宮城県75.0 (岩手県4.0 福島県2.8 山形県2.6 0.7 3.4) 73.4 秋田県87.6 (青森県1.6 千葉県1.1 北海道0.6 岩手県0.6 福島県0.6 0.2 3.2) 88.0 山形県91.2 (宮城県0.9 千葉県0.7 東京都0.7 神奈川県0.7 0.6 1.6) 84.4 福島県82.3 (国外4.0 岩手県1.4 宮城県1.2 0.2 3.2) 84.0 東京都50.0 (神奈川県5.0 埼玉県3.4 国外2.8 1.6 2.8) 54.4 沖縄県83.0 (国外2.1 東京都1.4 福岡県1.2 0.3 4.7) 83.9出身を出生地の県と定義した上で、話題性のある話を進めるとすれば、宮城県居住者のうち他県出身者は岩手県出身が一番多く、岩手県では逆に宮城県出身者が他県で一番多い。このように他県出身者の第1位が対になっている「相互交流ペア」は、他では、東京都ー神奈川県、富山県ー石川県、岐阜県ー愛知県、大阪府ー兵庫県、福岡県ー長崎県、宮崎県ー鹿児島県、のようだ。
2025.11.17
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先日(11月9日)投開票の茨城県神栖市長選挙は、公職選挙法の規定により、くじで決定した。3選をめざす現職と元市議会議長の新人による一騎打ちで、結果は16,724票の同数。同日の夜10時30分頃、開票所で厳かな雰囲気の中、選挙長がこわばった表情でプラスチック製の棒を引き抜くと、その先には新人の当選を意味する「1」が記されていた(読売新聞記事から)。翌日の10日に、敗れた現職は票の再点検を市選管に申し立てた。報道でも、青森県大鰐町長選挙の事例が紹介されていたが、当ブログでも記事にした。■関連する過去の記事 僅差の西目屋村長選挙(2025年02月12日) 下呂市長選挙ふたたび(2016年4月12日) 大鰐町長選挙は得票同数で抽選(10年6月30日)(くじによる決定の制度)いま読み返すと、当時の筆者は、同数ならくじではなく再選挙すべきでないかと書いたが、今だと考え方がちょっと違う。そもそも選挙の結果誰を当選人とするかは、票数の多寡が唯一の基準だ。有権者一人一人の価値はまったく同格と考えるからだ(自明の理ともいえるが、歴史的経緯を見れば擬制ともいえよう)。もっとも、有権者を一定の合理性をもって制限し(未成年や公民権停止)、さらに、再選挙制度(首長の場合、有効投票の4分の1の得票がないと当選人としない)などの仕組みはあるし、他方で、どんなに低投票率でも多寡で決めて良いのかの議論もあろうが、とにかく一人一票で、平等な一票という思想は貫かれており、それ以外の基準はない。数だけで決めるというのだから、同数の場合に問題になってしまう。多寡の論理を貫くのなら、再選挙だ。同数の場合にだけ、別の基準を持ち出す方法も理論的にはあるが、まさか掲げた政策の中身で判断するわけには行かないので、外形的な基準、例えば年長者で決めるとか、現職を優先する、逆に現職は排除する、なども一応考えられるが、あまり理解は得られないだろう。結局、偶然に任せると言われようが、くじしかないのだ。このように、別の基準を持ち出すかどうかは、再選挙を行う場合のコスト(財政的、時間的)を重視するかとの衡量による立法論だろう。また、現実問題として、同じ候補者が同様の政策で戦い合う場面を再設定しても、結局は、投票率がどう変わるかに期待して選挙イベントをやり直すというだけになる。逆に再選挙では別の政策を出して争え、とするのもおかしい。同数の場合は、どちらの候補も他より多くの票を得ていないのは事実だが、見方を変えれば、「他の候補を下回っている」わけではない。有権者の信任を得ていない、ということではないのだ。不完全かもしれないが信任を得た候補が2人いるということ。そうであれば、多寡だけにこだわらず(一応こだわった上で、と言えるかも)、別の基準で決める、それはくじしかない、と言えるのではないだろうか。
2025.11.12
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