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あなたの歌によればお金がなくても愛がはぐくめるというあなたの詩によればお金がなくても仲間がいれば大丈夫というあなたの絵によればお金がなくても幸福になれるという人に聞いたうわさです……でもあなたの歌のCDはお金がなくては聞けませんあなたの詩集はお金がなくては読めませんあなたの絵はお金がなくては見られません情報が無償でなくなったその日から多くの人々が瞳殻光を失い言葉を唇から失いました耳にはコマーシャルソングや売り込みの声しか聞こえませんあなたがいったものは街のどこにあるのでしょう多分それがある場所へ行くには紙幣の切符とコインの鍵が必要なのでしょう愛情は等価の金銭であがなえる団結は等価の金銭であがなえる幸福は等価の金銭であがなえるはからずしもあなたが教えてくれました聞くことも読むことも見ることも許されなくなったいまは路傍で途方にくれる私に********************************************極端な話なのは重々承知ですが、ディフォルメしてみました。でも、貧富の差はさらに人々を追い詰めます。幸福になる方法を書いた本も、心温まる歌も、いまはお金がなくては手に入りがたくなりました。本当に必要な人々には、届くことはないかもしれません。それは作り手の意図と反することかもしれませんが、太陽の光や空気と違って、みなに等しくなんてことはないのです。明けぬ夜はない、やまぬ雨はないといいますが、人の一生よりも長い夜や長く降り続ける雨もあるのです。ええ、そうなのです。
Nov 30, 2004
大きな魚に飲み込まれるような、かすかな恐怖とともに眠りに沈む。安らかさはここにはない。朝目が覚めれば頭は重い。喰われた自分が喰った魚に成り代わったような。いや、魚が自分で、昨夜までの自分はもういないのかも知れない。それともこの世界全体が魚の腹の中なのか。
Nov 29, 2004
大きな洞穴の奥で波がぶつかるような轟きが、岬の向こうから響いて来る。まるでもうなにもかもが終わるような、絶望的なおもいおもい黒い音。誰がその波を真っ暗な洞穴の中で見ているのか。いるはずのない孤独の人に想いを馳せ、布団の中にもぐりこむ。たとえ岬が波にえぐられ崩れても、黒い波に巻き込まれても布団の中にいれば大丈夫と自分に言い聞かせる。大地が太鼓の皮になり、波が太鼓のばちになる太鼓は太古、時を越えて響いてくる原初の轟き、黒く深く響く音。鯨なぞはるかに及ばぬ太古の魚が、鱗のない体を崖に打ちつけ波を起こす。渦巻く波、布団のいかだにすがりつき、渦の中へ落ちて行く……。眠りに落ちて行くのは、いまは、いやだ。
Nov 28, 2004
輝く満月その中に泳ぐは夜空より黒い鯉身を翻すその度に散る鱗にきらめく月光鱗舞い散る光の中赤い金魚の山車を引く青い法被の男たち揺れるひれの美しさよ静まる街に点る灯山車を取り巻く銀の鰯潮よりはやく進む今は忘れられた旧き道月は満ち潮は満ち時は満ち進み行くは道降り注ぐ月光の鱗知られぬ魚たちの夜祭夜に浮かび来る杜誰も知らぬ石段の坂道上る山車は雪洞かやがて杜とともに沈む今夜はまだ明けぬ月がかたむき黒い鯉がするりと泳ぎ去る曙の光がさす時までは
Nov 27, 2004
ブルーブラックのインクつぼをひっくり返したような夜空の中、アスベストのようなざらついた感じの雲の上を、小さなジェット機が飛んでゆく。雲を照らす月は白銀灯のように湯っぽい光を雲に浴びせていた。エコノミークラスの3人席。窓際だったのが幸いだ。横に座った二人の乗客はいたって物静か。一人は目をカッと見開いて、むき出しの歯を食いしばっていたが、うめくでもなくわめくでもない。高いところが苦手なんだろう。その隣はもっと念が入っていっていて、毛布をすっぽり頭からかぶって、その上からシートベルトを締めている。乗り込んだときからそうだったのか、思い出せないが2時間前あたりに気づいたときからそのまんまだ。私は乗り込む前にキツイ睡眠薬を飲んで、半分朦朧として席に座って、やっとさっき目が覚めたところだ。機内の照明は暗くされて、ほかの乗客の姿はみんな影法師に見える。乗務員がやってくる気配もない。壁のスクリーンには、見知らぬ地図の上を飛ぶ飛行機マークが見えた。この機では映画もドラマもやっていないようだ。正直まだ眠い。特に尿意も渇きも感じないのでまたひと眠りしようと思い、こっそりあけておいた窓のシェードを閉めようとすると、満月が見えた。アルミの粉をまぶしたような白銀の月。そのあばただらけのまぶたがクルリとめくれて、月の輪郭いっぱいの目玉が見えた。膨張した毛細血管が太って、真っ赤に充血している。黒い虹彩に油が浮いているようにぎらつていて、こっちをにらんでいるようにも、ただぼんやりと見ているようにも見える。気まずくなって窓をシェードをおろして、隣の乗客を横目で見た。隣の客もいまは毛布を頭からかぶって、その上からシートベルトを締めている。月の光がそんなにまぶしかったのか。もし夜が明けたら謝っておこう。そう思いながら私はずり落ちそうな毛布をあごの下まで引き上げると、あまりたれないリクライニングシートに身をあずけて、夢の世界に飛び込んだ。
Nov 26, 2004
ディーゼル機関車に客車が2両という編成の列車。その客車も床は板張りで、懐かしいワックスの匂いに時々陶然としてしまう。見上げると革ベルトにぶら下がったわっかがゆれている。客車にはまばらに乗客がいるのだが、誰も連れはおらぬらしく、狭い椅子に間隔を空けて腰を下ろしている。年もみな中年以上というところだろう。女性の姿も見えるが、みな一昔前にはやったコートを着ている。流行は繰り返すというが、そういうことなのか。男は背広姿がほとんどで、私をふくめてもラフな服装をしているのは、ジーンズにトックリのセーター、その上にベージュのコートを羽織った男だろう。うつむいている人も多いが、数人は通路をはさんだ向かい側の窓から外を見ている。みな、人の向かい側には座っていないのだ。私もほとんど車窓の外ばかりを見ていた。それは、その車窓にまったく美しい星空が見えているから。信じられないかもしれないが、星の光がまるで沿線の住宅の明かりのようにはっきり見える。それだけ星に近いところをこの列車は走っている証拠だろう。あまりにも星の数が多すぎて、自分の知っている星座を見つけることもできない。でも、美しい星々があるだけで、私はうれしかった。天文少年というわけではないが、この歳になって、不思議と月や星を見上げることが多くなった。周囲の若い連中はもう歳ですよ、なんていうけれど、やつらには街の光ばかりが目に入って、そのまぶしさに惑わされているだけだ。「もう会えましたか」と男が声をかけてきた。いつ列車に乗ったか記憶に無いが、誰かに声をかけられたのはこれが初めてであるということは確かだ。驚いて窓を流れる星から、私の左横に座った男の姿を見た。夜空のような深い群青色のコートを着た姿を見て、彼が車掌ではないかと思った。その手にはダブルリングの小ぶりのノートと、黒い軸のペンが握られていて、私が口にしたことをすぐに筆記するような構えだ。突然のことに閉口してしまった。男はすいませんといいながら、私の横に腰を下ろすと「まだ会っていないようですな」といいながら、男は穏やかな目で私を見つめこう言い出した。「ではね、私が言葉を拾って上げましょう。あなたが一心に見つめていた星を結び合わせることで、言葉を取り出すことが、私にはできるのですよ」それは星座のようなものですか? と聞き返すと、「いやそうではないのですよ。星の人の言葉は、星の配置に出てくるのです」そう言って男は頼まれもしないのに、私が見つめ続けていた窓を観察者の眼でしばらく見ていたが、唐突にペンを握った右手がノートの上を走り始めた。ちょっと気味悪く思ったが、興味を持った私はノートを覗き込んだ。それは五線譜ノートであり、男の右手は猛烈な勢いでその上に音符ではない記号を記していた。男は1ページの最後までノートを見ることなく、記号を記すと。そこでフッと息を吐き、自分の書いたノートをまじまじと見つめて、顔を上げた。その顔は先ほどまでなかった厳しい表情が浮かんでいるではないか。私は少し身じろぎした。「なにがあったか存じ上げませんがね」と男は言いながら、私にも見えるようにノートの上で指を走らせて、さらに続けた。「少しは肩の力を抜いてみてはいかがですか」私が呆然としてしていると男は記号を書いたページの対向ページに大きく文字を書いて私に見せた。大じょうぶ。もうよい。ゆるす。ぶっきらぼうでひらがなの多い文章が、力強い筆跡で書かれていた。その文字を見た瞬間、私の中からこみ上げてくるものがあった。その文字、その口調。私は許しを乞うためにこの列車に乗ったのではない。しかし、しかし、もしその気があるのなら……。私は思わず顔を両手で覆い、声を漏らして泣いてしまった。男の動く気配がしたが、顔をあげることはできない。ようやく感情を抑えて顔上げるともう男の姿はどこにもなかった。隣の車両にも。どこへ行ったのか。気づけば乗客の数も半分ほどに減ってしまっていた。残った乗客もみな顔を伏せていた。私には彼らが泣いているのがわかった。********************************************11月13日からしばらく書いていた"思い出の汽車は夜空をめぐる"の外伝的なものです。誰の許しを乞うのか。その相手は人それぞれのようです。
Nov 25, 2004
青の中に流れ込む赤混じりあうことなく赤はまるで深海の生物のようにぐねぐねとうねりながら先へいくほど細くなりながら伸びていく私は赤い触手が青の中を抜けて私自身に到達するイメージから頭を抱えうずくまることで逃げようとした私は赤い触手に掴み取られる小さな生物逃げるすべもない深海の微生物のようだ赤の先端がついに私の首筋に触れたとたん、激しい痛みが全身を貫いて思わず叫んでしまったそのとき世界が逆転した私は赤い世界にいる赤が私を包み青は小さな粒になり赤に流され私から遠ざかっていくなぜ赤を拒んでいたのかなぜ青を大事に思っていたのか今の私のは想像もつかない**********************************************しばらく更新していませんでした。奇想も夢想もなく、塑像のように固まっていたのです。いまはようやくそこから脱しようとしていますが、はたしてそれがよいことなのか、わかりません。殻を失ったヤドカリのように、危険なことかもしれません。ですが、抜け出さなくてはならないのです。
Nov 24, 2004
それはそれは小さなお堂の小さな教壇の上に立つ、小さな説教師の言葉……。(ちょっと巻き舌です)信ジィルノデェス。信ジィルノデェス。人ハミナ、マックラァナ闇ノ中デ、道ヲ探シテ生キテイィルノデェス。アナタノ信ジィル心ハ、小サナトモシ火トナッテェ、アナタノマワリィヲホンノスコシ照ラァスデショウ。ホントウニチイィサナ明カリデスガァ、ナニモ見エヌママ手探リィシテススムヨォリモ、キットヨイハズデェスモシ自分ノトモシ火ガチィサクテェ、不安ニ思エェルノナラァ、ソノトキハ闇ヲ透カシテ周囲ヲ見ワタァスノデェス。サスレバァ、キットアナタト同ジヨウニ、チィサァナトモシ火ヲモッテ闇ヲアユゥム人々ヲ見ツケルゥコトデショウウ。ソウシタラ、自分ノトモシ火ヲカカゲナァガラァ、同ジヨウゥニトモシ火ヲ掲ゲェル人ノ元ヘ行キナサイ。チィサナトモシ火モ集マァレェバァ、大キナカガリ火ニナッテェ、キット闇ノ中ニ進ムベキ道ヲ示シ、避ケルゥベキ谷底ヲ教エテクレルコトデショウ。信ジィルノデェス。信ジィルノデェス。黒イ風ガ吹キスサブ闇ノ中、自分ノトモシ火ガ消エヌヨウ、仲間ノトモシ火ガ消エヌヨウ、互イニ体ヲ寄セ合イ、信ジナガラアユゥムコトガ、タイセツナァコトナァノデス。アナタノチィサナトモシ火ヲタイセェツニ、ドウカ消シテシマワァヌヨウニ。**************************************************************ちょっと宗教っぽいですが、ここに神仏は出てきません。信じるのは、まず自分の中にあるともし火なぁのでぇす。おや、うつったかな?
Nov 23, 2004
さて、私は誰でしょう?すっかりわからなくなりました。私は誰でしょう……。なにか不都合が起きればそれは私のせいであり。過ちがあれば私が関わっており、情報の行き違いの原因はきっと私にあるのです。それでもしばらくは気づきませんでした。私もよもや自分がとんでもない"厄"をおおせつかっているなんて、なかなか気づきませんでしたから……。でもいまは、そうです。知っています。私のいるところに不協和音が生まれ、どうしようもないこじれやよじれが生じるのです。それでも私は人なのです。なにか、そう、疫病神のような存在なら、それなりに自分も周囲も納得するでしょう。ですが、やっぱり私は人なのです。これはとても悲しいことです。************************************************それでも年の春、黄砂を運ぶ風とともにいまの居所を去ることになっています。日々数えるのは苦痛でもあり、救いでもあります。互いにもっと早く気がつけばよかったのですが、残念ながら、そうはうまくゆかないものです。
Nov 22, 2004
鞄を持たない旅は長くは続かない。突然の雨のように冬の夜気が僕の中に流れ込み、まるで靄を払うように、僕の中になった熱を奪い去った。僕は私になり、私は渡されるままに冷えたグラスの中味を飲み干した。喉を伝って私の胃袋に流れて行くのが判る。胃袋に到達した冷気は、冷たさゆえに常温で沸騰する液体ガスの様に私の中で激しく反応して、体の隅々まで行き渡るようだった。3杯目でやっと二重になった自分の心身がひとつになり、人称もひとりに戻ったのだ。空のグラスを掲げて、歪曲したマスターの顔を透かし見る。マスターはグラスを受け取るを「おかえりなさい」といった。旅に出たのを知っているのか?「土産はないよ」と答えたら、そんなものはいらないと言ってきた。そして戻ってこなかったら大変でした、とも。それで思い出した。マスターは私に新種のカクテルを3杯出して試しに飲ましてくれたのだ。1杯目はなに?「針葉樹、落葉樹の葉で香り付けしたリキュールを使いました、ちょっと甘めでしたか?」お次は?「ハーブです。高山で手に入る。さわやかな感じで」それから?「最後は中国の古酒を使ってみました。あれが一番深みがあって、こう遠くに連れてかれるような……」なるほど、危うく仙境にでも飛んで戻ってこれなかったかもね。マスターのカクテルの実験台も少々命がけだ。いままでのツケを割り引いてもらわないと、わりに合わないぞ。「そいいえば最後に3杯飲んだあれも……カクテル?」「あぁ、あれはノンアルコール。発泡水にハーブの香りを少し」名前つけたの? と聞いたら、マスターはこう答えて懐かしいメロディーを口ずさんだ。……えぇ、ブリングバック。荒海の向こうに私を送り込んだは、マスター、あなただよ。あぁ、日記の更新が遅れてしまった。
Nov 21, 2004
もし夏の青空に刃を当てれば、その傷口からねっとりとしたメタルブルーの血が流れただろう。今日の青空に刃を当てたとしても、硬質で滑らかな曲面に滑ってしまうだろう。いつの間にか空は柔らかな有機体から、美しい陶器に似た無機物に変ってしまった。指でなすれば青い顔料が指の腹につくような青空。風が吹けば青い顔料がこぼれて混ざり、どこかで吹き溜まって、青い偽りの水辺を作っているかもしれない。どこかにある場所へ。まだ僕の知らない場所へ。想像の中にだけぼんやりと浮かび上がる場所へ。僕は鞄も持たずに旅に出る。2004.12.23修正
Nov 20, 2004
風を見る、流れていく空気を。路地を吹き抜ける小さな風とそれにつらなる大きな大気の移動。海辺から吹く大きな風は、ゆっくりと都市を抜けていく。そうやって都市の隅々までに触れていく。こうして風の中に立っている僕は、風を見ながら風に触れられている。瞼を閉じて僕も風に触れてみる。指の間を風が、大気のほんの一部分が流れていく。小さな渦を巻き、微妙な温度差に揺らめきながら。僕はすうっと風を吸い込むと、自分の体内で温めた息にかえてゆっくり長く吐き出す。まるで自分が風の中に溶け込んで、都市中を吹き抜けていくような気分。僕の分身。僕の風。
Nov 19, 2004
雲に覆われた空は明るい鉛色に光っていて、そこから音もなく落ちてくる小さな雨粒が、風に揺れながら僕の顔に降りかかる。小さな滴のひとつひとつがぷちぷちと肌に当たるのがわかる。こんなに心はおだやかなのに、人は病んでいるという。もうシャツは湿って重くなり始めているけれど、もうしばらくこうしていたい。息を吸い込むと、枯葉と土の混ざり合った、湿った甘い匂いに満たされていく。雨はとてもやさしくて、ずっとこのまま浸っていたい。それで体温がすべて奪われてしまってもいい。僕は普通だ。普通だ。
Nov 18, 2004
暗い空間に、鈍い銀色の光沢を持った球体が、360度全方向に整然と並んでいる。目の前にあるのはソフトボールぐらいだろうか、それがずっと続いていいて、先のほうは芥子粒ほど小さくなって闇の中に消えて見えない。無限に整列する球体の正体を考えようとする前に変化が起きた。球体が震え出したのだ。奥にある球体から徐々に伝わってくるらしい。静止した球体が、隣の球体のバイブレーションに合わせて震えだし、その振るえがまた隣の球体に伝播していく。整然と並んだ球体が次々と揺れては又静まる、まるでそれは振動を伝えるシミュレーションのようだ。だが震源がどかなのか判らない。いや音源といったほうがよいだろうか、明確な音声ではない、だがバイブレーションの波が押し寄せて来るとなにか圧迫感のような、もしくは振動のようなものを感じるのだ。僕までひとつの球体になったかのようにびりびりと震えている。そして僕のバイブレーションは僕の周囲にある球体に伝わって広がっていく。波の発生源が数箇所にあるのか、それともどこかで反射しているのか、バイブレーションの伝播が幾重にも幾重にも重なって、しかもあらゆる方向から押し寄せて、僕を震わせていく。そのたびに頭の中でなにかメッセージのようなものがひらめくのだが、それは瞬きよりも早く僕の心を通り過ぎて、ほかの球体に伝わっていく。そして新しいバイブレーションが、僕を違ったリズムで震わせるのだ。僕は振動に身を任せる一方で、ゆっくりと感覚を押し広げていく。それは僕を中心に広がる球体のレーダー網のようなものだ。そうして数限りない球体を振動させている物、もしくは振動が伝えようとしているメッセージを読み取ろうとしている。…シダ…ダ……レ………カ……イル………カ……ト……キハナガ………レテイル……カ…シン………ドウ………ハト……キシ……ンド……ウハ……セイメイユレ……ルコト…………ガイキテイルア……カシデアリ…イキテ……イルコト………ハシン……ドウスルコト…シンドウ…ヲツタエ………ジブンノ……ソンザイヲ……シメシ…………ハンシャ…スルシンドウ…ニジブンイガイノ……ソンザイヲ……タシカメヨワタシハ……ワタシ……3………1…2……ノシンド…ウハ……ワタシ…ダ……数々の振動が織り交ざる中、ようやく感じ取れて言葉。それは互いに見えぬ相手に送るメッセージ。誰かが振動を起こすことに気づいたとたんに、誰もが始めてしまったに違いない。ようやくひとりのメッセージを知ることができた。だが、もし僕がここで自分自身のバイブレーションを送れば、ますます混乱するのではないのだろうか。自分自身のバイブレーションをどう送ればよい、いったいどうすれば。だが、そんな心配はもっと大きな不安にとって変わられた。ひとつの方向から次々と同じメッセージが届く。タスケテ、タスケテ。それぞれ微妙に違うがみな同じ言葉を振動に乗せて送っていた。ただひとりをのぞいて……。…ハゲシイ……ナミ……ガキタ……ミ……ンナノマ……レテ……ヒ…トツ…ニナル……コレハ……ヨロコビカ……ソレトモカナ……シムベキコトカ……激しい振動に耐え切れず、球体が次々破裂するのがわかる。まだ見えないが、バイブレーションがそれを伝えている。それはよろこびか、かなしみか、僕は不安に思いながら、だが、すべてを飲み込む振動が来るのを待っている。
Nov 17, 2004
冴え冴えと輝く銀のきらめきは私を貫く。右の目から入り、私の脳と心臓を次元を超えた直線で結び、一息に貫いていく。私は痛みにあえぎながらも、その中に冷たい快感を見出すそれは見通す痛み。すべてを超越してひとつの真実を選び取り、それが発する冷気に身を焦がす痛み。真実から手を離そうにも、すでに指先は凍りついてしまい、力入れれば皮膚すらもはがれてしまいそうだ。銀色に輝く真実の球より、1本の銀色の触手が伸びて、私の右目を貫き、そして脳と心臓をひとつに結ぶ。私は私ではない言葉を発し、その冷たさに唇を引きつらせる。私の息は白銀に輝きわずかな闇の中の光を受けて瞬く、右目にから流れ込む冷気は赤い血を滾らせる。どんなに体が冷えようと血潮だけは細い管を通って全身を駆け巡る。寒さにひび割れた表皮から細かい血のしずくが一粒一粒ざくろの実のように輝いてこぼれ落ちる。頭の中が冴え渡ると同時に、白い煙を上げながら、液体窒素のような冷たく沸騰する液体が流れ込み、私の脳の中をまっさらにして新たな結晶を形作る。私の脳は雪の結晶のような神経細胞でつながり、いつでも体温で溶けてしまいそうな危うさの中で、激しい情報と感情のやりとりを行なう。その激しさに能が溶けないのも、すべては極低温に保たれてのことに違いない。左目から流れる涙が、たちまち凍りつく。耳の奥には氷の結晶が成長する軋みが響く。清浄なオゾンの香りが内側から鼻腔へとあふれ出る。心臓は激しく震えながらもいつもの鼓動を絶やさず、頭が凍りつかぬように、熱く赤い血を押し出している。銀色の触手が触れた瞬間、激しい蒸気が溢れ、体の中を満たし、汗となって流れ出た。私の絶叫は心臓より発し、細かな赤い結晶を交えた蒸気ととも噴出す。私は、真実を見出すたびに激しい苦痛を受け、そして真実を心の奥に閉ざす。もし誰かが刃物をふるい、私の胸を開くならば、たちまち白い空気に凍らされ、世界は冬の夜に沈むだろう。****************************※きままなイメージのメモです。どうぞ奇人もついに……などと早合点召されぬようお願いいたします。いや、眠い中で書くと、こうもなるのですかね。ああ、部屋の中で息が白いよ。寒い! でもきもちいい!
Nov 16, 2004
かつてここに小学校があった。いまはない。しらじらとしたホコリっぽい校庭には、誰が持ち込んだとも知れないゴミが山と詰まれて影を濃くしている。街の中は森閑として歓声のひとつも上がらない。私は取り壊される途中の凄惨な姿をさらす3階建ての校舎を振り仰ぐ、体育館は仕事も家も家族もない人々が黙認されて住んでいる。もちろん、その中に子供の姿はない。テレビはニュースばかりになった、どの番組も過去のニュースと心を寒くするニュースばかり。子供はどこにもいない。まるまる市場が消え、経済も大穴が空いて成長なんて言葉は子供たちと共に消え去った。平和が訪れ、人々はそれを受け入れざるを得なかった。ここには流れさる時間しかない、これから作られる時間は1秒たりともない。*****************************************************などてか知らぬが、子供はますます親とともに追い込められらてつぶれて消えていく。なんで小児病院がこうも見当たらぬ。優しい目をした診療所の先生はどこへいった。土曜日の待ち遠しい午後と夏休みの最後の1週間はどこに消えた。子供の風邪の保険料はどこへ消える。子供を見る親の笑みはなぜ消えた。メガホン握った連中は来年の票ばかりを気にして、10年後の票にはいっこうに無頓着だ。いつか子供が消えてしまうような気がしてならない。笛吹きが来なくても、子供たちは時ととも去って行くだろう。
Nov 15, 2004
緑深い森の奥。小さな滝から清水が流れる場所。横になった私の目に見えるのは、女の髪を梳く男の姿だった。女は川面の上に首から上だけを出し、その髪を後ろにいる男が一心に、しかしとても慈しむように扱っているのだ。長い長い黒髪、それが美しい川の水を吸って、しっとりとぬれている。男の節くれだった手にそぐわぬような櫛が動くたびに、きらきらとしずくが飛ぶ。男は腹から下を水につけているようだ。首から提げて濡らさぬようにした手ぬぐいで、女の髪の水気をとると、さらにたくみに腕を動かして、女の髪を結い上げていく。不思議なものだ。なんであんな鍬や斧を持たせたほうが似合うような黒くて太い腕が、すばやく動いて髪をたくみに結い上げていくのか。男の顔だって頬骨が突き出て、その上には細い目があり、さらにそれにおい被さるように太い眉がある。あぐらをかいた鼻の下にある厚い唇は柔らかに緩んで、どうやら微笑んでいる様子。細い目もよく見れば、女を見つめる瞳の光はやわらかい。そこまで大事されている女といえば、男になにもかも安心してまかせているのか、目を閉じたまま一言も口をきない。額の美しい、ほっそりした顔だ。少々とうは立っているものの、木漏れ日のあたる肌は白く美しい。なんと白いのだろう、もしかしたら川の水が少々冷たいのかも知れぬ。しかし身じろぎもせず髪を結わせている。見る間に髪は古風に結われ、男は満足げにうなづくと、すっと女の耳の下あたりを両手で持つと、天に捧げるように持ち上げた。白い首の下に肩はなかった。男は川底に座り込み、ひざで首を支えていたのだ。私は驚いて声を上げようしたが、舌が張り付いたように動かない。すると男は私を見つけたのか、女の首を高々と掲げて私に見せ付けるようにした言った。「まってろよ、おまえもじきに××××……」最後のほうは聞き取れなかった、自分がなんでこんなところで横になっているのか思い出したとたん、瞼を閉じていないのに、急に真っ暗になってなにも見えなくなった。ただ、ザブザブと男が川を渡ってくる音が聞こえる。「ほら、おまえさんも××××じゃが……」男の声がしぶきのように私にかかり。ますます近づいてくるのがわかった。
Nov 14, 2004
まだ、少年が目の前にいたときのこと……数多くの曲線を見つける。近くは残骸と化した人工衛星の長い墜落の軌道そして衛星、惑星、銀河をめぐる恒星の軌道遥か遠くより飛来する彗星の軌道いくつもの曲線が車窓を縦横無尽に走る私はその軌道を光の線としてとらえて、暗い窓ガラスの上にひいていった軌道は最初、とても幾何学的で鋭く冷徹であっただが次第に数が増すにつれ、それらは不思議と糸のように、しなやかさとやわらかさを帯びていく織り込まれていく天体たち消えたはずの白馬すら、光の糸を加えていく軌道のない部分には少年の歌声が埋めてくれる音は光に置き変わるやがて車窓が様々な光に見たされ、光の織物となったのを見て、私はほぅと息をついた気がつけば、すべての窓にそれぞれ異なる光の織物がかかり、車内を明るく照らしている油をひいた床が照り、ところどころに使われた金具が、まるで純金に変わりでもしたかのようにまばゆく輝く光は音に置き換わるすべての光が私の目をとおして、その奥にある、イマジネーションの宮殿に到達したとき、すべては音に変換され、私の内側から溢れ出す。私はいま音と光の中にいて、すっかり透き通っている……
Nov 13, 2004
星ひとつとしてない夜空の中を列車は行く。ディーゼル機関車に引かれた2両の客車に乗っているのは私ひとりだ。結局少年はいなかった。となりの客車にもそして機関車へのドアはしっかりと閉ざされていた。車掌もこの列車には乗っていないのだ。私は窓を開けてみようとしたがこれも開かない。本当に少年は消えてしまったのだろう。この列車のことだ。そんなこともあるだろう……彼は自分行くべき星を見つけたのかもしれない。列車が止まらなくても、星が見つかれば下りれるかもしれない。私には下りる星はない。♪思い出の汽車は夜空をめぐる銀と金の星を結んで夕焼けの明星夜更けの極星朝焼けに消える白い月にじむような遠い銀河よ……声にならない。少年はたどたどしく歌っていたが、私は涙声になって歌えない。誰もいない車両の中思いっきり泣けばいい。ホイッスルガタゴトと揺れるたびに懐かしい顔が思い浮かぶ小さな座卓を囲んだ我が家の夕餉父は無口だが、終始にこやかだった母はその父と私の顔を代わる代わる見て微笑んでいた夕焼けの道をいく友の影桜よりも桃の花が鮮やかだった校庭私を励ましてくれた仕事の仲間たち強い口調で私をどやしつけ、勇気をくれた先輩……先生私は彼らが長い長いプラットホームに立って車内にいる私に手を振っているような気がした。私は彼らの笑顔に見送られて、私はどこへ行くというのか。少年の歌うアリアが聞こえるようやく涙をぬぐって顔を上げると、夜空が明るくなっていた。星が戻ってきたのではない、もう世が明けようとしている。まるでトンネルを抜けて来たようだ。もう涙は止まっていた。私は少年の声がいつの間にか若い女性の声になっているのに気づいた。しかもちゃんと歌っている!Tarde, uma nuvem rosea lenta e transparenteSobre o espaco sonhadbora e bela!Surge no infinito a lua docemente夕暮れの情景を歌っているのだが、いまは夜明けだ。それははっきりとわかる。私の短い旅も終わる。私はいま誰に会いたいのか、しっかりとわかった。そして誰に会うのかも。この歌声を忘れることはない。私は歌う星へ向かうのだ。輝きに充ちた星へ、若い恒星をまわる音階の順に並ぶ惑星たち、その中でもっとも高い音階をまわる星へ、彼女がいる星へ、夜明けの光とともに。
Nov 12, 2004
私は、振り返った窓の外に、小さな二連星があるのに気づいた。それは軽やかに回転している。私の目にそう映るぐらいなのだから、たいそう速いスピードで回転しているのだろう。大気はもちろん地表のものまで、吹き飛んでしまうに違いない。ほら現に、ふたつの星は尾を引いている。先ほどの白馬と同じだ。ただふたつの星は互いの尾の中に飛び込んでいるように見える。もしかしたらそうすることで、自分からはがれた大気と地表を補っているのかもしれない。互いに相手を補いながら、また自分も補われている。そしてまばゆい恒星の周囲を踊るようにめぐる。だが、やがてその関係も終わりを告げるときが来るだろう。その結末とは遠く離れてしまうのか、それとも激しくぶつかり、壊れてしまうのか……いや、まわり続けながら、その関係を堅固に保ちながら、膨張し続ける恒星に焼かれ、やがて飲み込まれていくのだろう。互いから離れることなく、運命をともにする。私は首の筋が痛むのをこらえて、ひたすら回転を続ける二連星を見つめ続けた。やがて軌道が曲がり、見えなくなってしまうと、車内に顔を戻した。すると、どうしたことか、目の前に座っていた少年が姿を消していた。私が星に夢中になっているうちにどこへ行ってしまったのか。ここは客車2両の列車だ。まさか機関車へいったとも思えない。下りたのか、いつ、止まっていない車両から。そんな……私はひとりなのか……。
Nov 11, 2004
闇の中を白馬が墜ちていく半身は白い光の帯となって漆黒の闇にひとすじの軌跡を残しているそしていまや白く大きな翼が風切り羽の先から光の粒子になって溶けていくそれでも白馬は慌てふためく様子もなくたくましい前脚で闇を蹴りいっそう速く前へ進もうとしているようだ闇を映した黒い瞳にはただひとつの輝きが射し白馬の強い意志を表わす誰が手綱を握るというのか天かける純白の馬に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は少年の肩越しに見える車窓の向こう白馬の姿を見つけまじろぎもせずに見守った。天馬はかくも速く飛び、そして己が身を焼き溶かしている。それは列車のはるか遠くにありながら、翼が切る風の音が聞こえてきそうだ。白い鬣がまるで、まるでフレアのようにあんなになびいている。少年はいつのまにか唄を変えていた。たどたどしいが、先ほどとはうって変わって、初々しいボーイソプラノ。ただ歌詞があるわけではない。その曲調は悲しみの中にも、かすかなよろこびを見つける、そんな雰囲気だった。そう、老境の者が孤独をかこちつつも、暖かな記憶にぬくもりを求めるような……。あ、この曲もヴィラ=ロボスだ、第5番のアリア、ただ少年は歌詞を覚えていないようで、前半部分を繰り返すばかりだ。白い螺旋の軌跡を描く白馬と、少年の歌うアリアが奇妙にシンクロして、私は息をすることすらためらわれた。そしてホイッスル。少年の唄が途切れ、そして歌詞のない曲の後半になり、余韻を残して消えた。気づけば、白馬もかすかに光る軌跡を残して消えていた。
Nov 10, 2004
私の向かい側に座った少年が切れ切れに口ずさむのは、懐かしい歌だったが、こんなところで耳にするとは思ってもみなかった。ここは2ドアの小さな客車、床は油が引かれた板だし、座っているイスも木の枠に緑の布が張られたもの。目を上げると並んだつり革のベルトはまさしく革製なのだ。もう都心ではお目にかかれない、いや都市部の近郊でも、すでに目にすることのないタイプ。だが、どこもきれいに磨かれていて、古ぼけた感じはあっても、けっして不潔な印象はない。右手の奥はもう一台の客車につながり、左手の先はディーゼル機関車に接続されている。なぜここまで自分が乗っている列車について、細かく書くのか、その理由は少年の口ずさむ歌にある。それはヴィラ=ロボスの『カイピラの小さな汽車』が原曲で、それに歌詞をつけたアレンジだからだ。もう少し詳しく説明すれば、『ブラジル風バッハ』第2番、第4曲のこと。ブラジルの山の間を抜ける小さな列車のイメージだ。元々はなかった詞を私の知っている人がつけた。それもずいぶんと昔の話だ。子供時分の私ですら、まだ学生っぽいと感じる背の高い音楽教師。彼が自分なりに曲をアレンジして、歌詞をつけて歌っていたのだ。小学生だった私たちに歌ってくれたが、本人も気に入っているらしく、放課後にアップライトのピアノを弾きながら歌っていた。この歌は訥々と歌ったほうが味が出る。歌詞を思い出しながら少年の歌を聞いていると、不意に涙がこぼれそうになった。この歌は悲しい歌だ。詳しい歌詞をここに書くことはしない。ただ概要だけを書いておこう。この曲の主人公は少年で、彼は汽車に乗って暗い夜空の星々を巡る。そこには離れ離れになった親兄弟、友達がいて、車窓から手を降る彼に手を振り返してくれるのだ。そして少年は……。ディーゼル機関車の汽笛が響く、車窓の外は真っ暗で、少年の背後のガラスに、彼に追いかぶさるような私の鏡像が写っている。教師は時分が書いた少年と同じ境遇だった。"大災"で生き残ったが、家族とも友達とも生き別れてひとりになってしまった。それは大人になっても変らず……。少年が頭から歌を繰り返す。列車の振動が心地よい。少年は誰に会いにいくのだ? この客車には私と彼しかいない。どちらかが先に会いたい人にあって、この列車を下りてしまったら。あとはたったひとりで乗り続けなくてはならない。私は少年に合わせて心の中で歌い始めた、もしひとりここに取り残されたのでは、歌を歌わなくては耐えられないような気がしたからだ。少年になぜその歌を知っているのか、どこで覚えたのか、それを聞く気にはならなかった。聞かずとも自分にはわかっているような気がしていたからだ。少年の細面の顔、丸い目、特徴のある唇。その面差しは音楽教師を思い出させるのだ。彼に子はない。彼は始終ひとりですごし、ひとり流転の先で短い一生を終えているのだから。************************************************書いたあとで『カイピラの小さな汽車』を聞きなおしました。ずいぶんと勇壮な曲でしたね。汽車といわれなかったら、怒り狂う像の行進といった印象ですね。いやはや2004.11.13 追記
Nov 9, 2004
何気なく地下鉄の窓を眺めると、暗いガラスに映るのは疲れた私の姿、そしてその背後に見える深い海の景色。斜め降りしきるマリンスノウが私の背中越しに見える。振り返ってはいけない、もし振り返ればそこにはただ暗いだけの窓があるばかりだ。こうして暗い窓ガラス同士が合わせ鏡のようになったときにだけ見える不思議な景色。近頃この街では雪が降ること自体が珍しくなってしまった。暖かい冬が続けば、心の休まる時を知らず、ひたすら喧騒のみがこの街を包み込み、時の先へと押し進める。それが繁栄だと誰が断言できるのか。もちろん破滅だということも断言できない……。ただ、雪にはばまれ、雪に包まれて過ごす時間が、この街にも必要だと思う。勤め人には厳しいかもしれぬが、交通が麻痺して一時の静けさがこの街を訪れるとき、はずれかけていた箍が戻るような気がするだけだ。肩越しの雪も本物じゃない、海底に降りつもる雪は、深く重い闇の中に生きる者たちを活気づける。地上とはえらく違うものだ。気づけば私は靴のつま先をじっと見つめていた。もう一度視線を上げると、暗い窓ガラスに映った私の背後には、七色に光る大きな深海の海月が幾匹も泳ぎまわっていた。振り返れば消えてしまうのはわかっていたが、つい降り返らずにはいられなかった。だが、振り返った私の鼻先にには、真っ暗な顔をした自分の姿があるばかりだった。地下鉄はひたすら暗い中を、深く深く潜っていく。私が下りる駅はまだ遠い。ことによったら、今日はもう降りることができぬかもしれない。地下鉄はひたすら深い闇に向かって、突き進んでいく……。
Nov 8, 2004
本日(書き込んでいるのは8日です)は憂鬱。見えているのは、緑色の藻と灰色の埃が積もった空の水槽ばかり。それでもまだ後生大事に持っているのだから。今いる水槽(これは目の前にある水槽ではなくて)を出て、どこへ行くあてもなければ路上で干からびるだけ。でも永年いた水槽は、もうとても住みにくくて、思うように呼吸もできない。いっそうのこと石でも投げ当てて壊してしまいたいのだが、それはただの八つ当たりでしかない。期限は近い。網ですくわれるまでもない。もうこの水槽に戻ってこなくていいだけの話だ。タイトル変更しました。「同じ内容か」と思われた方、すいません。なんと憂鬱です。そうですね。水槽の水位がじりじり下がってくるような、そんな憂鬱です。
Nov 7, 2004
万年筆を口にくわえて目を瞑る。そして、頭の中の闇の中に魚を探す。……深夜魚。ちらりとでも尾びれのひらめくのを見たら、一心にそのうしろを追う。ここからは想像力が決め手になる。どこまで追っていけるかはひとえに心の力だ。あぐらを組んだ体揺れる。頭の中に開いた闇の中に心を送りこんで、そのまま奥へ奥へと向かわせたいのだが、いかんせん肉体と結びついているものだから、遠くへ行こうとすると体がソワソワし始める、ムズムズする。幽体離脱などやったことが無いからそのコツも判らない。ずっと魚の尾びれが闇にヒラヒラするのを見送るだけになってしまう。連れっててくれ! などと呼びかけたところで振り返るわけもなく、今夜も魚を取り逃がした。これでは書けないではないか、深夜魚。方眼罫の手帖を見つめながらブツブツやってると、目の前に背の高いグラスが置かれた。中には透き通ったブルーの液体がなみなみと注がれ、その中を沸き立つ泡に翻弄されながら、小さな魚が上下して泳いでいる。まぁ実際は小さく切り抜かれた魚の型が、ソーダの泡をつけて上がっていっては、その泡に見捨てられ、沈むかと思えば、また別の泡に拾われているのだ。そういやこんな粉ジュース昔あったよな、などと思いながら視線を上げると、いつものマスターの顔がある。ちょっと自慢気、これも新作のカクテルらしい。「パニックフィッシュ」とマスターがつぶやく。"泡を食った魚の酒"という駄洒落だ。それはどうかと思いつつ一口飲んでみる。甘く懐かしい味がする。ちょっとキリとした酸味とかすかな苦味が、お子様向けではないことを示している。マスター、暑い夏の夜には良いけれど、この季節にはどうかなぁ……。あったかいやつをひとつ頼むよ。*****************************************以心伝心、でもちょっとずれてるカウンターバーのマスター。長いつき合いなんですけどね。ほかの客にも行き当たりばったりの新発明カクテル出してるんだろうか? 夏に会った青い服の男が久々来ていたが、なんとも苦い顔をして、青いソーダをグイグイ飲んでさっと出てってしまった。なにがあったのだろう。さて、遅れた更新をしなくては。
Nov 6, 2004
いくつも重なっていく音それぞれの足音それぞれの吐息それぞれの鼓動私はそれらの音の奔流の中にいる私自身も自分の音を発しながら流れていく人々の中にいるいくつも重なっていく声それぞれの会話それぞれの笑いそれぞれの嗚咽それぞれの怒号私はそれらの声の奔流の中にいる私自身も自分の声を発しながら話している人々の中にいるいくつも重なっていく時それぞれの過去それぞれの現在それぞれの未来それぞれの一瞬私はそれらの時の奔流の中にいる私自身も自分の時を刻みながら集散する人々の中にいるいくつも重なっていく心それぞれの願いそれぞれの祈りそれぞれの思いそれぞれの悟り私はそれらの心の奔流の中にいる私自身も自分の心を探しながら寂しげな人々の中にいる**************************************************私は人が集まるところが好きです。それぞれの人々がそれぞれの目的を持って行きかう場所が。たとえば、大きな駅や空港、広場。誰もが周囲に無関心に歩く姿をぼうっとみていたり、その流れに入って、自分の流されてみたり。でも誰も私には無関心です。それがとてもひんやりとして心地よいのかもしれません。
Nov 5, 2004
熱で熱くなった額をガラスにつけて、心地よく目をつぶる誰かに見られているような気がして目を開くと君がいる厚いガラス越しに言葉を伝えることはできないけれど僕と君の間にそんなものは無用だただこうして見つめていれば心は通じ合う、そう思う君を連れ出すこともできないし、連れて帰っても……僕には君の世話はできないただこうしてガラス越しに見つめるだけひどく熱いんだ体が熱をおびたウェットスーツに包まれているような気分だまわりの人間は不思議そうに僕を見ているけれど、僕は気にしない、でも君は気にするだろうか手を伸ばしてもガラスがそれを拒むまるでそこにないような磨きこまれたガラスけれどそれが数十センチもの厚みがあるのを僕は知っている。君はそんなことをまったく無視するかのように身を翻して遠のいてしまう、僕らを隔てているのはガラスだけじゃないひとり家に帰った僕は熱い湯をはったバスタブに体をあずけ、君のことを思い出すこのお湯は熱くて、君はすぐに湯あたりしてしまうだろう目をつむり、厚いガラスの向こうへ行った自分を想像する僕の体は次第に小さくなって、すっかり冷めたバスタブの水の中で揺れている君と同じ、君と同じ鱗を持ち、君と同じヒレで泳ぎ、君と同じエラで呼吸する自分静かに訪れた闇を抜けて、僕は深いわだつみへ泳ぎ出す。
Nov 4, 2004
見渡す限りに荒野がある赤い焼け爛れた土が剥き出しになった土地がただ見渡す限りに地平線の向こうまで続いているひとつの方向に金色の輝きがあり、そのそばにピンク色の雲が漂っている私は瞼を閉じて再び開く。そこにはいつもの自室の様子があるばかりだ。先程まで見えていた風景を思い返す広がる荒野にただひとりの影もなく、また誰の声も聞こえなかった寂しい風景と思うかもしれない恐ろしい終末の風景と思うかもしれないでもね、そこはとっても静かだった本当に心静かになる風景だったそれでいいんじゃないかと思ったそこによろこびは見つからないかもしれないけれど憎しみや哀しみ、怒りだってないだろう再び瞼を閉じたしかしそこになるのは暗澹たる闇ばかりだった*****************************************************ミレニアムの門を開けば、そこは争い耐えぬ煉獄だった。今の時代を振り返り、我々の子孫はなにを思うだろうか戦いを回避できなかった我々を恨むだろうか。それともそんなことを思う間もなく、命を落としているのだろうか。時折胸を塞ぐ暗い心は、荒野を、静まり返った荒野を心安らかになる楽園として幻視する。人がいなくても、この星では風が吹き、雨が降り、昼夜が訪れる。必要にされてなどいないのだ。雲の流れるを見て、星の輝くを見て、ときとしてそのことに思い至り、胸の苦しく、心激しく揺さぶられることもしばしばだ。
Nov 3, 2004
この涙になんの理由が必要というのかこうして流れるだけの涙になぜあなたは理由を求めるのだろうか哀れみ悲しみ怒りいずれもあてはまらないただ心が震えただけとでは説明不足なのか流したいだけだぬくもりが次第に冷たくなるこの感触をまるで自分が泉のように内から溢れる涙を流すというその感覚を味わいたいただそれだけだ誰かを哀れむ自分を悲しむあなたの問いに怒りを覚えるいずれもあてはまらないただ流したいだけの涙もあるそれをあなたが知らないというのならば初めて哀れみの涙を流そう知らぬという悲しみに理解し難いという怒りに初めて涙を流そうだからほっておいてくれ2004.11.05:修正***************************************************私の言葉には心がこもらないとはすでに指摘のあったことで、学生の頃から空蝉と我の心か、などと一人合点していたものです。仰々しい口調で独り言をいうのも、自分の心の中に自分がいないからなのでしょう。問われることには慣れていないのです。その場限りの駄洒落ならばともかく、真実答えを引き出すには永い時間を必要とします。それでも答えが出ない場合は、問うた相手に手をあげるやもしれません。人に問う、その行為は自体が非常に緊迫した状況を呼ぶもので、問うた以上はそれだけの覚悟が必要なのです。真実の答えを聞きたいというのであればなおさら。答えがあるのか判らずに問うことは、命をかけることなんです。
Nov 2, 2004
一挺のバイオリン、響き渡るは心騒がすメロディー枯葉を巻き上げ吹きすさぶ北風か、潮の香りを含む南の風か、幸福と災いを運ぶ西風か、時の流れを継げる東風か、四方より吹く風はたちまちに古の碑の上で交わりつむじ風となり、時の流れを逆巻きにしていつわりの眠りを眠るものをよみがえらせる。風邪の音に混じって響く歓喜と悲痛の声、青白い顔が土色の顔が、つむじ風の中で上も下もなくとびまわり、真っ黒な口から言葉にならぬ声を上げる。それは道化師。尊厳のある死者も誇り高き死死者も、のたれて省みられることのない哀れな死者も、つむじ風の中ではみな同じいまは死神の弦のさばきで踊る死の道化師。つむじ風の中心で、碑の上に腰をかけ、墓の土にまみれたいまはない貴族の服をみにまとい、棺と骨と乾いた腱と髪の毛で作ったバイオリンを弾く。深くかぶった帽子の下には、ただくろぐろと闇があるばかり。つむじ風の外では黒い影が集まり、死神のバイオリンに合わせて思い思いの楽器を奏ではじめる。楽器は墓場から材料を調達したものばかり。骨をくり抜いた管楽器には、薄くそいだ舌のリードがお似合い腸をよったハープの弦が白く細い指になでられか細く響く。ピアノの鍵盤はかつて鍵盤を弾いていた指の骨……つむじ風はますます強く吹き荒れて、死者の声は不協和音の合唱となり、風音の隙間から流れ出す。なにを恐れることあろうや、死は万民に訪れるもの、いずれはこの中にあって歌うは我か彼か。なにを恐れることあろうや、声楽家ののどは要らぬ思いのまま叫び、泣き、笑えばよいのだ。ここでは誰もが平等なのだから。夜明けまで風は吹き続け、墓守は耳に蝋を詰めて酒をあおり、遠くの鐘楼に上がった僧はなんども祈り、詩人と音楽家は夢にうなされ、画家と小説家は心に浮かぶ墓の様子を慌ててかき留める。朝日の最初の一矢がつむじ風にささると、風は結びを解いて四方に散り、残された碑にはただひとつ、大きな帽子のみが残された。**********************************************************久しぶりにサン・サースの死の舞踏を聴きました。いつもながら心躍らされますね。どこか滑稽で、でも常に背後に視線を送らずにはいられない、そんな気持ちにさせられる印象を受けます。曲の元になった詩では、踊るのは骸骨ですが、ここでは死霊みたいな存在にしました。死神だって、ほんとうは酔ったバイオリン弾きだったかも知れません。あ、曲はいつの間にか動物の謝肉祭の水族館になりました。これとくるみ割り人形のコンペイ糖の踊りは、なぜか心不安にさせられますね。では、11月最初の日記はこの辺で……。
Nov 1, 2004
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