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「わたしはつねづね「坊ちゃん」ほど哀しい小説はないと考えていた。この作品が映像化されるとき、なぜこっけい味を主調に演出されるのか理解に苦しんでした。そしてそれらの作品はことごとくわたしの期待を裏切って娯楽とはいいがたかった。同時に、明治がおだやかで抒情的な時代であるという通俗的でとおりいっぺんな解釈にもうんざりしていた。 以上、引用です。
明治は激動の時代であった。明治人は現代人よりもある意味では多忙であったはずだ。明治末期に日本では近代の感性が形成され、それはいくつかの激震を経ても現代人のなかに抜きがたく残っている。われわれの悩みの大半をすでに明治人は味わっている。つまりわれわれはほとんど(その本質的な部分では少しも)新しくない。それを知らないのはただ不勉強のゆえである、というのがわたしの考えであり、見通しであった。また、ナショナリズム、徳目、人品、「恥を知る」など、本来日本文化の核心をなしていたはずの言葉を惜しみ、それらがまだ機能していた時代を描き出したいという強い欲望にもかられた。
そこでわたしは「坊ちゃん」を素材として選び、それがどのように発想され、構築され、制作されたかを虚構の土台として、国家と個人の目的が急速に乖離しはじめた明治末年を、そして悩みつつも毅然たる明治人を描こうと試みた。」
追記
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