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2026.06.28
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 深沢潮「翡翠色の海へうたう」(角川書店) 「海を抱いて月に眠る」 (文春文庫) という、父親を書いた作品をなんとなく読んで以来、 深沢潮 という、この女性作家の小説とかエッセイを飽きずに読み続けています。
 今回は 「翡翠色の海へうたう」(角川書店) という、多分、 角川文庫 で読むことができる小説の案内です。
私はどこにいるのだろう。
 なにも見えない。
 墨で塗りつぶされたかのような視界は、まぶたを閉じても開けても変わらない。
 閉じ込められてしまったような心もとなさがある。自分の居場所を見失いそうになる。そのうちに、私という人間が、いる、という実感までもが持てなくなってきた。まるで肉体が消滅し、意識だけが残っているかのようだ。
 こんなところに長くいたら、生と死の区別がつかなくなるかもしれない。(P3)
​  こんな書き出しです。書き手は小説家になりたいという夢を追っている三十代の会社勤めの女性です。名前は 河合葉奈 だったと思います。
 で、 彼女 は作文好きが高じて、新人賞に応募しているらしいのですが、何度か最終選考まで残り始めたことに励まされ、今回は覚悟新たに従軍慰安婦を主人公に書くつもりで、沖縄に来ています。場所は沖縄戦で兵士や地元の人が隠れていた 「ガマ」と呼ばれる洞窟 で、その暗闇を実感している描写です。もちろん、スマホのある、今のお話です。
 で、 作中の彼女 が書きはじめた小説の書き出しが、 第2章 の冒頭です。​
わたしは、ただただ、穴にされる。(P20)
 この 作中小説 の語り手である 「わたし」 「コハル」 という名で 慰安婦 として働いている 朝鮮人の女性 です。もちろん時代は1940年代から敗戦、戦後にかけての10数年間、稼げる仕事と南の島を連れまわされて、からだを奪われ、名前を奪われ、故郷を奪われた女性の、その時、その時の、 独白体 です。
 小説を書きたい 「河合葉奈」 という女性が 取材中の葛藤 を語り、 「コハル」 という自らを語る女性をなんとか描き終えることで 「翡翠色の海へうたう」 というこの作品は構成されています。作品は、現代を生きる 河合葉奈 という女性の発見と覚悟を描いていているともいえます。もちろん 書き手 深沢潮 です。
わたしは、ただただ、穴にされる。 コハル がつぶやくこの ことばの重さ が、おそらく、今でも美しい 琉球の翡翠色の海 にこだまします。
戦後80年 、今、この世相の中で、 書く ということに対する 作家の誠実な覚悟 がにじみ出ている作品でした。
2026-no057-1272


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最終更新日  2026.07.16 22:04:27
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