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2019.05.19
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テーマ: 楽天kobo(900)
カテゴリ: 漫画
劇画王、梶原一騎は数々のヒットを出している裏で、短期に終わった作品や、過去作の焼き直しとしか言えんものも出してる。




ケンカの聖書(バイブル) 1【電子書籍】[ 梶原一騎 ]


『ケンカの聖書』はwikipedia情報だと1971年の発表。ちょうどこの年に『空手バカ一代』の連載も始まっている。なので、『空手バカ』と似てても焼き直しというよりは、試行錯誤の時代だったのかもしれない。
なお、この1971年の時点で梶原一騎は『巨人の星』、『あしたのジョー』、『タイガーマスク』といった大ヒット作はすでに出ていた。さらに『空手バカ』を出したことで極真空手との関連する作品が量産され、また梶原一騎には『愛と誠』だとか『プロレススーパースター列伝』なんかも後に控えているから、まだ上り坂の時期だな。

さて、内容なのだけど『ケンカの聖書』というタイトルに反して中身はプロレスものである。
主人公、吉良旭(きら・あきら)は幼いころ、原爆で両親を失ってしまう。成長した旭は単身アメリカに向かい、漠然とアメリカに対する復讐を考えていたのだ。本名をもじって二重の殺し屋、キラー・キラーを名乗る旭だが、彼はプロレスのチャンピオンであるプリンス・スターをアメリカの象徴と見て、プリンス・スター打倒を決意する。


(電子版1巻、27。主人公の自己紹介)

特徴的なのは、主人公である旭が全然練習をする描写がないところだ。
タイトルどおり、主人公の旭が使うのはあくまでケンカ殺法だ。特に空手をやるだとか、柔道をやるとかはしない。エゲツない目突き、金的、凶器攻撃なんかが必殺技になる。比較的にマシな技がアゴの関節を外すブラック・ジョーあたりになるのかな。



(電子版1巻184。ケンカはフィーリング)

ただ、練習をしないと成長がない。ここでいう成長には肉体的なもの、精神的なものもあるだろう。梶原一騎のスポーツ根性漫画には大切なものだ。
成長のない旭は、描写を見ていても明らかにライバルのプリンス・スターに劣っているし、それどころかその前座的なレスラーよりも弱そうだ。あくまで、反則技で勝ち抜いている。
そして、ついに旭はプリンス・スターとの試合にまでこぎつけるが、決まり手は事前にリングに隠しておいた日本刀を使うという凶器攻撃だった。…さすがに、これはない。
プロレスという競技は、5秒以内なら反則も許されるというルールがあるし、セン抜きとかフォークくらいなら凶器攻撃として許される風潮もある。反則だってテクニックなのだ。だが、さすがに日本刀はない。
このあたり、本作より前に連載が始まった『タイガーマスク』なんかで描かれる「テクニックとしての反則」、「力、技、反則の三要素」みたいに反則を扱いきれてない気がする。

さて、日本刀という凶器攻撃によってプリンス・スターを倒した、旭だが、最後の敵は力王岩。つまり、力道山をモデルとしたプロレスラーである。
力王岩もまた、プロレスにとどまらず、ケンカの強い男だということで、旭は力王岩と戦うことになるのだ。
2人の戦いは、プロレスの試合から最終的にケンカになる。最終的に旭は力王岩とのケンカを最後に引退し、横浜の港で荷物の積み下ろしの仕事をするようになる。そして、力王岩が刺されて死んだという新聞記事を読み、感慨にふけって終わり。
ただ、ジョーや飛雄馬のように選手生命を絶たれたわけでもなく、五体満足のうちに引退できて、恋人もいるあたり、他の梶原漫画の主役たちと比べると格段に幸せかもしれない。

(電子版5巻、203。引退した旭)


練習をしないものだから主人公の成長がない。ケンカという着眼点は見事だし、梶原一騎のケンカ最強論は現代にも残っているが、そんなケンカ屋を制約の多いプロレスのリングに上げたのはどうかと思う。
タイガーもまた、初期は反則技で戦うものの、練習によって技を身につけて成長していった。『空手バカ一代』のケンカ十段、芦原秀幸はケンカに空手を加えさらに強くなった。そういう展開が欲しかったかな。
また、この『ケンカの聖書』は『空手バカ一代』の発表と同年のものだから、まだ梶原一騎が極真空手との繋がりを深める前の時期だ。そのため、空手の評価がさほど高くないというのも興味深い。
まとめると、『ケンカの聖書』は梶原一騎の中期頃の作品としてそれなりに価値はあると思う。ただ、面白さとしては『タイガーマスク』や『空手バカ一代』には明確に劣る。そんなところだろう。

追記 ツイッターの方で作品の発表順の誤りについて指摘をいただいたので若干訂正しました。申し訳ありませんでした。



ケンカの聖書(バイブル) 5【電子書籍】[ 梶原一騎 ]





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最終更新日  2019.05.19 18:17:53
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