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2021.02.17
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カテゴリ: 漫画



本作を梶原一騎の傑作漫画,『あしたのジョー』と比べながら見ていこう


雨の朝サブは【完全版】1【電子書籍】[ 下條よしあき ]

あらすじとしては,主人公,志波三郎,通称サブがボクシングを通じて成長し,恋をし,登り詰めていく様子を描いた青春漫画である。
タイトルの「雨の朝」というのは,モハメド・アリが新チャンピオンになった際,「 いつも雨の朝だったが,これからは違う 」とインタビューに答えたとされるのを元に,ドン底の主人公を重ねているのだろう。
この作品では雨の演出が何度も描かれており,『夕やけ番長』における夕焼けのように,ときおり暗い影を作品に落としてくるのだ。



(電子版1巻7頁。梶原漫画なので本当にこんな台詞があったのか疑問はあるなぁ・・・)


なんといっても,梶原一騎はすでに『あしたのジョー』というボクシングを世に出しているのであって,これの二番煎じとならぬよう,気を配りながら作っていたのだろう。
もっとも,初期のサブはサンドバックをたたきながら「サンドバックに浮かんで消える~」と『あしたのジョー』のテーマソングを口にしたり,ときにはテーマソングを演奏したりとファンサービスもしていてジョーの方のファンも楽しめる内容になっている。






(電子版4巻101,102頁。サブもジョーは読んでいるのだ)

本作は『あしたのジョー』と色々と差別化はあると思うが,特徴的なのが,サブの恋愛模様がしっかりと描かれているところだ。
相手の女性は,赤尾火鳥(あかお・かとり)という,ブルジョワ令嬢だ。梶原一騎はよく不死鳥,火の鳥というモチーフを好んで使うので,火鳥という名前からして梶原一騎の思い入れを感じるところ。
この火鳥の父もまたボクサーで,かつてサブの父親と対戦した結果,試合中の事故でサブの父親の両目を失明させた経歴を持つ。いわば仇の娘である。
さらに火鳥の兄,KOケンこと赤尾研二は序盤のライバルとして活躍したりする。
『あしたのジョー』でいえば,火鳥は白木葉子,KOケンは力石徹のようなものだ。

正直言って,KOケンはライバルキャラとしては力石とは比較にならない。序盤こそ,その異名の通りKOの山を築き日本チャンピオンとなり,ついには世界チャンピオンに挑むものの,中盤で世界チャンピオンに挑んだあたりがピークで,以後は事業の方に専念するとして引退を決意したりする。
この引退を決意した後,KOケンはサブと試合をしたものの,蛇足みたいな感じで盛り上がりには欠けた。

一方で,火鳥はヒロインとしては申し分ないほど魅力的であった。

象徴的なのが, サブが物語のスタート時点で童貞だった ことである。
なんと,サブの親友であるインテリ君もまた童貞で,ときたま童貞談義をしたりする。また,サブは途中で童貞を捨てるチャンスがあれど,「 ここで童貞を失ってしまえば,どこにでもいるトコトンありきたりの男に成り下がってしまう気がする・・・ 」と激しい意思の力で我慢をしたりする。



(電子版4巻9頁,男には童貞の捨て方も重要になってくるのだ)





(電子版4巻31頁,童貞を捧げる・・・!)
単にセックスをさせろ,というのではない。「童貞を」というのが最大のポイントである。
だからサブは決して他の女と夜を過ごすことができないのだ。
真の男が童貞を捨てるのであれば,これに付き合う女もふさわしい女でなければならんのだ。

この点,サブの親友であるインテリ君の方は意志が弱く,サブのタイトルマッチでマカオに行った際,商売女を相手に童貞を捨ててしまう。
インテリ君はスッキリした顔をしているものの,実はだまされているだけで,1度しかない初体験をドブに捨ててしまっているのだ。



(電子版8巻,当時は日本人がマカオなんかで海外で買春をするのが国際問題になっていた)

対するサブは,ちょっとエロティックな表紙で飾る9巻でついにJフェザー級の東洋チャンピオンになり,約束通り火鳥と夜を過ごすのだ。

雨の朝サブは【完全版】9【電子書籍】[ 下條よしあき ]

東洋チャンピオンにもなり,恋人との一夜を過ごしたサブの顔はどうだろう。
この晴れやかな表情をしているではないか。いつも心に降っていた雨がやんだという独白も入れて,この漫画の最高潮だと言っていいだろう。
逆に言えば,この9巻が最高潮であり,これ以降は徐々に下がっていく。



(電子版9巻86頁,チャンピオンベルトと恋人の両方を手に入れた朝の図)

この童貞をどう捨てるか,さらにその前の誘惑から守り通すべきか,と言うところには梶原一騎の哲学が込められているように思う。
様々な研究者は,『あしたのジョー』の「矢吹丈は童貞だっただろう」と論じている。単に女っ気がないとか,コミュ障だと非難するのではない。ジョーは純潔を守り,汚れることなく死んだのだと,むしろ褒める文脈だ。
梶原一騎自身,多数の女性と浮名を流しているものの,どこかプラトニックなところへの憧れというのがあったのだろう。
実際,欲望の限り女を抱く主人公よりも,サブやジョーは圧倒的に美しい。

そうして,サブは心と体で恋人と結ばれたものの,これは梶原漫画である。火鳥はサブと一夜をともにしただけでヤクザの凶弾に倒れ,死んでしまう。
サブは火鳥の思い出の詰まった日本を飛び出し,世界ランクに挑戦するために海外を転々としていくのだ。
そして,ついに世界チャンピオンと戦うことになる。

はっきり言って,この世界戦はさほど語ることもない。
『あしたのジョー』のチャンピオン,ホセ・メンドーサのように不気味な強さが語られるわけでもなく,唐突に登場するキャラにすぎない。名前こそ,「キッド・サンシャイン」となっており,行く先々が雨だという雨男のサブと対比させるような名前ではあるものの,『あしたのジョー』のように盛り上がるわけでもない。
最終的に,サブは王座奪還ならずで終わるものの,パンチドランカーになるわけでもなく,自動車のセールスマンとして第2の人生を送っている。
そんなサブは,朝目覚めても心に雨の音を聞くことがない日々を送っている,とのことである。死亡説もあるジョーと比べると,五体満足で引退し,第二の人生を送っているだけサブは幸せと言えるかもしれない。

総評として,この漫画は梶原一騎の哲学の結晶といっていいだろう。
主人公は最愛の恋人とたった一夜しか結ばれることはなく,世界戦では惜しくも敗退する。
だが,それでいいのだ。梶原一騎は努力の大切さを説くものの,決して努力が報われることにはしない。
それでも,夢に向かう姿勢は美しい。たとえ,行く先に破滅が待っていようとも。


雨の朝サブは【完全版】14【電子書籍】[ 下條よしあき ]





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最終更新日  2023.07.03 10:59:28
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