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一言で表すと、「作家はこうしてネタを作る」という映画。 これが実話かどうかわかりませんが、「ピーターパン」の原作者がこの一件の後、離婚したのは事実らしいです。 まあ、あの主人公もネタ欲しさに未亡人達に近づいたわけではないでしょうし、偶然の結果だったのでしょうが、あれだけ家庭的不幸を背負って、名作を書いたのだとしたらなんだか複雑なものがあります。 まあ、あの奥さんとは、未亡人との交流がなくても価値観の不一致などから離婚していたかもしれませんが。 作家という商売は大変だなあ、と思った映画でした。
2005年01月31日
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明も凛太郎と同じことを思っていたようだった。きつい視線を、秀信と執事に投げかけている。 凛太郎が疑問を追求する間もなく、信行と呼ばれた男が凛太郎に無遠慮なまなざしを向けた。 男は慇懃無礼に、凛太郎に頭を下げた。「これは、これは。清宮凛太郎さま。いや、様づけはおかしいかな? 私は、少なからず君とは血がつながっているのだから」「えっ……」 凛太郎は姿勢を正した。「そう。私は君の母親、明子の父……つまり、君の祖父、弓削信行だ」 凛太郎は喜びのあまり、息をのんだ。体中にあたたかいものが生まれていく。秀信に続いて、自分のもっと強い血縁に出会えるとは。父方の祖父母を亡くしていた凛太郎にとっては、喜び以外の何者でもない。 この男に抱いていた良くない第一印象がみるみるうちに晴れていく。 喜びにうちふるえる凛太郎を尻目に、明が警戒心をゆるめずに尋ねた。「あんた、凛太郎のじいさんにしてはやけに若いな」「貴様、信行様に無礼だぞ!」 そう叫んで、黒服の従者が明になぐりかかる。明は顔色ひとつ変えずに、従者の拳を片手で受け止めた。 室内に張りつめた空気が流れる。 秀信がフっと笑った。秀信の背広の裾を握りしめている晴信は、おびえと尊敬の入り交じったまなざしを明に送る。「明、乱暴なことは……」「わかってるって、凛太郎」 明はそう言って、従者のこぶしを振り払った。バランスを失った従者は、不格好に床に転倒した。「さすがは、伝説の鬼・蒼薙だな」 男――弓削信行は、皮肉っぽく笑った。「どういたしまして。昔っからあんたたちみたいな陰陽師やらなんやらに追っかけまわされてたおかげで、ケンカ慣れはしてるんだよ」 明は不敵な笑みを浮かべて、肩をすくめた。「ちなみに俺、今は明って名前なんだけど覚えといてくれる? いつまでも伝統やら家柄やらにしがみついてる、あんたたちみたいなヤツらとは違うからさ」「あ、明……」 たしなめようとする凛太郎の頭を明はぐりぐると撫でた。「悪ィ、悪ィ。こんなヤツでもお前の爺さんだったな。ところでさっきの質問に戻るけど、あんたどうしてそんなに若いんだよ?せいぜい四十代ってところだろう? それとも処女の生き血でも飲んでンのか?」「弓削家は代々、結婚が早い家系なのだ。私は十代で妻をめとった」 信行は、明のずけずけとした口ぶりにも怒ろうともせずに答えた。それでも、皮肉っぽい表情は消えない。「へえ。まあ、ちょっと前までは凛太郎ちゃんくらいの年で結婚なんて当たり前だったからな」 明は一応は納得したようだった。 ふと何かを思いついたように、ニヤッと笑った。「じゃあさ、そこのスケベ教師はどうしてまだ独身なわけ? それとも、もしかしてもう結婚してたりとか……」 秀信は首を横に振った。「それは私の勝手だろう?」 秀信はまるで無関心な様子だった。自分の挑発に乗ってこない秀信に、明は頬をふくらませる。秀信の背中に隠れたままの晴信は、不思議そうに二人のやりとりを見つめていた。 凛太郎は明をつねりながら、秀信の端正な横顔をうかがっていた。これだけの容姿と頭脳を持ちながら、恋人の一人もいないということはないだろう。(弓削先生の恋人って、どんな人だろう?) そう思いをめぐらせた時、秀信と目が合った。秀信に微笑みかけられて、凛太郎は頬を熱くしながらうつむいた。 凛太郎の様子に明は気づいて、秀信にあっかんべえをする。「ところで、君……そのなんとお呼びしたらいいかな?」 信行に明は答えた。「明大明神様とでも呼んでくれよ」「ずいぶんとおちゃめな鬼神様だな」 信行は鼻で笑った。凛太郎はあわてて取りなす。「あ、あの、明でいいですから……」「ふん……明くん、とでもしておこうか。幾千の時を生きているといっても、見た目は私よりずいぶんと若いようだからな」 信行はそこで口調をあらためた。「明くんのその名前は、どなたがつけたのかな?」「こいつだよ」 明は凛太郎に抱きついた。「俺の命。千年かけて、俺が待ち続けた相手」 つづく
2005年01月29日
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「うっそー! 全然似てねえじゃん!」 明はのけぞった。凛太郎も目を剥く。 見るからに冷静沈着な秀信と、このひなぎくを思わせる少年は兄弟どころか、親戚にも見えなかった。「そうなんです。僕、兄さんに比べて、ちっともしっかりしてなくて……」 晴信はしょげて、小さな肩を落とした。「いや、似てない方が幸せだって。お前の方がずーっと性格が良さそうだから」 明が秀信を横目で見ながら、晴信の肩を抱いた。「何言うんですか! 兄さんはすばらしい人ですっ」 晴信がキッと明をにらみつけた。子猫が毛を逆立てたくらいの迫力はある。「晴信様、およしなさい。凛太郎様があきれておいでですよ」 祥にたしなめられて、晴信はハッと凛太郎を見た。凛太郎と目が合うと、ふたたび晴信は真っ赤になって、にまにまと微笑み出す。 その時、ふたたびドアが開いた。「晴信、いるかっ?」 入ってきたのは、五十代前後の男だった。 上背が高く、がっちりとした体躯を紺色の背広につつんでいる。細面で、つり上がった目元はいかにも鋭かった。 背後に幾人もの黒服の部下を従えているその姿は、どうにも威圧的だった。「お、おじさま……」 晴信はおびえたように、身をすくめる。 晴信の盾になるがごとく、秀信は晴信の前に立った。「おじさま、お久しぶりです」 秀信は、その男に丁重に頭を下げた。祥もそれに従う。 秀信たちには目もくれないで、その男は晴信を怒鳴りつけた。「神事も放ったからして、こんなところで何をしている? お前は、神に仕えるためだけに存在している人間なのだぞ。早く宮に戻れ!」 晴信はビクン、と身をすくめて、兄の腰にしがみついた。秀信は、晴信の小さな手にそっと自らの手をかさねる。 凛太郎は、秀信のその優しいしぐさを見のがさなかった。 男は舌打ちした。秀信の脇に回り込み、晴信の腕を強引につかもうとする。 男のその手を、秀信は素早くつかんだ。「は、離せ!」 男は秀信の手を振り払おうとした。が、秀信は微動だにしなかった。 黒服の従者たちが、秀信を取り囲もうとする。祥が一歩歩み出ると、彼らは引き下がった。両者のにらみ合いが続いた。 秀信は静かに口を開いた。晴信は秀信にすがりついている。秀信の手は、晴信の栗色の頭を優しく撫でていた。「おじさま。晴信は、ここのところ続く託宣で疲労がたまっております。しばしの間、息抜きさせてやってはいただけないでしょうか」 男は顎を上げて嘲笑した。「ハッ、何を言う! こんな未熟な巫子はいつだって息抜きしてるようなものじゃないか。かつてこの部屋に住んでいた先代の巫女は、晴信などとは比べ物にならなかったぞ」 そこで、男はふと気づいたようだった。「お前たち、どうしてふだん使っていなかったこの部屋に……」 口ひげを生やした執事が、一礼してから、男に申し出た。「信行様。今日は、お客様がいらっしゃる日でございます」 執事の「お客様」という物言いは、どうにも含みがあるように凛太郎には感じられた。 そして、執事に目配せする秀信のまなざしにも。 つづく
2005年01月28日
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以前にも、日記で取り上げましたけれど、あれからかなりプレイしたので、二回目の感想日記です。 今回は、純愛ルートの話を中心に展開していきます。 まず、第一の感想。 純愛ルートからプレイしておけば良かった……。 純愛ルートと陵辱ルートを比べれば、はっきりわかるのですが、これ、陵辱ルートはおまけ扱いですね。 声は入っていないし、シナリオも今ひとつ一本調子です。 まあ、要するに各キャラクターを無理矢理××していくだけなので、どうしても感情描写などは浅くなるのは必至ですが。 で、全体の感想ですが。 萌えます。 すごく、萌えます。 どこが萌えるかっていうと、とにかくキャラクターが生き生きしているんです。 この人って、たぶんこういう背景があるから、こういう性格になったんだろうなあ、とか、こういう物の言い方をしちゃうんだろうなあ、と類推できちゃうんです。 つまり、すごくキャラクターが作り込まれているってことです。 私がすごいなあと思うのは、下世話な話ですが、各キャクターのエッチシーンで、ちゃんとそのキャラクターのエッチの仕方が、その相手ごとに描き分けられていることです。 たしかに、人間って一人一人ベッドの中ではふるまいも違うし、その相手によって反応も違いますよね。 それが、ちゃんと描けているのです。 これ、ものすごく難しいんですよ。 有名作家さんでもできてない場合がわりにあるのに、それをさらっと、しかも何パターンもやってのけた、このゲームのシナリオライターさんはすごい才能だと思います。 最近、BLがつまらないという声を結構聞きますが、今ひとつなBLものって、こういった(Hのことだけではない・笑)キャラクターの描き分けが出来ていない場合が多いんですよね。 つまり、生きたキャラクターが描けてないってことです。 作者の中で、ちゃんとキャラクターが作り込まれていないってことです。 これは、BLに限らず、一般の小説や漫画、映画などでもとても重要な問題だと思います。 よくBL業界は「新しい才能を」とか、「新しい切り口を」などと言います。もちろんそれも大事です。 けれど、それ以上に大切なのは、魅力があって、生き生きしたキャラクターによって織りなされるドラマなんじゃないでしょうか。 まあ、お前が言うなって話ですが。 でも本当に久々にBLものでいいもの見つけたなあって感じです。
2005年01月27日
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この放送は個人的理由があり、一日遅れでビデオで観ました。 楽天日記の書き込みを見ていて、他のテニプリファンのみなさんもそう思ったようだけど。 めちゃくちゃ最終回に近づいてるっぽいですね。 全米オープンの話を聞いた時、私は最初ちょっと安心したんです。 リョーマが全米オープンに渡っている間に時間稼ぎをするんだなあと。 けど、今回の話からすると、全米オープンと全国大会って同時期って設定なんですよね。 こりゃヤバい。 おまけにとどめを刺すように、手塚は遠回しにリョーマに全米オープンに参加するように勧めてるし。 桜乃ちゃんがリョーマにアプローチかけてる? のも、他校の生徒が続々青学にやってくるのも不吉な予兆のような気が……。 私が読んでるネットのウワサでは、テニプリが3月に終わってDVDで続きをやるって話なんですよね。 もしこれが真実だとしたら、まあ、私が言っても何ですが、関係者のみなさま。 それはやめた方がよろしいと思います。 続けるならずーっと続けないと。 なぜかと申しますと、テニプリファンの主体は十代の女性です。 この年代というのは、非常に熱しやすく冷めやすい傾向があるのです。 みんながみんなじゃないけれど、私個人が経験してきたことなので、わかります。 それに人気というものは、一種の熱狂です。 だから、休んでしまうとそれが醒めてしまうことが多いのです。 ほら、アーティストが一年くらい休業して戻ってくると以前より人気がなくなってたりするでしょ。 あれと同じです。 だから、もしテニプリで儲けたいのであれば、続けた方が得策ではないかと……。 人気ってのは、狙って出るもんじゃないんですよ。 テニプリくらいの人気作が出るのは、難しいんじゃないでしょうか。 以上、汚れた大人のいらんお世話でした(^^; まあ、私もアニプリが続いてほし^いから、ついこういうことを書いてしまうわけで……。 え、暇人だって?(^^; さて、本編の感想。 手塚の先生っぷりにますます磨きがかかってきましたね。 「すべてが完璧」なんて言われてますが、あれは完璧というより、単に妻子持ちの三十代のプロが十代に混じってテニスしている状態ではないかと(^^; ……失礼しました。 さすがのリョーマも、手塚には頭下げるんですね。 菊丸と乾の激しい打ち合いが見られて嬉しかったです。 この二人って、どうもお笑い担当に回されることが多いから、こうやって必死にテニスしてるシーンって、そんなにない感じがするんですよね。 乾の眼鏡を取った顔も見られたし。 もうちょっとあの顔、しっかりうつしてほしかったですね。 桃城とリョーマに抱きつく菊丸。 「おっチビはそういうコだもんね~!」 なんて、リョーマのことはなんでも分かっていると兄貴ぶるところがかわいらしい。 菊丸って末っ子だから、たまにはお兄さんぶりたいのかもしれませんね。 さて、桜乃とリョーマの仲ですが。 この二人って、恋人になったらどういう会話が展開するんでしょうね? 私には想像つきませんです。 桜乃が一人でもじもじして、リョーマがジュース飲んでる姿くらいしか思い浮かばない……。 桜乃には、もっといたれりつくせりで、お兄ちゃんっぽい人の方が似合ってると思うんだけどなあ。 青学だったら桃城とか、他校だったら橘さんとか。 海堂と交際ってのもいいかもしれませんね。 海堂はああ見えて、他人に気を遣う人だから、無口だけどあったかいカップルができるかも。 アニプリ終了が不安なので、テレビ東京のメールフォームから「アニプリ好きですから、終わらないでください」とメールしてしまった私。 いい年して、ここまでするなんて……。 ふっきったよ、ユミティ。 アニプリはテレビ東京放映のアニメの中で二番目に人気があるそうなので(1番目はnaruto)終わらないと思うんですが。 アニプリ劇場版、作画がものすごく綺麗ですね。 さすがIGタツノコ。 青学メンバーたちもタキシード着てるし、ファンサービスもばっちりって感じです。 もう前売りはGETしてあるので、いつ観にいこうかなあ……。 ちなみに、テレビ東京のurlはこちら。http://www.tv-tokyo.co.jp/ 左下にあるテレメールってところから、メールが送れます。
2005年01月26日
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日本ホラーサスペンス大賞受賞作。 趣味のSM小説を妻に見つかり、離婚されてしまった主人公の「私」は、裏街で傷だらけの美少年を拾った。 彼は男娼の間でも有名な、タダでどんなSMプレイでもさせる人形のような少年……通称「ギニョル(フランス語で人形、という意味)」だった。 「私」は徐々にギニョルの妖しい魅力の虜となっていき……。 こうしてあらすじだけ書いていくと、なんだか今はやりのボーイズラブ小説のようですが、本編自体もそういう雰囲気がありました。 なぜこの作品がホラーサスペンス大賞を受賞したかというと、人間の心の闇の部分である加虐趣味に主人公が徐々に足を踏み入れていく部分が、ホラーでサスペンスなのだと思います。 つまり、人間はみな変態的な部分を持っており、それを抑えて生きているという綱渡り的な側面があるということです。 たしかに、それがなにかのきっかけで引き金が引かれ、犯罪でも犯したら怖いですよね。 で、この「人形」という作品がそれを描けているかというと……残念ながら今ひとつでした。 まず、主人公とギニョルのSMプレイに迫力がない。 作者はこの作品の読者が、この小説の影響を受けて性犯罪でも起こしたらどうしようと考慮したのかもしれませんが、人間の心の暗部をえぐり出す効果はないです。 それにギニョルへの主人公の感情も、倒錯的なものというより、離婚の時、妻に引き取られた息子への愛情の延長線上にあるように思えます。 つまりこの小説、ホラーサスペンス大賞受賞作なのに、怖くないんです。 これだったら、現実に起こっている事件の方がよっぽどホラーで、サスペンスです。 でもなぜ私がこの小説を最後まで読み終えたかと言いますと、ギニョルという少年像に魅力があるからなんですね。 ふてぶてしいくせに、どこか子供っぽくてさみしがりや。 宮部みゆき作品に登場する少年に共通する魅力があるように思えます。 そこがまたBL小説っぽいんですよね。 もしかして作者はSMやらなんやらといったことにあまり興味が無く、単にホラーのネタとして新鮮だからこの題材を選んだのではないでしょうか。 個々のキャラクターに存在感はあるので、そこが残念です。 もういっそのこと、作者はBL小説を書いてみるとか。 まあ、絶対書かないでしょうが(笑)。
2005年01月25日
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「ぼ、僕の部屋? そんな悪いです」 凛太郎は顔の前で大きく手を振った。「何を言う。お前は決して、弓削家とは無関係ではないぞ。なぜなら、お前の母上はこの家でかつて暮らしておられたのだからな」 執事が、うやうやしく礼をしながら言った。「ご案内しましょう、凛太郎様。あなたのお母様、明子様がお使いになられていたお部屋に」 三階に上がり、広々とした渡り廊下をいくつか越えた所に、その部屋はあった。 瀟洒な飾りのついた白い扉を開けると、品の良いアンティークの家具やベッドが凛太郎の視界に広がった。 風がそよぐ窓辺には、レースのカーテンがやわらかくそよいでいる。「わあ、いい眺め……」 凛太郎は、窓辺からの景色に思わず声をあげた。そこには、弓削家の庭園、そしてその遠くに広がる街並みが見渡せた。「明子さまもよくそう言っておいででした。お小さい時には、よくそこから身を乗り出して外を眺めておいでで、私どもを困らせましたよ」 執事が皺が刻まれた目を細めながら言った。 秀信と祥は、執事の話を食い入るように聴く凛太郎をほほえましげに見つめていた。 凛太郎は母の思い出のこもった部屋の調度品の数々を、目を輝かせながら見回していた。 明は、部屋にある人形のスカートをめくっていた。 そのうちに凛太郎は、思い切って執事に尋ねて見ることにした。「あの、僕の母さんの写真とかないでしょうか?」 その時だった。 パタパタという足音の後で、部屋のドアがすぅっと開いた。 そこから顔をのぞかせた人影に、凛太郎は見覚えがあった。「君、以前に神社の境内で……」 凛太郎の言葉に、栗色の髪をおかっぱ頭にしたその少年はさっと姿を隠した。「晴信様。今さら隠れても無駄ですよ」 幼子をいさめるような口調で、祥が言う。 晴信と呼ばれた少年は、白い頬を桜色に染めながら部屋にそっと入ってきた。 年の頃は十二歳ほどだろうか。。凛太郎より頭一つ分ほどは低いから、身長はせいぜい百五十センチといったところだ。白い上着と、あさぎ色の袴から成る巫子装束を身につけていた。 少年のおかっぱ頭はゆるくカールがかかっていた。だから、どことなく西洋人形が日本の袴を着ているようなミスマッチなかわいらしさがあった。 少年は凛太郎を上目遣いでじっと見ている。大きな瞳はうるんで、どこまでも熱っぽかった。崇拝者に向けるまなざし、と言っていい。 凛太郎は照れくさくなって、少年から目をそらした。すると少年は「あっ」と残念そうな声をあげた。「晴信様、自己紹介は?」 祥が声をかけると、少年は袴の裾をいじりながらうつむいて、もじもじと小さな体をゆすった。「なんだかこの子、お前に惚れてるみたいだな」 明があきれ顔で凛太郎に耳打ちした。「どうして僕が男の子に惚れられなきゃならないんだよ?」 凛太郎はそう小声で言い返したが、少年のまなざしを見ればさもありなんだった。 凛太郎はこほん、と咳払いをしてからできるだけ優しい声で言った。「はじめまして……じゃないよね? たしか君、祥さんと鬼護神社で僕と明に道を尋ねたよね。僕、清宮凛太郎。今日からここで、お世話になります」「俺、木原明。よろしくな!」 凛太郎と明は、少年に同時に手を差し出した。 少年は躊躇せず、凛太郎の手だけを取る。「このガキめがっ」 明がひきつった笑いを起こした。 凛太郎の手をきゅっ、と握りながら、伏し目がちに少年は言った。少年の手はまだ子供らしく、やわらかな感触がした。「ぼ、ぼ、僕……晴信です。弓削晴信っていいます!」「晴信……?」 凛太郎はおうむ返した。「君、まさか弓削先生の……」「そうです、弟です」 頬を染めながら、少年――弓削晴信は、誇らしげに薄い胸を張った。 つづく
2005年01月24日
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凛太郎の住む町から、祥の運転する高級車を飛ばして、二時間あまり。「そろそろ到着するぞ、凛太郎」 秀信の声で、凛太郎は目覚めた。バックミラー越しに、祥が微苦笑しながら自分に視線を投げかけているのが見える。 ハッとして隣を見ると、明が凛太郎の方にもたれかかって、よだれを垂らして寝ていた。「うにゃあああ……もう食べられない……」 明はもごもごと寝言を言っている。助手席の秀信が、フッと笑った。 明の横で、自分も居眠りしていたのを秀信に見られたのだと思うと、凛太郎の頬は熱くなった。いくら早朝に秀信たちが迎えに来たからと言って、いぎたない寝顔を見られるのは恥ずかしかった。(ふだんは僕だって、五時起きで学校に行ってるのに……。昨晩、なかなか寝かせてくれない明が悪いんだ!) 昨夜の明の熱い体の感触を思い出して、凛太郎の頬はさらに熱を帯びる。「何を赤くなっているのだ、凛太郎?」 バックミラー越しに秀信に問われて、凛太郎はしどろもどろになった。「え、えーっと……、その……」 照れ隠しに、凛太郎は明の耳元で怒鳴った。「起きろ、明!」「え、ええっ?」 明はびっくりして目を開けたが、すぐにまぶたを閉じようとする。「起きろったら!」 凛太郎は自分にもたれかかっていた明の頭を払いのけた。後部座席から転げ落ちそうになった明は、頭を押さえながら体勢を立て直した。ふくれっつらで明はぼやく。「まったく乱暴なんだからよォ、凛太郎ちゃんは……。チューで起こしてくれるくらいのサービス精神を持てよ」「バ、バカ! 先生の前で変なこと言うな!」 凛太郎が明の口を押さえようとした時。 車が止まった。「ほらほら、ケンカしないで、凛太郎様」 祥がおどけた口調で、自動車の扉を開けた。「ここが弓削家邸宅だ」 凛太郎たちより一足先に車から出た秀信は、凛太郎をエスコートしようとした。 だが、明が強引に自分から凛太郎の手を取った。「足下に気をつけてね、凛太郎ちゃん。ついでにスケベ教師にもご注意よー、だ!」 明は芝居めかした口調でそう言って、秀信にあっかんべえをした。 秀信は背広につつまれた肩をすくめて、苦笑した。 うろたえながら、凛太郎が明をいさめようとする。秀信の顔色がどうにも気になった。「明、先生になんてことを……」 そこで凛太郎は声をひそめた。「ゆうべ、僕と先生のことには口出ししないって言ったじゃないか!」「でも、あいつにケンカを売らないとは言ってねェ」「そんな、ヘリクツだよ!」 凛太郎と明の言い合いが始まろうとした時。 ふたりは息を飲んだ。 高い門が開いて、そこから広々とした邸宅のシルエットがそびえ立っていたからだった。 そこはまるで、古文の教科書で見た貴族が住む御殿だった。白い壁の上には、精緻に装飾された屋根が乗っている。「昔ながらの名家、ってやつか。どうせ代々権力者ってやつの犬にでもなって稼いだ金で建てた家なんだろう?」 凛太郎は明をにらみつけた。明は無視を決め込んで、秀信の後ろについていく。秀信は何も言わずに、祥と並んで屋敷に向かって歩みをすすめた。 玉砂利の上の敷石を幾十も踏んだ後で、凛太郎たちは弓削家邸宅の入り口前に立った。「帰ったぞ」 秀信が一言かけると、髭をたくわえた初老の執事が扉をおごそかに開けた。「お帰りなさいませ、秀信様」 執事がそう言うと、一斉に揃いの黒服を着た男と女が頭を下げていた。凛太郎は目を剥いた。メイドや執事というものを実際にこの目で見たのは初めてだった。振り向いた祥が、満足げにニッと笑った。「弓削家にお仕えする人間は総勢三百人います。この屋敷の他にも」「ケッ、自分のことくらい自分でしろっつーの。でもあのメイドの娘、可愛いな……」 年若いメイドにやにさがっている明を凛太郎は思いっきりつねった。「嫉妬するなよ、倫太郎ちゃん」 明はでへへ、と笑った。「楽にしろ」 秀信が一言発すると、彼らは頭を上げ、秀信の持っている荷物を受け取って、どこかに運び去った。「凛太郎さま。何かお荷物があれば、私どもがお部屋にお持ちしますが……:」 執事に言われて凛太郎は面食らった。「ぼ、僕の部屋って……」「私がすでにお前専用の部屋を用意させておいたのだ。この屋敷のものは皆、お前を歓迎している」 秀信が、凛太郎に微笑みかけた。安心させるような微笑みだった。秀信が、凛太郎に微笑みかけた。凛太郎を安心させるような微笑みだった。 つづく
2005年01月22日
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凛太郎が唇を噛みしめた時。 凛太郎の体は、ふわりとしたものにつつまれた。 膝をついた明が、優しく凛太郎を抱きしめたのだった。「あ、明……いきなり何するんだよ……」 明の肩に顔をうずめた格好の凛太郎が、くぐもった声で言った。明の少し獣じみた匂いが鼻孔をくすぐる。「お前さ、乃梨子ちゃん以外にも、いや、それ以上にあいつのこと考えてるだろ」 明はそこで顔を上げて、こつん、と凛太郎と自分の額同士をくっつけた。「弓削秀信、のことをさ」 図星を突かれた凛太郎は黙って明から視線をそらせた。明は少し寂しそうに笑った。「べつに俺はあいつのことを毛嫌いしようとしてるわけじゃねえ。けど……」 明は凛太郎の頬に両手を当てて、言い聞かせるように語った。凛太郎は明の真剣な様子に押されて、明に視線を戻した。「あいつは、どうも嫌な感じがするんだ。俺は長い間生きてるだけあって、そのへんの勘には自信がある。あいつの目は、平気で自分の邪魔になるヤツを殺せる人間の目だ」 明はそこでいったん言葉を切った。普段はおおらかな光をたたえている鬼の切れ上がった双眸は、めずらしく激しい嫌悪をたたえていた。凛太郎は明に反論したいと思うより先に、そんな明の様子に驚いていた。「俺は、ああいう手合いを時たま見てきたよ。いわゆる権力者ってやつになろうとしてる人間の目だ。あいつらに比べたら、鈴薙のヤローの方がまだ可愛いくらいだ。少なくともあいつは、自分の欲で動いてるわけじゃないし、本気でお前のことが好きだ。俺と同じでな。だから俺は、鈴薙が気にいらねえわけなんだが」 明は少し自嘲するがごとく、鼻を鳴らして笑った。「……先生は、そんな人じゃないよ」 ポツリ、と凛太郎は言った。「だがよ、凛太郎。俺の言うことも……」 凛太郎は自分の頬をつつんでいた、明の手を振り払いながら言った。胸がきりきりするほど痛くて、苦しかった。自分のようやく見つけた、信じられる大人を奪われる苦しみだった。「だって、だって、先生は僕の母さんと血がつながってるんだもん。僕の母さんを優しい、いい人だって言ってくれた!だから、だから……」 最後の方は、ほとんど涙で言葉にならなかった。頬にこぼれ落ちる涙をぐい、と凛太郎は手の甲でぬぐった。「よしよし。お前を泣かせちまって、俺って悪い鬼だよな。鈴薙もビックリ! だ」 明は茶化した口調でそう言いながら、凛太郎の頭を撫でた。凛太郎は、明の広い肩に顔をうずめて、しくしくと泣き続けた。「……そっか」 不意と思いついたように、明は言った。「お前がつけてくれた俺の名前は、明。それでお前の母さんの名前は、アキコさん……だったっけ?」「……うん」 涙がにじんだ声で、凛太郎が答える。 明は幼子をあやす親のまなざしで微笑んだ。「そのアキコのアキって、俺の明って名前と同じで明るいっていう字を使ってるのか?」「そうだよ。悪い?」「……お前って、結構マザコンだったんだな」「うるさい! 悪かったな!」 涙でベタベタになった顔を上げて叫ぶ凛太郎に、明はそっとくちづけた。不意をつかれて毒気を抜かれた凛太郎に、明は優しく微笑みかけた。「悪くなんかねえよ。ありがとよ、お前の大事な母さんの名前から、名付けてくれて。それでこそ俺もお前に呪をかけられた甲斐があるってもんだ」 明の瞳に抱きしめられて、凛太郎の視界はふたたび見る見るうちに曇った。明の胸に顔をうずめて、凛太郎は声をあげて泣き出した。 なぜだか、無性に泣きたい気持ちになったのだ。この鬼に甘えたい、と思った。「おい、どうして泣くんだよ。俺が謝ってるっていうのにさ」「……わ、わかんない。でも……。なんか切なくて……」 明は凛太郎を抱きしめながら、子供をあやす格好で小さくゆらした。「あ~、よしよし。まったく凛太郎ちゃんは手がかかりまちゅねえ」 しばし後。明は凛太郎の顔を優しく持ち上げながら言った。「俺、もうあの先生とお前のことには口出ししねえことにするよ。お前にとっちゃ、大切な人だもんな」 凛太郎をひた、と見据える鬼の双眸は、湖のごとく澄んでいて、優しかった。その瞳の中で眠っていたい、と凛太郎は思った。「これでいいだろ?」 凛太郎は静かにうなずいた。明の助言を聞くべきでは。心のどこかにいるもう一人の自分がそう言っていたが、凛太郎はそれを無視することにした。「だから、さ」 明はそっと凛太郎の体をベッドの上に押し倒した。「もう一回抱かせろよ……いいだろ?」 明の声は少しかすれていて、ひどくあまやかだった。「……いいよ」 凛太郎はそっと目を閉じた。 明がそっと覆い被さってくる。大きな羽にくるまれてるみたいだ、と凛太郎は思った。 明の舌が、凛太郎の涙をなめとった。それからその舌は、なめらかに凛太郎の口腔をまさぐり、やがて凛太郎のすべてをたかぶらせていく。「お前が好きだ、凛太郎」 くぐもった声で明が言った。もっとも恥ずかしく、敏感な部分を明に明け渡しながら、凛太郎はひりつく快感の中でその言葉を聞いた。 明の喉がごくり、と動く音がした。「ああっ!」 凛太郎はうめいた。凛太郎の汗に濡れて震える体を、明は大きな腕でかきいだいた。「好きだ。大好きだ。お前のためなら、俺は何だってする。俺はどうなってもかまわねえ」 明が押し入ってきた。凛太郎の体は、苦もなく、いや進んで明を受け入れる。「だから……だからさ、今だけ俺に全部をあずけてくれよ」 身を進めながら、明が言った。凛太郎は大きく白い喉をそらせて、明の広い背中に両手を回す。明の体はがっしりとしていて、あたたかかった。「あ、ん、やっ……気持ちいっ……!」 凛太郎の中で、明が渦巻いている。それが苦しいほど心地よくて、凛太郎は悲鳴をあげてしまう。「好きだ、凛太郎」 明は凛太郎をつらぬきながら、うわごとのように何度もつぶやいていた。 めまいに落ちる瞬間、凛太郎が見たものは、自分に向けられた明のまなざしだった。 それは、限りなくいとおしさに満ちていて、その愛情のためになにかをあきらめたような瞳だった。
2005年01月21日
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緑の髪をした鬼は、背中から凛太郎をひとおもいに抱きしめた。凛太郎の首筋に顔を埋めて、唇を寄せる。「あっ……」 その感覚に、凛太郎は甘くしびれた悲鳴を上げた。(こんな声、先生に聞かれたら、先生、僕のことなんて思うだろう) そう考えた時、凛太郎の脳裏に乃梨子の顔がよぎった。勾玉に取り憑かれた乃梨子のうつろな顔。『お前たちは、汚い。男同士で、鬼と人間であんなことをするなんて……』 乃梨子の言葉は、抜けないトゲのように凛太郎のこころに突き刺さっている。 勾玉は人間のこころの隙につけ込む。秀信はそう言っていた。乃梨子のこころの隙とは、明に抱かれている凛太郎を乃梨子が見てしまったことではないか。それに、乃梨子は悩んでいたのだ。 明が記憶を消したと言っても、それは解決にはならない。乃梨子がもし記憶を取り戻したら、きっと乃梨子は凛太郎を「汚い」とまた思うだろうから。 凛太郎は、明の胸元をまさぐる明の手をはらいのけた。「何だよ?」 美しい鬼は、口をとがらせて背後から、凛太郎の横顔をのぞきこんだ。浮き世離れした顔に似合わない、子供っぽい表情だった。「今夜はもういいだろ。さっき一回したんだし……」 凛太郎は明から顔を隠すようにうつむいた。愛撫に潤みかけた瞳を見られたくなかった。「俺はなあ、ゆうべの乱闘でケガしたの。だからお前の気で、傷を癒やしたいんだよ」「もうとっくに治ってるじゃないか」 凛太郎は自分の肩に回された、明のたくましい腕を取って指摘した。悪鬼と化したクラスメイトに噛まれた明の腕にあった傷は、あとかたもなく消えていた。 明はでへへ、とわざとらしく笑った。 しばしの間の後、明がポツリと言った。「凛太郎、お前さあ……」 明は、凛太郎の頭の上に、自分の顎をのせながら言った。「ひょっとして、乃梨子ちゃんがお前に言ったこと、気にしてるとか?」「……」「図星だな」 明は、凛太郎の前に回り込んだ。すでに見知った体ではあるが、鬼の裸体は凛太郎の息を飲ませるのに十分すぎるほどの美しさをたたえていた。 明はめずらしく困惑気味に、切れ上がった目をすがめていた。「乃梨子ちゃんもよォ、他人の愛に口出ししないでほしいよな。なんかちょっと前のお前みたいだよな。けがらわしい、なんつって」 明はケタケタと笑った。「だいたいよォ、俺らの愛し合う行為をのぞき見してる方がよっぽどやらしいよな。何だったら混ぜてあげるのにー、なんつって……あ、怒った? 凛太郎ちゃん?」「……結界張り忘れる明も悪いんだろ」「あら~、そうだったね。俺ったらドジっこでェす、なんちゃって……」 明はコツン、と自分のオデコを叩いて、ペロっと舌を出した。鬼が取るおちゃめポーズにも凛太郎は関心を示さずに、視線を下に落としている。「もうっ、ボケてるんだから、ツッコんでくれよ、凛太郎!」 明は、気まずさを押し隠すように笑った。 凛太郎は、ほとんど明に関心を示さず、ペタン、とベッドに座った。このまま明が部屋から出ていってくれればいいのに、と思った。 これ以上、罪悪感を引きずりながら、快楽に溺れたくない。 つづく
2005年01月20日
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一年生時代の海堂、可愛い。 というよりも、おもかげがない(^^; 海堂を演じておられる喜安さんは、「蒼穹のファフナー」というアニメで、総士というキャラクターを演じています。 その総士は海堂というより、不二に近いキャラクターで、私はキャスト表を見るまで喜安さんだと気づきませんでした。 「テニプリ」のラジオを聴くと、喜安さんの地声って、どちらかというと一年生時代の海堂に近いようですね。 声優さんって、偉大だ。 小説版「テニプリ」によると、海堂と桃城は幼稚園児代からのライバルでいがみあっていたっていう設定なんですが、あれはやっぱり小説版だけのものだったようですね。 でも、海堂と桃城のライバル関係って、深くとらえてるのは海堂だけかなあと思っていたんですが、そうでもないようで。 いや~、お互いに険悪にならずに競い合えるライバル関係っていいものですね。 ああいう場合、どちらかがつまんない牽制をしかけちゃったり、テニスとは関係ないところで揚げ足を取ったりしてしまうものなんだけどね。 お互いライバル同士で、友達同士って、漫画ではよくあるんだけど、現実では……やっぱり少ないでしょうね。 今回は南次郎がたくさん出てましたね。 奈々子さんがセリフ付きだったのは、ひさしぶりのような気がします。 リョーマに、「ラブレターよ」と行って、アメリカからの手紙を出すパパ、素敵。 あれが桃城だったら、大喜びでしょうね。 いや、一番ノリノリなのは乾かもしれない(^^; それとも大石? まあ、リョーマくんがこんな状態では、桜乃ちゃんやら朋香ちゃんの想いが報われるのは当分難しいでしょう。 ランキング戦に入ってからのアニプリって、初期のアニプリを思い出します。 南次郎や奈々子がたくさん出てくるところとか、中学生な雰囲気が漂いだすところとか。 まあ、これは青学が他校とくらべて、普通の中学生らしいというところも大きいんでしょうが。 そういえば、原作、六角と青学がずいぶん熱い友情をはぐくんできましたね。 六角も中学生らしい中学生ですからね。 このあたりに跡部あたりが出てくると、またアナザーワールドになるのですが(^^; 余談ですが、ゲーム「RUSH&DREAM」のフリートークで跡部役の諏訪部さんが、「跡部は最近クレイジーになってきました。金持ち過ぎ。ああ? と言い過ぎ」と語っていて、フランクな人だなあと思いました。 私はアニプリの跡部は花形満(古いって)だと思うようにしています。 そのうち本当に自動車運転しそうですね、跡部。 ゲームでは白馬に乗っていたし。 おまけ。 今週の「ナルト」。 顔に包帯を巻いて、長いすに座っている大蛇丸がエステに通った後の奥様のようでした。 そして、カブトが若い愛人(^^; この二人ってどんどんカップリングじみてきてますねえ。 萌え……ないか。
2005年01月19日
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「やめてよ、明……もういいだろ?」 凛太郎は、隣から伸びてくる明のたくましい腕を振り払いながら言った。 ベッドから起きあがって、汗に濡れた髪をかき上げる。体に触れる外気が心地よい。 凛太郎は、自室の窓辺から月を見上げた。 明が張った結界の内側からとはいえ、月灯りはさらさらと生まれたままの姿になった凛太郎の上に落ちた。 昨日の晩、秀信と見上げた月よりも少し欠けていた。 秀信が、もし今の自分の姿を見たら何と言うだろう。鬼に抱かれた後の、肌の色も染めやらぬこの姿を。 凛太郎は息を詰めた。 いきなり、背後から明に強く抱きしめられたからだった。 つづく
2005年01月18日
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ほのかのふっくらした目元には、青黒い隈が浮き出ている。幼いほのかの顔立ちには、それはなんとも不釣り合いだった。 昨日の疲れとショックはまだまだほのかには残っているはずだ。それに、ほのかは凛太郎におびえたり、明を化け物とさげすんだりすることもなかった。 それどころか、こうして弁当を作ってきてくれている。「藤崎さん……僕と明のこと、怖くない?」 凛太郎はほのかの耳元に、に小声で尋ねた。 乃梨子や他のクラスメイトたちたちは明の話に笑い転げていた。明はリレーの最中、転びそうになって、ジャージのズボンが脱げそうになった苦労話を大まじめにしていた。 ほのかは箸を握ったまま、しばし考え深い横顔を、凛太郎に見せていた。「怖い」 小さくほのかは言った。凛太郎は胸の痛みを感じながらも、ほのかの率直な意見を聞こうとする。 ほのかは凛太郎にまっすぐ顔を向けた。 そして小さいが、はっきりした声で言った。「でも、好き」「え?」 凛太郎の頬は熱くなった。そよ風が、凛太郎の頬をさますように吹いた。 ほのかは何度も瞬きしながら言った。「私ね、おばあちゃんがお花の先生してるの。だから、小学生の頃からまだとっても下手なんだけど、生け花やってるの」 ほのかは言葉を探すように、箸を手にとって何度も握った。「それでね、生けやすい花と、そうでない花ってあるの。花自体はすごく綺麗なんだけど、いざ活けようとすると茎や枝が堅かったり、反対に花びらがすぐ落ちちゃう花」 凛太郎は、何度も瞬きしながら話すほのかに、新鮮な驚きを感じた。こんなに一生懸命、生き生きと話すほのかを見たのは初めてだった。「そういう花を、嫌いだって言って避ける人もいる。でもね、私はそれは人間の都合だと思うの。生け花っていうのは、あくまで人間が作った芸術なの。人間が勝手に、自分の思うように、花をいじくって、自分の好みにあてはめていくだけだって言う人までいるくらいだから。でも……」 ほのかは、少しうつむきながら慎重に語り続ける。「私はたまに、花の声が聞こえるような気がすることがあるの。今日は晴れてて気持ちいいね、とか雨が降って嬉しい、とか。そんな時、花と人間が気持ちを通じ合わせられることだってあるんだなあ、って思うの。植物と人間で、大きな違いはあるんだけど」 ほのかは凛太郎に微笑みかけた。ふわっとした笑顔が、まばゆい露となって凛太郎の心にしみいった。「清宮くんと、木原くんは、昨日、いっしょけんめい、真剣に私のことを守ってくれようとしたよね。私、それだけでいいの。それだけで、二人のことを、怖いけど、信じられる。だって、清宮くんも私のことを信じてくれたから、記憶を消さなかったんでしょ?」 ほのかの笑顔が、凛太郎の視界でぼやけた。「風で、目にゴミが入っちゃって……」 凛太郎は照れ笑いしながら、ぐいぐいと手の甲で目をこすった。「私も……」 ほのかも鼻をすすりながら、目頭に手を当てる。 明が、他のみんなの注意を惹きつけておいてくれて幸いだった。明は凛太郎にウィンクして、小さく「良かったな」と言った。「何が良かったの、明くん?」 めざとく乃梨子が聞きつけて、尋ねる。「いや~、乃梨子ちゃんが今日はひときわ可愛くてよかったなあって……」「ええー、明くん、私はァ?」「君もカワイイよ、もちろん」 明は乃梨子以外の女子にもかわいい、と言いまくる羽目になった。「藤崎さん、どんな花が好きなの?」 凛太郎は、照れ隠しにほのかに尋ねた。 ほのかはポケットから取り出したハンカチで涙をぬぐいながら答えた。「桜。あの、はかないんだけど、凛としてて、芯が強そうな感じが好き……」「僕も」 凛太郎は大きくうなずいた。今はもう散ってしまった校庭の桜。そして、鈴薙があの夜、凛太郎に見せたまぼろしの桜が目に脳裏によぎる。 小さなころから、桜を見ると、奇妙に切なくなった。大切な、けれど、思い出せない記憶がそこにあるような気がする。(まさか、僕の前世で、なにかが……) 凛太郎はフッとそう思った。 だが、何も思い出せなかった。 凛太郎の物思いを晴らすかのように、ほのかが明るい声で言った。「ねえ、清宮くん。今度、桜の季節になったら、私、桜を生けようと思うの。私、いつもおばあちゃんと生徒さんの作品展に、一点だけ展示させてもらってるんだけど、見に来てくれる?」「うん、行かせてもらうよ。絶対に」 凛太郎は大きくうなずいた。 クラスのみんなや乃梨子、そしてほのか。 みんな今、昨日の惨状が嘘だったように幸せそうに笑っている。(みんなを僕が守らなきゃ――。僕のせいでみんなをあんな目に二度と遭わせちゃいけない――!」 ほのかの笑顔を見つめながら、凛太郎はそう決意した。 つづく
2005年01月17日
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このアニメ、私はスタッフを聞いた時から注目していました。 なぜかと申しますと、脚本家が池田眞美子さんだからです。 そう言われてもピンと来ない方も多いと思いますので、説明しますと、この方は他に「げんしけん」「ケロロ軍曹」「DCダカーポ」などのシリーズ構成のお仕事があります。 それだけなら、売れっ子の脚本家でしょ、で終わってしまうのですが、池田さんには夕方6時30分のお茶の間に堂々と美少年同士のベッドシーンを放送したという知る人ぞ知る伝説があるのです。 その作品名は、「天使になるもん!」。 ストーリーは、飛べない天使の美少女が平凡な少年に恋をする……というファンタジックなラブストーリーーーーーだったはずなのですが、途中から森久保祥太郎さん演じるラファエル様と、石田彰さん演じるミカエル様という二人の美少年天使が登場します。 それで、ミカエルにラファエルが妙にいちゃいちゃしていて、「まさかなあ……」と思っていたのですが、なんと、作品中で二人がベッドをともにしているシーンがあるではありませんか! もちろん、なにぶん夕方6時30分なので、二人がベッドの上で裸でよりそっているのを遠目から描く……くらいのものでしたが。 ラファエル様ははっきりとミカエル様の前で「ベッドの上の君は……」なんて言うセリフも登場するし、私は一人、ブラウン管の前でお祭り状態だったのでした。 惜しむらくはこのアニメ、女性ファンからは男性向け萌えアニメと思われていたようで、周囲の友人はまったく観ていなかったことです。 私は非常に寂しい思いをしたものです。 その後、池田さんは「美鳥の日々」というこれまた、男性向け萌えアニメで、主人公の少年に恋する少年が、裸で主人公に抱きつくという原作にないシーンをお書きになりました。 私は、一人つぶやいたものです。 池田さん、ホモ書きたいんだなあ、と。 そして、この「好きしょ」。 池田さんにしてみれば、「待ってましたァ!」なお仕事でしょう。 そして第一話からのあの飛ばしっぷり。 私は水を得た魚、いいえ、コミケ会場の腐女子のような生き生きとしたものを今の池田さんに感じます。 がんばってください、池田さん。 あなたには腐女子がついています。
2005年01月16日
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「なあ、凛太郎。見てくれた、俺のリレーでの雄姿を?」 青空の下、ハチマキをなびかせながら、明は凛太郎のもとに駆け寄ってきた。「よくやったな、明」「明くんのラストスパートのおかげで、私たちのクラスは勝てたようなものね!」 明に、笑顔のクラスメイトたちが声援を送っていた。明はそれの一つ一つに愛想良く手を振って答える。 凛太郎は、彼らの笑顔を見ると複雑な心境だった。 まだあどけなさの残る彼らが、昨日、自分のせいで悪鬼の形相を浮かべて、襲いかかってくる存在になっていた。 幸い、明がうまく手加減したおかげで、ケガはなかったのが、せめてもの救いだった。 偶然、凛太郎と友達を引き連れて歩いていた里江の目が合った。 里江は、一瞬凛太郎に胡乱な視線を送ってからすぐに目をそらせた。 明の記憶消しの術はたしかに効いているはずだ。その証拠に、クラスメイトたちは今朝、昨日はダンスの練習のせいで遅くなった、受験勉強に響くとぼやきあっていた。 でも、今の里江の不審そうな顔つきは、凛太郎の心に暗い影を落とした。 なんとなく「お前と関わり合うと、ロクなことはないから、無視することにした」と言われたような気がした。「うわっ!」 凛太郎は軽く悲鳴を上げた。いきなり明に抱きつかれたのだ。明はぐりぐりと凛太郎の頭を撫でながら、頬をすりつける。「やめろよ、明。みんなが見てるだろっ」 周囲はクスクスと笑いながら、周囲の人間は凛太郎たちを見ていた。凛太郎はぐいぐいと明の体を押しやったが、凛太郎よりひとまわり大きな明はビクともしない。「どうして僕が命令してるのに、明は放してくれないの? 呪はどうなったんだよ?」 凛太郎は小声で明に尋ねた。「へへーん、呪って言うのはな、指令をかけたものが、心の底から相手に命令しないと聞かないことになってんの。でないと、お前が冗談で言ったことも、俺はすべて実行するってことになっちまうからな」 そこで、明は凛太郎の耳元にささやいた。「つ・ま・り。お前は本気で俺に放して欲しいって思ってないわけよ。かーわいいねえ、凛太郎ちゃん。素直になれない恋心ってか?」 明はよりいっそう強く凛太郎を抱きしめる。 やめてよ、と凛太郎が精一杯拒絶を示すよう、努力をこめて言おうとした時。「ねえ、呪ってなあに?」 快活な声が、二人の背後から聞こえた。 凛太郎と明が同時に振り向くと、ほのかと乃梨子がそこにいた。「おお、乃梨子ちゃんにほのかちゃん! 乃梨子ちゃん、さっきの短距離走ぶっちぎりすごかったな!」 乃梨子は親指を立てて明にウィンクしてから好奇心いっぱいに、明にもう一度訊いた。「それって、食べ物か何か? それとも、おまじない? 命令がどうとかっていう言葉も聞こえたんだけど……」「あ、あの~、えっとォ……」 凛太郎は硬直しながら、そう言うのがやっとだった。 明は凛太郎の脇腹をつっついた。「おいおい、脇が甘いなあ、凛太郎ちゃんよォ」「何だよ、明だって……」 明は凛太郎の言葉をさえぎって、ほのかに目を向けながら言った。「ほのかちゃん。その手に持ってるやつ、何だい?」 ほのかはおずおずと後ろ手に持っていたものを差し出した。 ふろしきに包まれた黒塗りの重箱だった。「こ、これ、みんなで食べようと思って持ってきたの……」 数分後。 凛太郎と明は、ほのかたちと一緒に重箱をつついていた。 凛太郎の取り巻きたちは、ほのかに嫉妬を燃やしていたが、ほのかが弁当を供応するとすぐに機嫌を直した。 人間、食い気には勝てないらしい。「清宮くん、どう?」 ほのかは、ふっくらした頬を桜色に染めながら尋ねた。 凛太郎は、里芋の煮っ転がしを口に運びながら答えた。「おいしい! おばあちゃんが作ってくれてたやつと味がよく似てる。里芋本来の風味がちゃんと残ってるんだけど、しつこくないんだ。これって、結構難しいんだよね。どうやって、おだし取ってるの?」「あ、後で教えるね」 ほのかは、「もっと食べる?」と嬉しそうに尋ねた。 その笑顔が、凛太郎の胸には痛かった。 つづく
2005年01月15日
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弓削家、邸宅。 その夜、秀信と祥は、秀信の自室で酒をくみかわしていた。「神域の花嫁が、我らに味方してくれたことに、乾杯」 バスローブを身に付けた祥が、杯を窓辺から見える月に照らしながら音頭を取った。 眼鏡を取った秀信は、着流し姿だった。 冷えた笑いを浮かべながら、掲げた杯から酒を飲み干す。「――うまい酒だ。どこから手に入れた?」「あなたのおじさまの部屋からくすねてきましたよ。どうせ、どこぞの政治家から、政敵を呪い殺した褒美にでももらったんでしょう」「あの爺さんも、あいかわらずたいしたタマだな」 秀信は鼻で笑った。 祥は大仰に驚いてみせた。「あら、あなたがこの前作っていた人型には、どこぞの政治家か、高級官僚の名前が書かれていませんでしたっけ?」「俺は、叔父貴に命じられて、あの人型を作ったまでだ」 秀信は苦く笑いながら、祥に杯を傾けた。 祥はうやうやしく秀信の杯に、酒を注いだ。「しかし、あなたも人が悪いですね」 グラスに口をつける秀信に、祥は垂れた目をいたずらっぽく輝かせて言った。「何がだ?」 秀信が冷ややかに問う。 祥は肩をすくめた。「わかっているでしょう。あの坊やのことですよ。清宮凛太郎くんのことです」 秀信は黙って祥の話を聞いていた。酔っているせいか、祥の口はなめらかに動いた。 窓辺からさしこむ月光が、祥の昔なつかしい文学青年然とした整った顔立ちを、白く照らす。その顔に、祥は皮肉っぽい笑顔を浮かべていた。「あの坊やは、あなたのことを尊敬すべき人間だと思っていますよ。あなたの真の姿も知らずにね。それとも……」 祥は、首をかしげながら秀信の顔をのぞきこんだ。「もしかして、あなたはあの子に本気で入れ込んでいるのですか?」 秀信の眉がぴくりと動いた。いつもならすぐに口をつぐむはずの祥だが、今夜はそんな気にはなぜだかならなかった。酔いのためだろうか。 祥は、秀信の冷たい美貌をのぞきこみながらささやいた。「あの坊や、明子さまのお子さんなのでしょう? 私は、明子さまには直接お会いしたことはありませんが、あなたは今日、あの子に”お前は母親に似ている”とおっしゃっていましたね?」「似ていない」 秀信は、祥の言葉を低くさえぎった。「明子は、凛太郎には似ていない」 秀信のまなざしは、どこか遠くを見ていた。 おやおや、と祥は肩をすくめてから、一口酒をすすった。「いずれにしても、あの坊やが美しいことには変わりありません。なにせ、二人の鬼に千年の時を越えて愛されている少年ですからね。あなたも見たでしょう、あの坊やが鬼に抱かれている様を。清楚さとみだらさが極上の織物のように合わさった見事な美しさでした。あれを見た時、私は彼を犯したい、と思った」 ふだんは穏やかな光をたたえている祥の垂れた双眸が、雄の輝きを放った。祥は唇をぺろり、となめた。「あなたはいかがですか、秀信様?」「――馬鹿を言うな」 秀信は酒をあおった。たくましい喉元がごくりと上下する。「それは嘘だ」 祥は鳩のように笑った。「あなたの凛太郎を見る目は、熱を帯びている。日頃、晴信様以外の人間には、とんと興味を示さないあなたがね。しかもその熱は、ひどく激しい。まるで、あの坊やに触れる自分以外の人間は、すべて焼き殺してしまいたいと言わんばかりに……」「祥」 秀信が、静かに己の配下の名を呼んだ。「何ですか?」 酔いで少し目をうるませながら、祥が答えた。「俺は、お前など、いつでも握りつぶしてしまう存在であることを忘れてはいるまいな?」 小さな、だが、鋭い破壊音が祥の耳を射た。 秀信が、分厚いガラスでできた杯を片手でひび割れさせた音だった。「――申し訳ございません。口が過ぎました」 血の気の引いた顔で、祥が静かに頭を下げた。 秀信は、醒めた支配者の笑みを浮かべながら、祥を睥睨した。 つづく
2005年01月14日
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凛太郎の唇に押し当てられた秀信の人差し指は、ひんやりとしていて清らかだった。 その感触に、驚いた目をする凛太郎に秀信は微笑みかけて、その人差し指を離す。「お前を抱いたその男性は、ただの人間ではなかっただろう?」「はい……頭に二本の角が生えていました。だいたい僕が……」 代々、鬼護神社に伝わる刀の封印を解いたから、その鬼は現れたんです。凛太郎がそう言う前に、秀信はその言葉をさえぎった。「そのお方は、鬼神さまだ。いにしえの時、我らが人と鬼とはともに暮らしていた時代があった。彼らは人よりもはるかに優れた能力と生命力を持ち、美しい存在だった。だが」 そこで秀信は悲しそうな目をした。「我らが人があまりにも愚かゆえ、人を嫌い、滅ぼそうとした鬼神さまもいたのだ。悲しいことに、その数は徐々に増え、最後には人の味方をする鬼神さまよりも多くなってしまった。おそらく、その鬼神さまはそういった考えの持ち主なのだろう」「だから、凛姫が……」「そうだ。凛姫さまはその鬼神さまを刀に封印したのだろう」 秀信は凛太郎の肩をふたたび抱いた。「おそらく、封印された鬼神さまが、ふたたびよみがえって来られたのは、今の世が乱れているからだ。あの山を見ろ」 秀信は、この校舎の裏側にそびえ立っている乙女山を指さした。凛太郎が目を向けると、乙女山は闇の中に黒々とその存在を誇示していた。「あの乙女山は、古代から伝わる霊山とされている。ああいった山々には、聖なる気が満ちていて、我らを守っていてくださるのだ。それが、このたび切り開かれるというではないか。それもくだらない金目当てのリゾートホテル建設とやらでな」 秀信は薄い唇をゆがめた。眼鏡の奥の双眸は、静かだが深い怒りを見せていた。「こういったことが、今の日本、いや世界各地いたるところで行われている。きっと鬼神さまはそのことで怒られたのだろう。そして、人を罰しようとされているのだ。それに凛姫の封印も千年の時を経て、かなり弱くなってきているのだろう。第一、数々の環境破壊のために、今の世は気のバランスが崩れているからな。聖なる力が弱まりやすい」「そういえば……」 凛太郎は震える声で、相づちを打った。「あの鬼は……鈴薙さんは、人間どもを滅ぼすって言ってました」「ーーーーそうか」 秀信は重々しくつぶやいた。「僕たち、いったいどうすれば……」「凛太郎さま、さきほども申し上げましたが、私どもとともに戦っていただけないでしょうか」 それまでじっと話を聞いていた祥が、慎ましやかな口調で、口をはさんだ。「祥」 秀信はキッ、と祥をにらんだ。「凛太郎が弓削家に協力するかどうかは、あくまで凛太郎の意志だ。私は、鬼や妖との厳しい戦いに、凛太郎を巻き込むのはしのびないと思っている」「ーーーー申し訳ございませんでした。私はただ、人々を救いたいがために、凛太郎さまにお願いを……」「祥! 凛太郎の気持ちも考えろ、と言っているのだ」 祥が口をつぐみ、頭を下げようとした時だった。「先生」 凛太郎は、すっくと立ち上がった。 秀信が、眼鏡の奥の双眸を見開いた。凛太郎は、しゃがんだままの秀信に手を差し出した。「僕、やります。先生たちと一緒に戦います! みんなを守るために、世界を救うために!」「凛太郎……」 秀信はしばし呆然としていたが、すぐに凛太郎の手を取って、強く握った。「礼を言う。これから、私たちは同志となるのだな。だが、学校内では私たちは教師と生徒だぞ。それを忘れるな」「はい!」 凛太郎は心の底から微笑んだ。秀信の手のあたたかさが、凛太郎の凍てつきかけていた心を溶かしていくようだった。 これから待ち受ける戦いはつらく厳しいだろう。 だが、この身がどうなろうと戦い抜いてみせる。(だって、すべては僕の責任なんだもの) 凛太郎はその事実を今、秀信に明かす勇気はなかった。やっと得た、心から慕える師をここで失うのはどうしても嫌だった。 だから、凛太郎は秀信に宣言してしまった。「僕、がんばります。みんなのためなら、ううん、先生のためなら、何だってしてみせる!」「ーーーーその言葉、しかと受け止めたぞ、凛太郎」 秀信は、微笑みながらそう答えた。 その笑いが冬の月よりも凍てついていることにも、明が不安げに自分を見つめていることにも、凛太郎は気づいていなかった。 つづく
2005年01月13日
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OPとED、変わりましたね。 リョーマが青学ジャージではなく、最初に着ていた赤いジャンパーを着ていたり、リョーマ一人しかほとんど出ない展開など、放送開始当時のOP、EDを思い出しますね。 リョーマがアメリカに一時帰国するって展開になるみたいだし、振り出しに戻るってことなのでしょうか? まさか放送終了ってわけじゃ……。 いや~、こういう不吉なことを言うのはやめようと思うんだけど、原作のストックがかなり切れてしまった今、ちょっとヤバいかも、と思うのは事実であります。 OP、EDは変わるの知っていたから、OPに「ワンピース」みたいに原作でしかまだ登場していないキャラクターが、たとえば金太郎くんなどが登場していたら、「これは続く!」と安心できたんですが。 余談ですが、「NARUTO」もかなり原作のストックがヤバいですね。 これはもう、ジャンプ作品がアニメ化された時はみんな、アニメが終わって欲しくない場合は「原作は原作、アニメはアニメ」と割り切って、どんどんオリジナルストーリー作って! というスタンスでいきましょう。 だって、今のジャンプってもうメディアミックスで展開しようってことで、雑誌作ってるんだから仕方ないじゃないですか。 時代がそういう方向に向いてるんですよ、ってことで。 まあ、これは私が「アニプリ」ファンだから言える言葉ではありますが。 そういえば、今回のアニプリ、桜乃ちゃんと朋香ちゃんとリョーマのからみが多かったところも初期っぽかったですよね。 初期では桜乃ちゃんとリョーマ、デート? までしてたしな。 そのうちオリジナルもストーリー展開に困ったら、「RUSH&DREAMS」の女性キャラクター出したりしてね。 ゲームの話ですが、小鷹那美ちゃんが海堂が好きで、那美ちゃんの告白を海堂が陰でこっそり偶然聞いていたという展開は、もうまんまラブコメで私はビックリでした。 あの女っけのない漫画関連で、しかも本家でこういうものを見るとは思わなかった。 しかも海堂。 海堂ですぜ。 海堂ファンの皆様、ごめんなさい(^^; モテそうなのは、不二とか手塚だと思うんだけどね。 海堂だったら、ストレートに告白したら、結構受け入れてくれそうな気がします。 不器用で、スローモーな交際だろうけれどね。 でも、それなりに幸せなのだろうと思います。 連載当初は許斐先生は女性キャラクターもいっぱい出す予定だったみたいですが、もしそうやってたら絶対、今のテニプリ女性人気はなかったでしょうね。 それを止めたジャンプ編集部は先見の明があると思います(^^; スミレちゃんと部室で話す手塚。 リョーマの宣戦布告を聞く手塚。 よりいっそう、先生っぽさが際だってきましたねえ。 もうランキング戦なんか出る必要がないような気がします(^^; スミレちゃんと一緒にいる時、ノートに向かってる姿なんて、通信簿つけてるのかと私は思ってましたから(^^; リョーマの父親という設定でもこれはイケそうな気がする(^^; タカさんが大石に勝っちゃうというのにも驚きました。 日頃、すっかりママンなキャラクターが板についている大石くん。 ここで一発、男らしい活躍を見せてくれてもいいんだけどねえ。 ラストの一枚絵は、久々にシリアスな大石とタカさんが見られて良かったです。 ところで、リョーマがアメリカに帰国した時、やっぱりケビンは再登場するんでしょうか? だとしたら、ケビンファンとしては嬉しいです。 もう二度と登場しないかもと思っていたのです。 おまけ。 「ナルト」の感想。 薬師さんって、本気で大蛇丸のこと尊敬してたんですか? それともヨコシマな関係なんですか? いや、べつにこの二人に萌えてるってことはまったくないです。 大蛇丸って声も女性だし、容貌も女性を彷彿とさせるので、なんとなく女性で通るような気がするんですよね。 薬師は年下の夫と考えてよろしいかと。 まあ、それは冗談として、なんか今日の「NARUTO」、妙に不健康でジトーっとした展開でしたね。 弟のために自分を犠牲にする兄といい、そんな兄の気持ちを知らず、ひたすらダークな考え方をする弟といい、仮面ライダー改造手術みたいな暗い部屋といい、なんだか一昔前のお耽美JUNE(ボーイズラブではない)みたいでした。 あの弟の顔も、ムウ様みたいだったし。 ここはひとつ、ナルトに説教でもぶちかましてもらいたいものです。 でもNARUTOって、ジャンプ漫画らしくないと言えば、ジャンプ漫画らしくないんですよね。 登場人物が結構ダークな思考してたり、主人公の味方が自分から敵に寝返っちゃったりするでしょう? ああいう展開って、あんまりジャンプにありそうでなかったんですよね。 これがウケてるってことは、内省的な青少年が増えてるってことかな? と考えてみたりして。
2005年01月12日
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このままこの世から消え去ってしまいたい。 そう思いながら、凛太郎は頭の中で言葉を探した。今言わなければ、自分は永遠にわだかまりをかかえたまま、秀信と接してしまいそうだった。 教師として尊敬しており、そして自分と血縁のある秀信にそんなものを抱えているのはいやだった。 凛太郎は、屋上のコンクリートの床を見つめながら、声を絞り出した。「ぼ、僕のところに……鈴薙っていう綺麗な男の人が現れて……その人、僕が小さい頃、泣いてた時、なぐさめてくれた人にとってもよく似てたから……なんとなく気を許しちゃって……」 ここから先はほとんど言葉にならなかった。凛太郎は泣き伏しそうになるのを必死にこらえながら、話し続けた。どうしても、声に涙がにじむ。「そこまで言わなくていい、凛太郎。俺が……」「明は黙ってて」 凛太郎は涙をぐい、と手の甲でぬぐいながら言った。明は不服そうに口を閉じた。その双眸は、心配そうに凛太郎を見つめている。 祥は驚いた表情をしていた。 秀信はいつもの通り、冷静な様子だった。眼鏡の奥にある双眸は、ひたと凛太郎を見据えている。その目を凛太郎は怖くて見られなかった。 だが、勇気をふりしぼって顔を上げた。「それで、僕、いつのまにか頭がぼうっとしてきて、気が付いたらーーーー鈴薙さんの腕の中にいたんです。男の人と、そんなことするのって嫌だったはずなのに、なんか……なんか気持ち良くなっちゃって……心が安らぐっていうか……次に、次に気が付いた時には、杉山さんたちがそうなってたように、僕の胸にもあの勾玉が張り付いてたんです。先生も見たでしょう? 」 凛太郎はついにこらえきれなくなって泣き出した。「ぼぼ、僕、僕……僕が全部悪いんですっ!」 そこまで言い終えて、凛太郎は「ごめんなさい!」と叫んでから、土下座した。 明が深く嘆息するのが聞こえた。 冷たいコンクリートにひれ伏しながら、凛太郎はこのまま秀信に蹴り殺されて死んでもいいと思った。 星くずが流れ落ちるのが聞こえるような沈黙が、どれくらい続いただろうか。 凛太郎の体は、あたたかくて大きなものにつつまれた。「せ、先生?」 凛太郎はくぐもった声をあげた。凛太郎の鼻先を、秀信の背広から漂ってくるナフタリンの香りが覆った。秀信の冷たい頬の感触が、涙に濡れた凛太郎の頬を心地よく醒ました。「よしよし」 秀信はやさしく凛太郎の髪をなでた。ちょっと困っているような、それでいていとおしさがにじんだ声だった。「泣くことはない。そして、謝ることもない」「だ、だって先生……僕のせいでみんなが……」 秀信は凛太郎のしゃべり出そうとする唇を封じた。 つづく
2005年01月11日
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「先生……先生は、僕の母さんに会ったことがあるんですよね? もしかして何か思い出とか……」「ーーーーそうだな。私は、お前の母さんとよく一緒に、晴れた日に散歩したものだ。ふたりっきりで、こっそり夜桜見物に行ったこともある。屋敷のものがうるさいのでな」 秀信は、軽く目をとじながら言った。「夜桜の下、お前の母さんは言っていた。綺麗だ、と。もしこんな真っ白な心を、みなが持っていれば、この世には争いなんて起こらないのに……とな」 なぜか、そこで秀信の声は沈んだ。 凛太郎が、秀信になおも質問を続けようとした時、屋上の入り口から、凛太郎を呼ぶ声がした。「おーい、凛太郎。教室の修理やら、みんなの記憶消しやら全部やっといたぞ……何だ、テメェ。凛太郎ちゃんにベタベタしやがって」 鬼から人間の姿に変化していた明は、凛太郎の肩に手を置いていた秀信を見て、まなじりをつり上げた。「貴様! 秀信さまにそういう口の聞き方は…」 祥が立ち上がって、明に抗議しようとするのを、秀信が制する。「いいのだ、祥。このお方は、いにしえの時より凛太郎を守ってこられた鬼神さまなのだからな」「そうですか?」 祥は少し不服そうに、明を横目で見た。明はしてやったりと笑みを浮かべる。「へーんだ、あんた、よくわかってんじゃん。さすがは陰陽師だな。道理で俺の記憶消しの術が効かなかったわけだよ」「お褒めの言葉、ありがたく頂戴する」 秀信は芝居がかった仕草で、頭を下げた。「蒼薙殿。いや、今の名前は”明”なのかな? 我々とともに戦ってくださることをお願いする」「ヤダね」 きっぱりと明は言った。「明……」 凛太郎をさえぎって、明は言葉を続けた。「俺ァ、どうもあんたが気にくわねえ。まあ、もともと陰陽師ってヤツも、権力者の手先みたいな手合いが多くて嫌いなんだがよ。それに、あんたのそのこそこそ裏でかぎまわってるみたいな所が嫌いなんだよ」 明のズケズケとした物言いを、凛太郎はハラハラしながら見守っていた。秀信は落ち着きはらって、明の言葉を聞いていた。 祥は腕組みしながら、明を見やっていた「どうせ蒼薙って俺のもとの名前も、どっかで調べてきたんだろ。そこまでかぎまわってたんだったら、今度の騒動が起こる前に、凛太郎ちゃんを守ってやればいいじゃねえか。凛太郎が鈴薙にはらまされる前によ!」「明!」 凛太郎の悲鳴のような声に、明はさすがに口がすべったと思ったようだった。「ごめん」 明は一言そう言って、うつむいた。「はらまされた……とは?」 祥が怪訝そうにつぶやく。秀信も不思議そうに眼鏡のふちをあげながら、凛太郎に視線を落とした。 凛太郎は、もうこらえきれなかった。頬から涙がしたたり落ちるのを感じた。「せ、先生……。あの、みんなに張り付いていた勾玉っていうのは……僕の子供なんです」 凛太郎は声を震わせながら告白した。 もう、秀信の顔を見る勇気はなかった。 つづく
2005年01月10日
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またもや涙ぐむ凛太郎に、秀信が不意にフッと笑った。「ごめんなさい、僕、男なのに先生の前で泣くだなんて……おかしいですよね」「いや、違うのだ」 秀信は遠い目をして、星空をあおいだ。「お前の泣き顔が母親にそっくりだと思ってな」「母親って? もしかして僕の……母さんのことですか?」 凛太郎の声は大きくうわずった。自分の大声に、祥が驚いた表情をしているのを恥ずかしいと思う余裕もなかった。 凛太郎の母親、清宮明子に関する情報を凛太郎はほとんど知らない。知っているのは明子がホステスをしていたということくらいだ。なぜか明子の写真もほとんど残っていなかった。「ああ」 秀信はうなずいた。「私はお前の母親、清宮明子ーーーー旧姓、弓削明子の従弟だ」 凛太郎は瞠目した。秀信は凛太郎に微笑みかけた。「実は、私は母上のことを調査しているうちに、お前の存在を知ったのだ」 凛太郎は息を飲んだ。「お前のご母堂はーーーー、私は明子さんと呼んでいた。明子さんは、お前の父上との交際を反対され、弓削家を後にされたのだ。家出同然の形でな。たいそう優しく、気品があり、そして強い方だったよ。私のこともよく可愛がってくれた。お前にとてもよく似ている。性格も、容貌もな」 秀信はしばし黙ってから、口を開いた。「お前はご母堂が水商売に手を染めていたということで、杉原などからからかわれて、かなりいやな思いをしていたようだな。だが、気にすることはない。いや、むしろ誇りにしてもいいはずだ。なぜなら、明子さんはーーーーお前の母は、経済的にお前の父親に迷惑をかけたくないとの理由で、結婚までの一時期、ホステスで生計を立てていたようなのだからな。その芯の強さや責任感は本当にお前そっくりだ」 凛太郎の心にたまっていた、母親が水商売をしていたという澱のような劣等感が、秀信の言葉によって、急速に溶かされていった。 つづく
2005年01月09日
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今日は風邪です。 今朝起きたら、喉が痛くなっていて、徐々にひどくなってきてます。 いつも私は帰宅すると、すぐにうがい手洗いをしているのですが、昨日はそれをさぼっちゃったんですよ。 そしたらてきめんにキまして。 やっぱり、うがい手洗いは欠かさずにっていう標語は正しいですね。 でもって、本日のテーマは「風水」です。 約一年前、私は体の具合が原因不明に不調でした。 なんだかわからないけれど、ものすごく疲れやすくなっていて、ちょっと歩いたらすぐ横になってしまう始末。 おまけに感情がたかぶりやすく、ちょっとしたことで落ち込んでは涙してしまう。 頭痛もしょっちゅうやってきます。 病院に行っても、どこも悪いところはないと言われるし、なんとか気分を明るくする方法ってないかなあ、と思って選んだのが風水でした。 だって、インテリアに工夫をこらして、運を良くするなんて楽しいじゃないですか。 そう考えた私は、風水の本を買ってきて、東西南北に指示された通りの色合いのポスターや絵はがきを貼りました。 そして、本が指示する通りに、いつも部屋をきれいにするよう心がけて、掃除をしっかりしました。 窓ガラスも毎日磨いたし、部屋にアロマオイルをたいたりもしました。 で、結果。 お部屋がとっても綺麗で、楽しくなりました。 カラフルなポスターや絵はがきや調度品のおかげで、部屋が明るくなりました。 それくらいでした。 これって、でも運が良くなったって言うんでしょうか? その後、私は入院はするわ、手術はするわであんまり運は良くなかったような……。 まあ、風水を始める前から病気で、手術も一応成功したんで、これは風水のおかげなんでしょうか? 思うに、風水って昔の人の知恵なんだと思います。 運がよくなると思って、掃除をしているとやっぱりはかどりますもんねえ。 掃除って、一日してもすぐに部屋って汚れるから、めんどくさくなりやすいものですし。 インテリアに凝ると、家にいるのも楽しくなるしね。 だから、「こんなもんかなあ」と思ってやるくらいにはちょうどいいのではないかと。 妙な宗教にこるよりはよっぽどいいのではないでしょうか。 それでも占いやジンクス大好きな私は、今度は開運メイクに挑戦したいなあと思っていたりするのでした。 今日は風邪で喉が痛いです。 風邪に効く風水ってないのでしょうか。
2005年01月08日
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「凛太郎様。私どもとともに、巫子としての修行を受けていただけませんか。そして、鬼を調伏していただけないでしょうか」 秀信のまなざしは、真摯に凛太郎に注がれている。それがまぶしくて、凛太郎は視線をそらした。眼下には、夜闇が広がっている。星々の輝きが、凛太郎の目をさしつらぬいた。 祥が深い声で、祈るように言った。「あなたなら、短期間の少しの修行で、前世での能力を取り戻せるはずです。この混迷の世を救ってくださいませ、凛太郎さま」(前世ーーーー前世か) 凛太郎は、胸の内で苦々しくつぶやいた。 前世など迷信だ、とオカルト番組を観て疑っていたころがなつかしい。あのころは自分はただの受験や進路に悩む一介の中学生のはずだった。 なのに今は、世界の平和とやらを自分がしょってたつことになりつつあるのだ。 そして鈴薙も、明も、そして秀信までもが凛太郎の前世とやらの凛姫にひどくこだわっている。 明は一応、「俺は凛太郎のことが好きだから」とは言っている。が、明とて、凛太郎が凛姫の生まれ変わりだから、その出現を待っていたのではないか。(まるで、僕自体はーーーー清宮凛太郎は必要じゃない、って言われてるみたいだ) 遠い星々を見やって、凛太郎は冷えた笑いを浮かべた。 二人の美しい鬼に求愛され、尊敬していた担任教師に跪かれるこの状況は、一見、かつてとは大きく変わったように思える。 だが、彼らは凛太郎が凛姫の生まれ変わりだから、凛太郎を必要としているのだ。 これでは、学級委員としてクラスの雑用を押しつけられてばかりいたころと、さして変わらないのではないか。(だって……だって、みんな僕自体のことを必要としてるわけじゃないんだもん) 凛太郎は、唇を噛みしめた。 黙り込む凛太郎を、祥は勘違いしたようだった。「凛太郎さま。受験勉強の時間が取れなくなることがご心配なのですか? 大丈夫です、わが弓削家は強力な政財界のコネクションを持っております。あなたの将来は、弓削家が責任を持ってーーーー」「べつに嫌なら私たちに協力しなくてもよい。そんなことで私は、お前への好意を失ったりはしないぞ、凛太郎」 不意にいつものように秀信に呼び捨てにされて、驚いて凛太郎は秀信に視線を向けた。秀信は、立ち上がって凛太郎に歩み寄った。 秀信のがっしりとした、大人の男の手が凛太郎の華奢な肩をつつんだ。その手は、とてもあたたかかった。 凛太郎は照れくさいような、嬉しいような気持ちで秀信を見上げた。秀信の秀麗な顔を、星々が冴え冴えと照らしていた。「初めてお前を見た時から、私はお前に魅かれていた。その時はまだ、お前のことを凛姫の生まれ変わりだなどとは知らなかった」 秀信のその告白は、凛太郎には嬉しい驚きだった。目を見開く凛太郎に、秀信は優しく語りかける。「おとなしいが、芯が強く、いつも自分より他人のことを考えている。お前はそんな優しくて、強い目をしていた。本当に強い人間とは、お前のように耐えて他人の礎となることのできる人間なのだと私は思う。そして、お前は学級委員として私の期待通りに働いてくれた。幼稚で自分勝手なクラスメイトを束ねるのは、さぞかし骨が折れただろう、凛太郎?」 秀信は、くしゃくしゃと凛太郎の頭をなでた。そのはずみに、凛太郎の目から涙がこぼれ落ちた。悲しい涙ではなく、喜びの涙だった。自分の地味な苦闘を、秀信はちゃんと見ていてくれたのだ。 秀信は凛太郎の涙を、ズボンのポケットから取り出した清潔なハンカチで丁寧にぬぐった。(まるで先生、僕の保護者みたいだ) 凛太郎ははにかんで笑った。保護者。それは母親に早くに死に別れた凛太郎には甘い響きを持った言葉だった。父親である伸一郎は、決して冷淡ではなく、彼なりの愛情を凛太郎に示してくれた。 だが、いかんせんあけっぴろげで自由主義者の伸一郎と、生真面目で内向的な凛太郎とでは気質が違いすぎた。だから伸一郎は、凛太郎の気持ちを理解した上での言葉はかけてくれなかった。 それを今、秀信は凛太郎にくれているのだ。そんなことをしてくれたのは、今まで鈴薙だけだった。 けれど、鈴薙は鬼だ。人間ではない。しかも凛太郎に子供をはらませ、その子によって自分の野望を遂げさせようという野心を持っていた。 だが、秀信は違う。 凛太郎はそう思った。いや、そう思いたかった。 凛太郎はそう思った。いや、そう思いたかった。 つづく
2005年01月07日
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屋上からは、夜闇に蛍光のように家々の明かりがところどころ輝いて見える。あの明かりには、それぞれ平凡だが穏やかな日常があるのだろう。 今、自分はそういった世界から徐々に離れていきつつあるのかもしれない、と凛太郎は思った。 校舎の裏山あたりから吹く風が、すがすがしく吹いていた。本来なら心地よく感じられるそれも、あんな異常事態を脱出したばかりの凛太郎には少し冷たく思える。 凛太郎の前で、弓削秀信と彼に付き従っている青年はうやうやしく凛太郎にひざまずいていた。 明は後始末に追われていた。ほのかをのぞくクラスメイトの記憶を消したり、少なからず損壊した教室を元通りに直したりといった作業だ。 ほのかの記憶も明は消すつもりだったようだが、それは秀信が止めた。ほのかは巫女の素質があるから、もしかして今後、凛太郎の手助けをしてくれるかもしれないと言うのだ。 明はためらった。が、凛太郎が「藤崎さんは僕を窮地に陥れたりする人じゃないから、信用しようよ。先生もおっしゃることだし」と言うと、納得したようだった。”私を信じてくれて、本当にありがとう!凛太郎くん” あんなひどい目に遭ったばかりだというのに、ほのかは真っ赤になりながら、とても嬉しそうな表情をした。凛太郎は女の子の友達ができたようで嬉しかった。「今まで、あなたに正体を明かすことができず、無礼な態度を取ることになり、誠に相済みませんでした。清宮凛太郎様ーーーーいいえ、”神域の花嫁”よ」 凛太郎にひざまずきながら、秀信は言った。呆然と凛太郎は秀信と、そのお付きの青年を見つめた。 厳しく、優秀な教師だと尊敬していた秀信が、自分にこうしてかしずいているとは凛太郎にとっては信じられなかった。それにどことなく、秀信が自分と一線を引いてしまっているようで悲しい。 凛太郎にとって、秀信はあくまで自分を教え導く敬うべき”弓削先生”なのだ。 戸惑う凛太郎をさしおいて、秀信は言葉を続ける。「私は陰陽師を代々つとめる弓削家の百三十四代目・弓削秀信と申します。この学校で教職をつとめていたのは、あくまで仮の姿。”神域の花嫁”であるあなたをおそばでお護りするためです」 秀信のうつむけた顔は、神聖な像を拝んでいるかのようだった。いつものように、自分を見おろして、叱りつけて欲しい。その方がもっと自分にとっては嬉しいのに、と凛太郎は思った。 秀信に次いで、つややかな黒髪を持つ青年が語り始めた。「私は秀信様に長年おつかえしております、響野祥と申します。巫子様、以後、お見知りおきを」 ついに耐えきれなくなって、凛太郎は抗議の声を上げた。「せ、先生、顔を上げてください! 僕は先生の教え子の一人です。”様”づけにされるなんて……。それに、”神域の花嫁”っていったい……」「”神域の花嫁”とは、伝説に伝わるあなたの前世ーーーー凛姫の別の呼び名です」 秀信に代わって、黒髪の青年ーーーー祥が説明を始めた。祥も、そして秀信もあいかわらず平身低頭したままだった。 凛太郎はなおも抗議したかったが、祥の説明が聞きたかったので、とりあえずは口をつぐんだ。「我々、陰陽師の世界にも、代々、凛姫の伝説は名をとどろかせております。いにしえの昔、あいつぐ戦乱や飢饉に困窮する民を、稀代の巫子である凛姫が、その優れた力を持って助けた、と。そして、凛姫の美しさと優しさに、人々に恐れられる鬼たちも心奪われ、付き従ったと」 祥の言葉を受けて、秀信が語った。「そして凛姫は、この世を去る前に遺言を残したというのです。”この世が乱れ、魑魅魍魎が跋扈する時、私はふたたび生まれ変わってくる、と。私たち陰陽師は、あなたの出現をずっと待っておりました。様々な術を通して、あなたの気を探したものです。そして、私は我が弟、晴信の幻視の力を通して、あなたの存在を知りました。とは言っても、かなりの時間がかかりましたがーーーー。そして私はあるつてをたどって、この学校に教師として赴任したというわけなのです」 秀信の口調は静かだったが、その表情は深い喜びに輝いていた。「”神域の花嫁”っていったい……」 凛太郎の問いに、秀信と祥の表情がかすかに曇った。 だが、すぐに思い直したように秀信は説明した。「神々が花嫁に欲するほど、たぐいまれなる美しさを持っている方、という尊称です」 少し顔を上げて、秀信は微笑んだ。凛太郎は頬が熱くなるのを感じた。 凛太郎にまっすぐなまなざしを投げかけて、秀信は語った。「先ほどの教室での一件のように、今、この国は、相次ぐ自然破壊や人々が神を畏れる心を失いつつあるため、かつてないほど”陰”の気が乱れ始めています。だから、鬼がよみがえり、心に闇を持った人々をたぶらかすのです。巫子様、それを鎮められるのはあなただけです」(違う、鬼がよみがえったのは、僕のせいなんだ) 秀信が自分に向けるまなざしが、今の凛太郎には痛かった。 あの夜、自分がやけを起こして、刀の封印を解いて鈴薙が目覚めたから、こんなことが起こったのだ。 そして、おまけに自分は鬼である鈴薙と交わった。その真実を凛太郎は秀信に告げねばならないと思った。 だが、口の中がカラカラに乾いてしゃべれない。いや、それは逃げだ、と凛太郎は思った。しゃべれないのではなく、しゃべりたくないのだ。尊敬する秀信に、自分の真実の姿を告げて、軽蔑されるのが怖いのだ。 おまけに秀信は、自分を乱世を救う伝説の巫女の生まれ変わりだと期待をかけているというではないか。 その秀信の期待を裏切ってしまうのが、凛太郎にはどうしてもできなかった。 つづく
2005年01月06日
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うっそー、と言われるかもしれませんが、これは現在、業界一般でそうなりつつあるらしいです。 まず、BL雑誌で新人賞を廃止するところが増えてきた。 仮に受賞者が出てきたとしても、滅多に大賞を取らない。 まあ、これは近年の出版不況のせいかもしれませんが、本屋に行ってみると分かることですが、新人さんで本を連続で出せている方って、本当に少ないです。 ある掲示板で統計が取られていたのですが、この二年間で新人作家さんで、本が二冊以上出せている人は十人のうちの一人ほどだそうです。 一時のBLバブルのころに比べると、かなりの生き残り率の低さです。 これはどういうことかと申しますと、BL業界が新人作家を受け入れられる活力を失いつつあるということなのです。 それに実際に書店に足を運んでみて思うのですが、ここのところBLの書棚がジワジワと小さくなっているような気がしませんか? 古本屋さんもBL本をたたき売ったり、買い取らないところが増えていると思います。 たしかにどんなジャンルも盛衰はあるでしょうし、プロ作家として生き残っていくのは大変なことでしょう。 でも、私は今の状況を見ていると、以前起こったファンタジーブームを思い出すのです。 あのころはそれはもう、猫も杓子もファンタジー、剣と魔法が大全盛でありました。 その結果どうなったかというと。 ファンタジーは飽きられて、売れないからなかなか出版できないという状況になってしまいました。 ハリー・ポッターなどはまた別のお話ですが。 ライトノベル業界って、ただでさえ初版しか売れないとか作家さんが使い捨てにされるっていう風評があるんですよね。 私はこれに「ライトノベル業界は焼き畑農業である」という法則をつけたいです。 つまりこのジャンルが売れる! となうったら、もう誰も手に取らなくなるまで、粗製濫造しまくるということです。 これは私の勘違いだと思いたいんですが、今のBL業界を見ていると、どうもそんな気がして仕方がないんですよ。 ベテランさんはあちこちから来る依頼にてんてこまいで、練り込まれていない設定や文章が目立つし、新人さんもこぢんまりまとまってしまっている人が多いような気がします。 このジャンルができたころは、みんなつたないながらも「これが描きたいのよ!」っていう熱気があって、それがまぶしかったんだけど。 今はもう「……こんなもんだよね」といった雰囲気が感じられます。 書く方も読む方も、醒めちゃってるというか。 私、BLが好きなんですよ。 だからこのままズルズルと衰退して、自然消滅みたいな事態にならないで欲しいんです。 まあ、何人かの作家さんは残るでしょうけど。 あ、今回書いた話はすべての作家さんや読者さん、出版社に当てはまることではありません。 けど、なんかそういう感じがして、気になるなあって思ったんです。 みなさんはどう思いますか?
2005年01月05日
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里江の双眸が金色に輝いた。 手下たちが一斉に秀信に襲いかかり、里江自身も秀信に飛びかかった。「先生、危ない!」 前方に立っている明の肩越しに凛太郎は身を乗り出して、秀信に呼びかけた。注意をうながすことしかできない自分がふがいなかった。 秀信は、平然と里江を睥睨していた。 そして、里江に札を投げつけてから、手刀で空間を縦横に切り裂く。「臨兵闘者皆陣裂在前!」 秀信は叫んだ。「うぎゃあああ!」 里江が断末魔のような叫びを上げる。 同時に、里江の胸元に張り付いていた勾玉が青い光を放ちながら、里江から離れた。「おおっと!」 明が跳躍して、勾玉をつかんだ。 里江はバッタリと床に倒れた。途端に、乃梨子を含めた生徒たちも糸の切れた人形のように転倒した。「乃梨ちゃん!」 ほのかが泣きながら、乃梨子に駆け寄った。「大丈夫だ。勾玉の呪縛が解けただけだ。そのうち意識は戻るだろう。まったく、世話の焼ける生徒たちだな」 秀信が、乃梨子を抱きかかえて泣きじゃくるほのかの肩に手を置きながら言った。 眼鏡の奥の双眸は、優しく細められていた。 つややかな黒髪を持つ青年が、秀信にうやうやしく尋ねた。「秀信様。この場はいかにいたしましょうか」「そうだな。まずは皆にケガがないか確認しておけ」「はっ!」 青年はそう返事をすると、手際よく生徒たち一人一人を見て回った。どうやら医療の知識もあるらしく、外傷の点検も手慣れていた。「ね、ねえ、明……。この……この子、僕どうしたらいいの?」 明に授けられた勾玉を、大切そうに手のひらに包み込みながら凛太郎は訊ねた。明はそんな凛太郎を微笑ましそうに見つめてから、首をひねった。「おかしいな。そろそろ孵化してもいいはずなんだがよォ。そしたらパパっとお前が呪をかけたら、お前の言うことを聞くようになる」「言うことを聞くだなんて……僕は、この子に他人を襲わせたりなんかさせないようにしたいだけなんだ」 凛太郎はそう言いながら、手のひらの上の勾玉を見た。勾玉はぬるりと暖かく、そのぬくもりはなぜだか凛太郎の心を震わせた。 見た目は気味の悪い軟体動物のはずなのに、凛太郎はこの生物がいとおしくてならなかった。すでに名前は考えてある。 あれやこれやと名前を思案している間、凛太郎は楽しくてならなかった。明が伸一郎の記憶を操作して、凛太郎の子供を姪っ子か何かだと思わせておく予定だった。 それでも、鬼である鈴薙の間にできた子供がごく普通の子供と同じであるはずがない。ましてや凛太郎はわずか十五歳であり、そして男である身の上で母親となるのだ。どう考えても未来は波乱含みだった。 それは重々承知している。それに凛太郎は心配性で思い悩む性質だった。 けれど、子供のことを考えると、胸がふわっと優しくなごんでくるのである。 その子供が、孵化どころか、あのぎょろりとした目も閉じていることに凛太郎の胸は痛んだ。「……もしかして、この子、死んじゃってるんじゃーーーー」 凛太郎の視界は、涙でぼやけた。 凛太郎の涙を見て、明はあわてふためいた。「な、泣くなよ、凛太郎。子供だったら俺がまた作ってやるからよ」「そういう問題じゃないだろ!」 凛太郎が明に食ってかかろうとした時、凛太郎の頭を大きな手がつつみこんだ。「他人に八つ当たりするのは感心しないぞ、凛太郎」「先生!」 秀信は、凛太郎の頭をくしゃくしゃと撫でた。明は憮然として秀信をにらみつける。「どうやらその御子は何らかの理由で、成長するのをためらっているのだ。命を落としてはいない。気で分かる。安心しろ」 秀信に微笑みかけられて、凛太郎は安堵で体中のこわばりが抜けていくような気がした。 秀信は気味悪がる様子などみじんもなく、凛太郎がいだいている勾玉に視線をよこした。「お前が心配しなければいけないのは、その御子を鬼がさらいに来ることだ」「先生、どうしてそんなことを……」 戸惑う凛太郎に、秀信は眼鏡の縁を持ち上げながら言った。「その話は後だ。まずはこの状態をなんとかしなければな」 秀信の言うとおり、倒れている生徒で埋め尽くされた教室は、乱闘後でひどいありさまになっていた。「お前、やっぱりただの人間じゃなかったな」「私はお前も鬼だということに気づいていたよ、木原」 秀信の切り返しに、緑色の髪をした鬼はあっかんべえをした。 つづく
2005年01月04日
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凛太郎が魔物と化した生徒たちに、まさに襲いかかられようとした刹那。 一陣の疾風が、凛太郎に吹いた。 と思いきや、それは人影で、その人影は凛太郎を横抱きにして、魔手から救ったのだった。「隙が多いな、凛太郎」 その人物は、凛太郎にからかうような声をかけた。細いが、しっかりと筋肉のついた腕につつみこまれながら、凛太郎は目を見開いた。「先生? 弓削先生っ?」 弓削秀信は、驚く凛太郎に微笑みかけた。 眼鏡の奥の鋭い双眸が、めずらしく細められている。「先生……どうしてこんなところに?」「説明は後だ。今はあやつらを何とかせねばな」 秀信はそっと凛太郎を床の上に下ろした。 凛太郎は熱にうかされたように、ぼうっと里江に向かって進み出す秀信を見ていた。 いつものスーツ姿で、勾玉に取り憑かれた里江たちに立ち向かう秀信は、不思議な魅力に満ちていた。混沌とした異世界に、しっかりとした常識をたずさえて、大人の男がやってきたようなたたずまいだった。「おい、凛太郎! ぼーっとしてっと、また襲われンぞ。こっち来いよ」 明が不機嫌な声を上げて、凛太郎を手招きした。「うん、そうだね……」 生返事をしつつ、凛太郎は秀信に目を向けたままだった。 秀信が現れてから、里江とその配下たちは静止してじっと秀信の様子をうかがっている。 先ほど現れた凛然とした青年も、あまたの信頼をたたえて、秀信を見つめている。(先生って、なんだかよくわからないけどすごい人なんだ) 凛太郎はぼんやりと思った。凛太郎と同じ世界に秀信は生きているらしい。鬼や妖魔といったたぐいのものと関わりのある世界に、だ。 だが秀信は、明のみを頼りとしている凛太郎と違って、自分の足でその世界に立ち、なおかつ鬼たちと渡り合っているらしい。 教師として秀信を尊敬していた凛太郎はさらに秀信を敬愛するようになりつつあった。 凛太郎は、秀信に注目したまま、明の元に戻った。 明が忌々しげに舌打ちしたのにも、凛太郎は気づかなかった。「先生……」 秀信に見据えられた里江が、急にしおらしく泣き出した。「助けてください、私、本当はこんなことしたくないんです」 やや驚いたように、秀信は眼鏡の奥の目をすがめた。「私、私……明くんのことが好きで、いつも清宮くんと一緒にいる明くんがうらやましかったんです。おまけに清宮くんは勉強もよくできる優等生で、不良でできそこないの私とは全然違うし……」「杉原さん、そんなこと考えてたの?」 思わず、凛太郎は驚きの声を上げた。隣にいるほのかもびっくりしているようだった。明だけは少し照れくさそうに肩をすくめている。 凛太郎からすれば、里江はいつも自信に満ちあふれていて、自分を小馬鹿にしているように見えた。 言いたいことをズケズケ言う、キツい性格の里江ならば、自分のように面倒な仕事を押しつけられないだろう。そう考えて、凛太郎は里江をうらやましがったこともあった。 その里江が、自分をねたんでいたとは。 凛太郎にとっては、青天の霹靂だった。 しくしくと泣きながら、里江は言葉を続ける。「清宮くんのことを考えるたびに、私はイライラして、どす黒い気持ちになっていったんです。そうしたら、どこかから”鈴薙”って名乗る男の人の声が聞こえてきて、いつのまにか私の胸にこんなものが……」 胸元の青い勾玉に、里江はおずおずと手を置いた。患者が患部をかばっているような痛々しさがあるしぐさだった。「大丈夫だ、杉原。私が祓ってやる」 秀信は、深くうなずいた。 途端に、里江が不敵な笑みを浮かべた。「かかったわね、先生!」 つづく
2005年01月03日
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ダンナに連れられて、新年早々、観に行って参りました。 ダンナはこの映画の監督であり、主演でもある周星馳(”不夜城”などで知られる作家の馳星周のペンネームはここからもじったそうです)の前作「少林サッカー」がサウンドトラックを買うほど好きでありまして、ダンナのたっての希望でこの映画を2005年度初めて観る映画に選びました。 私としては、「ミスター・インクレディブル」も捨てがたかったんですが、まあ、家長であるダンナに譲ったわけです。 私も「少林サッカー」嫌いじゃないしね。 余談ですが、私とダンナの映画の好みは「合わないってわけでもないけど、合うってわけでもない」といったところです。 私はヨーロッパ映画の観た後、考えさせられるような作品も結構好きだけど、ダンナはひたすら笑えて観た後、スカっとする作品が好き。 夫婦二人で「これは面白い!」といった映画って「ブリジット・ジョーンズの日記」や「千と千尋の神隠し」などです。 「面白くない!」っていう映画はたいてい一緒なんだけどね。 ちなみに今、私たち二人は氣志團が結構いいなあ、と思っています。 あの笑いのセンスがツボに入っているのです。 さて、「カンフーハッスル」本編の感想。 汚らしい……。 というのが、第一の印象でした。 平和なスラム街にギャングの手が伸び、それを守るために勇者たちが戦う、という王道中の王道な作品なのですが、このスラム街の汚らしさが白眉です。 あらゆるところの水が濁っていて、湿気がいっぱいで、観ているだけで臭気が漂ってきそうです。 いや、ほめてるんですよ。 こういう設定って、やよもすると、生活感のまるでない書き割りみたいな画面になりがちなんですが、もうリアリティバッチリです。 この街に住んでいる人がどういう生活を二十四時間送っているか類推できるほどです。 でもって、細部の描写がまた汚らしいんですよ。 部屋の隅で意味もなく用を足している人がいたりとか(これって、あそこにはトイレもないほど貧しいという描写なのでしょうか?)、子供の青っぱながリアリティあふれる垂れ方だったりとか。 私は香港に一度だけ行ったことがあるのですが、なんとなくこの映画に雰囲気が似てるんですよね。 すすけてて、エネルギッシュで、ちょっとうさんくさい。 香港といえば「攻殻機動隊」や「ブレードランナー」を思い出す映画ファンの方も多いでしょうが、あれは外側から観た香港かな、と思います。 実際はこっちの方が近いんじゃないでしょうか、雰囲気として。 もちろん香港全土じゃないですよ。一部の地域は、です。 この映画の面白いところは、そのスラム街で下品な会話をかわしているだけで終わりそうな人物が、実はその下品な会話も伏線で、「あ!」と驚く活躍をしてくれるところです。 ちゃんとギャグが本編とからみあってるんですよね。 そこが、さすが世界公開される映画だなあと思わせてくれます。 私はこういう映画、嫌いじゃないです。 でも、「少林サッカー」と違って、人の生死がかかってくる展開なだけ、血も出てくるし、結構残酷な描写も多いので観る人を選ぶかも。 ものすご~く濃い吉本新喜劇、みたいなノリの映画です。
2005年01月02日
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(そうだ、あの時の……) 凛太郎は思い出した。一週間ほど前、境内の掃除をしている時に、栗色の髪をした少年とともに自分に道をたずねて来た青年だった。「私のことを覚えていてくださいましたか、凛太郎さま」 青年は垂れた目を細めて笑った。「また変なのが出てきやがったぜ。お前、普通の人間じゃねえな」 明がぼやいた。青年はやわらかに明に微笑みかけた。緑色の髪をした鬼を見ても、青年は少しも動揺した様子を見せなかった。「どうして僕の名前を……」 凛太郎が問おうとした時だった。「うわあああ!」 青年が悲鳴を上げた。生徒たちが束になって、青年に襲いかかったのである。 里江の額から青年の貼ったお札がはがれていた。どうやら、里江の手下たちがはずしたらしかった。「明! この人を助けてあげて!」「そんなこと言ったって凛太郎。こっちだってもう手一杯だぜ」 不平の声を上げつつも、明は青年をかばって、青年に噛みついていた生徒をなぎはらおうとした。 その隙に、ガードが甘くなった凛太郎とほのかを襲おうと、別の生徒たちが二人にいどみかかる。「きゃあああ!」 腕をつかまれて、ほのかが悲鳴をあげた。「藤崎さん!」 凛太郎はほのかを守って戦おうと、その生徒を振り払おうとしたが、いかんせん凛太郎は非力だった。いともたやすく、その生徒に腕を取られた。 里江の配下たちが凛太郎に群がってきた。「そのまま私のところに連れてくるのよ! 鈴薙さまの元に連れて行くんだからね!」 里江が勝ち誇ったように笑った。「凛太郎さま!」「凛太郎!」「清宮くん!」 青年と、明と、ほのかがおのおの必死で凛太郎の名を呼んだ。 つづく
2005年01月01日
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