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2005年01月10日
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カテゴリ: 小説
「先生……先生は、僕の母さんに会ったことがあるんですよね? もしかして何か思い出とか……」

 秀信は、軽く目をとじながら言った。
「夜桜の下、お前の母さんは言っていた。綺麗だ、と。もしこんな真っ白な心を、みなが持っていれば、この世には争いなんて起こらないのに……とな」
 なぜか、そこで秀信の声は沈んだ。
 凛太郎が、秀信になおも質問を続けようとした時、屋上の入り口から、凛太郎を呼ぶ声がした。
「おーい、凛太郎。教室の修理やら、みんなの記憶消しやら全部やっといたぞ……何だ、テメェ。凛太郎ちゃんにベタベタしやがって」
 鬼から人間の姿に変化していた明は、凛太郎の肩に手を置いていた秀信を見て、まなじりをつり上げた。
「貴様! 秀信さまにそういう口の聞き方は…」

「いいのだ、祥。このお方は、いにしえの時より凛太郎を守ってこられた鬼神さまなのだからな」
「そうですか?」
 祥は少し不服そうに、明を横目で見た。明はしてやったりと笑みを浮かべる。
「へーんだ、あんた、よくわかってんじゃん。さすがは陰陽師だな。道理で俺の記憶消しの術が効かなかったわけだよ」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴する」
 秀信は芝居がかった仕草で、頭を下げた。「蒼薙殿。いや、今の名前は”明”なのかな? 我々とともに戦ってくださることをお願いする」
「ヤダね」
 きっぱりと明は言った。
「明……」
 凛太郎をさえぎって、明は言葉を続けた。「俺ァ、どうもあんたが気にくわねえ。まあ、もともと陰陽師ってヤツも、権力者の手先みたいな手合いが多くて嫌いなんだがよ。それに、あんたのそのこそこそ裏でかぎまわってるみたいな所が嫌いなんだよ」
 明のズケズケとした物言いを、凛太郎はハラハラしながら見守っていた。秀信は落ち着きはらって、明の言葉を聞いていた。

「どうせ蒼薙って俺のもとの名前も、どっかで調べてきたんだろ。そこまでかぎまわってたんだったら、今度の騒動が起こる前に、凛太郎ちゃんを守ってやればいいじゃねえか。凛太郎が鈴薙にはらまされる前によ!」
「明!」
 凛太郎の悲鳴のような声に、明はさすがに口がすべったと思ったようだった。
「ごめん」
 明は一言そう言って、うつむいた。

 祥が怪訝そうにつぶやく。秀信も不思議そうに眼鏡のふちをあげながら、凛太郎に視線を落とした。
 凛太郎は、もうこらえきれなかった。頬から涙がしたたり落ちるのを感じた。
「せ、先生……。あの、みんなに張り付いていた勾玉っていうのは……僕の子供なんです」
 凛太郎は声を震わせながら告白した。
 もう、秀信の顔を見る勇気はなかった。

                  つづく





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最終更新日  2005年01月10日 23時01分40秒
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