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2005年05月29日
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カテゴリ: 小説
 いや、どちらかというと普通よりおとなしいタイプの女だった。一重まぶたの細い目にはいかにも気弱そうな光が宿っていたし、猫背気味なやせた体が彼女のおどおどとした雰囲気をいっそう引き立てていた。

 それは唇と鼻と額に入れられたピアスだった。
 唇のピアスにいたっては五センチほどの長さがあり、その銀色の棒は重力に従って垂れ下がっていた。私はそれを見て、中学生のころに部屋に飾ってあった外国製の風鈴を思い出した。こんな重たそうなものをつけていて、ちゃんとしゃべれるのだろうか。
 彼女は即座に私の疑問に答えてくれた。
「いらっしゃいませ。今日はどうなさいますか?」
 彼女のせんぴょうしつな風貌によく似合ったか細い声だった。それでもちゃんと話せるんだ、と私は妙なところで感心した。
 私は彼女にすすめられるまま、革張りのソファに腰を下ろしてから言った。
「あの……ピアス、入れたいんですけど」

 私はためらった。やはり無難にここは耳たぶ、とでも言うべきだろうか。目の前にいる店員はやはり私にとっては異界の住人だった。
 なんとなくここで本来の要望を出してしまうと、私はもう引き返せないところに来てしまうような気がする。
 だが、そこで私は思った。
 引き返すって、どこに?
 また明日から出勤して、生徒たちにいじめられるのだろうか。ピアスひとつ入れられない勇気のない、さえないおばさんと陰口をたたかれるのか。そして一ノ瀬と少年Aの関係に口をはさむこともできず、黙々と少年Aの作った料理を食べるのか。
 私は口を開いた。
「乳首です」
 店員は少し驚いた目をした。私は恥ずかしいと同時に、ほこらしい気分になる。
 私はこの女の予想を裏切ってやったんだ。そう、私はおとなしくて地味な女に
見えるけど、本当は乳首にピアスを入れたがるような女なのよ。
 店員はなぜかにっこり笑った。単なる営業スマイルでは片づけられないような、

「少々お待ちください。カタログをお持ちいたします」
 店員はそう言い終えると、唇と耳のピアスを揺らしながら、店の奥へと消えていった。
「お客様がご希望のニップルピアスはこちらになっておりますが」
 店員はそう言いながら、分厚いバインダー式のカタログを開いた。乳首のピアスって、ニップルピアスって言うんだ。そういえば英語で乳首はニップルだって昔習ったな。私は妙なことを思い出してひとりでうなずいた。こういうことを考えることで、緊張が少しだけほぐれていくような気がする。
 店員は写真がたくさんバインドされたページをめくって、そのうちの一ページを私の前に開いた。

「どういったデザインがよろしいですか?」
 私は身を乗り出して、テーブルの上に置かれたバインダーをのぞきこんだ。
 思ったよりそれは嫌悪感や違和感を私に与える写真ではなかった。
 丸い金属の輪っかがいくつもそこには並んでいた。
 ただ普通のピアスと違うのは、そのどれもが中央に大きな丸球がついていることだった。私はそれを指さした。
「あの、これって……」
「ああ、それですか。ストッパーっていうんですよ」
 店員は得意げに説明を始めた。さっきは物怖じしていた細い目がいきなり生き生きとした輝きを帯び始める。
「ストッパーって?」
「留め金です。だってそうしないと、ニップルからピアスがはずれちゃいますから」
 そこで店員はいったん話すのをやめて、口端をいじった。どうやら口につけたピアスがずれたらしい。やはりこれだけ大きいピアスを口につけていると、いろいろと勝手の悪いこともあるようだった。食事している時ははずすのだろうか。
 店員は背筋をしゃん、とのばして気を取り直したように言葉を続けた。
「ニップルは耳たぶと違って、はっきりとした凹凸がないからはずれやすいんです。特にアジア人種は欧米人種に比べて、乳首が小さい人が多いからよけいストッパーは重要なんです。うちで扱ってる商品はアジア人種用に作られてますから、とってもはずれにくいですよ」
 まるでわが社の製品は業界一です、というような口調だった。
 私はかえって現実味が沸かなくなった。
 キャプティブビーズリング、バーベル、レジェントジュエル。気取った横文字の名前がつけられたピアスの数々を見ていると、これが人の乳首を食い破ってつけられるものだとはとても思えなかった。
 なんだか肩すかしをされたような気分までする。これではボディピアスはおしゃれの一種で、私はそんなものに自分が変われるきっかけを見いだそうとしていたのか。
「どうしました?」
 気抜けした視線をカタログに向け続ける私に、店員がけげんそうに声をかけてきた。
 顔を上げると、店員の棒がぶらさがった唇がへの字に曲がっていた。
「お客さん、ひょっとして怖じ気づいたんですか?」
 店員は笑いながら言った。私はその無礼な言葉に怒るより先に驚いていた。この気弱そうな娘に、こんな口を叩ける度胸があるとは思わなかったからだ。
 そう考えて黙っている私に、店員は苛ついたように言葉をなげかけてきた。
「ピアスってちょっと流行だから入れてみようかな~、なんて思っただけだったりして? あ、でももしそうだとしたら、普通のアクセサリーショップへ行けばいいだけの話で、うちみたいな濃い店には来ませんよね? ひょっとして、変態をからかいに来ただけとか?」
「違います!」
 私は無意識のうちにそう叫んでいた。がらんとした店内に、私の声は響き渡る。
 店員は細い目を見開いて、私を見ていた。
「……違うわ」
 私は自分の気持ちを確認するように、もう一度言った。
 ややあって店員がふたたび皮肉っぽい笑顔を浮かべて問い直してくる。
「じゃあ、どうして?」
「自分を変えたかったから」
 私は即答していた。
「ピアスを入れたくらいで、自分を変えられると思います? 今時、ピアスなんて
女子高生の間じゃ制服の一部みたいなもんですよ」
「だから乳首に入れるのよ」
 私の答えに店員は口をつぐんだ。何かを考えるように首をひねりながら、口端のピアスを指でいじる。
 店の外側から、風俗店の呼び込みをしている声が聞こえた。





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最終更新日  2005年05月30日 20時12分46秒
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