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2006年01月21日
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カテゴリ: ショートショート
 その昆虫の輝きは、星のまたたきのようだった。
「綺麗……」
「駄目だよ、触っちゃ。地球外生物なんだから、どんな害毒を持っているとも限らない」
 翼はそう言いながら、昆虫に触れようとする美里の手を押しとどめた。美里の手のぬくもりを感じた途端、あわてて手を離す。
(まったくなんてことだ。中学生のガキじゃあるまいし。俺はもう二十六歳の大人なんだぞ)
 翼は自嘲する。この宇宙科学研究所で、翼と美里は四年間ともに働き続けていた。女性らしい気遣いを見せながらも、仕事をてきぱきとこなす美里に翼が惹かれて、ずいぶん長い時間が経つ。それなのに翼は、美里を食事に誘うことすらできなかった。うっかり自分の思いを告白して、仲の良い同僚ですら居続けられなくなることが怖いのだ。
(もしこの世にテレパシーなんぞがあったら、とっくに俺は彼女に気持ちを伝えられているのになあ)
「ごめんなさい、私がうかつだったわ」
 そう素直に反省する美里の端正な横顔を見つめながら、翼は胸の内でごちた。

 数週間前、A惑星で発見されたラピスは宇宙飛行士によってこの地球へ届けられた。A惑星は高い文明を持った生物が生息していた痕跡のある星だった。何らかの原因で、A惑星の文明は滅びてしまったようだが、このラピスを発見できただけでも今回の探索は大きな収穫だった。
 しかもこの二匹は雄と雌だった。つまり繁殖するかもしれないのだ。この美しい生物がどんなふうに命をつなげていくか、翼と美里は大いに注目していた。
 実際、先ほど二匹のラピスは交尾を終えたところだった。好意を持つ女性と昆虫の生殖行為を観察するのは、なかなか刺激的な経験だった。
「この二匹は、どんな幼虫を産むのかしらね。楽しみだわ」
 少女のように顔を輝かせる美里を、翼はラピスに負けないほど美しいと思った。

 数日後、両親の命と引き替えるようにして生まれたラピスの幼虫たちは、お世辞にも美しいと言えなかった。
 両親とは打って変わった地味な灰色で、芋虫そっくりだった。地球上に食べられるエサはあるのかという懸念はあっけなく終わった。ラピスは光合成するのである。ラピスが動く植物であるという事実は、翼たちを驚嘆させた。
 数ヶ月後、幼虫は小さな口から糸を吐き出し始めた。
「まるでカイコみたいね」
 美里は糸の美しさに目を見張りながら、つぶやいた。
 その糸は、成虫の羽根と同じ瑠璃色だったのだ。やがて幼虫はその糸で繭を作り、中にこもった。

「な、何だ……誰かCDでもつけてるのか?」
「違うわ……この繭が音楽を奏でてるのよ!」
 繭に耳を近づけて、美里が叫ぶ。
 翼も同じようにした。本当だった。二人がそれぞれ手にした繭から、音楽が流れているのだ。ピアノの音色よりも澄んでいて、バイオリンのそれより優しい、聴く人の心を和ませずにはいられない音楽だった。
「ねえ……」

「翼さん、私のことをどう想ってるの?」
「どうって……君と同じようにだよ」
 かすれた声で翼が答える。
 いつしか、二人はどちらからともなく抱き合っていた。ガラスケースに戻された瑠璃色の繭だけが、それを見守っていた。

 研究の結果、ラピスの吐く糸は人の体温に反応し、その人物の脳波を音楽にするということが判明した。
 つまり、翼と美里の互いに秘めた好意が脳波に現れて、それをラピスの糸が音楽にしたのである。その優しい旋律は、恋心を彷彿とさせるものだった。それに美里と翼は気づいたのだ。ラピスの音楽が二人を結びつけたのだった。
「これは人類にとって、画期的な発明かもしれない」
 宇宙科学研究所・長官は高らかに宣言した。
「このラピスの糸のおかげで、人類は愚かな争いから解放されるかもしれんのだ。お互いの考えていることが音楽で表現されるのだからな」
 幸い、ラピスは繁殖力も旺盛だった。続々と幼虫が生まれ、彼らの吐く糸は試験的に衣服の原材料として使用されることになった。それは美しい瑠璃色の布地となり、試着することになった研究所の職員たちを喜ばせた。
 その服を試着したものは、他者といさかいをすることがなくなった。服を着た人間の感情が音楽となって流れるのである。喜び、怒り、悲しみを忠実にその音楽は表現した。それを聴いているだけで、相手の気持ちを全員が共有して、共感できるのである。
 一種のテレパシーがここに成立したのだ。
「人類は分かり合えるかもしれないわね」
「そうだよ、僕と君のように」
 恋人同士になった翼と美里はうっとりと見つめ合った。美里は瑠璃色の服を着ている。ラピスの糸で作られた服だ。美里の周囲には、美しい音楽が奏でられている。もちろんそれが表現するのは「愛情」だ。
「あなたも早くこの服を着ればいいのに」
「僕もそう言いたいところだけれど、なかなかオーダーが間に合わなくてね。何だったら君の服をここで脱いで僕に着せてくれるかい?」
「もうっ、いやらしいわね!」
 美里はわざとふくれっつらをして翼をにらんだ。翼は美里に唇を近づける。
 幸せな時間はいつまでも続くと思われた。
 だが、急に美里が倒れた。
「うっ……」
「どうしたんだ、美里!」
 あわてて翼は、美里を抱き起こした。いつも生き生きとした光を放っている美里の瞳は、どろりと濁っていた。
「美里っ?」
 翼は叫びながら、美里を揺さぶった。

 精密検査の結果、美里の脳細胞はかなりの数が破壊されていることが分かった。
 それはラピスの服を着続けた他の研究所職員と同じ症状だった。
 ラピスの糸は、人の脳細胞を美しい音楽にする。だが、それは同時に脳細胞を破壊する行為でもあったのだ。
 もしかしてA惑星の文明が滅びたのは、ラピスの糸で作られた服を皆が
着続けた結果ではないのか……。
「美里」
 うつろな視線を天井に向けて、ベッドに横たわる美里の手を握りしめながら翼はささやく。
「もし君の意識が戻ったら、僕はちゃんと言葉にして告げるよ。君を愛してる、ってね」
 美里が薄く微笑んだような気が、した。


                            END








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最終更新日  2006年01月22日 01時16分23秒
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