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湘中憶歸 劉長卿終日空理棹、經年猶別家。頃來行已遠、彌覺天無涯。白雲意自深、滄海夢難隔。迢遞萬里帆、飄■(「楓」の「木」と「搖」の右側を入れ換えた字。ヨウ)一行客。獨憐西江外、遠寄風波裏。平湖流楚天、孤雁渡湘水。湘流澹澹空愁予、猿啼啾啾滿南楚。扁舟泊處聞此聲、江客相看涙如雨。【韻字】家(平声、麻韻)・涯(平声、佳韻)。隔・客(入声、陌韻)。裏・水(上声、紙韻)。予・楚(上声、語韻)・雨(上声、麌韻)。【訓読文】湘中にして帰らんことを憶ふ。終日空しく棹を理め、年を経れども猶ほ家に別れたり。頃来(このごろ)行くこと已に遠く、弥(いよいよ)天の涯(はて)無きことを覚る。白雲意自から深く、滄海夢隔て難し。迢遞たり万里の帆、飄■(ヨウ)たり一行の客。独り憐ぶ西江の外、遠く寄す風波の裏(うち)。平湖楚天に流れ、孤雁湘水を渡る。湘流澹澹として空しく予(われ)を愁へしめ、猿啼啾啾として南楚に満つ。扁舟泊る処此の声を聞き、江客相看て涙雨のごとし。【注】乾元二(七五九)年秋、左遷されて南巴に赴く途中の作。○湘中 湖南省湘江流域中部の長沙市あたり。○憶帰 故郷に帰ることをふ。終日空しく○理棹 舟の櫂を操る。○経年 何年も経過する。○猶 依然として。○頃来 このごろ。○弥 ますます。○涯 はて。○白雲 空に浮かぶ白い雲。自由なもののたとえ。○滄海 青海原。○迢遞 遥かに遠いさま。○万里 非常に遠い距離。○飄■(ヨウ) さすらうさま。○一行客 一緒に旅に出た一団の旅人。同船者であろう。○西江 雲南省沾益県馬雄山に発する川。珠江の主流。作者の左遷される潘州南巴県は西江の南にある。○風波 強い風と荒い波。○平湖 楚天に流れ、孤雁湘水を渡る。○湘流 湘水の流れ。○澹澹 水が揺れ動くさま。○猿啼 サルの鳴き声。○啾啾 鳴き声のさびしくあわれなようす。○南楚 長江中下流流域一帯。戦国時代に楚の国があった。○扁舟 小舟。○此声 カリやサルの声。○江客 川を旅する者。○涙如雨 雨のようにぽろぽろと涙が流れる。【訳】湘中においていつか故郷に帰ることを夢みる詩。一日舟で川くだり、故郷はなれて、はやいく年。このごろ左遷の目に遇って、さらに故郷が遠くなり、ますます天に果ての無いこと実感することよ。わが身が空の雲ならば遠い故郷もひとっ飛び、青い海原ひろがれど帰郷の夢は忘られず。遥か遠くを目指す舟、波にゆられてさすらわん。ああ西江のかなたへと、向かう我が身は強風と荒波の立つその中ぞ。平湖流れるそのむこう、楚国の空は広がって、折しも一羽のカリガネが湘水の上を飛び渡る。湘江流れゆらゆらと私の心しょんぼりと、猿の鳴き声キイキイと寂しさ添えて楚に響く。わが乗る小舟泊るとき岸の猿声、空の雁その鳴き声は悲しげで、舟の一行お互いに顔見合わせて泣くばかり。
June 28, 2008
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送杜越江左覲省往新安江 劉長卿去帆楚天外、望遠愁復積。想見新安江、扁舟一行客。清流數千丈、底下看白石。色混元氣深、波連洞庭碧。鳴■(「木」のみぎに「良」。ロウ)去未已、前路行可覿。猿鳥悲啾啾、杉松雨聲夕。送君東赴歸寧期、新安江水遠相隨。見説江中孤嶼在、此行應賦謝公詩。【韻字】積・客・石・碧・覿・夕(入声、陌韻)。期・随・詩(平声、支韻)。【訓読文】杜越を江左に覲省しに新安江を往くを送る。 去帆楚天の外、望遠愁ひ復た積もる。想ひ見る新安江、扁舟一行の客。清流数千丈、底下白石を看る。色は元気を混じて深く、波は洞庭に連なりて碧し。鳴■(ロウ)去りて未だ已まず、前路行きて覿(み)るべし。猿鳥悲しくして啾啾、杉松雨声の夕べ。君を送れば東のかた帰寧に赴くの期、新安江の水遠く相随ふ。見説(きくならく)江中孤嶼在りと、此の行応に賦すべし謝公が詩。【注】○杜越 劉長卿の友人らしいが、未詳。○江左 江東。○新安江 浙江の上流。安徽省黄山に発し、浙江省に入り、蘭渓と合流して海に注ぐ。○扁舟 小舟。○洞庭 洞庭湖。○■(ロウ) 漁師が魚を網に追い込むときに、ふなばたを叩いておどろかせる棒。○啾啾 鳴き声を形容する語。○帰寧 帰省して両親を安心させる。○見説 きくところによると。○孤嶼 孤島。○謝公 南朝宋の詩人謝霊運は浙江省温州市の北の甌江中の孤嶼で遊んだという。【訳】江左にて杜越が実家へ帰省のため新安江をくだって行くのを見送る詩。 君を乗せたる帆かけ船楚天めざして今ぞ去る、遠く眺むるわが心あらたに愁いわきおこる。新安江を想ひ見りゃ、君は小舟に身をまかす。清き流れはどこまでも、川底を見りゃ白い石。川の水色深ぶかと、末は洞庭波碧し。船端たたく棒鳴らしその音いまだ鳴りやまず、行く先前路行きて覿(み)るべし。猿の叫びや鳥の声もの悲しくしてやりきれず、杉や松の枝ふりかかる雨音さびしこの夕べ。君が東へ帰省するその姿をば見送れば、新安江の水はただ君のあとをばしたいゆく。人から聞いたところでは江中ひとつ島在りと、旅の途中でその島を詩に詠み我に送るべし。
June 22, 2008
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王昭君歌 劉長卿自矜嬌艷色、不顧丹青人。那知粉繪能相負、卻使容華翻誤身。上馬辭君嫁驕虜、玉顏對人啼不語。北風雁急浮雲(一作清)秋、萬里獨見黄河流。纖腰不復漢宮寵、雙蛾長向胡天愁。琵琶弦中苦調多、蕭蕭羌笛聲相和。誰憐一曲傳樂府、能使千秋傷綺羅。【韻字】人・身(平声、真韻)。虜・語(上声、語韻)。秋・流・愁(平声、尤韻)。多・和・羅(平声、歌韻)。【訓読文】王昭君の歌。自ら嬌艶の色を矜り、丹青の人を顧みず。那ぞ知らん粉絵の能く相ひ負き、卻つて容華をして翻つて身を誤たしめんとは。馬に上り君を辞して驕虜に嫁し、玉顏人に対して啼きて語らず。北風雁急にして浮雲(一に「清」に作る)秋なり、万里独り見る黄河の流るるを。纖腰も復らず漢宮の寵、双蛾長く胡天に向かひて愁ふ。琵琶の弦中苦調多く、蕭蕭たる羌笛声相和す。誰か憐ぶ一曲楽府に伝へ、能く千秋に綺羅を傷ましむるを。【注】○王昭君 前漢の元帝に仕えた宮女。匈奴の王が美女を嫁に求めたとき、多くの宮女を画家に描かせ、その絵の中から醜い女を選んで匈奴の王に与えようとしたが、王昭君は後宮一の美女であったので画家に賄賂をやらず、かえって醜く描かれ、匈奴の王に嫁した。○嬌艶 かわいらしげで、かつ、優美。○丹青人 画家。○那知 どうして知ろう?いや、知るはずもなかった。○らん粉絵の能く相ひ負き、○卻 あべこべに。○容華 顔かたちの美しさ。○翻 あべこべに。○誤身 人生を狂わせる。○辞 別れを告げる。○驕虜 調子にのっている野蛮人。○玉顏 美しい顔。○浮雲 空を漂う雲。○万里 非常に遠い土地。○纖腰 腰がくびれて美しいスタイル。○漢宮 漢の宮中での天子の寵愛。○双蛾 蛾のような美しい眉毛。○胡天 北方の空。○琵琶 ペルシャ・アラブの西域のほうから漢代に中国に伝えられた楽器。胴はナス形で、もと五弦。現在は四弦で、撥を使わず爪で弾く。○蕭蕭 ひっそりとしいてものさびしいようす。○羌笛 中国北西部にいた羌族の吹く笛。もの悲しい音色として詩によまれることが多い。○誰憐 誰がしみじみと感動するだろうか。○楽府 漢代に音楽のことを掌った役所。○綺羅 美しい着物を着た美女。【訳】王昭君の歌。おのが容色すぐるるを誇りて、画家を軽んずる。知らぬ間に顔かたち醜きさまに描かれて、かえって北のえびすの地、骨を埋づむる身となりぬ。馬の背中にゆられつつ天子に別れ嫁にゆく、玉の顏ばせひたすらに涙ながせど声もでぬ。北風吹きて雁は飛び雲のただよう秋の空、万里かなたへただ一人さびしく見るは黄河かな。くびれた腰も漢王の寵愛もどすちからなく、いとうるわしきその眉も愁いに沈む北の空。琵琶かなづれば悲しげな調べが多く、羌笛の音色さびしく冴え渡り、誰か憐ぶ一曲を楽府の役所に伝えつつ、千年ののちもうすものを着た昭君を傷むとは。
June 15, 2008
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銅雀臺(劉長卿) 相和歌辭嬌愛更何日、高臺空數層。含啼映雙袖、不忍看西陵。▼(「シ」の右に「章」。ショウ)河東流無復來、百花輦路為蒼苔。青樓月夜長寂寞、碧雲日暮空裴回。君不見■(「業」にオオザト。ギョウ)中萬事非昔時、古人何(集作不)在今人悲。春風不逐君王去、草色年年舊宮路。宮中歌舞已浮雲、空指行人往來處。【韻字】層・陵(平声、蒸韻)。来・苔・回(平声、灰韻)。時・悲(平声、支韻)。去・路・処(去声、御韻)。【訓読文】 銅雀台嬌愛更に何れの日ぞ、高台数層空し。啼を含んで双袖に映じ、西陵を看るに忍びず。▼(「シ」の右に「章」。ショウ)河東流して復た来たること無く、百花の輦路蒼苔と為る。青楼月夜長くして寂寞たり、碧雲日暮空しく裴回す。君見ずや■(「業」にオオザト。ギョウ)中万事昔時に非ず、古人何くにか(集に「不」に作る)在る今人の悲び。春風は逐はず君王の去るを、草色年年宮路旧りたり。宮中歌舞已に浮雲、空しく指す行人往来の処。【注】天宝の初め東方への旅の途中、■(ギョウ)城における作。○銅雀台 魏の曹操が建安十五年(二一〇)に建てた台。高さ十丈、殿宇百余間。楼頂に高さ一丈五尺の大銅雀あり。台の故址は河北省臨▼(ショウ)の西にあり。○嬌愛 曹操がそばに置いていた愛妾や伎女。○高台 銅雀台。○含啼 涙をためる。○双袖 着物の両方の袖。○西陵 曹操の陵墓。唐の■(ギョウ)県の西三十里にあり。○▼(ショウ)河 山西省に発する清▼(ショウ)・濁▼(ショウ)の二つの川が合流して成る。河南を経て、河北省にて衛河に注ぐ。濁▼(ショウ)水は、■(ギョウ)県の北五里にあり。○東流 中国は東に海があるのでおおむね河は東に流れる。○無復A それっきりAしない。○百花 多くの花。○輦路 宮中の車道。「輦」は、皇帝や皇后の乗る車。○蒼苔 青ゴケ。○青楼 女性の住む華麗な高殿。○寂寞 ひっそりとして、ものさびしい。○碧雲 江淹《雑体・休上人》「日暮碧雲合ひ、佳人殊に未だ来たらず」。○裴回 うごきまわる。○君不見 君は知らないか、いや、知っているだろう。○■(ギョウ)○万事 すべて。○昔時 むかし。○古人 むかしの人。○何在 どこにあろうか、いや、どこにもない。○今人 現代の人。○逐 したがう。後を追う。○君王 君主。○草色 草の色。○年年 毎年。○宮路 宮中の道路。○宮中 国王の宮殿。○歌舞 歌と舞いと。伎女の舞いや踊り。○浮雲 空に浮かぶ雲。○行人 道行く人。○往来 行き来する。【訳】銅雀台を訪れて詠んだ詩。愛嬌あふれる伎女たちの居たは何年まえのかしら、数層そびえる高台も今は住む者なく空し。涙に二つの袖は濡れ、見るにたえざる殿の墓。▼(ショウ)河は東に流れ去り、花咲く道も苔がむす。青い楼月の夜も主うしないしさびしさよ、日暮れにゃ碧い雲一つあちらこちらと漂えり。君も知るらん諸々の事は昔のままならず、昔の人は今いずこ、そを悲しむは我ひとり。主を追わざる春風は今も変わらず吹きおりて、毎年草は生い茂り宮殿の路ふるびたり。宮中の歌舞すでに無く、人の行き交うばかりなり。【参考】 銅雀臺 劉長卿嬌愛更何日、高臺空數層。含啼映雙袖、不忍看西陵。▼(ショウ)河東流無復來、百花輦路為蒼苔。青(一作清)樓月夜長寂寞、碧雲日暮空徘徊。君不見■(ギョウ)中萬事非昔時、古人不(一作何)在今人悲。春風不逐君王去、草色年年舊宮路。宮中歌舞已浮雲、空指行人往來處。 銅雀臺 王建嬌愛更何日、高臺空數層。含啼映雙袖、不忍看西陵。▼(ショウ)水東流無復來、百花輦路為蒼苔。青樓月夜長寂寞、碧雲日暮空裴回。君不見■(ギョウ)中事非昔時、古人不在今人悲。春風不逐君王去、草色年年舊宮路。宮中歌舞已浮雲、空指行日往來處。
June 8, 2008
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送姨弟往南郡 劉長卿一展慰久闊、寸心仍未伸。別時兩童稚、及此倶成人。那堪適會面、遽已悲分首。客路向楚雲、河橋對衰柳。送君匹馬別河橋、汝南山郭寒蕭條。今我單車復西上、朗陵■(サンズイに「霸」。ハ)陵轉惆悵。何處共傷離別心、明月亭亭兩郷望。【韻字】伸・人。首・柳。橋・条・悵・望。【訓読文】姨弟の南郡に往くを送る。一展久闊を慰め、寸心仍ほ未だ伸べず。別れし時は両童稚、此に及んで倶に成人。那ぞ堪へんや適会面し、遽に已に分首を悲しぶに。客路楚雲に向かひ、河橋衰柳に対す。君の匹馬を送りて河橋に別るれば、汝南の山郭寒くして蕭条たり。今我単車復た西上し、朗陵■(ハ)陵転た惆悵す。何れの処にか離別の心を共に傷ましめ、明月亭亭として両郷を望まん。【注】天宝初めごろの作。○姨弟 いとこのうち、父の兄弟以外の子。○南郡 汝南郡。治所は汝陽。○一展 ちょっと会う。○久闊 無沙汰。○寸心 こころ。○未伸 思いをのべつくさない。○両 ふたりとも。○童稚 児童。○及此 現在になって。○倶 そろって。○成人 二十歳以上の人。○那堪 反語で、たえられない。○適 たまたま。○会面 顔を合わせる。○遽に已に○分首 別れる。○客路 旅路。○楚雲 楚の地。○河橋 川にかかる橋。○衰柳 枯れ柳。○匹馬 一頭の馬。○汝南 いまの河南省汝南県。○山郭 山の町の城郭。○蕭条 ひっそりとしてものさびしい。○単車 単独で供を連れない馬車。○西上 都の長安に向かう。○朗陵 汝南郡。『元和郡県図志』「河南道蔡州朗山県に漢の朗陵の故城有り、又朗陵山有り」。○■(ハ)陵 漢の文帝の墓のある所。故址は今の陝西省西安市の東に在り。もと「霸陵」に作る。○転 ますます。○惆悵 嘆き悲しむ。○何処 いったいどこで。○亭亭 高いさま。【訳】いとこが南の郊外に行くのを見送る。ひさかたぶりに君と会い無沙汰の心なぐさむも、心の中をなおいまだのべざるうちにはや別る。まえに別れしときはまだ二人そろって幼くて、いま会う二人は成人し光陰まさに矢のごとし。たまたま会えた喜びも、あっというまに別れ時。君は楚の地を目指しゆく、橋のたもとに枯れ柳。君の乗る馬見送りて橋のたもとにきたれども、汝南の山の町はずれものさびしくて肌寒し。今われ単車で供連れず一人で西を目指しつつ、朗陵■(ハ)陵いやましに嘆き悲しみつのりゆく。君は東へ我は西、別れの辛さみしめて、この高空の月のもと互いの身をば思いやる。
June 1, 2008
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