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宝田東洋子55歳、専業主婦。 寝たきりの義母・菊乃84歳の自宅介護を10年以上も続けている。 義母の繰り出す無理難題に疲れ切っているが、 七十歳死亡法が施行される2年後までの我慢と耐え忍んでいる。 息子・正樹29歳。 帝都大学卒業後、大東亜銀行に入行するも、3年で辞職。 以後、一流企業への再就職を目指すものの、3年経過しても無職状態。 今では、ほとんど自分の部屋に閉じこもり、外出もほとんどしない。娘・桃佳30歳。祖母の介護を手伝うため、勤務する印刷会社を辞めてほしいと母親から頼まれ、それを回避すべく、マンションでの一人暮らしを始める。現在は特別養護老人ホームでヘルパーをしている。夫・静雄58歳。2年後の定年を待たず早期退職し、友人と世界旅行を始める。その妹である明美と清江は、財産相続には興味津々だが、実の母親の介護をするつもりは全くない。 ***『もう親を捨てるしかない』の中で紹介されていたので読んでみました。その著者である島田さんは、本著を読んであの本を書こうと思ったのでは?本著に描かれている様々な事象について、現実世界における実態を描いたのが、まさに『もう親を捨てるしかない』の内容となっています。そして、多くの人にとってあまりにも身近で現実的な問題であるが故、本著も『もう親を捨てるしかない』も、あまり世間で大きく取り上げられないのでは?それは、本著巻末の解説でも、次のように記されています。 この小説は、内容のおもしろさのわりに、 新聞や雑誌の書評が少なかったように感じる。 たぶんそれはタイトルと設定の過激さが、 取り上げることをためらわせたのだと思う。 でも、じゃあ、別のタイトルや違う設定のほうがよかったのか。 そんなことはないだろう。 この小説の主人公、東洋子がキレて家出しなければ 夫も息子も娘も義母も気づかなかったように、 過激でないと伝わらないこともある。(p.358)現実と向き合うためにも、ぜひ一読すべき良作です。
2018.03.25
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副題は「介護・葬式・遺産は、要らない」。 まず、冒頭の「はじめに」から衝撃的。 2015年の「曽根川心中」事件の説明から始まって、 本著執筆の動機が述べられているのだが、事態の深刻さがひしひしと伝わってくる。 第1章「孝行な子こそ親を殺す」では、 「はじめに」を受け、介護殺人について述べられる。 殺人事件は減っているにもかかわらず、介護殺人は大幅に増え、17年間で672件。 示された事例はどれもが、このままではいけないと強く思わされる。第2章「日本人は長生きしすぎる」では、明治時代に男42.8歳、女44.3歳だった平均寿命が、2014年には男80.50歳、女86.83歳となり、1950年に4.9%だった後期高齢者が、2060年には39.9%になることが示される。第3章「終活はなぜ無駄なのか」では、「家族葬」「直葬」が増え、墓のない家が38.4%もある現状や、遺産相続について、時代による変遷や少ないほどにもめる実態が示される。そして、「子供には迷惑をかけたくない」の困難さも述べられる。第4章「親は捨てるもの」では、かつて成人の過程で必ずあった精神的「親殺し」「親捨て」の必要性が、第5章「とっとと死ぬしかない」では、他国の例を挙げながら、延命治療の在り方について述べられている。そして、第6章「もう故郷などどこにもない」では、唱歌「故郷」に感情移入できる人が、すっかりその数を減らし、自らが生きていく経済的基盤としての「家」を持たないサラリーマンの兄弟姉妹は、親との関係を含め、かつての関係性と全く違ったものになったと述べられる。本著を読んで強く感じるのは、「個」の時代に突入した現代社会と、それとは全く矛盾するような、現在の「介護」システムとのギャップである。「自ら」のために生きることが当然とされ、奨励されているにもかかわらず、実際には、そう出来ずに行き詰っている人たちのなんと多いことか。
2018.03.11
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本著は2018年1月に発行されたものですが、 実際には、『政治と宗教のしくみがよくわかる本』として 2013年6月に出版されたものを、タイトル変更して新書版で再発行したものです。 なので、中身は5年ほど前の内容。 冒頭の「すぐわかる本書のエッセンス!」を読めば、 本著にどんなことが書かれているか、概略が掴めるようになっています。 26項目も示されていますから、全体像がほぼわかります。 それらの事柄に興味があれば、本著を読む価値はあると思います。第1章「よくわかる宗教のしくみ」では、宗教の肩書についてや、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教、日本の仏教や新興宗教、宗教団体、葬式と戒名について述べられています。肩書や戒名、新宗教の教義について記された知識は、持っていて損はないものです。第2章「よくわかる世の中のしくみ ~○○信仰~」では、バーナム効果やピグマリオン効果、プラセボ効果の観点から宗教や占いについて述べ、アメリカにおける大学設立や博士号取得の実態が述べられます。世間ではどんなものが評価され、売れるのかも記されています。第3章「よくわかる政治と社会のしくみ」では、ゴーストライターやフリーメイソン、組織依存について述べられています。 近代社会は、「正しいか?正しくないか?」がわからない 相対的(懐疑的)な価値観で運営されています。 しかし、ナチスのヒトラーは、「ユダヤ人が悪い」等の、極論を断言しました。 その断言がカリスマになれる理由です。(中略) 単純化できないのが、社会でしょう。 しかし、相対的な社会では、「強いリーダーシップ」を求める傾向にあります。 私は、国民の責任放棄だと考えていますが、 それでも社会は強いリーダーシップを求めるのです。 その結果、「断言する」人間がカリスマになるのです。 歴史から学べばわかりますが、 カリスマが断言し、社会の大多数が賛成したことは、間違っていますから、 疑うべきです。 社会の大多数が賛成することは、まず、怪しいと確信した方がいいと思います。(p.155)この部分の記述だけでなく、それまでに述べられてきた、宗教や政治等の様々なトピックが結びついてきて上記の著者の提言は、深く考えさせられるものでした。確かに断言する人が世間受けし、民意(?)を得てしまいがちだと感じます。第4章「よくわかる宗教と自己啓発セミナーの元ネタのしくみ」は、わずか10ページ程の紙幅で、他章で述べられたことと重複している所も多いです。それに比し、巻末付属の「よくわかる世界の宗教事典」は、50ページ程も費やされていますが、まさに事典で、読み進めるにはかなり骨が折れます。 ***他書では、なかなかそこまで言及されていないような事柄が、かなりズバッと記されているため、とても興味深い一冊です。ただし、全てをそのまま素直に受け入れて良いかというと……読む者の力量が問われる一冊であるとも言えるでしょう。
2018.03.11
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