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沖縄県名護市長選で当選した稲嶺進は、米軍新基地の建設に反対している。沖縄県宜野湾市にある海兵隊の普天間飛行場を閉鎖し、名護市辺野古に新たな基地を建設することを稲嶺惠一知事は決めているが、この決定を「民意」が否定したことになる。 ところが、その民意を現政権の平野博文官房長官は記者会見で否定した。新基地建設に反対する市長が選ばれたことを「斟酌してやらなければならない理由はない」と述べたのである。日本列島、特に沖縄にある米軍基地はアメリカの軍事戦略にとって重要な意味を持ち、情報機関の重要な拠点でもある。鳩山由紀夫政権もアメリカには逆らえないようだ。 過去を振り返ると、例えば、1949年1月に中国では人民解放軍(共産党)が北京に入城し、同年10月には中華人民共和国が成立している。上海を東アジア工作の拠点としてきた極秘の破壊活動組織OPCも日本に移動してきた。ちなみに、下山事件、三鷹事件、そして松川事件という国鉄を舞台とする「怪事件」が起こったのもこの年だ。 人民解放軍が北京入りする前からアメリカの情報機関は中国での秘密工作を活発化させていた。共産党を倒し、国民党の体制を築こうとしたのだが、この目論見は失敗に終わったわけである。 そこで、次に中国への軍事侵攻を試みている。拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』でも書いたように、侵攻作戦の主体となったのは国民党軍。1950年3月までに1万5000名の国民党軍部隊がビルマのチェンタン市とタチレクの間を占領、1951年4月には国民党軍の将兵約2000名がCIAの軍事顧問団を伴って中国領内に侵入、一時は片馬を占領したが、人民解放軍の反撃で追い出されている。 1952年8月にも国民党軍は中国へ軍事侵攻したが、これも失敗した。その間、1950年6月から53年7月まで朝鮮戦争が戦われている。朝鮮戦争は「米中戦争」の一場面にすぎないという見方ができる。 朝鮮戦争が休戦になって約半年後の1954年1月、ジョン・フォスター・ダレス国務長官は国家安全保障会議でベトナムにおけるゲリラ戦の準備を提案している。このときからアメリカは「ベトナム戦争」をスケジュールに書き込んでいた。そうした流れを断ち切ろうとしたのがジョン・F・ケネディ大統領だ。 そうした政策を具体化するため、1963年10月にNSAM(国家安全保障行動覚書)263が出されている。その年の6月には「平和の戦略」を打ち出してソ連との平和共存する道を模索し始めていた。そうしたケネディ大統領の意志を粉砕したのが1963年11月の大統領暗殺である。後継大統領の下でアメリカはベトナムへ本格的な軍事介入を始めている。このベトナム戦争も中国の共産体制転覆が最終目的だったのではないだろうか? 中国への直接的な軍事侵攻にしろ、朝鮮戦争にしろ、ベトナム戦争にしろ、あるいは1965年9月にインドネシアで実行された反スカルノ/反共産党クーデターにしろ、日本の基地が存在しなければ不可能だった。最近ではアフガニスタンやイラクでの戦争も日本にある米軍基地が重要な役割を果たしている。つまり、日米同盟はアメリカの世界支配を実現するために、なくてはならない存在であり、日本も戦争に参加していることを意味している。その日本を支配するため、アメリカは占領時代から支配システムを日本の権力内部に築き上げてきた。 日本では警察や検察などの一部官僚がアメリカで「研修」を受けているのだが、帰国してから「紐付き」になっている疑いが濃厚である。似たようなことはマスコミの世界でも言える。世界規模の通信傍受システムECHELONやトラップ付きのコンピュータ・システムなどに頼るまでもなく、日本側の「機密情報」はアメリカに筒抜けのはずである。 通信の傍受など電子的な情報収集をSIGINTと呼ぶ。アメリカとイギリスでSIGINTを担当している組織は、それぞれNSAとGCHQ。両機関はUKUSAと呼ばれる連合体を組織し、ECHELONも動かしている。米英両国と同じアングロサクソン系のオーストラリア、カナダ、ニュージーランドの機関がその下で活動している。日本はその外で情報の「おこぼれ」を頂戴する存在だ。 UKUSAが抱える問題のひとつは、配下の情報機関が自国の政府ではなくNSAとGCHQの命令で動いている点にある。つまり、情報機関が「国家内国家」として機能、米英両国の権力者が各国を支配する手先になっているということである。日本に本格的な情報機関が創設されたなら、日本の議会制民主主義にとって、東京地検特捜部以上の脅威になることは間違いない。
2010.01.26
イギリスの首都ロンドンには監視カメラが溢れている。それほど支配層は庶民を恐れていると言えるだろう。そのイギリスで無人の飛行装置、例えば飛行船にCCTVを搭載して人々を監視しようという計画が進行中で、当局は2012年のオリンピックまでに実用化したいと考えているようだ。 この監視システムを開発しているBAEシステムズは戦闘用の無人飛行機を製造している会社。現在、イラクやアフガニスタンでは、こうした無人の航空機によって非武装の一般市民が多数、殺害されている。SF映画では、庶民を監視する無人機はすでに登場しているが、現実がフィクションに追いつこうとしている。 資本主義は基本的に一部の人間が富の大半を独占する方向へ社会を導いていく。仏教、キリスト教、イスラム教など多くの宗教は助け合うことを説き、社会主義や共産主義(コミュニズム)も思想的には助け合いながら生きる社会を目指している。こうした考え方の対極にあるのが資本主義だ。 富が独占されれば、庶民の怒りは膨らみ、いつかは爆発する。最近の例では、ボリス・エリツィン時代のロシアを挙げることができる。ミルトン・フリードマンの信奉者がクレムリンを支配、国有財産を二束三文の値段で不公正な手段で一部の人々に売却し、巨万の富を手にする人間が現れた。いわゆる「少数独裁者」だが、その一方で国民の大多数は極度の貧困化に苦しんだ。その反動で「少数独裁者」を屈服させたウラジミール・プーチンは国民に支持されている。 庶民の怒りが暴動、場合によっては革命に発展する可能性もある。グルジアの「バラ革命」やウクライナの「オレンジ革命」のように資金をはじめ外部からの働きかけがなくても支配システムが崩壊することもありえる。そうした反乱の芽を潰していくためにはプロパガンダとともに監視は重要な意味を持ってくる。 各国政府がそうした方向へ動き始めたとヨーロッパ議会も1998年には警告しているのだが、こうした話を日本のマスコミは取り上げようとしなかった。逆に、「防犯対策」という名目で監視網の拡大を積極的に支援してきた。 かつて「東側」の政府が国民を監視するシステムを築いていると宣伝された。この話自体は間違いないのだが、彼らだけが監視しているのではないということだ。かつての「東側」では人海戦術でスパイしていたが、「西側」特にイギリスやアメリカ、そして両国に従っている日本はエレクトロニクス技術を使って監視している。体制が不安定化すると、支配者は主義主張に関係なく国民を監視しようとする。
2010.01.23
当局のリークで記事を書くことはないと公言する「マスコミ社員」がいる。勿論、リークとは情報提供者側からの表現であり、それを「取材」だと信じているのかもしれないが。 例えば、取調室のような密室での話が外部に漏れているとするならば、当事者、つまり取り調べる側と取り調べられる側のどちらかが外部で話したのか、あるいは誰かが盗聴器を仕掛けていたのか、いずれかである。小沢一郎民主党幹事長をめぐる「疑惑報道」で問題になっているのは、そうした種類の話だ。 拘束されている小沢幹事長の元秘書たちが記者に直接話すとは考えにくい。取り調べでの会話を外部に伝えるとするならば、その相手は弁護士だけだろう。この弁護士から話が外部に漏れたのでないとするならば、密室にいたもう一方の当事者、つまり検察側が記者に伝えたとしか考えられない。取調室に盗聴器を仕掛ける能力も度胸もマスコミにはないだろう。 検察官に限らず、情報の提供者は意識してか無意識でかは別として、自分たちに都合の良い話をするものだ。検察側が事件に対する国民の見方をコントロールする目的で情報を流すことは十分にありえる。冤罪事件では、そうした検察/警察の情報操作が無実の人間を死の淵まで追い詰めているわけだ。勿論、処刑された人の中に無実の人がいた可能性もある。 長野県松本市で引き起こされたサリン事件でも無関係の人間を犯人視する報道を行っていた。この「報道」も捜査当局が描いたシナリオに基づくものであり、マスコミは情報操作に荷担したのである。官僚にしろ政治家にしろ大企業の経営者にしろ、そうした社会的強者が流す情報に基づいて報道してきたのが日本のマスコミであり、そうした実態を反省しているようには見えない。 もっとも、情報操作は世界的に見ても珍しくはない。アメリカがイギリスなどを引き連れてイラクを先制攻撃した際、ジョージ・W・ブッシュ政権が偽情報、あるいは誇張された情報を意図的に流し、日本を含む各国メディアがイラクの脅威を宣伝していたことも一例。イギリスでも開戦に至るプロセスの検証作業が進み、イラクに大量破壊兵器が存在するという情報に信憑性がないことを、少なくとも一部の閣僚は事前に承知していたことが明確になっている。そうした中、当時の首相トニー・ブレアも当時の状況について証言する。 イラクだけでなく、アフガニスタンやユーゴスラビアを先制攻撃する前にも情報操作はあった。日本のマスコミも、そうした情報操作の片棒を担いだのだが、未だに反省も訂正もしていない。イラク攻撃にマイナスになりそうな行動をした日本人を誹謗中傷したことを忘れてもらっては困る。日本の場合、当時の政府やマスコミは未だに「説明責任」を果たそうとしていない。 アメリカには「報道の自由」があるかのように語る人が日本には多いようだが、1970年代の半ば、アメリカ議会の調査などで組織的な情報操作が展開されていたことが明らかになっている。当時、CIAから資金を提供されていた記者は少なくとも400名に達する。日本の場合、その当時で月に何十万円かを受け取っていた記者がいるとする「噂」も流れている。当局に使われている記者の大半は、自分たちの立場を理解していないだろうが。 それだけでなく、1948年にはCIAのドンとも言うべきアレン・ダレスやその部下、そしてワシントン・ポストのオーナーだったフィリップ・グラハム(キャサリン・グラハムの夫)たちが中心になって情報支配ネットワークを作り上げていた。ジョン・F・ケネディ大統領暗殺の瞬間を撮影した「ザプルーダー・フィルム」を隠すように命じたLIFEのC・D・ジャクソンも彼らの仲間だ。 こんな話は限りなく存在する。権力者にとってメディアは支配に必要な道具にしかすぎない。そうしたメディアをマサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキーは「プロパガンダ工場」と呼んだが、日本の状況はアメリカよりも悲惨だ。 大企業の利害にかかわる出来事の場合、マスコミは大切なスポンサーでもある大企業を配慮して報道することが多いのだが、そうした情報が事実に反すると指摘されても、官庁によって「オーソライズされていますから」と何の恥じらいもなく答える記者が少なくない。つまり、官僚のリークに情報を頼ることに疑問を持っていない。言うまでもなく、そうしたリークをシステム化した存在が「記者クラブ」である。(記者クラブの弊害は多くの人が指摘しているので、ここでは割愛する。) 特にマスコミの劣化が進んだのは1980年代からで、「多角的な取材」などしているとは到底、思えない。「当局のリークで記事を書くことはない」と叫んでむなしさを感じないほど彼らは鈍感になったのだろうか?
2010.01.22
キューバの東に位置しているイスパニオラ島の西部、国名で言うとハイチで大地震があり、多くの犠牲者が出ている。この国は世界で最も貧しい国のひとつで失業率は70%を超すと言われているが、そうした状況を作り出した責任の大半はフランスとアメリカにある。 1492年にクリストファー・コロンブスが西インド諸島にやって来た当時、この地域にはモンゴロイド系の人々が住んでいた。その後、ハイチはスペインが植民地化、1697年にはフランス領になる。そのフランスはアフリカで多くの人を拉致し、奴隷として連れてきた。 状況が大きく変化するのは1789年。フランスで革命が起こったのだ。1792年には王権が停止されて共和制が宣言されている。こうした動きは当然、植民地のハイチにも波及してトーサン・ルーベルテュールが率いる奴隷が蜂起し、1804年に独立を宣言することになる。 アメリカのフェデラリスト党を指導していたひとりで初代財務長官のアレキサンダー・ハミルトンはハイチの独立を支持していたが、ハイチ独立の年に決闘で死亡している。それに対し、初代国務長官で第3代大統領でもあるトーマス・ジェファーソンは奴隷の蜂起がアメリカに波及することを恐れ、「ブリュメール18日」(1799年11月9日)のクーデターで実権を握ったナポレオン・ボナパルトと手を組んで、独立を妨害した。ナポレオンはハイチに軍事介入し、奸計を使ってルーベルテュールを拘束、ヨーロッパに連行したのだ。ルーベルテュールはそこで獄死している。 しかし、それで独立運動が潰れることはなかった。ジャン・ジャック・デサリーヌが運動を引き継ぎ、1804年に独立を宣言したわけだ。その際、逆襲を恐れてヨーロッパ系の支配者たちを殺害しているのだが、1806年にはデサリーヌ自身が暗殺された。なお、アメリカがハイチを承認したのは1862年、エイブラハム・リンカーン政権のときである。 勿論、これでアメリカがハイチを自由にしたわけではない。ウィリアム・マッキンリー大統領が暗殺されたことで1901年に「棚ぼた」式で大統領となったシオドア・ルーズベルトが海兵隊を1915年にハイチへ侵攻させて占領、この状態はニューディール派のフランクリン・ルーズベルトが大統領に就任する1934年まで続いた。 1957年にフランソワ・デュバリエが実権を握ると、彼は秘密警察を使った「恐怖政治」でハイチを支配、71年からは息子のジャン・クロード・デュバリエが独裁者として君臨した。このデュバリエ体制は1986年まで続いている。 アメリカの権力層を震撼させる事態が生じたのは1990年のこと。解放の神学を唱え、アメリカによる軍事独裁体制を使ったラテン・アメリカ支配に反対するジャン・ベルトランド・アリスティド神父が大統領選挙で当選したのである。その翌年には軍事クーデターが試みられているが、その背後では、アメリカの情報機関が介在していたとも言われている。ちなみに、このときのアメリカ大統領はジョージ・H・W・ブッシュ。 しかし、1993年に大統領となったビル・クリントンは翌年、ハイチに軍隊を入れる動きを見せる。そこでハイチの軍部は政権を放棄した。ハイチ支配に軍部を必要としなくなったとアメリカ政府は判断したのかもしれないが、2000年に再びアメリカの権力層を懸念させる出来事があった。大統領選でアリスティド神父が復活したのだ。そしてクーデターが実行されてアリスティド政権は倒された。このときのアメリカ大統領はジョージ・W・ブッシュ、つまりH・Wの息子だ。 今回の地震でアメリカ政府は約1万人の軍隊を派遣、フランスの支援を阻止するような行動に出ている。治安対策?要するにアメリカやハイチの権力層にとって都合の悪い体制が出現しないよう、先手を打ったということだ。
2010.01.20
17日に行われたウクライナの大統領選挙で現職のビクトル・ユシチェンコ大統領は再選されなかった。最終的にはビクトル・ヤヌコビッチ元首相とユリア・チモシェンコ首相の決選投票で新大統領は決まる。日曜日の投票でユシチェンコは5パーセント程度の得票しか得られなかった。 2004年から2005年にかけて展開された「オレンジ革命」でユシチェンコは実権を握ったのだが、その際に日本など「西側」のメディアは彼を「民主化」のヒーローとして扱っていた。昔日の面影はない。 オレンジ革命が進行している最中、ユシチェンコの顔にできものが表れ、異常の原因はダイオキシンによるという話が広められた。イホル・スメシコ治安局長とウォロジミール・サチュク副局長と食事をしたときに毒を盛られたとユシチェンコ側は主張したが、その根拠は示されていない。持病の症状だという指摘も伝えられているのだが、ユシチェンコ陣営の主張が「革命」を推進するために有効だったことは間違いない。 オレンジ革命の源はボリス・エリツィン時代のロシアにある。当時のロシアでは国有財産の「私有化」、強者に対する箍(たが)を外す規制緩和、市場に対する盲目的な信仰、つまりミルトン・フリードマンの理論に基づく「強者総取り」の経済政策を推進したのだが、結果として国民の大多数は極度に貧困化し、その一方で少数の人間が不公正な手段で巨万と富を手に入れていた。そうした富裕層の中でも特に大物だったボリス・ベレゾフスキーがユシチェンコ陣営を支えていた。資金を提供するだけでなく、メディアを動かしてヒーローに仕立て上げたわけである。 ところで、2003年にはグルジアでもウクライナと似たような出来事があった。「バラ革命」だ。このときにはベレゾフスキーの元仲間であるバドリ・パタルカチシビリがスポンサーとして暗躍している。 勿論、両「革命」の背景ではアメリカの権力層、特に「ネオコン」と呼ばれる親イスラエル派の一団も蠢いていた。ベレゾフスキーなどエリツィン時代のロシアで台頭した富豪の中には「イスラエル系」の人が少なくない。ベレゾフスキーがイスラエルの市民権を保有していたことがあるほか、ウラジミール・プーチンが大統領になってから国外へ逃亡した富豪の一部はイスラエルへ逃げ込んでいる。 現在、こうした富豪たちはイスラエルの政策にも大きな影響力を持っている。グルジア政府の閣僚にも「イスラエル系」が存在し、南オセチアへ奇襲攻撃を仕掛けた際に重要な役割を果たしたと言われている。 ウクライナで実施された今回の大統領選挙でユシチェンコが敗れた理由はいくつもありそうだ。大統領になって「化けの皮」がはがれたことも大きいだろうが、スポンサーの力がプーチンとの戦い、そして金融危機で弱まったこと、そのスポンサーがアメリカ旧保守と対立するようになったことも無視できない。
2010.01.19
民主党の小沢一郎幹事長が行った土地取引に「資金洗浄」の疑いがあるというのだが、意味不明である。資金洗浄、あるいはマネー・ロンダリングとは、表に出せない裏金を表で使うためのテクニックで、裏金を決して表面に出すことはない。「原資不明」であろうとなかろうと、表面に出た資金が洗浄に関係しているとは考えられない。 勿論、土地取引が資金洗浄に使われることはある。その基本的なプロセスは、裏金を金融機関などに「別名義」で預けることから始まる。この資金が表で動くことはない。この資金を担保にして金融機関はカネを貸すわけだが、裏金が表面化することは決してない。取り引きに関係することは考えられないということである。表に出れば洗浄にならないからだ。 そこで、金融機関は形式上の担保を求める。二束三文の土地でも何でも構わない。それを担保として融資するわけだ。金融機関にリスクはないのだが、何らかの事情でこの融資が調べられる事態になると、「不良債権」と判断されることになり、この不良債権を処理するために公的な資金を投入することもありえる。 国外に溜め込んだ企業の裏金ならば、債券(転換社債やワラント債)も使われてきたようだ。スイスあたりで債券を発行して資金を調達、その債券は自分たちの裏金で購入するわけである。1980年代には「無担保債」が認められたので、担保を心配することなく裏金を洗浄することができた。 国債を使うこともできる。まず裏金の受け手がある価格で債券を買い、上乗せした価格で裏金の出し手に相対取引(国債は相対取引の比率が高い)で売り、市場などでその債券を売却する。受け手は儲かり、出し手は損をするので、資金が動いたことになる。 似た手法が株式市場でも行われていた。例えば、国内へ資金を持ち込みたい場合、国内で品薄株を買い上がり、国外の仲間に「クロス」で売り、移動した株式は市場で売却されるという手順だ。資金が国外から国内に移動している。これを資金洗浄にも利用できる。ちなみに、クロスとは売りと買いの注文をほぼ同時に市場に出し、まとまった株式を移動させる手法。かつては盛んに行われていた。 これらは資金洗浄の一部の例にすぎず、現在では、より巧妙で複雑な手段が開発されている。いずれにしろ小沢幹事長の土地取引を「資金洗浄」だと理解するには無理がある。洗浄になっていないからだ。
2010.01.18
東京地検特捜部は15日に小沢一郎民主党幹事長の元秘書、石川知裕衆院議員と池田光智を政治資金規正法違反(虚偽記載)の容疑で逮捕した。検察側の正式な発表がないようなので明確なことは言えないが、報道されているような内容では、本来なら起訴どころか逮捕することも難しかったのではないだろうか?家宅捜索と逮捕のずれからも、検察側の迷いを感じる。 法律について詳しくないため、ここで議論を展開することはできないが、報道されている土地取引にからむ資金の動きは珍しくない。取り引きと資金調達の時期がずれる場合、つなぎで短期間、資金を借りることは日常茶飯事だ。つなぎで使った資金の出所に違法性を見いだそうというギャンブル的な強制捜査と逮捕なのだろう。つまり、小沢一郎なら何か隠しているだろうという賭けだ。 西松建設の一件を反省したのか、検察は今回、マスコミを最大限、利用している。違法性の高いあからさまなリーク報道が展開されているのだが、マスコミと検察が「違法のタッグ」を組んでいては問題にならないようだ。 西松建設の「違法献金疑惑」から始まった地検特捜部の民主党攻撃はこれまで所期の目的を達していない。選挙で民主党が大勝し、基地問題ではアメリカ政府と衝突している。民主党が庶民の立場から政治をしているとは言えないが、それでも自民党時代の権力構造が揺らいでいることは確かだろう。 検察の動きを見ると、筆者が思っている以上に自民党時代の権力層は危機感を持っているようだ。マスコミにしても、新聞社とテレビ局の系列や記者クラブの問題で民主党政権を恐れている。 おそらく、東京地検特捜部は小沢一郎に絡む件で引き下がれない事情がある。苦しい状況であるだけに、強攻策をとらざるをえないのだろう。攻め続けて攻めきれなかった時、検察を浄化するチャンスが訪れるかもしれないが、現政権が昭電疑獄で倒された芦田均内閣のように潰される可能性もある。検察の「クーデター」は山場を迎えている。
2010.01.15
ある所でテレビを見ていたところ、「元東京地検特捜部長」という人物が出演していた。小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体や小沢の個人事務所などを捜索した件で、小沢が起訴されるかどうかは、これから「証拠が出てくるかどうかにかかっている」と発言してのだが、これには驚いた。怪しいから強制捜査で調べ上げ、何か出てくれば起訴するということだろうが、叩いてホコリのでない政治家はほとんどいないだろう。つまり、当局が気ままに強制捜査できるならば、検察/警察に睨まれた人間や団体は、社会的に抹殺されるということになる。 悪いことをしなければ良いという意見もあるだろうが、鳩山兄弟のように「自腹」で政治のできる人間はほとんどいないはずだ。たとえ、違法行為をしていなくても、逮捕/起訴されて裁判になれば、決定的なダメージを受ける。10年後に無罪判決が出ても個人的なダメージを回復することができないだけでなく、歴史の流れを戻すこともできない。 本来なら、何らかの違法行為が行われていることを示す証拠や証言があるときに限り、強制捜査が許されるのだ。ジョージ・W・ブッシュ政権は、1パーセントでも疑いがあれば事実だと想定して行動すると公言していたが、現在の東京地検は似たような思考で動いているのだろう。 ブッシュ政権は偽情報を撒き散らしながら先制攻撃を繰り返しただけでなく、国内では憲法が定めた諸権利を無視、令状なしに盗聴し、拘束し、拷問さえ行った。こうした法律の運用を日本の検察が真似している、あるいは戦前の思想検察が復活しているとも言えるだろう。相手が「小沢一郎」なら何をしても許されると考えているのだろうか? すでに日本の警察/検察/裁判所は、戦争に反対する人々や団体を攻撃する態勢を整えている。「治安維持」のため、検察が次のステップに進んだことを小沢一郎の一件は暗示している。
2010.01.14
まさか、検察が突如として「清廉潔白」な「正義の味方」になったと思っている人はいないだろう。戦前から続く彼らの本性が露わになってきたと考えるべきだ。 戦前、検察は内務省(特高)と同じように言論弾圧を続け、少しでも「国策」に逆らう人間を拘束し、殺害した。その責任を問われることなく戦後の「法曹界」にも検察関係者は君臨している。日本の司法が「横浜事件」とまともに向き合えない理由もそこにある。 日本では、警察や検察が裁判で被告に有利な証拠を隠すことが認められ、検察側に立つ証人の偽証も許されているのが実態だ。そうした体質の司法システムに民主主義の箍(タガ)をはめてきたのが日本国憲法なのだが、その箍は最近、緩んでいる。例えば、東京都葛飾区のマンションに立ち入り、政党のビラを配った住職が住居不法侵入罪で逮捕、起訴され、最高裁も有罪を言い渡している。 一昨年来、民主党の小沢一郎幹事長を東京地検の特捜部は激しく攻撃している。1月13日には小沢幹事長の資金管理団体「陸山会」の事務所や幹事長の個人事務所、さらに大手ゼネコン「鹿島」の本社や東北支店などを一斉捜索した。要するに、手詰まりになった局面を打開するため、攻撃材料を仕入れるための行動だ。 政治家、特に大物と言われている政治家の周辺で出所不明の大金が流れていることは公然の秘密だろう。当局から敵視され、監視されている一部の政党を除き、怪しげな資金調達の話は珍しくない。戦後日本を与党として動かしてきた自民党には少なからぬカネにまつわる疑惑が存在している。 検察は勿論、マスコミもそうした現実を熟知しているはずなのだが、そうした資金を追及していくと、特別会計だけでなく、さらなる闇の世界へ入り込んでいく。恐怖からなのか、単なる処世術なのか、ともかくそうした問題に検察/警察やマスコミは取り組もうとしてこなかった。企業献金のように、明らかな違法行為が公然と認められている資金調達もある。 もし、検察が本当に政界に流れる「出所不明の資金」を掃除するつもりなら、小沢一郎の前に、まず自民党の大物政治家を強制捜査するべきだ。麻生太郎政権で内閣官房副長官を務めた漆間巌元警察庁長官は、小沢一郎に対する「今回の疑惑追及が与党(自民党/公明党)に波及することはない」と語ったようだが、この発言は東京地検特捜部が行っている捜査の本質を示している。 かつて、イギリスでは大企業の代弁者である保守党の政治家なら「愛人」がいても問題にされないが、労働組合を支持母体とする労働党の政治家は女性とお茶を飲んでもスキャンダルになると言われたことがある。勿論、労働党の中にも権力システムと深く結びついている人物が少なくないので、全てのケースに当てはまる「公式」ではない。まして、トニー・ブレアが始めた「ニューレーバー」は資金源を労働組合からイスラエルにシフトしているので、「公式」は全くあてはまらない。 総選挙前から始まった地検特捜部とマスコミの民主党攻撃は成功していない。その大きな理由は、民主党に「強者総取り」システムからの離脱を期待しているからだろう。このところ民主党は大企業にすりより、アメリカ政府との交渉で「公約」を実現できないでいる。政策の軸が自民党時代に動いているわけだが、この時期こそ検察/マスコミにとってはチャンスであり、おそらく、3月までに勝負をつけようと必死になっている。だからこそ、民主党は明確に庶民の立場から政策を推進しなくてはならない。消費税率のアップなど論外である。今するべきことは、大企業や富裕層に対する税率アップだ。この程度のことができないならば、自民党と同じように、民主党にも未来はない。
2010.01.14
東京都が設置した「公設派遣村」の入所者554名のうち、204名が「求職活動費」として支給された2万円を持ったまま「所在不明」になったと報道されている。不明になったひとりひとりにどのような事情があるのか、調べてみなければわからないが、一般論として言えば、求職がきわめて困難な時代に2万円を渡されても働き口を見つけられる可能性は低い。1日数十円、数百円の世界で生きている人々にとって2万円は大金であり、見込みの薄い就職活動で使うより、生活費に充てたいと考える人間が出てくるのは当然である。204名で収まったことの方が驚きである。 勿論、東京都の役人は多くの人が2万円を「持ち逃げ」することを望んでいたはずだ。そもそも、現金を直接渡すという方法が胡散臭い。所在不明者の話を流した直後に「臨時宿泊施設」の受け入れを18日に打ち切ると石原慎太郎都知事は発表したそうだが、要するに「アリバイ工作」で実施した「公設派遣村」を早く終わらせたいだけであり、生活保護受給の手続きなどされてはかなわないと思っているのだろう。小賢しい役人が考えそうなシナリオである。 大企業の経営者や霞ヶ関の官僚が「派遣村」を嫌がる一因は、派遣村が社会を映す鏡だからだろう。1980年代に庶民は「バブル景気」で感覚を麻痺させ、1990年代に入ると大企業の倒産を目の当たりにして「経済の破綻」に恐怖、21世紀に入ると自分たちが手にするはずの富を社会的に優位な立場の人々に献上することに同意してしまった。富の多くはアメリカへ流れ、アメリカの権力層に従う日本の支配層も豊かになった。そうした豊かさの源泉が庶民の貧困化である。つまり、庶民層から富裕層へカネが流れるシステムが整備されてきたわけだ。 貧困化が進む過程で「セーフティ・ネット」が必要だとする議論が出てきた。企業の倒産だけでなく、事故や病気などで窮地に陥った人々を救うシステムは必要なのだが、本来はできるだけ使われない状況が望ましい。綱渡りや空中ブランコでセーフティ・ネットが張られているからといって、しょっちゅう落下するのはよくないのと一緒だ。現在、貧困化が進んで社会が機能しなくなっている最大の理由は、大企業が適切な対価を労働者や下請け企業に支払っていないことにある。 その結果、「コスト」は削減されて製品価格は低く抑えられて輸出が増え、大企業の利益を膨らませ、重役たちの収入が増え、政治家や官僚も潤うという構図だが、そうなると為替相場はそうしたコストに合わせてくるので、さらにコストを下げる、つまり日本の庶民をさらに貧困化させるか、工場を「低コストの国」へ移動させるということになる。いずれにしろ、日本の経済は衰弱化していく。 昔からある種の金持ちは「宿主」を替えながら資産を増やしてきた。ひとつの国で富を吸い尽くしたら別の国へ移動するということだ。最近では「ヘッジファンド」という形で寄生方法が近代化されてきた。本来、ヘッジは企業が為替などのリスクを回避するために行うテクニックであり、「投機」の対極にある概念だったはずだが、現在では投機的な行動をする集団だと理解されている。名前からして詐欺的なわけだ。「倹約」が「強欲」に変化したようなものかもしれない。いずれにしろ、貧富の差が拡大することを「是」とする人々は派遣村が消えることを願っているはずだ。
2010.01.10
現在、移設問題でもめている米海兵隊の普天間飛行場に限らず、在日米軍基地はアメリカの軍や情報機関にとって重要な拠点になっている。 第2次世界大戦後、アメリカの軍事強硬派は中国大陸で国民党を支援する工作を開始、人民解放軍が勝利すると共産党体制を倒す秘密工作を始めて軍事侵攻も試みている。そうした作戦で日本の基地が果たした役割は大きい。(この辺の詳しい話は拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』で触れている。) 1950年の春には朝鮮戦半島で秘密工作を開始、4月には池田勇人が訪米した。6月には朝鮮戦争が勃発するが、その直前にはジョン・フォスター・ダレスたちアメリカの要人が日本側の人間と日米軍事同盟について東京で話し合いをしている。1964年からアメリカはベトナムに本格的な軍事介入を開始しているが、この戦争も日本の基地がなければ実行できなかっただろう。 その後は中東地域に在日米軍の守備範囲は広がり、ジョージ・H・W・ブッシュ政権のときには湾岸戦争、そしてジョージ・W・ブッシュ政権はアフガニスタンとイラクに先制攻撃を仕掛けて泥沼から抜け出さなくなった。アフガニスタンとイラクでの戦争には自衛隊も直接、参加している。 イラクでの戦闘が泥沼化する切っ掛けは2004年3月にファルージャで起こった出来事。傭兵会社「ブラックウォーター(現社名:Xe)」に雇われた傭兵4名が待ち伏せ攻撃で殺害されたのである。 この直前、第1海兵遠征軍のジェームズ・マティス司令官はファルージャで激しい掃討作戦を展開し、多くの市民が犠牲になった。当然、市内の反米感情は極度に高まったわけだが、そこに軽武装の4名がジープで入ったのである。「人身御供」として送り込まれたと言われても仕方がない状況だ。 その際、イラク人側は4名がCIAの仕事をしていたと主張していたが、ここにきてCIAとブラックウォーターとの協力関係が明確になっている。ジョージ・W・ブッシュ大統領は暗殺工作を承認したが、その暗殺チームにブラック・ウォーターのメンバーも含まれ、そのターゲットにはドイツのハンブルグに住むマムーン・ダルカザンリやパキスタンの科学者A・Q・カーンも含まれていた。 この話をアメリカの雑誌バニティ・フェアが明らかにした後、ドイツの当局は調査を開始している。すでにイタリアでは拉致の容疑でCIAの人間を指名手配しているわけで、アメリカは表面的にも「テロ帝国」になってきたようだ。 ブラックウォーターの創始者エリック・プリンスはSEAL(海軍の特殊部隊)出身でOSS(戦時事務局)を指揮していたウィリアム・ドノバンを尊敬しているという。ドノバンは親友で弁護士仲間のアレン・ダレスとともに「破壊工作部隊」を編成していた。大戦後、この部隊を再現したのがOPC(政策調整局)で、1950年代に入ってからはCIAの一部局として暗殺やクーデターを実行している。 しかし、そうした「闇の活動」の一端が1970年代の半ばに議会で明るみに出たため、活動の拠点をCIAの外に出している。その外部に出た組織が「民間CIA」で、「イラン・コントラ事件」でその存在が注目された。ブラックウォーターもそうした「CIA私有化」の結果として誕生したわけだ。ウォール街がCIAを作り、CIAが傭兵会社を生み出したということになる。 先月30日にアフガニスタンではCIAの重要基地が自爆攻撃にあい、7名、あるいは8名の情報機関関係者が殺されているのだが、そのうち2名はブラックウォーターの人間だとも報道されている。 この自爆攻撃の背景には、無人機が多くの非武装の市民を殺害し、地上でも掃討部隊が寝込みを襲って子どもを含むアフガニスタン人を手錠した上で殺すというようなことをしている。日本政府はこうした殺戮を支援してきたということを忘れてはならない。
2010.01.09
鳩山由紀夫政権に新たな問題が降りかかってきた。南極海で活動している「調査捕鯨船団」の監視船「第2昭南丸」が反捕鯨団体「シーシェパード」の高速船「アディ・ギル」と衝突し、高速船を破壊したのである。日本側はアディ・ギルが第2昭南丸の進行を妨害する形で衝突したと主張、シーシェパード側は監視船がぶつかってきたとしている。 衝突の様子を遠方から撮影した映像を見ると、第2昭南丸は進路の右前方に停船していたアディ・ギルに向かって放水しながら右に舵を切り、衝突の直前に左へ旋回している。そこで外国のメディアは日本側は意図的に体当たりしていると判断、シーシェパード側の主張に説得力があると報道している。 事件についてオーストラリアとニュージーランド両政府は調査する意向のようだが、日本政府にとっては都合の悪い結果が出そうだ。日本の官僚は水面下で取引しようとするだろうが、全世界に衝突の映像が流れている以上、オーストラリア政府もニュージーランド政府も妥協しにくい状況だ。 この衝突で捕鯨をめぐる争いは新たな段階に入ったと日本の国外では報道されていて、鳩山政権が捕鯨船団の主張を垂れ流すようなことをすると、外交面でも悪い影響が出てくる可能性がある。勿論、日本側の主張に説得力があるならばいいのだが、何しろ分が悪い。官僚の言いなりにならない方が良いだろう。
2010.01.08
今年もアメリカ政府は「イスラム掃討作戦」を展開するつもりのようだ。昨年12月にアメリカ政府はイエメンでの軍事行動に前向きの姿勢を示し、連邦地裁判事は非武装のイラク市民を殺害した傭兵に無罪を言い渡している。バラク・オバマ政権も「軍事信仰」からチェンジできていない。 例えば、12月中旬にイエメン北部のマーケットが空爆され、一般市民35名以上が殺されている。攻撃したのはサウジアラビアだとされているが、これが確かなら面倒なことになるだろう。サウジアラビアの王制は決して安定していない。かろうじてアメリカが支えているのが実態で、国民の怒りが爆発すれば「民主化」されて反米体制が誕生するだろう。それではアメリカもイスラエルも困る。サウジアラビアの空爆には理由があり、そうした軍事行動をアメリカ政府が支援していることをアピールしなければならない状況になったと言える。 空爆を正当化する理由としてアメリカは、いつものように「アルカイダ」を持ち出してきた。イエメンには「アルカイダの脅威」が存在し、大使館を閉める必要があるほどの危機が迫っていると宣伝しているのだが、イエメン政府はアメリカ側の主張を「誇張だ」としている。アフガニスタンやイラクへの先制攻撃も誇張と嘘でアメリカ政府は始めたことを考えると、今回の主張に説得力はない。 しかし、何らかの軍事行動が起こる可能性はある。イエメンの反体制派、アメリカ政府が言うところのアルカイダが実行するかもしれないが、それ以上に警戒すべきなのはアメリカの動きだ。何しろ、アメリカは世界で最大、最強のテロ国家である。アルカイダもアメリカが作り上げたモンスターだ。 過去を振り返ると、例えば、ベトナム戦争でアメリカの情報機関(CIA内の破壊工作部隊)と特殊部隊は敵の影響下にあると見られる村を襲撃して皆殺しにしたり、敵側の人間である疑いのある人物を次々に拘束し、拷問の上で殺している。また、南ベトナム解放民族戦線を装って爆弾を都市部で炸裂させている。これが悪名高き「フェニックス・プログラム」だ。(日本のマスコミや学者は触れたがらないが。) それ以外にも、イタリアでは左翼勢力への支持を減らすため、「左翼過激派」を装って「爆弾テロ」を実行したことが判明した。1960年代の前半にアメリカ軍やCIAの軍事強硬派が練り上げたノースウッズ作戦もそうした種類のものだ。つまり、アメリカに逆らうと「テロ攻撃」を受ける可能性がある。 アメリカのとってイエメンはソマリアと同じように、重要な国である。両国はアデン湾をはさんで向き合い、紅海からスエズ運河へ向かう入り口に位置している。現在、スエズ運河はアメリカやイスラエルと友好的な関係にあるエジプトが支配しているのでアメリカ政府としては安心だろうが、イスラム勢力が強いイエメンとソマリアは違う。ソマリアが無政府状態になった最大の原因は、アメリカがイスラム勢力を軍事力で排除しようとしたことにある。しかも、ソマリアでの作戦にはウィリアム・ボイキン中将(退役時)のように、イスラム教徒との戦いを「宗教戦争」と考えているような軍人も参加しいていた。ボイキンは狂信的なキリスト教原理主義者(キリスト教系カルト)としても知られている。 ボイキンと同じようにキリスト教系カルトを信じ、特殊部隊に所属していたエリック・プリンスが創設した傭兵会社がブラックウォーター(現社名:Xe)。この会社は軍だけでなくCIAとも契約関係にあり、真偽のほどは不明だが、「死の部隊」として動いているとする噂はイラク占領直後から流れていた。 そのブラックウォーターが雇っていた傭兵5名が2007年9月、イラクの首都バグダッドで非武装のイラク人14名から17名を殺害し、アメリカで起訴されたのだが、「手続き上の理由」から連邦地裁判事のリカルド・ウルビナは「元傭兵」5名に対して無罪を言い渡した。イラク人の怒りを軽減するための演出なのかもしれないが、これで「一件落着」とはいかないだろう。
2010.01.05
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