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August 30, 2006
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カテゴリ: 短編小説
 魔王を倒しに行く前日。俺達は魔王の城の少し手前の森で、一晩野宿する事にした。
 煌めく星空の下、俺と勇者は燃えさかる火を囲んでいた。
「なあ、勇者。今更だが、敵の城の近くで焚き火をするのは危なくないか?」
 空に向かって伸びていく煙は、城からもよく見えるだろう。敵に自分の居場所を知らせる、という行為が戦いに赴く者のする事とは思えず、俺は一応、忠告した。
 勇者には俺の忠告を受け入れる気はないらしく、こう言った。
「何だ、盗賊はそんな事で臆するのか」
「お前は知らないかもしれないが、盗賊は臆病じゃないとやっていけない」
 俺の言葉に勇者は愉快そうに微笑んだ。
「そうか」勇者は言いながら焚き火に木をくべた。

「いいじゃないか。どうせ奇襲なんだ。向こうはこっちに勇者がいると知っても何もしてこないよ」
 俺にとって敵に居場所が知られている奇襲というのは、初めての体験だった。

「それで、話って何だ?」
 他のメンバーはとっくに眠ってしまったのだが、俺は勇者に『後で話がある』と言われて、こうして残っていた。
勇者は火を見つめながら穏やかに話し始めた。
「君は僕の仲間になってから、まだ日が浅い」
「そうだな」
「だから君は、僕が何をしているのか知らないだろう?」勇者はそう言った。だが、知らなかったら誰もついては来ないだろう。
 確かに不可解な点はある。でも俺は宝を盗めればいいだけなので、その点に関しては特に興味は無い。
 返答に困った俺は、仲間になるときに、勇者に言われた言葉をそのまま言って答えとした。
「俺達はこれから、魔王を倒しに行く」

「だったらもうそれでいいじゃないか。当分、俺はお前についていく」
 勇者は一つため息を吐いて言った。「明日は決戦だ」
「ああ」
「盗賊、君は魔王についてどう思う?」
 随分急な質問だった。俺は適当にその質問をやり過ごす。

「僕はある」
「そうだろうな」会った事がなければこいつが勇者と呼ばれるわけがない。
「魔王は悪だ」
 勇者は当然の事を言った。当然の事を言われただけだから、俺にも返す言葉はなく、適当に相槌を打つ。「そうらしいな」
「だが、違った」
「何?」
「魔王は、人間として尊敬できる人物だった」
 パチパチと弾ける音が焚き火から聞こえた。
 オレンジ色の光が勇者の顔を照らし出しているが、その真剣な表情から先程の台詞が嘘ではないのだと分かる。
「本気で言っているのか?」
 俺は勇者がここに来てとびっきりの冗談を言ったのかと思ったが、やはり表情は固いまま動かなかった。
「これが冗談だとしたら、僕は随分笑えない事を言う勇者だね」
「ああ、世界でも一、二を争うほどのくだらなさだ」
「僕は真剣だ」
「それはもっと酷い」
 俺はこれから話される内容に少なからず興味を抱いた。空を見上げるとやはり満天の星空。明日の戦いは雲一つ無い青空の下で行われそうだ。

「僕は魔王がとても悪い奴だと聞いていた」勇者は昔の話を始めた。「僕は冒険の末に魔王と相対した。そこで、魔王の本当の姿を見た」
「どうだった?」
「素晴らしい人間だったよ。彼は伐採され続ける森を守り続けていた」
「大した偽善者だ」
「そういうもんでもないよ。森が切り開かれる事によって彼が住んでいた村に悪影響があったんだ。住処を奪われた動物達に作物を荒らされ、伝染病も流行ったらしい」
「随分、庶民的な魔王だな」
「そう、彼は村を守るために全力を尽くす小市民だった」
「お前はそいつをどうしたんだ?」
「殺したよ」
 俯いた姿で出されたその声は、淡々としていたがどこか暗いものだった。
 俺は単純な感想を述べる。「お前は、酷い奴だな」
「そう、僕は酷い」
 遠くで犬の遠吠えが聞こえた。それは勇者を蔑んでいるように聞こえた。あるいは勇者の心が犬に乗り移って出てきたようでもあった。
勇者は話を続ける。
「彼は話してみれば非の打ち所のない人格者だった」
「お前はなぜ、殺したんだ?」
「彼は世界中から魔王と呼ばれていた」
「それは俺も覚えている」
「だから、彼は、魔王なんだ」
 ここで俺は話の先を読んでこう言った。「お前は自分を信じられなかったんだな」
 勇者は俺の言葉には何の反応も見せず話した。
「世界中から魔王だと罵られていたその人は、僕から見れば素晴らしい人だった。世界と僕のどちらが正しいかを考えた僕は、世界が正しいと判断した」
「そこで自分が正しいと判断するには勇気がいる」
「僕には、勇気がなかった」だから、魔王を殺した。
「お前は後悔しているのか?」
「ああ、しているよ。彼は魔王なんかじゃなかった。どちらかといえば聖人に近い人だったんだ」
 皮肉な事に勇気を出せずにとった行動が、勇者と呼ばれる原因となったのだ。こいつにとって勇者という称号は最上級の嫌味でしかないだろう。

 俺は今まで相槌を打っただけだったが、この話にはよく分からない点がある。だから俺はそれを聞いてみる事にした。
「そいつは、ただの小市民は、何で魔王と呼ばれていたんだ?」
「貴族というのは自分の利益を最優先に考える」
「そうだろうな」
「自分より身分の低いやつは人間とも思ってないのさ」
「まあ、大体はそうだろうな」
 俺は過去に高潔な貴族を一度だけ見たことがあったから敢えて全部とは言わなかった。
 勇者は続ける。
「この国の主要産業は林業だ。木を伐採して外国に売っている」
「そうだ」
「この国の貴族は木を切り過ぎて、新しい森に手を出さざるを得なくなった。だが、木を切ろうにも森の近くの村のある男が邪魔をしてきた。そのために貴族は焦ったんだ。木の伐採本数が減れば、大きな赤字を出してしまう。利益が無くなってしまう。
 貴族はその邪魔な男を消そうと画策した。男が絶対的な悪であれば殺してしまっても構わない。そこで、世界中にこの森には悪党がいるという噂を流したんだ」
「魔王じゃなかったのか?」
「いや、彼は最初、悪党だった。だが、噂というのは拡がるに連れ、いろんな脚色をされて世に流れていく。それが世界の端まで流れていったんだ。だから、負のイメージが急速に膨らんでいって、最終的に魔王になってもおかしくは無いだろう?」
「なるほど」
「まあそれは、貴族にも予想できなかったらしい。噂の効き目が強すぎ、悪党が魔王になってしまったせいで、国のイメージが急速に下がってしまったんだ。そこで貴族はもう一つ策を練った」
「勇者か」
「そう。貴族は魔王を討伐する勇者を作って、魔王出現に伴って下がった国のイメージを回復させようと目論んだんだ。結果は君も知っての通り。魔王は勇者によって倒された。平和を取り戻したこの国は、再び林業を主軸にして栄える事になったんだ」
「結果的に貴族の思惑通りに進んだんだな」
「ああ」
 俺はあらかじめ用意しておいた薪を一本取り出して、炎の中に投げ入れた。これで、少し弱くなった火も、再び元の勢いを取り戻すだろう。
「勇者」
 俺は呼びかけた。
「なんだい?」
 勇者はそれに答えた。
「どうでもいい話だったが、謎が解けてすっきりした」
「君にはこの話がどうでもよかったのか?」
「盗賊が興味を持つのは宝の価値と身の危険だけだ」
「そうか」

 俺は確認するように言葉を紡ぐ。
「お前は、魔王を殺した事を後悔している」
 勇者は黙って火を見つめていた。
「魔王を殺すために利用された事で、お前は、貴族を恨んでいる」
 もう一度犬の遠吠えが聞こえた。
「明日は、戦いだ」
 そして、俺はこの旅で唯一の、不可解な点を知った。

「だから明日、俺達はこの国の国王が住む城に攻め入る」

 勇者は穏やかに頷いた。
「盗賊、君は別に来なくてもいい。国王を襲ったという不名誉な肩書きがつく事になるよ」
「盗賊には最初から名誉なんて無い」
 それを聞いて勇者は少し笑った。

「勇者、お前は強いのか?」
 聞けば魔王も一般人のようだった。こいつは世間ではドラゴンをも倒すほどの強さを持っていると言われているが、実際、普通の人間と大差ないように見える。
 勇者は静かに答えた。
「君が気にしている事は大体分かるよ。僕達、四人で城を攻めたところで何万もいる兵士を倒す事なんて出来ないんじゃないかって事だろう?」
「まあ、そんなところだ」
「僕は魔王を討伐するときにこの国の国宝を授けられたんだ。一振りで小さな村くらいは壊せる剣。これがあれば僕が弱くても城の兵士くらいは苦も無く倒せるよ」
「何で一般人である魔王を倒すのに、そんな剣が必要だったんだ?」
「その時、魔王が一般人だと知っていたのは貴族だけだった。僕を騙すにはこれぐらい大掛かりな小道具が必要だろう?」大掛かりな小道具とは、勇者はなかなかうまい事を言う。
「それに、勇者に力を貸すことは、国にとって大きなプラスになる」
 外国に対するイメージはいいだろうし、勇者本人にもよく思われようという魂胆だろう。
「じゃあ、勝てるのか?」
「楽勝だよ」
「それは良かった」
「なんだよ、城攻めの動機はどうでも良さそうに聞いてたのに」
「さっきも言ったが、盗賊が興味を持つのは宝の価値と身の危険だけだ」
「そうだったね。それと、兵が俺達の敵に回るのは王を倒してからだから、うまく逃げれば戦わずに済むかもしれない」
「そういえば城に入るのは簡単なんだったな」
「僕は勇者だからね。王の間に連れて行けって言えばいいだけだ」

「勇者、お前はいいのか?」
「何が?」
「これは今の勇者という地位を捨ててまでする事ではないだろう」
 勇者はそれがどんな話であろうとも終始、穏やかだ。「僕は魔王の正体を知った。村を守ろうとした男は魔王じゃなかった。悪というのは、一部の人間の事だった」
 そして、うんざりするような口調で言った。
「本当の魔王は」勇者は城を指さした。「あそこにいるんだ」
 一度勢いを取り戻した火がまた弱くなってきていた。
「お前は、苦労しているんだな」
「僕は勇者だ」
「そうらしい」
「勇者がいて魔王がいれば、魔王は勇者に倒される。それだけだ」
「そうだな。そのルールは守らないといけない」
「僕は魔王を倒して本当の勇者になる」
「その決断には勇気がいる」
「自分を信じるというのは難しい事だね」
「そうだな」
 そこで勇者は少し笑った。「でも、盗賊の君は自分が思うように生きてる」
「俺は自分を信じているというより、世界を信じてないだけだ」
「それでも、その決断には勇気がいるよ」
「買いかぶりすぎだ」
 俺にしてみれば世界を信じる事の方がよほど難しい。勇者はそれを今までやっていたんだから大したものだ。俺は心の中で尊敬した。
そして、勇者はくだらない事を言った。
「君が勇者だったら良かった」
「俺は魔王を倒さない」
「勇者には魔王より、勇気の方が大切だよ」
「盗賊は目立つ事を嫌う。目立たないなら、なってやらなくもない」
「じゃあ、無理だね」
「そういう事だ」

 夜空は相変わらず綺麗なままだった。このままいけば明日は晴天だ。この時間、俺はいつも仕事中だから、ゆっくりと星空を眺めるのは久し振りだった。
 俺は普段、空になんて興味はないが、何故か今日ばかりは、綺麗な星も悪くないな、と思った。
 話は終わったらしく、勇者はほとんど燃え尽きている火に砂を掛ける。
「先に寝てていいよ」勇者は俺にそう言った。
「ああ、なら遠慮なく先に寝させてもらう」
 そう言うと俺は他の仲間が既に寝ている寝床に向かった。だが、そこで勇者に再び話しかけられた。
「言い忘れたけど、明日は朝早いから寝坊しないでくれよ」
「それは難しいな」俺は続けた。「盗賊は夜型だから朝に弱いんだ」
 それを聞いて勇者は少し笑った。





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Last updated  August 30, 2006 07:31:11 PM
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