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September 9, 2006
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<二日目_夜_長岡>



 俺は海に一人立っていた。足下に水はないけれど、ここは間違いなく海だった。見渡す限り続く海。水平線まで何もない。

 また今日も少年がそこにいた。
「こんばんは、ナガオカさん」
「やあ」俺はそう言った後、少し少年の様子をうかがってみた。しかし、彼は殊更話したい事があるようではなさそうだったので、俺が少年に質問する事にした。「今日、車に轢かれそうになったんだけど、あれは君がやったのか?」
 少年に死ぬと言われて、あの事故だ。疑うなと言う方が難しい。
「いえいえ、幽霊ごときにそこまでは出来ません。僕に出来る事は先を見る事ぐらいなんです」
 言い訳のようには聞こえなかった。だが、自信満々で穏やかに言い放った少年は、事がうまく運んでいる事を確信しているようにも見える。
 彼が本当の事を言っているかは分からない。

「あれですか。幽霊は夢の中なら何でも出来るんですが、現実の世界だとほとんど何も出来ないんです。信じてもらえるか分かりませんがそういう事なんです」
「そうなの?」
「夢と現実は別物です」
 こう言われたら、俺はもう何も言い返せない。確認する方法がないからだ。だから俺は少年の話を聞いてもどうしようもなかった。
 そして、それとはまた別に俺には納得いかない事があった。
「あのさ、未来が分かっているんだったらあの事故についても教えてくれれば良かったんじゃないかな?」
「僕はあの事故の事を知っていました」
「そうだろう?」
「ただ、僕はナガオカさんが無傷で済む事も知っていました」
「だから、君は言わなかったのか」
「ええ」

 俺は一応納得した。そういう事ならもう仕方ないのかもしれない。


「さて、ナガオカさんはとうとう明日、死ぬ訳なんですが」
 少年の言葉には重みが一切無かった。俺にしてみれば広辞苑くらいの重さの話が、彼にとっては電子辞書くらいでしかないらしい。
「君は俺が死ぬって事をえらくあっさり言うんだね」
「僕達にしてみれば仲間が一人増えるという、ささやかなイベントに過ぎないんです。人間の死は」

 幽霊の少年は話を元に戻した。
「死に逝くあなたに贈る言葉があります」どこか聞いた事あるような台詞だった。「ナガオカさんは明日カエデに『夜、うちに来ない?』と言われます」
「明日、楓に?」
「ええ、そこでナガオカさんは『ああ、いいよ』と答えて下さい」
「それだけ?」
「はい」
「別にいいけど、一つ問題があるよね?」
「なんですか?」
「そのままだと、俺は楓の家に行かなくちゃいけない」
「ええ、そういう事になります」
「面倒なんだけど」
「ナガオカさん。死ぬのは嫌だって言ってませんでしたか?」少年は少し呆れて言った。
「そうだった。でも、俺はまだ君の事をあまり信用していないんだ」
「それでも、僕の言う事に従った方がいいです。まあカエデに家に誘われたら断りきれないとは思いますが」
 確かにそうだった。死ぬと言われた後で、少年の言うとおりに事が進み、家に誘われるのならば、俺は少年の言う事を聞かずにはいられないだろう。少年の予言が当たると分かれば、藁をも縋る思いだ。
「じゃあ、楓に誘われたら行けばいいんだろう?」
「ええ、それで充分です」
「あのさあ」俺は少年に聞いた。「俺が楓の家に行くと楓が危ないんじゃないのか?」
「いえ、彼女に危害が及ぶ事はありません」
「本当か?」
「ええ、本当です。彼女に何かあったら意味が無いじゃないですか」少年はこうも言った。「僕に任せてくれればすべて丸く収めて見せます」
 それならそれでいい。俺がうまく生き残って、楓にこの少年との出来事を話さなければ、楓は俺が死ぬ予定だったっていう事を知らずに済む。だから俺は何事も無かったように元の日常生活に戻れるだろう。

「今日、僕がナガオカさんに言うべき事はもうありません」
「そうかい。しかし、楓の奴は何で俺を呼ぶんだろう?」
 今まで、俺があいつの家に行ったことはない。あいつの家より俺の家の方が高校から近いから、家に行く必要があるときは大抵、俺の家に来る。
「なあ、本当に俺は楓の家に呼ばれるのか?」
 俺は未来を知る幽霊の、未来の話に疑問を抱いた。
「ええ、あなたは必ず呼ばれます」
「まあ、そんな事どうでもいいか。とりあえず俺は生き残るために頑張るよ」
「そうですね。がんばって下さい」
 少年は人事のように俺を応援した。
「じゃあ俺はそろそろ寝るから」
「そうですね。もういい時間です。では、おはようございます。」
 そう言えばここでは寝るときは『おはよう』だったな、と思い出しながら、俺は深い眠りに、つまり起床する事にした。





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Last updated  September 9, 2006 10:41:25 PM
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