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November 27, 2006
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 翌朝、僕は授業開始の一時間前に起きた。
 日の光はそれほど強いものではない。だからこそ目覚めのいい朝になったのだろう、と僕は勝手に推測した。
 とりあえず、目覚めの一杯だ。
 僕はコーヒーを淹れて、淹れたばかりのコーヒーをテーブルの上に置いた。
 そして僕はテーブルの上に置かれた紙を見て、聞かせる相手もいないのに感想を告げた。
「和泉さん、これはちょっと、簡単過ぎです」


 突然の事だった。
 朝起きたら和泉さんが居なくなっていたのだ。ただ、僕はなんとなくそんな気がしていたから、特に驚きもなかった。
 どうせいつもの事だ、すぐに帰ってくるに違いない、と思わなくもなかった。しかし、テーブルの上に書き置きが残されていた。それにはこう書いてあったのである。

 何というか、実に和泉さんらしい話だ。あの人はいつも何でも自分で考えて、何でも自分で行動してしまうのだ。大体、迷惑というのはこの部屋に住むところから始まっている。今更、誘拐事件の一つや二つどうって事はない。あの人にとってみれば、よく分からない奴と一緒に暮らすのは良くて、誘拐事件に巻き込むのは駄目らしい。……一体、どういう基準で判断しているのだか。

 でも僕はなんとなく思う。この手紙で大事なのは僕に謝る事ではないんじゃないだろうか。本当に大事なのはもっと他のところにあるのではないか、と。
『俺の責任だ』とか『面倒を持ってきて』とか『お前に迷惑を掛けるだけだ』とか、和泉さんは必要以上に自分の責任にしようとしていると思う。
 僕は気付いた事を漠然と考えてみた。考えてみると、僕には思い当たることがあった。いや、正確には今の僕にはそれしか思いつかないと言ったほうが正しい。昨日から意識していた事が答えだった。
 和泉さんは、僕がアランさんに適当な場所を教えてしまった事で自分を責めている、と思ったんだ。


 僕は和泉さんの予想通りに自責の念に駆られていた。
 僕の適当な道案内のせいで一つの家族を壊してしまった。一人の少年の心を傷つけ、一人の人間を殺してしまったのだ。
 こんなもの、僕にはどうしようもない。今更謝ったってアランさんは生き返らないし、時間が戻るわけでもない。
 あの誘拐事件は僕がちゃんと案内していたらあんな事にはならなかった。和泉さんは親切心でアランさんをうちまで連れてきたのに、僕のせいで死んでしまったんだ。

 そう、僕が、僕こそがこの事件を捻じ曲げた大きな要因だ。

 だから和泉さんは僕に責任はないのだと手紙に残したんだろう。この手紙は謝罪の手紙ではなく、責任の所在を書いた手紙なのだ。和泉さんは僕の代わりに罪を被って姿を消した。そうは言ってもこれは二人だけのやり取りに過ぎないのだから、実際に罰があるわけではない。二人の事件に対する認識がどうであるか、これが変わる程度のものだ。


「かなわないな」
 ああ、かなわない。和泉さんは気付いてしまうんだろう。人が悲しんでいる事や、何が悲しませているのかを。そして和泉さんはそれを解決しようと頑張るのだ。助けるためなら人の双眼鏡だって勝手にあげてしまうし、――本当に泥棒にだってなってしまう。
 とても馬鹿だけど、同時に、とてもすごい事だ。

 僕は残ったコーヒーを一気に飲み干して、深呼吸を一つした。時計を見るとそろそろ最初の授業が始まりそうな時間だ。バッグに必要な荷物を詰めて、部屋を出る。鍵を掛けながら、もうここの鍵穴を勝手に開けるような人は来ないんだろうな、と思った。でも、もう和泉さんに会う事もない代わりに、僕が自責の念に駆られる事もおそらく、ない。





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Last updated  November 27, 2006 10:34:46 PM
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