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和辻哲郎は大正末年に、非合理主義に向かう哲学の世界的傾向をいち早く洞察して、ニーチェ、キルケゴールの実存主義をとり上げ、日本に生の哲学受容の基礎を作りました。 ”和辻哲郎 建築と風土”(2022年3月 筑摩書房刊 三嶋 輝夫著)を読みました。 ”古寺巡礼””風土”などの著作で知られ倫理学の体系を打ち立てた和辻哲郎について、いまだかつて顧みられることがなかった、建築論の広がりと深さを示す試みです。 和辻は西洋哲学をベースに、日本の伝統文化、日本的共同体を理論的に再評価し、解釈学の立場から倫理学を形成しました。 同時に奈良飛鳥の仏教美術に新しい光をあてることによって、伝統思想の新側面を見いだしました。 さらに、ハイデッガーの”存在と時間”に触発されて、多彩な思想的活動を展開しました。 倫理学を人と人との間の学と捉える人間の学としての倫理学を発表し、いわゆる和辻倫理学を樹立しました。 特に、人間を間柄的存在とし、人間には個人と社会の二つの側面があるとしたことは、西洋近代の個人主義的人間観からの脱却をはかるものとして注目を集めました。 また、仏教や日本思想史、文学や美術、建築などの研究においても多くの業績を残しました。 特に飛鳥・天平の仏教美術や寺院建築様式について、单に表現形式の差を比較して理解するのでなく、表現様式の奥底の各時代の精神を理解することが大切だと説きました。 三嶋輝夫さんは1949年東京都生まれ、国際基督教大学教養学部人文科学科を卒業し、東京大学大学院人文科学科研究科倫理学博士課程を単位取得退学しました。 さらに早稲田大学芸術学校建築設計科を卒業し、東京大学文学部倫理学研究室助手、青山学院大学専任講師・助教授を経て、青山学院大学文学部教授を長く務めました。 専門は倫理学とギリシア哲学で、スイスバーゼル大学 哲学部Ⅰ類古典文献学及び哲学専攻課程に留学しました。 和辻哲郎は1889年兵庫県神崎郡砥堀村の、現、姫路市仁豊野に、医者の次男として生まれました。 少年時代から文学や思想に関心をもち、旧制姫路中学校を卒業し、第一高等学校に首席で合格し、1909年に第一高等学校を卒業しました。 同年に、後藤末雄、大貫晶川、木村荘太、谷崎潤一郎、芦田均らとともに、同人誌、第二次新思潮に参加しました。 岡倉天心やケーベルらに師事し、1912年に東京帝国大学文科大学哲学科を卒業し、同大学院に進学しました。 静かな環境のもとで卒論に取り組むため、藤沢市鵠沼にあった後輩高瀬弥一邸の離れを借りて執筆しました。 卒論完成と同時に、高瀬弥一の妹の照に求婚し結婚しました。 阿部次郎との親密な交流が始まり、また安倍能成とも終生交流しました。 1913年に紹介を得て夏目漱石の漱石山房を訪れるようになり、同年に”ニイチェ研究”を出版しました。 夏目漱石の木曜会に参加して夏目漱石の門人となり、大きな影響を受けました。 1915年に藤沢町鵠沼の妻・照の実家の離れに1918年まで住み、この間、別の離れに、安倍能成、阿部次郎も住んでいて相互に交流しました。 ここで、小宮豊隆・森田草平・谷崎潤一郎・芥川龍之介らの来訪を受けました。 1916年に漱石と岳父の高瀬三郎が死去し、この時期、日本文化史に深い関心を寄せ始めました。 1917年に奈良を旅行して古寺を巡り、1918年に東京市芝区に転居しました。 1919年に”古寺巡礼”を出版し、1920年に東洋大学講師となりました。 その後、東洋大学教授、法政大学教授、京都帝国大学講師・助教授として倫理学を講じました。 1932年に原始仏教の実践哲学の研究で、京都大学より文学博士号を取得しました。 実存主義の研究とともに、日本文化や日本人の精神的柱さらには日本の風土と文化的特色を世界的視点からとらえるなど、広範な倫理学の構築をめざしました。 京都大講師就任は西田幾多郎や波多野精一に招かれてのことで、京都大講師就任では西田から大きな影響を受けました。 38歳の時、文学省の研究員としてヨーロッパに留学し、ベルリンを拠点として研究しました。 イギリス、フランス、イタリアなども訪れましたが、そこでの見聞が後の風土論につながったと言われています。 日本に帰国後、東京帝国大学教授となり文学博士の学位を受けました。 また、雑誌・思想の編集に参画し、日本倫理学会会長を務め、文化勲章を受けるなど、各分野で幅広い学問研究に取り組みました。 45歳のとき、人間の学としての倫理学を発表しました。 これは、西洋思想を批判的に受容した独創的な倫理学を講じたもので、西田幾多郎の影響によるところが大きかったようです。 その後、東京大学教授として倫理学の講義を担当するかたわら、自己の倫理学体系の完成につとめました。 和辻についてはすでに幾多の書物と論文が書かれていますが、そのほとんどは倫理学に関するものです。 建築論については、桂離宮論を取り上げたものは若干あるものの、建築論全体を主題的に取り上げた論考は皆無に近いです。 ところが、独立した建築論である”桂離宮”のみならず、”古寺巡礼”や”イタリア古寺巡礼”においても、意外なほど多くの建築についての精緻な観察と分析に出会います。 和辻がその哲学的出世作にして代表作とも言うべき”風土”において、すでに時間性に対して空間性を対峙させ、具体的人間存在にとっての後者の枢要性を力説しました。 それとともに、「ウチ」と「ソト」という概念を手がかりとして、間柄と建築の相関を鮮やかに析出して見せました。 実際、倫理学者の無関心ぶりと対照的に、我が国を代表する建築家、建築史家は、和辻の風土論と建築論に一方ならぬ関心を示してきました。 本書は、従来、哲学プロパーの研究者たちによって顧みられることのあまりなかった、和辻の建築論に焦点を合わせています。 その目的は、それが内包する人間学的・建築学的な射程を、その広がりと深さにおいて示すことにあります。 我々は先ず、若き和辻とともに大和路に足を運び、新薬師寺を皮切りに、唐招提寺、法隆寺などの名刹を訪ね、和辻の案内のもと、その建築の醍醐味を味います。 次いで留学先のドイツからフランスを経てイタリアを旅した和辻一行に従って、ジェノア、ローマ、ペストウーム、シシリーの古代遺跡を巡ります。 アルプスの南を旅した後に、我々は和辻の本来の滞在地であるドイツに戻って、アルプスの北の建築と風土、さらには人と人の間柄の独自性に目を向けることにします。 我々の旅は大和路に始まりましたが、ヨーロッパの旅を経て最後に訪れるのは、再び日本の桂離宮です。 我々は和辻が著した”桂離宮-印象記””桂離宮-製作過程の考察”桂離宮-様式の背後を探る”の三冊をガイドに、日本を代表する名建築の生成と美の秘密に迫ることとします。第1章 間柄と建築ー『風土』における「ウチ」の分析/第2章 天平の甍ー『古寺巡礼』と唐招提寺論/第3章 建築と風土ー『イタリア古寺巡礼』と素材への注目/第4章 アルプスの北ー『故国の妻へ』とドイツの建築/第5章 面と線の美学ー『桂離宮』をめぐって[http://lifestyle.blogmura.com/comfortlife/ranking.html" target="_blank にほんブログ村 心地よい暮らし]和辻哲郎 建築と風土 (ちくま新書 1643) [ 三嶋 輝夫 ]古寺巡礼 (岩波文庫 青144-1) [ 和辻 哲郎 ]
2022.09.17
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Netflix=ネットフリックスは、カリフォルニア州ロスガトスに本社を置く、アメリカのオーバー・ザ・トップ・コンテンツ・プラットフォームです。 ”NETFLIX 戦略と流儀”(2021年10月 中央公論新社刊 長谷川 朋子著)を読みました。 世界190以上の国と地域で総有料会員数2億人強のトップシェアを誇るネットフリックスについてその独自の戦略と流儀を解説している。 1997年にリード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフによって、カリフォルニア州スコッツバレーで設立されました。 初期はオンラインのDVDレンタルサービスを提供する会社として米国内で発展し、その後2007年ころから動画配信を行う会社として発展し世界規模の企業となりました。 アメリカ、オランダ、ブラジル、インド、日本、韓国、イギリス、シンガポール、フランス、スペイン、メキシコ、オーストラリア、ドイツ、イタリア、カナダに支社があります。 世界各国のコンテンツを制作・配信しており、2022年4月現在の加入者数は2億2200万人です。 ストリーミング配信では既存のコンテンツに加え、独占配信や自社によるオリジナル作品も扱っています。 オンラインDVDレンタルに関しては、国内で10万種類、延べ4200万枚のDVDを保有し、レンタル向けに1600万人の顧客を得ています。 ネットファースト展開というビジネスモデルでエンターテインメント業界へ風穴を開け、既存の慣習を壊しながら驚異的な成長を遂げています。 長谷川朋子さんは1975年生まれのテレビ業界ジャーナリスト、コラムニストで、現在、放送ジャーナル社取締役です。 ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、国内外の映像コンテンツビジネスの仕組みなどの分野で記事を執筆しています。 海外流通ビジネスを得意分野とし、フランス・カンヌで開催の映像コンテンツ見本市MIPの現地取材を、約10年にわたって行ってきました。 ATP賞テレビグランプリの総務大臣賞の審査員や、セミナー講師、行政支援番組プロジェクトのファシリテーターなども務めています。 世界の国と地域でトップシェアを誇るネットフリックスの存在は、唯一無二のものです。 コンテンツ市場で流通革命を起こし、ハリウッドの勝ち組と当たり前のように肩を並べ、急成長ぶりをまざまざと見せ続けています。 配信ビジネスとテクノロジーの掛け合わせによって、ビンジウォッチング=一気見という新しい視聴スタイルも生み出しました。 ネットフリックスのビジネス戦略は、遠い国の大企業のサクセスーストーリーに終わりません。 かれらが日々提供している生き生きとしたコンテンツは、我々の心にも生活の中にも入り込んでいます。 世界中の企業がコロナ禍に見舞われている時でさえ、ネットフリックスは驚異的な成長を見せつけています。 2020年3月期には1600万人近い新規有料加入者を獲得し、過去最大の加入者数増を記録しました。 同年3月末の段階で既にネットフリックスの有料会員総数は1億8286人に上りました。 動画配信サービス全体で10億人規模の市場になりましたが、その牽引力を担っているのは間違いなくネットフリックスです。 一話数億円規模のドラマをネットファーストで展開するような、バカげたビジネスモデルはあり得ないと、当初、否定的な意見ばかりがささやかれていました。 ですが、2013年公開のオリジナルドラマ”ハウス・オブ・カード 野望の階段”の成功が、その状況を一気に変えました。 アメリカではケーブルテレビからネットフリックスに乗り換える、コード・カッティング現象まで起こってしまいました。 すると、世界中のクリエイターやプロデューサーたちが、ネットフリックスが求める企画を探り、情報収集に乗り出していきました。 その頃はテレビ業界内で、テレビと動画配信の対立が懸念され、テレビは終わりゆく旧コンテンツだという認識が世界中で指摘され始めました。 ネットフリックスのやり方こそが、コンテンツビジネスの新たな可能性を見出すものとして急速に支持されていったのです。 しかし、反対する声も保守派の間では根強く、2017年のカンヌ映画祭ではネットフリックス作品を受賞の除外対象に挙げる騒ぎにまで広がりました。 異端児扱いされながらも、ネットファースト展開にこだわったことが1つ目の特色です。 2019年の第91回米アカデミー賞で、ネットフリックス独自配信映画の”ROMA/ローマ”が、監督賞・外国語映画賞・撮影賞の主要3部門でオスカーまで勝ち取りました。 この快挙はオリジナル作品に力を入れていたネットフリックスのビジネス戦略の勝利と言えます。 コンテンツカがあれば、一般ユーザーから批評家からも支持されるようになります。 だからこそ単に作品を並べるだけでなく、有望なクリエイターを積極的に登用し、独自コンテンツを売りにしてきました。 社会現象を起こすコンテンツも数々生み出され、2019年1月1日に全世界配信された、こんまりこと、近藤麻理恵氏のリアリティショーはそのひとつです。 このユーザー第一主義が2つ目の特色です。 時代の先を読む力も強みであり、ハリウッドだけが世界を制する時代は終わると予見しています。 ネットフリックスは世界各地に散らばる作り手たちをすくい上げ、多言語、多文化に触れることができるコンテンツ群を増やしていきました。 各国でオリジナル制作の作品を次々と手掛け、日本の1980年代のビデオ業界を舞台にした『××監督』は、日本発世界ヒットの代表例になりました。 この日本上陸4年目のヒットによって、日本でも会員数が急増し、趣味がネットフリックスと表現されることも一般化してきています。 そして、世界ヒットを狙える日本のアニメを生み出す好循環にもつなげています。 このローカル発グローバル戦略が3つ目の特色です。 コロナ禍の世の中はかつてないほどの経済不況に陥り、新しい生活様式が探求され、社会で当たり前とされていたことも見直されています。 巣ごもり消費の広がりをきっかけに、エンタメ業界だけでなくあらゆる業界の潮目も変わることになるでしょう。 そんな時代には、既存のヒットの法則を打ち破り、独自の流儀を持ってのし上がってきた、ネットフリックスの戦略が生き残り策のヒントになるでしょう。 本書は、ネットフリックスが与えた影響力について国内外の視点からみるビジネス論です。 加えて、作り手たちの野望に触れるヒューマンドキュメントでもあります。 筆者は、先の見えない状況のなかで、本書が少しでもビジネスの糸口を見出すことのできる一助になればといいます。第1章 なぜ、ムーブメントを作り出すことができたのか/第2章 なぜ『××監督』の大ヒットが生まれたのか/第3章 動画配信の覇者ネットフリックス躍進のカギ/第4章 米・日プレイヤーの素顔に迫る/第5章 映像コンテンツ革命児のネクストプラン[http://lifestyle.blogmura.com/comfortlife/ranking.html" target="_blank にほんブログ村 心地よい暮らし]NETFLIX 戦略と流儀 (中公新書ラクレ 744) [ 長谷川 朋子 ]【中古】 NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く / パティ・マッコード, 櫻井祐子 / 光文社 [単行本(ソフトカバー)]【メール便送料無料】【あす楽対応】
2022.09.03
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