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「アダムとイブの物語は聞いたことあるか?」
「あん? えー……あああれか、楽園にいたアダムとイブが、禁断の果実を食べて楽園から追放されるっての。ブロイゲルがパラレルアポートで引っ張ってきた本に載ってたな」
「正確には知恵の実だけどな。似たような話はこっちにもある。そのせいで神の罰を受け、女は妊娠の罪を負い、男は労働の罪を負った。……で、考えたことがある」
「? なんだよ」
「人間はたいていの奴が、自由こそ尊ぶべきと言う。しかしこの物語では神は禁断の果実を食べる自由を否定した――そのせいで人は楽園から追放され、出産と労働という苦痛を与えられた。知と自由を手にした代償にな。……もし」
「…………」
「アダムとイブがそうなることを知っていたら、誰もが欲するはずの自由を手にするため、食していたのかな……?」
「氷結将軍ピピニー・マクレーン……ヒストルレイン山脈の戦いで戦死したと思っていたが、ご健在だったとはね」
「…………」
「フン……我ながら馬鹿なこと言ったもんだ。お前らに『死』なんぞ存在するわけがないよな。それにしても一人きりか? 部下とかいないのかよ」
「まあそれなりには……でもほとんどいないも同然だがね」
「どういうつもりだ? ……まあ、だいたい予想はつくが、それにしてもこの低人数は想定外すぎる。全軍動くこともあり得ると思っていたのに。八年ぶりの戦術コード赤がこんなんでいいのかよ」
「相変わらず人を逆なでする喋り方をする……それには理由があってだな、これは、戦いというより儀式なんだよ」
「……儀式?」
「やらざるを得ないのだよ……エリック・ラングレンが死んでしまったのだからな」
「なっ……エリック司令官が!?」
「くっ、ぐおっ!」
「せいっ! せりゃあ!」
ギン! ガキィン!
「なんて奴だ……あれでも元正統王国軍一番槍だってのに、押されてやがる……相当の手練だぜあの嬢ちゃん」
「おやおや、人の心配していいんですか?」
ピシュピシュ!
「うおっ!」
「ちい、外しました」
「畜生致命傷コースストレートで撃ちやがって、ホント上手いからなお恐ろしい奴……てか」
「…………」
「お前さっきから何黙りこくってんだよ! 援護しろよ! お前庇うのに精いっぱいで応戦すらできな……」
「……どうして」
「え?」
「どうしてそこまで逆らうの? どうしてそこまで言うこと聞かないの? 大体わかってるんでしょ、フォルトの考えくらい」
「いや……それは……」
「まあ、だいたいは」
「だったらなんで邪魔すんのよ!」
「わっ!」
「あいつはあんたらのため思ってやってんのよ!? その気持ちがわかってるなら、どうして素直に受け止めようとしないのよ! あいつはあんたたちに――」
「笑わせないでよ」
「――な」
「ぴ、PK?」
「誰が巻き込まれたくないって言ったの? 誰が迷惑だなんて言ったの? そんな気遣い最初からいらないの……それも、何も言わず一人で勝手に決めた優しさなんて、押しつけがましいだけだよ」
「ぴ、PKの怒っている姿など久しぶりだ……」
「言う通りだな。何が起こっているのかは知らんが、我々を勝手に蚊帳の外になどしおって許せん。今すぐあの馬鹿を取り押さえて……」
「そいつは不可能だ」
「え?」
ドォン!
続く
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