フリーページ
コメント新着
「……剣とは、何のためにあると思う?」
「何の、ため? それは勿論、人々を、国を守るために……」
「ふふ、優等生らしい解答だな。しかし、だったらその解答が矛盾してることにも気づいてるんじゃないか?」
「…………」
「お前が色々悩んでるのもわかる。でも、何も解答は必要ないんじゃないか?」
「え?」
「優等生だなやっぱり。頭だけで結論を急ごうとする。そこまで急くこともないさ。周りと自分を見つめなおせ。拙速で物事を推し進めようとするな。本当に必要なのは間違えないことでも、決断することでもない。自分が満足する答えに、どんなものでもたどり着くことだ」
「……では、一つお聞かせください」
「なんだ?」
「貴方は……どうして剣を振るうのですか?」
「おっと……改めて話すのは恥ずかしいな。まあ、使い古された言葉だが、これが私の唯一の理由だよ」
「貴族が貴族たる理由を示せ――それだけさ」
「……う、うう……ん、ここは……」
「ど、洞窟!? どうして私がこのようなところに……あ」
「そうだった……クリス殿かの地図を頼りにここまで来て、うっかり足を滑らせたんだ……なんて間抜けな」
「ううむ……ずいぶん滑り落ちたようだな。これを昇っていくのは無理だ。しょうがない。道は続いているようだし、歩くか。しかし、クリス殿もよくもまあこんな山奥に封印したものだ。まあ、『魔剣』がそんな危険なものだとすれば、これでも足りんくらいなのかもしれんが……」
『……山奥の廃棄された研究施設? そんなところにあるのですか?』
『ええ。昔あそこに知り合いが勤めていてね、閉鎖されたけど設備は残ってるから、そこに置いといたの。ちょっとやばい研究してたらしくて、機密性と防犯は十分だから』
『どうしてそんなところに……処分してしまえば済んだでしょうに』
『そうね、言ってみれば、私もカードが欲しかったというとこかしら』
『カード?』
『あの『魔剣』は存在自体が戦術兵器そのもの。『魔剣』自体の力だけじゃなく、フォルトにすら扱えなかったという事実がね。だからこそ、廃棄するか所有しておくか戦いの後ずいぶん揉めたのよ。私が預かっておく形にしたけど、フォルトは廃棄したものだとばかり思ってるし。……でもね』
『?』
『必要だと思ってたから処分しなかったの。正直、あの頃はフォルトの奴すぐに死ぬと決めつけてたから』
『な!? 何故そんなことを……あ』
『そ。あいつの持病、相当悪かったからね。ビリーの腕を甘く見てたわけじゃないけど、八年経ってピンピンしてるのが今でも信じられないわ。……ま、ピンピンってわけじゃないんでしょうけど』
『なるほど。つまりフォルトが倒れた時のために『魔剣』をとっておく必要があると思い、こっそり隠していたわけですか』
『まあ、それもあるけど……どちらにしろ、私には扱えないから手元に置く意味がなかったの。だから安全そうな場所に隠していたわけ。それを拾いに行くなら、地図あげるけど、本当に行く気?』
『はい。覚悟は先ほど申し上げた通りです』
『わかってる。もう何も言わないわ。ちょっと待ってね、たしかこっちに……あ』
『ど、どうかしましたか?』
『なんでもないわ。ちょっと目の調子が悪いみたい』
『目? その目は……』
『……義眼よ。八年前の戦いで一頓着あってね。まあ、アナライズツールも兼ねてるから便利なんだけど、精密機械は華奢でいけないわね。あった、これよ』
『ありがとうございます。それでは……』
『待って、やっぱり一つだけ聞かせてもらっていい?』
『――はい、なんでしょう』
『どうして貴方は、そこまで覚悟できるの?』
『――覚悟など、していないのかもしれません』
『え?』
『正直、自分もその解答を抱いていません。ですが、私の師はこう申してくれました』
『貴族が貴族たる理由を示せ――剣の本分、その身で果たせ、と』
つづく
PR