<登場人物>
・ 雪吹 月永(いぶき るな)
ヒロイン、20歳、大学2年生
白夜(はくや)とは小学生からの幼馴染み
・ 冬城 白夜(とうじょう はくや)
月永(るな)の幼馴染み
同じ大学に通う20歳、2年生
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「月永(るな)、これ。」
「よかったら、お守り代わりに受け取って。」
「大丈夫!手術、ゼッタイに成功するよ!」
『うん!白夜(はくや)、ありがとう!』
『ずっとずっと大切にするね!』
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私は 雪吹 月永(いぶき るな)。
しんしんと雪の降る夜、
幼馴染みの 冬城 白夜(とうじょう はくや)から
お守り代わりのプレゼントをもらった。
数日後、私は手術を受けるため
入院が決まっていた。
この日は、
入院する前に2人で遊びに行かないかと、
白夜(はくや)が誘ってくれていた。
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私は小さい頃から身体が弱かった。
入退院を繰り返し、
学校に行けたり行けなかったりだった。
そのことで周りと距離ができ、友達が少なかった。
それでも、白夜(はくや)はいつでも私の側にいてくれた。
私が久しぶりに登校して、
クラスメイトと打ち解けられないときも、
白夜(はくや)が間に入ってくれた。
学校で寂しい思いをさせまいと、
頑張ってくれる白夜(はくや)の優しさが嬉しかった。
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私は、そんな白夜(はくや)と一緒にいるときが、
いちばん安心できた。
幼馴染みで同い年だけど、
頼れるお兄ちゃんのような存在だった。
そんな白夜(はくや)への気持ちが恋心になったのは、
いったい、いつからだろう。
思い出せないくらい、ずっとずっと前。
けど、もしこの思いを伝えたら、
関係が壊れてしまうんじゃないか。
今まで通り、
白夜(はくや)と一緒にいられなくなるんじゃないか。
そう思うと怖くて、私は思いを伝えられずにいた。
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僕は 冬城 白夜(とうじょう はくや)。
先の通り、幼馴染みの 雪吹 月永(いぶき るな)へ、
初めてプレゼントを贈った。
今回の入院で手術を受ける彼女を、
少しでも元気づけたかった。
僕の両親は共働きで、ほとんど家にいなかった。
海外出張も多く、僕は子どもの頃から1人で過ごしてきた。
両親は僕に寂しい思いをさせまいと、
いろいろ与えてくれたが、僕の心の穴は埋まらなかった。
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そんな、ある冬の日に出逢ったのが月永(るな)だった。
きれいな銀髪、白く透き通る肌、儚げな表情。
僕は、まるで雪の妖精のような月永(るな)に見とれた。
始めは、互いの寂しさが重なっただけかもしれない。
けど、僕と月永(るな)はすぐに意気投合した。
学校帰りには、公園で日が暮れるまで語り合った。
夏は2人で川へ遊びに行ったり、のんびり昼寝したり。
両親にほとんど会えない僕の心は、
月永(るな)と一緒にいる時間に救われていた。
月永(るな)は同い年で幼馴染みだけど、
妹のような存在…だと思っていた。
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月永(るな)は子どもの頃から
入退院を繰り返していたことで学校に馴染めずにいた。
僕は人と話すのが得意じゃなかったけど、
月永(るな)とクラスメイトが打ち解けられるよう、
頑張って間に入った。
それで月永(るな)に友達ができたら、
僕は自分のことのように嬉しかった。
月永(るな)は自分の境遇を、決して言い訳にしなかった。
身体が弱くても、友達と馴染めなくても、
前向きに生きようとしていた。
僕は、そんな彼女の強さに心惹かれていた。
月永(るな)と一緒にいると、生きる勇気をもらえた。
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男女の幼馴染みは、
思春期になると疎遠になることも多い。
けど、僕と月永(るな)はそんなことなかった。
同じ小学校、中学校、高校。
そして同じ大学に合格した今でも、
僕らは当たり前のように一緒にいた。
そう…当たり前のように…。
彼女の存在が近すぎて、
僕はいつしか芽生えた恋心を打ち明けられずにいた。
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「入院?」
『うん。』
「最近、体調良くないの?」
『大学に入ってから体調よかったよ。』
『今回は期間も空いたし、念のため検査入院。』
「そっか。いつから?」
『●月●日から。』
「わかった。またお見舞い行くね。」
『ありがと。待ってるね。』
大学2年生の冬。
私は高校以来、数年ぶりの入院が決まった。
白夜(はくや)に言った通り、体調はずっと良かった。
日常生活にも支障ない。
そう、念のため、検査するだけ…。
大丈夫、大丈夫。
私は白夜(はくや)の前でも、自分にそう言い聞かせた。
胸の奥に生まれた小さな違和感から、目を逸らしたくて。
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「ねぇ月永(るな)、今週の土曜、空いてる?」
『空いてるよ。』
「もし体調が大丈夫なら、遊びに行かない?」
『ありがと。行く。』
「無理しないでね。待ち合わせ場所は…。」
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入院を来週に控えた土曜日。
私と白夜(はくや)は街へ遊びに来ていた。
そういえば私たち、いつも一緒にいるのに。
2人で食事したり、映画を観たり、水族館へ行ったり。
まるでデートのように遊ぶのは初めて。
「水族館、楽しかったね。」
『うん。お魚さん、きれいだった!』
「疲れてない?少し休もっか。」
『大丈夫だよ、ありがと。』
白夜(はくや)はずっと、私の体調を気にかけてくれた。
まったくもう…。
こんなふうに遊ぶのは初めてだけどさ。
こんなときまで、頼れるお兄ちゃんなんだから。
(…人の気も、知らないで…。)
じれったいけど、
やっぱり私は白夜(はくや)といるときが、いちばん安心する。
白夜(はくや)も、同じ気持ちでいてくれたら、嬉しいな。
私はずっと、
溢れそうな恋心を隠せた自信がなかった。
ーー
楽しい時間は、あっという間。
辺りはすっかり暗くなり、雪がちらつき始めた。
初めてのデートで、私たちが最後に訪れた場所は、
私たちが初めて出逢った公園だった。
「今日は本当にありがとう。すごく楽しかった。」
『私こそ、ありがとう。私もすごく楽しかったよ。』
「よかった。」
「は、初めてだよね。その…デートみたいなこと、するのって。」
『う、うん。初めて…だよね。』
嬉しさと気恥ずかしさで、しどろもどろになる私。
--
「ねぇ、月永(るな)。」
白夜(はくや)は私の名を呼びながら、
手に持った小さな箱を差し出した。
「これ、よかったらお守り代わりに、受け取ってくれないかな。」
「大丈夫、ゼッタイ完治する。月永(るな)だもん。」
『お守り…?!それってどういう…?!』
「たぶんだけど、今回は何か大きな治療、するんでしょ?」
「それに、迷ってるみたいだから、成功を祈って。」
『し、知ってたの…?!私が手術を受けること…。』
「手術するんだ…。やっぱりそういう話だったんだね。」
「知らなかったよ。」
『じ、じゃあ…私が迷ってるって、どうしてわかったの?』
「そりゃあわかるよ。」
「ずっと、いちばん近くで月永(るな)を見てきたんだから。」
--
あぁ、敵わないや。
私のこと、白夜(はくや)にはぜんぶお見通しだ。
表情のちがい、迷い、思い詰めた心。
白夜(はくや)を心配させまいと、気丈に振る舞う私。
ぜんぶ、ぜんぶ、気づいてた。
なのに、私が話しやすいよう、
いつもと変わらず接してくれたんでしょう?
私は正直に話した。
入院の理由は察しの通りなこと。
手術を受けるか迷っていること。
そして…。
ーー
「余命…3年…?」
『うん。手術を受けなければ私、長くてあと3年…なんだって…。』
「…。」
『…黙っててごめんね!ほんとに…ごめん…。』
『白夜(はくや)を心配させたくなくて…。』
「そっか。ありがとね、月永(るな)。」
「僕のことを気づかってくれて。」
『…怒らないの?』
「怒らないよ。」
「確かに話してほしかったけど、僕のためにしてくれたことだから。」
『は、白夜(はくや)を信じてなかったわけじゃないよ!』
『ただ…白夜(はくや)に負担をかけたくなかったの…。』
「うん、わかってるよ。」
「やっぱり月永(るな)は優しいね。」
…私、何を心配してたんだろう。
私の幼馴染みはこんなにも大きく、あたたかく、
私を包み込んでくれる人。
隠し事なんて、しなくてよかったんだ。
--
「その手術は成功するの?」
『成功率は、30%だって…。』
「30%…。」
『だから私、迷ってた。』
『もし失敗したら、白夜(はくや)に会えなくなっちゃう。』
『手術を受けなければ、あと3年は一緒にいられる…。』
『どっちを取ればいいんだろう、って。』
「…僕は月永(るな)と、これからも一緒にいたいよ。」
「けど、それは月永(るな)の意志で決めてほしい。」
「月永(るな)がどっちを選んでも応援する。」
『…うん。ありがと。』
『ずっと迷ってたけど、私、決めた!手術受ける!』
『白夜(はくや)と、お守りが背中を推してくれたから!』
…こうして私と、幼馴染との初デートは幕を閉じた。
翌週、私は数年ぶりに、病室から外を眺めていた。
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⇒ 後編 へ続く
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