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紙面に落とされたアリスメンディの確固たる意志を感じさせる瞳が、蝋燭の炎を鋭く反射させている。しばしの後、アリスメンディは、おもむろに顎を引いた。「いかにも。わたしが書いたものだ」(──やっぱり……!)かなりの確信度でそうだろうと思ってはいたが、アリスメンディ本人から己が書いたと聞かされると、改めてその重みが心に迫る。それは、アンドレスのみならず、ジェロニモたちも同じようで、ひんやりしていたはずの室内にいつしか熱気が漂いだしているように感じられた。「モスコーソ大司教があなたを血眼になって探していることはご存知だと思います」と、モソプキオ村で起こったことなどをアンドレスがかいつまんで話すと、アリスメンディは「うむ」と物思わし気に頷いた。それから、真剣な表情で話に聞き入っていたマリオに視線を向けて、真摯な口調で詫びる。「ロカ殿やそなたの村人たちに迷惑をかけて、誠にかたじけない」「いえ、とんでもありません!ロカ神父も、村のみんなも、私も、アリスメンディ様のお考えに賛同してますから。あいつらが押し寄せてきたとき村の自警団の力が及ばなかったのは悔しかったけど、でも、運良く、ここにいる4人が助けてくれました。きっと、これも神様のお導きなんだと思います。だから、アリスメンディ様も、モスコーソなんかに絶対負けないでください!」澄んだ大きな瞳に力を宿して毅然とした眼差しをアリスメンディに向けているマリオの様子に力を得たように、アンドレスも胸襟(きょうきん)を正して真っ直ぐアリスメンディに向き直る。「アリスメンディ殿、今回あなたに会いにきた一番の理由を言わせてください!インカ軍にあなたを匿(かくま)わせていただけないでしょうか?トゥパク・アマル様もそれを望んでいるはずです!!」ひとキャラメッセージ「今回も読みに来てくれて、本当にありがとうございます ところで、最近ナスカでは、こっちの考古学者と日本の研究者の共同研究で、AIを活用して新たな地上絵が300個以上も発見されたらしいよ~」byアンドレス☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2024.10.23
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「俺は、この植民地生まれです」ヨハンの答えにアリスメンディは「そうか」と頷く。「だとすれば、そなたも、本国スペイン出身のスペイン人たちから、いわれのない差別を受けてきたのではないか?」無言で頷くヨハンに、そして、他のメンバーたちにも目を向けながら、アリスメンディはさらに続けていく。「同じスペイン人同士でさえ、本国出身か植民地出身かで差別し合い、植民地出身というだけで仕事も生活も良いものは与えられない。インカ族や黒人の者たちなら、なおさらだ。確固としたヒエラルキーを築き、支配・被支配の楔(くさび)を幾重にも打ち込み、上部にスペイン出身の白人たち、さらに頂点にはスペイン出身の王族や高位の役人たちが君臨して富も享楽も独占する社会、それがこの国の実態なのだ。しかも、それが神の望む世界だなどと言って正当化している──」次第に場の雰囲気が煮詰まってきたところで、アンドレスは思い切って本題を切り出そうと、懐から大事そうにしまっていた紙片を取り出した。彼はその紙のしわを丁寧に伸ばしながら卓上に広げる。燭台に照らされた紙面は風雨にさらされ色褪(いろあ)せてはいるが、そこに書かれた文字の放つ威光は力強い。何者かによって、この植民地全土に貼られた書面。その内容はおおよそ下記のとおりであった。『「キリスト教」を名乗る権力者たちは、主イエス・キリストではなく財宝を神と崇め、それらを手に入れるために先住民を利用してきた。権力者たちの貪欲は限りなく、民を苦しめ、搾取し、殺害した。これらの行為はイエス・キリストの教えとは全く相容れないものである。虐げられた人々は立ち上がり、解放を求める時である。今こそ権力者たちは正当な戦いに直面することになるであろう。権力者たちは奪い取ったものを返済し、犯した罪の償いをしなければならない。真の神は常に苦しむ者の側にいる。(※貼り紙の詳細な内容はこちら)』これを書いたのが誰であるのか、アンドレスは初めて目にした時から確信があった。が、今、改めて口に出して問うてみる。「この貼り紙の文章を考案したのは、アリスメンディ殿、あなたですか?」ひとキャラメッセージ「久々の更新だけど今回も読みに来てくれて、ありがとうございます!日本は猛暑らしいので、熱中症とかに気を付けて良い夏を過ごしてくださいね」byまりお【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2024.07.24
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アリスメンディはゆっくりと首を横に振った。「いや、ラス・カサス殿も聖ローザも、ふたりともイエズス会ではなくドミニコ会に所属していた。今、わたしが世話になっている聖カタリナ修道院もドミニコ会に属している。そなたたちが訪れたモソプキオ村のロカ殿も、ドミニコ会の神父であったろう?そなたたちインカ族や先住民の人々の不当な境遇に心を砕いてきたのは、決してイエズス会の者たちだけではないのだよ。それに、ジェロニモ、そなたたち黒人の者たちは、インカ族以上に苦難が深かったはず。聖ローザのように黒人たちにも手を差し伸べた聖職者は、この国ではかなり限られていたからな……」ジェロニモは「はい」と、噛み締めるように返事をした。それから熱を帯びた口調で続ける。「そんな中でも、トゥパク・アマル様はインカ族だけを助けようとするんじゃなくて、黒人奴隷のオレたちにも目を向けてくれました。黒人奴隷解放令を出してくださったんデス!だからオレは、トゥパク・アマル様についていこうと決めました。そのトゥパク・アマル様に忠誠を誓っているアンドレス様にも、ついていこうっテ!」「──ありがとう、ジェロニモ!」改めて絆を確認するかのように視線を交わし合っているジェロニモとアンドレスの横で、飄々とした表情を崩さぬヨハンにもアリスメンディは目を向ける。「ヨハン、そなたは、スペインから渡ってきたのか?それとも、このペルー副王領で生まれたのか?」ひとキャラメッセージ「日本はそろそろ梅雨のシーズンと聞きます皆さま、どうかお身体にお気を付けてお過ごしください。お読みくださり、いつも本当にありがとうございます」byこいゆーる【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2024.06.04
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燭台の光を反射して、マリオのペンダントの先に付いているメダイ──金属製の小さな銀色のメダル──が、キラリと煌めきを放つ。「へえ、綺麗だね」思わず呟いたアンドレスに、マリオは「このメダイには、聖ローザの肖像が彫られてるんだ。だから、肌身離さず持ち歩いてる!」と、誇らしげに微笑んだ。そんなマリオの様子に、もっと詳しく知りたそうなジェロニモ、ペドロ、ヨハンに向けて、アリスメンディは説明を付け加える。「ラス・カサス殿や聖ローザが活躍したのは、今から200年ほど前の16世紀に遡る。ラス・カサス殿(Bartolomé de las Casas)は、インカ族などの先住民に対するスペイン人の悪行に反対し、その権利擁護に奔走した宣教師だ。植民者による残虐行為を報告書にまとめ(『インディアス破壊の簡潔な報告』『インディアス史』)、スペイン王に直談判した社会改革者でもあった。一方の、聖ローザも16世紀の聖女だが、強い信仰心と清貧を貫き、過酷な困窮状態にあるインカ族や黒人の者たちに手を差し伸べ、病院のような場所を築いて診察するなどしていた。首府リマを拠点に活動したことから『リマのローザ(Santa Rosa de Lima)』と呼ばれている。(※実話として、Santa Rosa de Limaは、1671年に教皇クレメンス10世によって列聖された。アメリカ大陸(旧西インド諸島)出身の人々の中で、カトリック教会による正式な聖人認定を受けた最初の人物)」自分たちに真摯に語って聞かせてくれているアリスメンディの言葉に惹き込まれるように、ペドロが疑問を口にする。「ラス・カサス様や聖ローザ様も、アリスメンディ様と同じイエズス会の方々だったのですか?」ひとキャラメッセージ「聖ローザたちが活躍した16世紀は俺たちの時代より200年位前だけど、ちょうどインカ帝国が侵略された頃だから、今以上に大変だったろうな…💦」byアンドレス【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2024.04.18
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アリスメンディは、神父らしい面持ちで、次のように語った。「わたしを匿(かくま)うことを願い出てくれた聖カタリナ修道院の修道院長が、ラス・カサス殿や聖ローザを崇敬している人物なのだ。修道院長という立場上、修道女たちを危険にさらすわけにはいかないから表向きは解放闘争に参加はできないが、水面下で支援したいと申し出てくれてね」そこで彼はいったん言葉を切ると、視線を落として物憂げに続けた。「──かといって、わたしとしても修道院を危険にさらすわけにはいかないから、そう長居をするつもりはないがね」「ラス・カサス殿といえば、アリスメンディ殿と同じようにスペイン人の聖職者の方ですよね。聖ローザはスペイン人とインカ族の混血児ですが、やはり敬虔な聖職者だったかと」そう応じたアンドレスに、アリスメンディは「ほう、よく知っているな」と、鋭くも今は穏やかな光を湛えた眼差しを向ける。「はい、一応、俺も以前は神学校に通っていましたので。…って言っても、俺の場合は聖職者になるためじゃなく、インカ皇族や貴族は強制的にクスコの寄宿制神学校に入れさせられていたってだけですが。俺たちを囲い込んで、危険な思想に触れさせないよう監視するための教育システム。スペイン人の支配者たちが考えそうなやり方です」アリスメンディも同意する。「うむ。だが、そのようなスペイン側に都合のいい思惑も、結局は無駄だったということになるな。こうして、そなたたちは植民地の圧政に対して反旗を翻すことになったのだから。いずれにしろ、アンドレスの言う通り、ラス・カサス殿や聖ローザはスペイン人の血を引きながらも、当地の民のために献身的に行動した聖職者だった。活躍していたのは、もうずいぶん昔──それこそ、インカ帝国が侵略された渦中の頃だったがね」すると、マリオも瞳を輝かせながら言葉を挟んだ。「私も聖ローザは大好きだ。ほら、お守りも持ってる!この修道院を去る時、院長先生がくださったんだ」そう言って、マリオは衣服の下に提げていたペンダントを首元から引っ張り出した。ひとキャラメッセージ「微妙な区切りだけど、また次回! 今回は名前だけだったラス・カサス神父や聖ローザについても、次回また話しが出るみたいだよ~」byまりお【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2024.03.08
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やがてアンドレスが口火を切った。「アリスメンディ殿、あなたが英国から運んできて我々に供与してくださった武器は、先日のアレキパ砦戦でとても助けになりました。本当にありがとうございました」「役にたったのならばよかった。ところで、今、戦況はどのようになっている?私も情報は集めているが、実際に戦ったそなたたちから聞くのが一番であろうからな」アリスメンディの問いにアンドレスは頷き、最近の戦いの様子について以下のように説明していく。洋上での海戦は英国艦隊がスペイン艦隊に圧勝。しかし、勢いに乗って陸に攻め寄せた英国艦隊は、アレキパの砦に布陣したアレッチェ率いるスペイン陸軍による凄まじい砲火を浴び、英国艦隊が壊滅的な打撃を受けることに。あわや英国艦隊は全艦撃沈かと思われた最中、トゥパク・アマル率いるインカ軍がスペイン砦に猛攻撃をかけ、スペイン陸軍の力を削(そ)いだ。その結果、スペイン陸軍の英国艦隊への攻撃に隙が生まれ、英国艦隊は全艦撃沈を免れ、生き残った艦は沖合の洋上へ退避した。また、陸上での決戦では、副王ハウレギの嫡男アラゴン率いるスペイン王党軍とトゥパク・アマル軍との苛烈な戦いが行われたが、きわどいところでアパサ率いる援軍の加勢によってインカ側が優勢となりスペイン砦の占拠に成功。惜しくも副王の嫡男アラゴンには逃走されてしまったが、砦内で負傷したアレッチェは捕らわれてトゥパク・アマルの元で治療を受けている──。そこまで一気に話しきってから、アンドレスは小さく息をついた。「そういうわけで、アレキパのスペイン砦はインカ軍が制覇しましたが、以前から戦闘の続いているクスコや副王の本拠地であるリマは全く決着がついていません。沖合に退避した英国艦隊の現況も分からない状態です。インカ軍にとっても、スペイン軍にとっても、厳しい戦況が続いていて、どちらに勝機があるのか未だ見えない……そんな状況です」それら一連の話にじっと耳を傾けていたアリスメンディであったが、やがてゆっくりと頷いて口を開いた。「なるほど、戦況は膠着しているようだな。とはいえ、インカ軍のおかげで、英国艦隊はなんとか生き延びることができたというわけか」それぞれが記憶を辿ったり、思い耽ったりしているためか、しばし地下室に静寂が訪れる。卓上の燭台の灯りがジジジ…と小さな音を立てて震え、壁に掛けられた十字架の影をゆらゆらと揺らめかせている。やがて、アンドレスが遠慮がちに問いかける。「アリスメンディ殿、立ち入ったことを聞くようですが、この場所を拠点にしていらっしゃるのは、何か理由があるのですか?」ひとキャラメッセージ「今回はこれまでの振り返りみたいな説明ばっかりになってしまって、すみません💦 なにはともあれ、今年もよろしくお付き合いください!」byあんどれす【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2024.02.07
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明けましておめでとうございます 昨年もご来訪いただきまして本当にありがとうございました。今年も一歩一歩書き進めてまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。 2023年は生成AIが身近なものとなり創作にも様々なインスピレーションを与えてくれるようになりました。 ちなみに当ブログでも昨年5月以降の画像は画像生成AIによるもので今回はMidjourneyを用いてマチュピチュのイメージで生成しました。 文章も画像も人間の創作をますます圧倒していきそうなAIですが著作権等さまざまな問題を孕みつつも創作の幅を広げてくれる無限の可能性も秘めているように感じます。 いずれに致しましても全ての皆さまにとりまして今年がますます希望に満ちた素敵な年となりますように! 2024年元旦温かい応援、いつも本当にありがとうございますにほんブログ村(1日1回有効)
2024.01.01
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と同時にドアが開き──扉の向こうから、全身黒ずくめの僧衣をまとった長身の男が姿を現した。蝋燭(ろうそく)の明かりぐらいしかない薄暗い室内では、薄闇に隠れて顔はよく見えないものの、鋭い眼光と、その男から放たれるただならぬ存在感に、彼がただの神父ではないことは初めて会うジェロニモやペドロたちにもすぐわかった。緊張した雰囲気の滲む静まり返った地下室で、最初に沈黙を破ったのはアリスメンディだった。「まさかこのようなところで会えるとは」低い声で黒衣の人物が呟いた瞬間、アンドレスは懐かしさが込み上げ、弾かれたように椅子から立ち上がった。「アリスメンディ殿!!やっと会えた!」感極まった声を上げたアンドレスに引き寄せられるように、黒いシルエットはテーブルの方へ近づいてくる。それと共に、とても神父とは思えぬような鋭利な表情がはっきり見えてくる。もしアンドレスやモソプキオ村のロカ神父から事前に経緯を聞いていなければ、ジェロニモたちにはアリスメンディが敵か味方か全くわからなかっただろう。しかし、「アンドレス、わたしも会いたかったぞ」と語るその声には、硬質でありながらも、人としての深い温かさが宿っている。「いきなり押しかけてしまい申し訳ありません。実は、今、トゥパク・アマル様の依頼で旅の途中で…それて、偶然に貼り紙をみかけて、立ち寄った村では教会の神父様が襲われていて……ああ、もう、話したいことがいっぱいで、どこから何を話したらいいのか!」すっかり興奮した様子のアンドレスに、アリスメンディも椅子に腰を落ち着けながら「それはわたしも同じだ」と微かに笑(え)む。アンドレスは逸(はや)る心を抑えながら、まずは伝えておかねばならないことを口にした。「ありがとうございます!ええと、ここにいる皆はトゥパク・アマル様にも信頼されている俺の仲間たちなので、どうかご安心ください」アリスメンディはゆっくりと頷き、椅子に深く身を預けた。「お目にかかれて光栄デス!」とジェロニモは相変わらずな人懐こい笑顔で、そして、ペドロは興奮と緊張で頬を紅潮させながら自己紹介をする。それからヨハンも、この謎めいた異端な雰囲気をまとった人物になにがしかの共感を覚えたのか、「よろしくお願いします」などと珍しく敬語になっている。「ジェロニモ、ペドロ、ヨハン、ようこそ。わたしはイエズス会の神父アリスメンディ」と、アリスメンディも穏やかに応じ、そしてマリオにも「マリオもよく来たね」と微笑を見せた。マリオもはにかんで、嬉しそうに頷く。キャラからメッセージ「今年も当ブログにお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました 少し早いですが Merry Christmas そして、どうか良いお年をお迎えください」byキャラ一同【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.12.21
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その時、キィッと静かにドアが開かれる音がして、先ほどの混血の美しい修道女リリアーナが入ってきた。彼女は両手に大きなお盆を持っており、その上にはティーポットやカップが乗せられている。「お茶をお持ちしました」と微笑み、彼女は5人をテーブルの方へといざなう。ポットの中からは甘やかで芳醇なコカ茶の香りが漂ってくる。「さあ、どうぞこちらに。おかけになってお待ちくださいね」「お気遣いいただいてしまい、すみません。どうもありがとうございます」とアンドレスたちは丁寧に礼を述べて、着座した。アリスメンディとの対面を控えて緊張している様子の面々に、リリアーナはやわらかに微笑んで言う。「いいえ、当然のことです。それより、ほら、このクッキーを召し上がってみてくださいな。当修道院自慢の焼き菓子です」そう言って、彼女はアンドレスたちの前に、たくさんの可愛らしいクッキーが積まれた皿を置いた。一口頬張ると、自慢の焼き菓子という言葉通り、焼きたての香ばしさや素朴な味わいが口の中に広がり、ホロホロとほどけるような食感が格別である。「うん!美味い!」と旅のメンバーたちが思わず率直な声を上げた。マリオも「この味、懐かしいなあ。やっぱり美味しい!」と、明るい笑顔を見せている。そんな5人の様子にリリアーナは目を細めた。「ふふっ、よかった。マリオは知ってることだけど、このクッキーは昔から当修道院で作っているものなんです。一口食べるごとに幸福が訪れると言い伝えられているんですよ」香ばしい湯気が漂うコカ茶を一口含むたび体の芯から温まり、幸福を運んでくれるというクッキーの優しい味わいは、心をほぐして緊張を解いていく。皆のそのような様子を見届けると、リリアーナはにっこり微笑んだ。「それじゃあ、私はこれで失礼しますね。そろそろアリスメンディ様もお越しになる頃ですので。また後でお会いいたしましょう」一礼して部屋をあとにしていくリリアーナに、旅のメンバーたちも「はい、すっかりお世話になり、ありがとうございます!」と、感謝の言葉を返したのだった。やがて……ゆっくりドアがノックされる音が響き渡り──アンドレスたちは反射的に背筋を伸ばす。ひとキャラメッセージ「こっちでは普通に飲んでるコカ茶だけど、日本では違法だから、持ち込みや所持はできないんだよね」byあんどれす【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.11.18
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礼拝堂を横切りながら、「こっちだ」とマリオが小声でささやき、アンドレスたちを礼拝堂奥の廊下へと導いていく。礼拝堂を出て、そのまま廊下の突き当りまで進んだところで、マリオは足を止めた。正面には壁しかない。どういうことかとアンドレスたちが戸惑っていると、マリオはスッと壁に手を触れる。そして、その壁をぐっと押した。すると、壁に長方形の切れ目が入り、やがて扉が現れたのだった。(隠し扉……!!)びっくりしているアンドレスやジェロニモの少し後ろで、さすがにヨハンも「へえ、たいそうなこったな」と少なからず驚いているようだった。そのままマリオの手によって音もなく扉が開けられると、そこは薄暗い地下へと続く階段だった。「足元が悪いから気をつけてくれ」というマリオの言葉に従い、慎重に階段を下りていく。初夏とはいえ陽の当たらぬ場所はまだ寒い。ひんやりとした空気に包まれる中、ようやく辿り着いた先にあったものは、細長い通路であった。どうやらその通路の先に秘密の地下室があるらしい。水底のような冷気の中を奥へ進んでいくと、今度は鉄製の大きな扉が見えてきた。それを開け放つと、小部屋が現れる。誰もいない室内では小型の暖炉に軽く火が入っていて、廊下よりは暖かだった。壁には十字架が掛けられ、薄暗い室内には蝋燭の明かりがポツリと灯っている。中央には木のテーブルが置かれていて、その上には愛らしい天使の像が飾られており、なんとなくホッとさせられた。「驚いたナ、あんな小さな教会の下に、こんな入り組んだ地下通路や地下室があるなんて」興味津々な様子で室内を見渡しながら言うジェロニモに、アンドレスとペドロも同意して頷いた。ひとキャラメッセージ「聖カタリナ修道院に地下通路や地下室があるっていうのは書き手の創作なんだってでも、修道院の広い敷地には迷路みたいな通路やたくさんの建物があるから、地下に何かあっても不思議じゃない気がするなぁ~😉」byまりお☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.10.17
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逸(はや)る心と緊張感とで、アンドレスは武者震いのようなものを覚えながら、胸襟(きょうきん)を正す。それは、まだアリスメンディとの面識のないジェロニモやペドロも同じようで、早朝の冷気の中にもかかわらず頬を紅潮させている。一方、ヨハンは相変わらず飄々としていて、「なんで俺までこんなことに付き合わされて…」と時々ブツクサ言いながらも、結局ここまでついてきてくれた。「中に入るぞ」とのマリオの声に、アンドレスたちは目深にかぶっていた帽子を急いでとりはらい、旅商人風の衣装から土埃を払って、慌てて手ぐしで髪の乱れを整える。とりあえずの彼らの準備が整うと、マリオは教会の扉をゆっくりと押し開いた。蝶番(ちょうつがい)が軋んだ音を立てている。中からは微かに香(こう)の匂いが漂ってきた。内部に入ると、木の匂いも強くなる。礼拝堂の中央奥には大きな十字架があった。その横にマリア像が立っている。そして、そのマリア像の傍では、ひとりの美しい修道女が待っていた。修道服の上からケープを羽織った、20代半ば位の落ち着いた雰囲気の女性である。端正な顔立ちと淡い褐色の肌から、スペイン人とインカ族の混血であることがうかがえる。「シスター・リリアーナ!」マリオは屈託なく笑うと、嬉しそうに女性のもとに駆け寄った。「マリオ、よく来たわね。元気にしてた?あなたは昔から無茶をするから、いつも心配だわ」「もうっ、いつまでも子供扱いしないでくれよ!」そんなふうに仲睦まじげに語るふたりの様子を驚いて見守っていたアンドレスたちに、混血の女性は改めて自己紹介をした。「初めまして、アンドレス様、ご家臣の皆様。わたくしは、聖カタリナ修道院の修道女です。名をリリアーナと申します」そう言って、たおやかな身ごなしで一礼する。それから、サッと周囲に目を走らせて人目が無いことを確認すると、声を低めて付け加えた。「わたくしはアリスメンディ様のお世話をさせていただいている修道女のひとりです。ロカ神父様のお使者から貴方様たちのご来訪を伺い、本日の会合の場を整えさせていただきました」「そうだったのですか。ありがとうございます!」アンドレスたちも丁寧に礼を払う。「ほどなくアリスメンディ様もお越しになられるはず。マリオ、皆様を秘密のお部屋に案内してくれるかしら?」実の姉のように優しく語りかけるリリアーナに、マリオは「もちろん!」と頷き、「ついて来て」とアンドレスたちを先導しながら進み始めた。ひとキャラメッセージ「読者の皆さま、このようなところまで、ようこそお越しくださいました😊🙏マリオたちと一緒に、どうかゆっくりしていってくださいね」byりりあーな♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪リリアーナ≫(インカ側)聖カタリナ修道院の修道女。孤児院で育ったマリオの姉のような存在。20代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.09.13
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(いよいよか……!)にわかにアンドレスは身の引き締まる思いがして、手綱を握る手に力を込める。それから、思い出したように、早朝の蒼天を振り仰いだ。清々しい陽光を跳ね返しながら翼を羽ばたかせている銀の鳥の姿が、遥か高みに見えている。そんなふうに上空の伝令鳥の様子に気をとられていると、またマリオの声が地上へと意識を引き戻させた。「それにしても驚いたなあ!おまえたちが、トゥパク・アマル様の右腕とも言われるアンドレス様とその従者様たちだったなんて!……っと、“おまえたち”なんて、失礼な言い方だよな……」そんなマリオに、アンドレスは「言葉遣いとか気にしなくていいよ」と、優しく応じる。「この旅の間は、俺たち4人は旅商人ってことになってるから。それに、黙っていた俺たちの方が悪かったんだ。今まで通りに接してほしい」「そうか?それなら、そうさせてもらうけど」「それより、マリオ。こんなところまでついてきてもらって、本当にありがとう」「そんなこと気にするな。孤児だった私は、そこの聖カタリナ修道院の施設で育てられたんだ。孤児院を出てからも、時々は顔を出してる。だから、この辺りは私の庭みたいな馴染みの場所だから」「それなら心強いけど。それにしても、マリオ、君は馬の乗り方にもすごく慣れてるみたいで驚いたよ」軽やかな身ごなしで馬を操っているマリオの様子に感心しながら、アンドレスが素直な感想を告げる。それに対して、マリオは当然だろ、と答えて続ける。「スペイン兵は、たいてい馬で村に押し寄せてくるだろ?騎馬のまま戦闘になることだってあるかもしれない。だから、村の自警団員は馬の乗り方だって、ちゃんと練習してるんだ。騎馬戦の模擬訓練をすることだってあるんだぞ!」「そんなことまで……?」アンドレスが心配そうな表情になる。「マリオたちの心意気は立派だけど、今度インカ兵を増員するから、あまり無理はしないでほしいな…」そんなことを話しているうちに、ほどなく眼前に現れたのは、予想に反してこぢんまりとした建物だった。木造の小さな教会といった風情である。茶色っぽい木の壁に沿って蔦の葉が這い、建物の古さを感じさせる。正面扉の上に掲げられた十字架がなければ、そこが教会だと気づくことすら困難だろう。そこは聖カタリナ修道院の裏手に隣接するひっそりした目立たないところで、大きく立派な聖カタリナ修道院の影に隠れるような位置だった。ロカ神父の説明によれば、最近のアリスメンディは聖カタリナ修道院の地下に身を隠し、そこを拠点に活動しているという。だが、男性の来訪者は修道院に入ることはできないため、修道院の裏手にあるこの小さな教会──聖カタリナ修道院と秘密の地下通路でつながっているらしい──にて、面会を行っているのだとか。「こっちだ」呼びかけたマリオの誘導に従って、アンドレスたちは庭の片隅の厩(うまや)に馬を隠し、小さな教会の門扉へと向かう。(いよいよアリスメンディ殿と会えるのか……!)ひとキャラメッセージ「アレキパの聖カタリナ修道院には、神秘的な逸話がいろいろ残されてるんだ教皇ヨハネ・パウロ2世に列福されたマザー・アナもここの聖女だったんだよ🌈⛪」byまりお☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.08.24
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そんな経緯で、今、旅のメンバーたちとマリオはアレキパの街中──人目を避けた裏通りだが──に来ているわけなのだが、まずは、彼らが訪れている街について記しておこうと思う。アレキパは、インカ帝国の第4代皇帝マイタ・カパックの命によって建設された、インカ帝国有数の大きな街である。「アレキパ」はインカのケチュア語の”アリ・ケパイ”が由来で、皇帝が「ここへ住みなさい」と言ったことから名付けられたと伝えられている。しかし、スペインに侵略されて以降は、多数の白人たちがこの地に流れ込み、インカ時代の建物は取り壊され、かわりに数多くのコロニアル調の建造物が建てられた。トゥパク・アマルが解放闘争を開始してからは、特に、彼がインカ軍を率いてアレキパの堅牢な砦を陥落させてからは、このアレキパの市街地から退避していくスペイン人も多く、以前ほど人々の往来は目立たない。とはいえ、今でもスペイン風の建造物は健在であり、しかも、それらはスペインに対抗してきたアンドレスたちでさえも目を惹かれてしまうほどの美々しいものだった。街の中心部には、重厚な石造りの建物に囲まれた広大なプラサ・デ・アルマス(アルマス広場)がある。その中央には、美しい彫刻の施された噴水があり──戦時下で管理する余裕もないのだろう、今は水は止まっているが──、その周りでは瑞々しい樹木がゆるやかに風にそよいでいる。また、広場の北側には、純白の壁に囲まれたアレキパ大聖堂があり、さらに、その東側にはサン・フランシスコ教会があった。サン・フランシスコ教会の白壁は、清々しい初夏の早朝の青空の下で光を放っている。この街は標高約2300mの高所にあり、周辺の山からは白い火山岩が産出されるため、建物の多くが白を基調としていて、いっそう街を明るく華やかに見せている。一方、広場を取り囲むように建っている店舗や住宅に目を転じれば、赤い屋根と白い壁の建物、あるいは黄色い壁に緑の窓枠が映える建物、さらには青い壁に赤い屋根の建物など、白壁に鮮やかな彩りを配した西洋建造物が目に眩しい。アーチ型の柱をもつ建造物も多く、それはアレキパ特有の建築様式だとも言われている。この戦乱の時代にあっても、トゥパク・アマルは市街地での戦闘を最大限に避けてきたし、特に、宗教的建造物への攻撃は行うことのないよう細心の注意を払ってきた。それはモスコーソ大司教に揚げ足を取られないためでもあり、また、インカ族の者たちも今やキリスト教徒である者が少なくなかったことから、彼らの反感を買うことのないようにという配慮のためでもあった。ともかくも、裏通りからも垣間見えるそのような街の様子に目を奪われつつも、身分がばれることがないようにと神経を研ぎ澄ませながら街中を進んでいく。相変わらず目深に帽子をかぶり、今だに着慣れない旅商人の装いではあったが、まだかなり早朝であったため人通りが少ないことは幸いだった。やがて朱色の壁に囲まれた、ひときわ麗しい建造物が目に飛び込んできた──聖カタリナ修道院である。当然ながら男性であるアンドレスたちには踏み込むことのできない女性たちの聖域だが、その朱色の修道院の中庭は赤や黄の鮮やかな初夏の花々で彩られており、天上的な美しさに満ちている。マリオによれば、この聖カタリナ修道院の内部には、壮大な彩色天井画と美しいステンドグラスの窓があり、とても神秘的な雰囲気が漂っているのだという。きっと礼拝堂ではシスターたちが粛々と祈りを捧げており、祭壇の奥には天窓から射し込む光に照らされた荘厳な聖母マリア像が佇んでいるのだろう──そんな想像に耽(ふけ)りながら馬をゆっくり進めていると、マリオの声が耳元に響いてきた。「さあ、もうすぐ目的地に到着だ」❄ひとキャラメッセージ❄「マリオ情報では、聖カタリナ修道院は建造当初から朱色に塗られていたらしいんだけど、実際には街中の他の建物と同じように白い火山岩が使われているんだって⭐」byあんどれす♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.08.03
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やがて目を見開いたトゥパク・アマルが、ハーブティを口元に運んでから、物思わしげに言う。「……やはり、“あれ”を試してみるか」不意のトゥパク・アマルの言葉に、その場にいた全員が息を詰めて、目を瞬かせている。「“あれ”──ですか?」「さよう。だが、それを効果的に実行するためには、タイミングが重要だ。アンドレスたちの旅の状況次第、といったところか……」そもそも“あれ”とは何なのか、今のところ全く意味不明のトゥパク・アマルの発言に、西洋人医師サレスとインカ族の老練の従軍医は思わず顔を見合わせる。その傍らで、まさかこのようなところでアンドレスの名が飛び出すとは思わなかったコイユールは、冷めかけのティーカップをギュッと握りしめたまま放心している。その瞬間は、そこが打ち合わせの場であることなど完全に忘れて、思いはアンドレスの元へと馳せていた。(アンドレス、今頃どうしているかしら?無事にしてくれているといいのだけど……)さて、実際のアンドレスたちの状況はどのようになっていたであろうか。モソプキオ村のロカ神父から、イエズス会の高僧アリスメンディの居場所を教えてもらったアンドレス、ジェロニモ、ペドロ、ヨハンの4人の旅のメンバーたちは、村で出会った自警団員の少女マリオの案内で、アレキパの市街地にあるというアリスメンディの居場所へと馬で向かっていた。なるべく目立たないよう覆面は外して旅商人の姿に戻ったアンドレスたちは、アレキパの街までは彼ら自身で地図を頼りに辿り着き、人目につきにくい街中の一角でマリオと落ち合うというかたちをとっていた。なにしろ、あの戦闘後、ロカ神父との話し合いが終わる頃には既にだいぶ日も傾いていたから、その日はもう一晩モソプキオ村に宿泊し、人目を避けるために翌早朝にアリスメンディの元へと向かっていたのである。トゥパク・アマルの特命による急ぐ旅ではあったが、この近くにアリスメンディがいるとなれば、会わずに素通りするわけにはいかない。実際、トゥパク・アマルもアリスメンディの居場所を探している状況だった。モスコーソ大司教の追手から逃れるために、アリスメンディは居所を転々と変えているということもロカ神父から聞いていたので、なおさらだった。この機会に会っておかなければ、またいつ会えるかわからない。なお、マリオが同行してきたのは、一応、昨日のうちにロカ神父が早馬の使者を送ってくれてはいたものの、いきなりアンドレスたちが押しかけても、アリスメンディと対面できる前に門前払いをくう恐れがあるからだった。ひとキャラメッセージ「日本では厳しい暑さが続いていると聞きます。というか、世界中が暑くなっていますね…😔皆さま、どうか熱中症などにお気を付けてお過ごしください🍧」byこいゆーる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の女性。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。≪サレス≫(中立)腕利きの医師。スペイン人ではあるが、政治的には中立の立場。50代後半。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.07.19
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その後、トゥパク・アマルとスペイン人医師サレス、老練のインカ族の従軍医、コイユールたちはアレッチェの治療について協議を重ねていた。会議室用の広間は、かつてはこの砦を取り仕切っていたアレッチェがいかにも好みそうな重厚な設(しつら)えで、配置されている家具類も凝った意匠(いしょう)が施されている。昼間でも仄暗い広間の一方の壁には大きな暖炉があり、薪がくべられているが、初夏の日中である今は火は入っていない。中央に据えられたテーブルについている一同の顔ぶれは、トゥパク・アマル、スペイン人医師サレス、アレッチェの治療を担当しているインカ族の老練の従軍医、そして、コイユールである。そのテーブルの造りも、見るからに重厚かつ贅沢な代物だ。マホガニー材で作られた天板の縁には金細工が施されており、脚の部分も象嵌(ぞうがん)装飾が施された木製の支柱である。そして、そのテーブルの上には、コイユールが淹れたインカ族伝統の薬草茶が並べられていた。それはインカ帝国時代より受け継がれているもので、良質の蜂蜜をベースに様々なハーブを配合した仄かな甘みのある飲み物である。広間に漂うお茶の香気だけでも心が落ち着くような、とても心地良い香りがしている。このハーブと蜂蜜特有の薬効も、重い話し合いの場に臨む人々の心を落ち着かせ解きほぐす力になってくれるだろう。コイユールはそんなことを思いながら、このような錚々(そうそう)たるメンバーの中に自分が混ざっていることによる緊張を少しでも和らげようと、薬草茶の入ったカップから漂う香りを胸深く吸い込んだ。そんな彼女の耳に、スペイン人医師サレスの吐息交じりの声が聞こえてくる。サレスはアレッチェの火傷跡の回復の難度の高さについて西洋医学の観点から改めて説明し、最後に「せめて歩行だけでも回復して頂きたいものですが」と重々しく述べて言葉を結んだ。「……。うむ、確かにそなたの言うとおりかもしれぬ。しかし、まだわたしは諦めることはできないのです。アレッチェ殿のあの心の荒みようが、身体の回復に悪影響を与えてしまってはいまいだろうか?」美しい眉根を寄せて物思わし気に語るトゥパク・アマルに、サレスも同意するように頷いた。「確かに、トゥパク・アマル殿が仰るように、あのような荒んだ精神状態では身体にも良い影響は与えないでしょうな」「いや、今の精神状態による悪影響以外にも、彼が抱えている内面的な闇のようなものが現在の症状に影響しているということはないだろうか?」サレスは黙ってトゥパク・アマルの言葉に耳を傾けていたが、西洋人の医師らしい理知的な面持ちで、今度は静かに首を振った。「インカ帝国では、病気は患者が犯した過ちにより神が怒ったり呪いがかかった結果と考えられていた──ということは、私も知っています。とはいえ、アレッチェ様のあの外傷の治癒の困難さは、心の問題などの次元ではないでしょう。閣下には気の毒なことですが、あの状態が回復するには、魔法でもない限り無理でしょうな……」「魔法…か──」トゥパク・アマルは呟くようにそう零(こぼ)すと瞑目し、まるで瞑想状態に入ってしまったかのように静かになった。ひとキャラメッセージ「インカにはいろんなハーブがあって、特にチャンカピエドラ(Chanca Piedra)は有名です炎症を抑えたり、免疫系を整えたり、いろんな効能があるんですよ🌸🍃」byこいゆーる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の女性。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。≪サレス≫(中立)腕利きの医師。スペイン人ではあるが、政治的には中立の立場。50代後半。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.06.29
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包帯に巻かれているにもかかわらず、火のように激昂した表情が見えるかのようなアレッチェの暴言に、スペイン人医師サレスは冷静さを失わぬままに答える。「お気持ちは察するに余りあります。ですが、閣下の全身の皮膚に刻まれた火傷跡は深く、しかも、広範囲に渡っておられます。それに、皮膚組織の損傷がひどく、今でもとても強い痛みと掻痒(そうよう)感を伴っているはずです。閣下の精神力の類まれなる強さの賜物でもありましょうが、だとしても、まず一命をとりとめたことが奇跡的でもあり、耐え凌げるほどに痛みや不快感が抑えられているのも、ここまで治療に当たってきた者たちの尽力によるところが大きいものと存じます」「なんだと……この藪医者が……!貴様はインカ族どもの肩を持つというのか!!」「いいえ。私は、あくまでも医学的見地から事実を申し上げているまででございます。閣下のお身体の状態について、嘘偽りを申し上げることはございません。もちろん、私の見立てが間違っていた場合には、この場で自刀する覚悟もできております。その覚悟をもって、閣下に治療に当たらせていただいている次第です」「…………」「閣下、恐れながら申し上げさせていただきます。西洋医療の技術とて万能ではございません。場合によっては、インカ族の伝統的な治療法の方が優れていることさえあるのです。実際、我々の西洋医学では火傷の際に起こりがちな感染症や化膿なども、今の陛下の御身体には生じておりません」「……黙れ!!己の無能さを医療技術のせいにするとは無能の極み!フンッ、まあ良いだろう。どちらにせよ、わたしの人生はもう終わったも同然だからな。だが、勘違いするなよ?わたしの命が尽きても、インカ族の連中だけは決して許さん!奴らには、必ずや地獄を見せてやる!特にトゥパク・アマル、貴様は絶対に許すことはできぬ……!!コイユール、おまえも当然ただではすまんぞ!フハハッ……!」そのようなアレッチェの言動に、トゥパク・アマルやコイユールはもちろん、スペイン人医師サレスさえも、アレッチェの精神状態が危うくなってきていることをいよいよ突き付けられている思いに憑かれ慄然(りつぜん)としていた。元々アレッチェがトゥパク・アマルやインカ族を憎悪し、業を煮やしてきたことはその通りなのだが、全権植民地巡察官として重責を担っていた頃の彼は、あるいは、スペイン軍総指揮官として戦線を指揮していた頃の彼は、冷徹なほど合理的かつ冷静で威厳があり、比類なく高邁な風格も品位も持ち合わせていた。──しかし、今の彼には、それらが著しく欠落している。もし本来のアレッチェが現在の己の言動や振る舞いを目の当りにしたら、恐らく誇り高い彼のプライドが、今の己を決して容赦しないであろう。トゥパク・アマルは胸の疼きを禁じ得ぬ思いながらも、静かな口調で語りかける。「アレッチェ殿、今日のサレス医師の診察はひとまずここまでとしておこう。今後も我らは協力してそなたの治療に全力を尽くしていくつもりゆえ、どうか今はゆっくり休まれ、心安んじて療養に専念されてほしい」「黙れッ!おまえのような偽善者に言われる筋合いなどない!そもそも、わたしは貴様らインディオどもが嫌いだ!憎いのだ!卑しく、無知蒙昧(むちもうまい)で、せいぜい奴隷のように扱(こ)き使われるしか能が無いくせに、生意気にも我らに盾突く蛮行と愚行の数々!!断じて許しはせぬぞ……!!」「──アレッチェ殿、とにかく今は休まれよ。また話そう」トゥパク・アマルは静かながらも否(いな)やを言わさぬ口調でそう告げると、今にも殴りかかってきそうなほど興奮と激昂に身を任せているアレッチェを残し、サレスやコイユールたちを伴って部屋を後にした。ひとキャラメッセージ「とっても久々の更新になってしまい、申し訳ございません💦アレッチェさまの居室のシーンは、次回は切り替わりとなりそうです」byこいゆーる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の女性。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。≪サレス≫(中立)腕利きの医師。スペイン人ではあるが、政治的には中立の立場。50代後半。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.05.31
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数日後。早速、スペイン人の医師がトゥパク・アマルたちが居を構える砦へと招かれた。50代後半位の年代に見える落ち着いた佇まいのスペイン人医師──サレスは、アレキパ界隈では腕利きの医師として有名で、これまでもスペイン軍に招かれて負傷兵たちの治療に携わってきた実績もある。ただ、政治的には、スペイン側にもインカ側にも肩入れすることなく、中立の立場を取っていた。終始トゥパク・アマルに盾突く態度のアレッチェではあったが、己の治療のために招聘されたのが名医として名高いサレスだと聞かされると、ここに呼べと、サレスの診察を受け入れた。しかし、注意深くアレッチェの全身状態を診察したスペイン人医師サレスは、厳しい表情を崩さなかった。「どうだ?治る見込みはあるのか?本当のことを言え」単刀直入に鋭く問うアレッチェの投げかけてくる圧に揺らぐことなく、サレスは沈着な面持ちのまま、重々しく首を振った。「閣下。大変嘆かわしいことではございますが、この火傷が完治することは難しいでしょう。ですが、左足の負傷につきましては、歩行訓練を行えば、徐々に回復に向かう可能性はございます」「……!」医師の答えは、アレッチェ自身もとうに悟っていたことではあった。が、それでも西洋人の名医と言われる人物から、改めて「回復不可能」の烙印を押された現実に衝撃を禁じ得なかった。そのようなアレッチェの心中が伝わってくるようで、少し離れた場所で見守っていたトゥパク・アマルや老練の従軍医、そして、コイユールも、胸を突かれたような悲痛な表情になっている。「クッ……!インディオどもが治療などとほざいて余計なことをするから、取り返しのつかぬことになったのだ……!!」ひとキャラメッセージ「ここアレキパでは5月は秋のはじまりですが、日本では初夏ですよね?風薫る清々しい季節、どうか素敵な毎日でありますように」byこいゆーる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の女性。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。≪サレス≫(中立)腕利きの医師。スペイン人ではあるが、政治的には中立の立場。50代後半。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.05.01
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トゥパク・アマルはコイユールを助け起こすと、「アレッチェ殿を見舞いに来たのだが…。大丈夫かね」と、心配そうな眼差しをコイユールに向ける。コイユールはいっそう深々と身を低めて、アレッチェに打倒された衝撃で辺りに飛び散った薬草を慌てて掻き集めた。「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございませんでした……!」「とんでもない。コイユール、そなたは良くやってくれている」そう優しく応じて、それから、今度は、トゥパク・アマルはアレッチェに目を向けた。「アレッチェ殿、そなたの苦痛や苛立ちは察するに余りあるが、このような暴力は看過できかねます。コイユールも、従軍医も、わたしもそなたの治療のために最善を尽くしたいと努めている。ゆえに、どうか気を落ち着けてほしい」他方、アレッチェはフンッと鼻で笑った。「相も変わらず、白々しいことを。おまえの偽善者ぶりには辟易している。ククッ…どうせ、このわたしの哀れな姿を確認して、内心では安堵の溜息でもついていることだろうよ」「そのようにしか思ってもらえぬことは残念だ。なれど、今日は、そなたの治療のために、新しい提案を持ってきたのです」そう誠意を込めて語るトゥパク・アマルの方に、顔面にもグルグル巻きにされた包帯の隙間から、アレッチェは闇色の瞳を一瞬だけこちらに向けた。が、それからまたすぐに明後日の方向に視線をやって、苛立たし気に吐き捨てる。「フンッ……。おまえたちインカ族どものお粗末な治療法では、何をしようとも変わるものか」トゥパク・アマルはゆっくりと頷いた。「そのようなそなたの気持ちはよく分かっている。ゆえに、スペイン人の医師にもそなたを診察してもらおうと思うのだ。腕の立つスペイン人の医師を厳選して招聘(しょうへい)するゆえ、会ってみてほしい。アレッチェ殿、そなたに異論が無ければ、だが」「…………」しばし沈黙が流れた後、アレッチェはあからさまにトゥパク・アマルの方に背を向けて、荒っぽく引き寄せた毛布に半ば顔を埋めて呻(うめ)くように言う。「ふん、馬鹿らしい。わたしがそのような哀れみや施しなど受けると思うか?それに、たとえ助かったとしても、このような姿で生きていくなど真っ平御免だ!」「アレッチェ殿、だから、その皮膚の状態も治癒させる手立てがないかも含めて、西洋人の医師に相談してみようという話なのだが……」まるで、今は我侭な子供のような態度のアレッチェに、トゥパク・アマルは小さく吐息をつくと、そっと宥(なだ)めるように言い添えた。「それでは、とにかくスペイン人の医師を呼んでみるから、気が向いたら会ってみてくれ」外では野鳥たちの甲高い鳴き声が遠く響き、日没前に寝所に辿り着こうと慌ただしく飛翔している様子がうかがえる。まもなく夜の帳(とばり)が降りようとしているのだ。もう完全に無視を決め込んでいるアレッチェから視線を外し、トゥパク・アマルは今度はコイユールにも目を向けた。「コイユール、西洋人の医師に診察を依頼すること、そなたは構わないかね?」「もちろんです、トゥパク・アマル様」と、コイユールは澄んだ瞳を真っ直ぐ上げて答える。「アレッチェ様がご回復されるためでしたら、私はどんな方法でも賛成ですし、どんなことでも厭(いと)いません」ひとキャラメッセージ「アレッチェ様、これでいい方向に治療が進んでくれるのでしょうか?できれば、そうであってほしいのですけれど……」byこいゆーる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.04.18
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「アレッチェ様を殺すだなんて、そんなことするはず……」そう擦れ声で答えながら、コイユールは悲しげに目を伏せた。(アレッチェ様、いつも以上に荒れていらっしゃる…。治療の効果が全然見えてこないのですもの…無理もないことだけど……)一方、アレッチェは、そんなコイユールの心を見透かすように、いよいよ歪んだ嘲笑を浮かべながら、吐き捨てるように言う。「だいたい、おまえのような小娘にわたしの世話を任せること自体、間違っていたのだ。こんな無能な奴に看病されているわたしの惨めさがわかるか?おまえが看病すればするほど、ますますわたしの身体は悪化していくぞ!!」「アレッチェ様、申し訳ございません……!そのように大きな声を出してはお身体に触ります。私は下がりますから、どうか……」「貴様……!このわたしに指図するとは、生意気にもほどがあるぞ!いかがわしい妖術使いめがっ!!」アレッチェは激昂して寝台から起き上がろうとするが、激痛が走り顔を歪める。「何を騒いでいる?さっきから怒鳴り声が響いているぞ!」扉の外から、見張り役のインカ兵が厳しい顔を覗かせた。「ふん、黙れ、下民どもが。わたしを誰だと思っているのだ。おまえらこそ、口を慎め!」アレッチェは不機嫌そうに言い放つ。「申し訳ございません、アレッチェ様。ですが、どうか落ち着いてください。アレッチェ様のお身体のためにもよくありません。今は、ゆっくりとお休みください」「なんだ、その口の聞き方は!?ふざけているのか?この端女(はしため)が!!!」アレッチェはさらに猛り狂って、包帯の巻きつけられた腕で荒々しくコイユールを突き飛ばした。「……あっ!!おやめください!!」その時、扉の向こうから聞き覚えのある靴音が響き、誰かが入ってくる気配がした。「何事だね?」低く艶やかな声でそう言って、床に打倒されていた己に手を差し伸べた相手を見上げて、ハッと、コイユールは息を呑んだ。「トゥパク・アマル様!?どうして、ここに…?」ひとキャラメッセージ「皆様、お久しぶりです。いつもご覧くださいまして、誠にありがとうございます。アンドレスたち共々、こちらの方も何卒宜しくお願い致します」byとぅぱく・あまる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.04.04
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トゥパク・アマル陣営──。モソプキオ村でのアンドレスたちとロカ神父との会合が、そろそろ終わりを迎えようとしていた頃の夕刻時。スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェが治療を受けている居室では、今もコイユールが熱心に看護にあたっていた。まだこのスペイン砦が陥落する前、捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって、重篤な火傷を負ったアレッチェ。一時は命も危ぶまれるほどの深刻な状態であったが、彼自身の並々ならぬ強靭な生命力や精神力によって、そして、従軍医やコイユールたちの必死な治療によって、幸いにも命の危険は去っていた。しかし、たとえ一命をとりとめようとも、火災の際に片足の自由を失い、さらには全身を覆う悲惨なケロイドは回復の見込めぬことから、アレッチェの精神状態の荒(すさ)みようは相変わらず手がつけられぬほど酷かった。まるで憂さ晴らしのようにコイユールに暴力的な八つ当たりをすることがエスカレートしていることから、彼女単身のときはアレッチェの看護に付かなくてよい──いや、むしろ付かない方がよいと、従軍医から言い渡されているほどだった。それでも、他の負傷兵の治療の合間を見計らって、コイユールの足はアレッチェの居室へと向かった。普段は敵味方の区別なく献身的に看護に臨む看護兵たちではあったが、アレッチェに対してだけはどうしても本能的に避けてしまうようで、結局のところ、コイユールが行かなけば誰もアレッチェの看護にあたる者などいなかったのだ。(引き受けた以上、途中で投げ出すわけにはいかないわ…。それに──)トゥパク・アマルにアレッチェの世話を依頼された当初は、恐怖心の方がはるかに大きく、実際、アレッチェとふたりでいる時には脅されたり、とんでもない誓いを立てさせられたり──その誓いについては未だ誰にも打ち明けることはできずにいるが──と、身の凍るような思いの連続だった。だが、アレッチェの回復に懸けるトゥパク・アマルの思いの強さに触れ、また、本音は決して表に出さずともアレッチェ自身が感じているであろう尋常ならざる心身の苦痛を垣間見るにつれ、コイユールの中でもアレッチェを回復させたいという強い意志が芽生えていた。今も彼女はアレッチェの居室で、彼の身体のケロイドを丹念に観察しながら、懸命に薬草を調合している。治療は主治医である従軍医の指示に基づいて行われているため、薬の調合も基本的には従軍医の指針によってなされている。ただ、薬草に関しては、コイユールの知識は従軍医を凌ぐほどであったため、一定の範囲内で、彼女自身の裁量による調合も許可されていたのであった。コイユールは、寝台に横たわるアレッチェをそっと見つめて問いかける。「アレッチェ様、ご気分はいかがでしょうか」「ああ、実に最悪だ。おまえの顔を見るだけで虫唾が走るわ」「……」「トゥパク・アマルもおまえのような無能な女などではなく、もっとましな看護兵にわたしの世話を任せればよいものを」「私の力が及ばず、申し訳ございません……」コイユールは薬草を手にしたまま身を低めた。「ですが、どうかもうしばらく私に看護を続けさせてください。アレッチェ様のご回復のために、全身全霊を懸けて力を尽くしますから。きっとまだできることが残されていると思いますから……!」「チッ、身のほど知らすな下賤な女め」アレッチェは、あからさまに冷ややかな視線を向ける。「それにしても、その手にしているものは何なのだ?それは、何かの新たな毒物ではないのか?おまえが塗りたくる薬は、いつも疑わしいと思っていたのだ。塗られれば塗られるほどケロイドが悪化していく。どうせわたしを殺すつもりなんだろう?まったく恐ろしいことを企む女よ」「まさか、そのようなこと…!これはインカ伝来の薬草で、火傷や外傷によく効くものです。砲弾で大火傷を負ったインカ兵の皆さんにも使っていて、実際に良くなっています。決して毒などではありません」「何を言っているのだ、この愚図めが!インカ伝来だと!?そういうのが嫌だと言っておるのだ!!誰がそのような怪しいものを塗らせるというのか!そんなに殺したいなら、おまえの方こそ、今すぐここで殺してくれるわ!!」ひとキャラメッセージ「皆さま、大変お久しぶりです。またお会いできて、とても嬉しいですいきなりアレッチェさまに罵倒されちゃってますが、めげずに頑張ります」byこいゆーる♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。20歳。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。現在は、敵将アレッチェの看護を担当している。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。40代前半。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ペルー副王領の反乱軍討伐隊総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。捕えたトゥパク・アマルに暴行を加えていた際に引き起こされた火災によって重篤な火傷を負い、現在は砦を制圧したインカ軍による治療を受けている。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.03.22
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「先ほどもお伝えした通り、アリスメンディ様と親交のあったドミニコ会などの神父や修道女は私だけではありません。ですから、私と同じような境遇におかれ、モスコーソ大司教から出頭を命じられている者たちは他にもたくさんいるのではないかと思います……」神父の言葉に、アンドレスは思慮深い面差しで、唇を噛んだ。「まずは、ロカ殿、ご想像はついていると思いますが、もしクスコに出向いてあのモスコーソの手中に囚われるようなことがあれば、まともな話しが通じる相手ではなく、まず戻ってはこられないでしょう。多分、トゥパク・アマル様も次はクスコの奪還を考えていると思います。実際のところ、トゥパク・アマル様の重臣ディエゴによって、クスコ戦の戦端はずいぶん前に切られているんです。長く膠着(こうちゃく)状態が続いてはいますが……。いずれにしろ、必ずや、インカの聖都は我らの手に取り戻します!ですから、ロカ殿はモスコーソの不当な呼び出しに応じる必要などありません。俺からトゥパク・アマル様に連絡して、ロカ殿やこの村の人たちを守るためのインカ兵の増員を願い出るつもりです。それから、ロカ殿と同じようにモスコーソから狙われそうな神父や修道女たちのいらっしゃる場所を教えてください。この村と同じように、その方々やその集落の人々を守るための兵を派遣するよう依頼いたします」「そのようなことまで……。大変お手を煩わせ、それに、インカ軍とて兵が無尽蔵ではないと思われますのに、誠に申し訳ございません……」深く身を低めて恐縮しているロカ神父に、アンドレスは慌てて顔を上げさせる。「いえ、とんでもありません。モスコーソ大司教は、トゥパク・アマル様にとっても、インカ軍にとっても、昔年の仇敵といいますか、とにかく放置できない存在なのです。モスコーソの不当な行いから皆様をお守りするのは、我らの責務ですから。それに、そうすることで、結果的には、アリスメンディ殿をお守りすることにもつながると思いますので!」「アンドレス様、そして、お付きの皆様も、本当にありがとうございます。今日、村の人々や私を助けてくださったことも、そして、これからのことも」真心のこもった声音で礼を述べ胸で十字を切ったロカ神父に、アンドレスや他の旅のメンバーたちも丁寧に礼を払い返す。それから、アンドレスが真剣な表情で、身を低めているロカ神父を覗き込むようにして願い出た。「ロカ殿、アリスメンディ殿の居場所を教えてもらうことはできませんか?できれば、アリスメンディ殿に直にお会いしたいのです──!」ひとキャラメッセージ「次回からは、一旦、トゥパク・アマル陣営に場面転換するらしい俺の分もコイユールの様子を見てきてくれると嬉しいな」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.03.06
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少し前まで、時折、教会の外の広場から流れきていた村人たちの喧騒も、今はだいぶ静かになってきている。治療や薬学に長けているロカ神父を呼びに来ないところからして、先ほどの戦いでの自警団員たちの負傷はさほどではなかったのか、あるいは村人たちの手に負える程度で済んだのか、いずれにしても、それは幸いなことであった。いつしか窓から差し込む陽光も少し傾いてきたようだ。しばしの沈黙が流れた後、アンドレスは思い切ったように問いかける。「それで……ロカ殿は、アリスメンディ殿の居場所をご存知なのですか?」「はい、存じております」ロカ神父は迷いの無い真直ぐな眼差しで答え、さらに続けていく。「私だけでなく、身を隠してこの国に残っていたイエズス会の方々以外にも、アリスメンディ様に昔から密かに味方するインカ族の神父たちが──いえ、イエズス会士や神父に限らず、ドミニコ会の者や修道女たちも──水面下でアリスメンディ様を支援し続けているのです。仮にその中の誰かがモスコーソ大司教の元に引き立てられてどんな目に合わされようとも、きっとアリスメンディ様に関して口を割ることはないでしょう。彼はスペイン人でありながら、我らインカ族やこの国で虐げられている全ての者たちのために、命も身分も立場も全てを投げ打って、この国のカットリック最高権威者であるモスコーソ大司教の矢面に立ちはだかってくださっているのですから」静謐(せいひつ)ながらも揺るぎない決意を宿した神父の言葉に、その場の誰もが熱く感じ入るものを覚えて、息を詰めている。その時、アンドレスたちの身分を知った驚愕の余韻を引きずりつつも神父とアンドレスのやり取りを見守っていたマリオが、不意に沈黙を破って言葉を放った。「ロカ神父様をモスコーソのところに行かせるようなことは、私が絶対にさせない。神父様は私が守るんだ!絶対に!」そんなマリオの様子に、ロカ神父は柔和に目を細め、穏やかに言う。「ありがとう、マリオ。マリオは、本当に心の優しい娘だね」そのような神父とマリオの様子が、まるで父と娘のようであったため、思わずペドロが「おふたりは、もしかしたら親子なのですか?」と問いかけた。それに対してマリオは首を振って答える。「いや、ほんとの親子ってわけじゃない。神父様なんだし、そもそも結婚なんかしないだろ?それに……私は孤児(みなしご)で、子供の頃は街の修道院の施設で育てられたんだ。だけど、この村に住みついてからは、ロカ神父様に実の父親のように良くしてもらってきた。だから、神父様に何かあったら、今度は、私がお守りする番なんだ」「へぇ、すごい決意なんだネ」思わずジェロニモも感心してつぶやくと、さらに勢いづいたようにマリオが畳みかけてくる。「そうさ!この男みたいな自警団員の格好だって、『マリオ』って名前だって、みんな私の決意の表れだ。私の洗礼名は元々は『マリア』だけど、護衛として神父様をお守りするために『マリオ』って男性名に変えたんだ。大きな澄んだ瞳に強い意志を宿して語るマリオの言葉に、その場の者たちが、また胸熱くなる。「マリオの気持ちはとても嬉しく思うよ。でも、名前まで変えたり、男性として生きようとする必要などないのだよ。『マリオ』であろうと『マリア』であろうと、同じひとりの人間なのだから」慈しみを込めた眼差しをマリオに向けながら語るロカ神父に、「だけど、神父様!私の気持ちは……」と、さらに続けてきそうなマリオを穏やかに制して、「まあ、今は、旅の勇者様たちとのお話を先に進めようではないか」と神父は優しく微笑んだ。それから、その視線を再びアンドレスたちの方へと戻す。ひとキャラメッセージ「ロカ神父との対話シーンも次回で終了になるらしいややこしい説明が続いちゃったけど、もうちょいなのでよろしくです」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ大司教≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司教。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.02.16
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「私が追放されなかったのは、私はイエズス会に属する神父ではないからです」「え!?それじゃ、あなたは……?」「私はイエズス会士ではなくドミニコ会に属する神父なのです」「ドミニコ会?」「はい。イエズス会士もドミニコ会士もどちらもカトリックの信徒ではありますから、教義は同じで、活動の仕方が違うだけなのですが。今は細かい話はさておき、ともかく私はイエズス会士ではなかったために追放を逃れることができました。とはいえ、イエズス会士の追放から何年も経った今、またこのような内容の貼り紙を目にしたモスコーソ司祭は、どのような気持ちになったでしょうか?恐らく、アリスメンディ様が再び国内に戻ってきていると感じとって、強い危機感を抱いたに違いありません」己自身の推測と全く同じことを語るロカ神父の言葉に、アンドレスは深々と頷き返した。ジェロニモたち3人もまた、今朝のアンドレスの説明をなぞるような神父の話に、固唾を飲んで聴き入っている。ロカ神父はさらに続けていく。「モスコーソ司祭は、アリスメンディ様を捕えようと執拗に捜索する過程の中で、さまざまな過去の情報を調べ上げていったのでしょう。そして、かつてアリスメンディ様と親交のあった者たちを洗い出した。今再びこの国に戻ってきているに違いないアリスメンディ様を匿(かくま)っている疑いがある者として──。そうした者たちのひとりとして、私にも出頭を命じてきたのだと思います。追放前にアリスメンディ様と関わりのあった者を呼び出して尋問し、アリスメンディ様の居場所を暴(あば)き出そうという意図なのでしょう」「ひどいな……!だけど、あのモスコーソなら、いかにもやりそうなことだ」アンドレスは、ギュッと、きつく拳(こぶし)を握り締めた。他の旅のメンバーたちも、同様に険しい表情で唇をかみ締めている。ひとキャラメッセージ「しばらく間があいてしまったけど、今年もまたよろしくお願いします!今のシーンもそろそろ終わりみたいなので、あと少しお付き合いください」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2023.02.02
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明けましておめでとうございます。昨年も大変お世話になり、本当にありがとうございました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。全ての皆さまにとりまして、幸多き素敵な年となりますように。☆2023年元旦 風とケーナ☆にほんブログ村(1日1回有効)
2023.01.01
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アンドレスの問いかけに、ロカ神父は実直な口調で語りはじめる。「順番にお話しいたしましょう。十数年前、イエズス会士がスペイン国王から国外追放を命じられたのはご存知かと思います。その国外追放前、アリスメンディ様はペルー副王領からラ・プラタ副王領まで広範囲で活動されており、この辺りのアレキパ方面にもよく出向いておられました。私は神父の道を選びましたが、元々はこのモソプキオ村の昔ながらの薬師の家の次男坊です。家業は兄が継いでおりますが、私も薬学の知識は親から学んでおりました。ですから、近隣集落で病人やケガ人が出た時には、その村や街の教会から呼ばれて薬師として出向いて治療にあたることもありました。特にアレキパの中心部には大きな修道院もあり、そのようなところから治療の依頼で呼ばれることも多かったのです。まだ国内で活動していたアリスメンディ様と出会ったのも、街の修道院に治療に訪れた時でした。スペイン人でありながら、己の身の危険も顧みず、私たちインカ族の苦しみを取り除こうと奔走(ほんそう)していらしたあの御方の姿に、真のキリスト者の在り方を見る思いがしたのです。それで、私は、少しでもあの御方から学びたいと思い、お手伝いさせていただきたいと願い出ました。それ以来、アリスメンディ様がアレキパにお越しになられた時には、この辺りの地の利に詳しい私が同行して、人知れず共に活動するようになっていったのです」「なるほど。だから、ロカ殿は、追放前からアリスメンディ殿と面識があったわけですね」ロカ神父の言葉に前傾姿勢のまま聴き入りながら、アンドレスは納得したように呟いた。が、「あれ?でも……」と、ハッと思い出したように、新たな疑問が湧き上がる。「アリスメンディ殿のように、イエズス会の神父たちは、全員、国外追放になったんですよね?ロカ殿は、どうして追放を免れることができたんですか?」ひとキャラメッセージ「皆さま、いつもご覧くださいまして、本当にありがとうございますどうか穏やかで素敵なクリスマスをお過ごしください」byこいゆーる♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.12.22
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神父とアンドレスの様子を見守っているジェロニモ、ペドロ、ヨハンもまた、ますます集中して二人のやりとりに聴き入っている。それは、彼らの傍で先ほどから何度も驚きに目を見張っているマリオも同様だった。「実は、俺も、これを書いたのはアリスメンディ殿ではないかと思っていたんです」アンドレスは、先ほどからのロカ神父の態度や応答から、この人物なら信用してもいいのではないかとの判断に至っていた。多分、ロカ神父の方も同じような感覚を得ているようで、先にも増して誠実さに満ちた眼差しで頷きを返しつつ、熱心にアンドレスの言葉に耳を傾けている。アンドレスは、自分以外の旅のメンバーたちの様子も横目でうかがいながら、彼らもまた、ロカ神父は信用できると感じている気配を受け取っていた。意を決して、彼は本当のことを打ち明ける。「ロカ神父、俺はあなたが先ほど仰った通りのアンドレスです。そして、この者たちは、ジェロニモ、ペドロ、ヨハン。大元の所属は様々ですが、今は、皆、トゥパク・アマル様の特命により行動を共にしている俺の仲間です。旅の道中、偶然にこちらのモソプキオ村に立ち寄りました」そこまで告げて、一旦、言葉を切り、それから今度は真摯な双眸(そうぼう)をマリオに向けて、申し訳なさそうに頭を下げた。「マリオ、本当のことを黙っていて、すまなかった。今回の旅は、インカ兵たちにも伝えることのできない内々のものだから、誰にも身分を明かせなくて……」そんなアンドレスの前で、神父はいっそう身を低めて深々と礼を払い、その隣でマリオはいよいよ驚愕して、これ以上ないほど見開いた瞳を激しく揺らしている。「トゥパク・アマルお墨付きの旅商人」などと偽ったことにアンドレスも胸の疼きを覚えていたが、トゥパク・アマルからの密命であることに加え、スペイン側から重罪人の烙印を押されて指名手配中の自分が身分を隠さざるを得ない事情をマリオなら理解できるはず──そう思い直し、再び気持ちを切り替えた。そして、ロカ神父との対話をさらに進めていく。「立ち入ったことを聞くようですが、ロカ殿はアリスメンディ殿とは、どのようなご関係なのでしょうか?これほどモスコーソに目を付けられてしまったのは、あなたがアリスメンディ殿と関係の深い人物だからなんじゃ……?」ひとキャラメッセージ「W杯、8強入りできなかったのは残念だけど、スペインとドイツに勝った偉業はすごかった俺もがんばらないとって思ったよ」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.12.06
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恭しく紙片を受け取った神父は、すぐに「はい」と頷いた。そして、静謐(せいひつ)な瞳で、アンドレスを真っ直ぐ見つめ返す。「アンドレス様は、これをお書きになった御方をお探しなのですか?」ロカ神父もまた、彼の知っている情報を伝えても大丈夫な相手なのかと、こちらのことを推し量っているのだろうと思われた。そのような神父の胸の内を察して、アンドレスも誠意を込めて答える。「はい。俺がその貼り紙を書いたと思っている人物は、俺の亡き父の親友だった人なんです。そして、あのモスコーソに徹底的に目の敵にされている人物でもあります。インカ軍が反乱を起こしたのと時を合わせ、この国の解放のために、どこかに身を隠しながら今も水面下で活動しているはずなんです。モスコーソに見つかる前に、なんとしてもお守りするために、居場所を探しているんです」熱を込めて真剣に語るアンドレスの言葉に、思慮深い面差しで耳を傾けていたロカ神父は、「よくわかりました」と深く沈着な声音で応じた。「そういうことでしたら、私の知っていることは全てお伝えいたしましょう。この文書を認(したた)めたのは、亡命先の英国から今は当地に戻っているイエズス会のスペイン人高僧──アリスメンディ様でございます」(やっぱり……!!)アンドレスは胸の鼓動が速まるのを感じながら、思わずロカ神父の方に前のめりになる。ひとキャラメッセージ「W杯初戦、日本やったなぁ!!ペルーは強豪ひしめく南米予選でも善戦してたんだけど、惜しくもW杯出場はならず…。その分、日本を応援するからね」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.11.24
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かなり長い沈黙が流れた後、アンドレスの声が戸惑いがちに聞こえてくる。「……どうして俺たちが旅商人じゃないって思うんですか?」他方、ロカ神父は、アンドレスたちを長椅子の方へ招いて座るよう勧め、まだ驚嘆に固まっているマリオにも座るよう促してから、自らも近くの質素な椅子に腰かけた。それから、神父は礼儀正しくも確信に満ちた様子で答える。「私は、このような寒村の神父ではありますが、若い頃は大きな都市部の神学校で学んでおり、その後も知識欲だけは旺盛なのですよ。インカ皇帝末裔のトゥパク・アマル様や、その傍近くにいらっしゃる類縁のアンドレス様のお顔ぐらいは、知っております」そう言って、また深々と頭を下げて、胸元にさげていたロザリオを握り締めた。「それに、先ほどの広場での皆様の戦いぶりは、並みのインカ兵たちのものとは思えませんでした。ですが、トゥパク・アマル様の懐刀であるアンドレス様とそのご一行ということであれば、納得できます。まさか、このような時に、このような場所にお越し頂けるとは、ただの偶然とは思えません。きっと神のお導きに違いありますまい」ロカ神父の態度も口調も、素朴ながらも誠実さに満ちており、何かを企(たくら)んでいたり偽っていたりという印象は全く感じられない。それでも、アンドレスたちにとっては、彼らの身分まで知られてしまっている以上、本当に信用に値する人物なのか、慎重に見極めざるを得ないこともまた事実であった。少し考え込んだあと、アンドレスは、懐に大事そうにしまっていた例の貼り紙を取り出した。(もう、核心から斬り込んでみるしかない……!)彼はロカ神父の前に、丁寧に折りたたんでいたその紙片を広げてみせる。「これは村中に貼ってあったものなのですが、あなたがこれを書いたとモスコーソ司祭に疑いをかけられて出頭を命じられたと聞きました。ですが、これを書いたのは、あなたではないと仰っているとも聞きました。ロカ殿、あなたは誰がこれを書いたのか、心当たりはありますか?」ひとキャラメッセージ「作中ではビックリしたまま台詞無しだったけど、前回に引き続き村の教会を紹介に参上!今回は教会入り口の写真だよ。なかなか雰囲気あるでしょ?」byまりお♪☆写真は Iglesia de Mosopuquio よりお借りしております。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.11.11
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扉の中は執務室のような場所になっていて、いずれも簡素で素朴なものながらも、本棚や机、ちょっとした応接セットなどが置かれている。部屋の奥には、仄明るい光の射し込む擦りガラスの窓があって、その傍に一人のインカ族の神父が立っていた。体格は中肉中背で、質素な黒衣を纏っており、年齢は40~50代位だろうか。アンドレスの知るアリスメンディよりも少し年下位の年代に見える。村の神父の褐色の顔は実直で温厚そうな表情を浮かべており、同時に、その瞳には研ぎ澄まされた知性の光のようなものが宿っている。マリオに連れられて部屋に入ってきた4人に、神父は微笑みながら、丁寧に礼を述べた。「ようこそお越しくださいました。モソプキオ村の神父を務めております、ロカと申します。この度は、私のような者のために、スペイン兵の血を流すことなく村の自警団員たちにお力添えくださいまして、誠にあり──」そう言いながら一人一人に視線を送っていた神父は、アンドレスの顔に目を留めて、ハッと大きく息を呑んだ。その視線は、真っ直ぐにアンドレスに向けられたまま、動かせなくなっている。「あっ…あなた様は……!!」「……えっ?」神父の様子に、アンドレスも、他の旅のメンバーたちも、何かを悟られたかと、にわかに緊張を覚えてグッと息を詰める。そのような急に張り詰めた空気を感じ取ってか、マリオが素早く間に入るようにして言葉を放った。「ロカ神父様、この者たちは、昨夜、村に立ち寄った旅商人たちです。トゥパク・アマル様からの書状も持っていて、あやしい者ではありません。そのトゥパク・アマル様の書状も直筆の本物でしたし、そうともなれば、信用に足る者たちだと見ていいと思います!なんと言っても、トゥパク・アマル様のお墨付きなのですからっ!ですから、神父様、どうかご安心ください」この場でも、相変わらず、マリオは「トゥパク・アマル直筆の書状」のところを、やたら興奮気味に力説している。そんな彼女の様子が可笑しくて、旅のメンバーたちの緊張感はなんとなく和らいでいく。すると、そのような空気の中、神父が静かな声でマリオに語りかけた。「いや、マリオ、こちらの御方は旅商人などではないのだよ」「え?」いきなり何のことかとばかりに、マリオがキョトンとして、神父を見上げる。一方、神父は、言葉を選ぶようにしながらも、裏表の感じられない堅実な口調で続けていく。「こちらの御方は、アンドレス様──。トゥパク・アマル様の甥御様であり、インカ軍を統べる指揮官のおひとりでもある。多分、他の方々もアンドレス様おつきの重臣たちなのでしょう」そう述べて、改めて深々と礼を払って胸で十字を切った神父の隣では、マリオがあの大きな瞳をますます大きく見開いて身動きできなくなっている。そんなマリオと同じように、アンドレスたちもまた、その場に立ち尽くしたまま凝固していた。4人共、まさかこのような小さな村の神父が、アンドレスの顔など知るはずはないと思っていたのだ。ひとキャラメッセージ「ちなみに、リアルなモソプキオ村の教会はご覧の写真の通り!奥に見えるのはミスティ山。形が日本の富士山に似てるって噂だけど素朴な村だけどいいとこだよ。ペルーに来たら、是非、立ち寄ってほしいな」byまりお♪☆写真はRepresa de Mosopuquio favorece al agro en Characato, en la región Arequipaより。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪ロカ神父≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の神父。40代半ば。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.10.27
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────不意に、深い静けさと冷んやりとした空気に包まれる。そこは、先ほどまでの戦闘中の雑踏と喧騒とは別世界だった。裏扉から入ったために、扉の内側に広がる光景は聖堂の中ではなく、聖堂に続く廊下に面した裏口の玄関ホールのような場所だった。玄関ホールと言っても、素朴で小さな教会であるために、今のように5人も人がいれば満杯になりそうな狭い空間である。高い位置にある天窓から光が射し込んでいるが、外の明るい陽光の中にいたために、やや仄暗く感じられる。それでも、さすがに教会の内部らしい荘厳で清浄な気配が満ちており、そこにいるだけで先ほどまでの戦闘で昂ぶっていた心身がスーッと鎮まっていくように感じられた。「さあ、奥の部屋でロカ神父様がお待ちだ。だけど、その前に、その被り物は取ってくれよ?」マリオに促されて覆面を外した旅のメンバーたちは、冷んやりとした空気を肌で直に感じて、その心地よさと解放感に思わず嘆息を漏らした。それから、4人は乱れた髪を手ぐしで慌てて整えると、廊下を進んでいくマリオの後ろ姿を急いで追っていく。そうしながら、ちょうど傍を歩いていたヨハンの横顔に目が留まったアンドレスは、小声で話しかけた。「ヨハン、さっきの戦闘ではインカ側について戦ってくれて、ありがとう」対するヨハンは相変わらずのすげない態度で、不愛想に答える。「別に、インカ側に味方しようと思ったわけじゃねえよ。俺は、ただ、あの生臭坊主が気に入らねぇだけだ」そんなふたりのやり取りが聞こえたのか、先頭を歩いていたマリオが、こちらを軽く振り向いた。「それって、あのモスコーソのことか?確かに、あいつは生臭坊主って呼ばれたって、文句は言えないよな。おまえたちのおかげで、ロカ神父様をあいつに差し出すようなことにならなくて、本当に良かった」そう噛み締めるように語るマリオの言葉を聞きながら、アンドレスは「ロカ」という神父の名前を心の内で反芻(はんすう)する。(ロカ神父──初めて聞く名前だな。そういえば、夕べ、マリオは、あのキリスト教の回状みたいな文書を誰が書いたのか察しがついてるって言ってたっけ。ってことは、マリオも、アリスメンディ殿のことを知ってるってことなのか?だとしたら、この村のロカ神父もアリスメンディ殿と関わりのある人物って可能性が高い…)そう思い至ると、改めて気の引き締まる思いがして、アンドレスは背筋を伸ばした。ミサに用いる道具などを置いている香部屋やちょっとした小部屋などを幾つか通り過ぎて廊下を進んでいくと、ほどなくマリオは聖堂の入り口近くの木扉の前で足を止めた。それから、軽くノックして、中に声をかける。「ロカ神父様、入ってもいいでしょうか?」「マリオ、待っていたよ。どうか中へお通ししておくれ」扉の向こうから落ち着いた男性の声が響き、マリオが「失礼します」と、丁寧な仕草で扉を開けた。ひとキャラメッセージ「読者の皆さま、いつもお読みくださいまして、どうもありがとうございます最近、あんまり出番が回ってこないコイユールと申します。日本はだんだん寒くなってきていると聞きます。どうかご体調管理にお気を付けてお過ごしください。風邪をひいたら私が薬草を煎じますので、仰ってくださいね」byこいゆーる♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.10.13
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「ああっ、えっと…その…っ」わたわたと慌てている覆面4人組をまじまじと見つめながら、マリオが呆れと感嘆の混じったような吐息をつく。「ふぅっ……。おまえたちは、いっつも、思いっきり怪しげなんだよな。いや、それより、さっきは驚いたなぁ!!旅商人のくせに、おまえたち、ずいぶん戦い慣れてるんだな!義勇兵でもやっていたことがあるのか?」「そっ、それは……」答えに困りつつも、アンドレスもまたマリオにつられるように溜息をついた。「っていうか、マリオ、君はどうして俺たちだって、わかったんだ?」「だって、ちょうど4人だし、顔を隠してたって昨日と同じ旅装束のまんまだし。背格好だって、昨日のおまえたちそのものだし。わかるの、あたりまえだろ?」「…………」ごもっともとしか言いようのないマリオの返答と、それほどにズサンな自分たちの変装ぶりが気恥ずかしくて、4人とも返す言葉をなくしている。しばし訪れた気まずげな沈黙の中を、サヤサヤと新芽を揺らす爽やかな初夏の風が流れていった。やがて思い出したように、マリオがポンッと両の手の平を打ち鳴らす。「あっ、そうだった!こんな話しより、神父様がおまえたちにお会いしたいって言ってたんだっけ。村の自警団員や神父様を助けてくれたお礼を伝えたいって。それで、おまえたちを呼びに来たんだ。さあ、教会の中に入ろう!」「えっ!!」願ってもないマリオの申し出に、アンドレスたちは覆面に包まれた顔をパッと輝かせる。どうにかして村の神父と話しをしたいと願っていたのだ。それを、神父の方から呼んでくれるとは、ありがたい。「あ、だけど、教会に入る時は、その覆面は取ってくれよ!」そう言って、マリオは念を押すように続ける。「どんな事情があって、おまえたちが、そんなふうに顔を隠しているのか知らないけど。でも、今は、教会の中には神父様しかいないから、余計な心配は無用だ」こうまでして顔を隠しているのは、よほど人目につきたくない理由があるのだろうとマリオなりに察したのか、彼女は教会の裏口へと4人を連れて行った。教会の表側に面した広場には、気絶したスペイン兵たちを捕縛したり、負傷者たちを介抱したりしている村人たちやインカ兵がまだ多く残っていたが、幸いにも裏口付近にひとけはなかった。気付けば、伝令鳥も、村外れの森の中へ戻ってしまったのか、また姿を消している。(伝令鳥には、本当に助けられたな……)そんな思いを胸に抱きながら、アンドレスたちはマリオに促されるままに素早く裏扉の中へと滑り込んだ。ふたキャラひそひそメッセージ「マリオに俺たちだってバレちゃったけど、素性まではバレてないよね」byあんどれす☆「ですね。あくまでオレたちは、旅商人ってコトで」byじぇろにも♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.09.22
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きれぎれの雲がかかった美しい蒼穹を舞う銀色の翼が、初夏の陽光を跳ね返して荘厳な煌めきを放っている。思いがけない鳥捕物帳に、広場の自警団員たちや応援していた村人たちも、楽しそうに鳥に向かって手を振ったり拍手を送ったりで、広場はすっかり勝利ムードでいっぱいだ。実際、まだ意識を保っていた少数のスペイン兵たちも、もはや勝機無しと悟った隊長サンチョの号令で、脱兎のごとく撤退に転じていた。その様子に、自警団員やインカ兵たちから勝鬨(かちどき)が上がる中、アンドレスたち覆面の4人は素早くその場を立ち去って人目のつかないところへ身を隠す。「あれ?あの覆面の4人は?」と、人々が思い出した頃には、4人は物陰に息を潜め、次なる目的である神父と接触を図る機会を探るべく状況が落ち着くのを待った。そうしながら、広場の様子をそっと観察する。どうやらインカ兵たちは、気絶したスペイン兵たちの処遇については、一旦、彼らを今のうちに拘束しておき、その間にアレキパの砦に使者をやってトゥパク・アマルの判断を仰ぐことにしたようである。そんなインカ兵たちの様子を見守りながら、アンドレスは心の中で頷いた。(うん、ひとまず、その方向でいいと思う。ことの経緯については、あとでトゥパク・アマル様宛てに伝文を書いて、伝令鳥に届けてもらおう。俺たちの介入で、結果的には村人たちがモスコーソに反旗を翻したかたちになってしまったから、この村をトゥパク・アマル様に守ってもらう必要があるし……!事情が分かれば、トゥパク・アマル様ならきっとご理解くださるはずだ)そんなふうにアンドレスが胸中で算段していると、不意に、彼ら4人の背後から、聞き覚えのある少女の声が凛と響いた。「おい、旅商人!!おまえたち、どうして、そんなとこに隠れてるんだ!?」教会近くの低木の茂みの中にしゃがみこんで姿を隠し、戦闘の止んだ広場の様子を見守っていたアンドレスたちは、ギクッと、身を固める。覆面姿のまま恐る恐る背後を振り返った4人を、自警団員の戦闘服に身を包んだマリオが、大きな瞳を見開いて真直ぐ見つめていた。ひとキャラメッセージ「ふむ、やっとわたしが出てきたか。名前だけだが……。読者の皆様方、アンドレスたちが世話になり、ありがたく思っております。引き続き、見守ってやっていただければ幸いです。……それにしても、わたしの出番は一体いつなのだ」byとぅぱく・あまる☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.09.08
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銃の引き金に添えた指先に、グッと、イヴァンが力を込める。────と、その刹那、彼の後頭部に、背後から飛び込んできた何かが、猛烈な勢いで激突した。「グハッ!!!!!」後頭部の皮膚に食い込む鷲爪のような鋭い感触と、あまりに強度な衝撃波に、叫び声と共にイヴァンが繁みの中から弾き飛ばされる。と同時に、彼の手から零れ落ちた銃が、近くの地面で暴発(ぼうはつ)した。突然の爆発音に、アンドレスたちが、いっせいにそちらを振り返る。「なっ、なんだ!?」彼らの視線の先には暴発した銃が転がっており、その傍には一人の長身痩躯(そうく)のスペイン兵──副隊長イヴァンが、苦痛に顔を歪めながら四つん這いのような恰好で地に伏していた。「うっ…痛~~~っ!」そのさまに、アンドレスやジェロニモたちは、自分たちかインカ兵か自警団か、ともかくインカ側の誰がが撃たれそうになっていたことを悟る。まだ地に倒れたままのイヴァンの傍にすかさず駆け寄ったジェロニモが、即座に一撃を見舞って気絶させた。「危ないトコロでした……!けど、誰が、コイツの狙撃を防いでくれたんダロ?」覆面姿のまま、不思議そうにジェロニモが首を傾(かし)げる。と、そんな彼の足元の草の中から、バサバサッと力強い羽音がして、大きな鳥が中空に舞い上がった。すっかり高く上がった太陽の光を燦然(さんぜん)と浴びて、銀色の翼が神々しく輝き渡る。「あっ、アマルちゃん!!」明るく響き渡ったジェロニモの声に、アンドレスも思わず空を振り仰いだ。繁みから飛び立った銀の鳥は、彼らのいる広場の上空を優雅に旋回しつつ、何やら誇らしげに下界を見下ろしている。そんな伝令鳥の様子に、アンドレスたちはすぐに合点がいって、覆面に覆われた表情をほころばせた。(そうか、彼が助けてくれたんだな!)多分、一夜を外で明かした伝令鳥は宿屋から飛び出してきたアンドレスたちについてきており、インカ側の誰かを銃撃しようと狙い定めていたスペイン兵に上空から気付いて、敵背後から突撃して射撃の成功を阻んでくれたのに違いない。「アマルちゃん、ナイス~っ!!」「お見事です、アマル様ぁ!!」意気揚々と碧空を旋回する銀の鳥────。周囲の敵勢に目配りしながらも、伝令鳥に嬉々として歓声を送るジェロニモやペドロ。そんな彼らと共に、アンドレスも「ありがとう!」と、空に向かって大きく手を振った。ひとキャラメッセージ「おかげさまで、なんとか無事デシタ!ご心配くださいました皆サマ、ほんと、ありがとうございマシタ~!」byじぇろにも♪【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪イヴァン≫(スペイン軍)モスコーソ司祭の命令により、モソプキオ村の神父を捕えにきたスペイン小隊の副隊長。長身痩躯の外見。飄々とした性格で、銃の腕は立つ。40代前半。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.08.25
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イヴァンは銃を身構えながら、また口をへの字に曲げた。味方の犠牲を前提にした隊長の狙撃命令には胸くそ悪さを覚えるが、あの邪魔な覆面を消せるなら、まあ、それにこしたことはないだろう。「──とは言ったって、広場にいる人間が障害物になって狙いにくい上、あの覆面、動きだしたらやたら速さがある。あー、ったく、捕捉(ほそく)しにくいったらないぜ」そう毒づきながらも、最初の頃に比べれば、だいぶ広場の人数は減っているには違いなかった。その上、気絶させられていくスペイン兵の人数が増えるにつれて、狙い定めている覆面野郎の動きも着実にスローダウンしてきているようだ。イヴァンの舌が、獲物を狙う獣のように、乾いた己の唇を舐(な)めた。(これなら好機を掴めば、殺れそうだぜ)イヴァンの指は手慣れた様子で銃の撃鉄を僅かに起こし、火皿に点火薬をザラリと入れ込んだ後、さらに撃鉄を起こした。これで発砲準備は完了だ──。引き金を引く完璧なタイミングを捉(とら)えようと、アンドレスを見据えるイヴァンの眼差しが、鷲のように鋭くなる。彼が目を皿のようにして見据える先の広場では、ますますインカ側優勢となり、まだ意識を保って戦っていたスペイン兵たちの中には、一人、二人と、遁走(とんそう)する者さえ出はじめている。その様子に、村の自警団員やインカ兵はワッと歓声を上げて、逃げる敵勢を囃(はや)し立てたり、追撃したりしている。そのような光景に、アンドレスは一息つく思いで、やっと足を止めた。「ふぅっ、良かった……!この調子なら、神父に手出しはさせずにすみそうだ」対するイヴァンは、身を潜めた繁みの中で、鋭利に研ぎ澄まされた両眼をギラリと光らせる。(今だ──!!)ひとキャラメッセージ「………………※△■&%!!」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌の持ち主で戦闘力もあるが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪イヴァン≫(スペイン軍)モスコーソ司祭の命令により、モソプキオ村の神父を捕えにきたスペイン小隊の副隊長。長身痩躯の外見。飄々とした性格で、銃の腕は立つ。40代前半。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.08.07
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隊長に急(せ)き立てられて、副隊長イヴァンは「無茶を言いなさる…」とブツブツ言いながらも、指定された覆面を射殺するのに狙いやすい場所を物色しはじめる。他方、己が狙われているとは知らぬアンドレスは、今も広場を疾駆しながら、だいぶ人口密度の減ってきたことを感じ取っていた。その分、敵の攻撃の勢いは、目に見えて衰えてきている。その機を見計らって、ジェロニモやペドロが、村の自警団員たちに願い出て、気絶したスペイン兵が目覚めても反撃してくることがないよう、地に伏した敵兵たちの両腕をせっせと縛り上げてもらっていた。そして、そんな自警団員たちが敵勢から襲われることがないよう、ジェロニモたちは彼らの盾となって戦いを続けている。そのようなアンドレスもジェロニモたちも、本来なら、こうした戦場で、敵の銃撃に合う危険性は十分に肝に銘じているはずだった。しかし、今回の戦いでは、予想以上に自分たちの戦闘を有利に推し進めることができていたがために、銃撃に対する彼らの注意力はかえって低下していた。(50人ほどいたスペイン兵も、今では、半数以上が意識を失って戦闘不能になっている。この調子なら、インカ兵や村の自警団員が彼らを圧倒するのも時間の問題だろう!)多少なりとも安堵を覚えて、思い出したように教会の方に目を転じれば、門扉の前で相変わらず押し問答をしていたらしき神父とマリオも、急激な戦況の変化に驚いてこちらを見渡している。その時、マリオの大きな瞳が、ピタッと、自分に向けられている気がして、アンドレスはハッと息を詰めた。(……!)慌てて彼は目をそらす。しっかり覆面を被っているから自分たちの正体をマリオに気付かれるはずはない──と思っていたのだが、にわかに焦りを感じはじめる。(いや、待てよ…?マリオって、夕べ会った時の感じからしても、勘が鋭そうだったよな。そもそも、覆面を被っていたって、こんな旅装束に、人数も4人って、十分バレそうなんじゃ……)神父やアリスメンディのことに気を取られて、マリオに自分たちだと悟られないための対策が甘かったと急に思い至るも、もう時は遅い。(後で村の神父に話しも聞きたいし、こうなったらマリオにはそれなりに事情を打ち明けて、神父との間を取り持ってもらうのがいいか…?)などと思い巡らせながらも、彼女の目から逃れようと、アンドレスはまた慌ただしく広場を駆け巡りはじめる。その頃、スペイン側の隊長サンチョにアンドレスの狙撃を命じられた副隊長イヴァンは、広場の周りを囲むように植え込まれた低木の繁みの中に身を隠していた。そして、気配を消して息を潜め、隙なくアンドレスの動きを観察している。ひとキャラメッセージ「今回は俺が代理でご挨拶にこさせてもらいました。いつも読んでくださって、どうもありがとうございます!噂によれば、この村の戦闘シーンもそろそろ終盤戦らしいんですけど、俺って大丈夫なんでしょうか?誰かさんがまた妙な決着のつけ方をするんじゃないか心配です」byあんどれす☆【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.07.21
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かくして、アンドレスの懸念通り、スペイン兵の隊長は、いきなり飛び込んできて戦況をインカ側有利に大きく攪乱(かくらん)している覆面の男たちに憤慨しながらも、虎視眈々と反撃の機を掴もうと手ぐすね引いていた。隊長サンチョは、味方のスペイン兵の雑踏に紛れ込んで覆面たちの目から逃れながら、副隊長のイヴァンを呼びつける。サンチョはいかにも隊長らしい立派な体格をしてはいるものの、顎髭をたくわえた顔は神経質そうで落ち着きなく、血の気を失った額には青筋が立っている。他方、副隊長のイヴァンは、ヒョロリとした頼りなげな痩身ながら、その表情は飄々としていて、あまり感情の乱れが見えない。「隊長、戦いの風向きが怪しくなってきましたな。早いとこ、あの妙な覆面どもをなんとかしませんと」そうは言いながらも、どこか落ち着き払った副隊長の様子に、隊長サンチョはますます苛立ちを募らせ声を荒げる。「そのために、お前を呼んだのだ、イヴァン!」隊長サンチョは、蛇のように炯々と光る目を、しばしの距離を隔てたところで戦っているひとりの覆面の男──アンドレスの方に真っ直ぐ向けた。「覆面は全部で4人。中でも、あいつの動きが特に目ざわりだ。イヴァン、おまえ、銃の腕は確かだったな?あいつを撃て」冷酷な濁声(だみごえ)で単刀直入にそう言って、隊長はアンドレスの方へ顎をしゃくる。かたや、狙撃を命じられた副隊長イヴァンは、痩せた頬をポリポリかきつつ、口をへの字に曲げた。「ですが、隊長、こんなゴチャゴチャした戦闘状態の中じゃあ、あの覆面を狙おうにも味方撃ちをしちまう恐れがありますぜ」対するサンチョは剣のある目で副隊長を睨(ね)めつけ、憤然と鼻腔を膨らませて怒鳴りつける。「イヴァン、そこをなんとか上手くやるのが、おまえの役目だろう!!」それから、チッ、と舌を鳴らして、低声(こごえ)で付け加えた。「もし誤って味方に弾が当たっても、この状況じゃ事故ですませればいいことだ。その辺のことは、後で何とでも俺が片付けるから、おまえは余計なことを考えず、さっさとあの覆面を始末しろ!このままじゃ、味方の士気は下がる一方だし、下手すりゃ全員おねんねさせられちまうぞ。さあ、ノロノロせず、さっさと行くんだ!!」ひとことメッセージいつもご覧くださいまして、本当にありがとうございます厳しい暑さの続く日々、くれぐれも熱中症などにお気を付けてお過ごしください【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.07.04
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いつしか太陽はだいぶ高く昇り、澄み渡った蒼穹から眩い陽光を地に降り注いでいる。さほど広くない空間における至近距離での斬撃の応酬となっているため、味方撃ちを避けるために、敵が銃を使えずにいることもありがたかった。それに、このような小さな村の自警団員との戦いだと思ってのことであろう、スペイン兵が全身鎧までは装着していなかったことも幸いであった。胸甲や腕当てやらの部分的なパーツは鋼鉄製ではあるが、後頭部やこめかみや頚部など露出している箇所が少なくないため、そこを狙ってサーベルの柄(つか)や剣の鞘で強打して昏倒(こんとう)させることができる。ジェロニモたちも上手く立ち回ってくれているおかげで、かなりのスペイン兵が、もう既に意識を失っている状態だ。ヨハンも、複雑な心境には違いないだろうけど、少なくとも今は俺たちの側に立って戦ってくれている、そのこともありがたかった。そんなことを内心で呟いているアンドレスに向かって、舞い上がる砂塵に霞む四方から、突如、多数のスペイン兵たちがドッと飛び出し、一斉にアンドレスに向かって突進してきた。邪魔な覆面たちに対する苛立ちと憎悪の高まりが、スペイン兵たちの纏う黒々としたオーラから生々しく伝わってくる。アンドレスは俊敏に身を翻して敵の突きをかわし、と同時に、目の前に迫り来る無数の剣先を鞘入りのサーベルで荒々しく薙ぎ払う。そのまま、彼は敵兵の群れの上にヒラリと跳躍したかと見るや、サーベルの柄を中空で器用に回転させながら、敵兵たちの脳天を瞬速で次々と突いて、まとめて彼らの「気」を奪った。そのままスタッと地に舞い降りると同時に、新たに飛び込んできた別の敵兵の額に一撃を見舞って、また地に寝かしつけた。彼は、鋭い眼光で、卒倒した敵兵たちが散らばる周囲に睨みを利かす。(スペイン兵たちの隊長はどこだ?既に気絶して眠ってくれているならいいけど、まだ意識があってどこかで戦っているとしたら、何か良からぬ手に打って出てこないとも限らない……!)ひとことメッセージ今回もご覧くださいまして、本当にありがとうございます紫陽花の美しい季節、どうか全ての皆さまがお健やかでありますように【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.06.18
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(……!!)鎌を握ったまま驚嘆している自警団の若者の前で、スペイン兵を仕留めた覆面姿の人物──アンドレスが「大丈夫ですか?」と声をかける。質素な旅装束に覆面という非常に怪しげな風貌ではあったが、その人物の手に握られた棒のようなものは、確かに今しがた己を間一髪のところで救ってくれたものだった。「あ、ありがとうございます、助かりました……!」「無事でよかった。ああ、ただ、そのスペイン兵は気絶しているだけだから、油断はしないでください!まぁ、当分の間は眠っていてくれるでしょうけど」そう言い残して、覆面の男は、また次の敵兵に向かって走り去っていく。自警団の若者は、ふと、走り去る人物の手に握られている棒のようなものに視線を留めて、またも目を丸くする。(…てっ!?あれって、鞘に収めたままのサーベルじゃ……!!)そう気付いた時には、その覆面の姿は、怒号叫喚のどよめく人群れの中に吸い込まれるように消えていた。一方、ジェロニモ、ペドロ、そして、ヨハンもまた、スペイン兵の剣の餌食になりそうになっている自警団員やインカ兵を救出しながら、果敢な戦いぶりを見せていた。自らも戦い続けているアンドレスの目の端をかすめる視界の中で、今も覆面仲間の誰かが、疾風の速さで敵兵が大きく剣を振り上げた先の自警団員の前に飛び込んでいく。次の瞬間には、覆面の握る鞘付きの剣が猛然と宙を切り裂き、振り下ろされた敵の刃を、ガンッ、と力強く上から下へと薙ぎ払った。その刹那、前のめりに体勢を崩した敵の背面首筋一点をめがけた覆面の肘鉄が、背後から強烈に振り下ろされる。意識を失った敵兵が、ドゥッと腹這いに倒れ込んだ。そんな光景が繰り広げられるたび、広場のあちこちに気絶して地面に伸びたスペイン兵の体躯が、また1つ増えていく。初めこそ、そのような謎の覆面姿の男たちの乱入によって、敵味方共に戦場は激しく混乱した空気に包まれた。が、それら覆面たちが自分たちに加勢してくれているらしいとインカ兵や自警団員が悟るまでに、そう時間はかからなかった。見かけは実に怪しげな旅装束の覆面姿ではあったが、彼らが通り過ぎた後には、失神した敵兵たちの重そうな巨躯が次々と転がっていく。その様子に、インカ兵や自警団員たちは鼓舞され、活気づいた。ひとことメッセージいつも御目通しくださいまして、本当にありがとうございます久々の更新になってしまいましたが引き続きお付き合い頂けますと幸いです【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.05.24
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戦いの場となっている教会前の広場は、せいぜい60~70メートル四方ほどの大きさで、それほと広くはない。その中で100人近い両軍の兵がひしめき合いながら武器を振り回しているのだから、その混雑具合はかなりのものである。むせかえるような人熱(ひといき)れと雄叫びや悲鳴に呑まれ、まるで本物の戦場のミニチュア版のようだった。インカ兵や村の自警団員たちは士気高く、装備面や人数においては劣勢にもかかわらず、勇ましくスペイン兵たちと斬り結んでいる。「さっさと村から出て行きやがれッ!!」農具と思しき鎌のようなものでスペイン兵の剣を力強く弾き返した自警団の若者に、その若者と武器を交えているスペイン兵が屈辱感と憤怒から目を血走らせて怒鳴り返す。「黙って神父を渡せば、命だけは助けてやったものを!だが、これ以上、貴様らのチャンバラごっこに付き合ってやるヒマは無い!死ねッ!!」弾き返された剣をスペイン兵は再び上段に構え、それを跳ね返そうと自警団の若者もまた鎌を上に斬り払った。と思いきや、次の瞬間、鎌を振り上げて体が伸びきった自警団員の虚をつくように、突如、スペイン兵は剣を下に引き下げると、いきなり下方から若者の胸部めがけて突き上げてきた。(しまった……ッ!上から斬り込もうとしたのはオレの守備を崩すためのフェイク……!!────やられる!!)自警団員が心の中でそう叫んだ瞬間───!「そこまでだ!!」そう叫ぶなり飛び込んできた一人の覆面姿の男が、自警団の若者の心臓を串刺しにしようとしていたスペイン兵の剣を、間一髪、彼の手に握っていた棒のようなもので猛然と払いのけた。ガンッ!!!!!固く鈍い音と共に、スペイン兵の剣が覆面の握る棒のようなものに弾かれ、その勢いで敵兵の全身が海老ぞりになる。その瞬間をとらえ、今度はその棒のようなものが鞭のようにしなり、バランスを失ったスペイン兵の顔を狙って、側面から、ビシィッ、と勢いよく叩いた。「────カハッ……!!!」こめかみに強打を受けたスペイン兵が、声にならぬ叫びを上げて、ドッ、と地面に崩れ落ちる。ひとことメッセージいつもご来訪くださいまして、本当にありがとうございますこのような世界情勢の中、不謹慎なシーンが続き恐縮ですが、殺戮ではなく気絶させただけですのでどうかご容赦いただけましたら幸いです【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.04.22
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教会に向かって全力疾走しながら神父の言葉を読み取り、アンドレスは覆面から覗く目を思慮深気に細める。(村人たちを巻き込むことを案じて──まともそうな神父だな。それに、教会の前を血で汚したくないという思いも、本当にその通りだろう……!)この反乱が幕を開けた当初から、インカ軍は当植民地におけるスペインの暴政に対して反旗を翻してはきたが、キリスト教に対しては受容的な立場をとってきた。元々、インカ帝国では、創造主ビラコチャ神が信仰の中心であった。そして、太陽は万物の創造神ビラコチャの創造物であり、インカ皇帝は太陽の子であると言い伝えられてきた。しかし、スペイン侵略以降はキリスト教が強制的に布教され、植民地支配下におかれてきた200年の間には、インカの民の間にもキリスト教がかなり浸透していた。この植民地生まれのスペイン人や混血児のみならず、インカ族の者たちでさえも、今やキリスト教の熱心な信者である者が少なくなかったのである。もちろん、インカ族の者たちの心の奥深くには、キリスト教信仰と共に、本来のビラコチャ信仰が秘められていることが多かったのだが……。いずれにせよ、今や民衆の精神的支柱ともなっているキリスト教を否定するようなことは、反乱当初からインカ側は考えておらず、そのため、教会傍での流血につながるような戦闘は、インカ軍総指揮官トゥパク・アマル自身もこれまで極力避けるようにしてきたことであった。アンドレスは、覆面の下で、唇をぐっと噛み締める。彼は仲間たちの方に大きく振り向いて、「神父の言っているように、教会前の流血はできるだけ避けたい!」と、戦闘の喧騒に負けじと声を張った。「後々、モスコーソがどんな難癖をつけてくるかわからないし、周り回って、トゥパク・アマル様にご迷惑がかかるようなことになってはいけない!みんな、できるだけ血を流させないような戦い方で頼む!!」そう呼びかけながら、内心では、その方が、ヨハンにとっても、スペイン人同士で殺し合うことを避けることができるだろう、という思いもあった。そんなアンドレスの仲間たちへの要望は、「不殺の戦い」をしろというもので、実際にそれを成しとげるのは容易なことではない。しかし、いやになるほど多くの戦場を駆け回ってきたメンバーたちは、戦闘においては熟練した強者と言えた。「わかりました!!」 「ガッテンでスッ!」そうペドロとジェロニモの威勢のいい声が聞こえたかと思えた次の瞬間には、アンドレスを先頭に、4人共全員、インカ兵や自警団員とスペイン兵が激しく武器をぶつけ合う大雑踏の中へ飛び込んでいた。ひとことメッセージ今回もご覧くださいまして、本当にありがとうございました次回から戦闘場面に入っていきますが、前回の予告通り流血シーンは避けてまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.04.06
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疾走速度をさらに上げていくアンドレスたちの耳に、戦いの喧騒が次第に大きく響き渡ってきた。その喧騒の流れ来る方角に突き進んでいくと、ほどなく、こじんまりとした質素な教会が見えてくる。その教会前は広場のようになっていて、そこで村に押し入ってきたスペイン兵と村の自警団やインカ兵が戦闘を繰り広げていた。宿屋の主人が言っていた通り、スペイン兵は4~50人ほどで、対するインカ側は村の自警団員とインカ軍の警備兵を合わせて3~40人前後といったところであろうか。インカ側は数的に劣勢である上、スペイン兵は全身鎧まではいかないものの、胸甲や腕当、膝当なども金属製でそれなりに重装備であるのに対し、インカ兵や自警団員が纏うのは布製や革製のものがせいぜいの軽装備。また、武器の差も大きく、インカ側は、斬り込み刀、剣、農具、斧など雑多であり、対するスペイン側は剣と銃で武装も整っている。ただ、装備面でも数的にも不利な状態にかかわらず、インカ側の士気は高く、神父を渡してなるかという気概がみなぎっていた。一方、教会の正面入り口に目を転じれば、神父と思しきインカ族の人物が外に出てこようとしているのをマリオが懸命に押し止(とど)めている。マリオの長いおさげが勢いよく上下に跳ねている様子からも、けっこうな勢いで神父と揉め合っているようだ。『神父様、外は危険です!お願いですから、教会の奥に入っていてください!!』そんなマリオの声が聞こえてきそうである。対する神父は、マリオに止められながらも何かを必死に叫んでいるようだった。武器の打ち合う音やインカ側とスペイン側の互いに浴びせ合う罵声などにかき消され、神父の声を聴きとることは困難である。それでも、神父の口の動きから、だいたい次のように言っているらしいことが読み取れた。『皆さん、戦いをやめてください!私が出頭すればすむことなのですから。これ以上、戦いを続けては、皆さんまでが罪に問われてしまいます。それに、私のために大ケガをしたり、命を落としたりしてほしくないんです。スペイン兵の方々も戦いをやめてください!どうか教会の前を血で汚(けが)さないでください!!』ひとことメッセージ本日もお目通しくださいまして、本当にありがとうございます世界情勢が現在のようなタイミングで戦闘場面を描くのは不謹慎な思いがするのですが、今回は流血シーンはなるべく避けるようにしてまいりますのでどうかご容赦頂けましたら幸いです【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪マリオ≫(インカ側)アンドレスたちが『青き月の谷』に向かう旅の道中、立ち寄ったモソプキオ村の自警団に属するインカ族の少女。18歳。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.03.22
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しっかり覆面で顔を隠したアンドレスたち4人は、宿屋の主人から教えてもらった村の教会へと急いだ。よく晴れた早朝の青空から降り注ぐ陽光は、次第に強さを増してきている。そのような中、黒々とした覆面を被った己の頬に手をやって、ペドロが走りながらボソッと言う。「あの…この覆面姿、かえって怪しげで悪目立ちしやしませんかね?」さりげに核心的な発言をしたペドロに、他の3人も内心で「もっともだ……」と、頷かざるをえない。「オレもそう思うケド、素顔ってワケにもいかないですし。インカ兵やスペイン兵も来てるんじゃ、どこに顔見知りがいるかもわかりませんからネ」そう応じたジェロニモに、他の3人が再び「ごもっとも……」と溜息混じりに頷く。それから、アンドレスは、少し離れたところを走るヨハンの横顔──今は覆面に隠されてはいるが──にチラッと視線を走らせた。(ちゃんとヨハンもついてきてくれた。なんだかんだ言って、ヨハンも正義感が強いタイプだよな)颯々と吹く朝風の中、均整のとれた体格で無駄のない走りを見せているヨハンは、運動能力の高い黒人のジェロニモと並んでも、そのキレのある動きに遜色(そんしょく)はない。そして、己の横で安定感のある走りを見せているペドロもまた、トゥパク・アマルの重側近ビルカパサ隊に属して鍛えられてきただけあって、大柄で筋骨逞しく力強いだけでなく、その動きには機敏さも兼ね備えている。改めて、頼もしいメンバーたちだと、ありがたく感じる。そんなことを思いながら疾走速度を上げていくアンドレスの耳に、走りながらヨハンに語りかけるペドロの声が聞こえてきた。「ああ、その……だな」と、そこで咳払いをしてから、「……ヨハン、今朝はすまなかった」と付け加えた。「はっ?」と、ヨハンの無感情な声。「いや、だから、今朝、宿屋がスペイン兵に囲まれていたのを見て、つい、おまえを疑ってしまった」ヨハンの方に軽く頭を下げて申し訳なさそうに言うペドロに対して、ヨハンは振り向きもせず、冷めた口調で飄々と答える。「別に気にしてねぇよ。てめぇの迷惑行為は、砦にいた頃から続いていたことだしな」「……っ!貴様ッ、こっちが下手に出ればいい気になって!!」「まーまー。ふたりとも、こんなトキまでケンカしないでネー!」相変わらずのニコニコ顔が覆面の向こうに見えるようなジェロニモの応答。今では、すっかり慣れ親しんだお決まりのパターンだ。それでも、ほんの少しずつながらもペドロとヨハンの距離が縮まってきているように感じられて、アンドレスの心は温かくなる。ともあれ、今は、気を引き締めて臨まなければならない。彼は、己の気持ちを素早く現実へと引き戻し、村の様子に鋭利な視線を走らせる。こんな朝早くに、しかも、余所(よそ)者の武装したスペイン人たちが多数押しかけてきたことで、村人たちはすっかり目覚めてしまっているようで、各家々から強い緊張感が伝わってくる。先程までそこかしこをうろついていたスペイン兵たちの姿も今は見えず、恐らく、目的地の教会の方へ移動してしまっているものと思われた。そうしているうちにも、村の教会の小高い尖塔が視界に飛び込んできた。ひとことメッセージ今回も小説をご覧くださいまして、本当にありがとうございますだんだん春の気配が増していく時期、皆さまのお健やかな毎日をお祈りしておりますそして、世界の戦乱が一刻も早く終息しますように……。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.03.08
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「なるほど……。神父様とはいえ、ずいぶん尖った感じのする人ですね。これまでも危ない橋を何度も渡ってきたみたいですし。まぁ、あのモスコーソが目の敵にするのもわかります」実直な口調で語るペドロの言葉に、アンドレスは溜息交じりに頷いて、早口で付け加えた。「うん。ジェロニモやペドロのような黒人やインカ族の者たちは、トゥパク・アマル様の糾合に応えて、国中の多くの者が義勇兵として既に参戦してくれているのが現状だ。だけど、俺みたいな混血児やクリオーリョ(植民地生まれの白人)の中には敬虔なキリスト教徒が少なくない。そのことをモスコーソは熟知しているから、インカ側に立って戦おうとしようものならキリスト教から破門して恐ろしい制裁を加えると、反乱幕開け時から凄い剣幕で脅しをかけ続けてきた。だから、内心ではトゥパク・アマル様の側に立って戦いたくても、モスコーソの報復を恐れて身動きできずにいる混血児やクリオーリョが未だに多いのが実情なんだ」アンドレスは、アリスメンディが書いたと思しき紙面に改めて熱い視線を注ぐ。「だからこそ、アリスメンディ殿は、この国のどこかでこの文書を書いて、大々的に拡散させた。そして、『モスコーソなんかキリスト教徒の風上にも置けない。真のキリスト教に照らし合わせれば、モスコーソの言葉なんか恐れるに足りない。だからこれ以上、ヤツの言いなりになる必要はない!』って、伝えようとしてるんだと思う。この国には、混血児やクリオーリョが多い。これまで足踏みしていた彼らがどのような形であれ協力してくれるようになれば、インカ側にとっては、非常にありがたい増援となる」ヨハンは朝食をさっさと平らげて戦闘の身支度に移りながら、相変わらずの冷ややかな口調で言い放つ。「だからといって、あの生臭坊主がこの村の神父を狙う理由が、わからねぇぞ?」アンドレスもヨハンに続いて素早く身支度を整えながら、「俺も、そこんとこは、まだよくわからない」と、素直に同意した。「モスコーソも、この文書を見れば、アリスメンディ殿によるものだと予想はついているはずだ。それなのに、全然関係なさそうな、この村の神父を連行しようとしているのはどうしてなのか?アリスメンディ殿がこの村の教会に潜伏していると誤解しているのか、あるいは、この村の神父がアリスメンディ殿に関する情報を握っていると思っているのか、もしくは人々の恐怖心を単に煽りたいための見せしめなのか……疑問は尽きない。そもそも、この村だけじゃなく、国中の教会で同じようなことが起こっているのかもしれないし。真相がなんであれ、とにかく、今はこの村の神父に危害が及ぶ前に助けないと!さあ、俺の話はここまでだ。教会に急ごう!!」ひとことメッセージ今年は更新をちょっと多めに……と言っていた先から大変遅くなり、申し訳ございませんでした今回でアリスメンディに関する解説は一区切りとなります。長々とした説明シーンにお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.02.24
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スペイン国王によるイエズス会への弾圧、そして、その渦中で行われたアンドレスの父親の暗殺。これまでこの国で行われてきた数々の蛮行を振り返れば、そのようなことが起こっていたとしても今さら驚くにはあたらない。とはいえ、目の前のアンドレスの悲痛な表情を前にして、ジェロニモもペドロもさすがに胸詰まる思いに襲われ、かける言葉を失っている。そのような空気の中、相変わらずの調子で、ヨハンがまたバッサリと切り捨てるように言葉を放った。「お前の父親が、この国に残って暗殺されたのはわかった。だが、アリスメンディって神父は、国外に亡命したって話だったよな?なんで、そんなヤツが、今頃、あんな貼り紙を書いてる?話のつながりが全然見えねぇぞ」いつもと変わらぬ様子のヨハンの言葉に、むしろアンドレスはハッと感傷から醒めて、我を取り戻した。そして、口早に続きを語りだす。「確かにアリスメンディ殿は英国へ亡命はしたけど、だからといって、この国の民の解放を断念していたわけじゃなかったんだ。元々、彼は国際的にも著名な神父だった上、選んだ亡命先は英国。知っての通り、英国はスペインに強い敵対心を持っている国だ」「ナルホド!」と、ジェロニモがポンッと自分の膝を叩いた。「敢えてスペインに反感の強い国に接近して、反撃の機会を狙ってたってコトですかネ?敵の敵は味方って、ヤツですネ!」アンドレスが力強く頷いた。「その通り。亡命先の英国はスペインに強い対抗意識を燃やしているから、アリスメンディ殿は敢えて英国を選んで亡命した。英国に赴いてからは、意図的に英国王室に近づいて親しい間柄になり、ますます身分の高い高僧へと昇りつめた。そして、その立場や身分を利用して、今回、当地に進軍してきた英国艦隊に『相談役』として乗艦を許可され、この国に戻ってきたんだ。もちろん、従軍僧としての立場としても、英国王室から乗艦を許されていたと思う。でも、英国艦隊に協力するかに装った『相談役』という名目は、あくまでここに戻ってくるための手段でしかなかった。だから、彼を乗せた英国艦がこの国に着くと、いち早く戦艦を降りて上陸し、英国から持参した大量の武器をインカ軍に引き渡してくれた後に姿を消してしまった。一度、トゥパク・アマル様や俺に会いにきてくれたことはあったけれど。だけど、最近は、もうずっと行方不明のままになってる。多分、どこかイエズス会の秘密の隠れ場に身を潜めながら、水面下で行動しているんだと思うんだ」ひとことメッセージアリスメンディに関する説明が長く続いてしまい、申し訳ございません次回あたりまでで説明シーンは一区切りの予定ですので、あと少しだけお付き合いください。それでは、今年もどうぞよろしくお願いいたします【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪アリスメンディ≫(インカ側)イエズス会に属するスペイン人の高僧。40代半ば。かつてペルー副王領でインカの解放運動をしていたが、スペイン国王から弾圧を受け英国に亡命。英国王室に接近して相談役として英国艦隊への乗艦を許可され、ペルー副王領に舞い戻った。上陸後、英国艦隊から離脱して姿を消しており動向は明らかではないが、水面下で隠れイエズス会士たちと行動しているもよう。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2022.01.06
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明けましておめでとうございます!昨年も遅々とした更新となってしまい大変恐縮な思いなのですが……そのような中でもご来訪くださりお読みくださいました読者さま本当にありがとうございました。また、励みになるコメントや応援をしてくださいました皆さまには重ねて深く御礼申し上げます。今年はもう少しペースを上げて書いていけるよう頑張りたいと思っておりますのでどうか引き続き温かくお見守り頂けましたら幸いですm(_ _)m(アンドレスの旅はまだ入り口ですが目的地の「青き月の谷」にまつわる秘密を旅の進行と共に紐解いていく予定です。また、トゥパク・アマルは次なる戦場に向かう予定ですができればそろそろ英国艦隊側の様子も覗いておきたいところ……。今後の展開に少なからぬ影響を及ぼすアレッチェの状況も並行して見ていきたいですし……。なんてゴチャゴチャ言ってないで、さっさと書けですね^^;)まだコロナの影響なども続く日々ではございますが全ての皆さまにとりまして御健康で幸多き年となりますようお祈りいたします。本年も『コンドルの系譜』をどうぞよろしくお願いいたします!2022年元旦風とケーナにほんブログ村(1日1回有効)
2022.01.01
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再びアンドレスが深く頷く。「確かに、ヨハンの言う通りだ。今はあまり時間が無いから詳しくは説明できないけど、国外追放の件は大事なので話しておきたい。ヨハンが言ったように、イエズス会の神父たちが国外追放になったことは本当だ……。スペイン国王にとっては、インカの解放運動を推し進めようとするイエズス会の神父たちは、邪魔者でしかなかったからだ。しかも、その国外追放が行われたのは今から15~6年前のことで、そんなに昔のことじゃない」低く押し殺したアンドレスの声音に、ジェロニモやペドロも言葉を失ったまま唇をかみ締めている。そして、ヨハンもまた同様に、無言で聞き耳を立てていた。そんな彼らの前で、アンドレスはさらに重い口調で続けていく。「国外追放を命じられた神父たちは、自分たちがいなくなった後の当地の民の行く末を案じて、どうすべきかすごく悩んだ。だけど、スペイン国王のイエズス会弾圧は日毎に強まっていき、この国に留(とど)まっていたら、いつ命を奪われるかわからないような状況だった。それで、多くの神父たちが、やむなく国外へ亡命していったんだ」海底に沈み込んだような冷え冷えとした沈黙が流れた後、思いきったように低声(こごえ)でペドロが問いかける。「あの……では、この国に残ったイエズス会の神父様は、誰もいなかったのでしょうか?」「いや、ごく少数だけど、いた。だけど、残った神父たちも、結果的には、皆、暗殺されてしまったが……」そう答えたアンドレスの握り締めた拳が、微かに震えている。その様子に、ジェロニモがハッと何かを思い出したように、大きく息を呑んだ。「……あっ、そういえば、アンドレス様のお父上も神父様だったって、噂を耳にしたコトがありますが。まさか……!」アンドレスは顔を俯(うつむ)かせて、苦し気に小さく頷いた。「──ああ、その通りさ。俺の父上もスペイン人のイエズス会の神父で、当時、インカの解放運動をしていた。そして、暗殺されてしまったひとりでもある……」「……ッ!」ヨハンも含めて、聴いている皆がグッと息を詰め、いっそう重々しい空気が小さな部屋に圧(の)しかかる。シン…と静まり返った簡素な室内に、低く絞ったアンドレスの声が再び聞こえてきた。「実を言うと、父上とアリスメンディ殿は面識があったんだ。ふたり共、イエズス会の神父で、解放運動を共にしていた同志でもあった。でも、それだけじゃなくて、ふたりは親友同士でもあったんだ。スペイン国王から国外追放の命令が下った時、思い悩んだ末、アリスメンディ殿は英国へ亡命するという苦渋の決断をした。だけど、俺の父上は、この国に骨を埋めるつもりでインカ族の母上と結婚して、既に俺も生まれていたから、国外追放の命令に従わなかった。その結果、父上は暗殺されてしまったが……。俺がまだ5歳ぐらいの頃の話だ」最後は呟くようにそう言って、アンドレスは悲し気に目を伏せた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。40代前半。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。20歳。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2021.11.06
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「そうですネ。腹が減っては戦はできぬ、ですからネ!」そう応じて、昨夜のうちに買い置いておいた朝食のパンやチーズを皆に分けていくジェロニモを眺めながら、アンドレスは懐に大事そうにしまっていた例の貼り紙を取り出した。そして、もう何度も読み返したその紙片を再び皆の前に広げる(註:紙片に書かれた文章はこちら(3行目~)をご覧ください)。「多分、3人共、知らない人物だと思うけど…。俺の推測では、この文章の草案を書いたのは、アリスメンディ殿──イエズス会に属するスペイン人の高僧だ」「え?アリス……?」と、3人がキョトンとしている。「あー、きっと、3人共、聞いたことの無い名前だろうけど」「確かに初耳ですケド…、それにしたって、そんな身分の高いスペイン人の神父様がどうしてこんな文章を?」クエスチョンマークだらけという表情で問うジェロニモに、アンドレスはどこからどう説明したものかと思案顔になる。「みんなも知っての通り、今から200年ほど前、インカ帝国をスペインが侵略した時の大義名分は『キリスト教の布教』だった。つまり彼らの言い分はこうだ。『野蛮で無知なインディオに福音の光をもたらし魂を救済してやるが、その代償として、神やスペイン国王のために金銀や労働力を提供しろ!』まあ、今現在、この国のカトリック教会の一番上に君臨しているモスコーソ司祭が言っていることと大差無い内容だけどね。そうやってキリスト教の布教の名の元に、死ぬまで働かせるような過酷な強制労働や重すぎる税の徴収が正当化されてきたわけだが……」憤怒と悲しみの混ざり合ったような口調で語るアンドレスの言葉に、他の3人はパンをかじりながら、ジェロニモとペドロは神妙な表情で、一方、ヨハンは微妙な表情で、それぞれ耳を傾けている。部屋全体に重苦しい空気が漂いだしたのを感じて、ジェロニモがアンドレスにもパンを差し出し、明るい笑顔を見せた。「アンドレス様も話しながら食べてください!このパン、意外とイケますヨ。インカベリー(ホオズキ)のジャムが挟まってるから、栄養も満点デスし!」「ありがとう」と受け取って口にしたアンドレスも、「うん、美味い!」と表情をやわらげた。そのためか、声のトーンも少し明るくなって、また話の続きを始める。「そんな状態だったわけだけど、そうしたキリスト教のやり方に疑問を持つ者たちが、スペイン人の中にも少しはいたんだ。特に、一部のイエズス会の神父たちは、インカの人々をはじめ土着の人々に対するこのような仕打ちは真のキリスト教の教義に反するとして、逆に、解放運動を熱心に行ったりもしていた」アンドレスの説明に、ジェロニモが納得したように声を上げた。「ナルホド!アンドレス様があの貼り紙の草案を書いたと見込んでいるアリスメンディというスペイン人も、そのようなイエズス会の神父ってコトなんですネ?」「うん、その通りだよ。アリスメンディ殿については、もう少し説明しておきたいことがあるけど、とにかく、元々、インカの解放運動をしていた人物である上、身分も高いし、博識でもある。この貼り紙の文章の論調も、いかにもアリスメンディ殿っぽいし……」「ふむ」とペドロも頷き、「そのアリスメンディ様とは、どんな感じの人なのですか?」と尋ねてくる。「それが……全身黒ずくめの僧衣がけっこう迫力あってさ、表情なんかも隙が無いっていうか…。神父っていうには雰囲気があまりに鋭くて、俺も初めて会った時は驚いたんだけどさ。だけど、中身は信頼に値する人だと俺は思ってる。なんていうか…トゥパク・アマル様と同じぐらい、すごく高潔な信念を持っている人だって感じたんだ。それは、この貼り紙の内容を読めば、なんとなく伝わってくると思うけど」アリスメンディと出会った時のことを思い出すように遠くを見つめる眼差しになっているアンドレスに、牛乳瓶を手にしたジェロニモが不思議そうに首をかしげる。「だけど、アンドレス様は、どうして、その神父様と知り合いナンですか?アリスメンディって名前は、俺は、完全に初耳でしたし。あのモスコーソと張り合えそうな凄腕の神父様なら、もっと名が知れててもいいように思うンですケド」「それは……」と、アンドレスが説明しかけた横から、鋭い目をしたヨハンが口を挟んだ。「おい、待て。アンドレス、おまえの話を聞いてると、そのアリスメンディっていう神父は今もこの国にいるような口ぶりだよな?だが、イエズス会の神父なら、スペイン国王の命令で、とうの昔に、全員、国外追放になっているはずだ」「えっ、国外追放!?」と、驚いているジェロニモとペドロの方には見向きもせぬまま、ヨハンは詰問するようにアンドレスに問う。「おまえが物心つく頃には、イエズス会の神父なんか、この国にはもういなかったはずだ。それなのに、おまえは、その神父に会ったことがあるような言い草だよな?それに、この貼り紙の文章だって、この国の中で書かれて、ばら撒かれたような言い方をおまえはしているが、国外追放された神父にどうしてそんなことができるんだ?アンドレス、おまえの話は、いろいろとつじつまが合わなすぎるんじゃねぇのか?」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2021.10.10
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自分と宿屋の主人とのやりとりを見守っていたジェロニモやペドロたちを、アンドレスが鋭く振り向いた。「君たちも想像がつくだろう?あのモスコーソに狙われた人間の末路がどうなるかってこと……!しかも、この村の神父には何の罪状もないのに、それをわかっていて放っておくってわけにはいかない」アンドレスの言葉に、ジェロニモが面白そうに、ニィッ、と笑う。「アハハ!あー、やっぱり、そう来ると思ってましたヨ~。急ぐ旅の途中だったような気もしますケド、ここまで聞いちゃったら、放っとけないですモンね」一方、ペドロは、すっかり困惑顔である。(アンドレス様の気持ちはわかります。しかし……、そんな人前に出るようなこと、危険すぎます!!)宿屋の主人の存在を意識して口には出していないものの、ペドロの表情からありありとそのような言葉がうかがえる。そんなペドロの様子に応えるように、アンドレスが視線で強く訴えた。(ペドロ、心配はわかる!だけど、放ってはおけないんだ!完全に覆面を被っていけば、そこそこ人相は隠せるだろ?)(はぁっ……。かなり危ない橋を渡ることになりますよ!……って言っても、止められそうにないですね。まあ、わたしだって、その神父のことが気にならないわけじゃないですし……)深く溜息をついたペドロのもっと部屋の奥では、壁にもたれて様子を見ていたヨハンが、(あーあ、この旅、まともに終わりそうな気が全然しねえなぁ)とでも言いたげな呆れ顔で、買い置きの水を瓶から喉に流し込んでいる。アンドレスは、今一度、唖然としている宿屋の主人の顔を覗き込んだ。「ご主人、このままでは村の神父様の身が危ない。俺たちも、自警団やインカ兵の皆さんに力添えさせてください。……こう見えても、多少は腕に覚えがありますので。それで、村の教会の場所はどこなんです?」宿屋の主人は、事態の流れに仰天しながらも、よほど正義感の強い旅商人とでも思ったのだろう、敢えて反対して止めるようなことはなかった。「は、はぁ……助太刀くださるなら、ありがたいことではございますが。場所でしたら、こんな小さな村ですから、ほんの目と鼻の先でございます。それにしたって、くれぐれもお気を付けて……!」村の教会の場所を伝えて宿屋の主人が部屋を立ち去ると、俊敏な手つきで武装を整えながら、ジェロニモがアンドレスの方へと素早く視線を馳せた。「アンドレス様は、あの貼り紙を書いた人物が誰なのか、だいたい予想がつくって言ってましたよネ?その辺り、そろそろ俺たちも教えてもらうことはできませんか?この村の神父とは別人みたいですケド。ですが、これから教会に行くンですし、多少の予備知識はあった方がいいと思うンです」そのジェロニモの言葉に、アンドレスは「うん、確かにそうだな」と頷き返す。「ジェロニモ、ペドロ、ヨハン、無茶を言って本当に申し訳ない……!」と謝ってから、語を継いだ。「今のジェロニモが言った件だけど、そろそろ皆にも知っておいてもらった方がいいと俺も思う。こんな時だから、手短に伝えるが…。あ、それと、これは他言無用だ。これから俺が話すことは、事が公けになるまでは、君たちの心の内だけにしまっておいてほしい」ジェロニモとペドロは「もちろんです」と答え、一方、ヨハンは無言で肩をすくめただけだった。が、ヨハンという人間が少しずつ分かってきていたアンドレスには、それがヨハンなりに了解しているサインだと察することができた。「それじゃ、要点を話すから、昨日買い置きしておいた朝飯でもパパッと食べながら聞いてくれ」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2021.09.23
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「ああ、それでしたら、あやつらの目的は、多分、村の教会の神父様です。神父様を逮捕しに来たのでありましょう……」宿屋の主人は声を潜めて答えると、困惑と悲しみの混ざった表情で溜息をつき、床に視線を落とした。次の瞬間、不意にアンドレスが、押し込められていた大棚の陰から飛び出してきた。そして、扉の前に走り込んできて、主人に迫り寄る。「ご主人、それはどういうことなんです?この村の神父様が、あのスペイン兵たちに狙われてるってことですか?」貧しい身なりの旅商人にしては、あまりに貴公子然としたアンドレスの風貌に、宿屋の主人は驚いて目を丸くした。「えっ!?あの、お客様は……?」物陰から出てきてしまったアンドレスに、ジェロニモやペドロが「あちゃぁっ!出ちゃったらダメでしょ~!」と、呆れつつ慌てている。そんな彼らをよそに、アンドレスはさらに主人に詰め寄って、相手の顔を覗き込んだ。「ご主人、教えてください。この村の神父様が、なぜスペイン兵に逮捕されそうになっているんですか?もしや……!」アンドレスの剣幕に気圧されながら、主人がおずおずと口を開く。「は、はぁ…、その、お客様も村中に貼られているあの紙をご覧になったでしょう?」「あの貼り紙のことですか?キリスト教の上層部を厳しく批判して、インカ族の者たちを擁護し、解放闘争への糾合を呼びかけたあの──」「そ、そう、それです。ご存知の通り、あの貼り紙は、この村だけに貼られてるってわけじゃないんです。今じゃ、もう国中のあちこちに貼られてるって聞きますし…。それなのに、あれを、この村の神父様が書いたのではないかって、前々から疑われているんです。それで、クスコのサント・ドミンゴ教会まで出頭するようにと…!ですが、神父様は、ずっと断り続けてきたんです。あの貼り紙を書いたのは自分ではないって仰って……」「クスコのサント・ドミンゴ教会ってことは、あのモスコーソ司祭に直々に呼び出されてるってことですよね?」「仰る通りでございます。畏れ多くも、あのモスコーソ司祭様から……!!」宿屋の主人の言葉に、アンドレスは固唾を呑んだ。彼は己の心拍数が上がっていくのを感じながら、さらに問う。「この村の神父様って、何者なんです……?まさか……!」アンドレスの逼迫(ひっぱく)した気迫に押されて、主人は後ずさりはじめている。「村の神父様は大変博学ですし、信仰心も人一倍強いお方ですから、スペイン側に目を付けられてしまったのも無理からぬことではございますが……。とはいっても、こんな小さな村の出身者です。いかに今はご立派になられようとも、あの貼り紙のような、大それたものを書くような人ではありません……。この村のもんはみんなそう思っていて、神父様をお守りしてきたんです」「……え?嫌疑のかけられている神父様は、この村の出身者なんですか?ってことは、スペイン人ではなく、インカ族……?」アンドレスの質問の意図がわからぬまま、主人が擦れ声で答える。「はい、お客様。代々この村で薬師をやっている家の次男坊で、もちろん生粋のインカ族です。村を出て、アレキパの都市部の神学校で学んでいらした時期はありましたが」アンドレスが再び大きく息を詰める。(あの貼り紙の文章を書いた人物が、俺の予想している人だとすれば、この村の出身者でもインカ族でもないはずだ。ということは、この村の神父は、やってもいないことで嫌疑をかけられていることになる。あのモスコーソのとこなんかに、連行されてみろ。たとえ冤罪(えんざい)であろうとも、死ぬまで拷問されて殺されるぞ……!)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)植民地ペルー副王領におけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。60代前半。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を笠に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2021.08.31
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一番面の割れやすそうなアンドレスが、ジェロニモの腕によって、有無を言わさぬ勢いで大棚の陰に押し込まれた。アンドレスの姿が隠れたのを見届けてから、ペドロが軽く咳払いをして部屋の扉を開ける。「コホンッ…!あ、おはようございます。こんな朝早くに、どうかされましたか?」窓外のことなど何も気付いていませんよというふうを装って、ペドロが宿屋の主人に挨拶する。扉の外には、中肉中背の人のよさそうな中年のインカ族の男がひとり、申し訳なさげに立っていた。もしかしたら宿屋の主人を脅しながら敵兵も同行していて、開けると同時に敵兵まで飛び込んでこないとも限らない──そんな危惧も抱いていたため、そこにいるのが主人ひとりであったことに室内の者はひとまず安堵する。そんな彼らの耳に、おずおずとした主人の声が聞こえてきた。「お客様、お気付きになっているか分かりませんが、どうも外が物騒な様子でして…。ご心配をおかけしているのではないかと、お詫びに上がりました」物陰のアンドレスをはじめ室内の面々は、少々予想外の主人の言葉に、「え?」と胸の内で反応する。昨夜のマリオの影響か、この村では、どうもペドロが旅の一行の代表者と思われているようで、主人もまたペドロを中心に時々ジェロニモやヨハンにも視線を向けながら、頭を下げつつ説明する。そうしながらも、スペイン人であるヨハンをチラッと見る眼差しには、さすがに警戒の色が混ざってはいたが。「夜明け前に、4~50人ほどのスペイン兵がいきなり村に押し入ってきて、村の自警団やインカ軍の警備兵と小競り合いになっているんですが…。それがなかなか手強い相手で、インカ兵の方々も自警団員もすっかり手を焼いておりまして……。あっ、ですが、こんな宿屋に何かしてくるってことは無いと思いますので、どうかお客様にはご心配なさらないで頂きたくて!それをお伝えに上がったのでございます」「え!?ええっと、じゃ、あの外のスペイン兵たちは、この宿屋に用があるってわけじゃあないんですか?」ペドロの質問に、宿屋の主人はキョトンとした表情で目を瞬(しばたた)かせる。「…はい?そうですね、あの者たちが、この宿屋に何か用があるってことはないと思うんですが。……あの、えっと、お客様、今のご質問はどういう意味で…?あやつらと、この宿が、何か関係が……?」「あっ、ああー、いやいや、なんでもないのだっ!気にしないでくれ!!」ハッハッハッと豪快に笑って誤魔化しているペドロの横で、すかさずジェロニモが話題を変えるように主人に別の質問を投げた。「でっ、親父サンッ!村に押しかけて来たスペイン兵たちってのは、一体、何が目的なンですかネ?」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務めていたが、急遽、トゥパク・アマルの密命を帯びて旅立つことになった。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。20代半ば。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。スペイン砦戦では多くの黒人兵を統率し、アンドレスの無謀な砦潜入作戦の完遂を補佐。身体能力が高く、明朗な性格で、ムードメーカー的存在。これまでも陰になり日向になり、公私に渡って、アンドレスを支えてきた。≪ペドロ≫(インカ軍)インカ軍のビルカパサ隊に属する歩兵。此度のアンドレスの旅の同行者の一人。20代後半の若さながらも郷里には妻がおり、息子思いの父でもある。≪ヨハン≫(スペイン軍)スペイン軍の歩兵。20代半ば。偶然的な事情から、此度のアンドレスの旅に同行することになった。スペイン人らしい端正な風貌な持ち主で戦闘力もありそうだが、性格は傍若無人なところがあり、掴みどころが無い。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!にほんブログ村(1日1回有効)
2021.08.01
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