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BGMは、相田みつをの「厳冬」に私が曲を付けたものです。
聞こえないときと、歌詞を見たい方は
ここをクリックしてくださいね。
読んでくださった方は、
一言、感想頂けるとうれしいです。
ちなみに、ベスとローリーという名前は、
大好きな「若草物語」から、借りてしまいました。
他にもいろんな名前が出てくるけど、
どこから借りたか当ててね。
小説「見果てぬ夢」2
彼は転校生だった。私のクラスに入ってきたのだ。
学級委員である私に、先生は
彼に学校の案内をするように指示した。
ちなみに先生もロボットだ。
人間の教師は少なくなってきている。
というより、まず人間の人口が少なくなってきているのだ。
体力知力共、ロボットに劣る人間は、
自然淘汰されてきているのかもしれない。
その代わりとして、ますますロボットが生産され、
頭脳労働に携わるものも、ほとんどロボットになりつつある。
私のパパなど、残された数少ない人間の科学者の一人なのだ。
だから、パパはまだロボットに理解がある。
上司の人間より、部下のロボットの方が優秀で、
また人格的にも信頼できるというのだ。
まあ、ロボットは人格と言うより、
ロボット格とでも言ったほうがいいかもしれないが・・・
ともかく、ロボットにとって代わられた人間の嫉妬は醜い。
先生も人間の教師に妬まれているらしい。
私の大好きな先生なのに。
生徒は平等に扱ってくれるし、
良いところを認め、伸ばしてくれる。
奴らもロボットは馬鹿にしているが、
先生にだけは一目置いているらしい。
不良でもこだわらずに声をかけ、励ましてくれる。
人間の先生の中には、「不良なんて、人間じゃない。
ロボット以下だ。」なんて言う人もいる位なのに。
そうそう、彼の案内役の話だったわね。
私が校内を案内しても、
彼は興味無さそうに聞き流していた。
私を避けるように、どんどん歩いて行ってしまうのだ。
道も分からないのに。
「待ってよ。そっちには何も無いわ。ただ海があるだけよ。」
「いいんだ。学校を見ても仕方が無い。海のほうがましさ。」
彼は海を見ながらも、何か遠くを見つめているようだった。
「あなたは何を見ているの? 海なんか見てないでしょ。」
「自分の中の風景さ。ただ何も無い原っぱに、風が吹いている。」
「なにそれ。自分は孤独だって言いたいの。
随分と気障な言い回しね。」
「なんとでも言うがいいさ。君には関係ない。
誰にも僕の邪魔はさせない。」
「それが気障だって言うのよ。格好つけないで。
一度位、みんなの前でいいところを見せたからって、
いい気にならないでよね。」
私は素直じゃない。本当は、彼が言うと、
気障に聞こえないなと思いながらも、
強がりを言ってしまうのだ。
好きなくせに憎まれ口ばかり。
『もう自己嫌悪!
そのくせ直せないんだよな、この性格・・・』
彼はもう何を言っても聞こえないとばかりに、
黙って海を見つめていた。
私は彼に話しかけることも出来ず、
一緒に海を眺めてるしかなかった。
海をしみじみ見たのは初めてだった。
海はどこまでも続いていると思われた。
あの海の向こうに昔の廃墟があると聞いていたが、
そんなことは信じられなかった。
誰もまだ行ったことがないのだ。
核戦争で世界が滅びるとき、
放射能を通さない物質で作られたロボットが、
人間の赤ちゃんを、男女一人ずつ抱いて生き残ったのが、
私達の祖先だと言われている。
まるでノアの箱舟だ。
ロボットが人間が育ててくれたのだ。
ロボットは、人間の命の恩人ではないか。
その恩も忘れ、そのくせ、最初にロボットを作ったのは、
人間だと威張っている。
ここは放射能から隔離されたドームの中。
ロボットが作ったものだ。
ロボットだって、放射能には弱い。
プログラムが狂ってしまうのだ。
でも、人間よりは強いかもしれない。
死ぬ事はないから。
それでも、昔あの海を渡ってきてから、
向こうの世界へ行ったロボットはまだいない。
海もまた、ドームの外。
見ることは出来ても、行くことは出来ないのだ。
ドームの外に出る事は許されていない。
もちろん誰も行くハズはないが。
まだ放射能が残っているのではないか、
ということもあるが、
もうすでにドームの外は、
人間が住める環境ではないだろう。
ドームの外には海しかない、
この島からでは、何も分からない。
ただそこには、海があるだけなのだ。
ぼんやりと海を見ながら考えていた。
ハッと気付くと、彼の姿はなかった。
彼はもっと先まで進んでいたのだ。
私は、彼に無視されながらも、付いて歩いた。
振り向いてくれるまで。
「君も相当しつこいね。いくら付いてきても、
僕は君の事なんか知らないよ。
僕は誰とも付き合わない。
ロボットならいざ知らず、
人間なんかと口も利きたくないんだ。
さっさと帰ってくれ。」
彼は人間に恨みがあるようだった。
まあロボットなら多かれ少なかれ、
人間を恨んでいるだろうが、
彼ほど憎んでるものはいないように思えた。
少なくとも、表面的には。
口に出して、人間を非難するのは彼だけだった。
「人間に恨みでもあるの?
あるなら、言ってごらんなさいよ。」
「恨みを持たないロボットはいない。
人間はロボットの犠牲の上に胡坐をかき、
働きもせず、のうのうと生きてきた。
それなのに、感謝するどころか、
軽蔑の眼差しでロボットを見る。
ロボットにこそ人間を軽蔑する資格があるんだ。」
「本当にただの恨みじゃないわね。
何があったというの?教えて。」
「人間になんか、話す必要はない。
ロボットにさえ話したことはないんだ。」
「言えないのなら、言わなくていいわ。
それなら、恨み言も言わないで。」
「なんだって。君もただの人間だったんだな。
少しは見所のある奴かと思ったのに。
それなら、僕も言わせてもらう。
ロボットを哀れむのはやめろ。
軽蔑も耐えられないが、同情はもっと許せない。
上から見下してるには変わりない。
『可哀そうに』なんて言いながら、
優越感に浸っているだけだ。」
「そんなつもりはないわ。
ただロボットも人間も平等だと思ってるだけよ。」
「ふん、ふざけるな。どこが平等だ。
同じ学校や職場に居ながら、この差別はなんだ。
学問や仕事を真面目にやってるのは、
ロボットだというのに、
人間は、ロボットを差別するためだけに
来ているようなものじゃないか。役に立たないくせに。」
「そんなことはないわ。
確かにロボットの方が、優秀で役に立つかもしれないけど、
人間にだって、頑張ってる人はいるわ。
私はそれほど優秀ではないけれど、
努力はしているわ。能力だけが問題じゃないでしょ。
やる気の問題よ。」
「そのやる気が人間にはないんじゃないか。
どうせロボットがやってくれるとたかをくくっているから、
何もしないでいられるのだ。
ロボットは役に立たなければ、スクラップだ。
ロボットだって、学習機能だけの
プログラムしか与えられていないのだ。
自分で学習するしかない。努力とは
ロボットのためにある言葉だ。能力はその賜物なんだ。」
「人間だって同じよ。
初めから能力を持った人なんかいないわ。努力よ。」
「じゃあ、その努力している人間を見せてもらおうじゃないか。
君以外の人間で。」
「いいわ。私の父も努力の人よ。
ロボットに混じって、科学研究所で働いているの。
父だって、決して元から優秀な人じゃない。
家に帰ってからも書斎にこもって、勉強しているわ。
徹夜で研究を続けて、
何日も家に帰ってこなかったことも、数え切れないほど。」
「そんなロボットはいくらでも居る。
だが人間では珍しいな。会わせて欲しい。」
「いいわ。だけど、父の都合に合わせてもらうわよ。
忙しい人だから、なかなかつかまらないの。
私でさえ、すれ違いで、
会えない日のほうが多いくらい。」
それでも、早速、父に彼のことを話した。
「前から好きな人が出来たら、連れて来いと言ってたでしょ。
私、好きになれる人が見つかったの。
まだ相手はそんな気ないけど、
連れてくるだけでもいいでしょう。」
「ああ、もちろんだとも。
パパがベスの目に狂いはないか、確かめてやる。
今度の日曜は出勤しないから、連れてくるといい。」
「このところ、休日出勤ばかりだったのに、
大丈夫なの?何か研究が終わったの?」
「ちょっと一段落というとこかな。
ベスは、科学に興味があるのか?」
「うん、私もパパみたいな科学者になりたいの。なれるかな。」
「ウーン。難しいけど、ベスなら大丈夫。
頑張ればきっとなれるよ。
ただし、ロボットの中で人間が互角にやっていこうとしたら、
並大抵の努力では駄目だ。
彼らの学習機能は、私達人間の比ではないからね。」
「そうね。本当にそう思うわ。学校の勉強でさえ、
ロボットに太刀打ちできないのに、
研究なんて出来るかしら。不安になっちゃうわ。」
「え? ベスは、首席ではなかったのか?
ロボットも含めての。」
「今度、凄い転校生が入ってきたのよ。
勉強もスポーツも抜群なの。」
「ほう、そんなに凄いロボットなのか。
どこから来たのかね。」
「なんでも、北のはずれの海沿いの町から来たと言ってたわ。」
「北のはずれだって?
その町の名はなんていうのかね。
もしかして、あの町かもしれない。
そうだとしたら、彼は一体何者なのか。」
「北の町がどうかしたの? 何があるというの?」
「いや。私も余り知らないのだが、
機密のある町らしい。
誰もその町に出入りする事は許されていないのだ。
その中にいる者も、出る事はかなわない筈だ。
彼はどうして出てこれたのか。」
「あまり詳しい事は言いたがらないの。
人間嫌いなのよ。」
「そうか。私はそのロボットに会ってみたいな。
好きな彼よりも。」
「今に会わせてあげるわよ。
それより、彼を楽しみにしていてね。」
パパの驚く顔が目に浮かんだ。
心の中で、ペロっと舌が出ちゃった。
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