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「私もうちに居るだけじゃ嫌だな。
迷惑かけるし、何かできることはないかしら?」
と、かぐや姫は畳みかけるように言ってきたので、
僕は戸惑ってしまった。
「うーん、仕事するのは無理だと思うよ。
うちにいて家事をしてくれたら嬉しいんだけど。」
と、哀願するように言ってみるのだが、
「だって面白くないんですもの。
他の人間にも会ってみたいし。」
と、いたずらっぽい目で僕を見る。
「それは困るなあ。」
「そう?」
と、オロオロする僕を楽しんでるかのようだ。
長い髪を指先でくるくると回しながら。
「いまどき珍しい黒髪だよな。
烏の濡れ羽色って言うんだっけ?」
と、彼女の髪に見とれて言うと、
「今はそんなことどうでもいいの。」
と、ぴしゃりと言われてしまう。
「結構きついんだなあ。
もっと大和撫子かと思ったのに。」
とちょっとがっかりして言う。
「あら、昔の方が女性強かったのよ。
私は誰にも頼らなかったわ。」
と毅然としている。
「確かに誰にもなびかなかったよな。
でも今はどうなんだよ。」
とムッとして言い返すと、
「だから、独立したいの。」
と唇をとがらせて答える。
怒った顔も割といいなあ。
「そういってもなあ。
今の常識知らないし、
社会に出るのはちょっとね。」
ともったいぶって、かぶりを振る。
「わかったわ。
自分で探してみる。」
と外へ出ようとする彼女。
「待ってくれよ。
一人じゃ危ないよ。
僕も一緒に行く。」
とあわててついていく。
夜に彼女一人出す訳にはいかないからな。
怖いもの知らずというか、向こう見ずというか、
僕がついてないと、と思ってしまう。
「ついてこないでいいわよ。」
と早足で歩いていく。
「何をするか心配なんだよ。」
と腕をつかむと、振りほどいて、
「仕事なんて自分でも探せるわ。」
とムキになって言うから、
「君に出来る仕事なんてないよ。」
と僕までつい強く言ってしまった。
「何かあるはずよ。
あれはなあに?」
とビルのネオンが輝いてる店を指す。
「あれは、ちょっとやばいよ。
女性が男性にサービスするところだけど、
お酒も飲まされるし、
何をされるか分かったものじゃない。」
と必死で止めると、
「ふーん。面白そうね。」
と笑って、かえって興味を示す。
天邪鬼だなあ。
危ないので、腕をつかんで、引き戻す。
今度はなぜか素直にされるがままにしているが、
時々振り返ってはさっきの店を見上げていた。
「仕事なら、僕も一緒に探してやるから。」
一抹の不安が頭をよぎったが、
振り払うようにどんどん歩いた。
「もう、そんなに引っ張らないでよ。
痛いじゃない。」
とまた腕を振り解こうとするので、
つかんでる指を緩めた。
するっと腕が抜けて、急に彼女が走り出す。
「つかまえてごらんなさい。」
振り向いて言ったかと思うと、
羽のように軽い足取りで跳んで行く。
「待てよ。」
右手を伸ばしながら走るが、
不思議と追いつかない。
僕だって結構速いのに。
それでも、やっと追いついたと思ったら、
急に立ち止まるので、
ぶつかって二人とも倒れてしまった。
彼女の上に乗ってしまう。
「大丈夫かい?」
とそのまま声をかけると、
「早くどいてよ。」
と怒って言う。
「ごめん。」
慌てて跳び起きると、
彼女がきゃしゃな右手を差し出す。
「起こして。」
急に甘えた声を出す。
まったく可愛いんだか、生意気なんだか、
振り回されてしまうよな。
「しょうがないな。」
と言いながら、
右手でつかみ、勢いよく引き起こす。
その拍子に彼女が僕の胸に飛び込んできた。
「つかまえててね。」
ささやくように言うから、
思わず抱きしめてしまった。
「離さないよ。」
声にも腕にも力がこもる。
またキスをしてしまった。
今度はさすがのかぐや姫も
目を閉じて待っててくれた。
その後、肩を抱き、うちに戻った。
僕達二人のうちへ。
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