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東日本大震災の避難所で浮き彫りとなった男尊女卑社会。「絆」とか「親睦」という言葉を盾にプライバシーを無視する。あれから8年たっても、日本の避難所の実態は変わっていません。いつになったら、この理不尽な世の中は変わるのでしょうか。
2019年10月31日
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映画化するということで、近所の図書館から借りてきました。ある事件を、双子の弟共に追う真壁。作中、真壁と双子の弟との会話シーンがあるのですが、ラストがあの映画「シックス・センス」みたいでした。映画化されたら、どうなるのか気になりますね・・
2019年10月31日
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最近話題の本。 何だか色々と考えさせる本でした。
2019年10月30日
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グリコ・森永事件をモデルにした長編サスペンス。徐々に明らかになる真相に、ページを捲る手が止まりませんでした。映画化される理由が読んでみてわかったような気がします。3年前にもこの作品を読みましたが、久しぶりに手を取ってこの作品を読んでみてもあの時受けた衝撃は未だに変わっていませんでした。
2019年10月30日
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子供の為、夫の為によかれと思ってやった行動の裏目にでたという主人公の物語。何だか切ないお話でした。
2019年10月30日
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全825ページもありますが、先が読みたくてページをめくる手が止まりませんでした。 事件の真相は悲しいものでした。
2019年10月29日
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今回も苑遊が怖かったです。何故彼は鶏冠に執着するのか。それよりも王様の優柔不断さにはイライラしました。ラストがまた衝撃的なものでした。これで2ヶ月とか待てないなぁ。
2019年10月29日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。 王妃がクリスティーネに宛てた手紙の中には、クリスティーネに対する想いが綴られていた。“あなたがこの世に生を享けた時、わたしはあなたを女として育てると決めました。あなたの命を守る為ならば、そうするしか他に方法がなかったからです。” クリスティーネは、王妃の手紙を読み終わった後、これが手紙ではなく日記の一部である事に気づいた。「ねぇレイチェル、王妃様は何故この手紙をあなたに託したのかしら?」「それはわたしにもわからないわ。帰ったらお母様に手紙の事を聞いてみるわ。」「ありがとう、お願いするわ。」「クリスティーネ、わたしはあなたの事を信じているわ。きっとみんな、いつかわかってくれるわよ。」「そうね・・」 月日が経つにつれ、世間からクリスティーネが王妃の指輪を“盗んだ”事件は完全に忘れ去られていった。 社交界でもそれは同じで、貴族の令嬢達は専ら流行のドレスやゴシップの事ばかり話していた。「ねぇ、A子爵夫人の事をお聞きになりまして?」「えぇ、聞きましたわよ。あんな大人しい方が、まさかあんな荒くれ者と駆け落ちするなんて・・」「ねぇ。」「それよりも、最近陛下が妙な女とお会いになっているそうよ。」「妙な女?」「何でも、真羅国から来たとか。」「まさか、陛下の愛人かしら?」「そんな事ないでしょう!」「陛下は男前だし、独身よ。」 刺繍の集いで、令嬢達の噂話を聞いていたクリスティーネは、黙々と針を動かしながらフェリペが会っているという女の事が気になった。「ねぇ、あの方どなた?」「さぁ・・見ない方ね。」「どうかなさったの?」「クリスティーネ様、先程からこちらを覗いている方が・・」「まぁ、そうなの。」 クリスティーネが窓の外を見ると、塀の向こうからこちらの様子を窺っている一人の少女の姿に気づいた。 その少女は、クリスティーネ達が着ているドレスとは違った、妙な服を着ていた。「わたしがあの方にお話を聞いてみるわ。」クリスティーネはそう言うと、邸宅から外へと出て、少女に声を掛けた。「ねぇあなた、そこで何をしているの?」少女はクリスティーネに話し掛けられると、その場から一目散に逃げだした。「どうでしたか、クリスティーネ様?」「わたしが声を掛けると、逃げてしまったわ。」「変な子だったわね。」「えぇ、本当に。」「皆さん、雨が降る前にお帰りになって。」「わかったわ。また、この時間に集まりましょう。」「ご機嫌よう。」 クリスティーネ達が友人宅から出た時、急に雨が降ってきた。「じゃぁみなさん、ご機嫌よう。」 クリスティーネが傘を差しながら歩いていると、先程の少女が雨に濡れ、寒さに震えていた。「あなた、大丈夫?」 クリスティーネが少女の肩を叩くと、彼女は音もなく静かに倒れた。「あなた、どうしたの、しっかりして!」 クリスティーネが少女を抱き起すと、彼女の身体は燃えるように熱かった。にほんブログ村
2019年10月29日
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昭和28年、伊豆山中の集落が住民後とこつぜんと消えた調査に赴いた関口に襲いかかる怪異。この作品、二年前に途中で読むの止めたので、久しぶりに読んでみましたが、ぐいぐいと引き込まれてしまいます。サスペンスでありながら怪異物なので、何だか面白くて続きが読みたくなります。
2019年10月28日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。(何故、この娘が・・) アンジェリーナが扇子を握り潰しながらクリスティーネを睨みつけていると、アンジェリーナの視線に気づいたクリスティーネとフェリペがやって来た。「陛下、とても素晴らしいダンスでしたわ。」「アンジェリーナ、今宵の其方はいつにも増して美しいな。」「まぁ陛下、お世辞がお上手ですわね。それよりもクリスティーネ様がいらっしゃるなんて珍しいわね。あんな事があったというのに・・」 アンジェリーナの挑発にクリスティーネは涼しい顔をしながらこう答えた。「陛下がわたくしの事を誤解していたようですの。」「まぁ・・」「余はクリスティーネが王妃の指輪を盗んだと勘違いしていたのだ。その事で世間を騒がせてしまった。」「陛下、わたくしは陛下の事を恨んでなどおりません。」「アンジェリーナ、今回の事件は全て余の勘違いだったのだ。それ故クリスティーネはもう自由の身となった。」「まぁ・・」 アンジェリーナとクリスティーネの目が一瞬合った。クリスティーネは口端を歪めて笑った。「上手く陛下を誑し込めたのねぇ・・」「何をおっしゃっているのか、わかりませんわ。」 クリスティーネはアンジェリーナの手を掴むと、人気のない場所へと移動した。「何故、父を殺したの?」「あなたの父親は、知り過ぎた。」「知り過ぎた、何を?」 クリスティーネがそう言ってアンジェリーナに詰め寄ると、アンジェリーナは邪険にクリスティーネの手を払った。「余計な詮索はしない方がいい。」「あなたは何故、私を憎むの?」「お前は闇の恐ろしさを知らない。」 アンジェリーナはクリスティーネに吐き捨てるかのようにそうい言うと、舞踏会のざわめきの中へと戻っていった。「お帰りなさいませ、お嬢様。舞踏会はどうでしたか?」「疲れたわ。陛下が今回の事件についてみんなに説明してくれたけれど、みんな信じてくれるかどうか・・」「大丈夫です、お嬢様。」「そうね。」 舞踏会から数日後、クリスティーネは久しぶりに外出した。「ねぇ、あの方・・」「一体どのような神経をなさっているのかしら?」「よく外を歩けるものだわ。」クリスティーネがカフェでコーヒーを飲んでいると、向こうのテーブルで自分の事を見つめながらヒソヒソとそう話している貴族の令嬢達の姿に気づいた。 舞踏会でフェリペが事件について皆に説明してくれたものの、自分が王妃の指輪を盗んだ事を信じて疑わない者が居る事を、クリスティーネはひしひしと感じていた。「お嬢様、お客様です。」「お客様?」 帰宅したクリスティーネが客間へと向かうと、そこには親友・レイチェルの姿があった。「クリスティーネ、大変だったわね。」「えぇ。レイチェル、わざわざ来てくれてありがとう。」「今日はあなたにこれを渡しに来たの。」 レイチェルはそう言うと、一通の手紙をクリスティーネに手渡した。「これは?」「生前、王妃様があなたに渡して欲しいと頼まれたものよ。」「王妃様が、わたしに?」にほんブログ村
2019年10月28日
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兄ジェイコブとその友人ルーとともに、小型飛行機の残骸とパイロットの死体、そして440万ドルの大金を手にしたハンク。 金のせいで全てが狂い出すー欲望とは恐ろしいものですね。
2019年10月27日
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宮沢賢治の作品になぞらえて起きた連続殺人事件ーその裏には、被害者達の過去に関係があった。 いじめの加害者は自分がしたことを忘れるが、被害者は長年の恨みを抱いていた。 いじめのリーダー格の犯人が表向きは教育評論家として活躍しているのが矛盾してますね。
2019年10月27日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「天上の愛地上の恋」の二次創作です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 少女はルドルフの手を引っ張ったまま、お気に入りの花畑へと向かった。『ほら、見て!』少女に言われ、ルドルフは眼前に広がる一面の向日葵を見た。それらは皆、太陽に向かって咲き誇っていた。『ここ、わたしのお気に入りなの!』『君、名前は?』『わたしはマリ、日本から来たの!』『日本?』 かつてウィーンに居た頃、ホーフブルク宮殿を訪ねてきた留学生達の姿がルドルフの脳裏に蘇った。 確か彼らも、この少女と同じ、極東の島国の出身ではなかったか。『どうして、こんな遠いところまで来たんだい?』『父上と母上と一緒に、農園で働いて、将来は自分で農場を経営する為よ。御一新でわたし達の生活は苦しくなってしまったから。』そう言って少し寂しそうな顔をルドルフに見せた少女・マリは、滔々と極東の島国からこの南米の地にやって来た経緯を語り始めた。 マリの家は、かつては“アイヅ”と呼ばれていた王家に仕えていたサムライの家だったこと、それが“御一新”と呼ばれる内戦の所為で全てを失い、一縷の望みに賭けて海を渡り、慣れない異国での生活を送っている事。『わたしには父上や母上、兄上が居るけれど、それだけでも恵まれていると思うの。わたし以外の家族の中では、戦で亡くなった方が沢山いらっしゃるし・・』『君は偉いね、幼いながらもご両親の助けになろうとして。わたしにも、君と同じ年位の娘が居るんだよ。』『その娘さんは、今どこにいらっしゃるの?』『ここから遠い所さ・・もう二度と会えないだろうね。』ルドルフはそう言うと、蒼く澄み切った空を見上げた。 たとえエルジィとは遠く離れていても、この空は彼女が居るウィーンへと繋がっている―そう思うと少しルドルフの気が楽になった。『さぁ、学校に戻ろうか。』『うん!』ルドルフとマリが手を繋ぎながら向日葵畑から学校へと戻ると、アルフレートが慌てた顔をしながら二人の元へと駆け寄った。「二人共、何処へ行っていたんですか!もう午前中の授業は終わりましたよ!」「すまない、少し息抜きをしたくてな。それよりもアルフレート、教師の仕事はどうだ?うまくやっていけそうか?」「ええ。スペイン語の勉強にもなりますし、子供達はみんな元気で明るいから遣り甲斐があります。」「そうか。」 午前の授業が終わり、生徒達は昼食を取るために帰宅したが、マリだけが学校に残り、家から持参した弁当を風呂敷包みから取り出した。『美味しそうだね。これは君のお母様が作ってくれたものなのかい?』『ええ。お米はここでは手に入らないから、代わりにサンドイッチを作ってくれたの。』 そう言ってマリは、母親が作ってくれたサンドイッチをルドルフ達に見せてくれた。そこにはチーズとトマトが上に乗っており、質素ながらも美味しそうなものだった。『ルドルフ様、わたし達もお昼に致しましょう。』『あぁ、そうだな。』 アルフレートが持参したバスケットの中には、彼の手作りのサンドイッチが入っていた。『お前は相変わらず料理が上手いな。』『お褒めに預かり、光栄です。』にほんブログ村
2019年10月27日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。 静馬と共に怪我人の手当ての為に診療所へと戻った有匡がそこで見たものは、阿鼻叫喚の地獄絵図さながらの光景だった。 火事で焼け出された者の中には、全身が酷く焼け爛れた者や、既に息をしていない者が居た。「有匡殿、遺体を運び出すのを手伝って頂けませぬか?」「はい・・」 診療所の医師・瑞庵(ずいあん)と彼の弟子と共に、有匡は被災者達の遺体を美祢の遺体が安置されている奥の部屋へと運んだ。 遺体は時間の経過とともに増えてゆき、軽い火傷を負った怪我人達の手当てを有匡達が漸く終えた頃には、日が暮れ始めていた。「瑞庵様、差し支えなければ、今回の火事について、詳しく教えて頂けないでしょうか?」「火事の原因は、何者かによる付け火らしい。美祢様達はたまたま火事の現場である集会所で開かれた会合にご出席されており、そこで火事に巻き込まれてしまったようだ。」「そうなのですか・・それよりも瑞庵様、わたしの母の事はご存知ですか?」「其方の母上様の事なら存じ上げておる。スウリヤ様は、かつてこの診療所の手伝いをしていたことがあったからな。そういえば、いつも彼女は使用人や家族に行き先を告げずに何処かへ出掛けていたようだが・・その事について妙な噂があった。」「妙な噂、ですか?」「このような事を有匡殿にお伝えするのは大変心苦しい事なのですが、スウリヤ様が度々外出されていたのは男と密会していたからではないかという噂が昔、この近辺に広まりましてな・・スウリヤ様が失踪されたのは、噂が収まりつつあった頃でした。」 瑞庵から聞いた話に衝撃を受けつつも、有匡は母が失踪した原因は悪意ある噂の所為ではないとわかっていた。 母と懇意にしていた恵心尼の話から推理すると、自分の父親に殺されそうになった母は、夫と子の身の安全を案じ、自ら姿を消したのではないかと、有匡はそう思い始めていた。「お帰りなさいませ、有匡様。旦那様がお部屋でお待ちになられております。」「わかった、すぐに行こう。」 帰宅した有匡がすぐに有仁の部屋へと向かうと、中から父と誰かが口論している声が聞こえて来た。「わたしは有匡を京へやるつもりはない。それだけは覚えておかれよ!」「本日のところは、これで失礼いたします。」有匡と入れ違いに、土御門家の使者らしき男が有仁の部屋から出て行った。「父上、また土御門家の者がわたしに上洛せよとの催促をしていたのですか?」「ああ。その上向こうは、お前に妻女を宛がうと言ってきたのだ。」そう言って自分の方を向いた父の眉間には深い皺が寄っていた。「向こうが何故わたしを上洛させようとしているのかがわかりません。とうに我が家と土御門家との縁が切れた筈だというのに・・」「噂によると、向こうの家には三人の息子が居たが、揃いも揃って馬鹿ばかりだという。家名を笠に着て狼藉を働き、町民達の間では悪評が絶えないとな・・そんな馬鹿息子達の代わりにお前を後継者として差し出せと、暗に向こうは言って来ているのだろうよ。親族同士であったとしても、向こうの家の問題と我が家の問題とは別だ。向こうの家が滅びようが滅びまいがこちらには一切関係のない事だ。」「その通りです、父上。そもそもあちらの家の当主が病で臥せっている事実が確かではないのですから、わたしが上洛する必要はないでしょう。」 数日後、再び土御門家の使者が有仁と有匡の前に現れた。「先程京から文が届き、当主様が身罷られたとの事でございます。急ですが、有匡様に葬儀に参列してくださればと・・」「当主様が身罷られたというのは、確かなのか?」「はい。」 土御門家の当主が亡くなり、有匡は有仁の名代として当主の葬儀に参列する為、急遽上洛する事となった。 それは土御門家が彼らに仕組んだ巧妙な罠だという事に、この時まだ有仁と有匡は知る由もなかった。にほんブログ村
2019年10月26日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。火月と有匡が高原家へと戻ると、家の中は何やら騒々しかった。「有匡殿、丁度良い所へお戻りになられました!」 二人の姿を見た女中のていが、そう言って彼らの方へと駆け寄って来た。「てい、何かあったのですか?」「お嬢様、先程近くで火事が起き、大勢の怪我人が出たそうで・・その中に、美祢お嬢様が・・」「姉様が?それは本当なの?」「ええ、ですが・・」ていは期待に満ちた目で自分を見つめる火月から目を逸らして俯いてしまった。「美祢殿に何かあったのだな?」「はい、有匡様。どうやら美祢お嬢様は火事が起きた所で炎に捲かれてしまわれたようでして・・」 隣に立っている火月が息を呑んだ。「お姉様は無事なのですか?」「それはまだわかっておりません。」「てい、わたくしを診療所に連れて行きなさい!」「火月お嬢様を診療所へお連れするなと、旦那様と若様が・・」「何故です?わたくしはこの目で姉様の無事を確かめたいのです!」「火月、落ち着け。てい殿、わたし達を診療所へと案内してくれるか?」「は、はい・・」 ていと共に怪我人が運ばれた診療所へと二人が向かうと、その中には火傷を負った怪我人達が戸板の上で呻いていた。「火月、来たのか。」「兄上、姉様はどちらに?」「美祢は奥の部屋にいる。だがお前は会わない方がいい。」「何故です、姉様は無事なのでしょう?」 妹の問いに、静馬は首を横に振った。「美祢は、火事が起きた時、妊婦を助けようとして炎に捲かれた。火消しが来た時、あいつはもう息絶えていたそうだ。」「そんな・・」「遺体の状態は惨いものでな、それが美祢だとわかったのは、この簪があいつの足元に転がっていたからだ。」 静馬はそう言うと、懐紙に包まれた簪を見せた。それは火月が美祢の誕生祝いに贈った物だったが、美しかった銀細工の簪は、炭化して黒くなってしまっていた。「兄上、姉様に会わせてください。」「・・わかった。」 美祢は―美祢の遺体は、診療所の奥の部屋に安置されていた。その姿は生前の美しいものとは違い、黒く炭化していた。火月は姉の遺体を見ると顔を両手で覆って嗚咽した。「てい、火月を家へ連れて帰ってくれ。」「わかりました。さぁ、お嬢様・・」ていが火月を連れて奥の部屋から出て行った後、有匡は美祢の遺体の前で合掌し、彼女の冥福を祈った。 部屋から出ようとした時、何かが美祢の足元で光ったような気がした。有匡が美祢の足元を見ると、そこには真珠の鎖で作られたロザリオが転がっていた。 持ち主と共に炎に捲かれたそれは、鎖の部分は黒く炭化していたが、銀色の十字架の部分は無傷だった。 仏教徒である筈の美祢が、何故ロザリオを持っていたのか―そんな疑問を抱いた有匡は、彼女が自分の母と同じキリシタンだったのではないかという事に気づいた。 美祢の死と、母の失踪には何か関係があるのだろうか。「有匡殿?」「静馬殿、わたしに何か手伝えることはありますか?」「怪我人の手当てをして頂けると助かります。聖心寺の方達が手伝いに来てくださっているのですが、人手が足りないもので・・」 もやもやとした思いを断ち切るかのように、有匡は持っていた襷を素早く掛けると、静馬と共に怪我人の手当てへと向かった。にほんブログ村
2019年10月26日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「天上の愛地上の恋」の二次創作です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「ルドルフ様、あなた様がついていかなくてもよろしいのに・・」「何を言う、アルフレート。お前の事が心配で堪らないんだ。」 ゴンザレスが経営している学校へと向かう馬車の中で、ルドルフはそう言うとアルフレートの手を握った。「ルドルフ様、もしかして子供達に嫉妬されているのですか?」「ふん、馬鹿な事を・・わたしは、子供には嫉妬しない。」「ウィーンに居た頃、わたしが救護院の手伝いをしている時、遠くから恨めしそうに見ていましたよね?」「そ、それは昔の話だ!」ルドルフはそう言って顔を赤く染めると、アルフレートにそっぽを向いた。いつもウィーンでは凛々しく、クールな顔をしていたルドルフだったが、自分の前でだけ、子供っぽい表情を浮かべていた。 それは、南米に移住した今でも変わらない。「ルドルフ様、わたしは何処にも行きませんから、安心なさってください。」アルフレートはそう言うと、ルドルフの手を握った。「そんな事、知っている。」 二人を乗せた馬車は、やがて教会の前に停まった。『アルフレート様、ようこそお越しくださいました。ルドルフ様も。』 教会に隣接している司祭館にルドルフとアルフレートが入ると、ゴンザレスは笑顔を浮かべて二人を出迎えた。『ゴンザレス様、本日から宜しくお願いいたします。』『こちらへどうぞ、子供達が待っております。』 ゴンザレスと共にルドルフとアルフレートが教室へと向かうと、そこには粗末な身なりをした少年少女達が椅子に座っていた。『みんな、彼は今日から君達の先生になる、アルフレート=フェリックス先生だ。』『皆さん、初めまして。アルフレート=フェリックスです。今日から宜しくお願いしますね。』 黒板の前でアルフレートが子供達にそう挨拶すると、それまで大人しく椅子に座っていた子供達が立ち上がり、一斉に彼の方へと駆け寄って来た。『アルフレート先生、何処から来たの~!』『ねぇ、あっちのブロンドの人誰~!』『一緒に遊んで~!』子供達はそう矢継ぎ早に質問すると、アルフレートをもみくちゃにした。『みんな、ちょっと落ち着こうね?』救護院で子供達の扱いに慣れているアルフレートは、そう言うと子供達を落ち着かせた。ルドルフは教室の後ろで、アルフレートが子供達に文字を教えている姿を見ていた。ウィーンで司祭をしていた頃から、彼はいつも子供達に好かれていた。それは、彼が『天使様』と呼ばれているのも解るような、優しい雰囲気を纏っているからだろう。 子供相手に嫉妬するなんてことはしないが、アルフレートが自分以外の者と親しくしているところを見るとルドルフは何故か落ち着かないのだ。(大人気ないな・・)ルドルフがそう言って溜息を吐いていると、不意に誰かが自分の上着の裾を引っ張って来た。『おじさん、遊んで~!』そう叫んでと突然ルドルフに抱きついて来たのは、彼の一人娘・エルジィと同じ年頃の少女だった。少女を邪険に振り払うことも出来ずに、ルドルフは少女と手を繋いで教室から外へと出た。『何をして遊びたい?』『あっちに綺麗なお花があるのよ、一緒に行こう!』にほんブログ村
2019年10月25日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「天上の愛地上の恋」の二次創作です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「アルフレート、何故止める?」「ゴンザレス様のお話を少し聞いてから、カルロス様にお会いしても宜しいのではないでしょうか?」アルフレートはそう言うと、今にもカルロスを殺しそうな目をしているルドルフを必死で止めた。「そうだな、奴を殺すのはその後にしてもいい。」ルドルフは少し不満げな顔をしてドアに背を向け、アルフレートの隣に座った。『それでゴンザレス殿、アルフレートに学校の手伝いをして欲しいと・・そうおっしゃりたいのですか?』『はい、そうです。もしお嫌ならば・・』『わたしでよければ、学校をお手伝い致しましょう。』「アルフレート、こっちへ来い。」ルドルフはいきなりアルフレートの手を掴むと、そのまま母屋から出て行った。「お前、一体どういうつもりだ? あんな奴の手伝いをするなんて。」「ルドルフ様、ゴンザレス様は悪い方ではないと思います。」「だが、あいつはあのカルロスと繋がっているかもしれないんだぞ? もしお前に何かあったら・・」「お言葉ですがルドルフ様、わたしは拳銃を扱えますよ?」天使のような清らかな笑みを浮かべながら、アルフレートはサラリと物騒な言葉を口にした。(ああ、そうだったな。) その言葉を聞いたルドルフは、ウィーンで7年ぶりに再会したアルフレートが、逞(たくま)しく強(したた)かな男となっていた事を思い出した。ルドルフの中でのアルフレートは、宮廷付司祭として働いていた頃の彼の記憶しかなかった。だが、アルフレートはすっかり変わってしまった。その変化に気づけない自分に、ルドルフは我ながら苦笑した。「ルドルフ様?」ルドルフが我に返ると、自分を心配そうに見つめるアルフレートの姿があった。「いや、何でもない。お前はわたしと離れている間、強くなってしまったようだな?」「ええ。何せあなたよりも3つも年上ですから。」「言ってくれるな、お兄様。」ルドルフはそう言ってアルフレートに微笑むと、彼の胸を拳で軽く小突いた。「戻ろう、大公達が心配している。」「はい。」ルドルフの手を握り返しながら、アルフレートは昔ウィーンでヨハンと追いかけっこをしたことを思い出した。「何を笑っている?」「いいえ。」「おかしな奴だ。」 アルフレートとルドルフが仲良く連れ立って母屋に戻ると、ダイニングルームにゴンザレスの姿はなかった。「ゴンザレス様は?」「もう帰ったよ。その様子だと、お前達もう仲直りしたみたいだな?」「お騒がせ致しました。」「まぁいい、いつもの事だからな。さてと、遅いが朝食にするか。」「わたしも手伝おう、大公。」「お前は座っておけ。慣れないことはしないほうがいいぞ。」「安心しろ、包丁の扱いにはもう慣れた。」そう言ってヨハンに微笑んだルドルフだったが、目が笑っていなかった。「ルドルフ様、朝食の準備は大公様にお任せして、わたし達は草むしりでもいたしましょう。」「わかった。」(助かったぜ、アルフレート。)「何よ、ジャンナ。あなたでもそんな顔するのね?」「う、うるせぇ!」にほんブログ村
2019年10月24日
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戊辰戦争で敵から銃撃を受け、記憶喪失となった土方歳三は、海を渡りゆらとともに渡米する。19世紀後半のアメリカは、南北戦争があった時代でしたね。そして作中では、KKKの前身であるQQQが登場していました。有色人種の差別は、ここから始まっていたのかと思うと、かなり根が深い問題ですね。下巻のラストが気になるところで終わってしまいましたが、続編は図書館で借りようと思っています。
2019年10月23日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あ~、疲れたぁ。」 商衣院での勤めを終え、帰宅した火月はそう言うなり自室の床に寝転がった。「お帰りなさいませ、お嬢様。お仕事初日はどうでしたか?」「色々と疲れてしまったわ。宮中は人間関係が複雑なのね。」「まぁ、色々と派閥がありますからね。大妃様派と王妃様派で分かれていますし、その事で宮中全体がピリピリしているのですよ。」「あなた意外に宮中の情報通なのね、チェヨン。」「わたしも毎日宮中に出入りしているので、嫌でも宮中の噂は耳に入ってきますよ。」「そうなの。ねぇ、スンア翁主様と王妃様は何故犬猿の仲なのかしら?」「さぁ、詳しい事はわたしも存じ上げません。」「宮中の噂話についてはもう考えたくないわ。今は疲れて寝たいの。」「お休みなさいませ、お嬢様。」「お休み、チェヨン。」 翌日、火月が商衣院へ出勤すると、そこには何故かスンア翁主の姿があった。「火月、そなたを待っていた。」「翁主様、わたくしに何か御用ですか?」「近々、大妃様の古希を祝う宴が開かれる。その為に大妃様がお召しになる衣装を其方に作って欲しい。」「わ、わたくしがですか!?」「わたしは其方を信頼しておる。」「有難く、そのお役目を引き受けさせて頂きます。」そう言って翁主に頭を下げた火月の身体は、緊張で震えていた。にほんブログ村
2019年10月23日
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脳移植手術を受けた純一。しかし、彼はドナーの影響で人格が変わり…タイトルの意味がラストにわかって驚きましたが、後味の悪い結末を迎えてもやっとしました。
2019年10月22日
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離島から家出した少年・帆高と、不思議な能力を持つ少女・ひな。前半はボーイミーツガールな青春ものかと思いきや、中盤からは一気にシリアスな展開になってきて、ラストが意味深長な終わりかたをしましたね。映画は観てませんが、小説を読み進める度に頭の中で情景が浮かびました。
2019年10月22日
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前回のエッセイからかなり時間が経ってしまいましたが、前回のエッセイに登場した直属の上司であるTさんが今年2月中旬に店長であるAさんと共に異動されることとなり、新任の上司であるSさんと仕事をするようになりました。Sさんは今までやっていた仕事内容を大幅に変更し、環境の変化に適応できなかったわたしはミスを連発してしまい、Sさんから次第に疎ましがられるようになりました。Bさんとの関係もますます険悪となり、更に新しく店長となったCさんとSさんから、わたしはパワー・ハラスメントを受けました。本当は思い出したくもないのですが、自分の中で嫌な記憶を不完全燃焼させるのは良くないと思い、敢えて文章として書いて消化しようと思っています。パワー・ハラスメントの内容は、罵声(時間稼ぎでここへ来るな、いつまでもここに居られると思うな)、怒声、“女の癖に色気がない、地味”などのセクハラ発言などでした。更に、一度もわたしの名前を呼んでくれなかったのです。殴る、蹴るなどの身体的暴力は一切ありませんでしたが、毎日罵倒され、人格を否定される精神的暴力を受けている内に、いつの間にかわたしは仕事が終わった後や夜に寝ている時に何故か涙が止まらなくなり、仕事が休みの日はホッとしていました。次第に、“もう毎日罵倒されたり、怒鳴られたりしながら仕事をするのは嫌だ、辞めたい”と思うようになりました。退職の決定打となったのは、3月17日にSさんから罵倒され、Cさんから、“ここはボランティアじゃない”と言われた事でした。もう駄目だ、ここで働くのは無理だと思ったわたしは、19日にCさんに電話で退職する旨を告げ、Cさんに退職の理由を話し、その上で23日に退職届を書いて10年長く勤めていた職場を退職しました。退職する前、散々Sさんから“無職なっても知らないぞ”と脅されましたが、いざ無職なってみると、Sさんからもう罵倒されないと思うとストレスがなくなり、気楽な毎日を過ごせました。メンタルクリニックを受診し、パートを退職した事を主治医に告げました。そして、4月26日に心理検査を受け、5月26日、33歳でADHDであると診断されました。
2019年10月21日
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33歳でADHDと診断されたわたしですが、そもそも何故自分がADHDだと思ったのかを、今回のエッセイで書いていきます。そう思ったきっかけは、あるブログとの出会いでした。そのブログには、成人になるまで広汎性発達障害である事が判らず、学生時代からいじめに遭い、職場でもパワハラに遭って退職された方のもので、会話形式の小説で自分が学生時代から遭ったいじめの内容や、発達障害の主な症状をその方はブログで紹介されていました。発達障害の症状について書かれた記事を読みながら、わたしはその症状に心当たりがある事が多く、「もしかしたら自分は発達障害なのではないか?」と思うようになったのです。発達障害の主な症状は、「落ち着きがない」、「場の空気が読めない」、「マルチタスクが苦手」といったものなのですが、わたしは全てこれらの症状に当てはまりました。この時わたしは24歳、四年制大学を一年間留年して無事卒業した後、近所のスーパーでパートとして職に就いた頃でした。学生時代は余り目立たなかった発達障害、ADHDの症状が、パートとして働き始めてから顕著に現れるようになり、直属の上司からマルチタスクが出来ない事や、報連相(報告・連絡・相談)が出来ていない事を怒られ、責められてばかりいました。しかし、その上司・Tさんの下では約10年と2ヶ月間働いていたので、Tさんや店長のAさんは、わたしの特性を理解してくれていました。Tさんの怒り方や言い方はキツいものでしたが、わたしに仕事の指示をする時は口頭のみの指示でしたが、わたしがそれを覚えられないという事を知り、「後でメモを取っておけ」と言ってくださるような方でした。またAさんも、「貴女は真面目だから」と、わたしの特性を理解してくださっていましたし、わたしが作業の手順を書いたメモの内容を確認して、「自分が理解できるように書かないとメモの意味がないよ」と、指摘くださるような方でした。まだわたしは自分がADHDである事に気づかず、「気をつければミスをなくすことができる」と単純に思っていました。しかし、毎日ケアレスミスばかりして、次第にTさんとAさんから煙たがられるようになり、それと同時に同僚であるパートのBさんとの関係も悪化していきました。そんな中、楽天ブログ仲間であったSさんがご自身のブログで自分がASD(アスペルガー症候群)である事を告白され、わたしが楽天ブログに発達障害であるかどうか、メンタルクリニックを受診している事を悩んでいるという旨の記事を書いたところ、Sさんからこのようなコメントを頂きました。一部、 そのコメントを引用いたします。『地盤が揺らぐと不安になって、余裕がなくなるのは自然なことです。ミスの再発防止策を色々やってみても定着しないのなら、支援センターの予約をとって相談しても良いかも知れません。自力で試行錯誤するにしても、適切な方法や解決できない困りごとへの答えが、面談で得た知識の中にあるかも知れない。障害者になりたくないと拒むのではなく、自分の前にそびえ立つ壁の越え方を聞いてみるというスタンスで臨むのはいかがでしょうか?聞いた上で実践するか、私は私で頑張ると思い切るかは自由です。自分の欠点を受け入れることは大きな苦痛を伴います。でも自分でやって直せなければ、第三者の助けを借りて客観的に今の状態を認識しないと、本気で直す、またはアプローチを変えて欠点をカバーする方法を探すことはできません。早めに着手するほど残りの時間を有意義に過ごせるので、あえて長々とコメントさせていただきました。』2018年1月下旬、Sさんのコメントを読んだわたしが漸く重い腰を上げて、発達障害支援センターへ電話を掛け、そのセンターで面談を受けたのは2月13日の事でした。支援センターでは、今までわたしが辛かった事、自分がADHDではないかと思ったことを支援センターの方にお話ししました。次回は、Tさんが異動して新しい上司・Sさんからパワハラを受けた事と、メンタルクリニックを受診した事を書きます。
2019年10月21日
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2018年5月26日、わたしは33歳で3月に受診したメンタルクリニックで、発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されました。ADHDとは、落ち着きがない、人の話を聞かない、衝動買いなどがやめられないなど、一見わがままな人と思われがちなのですが、それらは全てADHDの主な症状でした。このエッセイでは、わたしがADHDと診断されるまでに至った経緯と、自分が発達障害ではないかと思ったきっかけなどを書いていこうと思っています。その前に、ADHDと診断されたわたしは、メンタルクリニックで心理の先生から自分の特性を説明されました。それは、“見て理解できない(口頭での指示が理解できない)”―それ故に“何かを見て理解する”というのが苦手である、逆に“読んで理解する事ができる(説明書やメモなどを読んですぐに理解する事ができる)”―口頭での指示をメモとして残し、それを見てすぐに作業内容が理解するというのが得意であるというのがわたしの特性だそうです。発達障害の特性は、一人一人違います。わたしの場合、小学生の時から読書をしたり、作文を書いたり、小説を書いたりすることが好きで、特に頭の中で自分が好きな物語の構成や登場人物、性格などを考えてそれを小説という形で書くのが得意でした。まだインターネットが今ほど充実していなかった小学校高学年~大学生の頃は、大学ノートに小説を書き、それをワープロやノートパソコンに打ち込み、データーをフロッピーディスクに残したりしていました。誰にも発表するつもりもなく、単なる趣味の一環としての創作活動は、わたしのストレス解消法のひとつとなりました。物語を考えている時、わたしは嫌な事を全て忘れてしまいます。それが、わたしの特性であり、個性なのではないかと思っています。次回は、何故わたしがADHDなのではないかと自分で思ったのかを書こうと思っています。
2019年10月21日
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※BGMと共にお楽しみください。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「・・恐れながら申し上げます、王妃様。この者は魔物です!この者を王室に入れるなど、この国に災厄を齎しますぞ!」「其方、昭媛に対する無礼な物言いは、わたくしを侮辱することになるのですよ?」「も、申し訳ございませぬ王妃様!」 マーガレットの剣幕に怯んだセシリーは、それ以上リチャードを侮辱する事はせず、そのまま彼女の部屋から辞した。「王妃様、わたくしはあの女を一度も母だと思ったことはありませぬ。」「そうか、ならばわたくしが其方の母となろう。リチャード、わたくしは其方の事を高く買っている故、わたくしの期待を裏切るような事はしないでおくれ。」「はい、王妃様。」 王妃の部屋から辞したリチャードは、後宮内にある自分の宮へと戻った。 そこは妓楼に住んでいた頃に自分が使っていた部屋とは余り変わらなかったが、唯一変わった事といえば、部屋の外に数人の女官達が控えている事だけだった。 「昭媛様、お召し替えをなされませ。」「暫く一人にさせてくれ。」 女官達が居なくなり、リチャードは漸く部屋で寛ぐことができた。 妓楼で暮らしていた頃、リチャードの傍には常に多くの人間が居て騒がしかったので、こんなに静まり返った部屋の中で過ごすのは少し心細かった。「ケイツビー。」 いつもの癖でケイツビーを呼ぼうとしたリチャードだったが、ケイツビーはもう自分の傍に居ない事に気づいた。 壁に立てかけてある玄琴(コムンゴ)を手に取ったリチャードは、静かにそれを爪弾き始めた。「それにしても、妓生だった者を側室に迎えるなんて、王様はかなりの変人だこと。」「それは言い過ぎでしょう、義姉上(あねうえ)。そのような事が王妃様の耳に入れば、我ら一族は無傷では済みませんよ。」「まぁバッキンガム、お前はいちいち大袈裟ね。ねぇ、今日のわたくしの装いはどうかしら?」「とても素敵ですよ。」 義姉・エリザベスの華やかな姿を見て、バッキンガムはそんな月並みの誉め言葉しか彼女に送れなかった。「一度、王宮に住めたのならどんなにいいと思ったわ。でもわたくしはエドワード様の妻となる身。その願いは、妹に叶えて貰うしかなさそうね。」 エリザベスの妹・キャサリンは、エドワードの口添えで水刺間(スラッカン)の女官として王宮入りしていた。いつか妹が王の目に留まり、彼女が王の側室となり男児を儲け、一族が繁栄することこそが、エリザベス達ウッドウィル一族の野望であった。 今日エリザベスが義弟・バッキンガムと共に王宮を訪ねたのは、病に伏せたキャサリンを見舞う事と、王の新しい側室の顔を見る為だった。「姉様、わざわざいらしていただかなくても宜しかったのに。」「キャサリン、慣れない王宮での生活は疲れが溜まる事でしょう。お前の好きな菓子を作らせたから、これを食べて元気におなりなさい。」「まぁ嬉しい。ありがとう、姉様。」 バッキンガムは久しぶりに会う姉妹の時間を奪ってはいけないと思い、バッキンガムは二人が居る部屋から出て、広い王宮内を散策した。 エリザベス達が居る部屋へと戻ろうとした時、バッキンガムは風に乗って聞こえる玄琴の音色にまるで誘き寄せられるかのように、後宮の中へと迷い込んだ。半分開けられた扉の中から、バッキンガムは艶やかな黒髪を揺らしながら玄琴を奏でている一人の美しい女の姿に見惚れてしまった。にほんブログ村
2019年10月21日
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この作品は約4年前に読みましたが、偶然夏の読書フェアで見かけて、懐かしさの余り再読しました。寄生虫が引き起こす連続自殺事件・・セミナーハウスの様子がおぞましくて、想像すると気持ち悪い!ラストシーン、主人公の行動には賛否両論ありそうですが、わたしは彼女の行動は正しかったんじゃないかと思っています。この作品、19年前に出版されたものだったのですね。貴志祐介さんの作品は「黒い家」を読んで怖かった覚えがありましたが、この作品はこれ以上でした。
2019年10月20日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。「母上の父上が、母上を殺そうとした?」「ええ。正確に言えば、スウリヤ様の義理の父上様、つまり彼女の舅がスウリヤ様の殺害を企て、それに気づいた有仁様がスウリヤ様を逃がしたのです。」「何故、祖父が母上を殺そうとしたのですか?」「それは・・」「庵主様、失礼いたします。」恵心尼が次の言葉を継ごうとした時、襖の向こうから声が聞こえた。「何かあったのですか?」「先程こちらの近くで火事が起き、怪我人が大勢出たとのことです。」「わかりました、直ぐに支度して診療所の方へ参ります。有匡殿、申し訳ありませんが、スウリヤ様のお話はまた今度いたしましょう。」「わかりました。ではわたしはこれで失礼いたします。」 有匡が聖心寺を後にしようとした時、正門の所で彼は一人の娘とぶつかった。「申し訳ない、お怪我はありませんか?」「はい・・」そう言って俯いた顔を上げた娘の瞳は、透き通った湖面を思わせるかのような蒼い瞳をしていた。「では、わたくしはこれで。」娘は有匡に向かって一礼すると、聖心寺の中へと入っていった。「有匡様、お嬢様なら若様と一緒に寺子屋へ行かれましたよ。」「わかった。」 高原家へと戻った有匡がそこから火月と静馬が居る寺子屋へと向かっている最中、彼は背後から強烈な視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。(気のせいか。)有匡が再び歩き出した後、彼が視線を感じた茂みの中から、聖心寺の正門で彼と会った娘が現れ、遠ざかる有匡の背中を彼女はじっと見つめていた。「有匡様、どうして僕がここに居る事がわかったのですか?」「久殿からお前と静馬殿がここに居ると聞いた。火月、わたしに何か手伝えることはあるか?」「寺子屋の時間は終わってしまったので、後片付けを手伝って頂けませんか?」「わかった。」「有匡様、先程あの方と何のお話をされたのですか?」有匡と黙々と寺子屋の片づけをしている時、火月は思い切ってそう有匡に尋ねた。「わたしの母の事を、恵心尼様は話してくださったが、その途中で急用が出来て、最後まで話を聞くことは出来なかった。」「そうですか・・立ち入った事を聞いてしまって、申し訳ありませんでした。」「謝るな。わたしも最近、母の事が気になって仕方がないのだ。何故母がわたし達の前から姿を消したのか、今何処に居るのか・・母と親しかった恵心尼様なら何かご存知ではないのかと思っているのだが、彼女にも秘密はあるらしい。」「秘密、ですか?」「人は誰しも秘密を抱えて生きているものだ。」「先生にも、秘密があるのですか?」「ある、と言ったらお前はどうする?」「そ、それは・・」火月がそう言って俯くと、有匡は軽く笑って彼女の額を小突いた。「冗談だ。さてと、日が落ちる前に帰るぞ。」「はい・・」有匡と火月が連れ立って寺子屋から出て歩いていくと、何処からか鈴の様な音が聞こえてくることに有匡は気付き、足を止めた。「有匡様、どうかなさったのですか?」「何でもない。行こうか。」「は、はい・・」火月は有匡と共に再び歩き出したが、時折鳴る鈴の音が恐ろしくなり、実家に着くまで彼女は有匡にしがみついたまま離れようとしなかった。にほんブログ村
2019年10月19日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 火月の姉・美祢が突然姿を消してから五日が経った。 使用人総出で彼女を捜していた高原家だったが、未だに彼女の消息はつかめていなかった。「姉様は一体何処へ消えてしまったのでしょう?」そう言った火月は、不安そうに顔を曇らせた。「余り心配するな、火月。美祢殿は必ず元気な姿でお前達の元へ戻ってくる。」「有匡様、僕不安で堪らないんです。もし姉様に何かあったらと思うと・・」火月は涙を流しながら、有匡に抱きついた。「大丈夫だ、火月。わたしがついている。」有匡はそう言って火月の髪を優しく撫でた。「有匡殿、貴殿に客人が来ておりますよ。」「客人?」有匡が火月から離れ、静馬の方を見ると、彼の隣には一人の尼僧が立っていた。「初めまして、貴方様は土御門有匡様でございますね?」「はい、そうですが・・貴殿は?」「お初にお目にかかります、わたくしは恵心尼(けいしんに)と申します。有匡様に折り入ってお話ししたいことがございまして、こうして高原家に伺いました。」「わたしに、話しですか?」「はい。貴方様の母上様の事で。」恵心尼は、美しい翡翠の様な瞳で有匡を見つめた。「有匡様、こちらの方は?」「火月、わたしは少しこの方と話をしてくる。」 有匡は恵心尼と共に高原家から出た。「あの方、綺麗な方でしたね。」「火月、まさか恵心尼様に妬いているのか?」「兄上、僕を揶揄わないでくださいませ!」火月は兄の言葉を聞くと、子供の様に頬を膨らませた。「そんなに怒るな。恵心尼様は身寄りのない子供達を自分が庵主(あんしゅ)を務めている尼寺で引き取ってお育てになられているし、貧しくて医者にかかれない村人達に対して無料の診療所も開いておられる方だ。有仁殿と親しいから、有匡殿と積もる話でもしたいのだろう。」「積もる話、ですか?」「ああ。お前に話すのはまだ早すぎると思うが、有匡殿の母君様の事を、お前も知っておろう?」「ええ、少しは・・噂では、有匡様達をお捨てになられた母君様は、男と出奔なされたとか・・」「それはただの噂で、真実ではない。火月、有匡様がこちらに戻られるまで、わたしを手伝ってくれまいか?」「寺子屋の手伝いならば、喜んで致しましょう。」火月が静馬と共に寺子屋へと向かった頃、有匡は、恵心尼が庵主を務めている“聖心寺”の本堂で彼女と向かい合って座っていた。「母上の事でお話があるとか・・」「はい。貴方様の母上様・・スウリヤ様がキリシタンであるという事はご存知ですか?」「父から聞いております。」「実はわたくしも、キリシタンなのです。」恵心尼はそう言うと、首から提げているロザリオを有匡に見せた。「ここは表向き尼寺となっておりますが、実はわたくしやスウリヤ様の様な隠れキリシタンが暮らす寺なのです。有匡様、貴方様は母上様の事を誤解しておられませぬか?」「誤解、ですか?」幼い頃から、母の失踪について使用人達や町人達が口さがない噂を流している事は知っていたし、その噂を聞いて母が自分達を捨てたのだと有匡はいつしか思い込んでしまった。「スウリヤ様が貴方様や妹君様を置いて姿を消されたのは、命を狙われていたからです。」「母が命を狙われていた?」「ええ。スウリヤ様のお命を狙っていた方は、スウリヤ様のお父上なのです。」にほんブログ村
2019年10月19日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「まぁ王妃様、ご機嫌麗しゅう。」 スンアは笑顔を浮かべながら、クオク王妃に挨拶したが、王妃は不快そうに鼻を鳴らした。「王妃、其方がこちらに来るなど珍しい。王様に何かあったのですか?」「大妃様、王様の動物好きは異常です!猫を部屋で買うのはおかしくはありませんが、鼠まで寝所に持ち込み、添い寝するなど、想像するだけでもおぞましい!」「王様は貴女と共寝するよりも、動物と共寝する方が良いのですよ。」「翁主、おやめなさい。」「まぁ、わたくしには魅力がないと?」「そのような事は言っておりませんわ。」「さぁ、どうだか。」 スンアと王妃との間に、見えない火花が散っていた。「あの、わたくしはこれで失礼致します。」 火月はそう言うと、チマの裾を摘まんでその場から去った。「火月、遅かったわね。一体何があったの?」「それがね・・」 火月が同僚の女官に、王妃と翁主がやり合っていた事を話すと、彼女は溜息を吐いた。「スンア翁主様と王妃様は犬猿の仲なのよ。」「まぁ、どうして?」「色々と複雑なご関係なのよ、お二人は。」「そうなの・・」「そこの二人、私語は慎みなさい!」 上司である提調尚宮(チェゴサングン)から叱られ、火月達は慌てて自分達の仕事へと戻った。「あの火月とかいう新入り女官、気に入りましたわ。」「翁主、人嫌いであるお前が初対面の相手を気に掛けるなど珍しいこと。」「好きで人嫌いになったわけではありませんわ、お祖母様。あの女官、確かハン大監末娘だそうですね?この前の宴で伽耶琴を披露していたので、てっきり掌楽院の女官になったと思いましたのに、意外でしたわ。」 スンア翁主は、髪に挿した簪を弄りながら、口端を上げて笑った。「何かよからぬ事を企んでいるのではないのだろうね、翁主?」「そういえば、もうすぐお祖母様の古希を祝う宴が開かれますわね。あの女官にお祖母様の衣装を縫わせてみてはいかが?」「あの女官を宮中から追い出そうというのですか?」「いいえ、あの者の実力を知りたいのです。」「好きになさい。」 大妃と翁主がそんな話をしている頃、王は女官の膝枕を愛でながら微睡んでいた。「まぁ王様、このようなお姿を誰かに見られでもしたらどうします?」「見られてもよい。」「まぁ、悪いお方・・」にほんブログ村
2019年10月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 養母・チョンジャは、リチャードと今生の別れをした後、牢内で自らの喉を刃で突いて自害した。「遺体は手厚く葬りなさい。卑しい妓生であったにせよ、昭媛の養母であった女です。」「はい、媽媽。」マーガレットは物言わぬ骸と化した瑠璃楼の行首に一瞥をくれた後、自室へと戻った。「母上、どちらへ行かれていたのですか?」「エドワード、野暮な事を聞くのではありません。お前はこんな夜更けに、何処へ行こうとしているのです?」「そ、それは・・」「もしや、昭媛と王様との情事を覗き見ようと、王様の部屋に行こうとしているのではないだろうね?」「母上、そのような事は・・」「其方は、まだ男女の艶事を知るには早過ぎます。決して王様の部屋に行ってはなりません、良いですね?」「は、はい・・」「宜しい、では戻りましょうか、世子様。」 マーガレットはそう言うと、エドワードを夫とリチャードが居る部屋から遠ざけた。 夜が明け、リチャードがヘンリーの腕の中でまどろんでいると、そこへ女官達が入って来た。「おはようございます、王様、昭媛様。お二人ともお召し替えをなさいませ。」「まだ眠いよ・・少しだけ寝かせて。」「いけません。」絹の布団に包まって眠ろうとするヘンリーにそう厳しく声を掛けたチェ女官長は、乱暴に彼が包まっている布団を引き剥がした。「リチャード、何処へ行くの?」「王様、わたくしはこれで失礼いたします。」 リチャードがそう言って女官達とヘンリーの部屋から出ようとした時、ヘンリーが寂しそうな顔をして彼女を見た。「一人にしないで、リチャード。」「王様、わたくしは側室の身。王様には王妃様がおられるのですから、わたくしよりも王妃様の事を大切になさいませ。」「王妃は怖いから嫌だ。ねぇ、今日はずっと僕の傍に居てよ、お願い。」「まぁ王様、我儘を言ってはなりません。」チェ女官長達がそう言いながら駄々を捏ねるヘンリーを宥めていた時、マーガレットが部屋に入って来た。「王様、いつまでそのような格好をなさっているのです?早くお召し替えをなさいませ。」「わかったよ・・」「昭媛はわたくしと共に来るがよい。其方に会わせたい者をわたくしの部屋に待たせてあります。」「わたくしに、会わせたい者でございますか?」 マーガレットの言葉を聞いたリチャードは、嫌な予感がした。 そしてその予感は、見事に的中した。「まぁ王妃様、お久しぶりでございます。」「セシリー、二人の息子達は息災か?」「はい。漸く上の息子のエドワードの縁談が調いましたの。」「まぁ、それはめでたい事、後でわたくしの方から祝いの品を贈ることにしよう。」「有り難き幸せにございます、王妃様。わたくしに会わせたい者は、どちらにおられるのですか?」「其方の娘に決まっておろう、セシリー。」 マーガレットはそう言うと、かつてセシリーが捨てた娘を彼女と引き会わせた。「恐れながら王妃様、わたくしには娘は居りません!」「ああ、其方はこの娘を捨てたのであったな、セシリー。リチャード、其方の母だ。」 自分を捨てた産みの母と対面しても、リチャードは何の感情も湧いてこなかった。「この女がわたしの娘の筈がありません、この女は卑しい妓生・・」「口を慎め、セシリー。この娘は王様の側室であるぞ。」にほんブログ村
2019年10月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者・出版社とは一切関係ありません。二次創作が嫌いな方は読まないでください。「王様、正気ですか?妓生を側室に迎え入れるなど・・」「わたしは本気だ。」「なりません!氏素性もわからぬ妓生を側室に迎え入れたりなどしたら、天の怒りを買いますぞ!」「お考え直してください、王様!」「王様!」 朝議の席では、ヘンリーがリチャードを側室として宮廷に迎え入れる事に反対している大臣たちの声で溢れ返っていた。 そんな事とは露知らず、当の本人は王の寝所で絹の布団に包まって眠っていた。「う・・」低く呻いたリチャードは、少し寝癖がついた艶やかな黒髪を撫でつけながら布団から起き上がると、そこには深緑のチョゴリと濃紺のチマを着た数人の女官達の姿があった。「お目覚めですか、リチャード様?」「ヘンリー・・王様はどちらに?」「王様なら、朝議にご出席中です。」「そうか。俺はもう妓楼に戻るので、王様に伝言を・・」「なりません。貴女様を一歩でもこの部屋から出すなと王様から仰せつかりました。」 女官の言葉を聞いたリチャードは、驚きの余り目を丸くした。「それは、どういう事だ?」「まずはお召し替えを。中殿媽媽がお見えになられます。」 訳が解らぬまま、リチャードは女官達に身支度を手伝って貰い、夜着から華やかなチマ=チョゴリへと着替えた。「中殿媽媽がお見えになられました。」 リチャードが部屋の入り口に控えている女官の声を聞いて王妃に向かって深々と頭を下げていると、衣擦れの音ともにマーガレット王妃が入って来た。「リチャード、顔を上げなさい。」「はい・・」リチャードが恐る恐る顔を上げると、マーガレットは自分に向かって笑みを浮かべていた。「先ほど朝議に於いて、お前を王の側室として宮廷に迎え入れることが決まりました。」「王妃様、お願いですから一度妓楼に戻らせてくださいませ。養い親に対して別れの挨拶一つも出来ぬのは、辛いです。」「ええ、そうでしょうね。お前がそう言うと思っていたので、わたくしが特別にお前の養い親を連れて来ましたよ。」 マーガレットはそう言うと、手を鳴らして兵士達を中庭へと呼んだ。両脇を兵士達に固められ、白い衣に身を纏った養母が顔から血を流している姿を見たリチャードは、唖然とした表情を浮かべながらマーガレットと養母の顔を交互に見た。「王妃様、これは一体・・」「お前の養母には、お前が王を誑かし、国を傾けさせようとした罪を代わりに背負って貰おうと思います。さぁリチャード、この場で王と養母、どちらを取るのかを決めなさい。」「そんな・・そのような事は出来ません。」「どうかわたくしのような卑しい妓生の事はお忘れになってください、昭媛様。」チョンジャはそう言うと、リチャードの手を優しく握った。「義母上・・」「さぁ、今すぐ決めなさい、リチャード!お前は愛しい王と義理の母、どちらを取るのです?」 リチャードが涙を流しながらチョンジャを見つめると、彼女は優しく微笑んだ。「恐悦至極にございます、中殿媽媽。改めて宜しくお願い致します。」「そう。では養母と今生の別れをなさい。」 マーガレットはそう言って兵士達と女官達を下がらせると、リチャードとチョンジャを二人きりにさせた。「義母上、俺の所為で・・」「自分を責めるのではないよ、リチャード。あんたがいずれ王様の目に留まることはわかっていた。」「それは一体、どういう意味ですか?」「わたしの部屋に、螺鈿細工の箱がある。その底にわたしの日記が隠されている。その日記が、お前に真実を伝えてくれるはずだ。」 チョンジャはそうリチャードの耳元に囁くと、そっとリチャードから離れた。「幸せになりなさい、リチャード。これまで苦しんできた分、王様に愛されて幸せになるのだよ。」「義母上~!」 養母・チョンジャと今生の別れをしたその日の夜遅く、リチャードは瑠璃楼へと向かった。あれ程賑やかだった瑠璃楼は今や見る影もなく、まるで建物全体が死んだかのように静まり返っていた。 顔を隠したまま、リチャードは義母の部屋へと向かった。 螺鈿細工の箱の底に隠されていた彼女の日記を見つけたリチャードは、そのまま闇に隠れて王宮へと戻った。 仄暗い蝋の灯りの下でその日記を読んだリチャードは、己の出生の秘密を知り戦慄いた。(そんな・・まさか俺が・・)「こんな暗い所で、何をしているの?」「王様・・」背後から誰かに抱き締められ、リチャードが振り返ると、そこには夜着を纏ったヘンリーの姿があった。「君が遅くに王宮を抜け出したから心配したよ。もう僕の元へは戻って来ないんじゃないかと思った。」「義母と妓楼のみんなに別れを告げて来たのです。わたくしの所為で、瑠璃楼の者達は罰を受けました。一生彼らはわたくしの事を許さないでしょう。」「あれは君の所為ではない、王である僕が悪いのだ。」 ヘンリーはそう言うと、リチャードの首筋を強く吸い上げた。「王様・・」「今夜は、人肌がとても恋しくて堪らないんだ、リチャード。」ヘンリーはリチャードの女の部分から蜜が滴り落ちるまでそこを指で愛撫すると、己の分身を埋めてきた。「王様っ・・」「何も怖がることはない、リチャード。全て僕に身を委ねて・・」 ヘンリーの腕の中で蕩けながら、リチャードは養母を想って泣いた。―幸せに、おなりなさい。 何処かで、彼女の声が聞こえたような気がした。にほんブログ村
2019年10月17日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。二次創作が嫌いな方は読まないでください。リチャードが剣舞を舞っている時、金色の髪を揺らしながら自分の方へと走って来る男の姿を捉えると、彼は自分に抱きついて来た。「リチャード、また君と会えるって僕は信じていたよ!」「お前、あの時の・・」 リチャードがそう言って男の顔を見ると、彼はあの時泉で出逢った男だった。「王様、どうか席にお戻りください。」 急に席を立った王を慌てて呼び戻す為、内侍府長・チョジョンは慌ててヘンリーの元へ駆け寄った。 リチャードは今自分に抱きついている男がこの国の王であるという事実を知り、そっとヘンリーから離れた。「王様、これは失礼を致しました。どうぞわたくしなどには構わず、お席にお戻りくださいませ。」「嫌だよ、リチャード、君と離れたくないんだ!」「王様、どうか・・」「何を騒いでいるのです?」 中々リチャードから離れようとしないヘンリーの様子を見て痺れを切らした王妃が数人の女官達を引き連れて夫の元へと駆け寄った。「このような妓生に構わず、席にお戻りください!そうしなければ宴の進行が滞ります。」「リチャード、リチャード・・」王妃はリチャードをチラッと一瞥すると、夫の腕を掴んで無理矢理自分の方へと引き寄せた。「わたくしに恥をかかせるおつもりですか!?」王妃はそう叫ぶと、躊躇いなく王の頬を平手で打った。乾いた音が中庭に響き、ヘンリーは打たれた頬の痛みで涙ぐんだ。「母上、おやめください。」慌ててエドワードが王妃を止めに入り、王妃は憤然とした様子で自分の席へと戻った。「何をしておる、宴を続けよ!」世子の言葉に恐怖で固まっていた楽士達が、賑やかな楽の音を響かせた。リチャードは中断していた剣舞を再開し、なるべく王の方を見ないようにして剣舞を終えた。「いやぁ、見事な剣舞だった。其方、リチャードと申したな?褒美を遣わすから、こちらへ来い。」「はい・・」エドワードに呼ばれ、リチャードは彼の前で頭を垂れた。「おもてを上げよ。」リチャードがゆっくりと顔を上げると、エドワードは困惑と驚愕が入り混じった表情を浮かべながらリチャードを見ていた。「其方、あの時の・・」エドワードがそう叫びそうになった時、リチャードは彼の唇に人差し指を押し当てた。「いつぞやは世子様とは知らず、ご無礼を。後で存分にお叱りを受けますから、何卒わたくしの事はお許しになってくださいませ。」(おのれ、妓生の分際で俺に取引を持ち掛けるつもりか?だが、可愛いから許してやる!)「何か欲しい物はあるなら申せ、金銀財宝全てを其方に与えてやろう!」「いいえ、そのような物は頂けません。どうかわたくしの事をお忘れ頂ければ・・」「何を言う、そなたのような美妓を簡単に忘れられるものか!そうでしょう、母上!」「折角の世子様の計らいです、有り難く褒美を受け取りなさい、リチャードよ。」「はい、王妃様・・」威厳に満ちたマーガレットは、女官達に命じてリチャードに褒美を渡した。 それは、美しい宝石の髪飾りだった。「其方の黒髪にその髪飾りはさぞや映える事でしょう。」「有り難き幸せにございます、王妃様。」リチャードがそう言ってマーガレットから賜った髪飾りを付けると、恭しく彼女に向かって頭を下げた後、仲間の妓生達の元へと戻った。 背後からヘンリーの強い視線を感じたが、リチャードは宴が終わるまで一度も彼の方を見ようとしなかった。(もう二度と、会う事はないだろう。) 彼はこの国の王、この国を照らす太陽。自分は妓生、卑しい賤民。 彼とは、一生結ばれぬ仲なのだ。「リチャード様、帰りましょう。」「ああ。」 ケイツビーと共に王宮から立ち去ろうとした時、リチャードは突然数人の兵士達に囲まれた。「何ですか?わたくしに何か用ですか?」「王様がお前をお呼びだ。我々と共に来るように。」有無を言わさずリチャードの細腕を兵士達は掴み、そのまま王の寝所へとリチャードを連れて行った。「リチャード様!」「ケイツビー、義母上には俺は無事だと伝えろ!」ケイツビーはリチャードの元へと駆け寄ろうとしたが、兵士達に阻まれ、非情にも目の前で閉まる門を前に立ち尽くす事しか出来なかった。「王様、例の妓生をお連れ致しました。」「ご苦労だった。皆、下がってよい。」 篝火が、嬉々とした表情を浮かべながら自分の元へとやって来るヘンリーの顔を照らした。「リチャード、漸く二人きりになれたね。」「王様・・」「そんな呼び方は止めてくれ、名前で呼んでくれ。」 ヘンリーはそう言うと、リチャードの頬を優しく撫でた。「わたしをどうなさるおつもりですか?」「僕は、君を今抱きたいんだ。」 ヘンリーの言葉に、リチャードは微かにその身を震わせた。「わたしは、貴方に抱かれたくありません。わたしは、出来損ないの身体なのです。」「出来損ないの、身体?」「それを今から、お見せ致します。」 リチャードはそう言うと、纏っていたチマとチョゴリを脱ぎ去り、下着姿となった。 リチャードの足元で、乾いた音と共に紫と薄紅色の花が落ちた。下着を全て脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿でリチャードはヘンリーの前に立った。 その身体には、男と女、それぞれを象徴するものがあった。「わたしは、この身体の所為で親に捨てられ、妓生として生きて参りました。わたしの身体は前世の罪故に呪われたもの。この世の太陽である王様が触れることなど・・」「どうして触れてはいけないの?こんなに綺麗なのに。」 ヘンリーはそう言うと、そっとリチャードを自分の方へと抱き寄せた。「僕は今まで、孤独の闇の中に居た。妻と子を得ても、その闇から抜け出せない・・そんな中、僕は君と出会ったんだ。その時僕の中にあった暗闇に、君という一筋の光が射した。」「・・ヘンリー・・」「リチャード、僕は君が男でも女でもなくても、君さえ居てくれればそれでいい。だから、ずっと僕の傍に居て・・」 涙を流すリチャードを見たヘンリーは、そっとその涙を優しく舐め取り、彼の柔らかな唇を塞いだ。 ヘンリーが彼の女の部分に挿入すると、彼は痛みに呻いたが、やがてそれは快楽の喘ぎへと変わった。 互いの身に宿した情欲の炎が燻るまで、ヘンリーとリチャードは飢えた獣のように互いの身体を貪り合った。 絶頂に達した時、リチャードはヘンリーの肩口に深い歯形を残して意識を手放した。「妓楼の者にこの文を届けてくれ。」 部屋の外で自分達の様子を窺っていたチョジョンにヘンリーがそう言って文を渡すと、彼は暗闇の中へと消えていった。 その文には、リチャードを王の側室として宮廷に迎えるという旨が書かれていた。にほんブログ村
2019年10月16日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次創作小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「久しいな、スンア。」「その名でわたくしを呼ばないで下さいませ、大妃(テビ)様。その名はあの忌まわしい女がわたくしに与えたもの。」「チャン氏は義理とはいえ、其方の育ての母には変わりない。」「あの女を一度も母だと思った事はございませぬ。」 これ以上何を言っても無駄だと悟ったのか、大妃は翁主(オンジュ)に近況を尋ねた。「妓楼では皆お前に良くしてくれているか?」「えぇ、窮屈な王宮での生活よりも、妓楼での生活の方がわたくしの性に合っています。それよりも、兄上はご息災でいらっしゃいますか?」「あの方は相変わらずです。人に心を閉ざし、動物にだけ心を開く。」「それは仕方のない事ですわ、大妃様。あのような事があった後に人を信じろと言う方が・・」「口を慎みなさい、翁主。」「あの事をこれからも隠し通せるとでも?あの女がした事は・・」 その時、部屋の外で大きな物音が聞こえ、大妃とスンアが扉を開けると、一人の女官が呆然とした様子でそこに立ち尽くしていた。「其方、何者だ!」 「も、申し訳ございませぬ!決して、立ち聞きしていた訳では・・」「其方、見ない顔だな?名を何と申す?」「火月と申します。大妃様、わたくしはこれで失礼いたします。」「おや珍しい、貴女が王宮にいらっしゃるなんて。」 火月の背後から現れたクオク王妃は、そう言ってスンアを睨んだ。にほんブログ村
2019年10月15日
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相次いで何者かに殺害された高校野球のエース選手。 その二人の死の真相と、そこに隠された真実が明らかになり、呆然としながらページを閉じました。 東野圭吾さんの作品は、ミステリーでありながら濃厚な人間ドラマを描くものが多くて好きです。
2019年10月15日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。作者・出版社とは一切関係ありません。二次創作が嫌いな方は読まないでください。王の不在で王宮中が大騒ぎになっている頃、当の本人は森の奥にある泉の中で気持ちよさそうに水浴びをしていた。 そんな彼の姿を暫くリチャードは眺めていたが、時間の無駄だと思ったのでさっさと彼に背を向けて泉から立ち去った。(変な奴だったな。あいつといい、エドワード様といい・・両班の子息はみんなあのような変わり者ばかりなのか?) 妓楼に戻り、女物の服に着替えたリチャードが東屋でそう思いながら伽耶琴を奏でていると、遠くから豚の鳴き声が聞こえて来た。 気のせいかと思いながらリチャードが再び伽耶琴を奏でようとした時、突然彼女の前に白い物体が降って来た。「うわぁ!」「リチャード様、どうかなさいましたか?」「ケイツビー、こいつを俺の胸の上から退かせろ!」主の悲鳴を聞きつけたケイツビーが東屋へと駆けつけると、そこには甲高い悲鳴のような声で鳴く白猪がリチャードの胸の上に乗っていた。「猪が人里に降りてくるとは珍しいですね。それに白い猪とは珍しい。」「大方どこぞの両班に狩られそうになってここへ逃げて来たんだろう。怪我をしているようだから、後で傷薬でも塗っておくか。」「わたしがこの猪に塗っておきますから、リチャード様はどうぞ練習を続けてくださいませ。」「お前、そう言いながら俺が奏でる伽耶琴の音を聴きたいだけだろう?」リチャードがそう言って半ば呆れたような顔をしながらケイツビーの方を見ると、彼は少し頬を染めて俯いていた。「ケイツビー、俺の水揚げは当分延期にすることになったようだ。」「それは・・」「母上が何とかエドワード様に掛け合ってくださったそうだ。母上には深く感謝しないとな。」「それは良かったですね、リチャード様。」「あの女好きの両班に俺の初物を奪われずに済んで良かったと思っているのだろう?」「わたしは決してそのような事は・・」「おい、誰か俺の獲物を見なかったか?」 叢から物音がしたかと思うと、今度は両班の子息と思しき身なりのいい服を着た一人の少年が二人の前に現われた。 光を全て集めたかのような肩先まで伸びた金色の髪を揺らしながら、その少年は蒼い瞳でリチャードと、ケイツビーの腕に抱かれている白い猪を見た。「旦那様。」 リチャードは艶のある声で少年に向かってそう言うと、嫣然とした笑みを口元に浮かべた。「旦那様の獲物というのはわたくしの従者に抱かれている白い猪ですか、それとも・・」 チマの裾を軽く乱して立ち上がったリチャードは、その少年の耳元にこう囁いた。「このわたくし?」リチャードの銀の瞳が、少年の赤面する顔を捉えた。「お、俺が子供だと思って揶揄っているのか、無礼な妓生め!」「まぁそれは失礼いたしました。」リチャードはそう言ってクスクスと笑いながら少年から離れようとした時、チマの裾が伽耶琴を載せている台に引っ掛かり、それと同時に少年もバランスを崩し、彼はリチャードを半ば押し倒すような形で転んでしまった。「だ、大丈夫か?」「まあ旦那様、何て大胆な方ですこと。」 そうリチャードに言われ、己の両手が彼女の乳房を触っている事に気づいた少年は、素っ頓狂な叫び声を上げながらそのまま何処かへと行ってしまった。「あれは女を知らないな。身なりからすると両班の子息だ。あのエドワードと違って、少し可愛げがあっていい。」「リチャード様、お戯れが過ぎますよ。」「そんなに怒るな、ケイツビー。」 そう言ったリチャードは、少し乱れたチョゴリの胸紐を結び直すと、再び伽耶琴を奏で始めた。(うわぁぁ~、初めて俺は女人の乳を触ってしまったぞ!) 妓楼を飛び出した少年―この国の世子であるエドワードは、先程触った妓生の柔らかな乳房の感触を思い出してはその都度赤面した。その感触を頭から必死に振り払おうとしても、ますますそれを意識してしまった。(あの妓生、可愛い顔をしていたな・・また会えるのだろうか?)「世子様、こちらにおられましたか。」「チッ、見つかったか。」従者に見つかり、エドワードはその美しい顔を歪めて舌打ちした。「王様が何処に居らっしゃるのかもわからないのに、世子様まで居なくなられては困ります。」「おいお前、瑠璃楼を知っているか?」「はい、存じ上げておりますよ。あそこの妓楼の妓生は皆美しく一流ですからね。それがどうかないましたか、世子様?」「その中に居る一人の妓生の素性を調べて欲しい。そいつは黒髪で、左右の目の色が違う。その妓生の名は―」 リチャードと言う。「王様、宴がもうすぐ始まりますので、どうか・・」「わかったよ。」 森から王宮へと戻った王・ヘンリーは渋々と寝床から出ると、宴が行われている景徳宮の中庭へと向かった。 そこでは都一の妓楼と謳われる瑠璃楼の妓生達が色とりどりのチマを揺らしながら美しく舞い踊っていた。「王様がこのような場にいらっしゃられるなどお珍しい。」ヘンリーが宴に姿を現すと、すかさず王妃・マーガレットが彼に嫌味を言ったが、ヘンリーは一人の妓生の姿に釘付けになっていた。 妓生達の群舞が終わり、その妓生は男装姿で舞台に現われると、静かに剣舞を舞い始めた。 日の光に当たり緑色に美しく輝く黒髪を揺らしながら舞うその妓生の、黒と銀の瞳が自分の姿を捉えた瞬間、ヘンリーは自然と彼女の方へと駆け寄っていた。「リチャード、また君と会えるって僕は信じていたよ!」にほんブログ村
2019年10月15日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。二次創作が嫌いな方は読まないでください。「聞いたわよリチャード、あんたエドワード様との水揚げから逃げ出したんだってねぇ?」 リチャードが剣の稽古を妓楼の中庭でしていると、そこへ昨夜エドワードの宴席に居た先輩妓生・ミジャが話しかけて来た。「あんたって子は、本当に変わった子よねぇ・・妓生の癖に男装して、男の真似事ばかりして・・いい加減、現実と言うものを見つめたらどうなの?」「そちらこそ、いつまでもあんなうだつの上がらない“旦那様”にお仕えしていらっしゃるなんて、感心しますね。まさか、あの方と添い遂げるおつもりでも・・」「行首様に気に入られているからって、いい気になっているんじゃないわよ!」リチャードに恋人の事を揶揄われたミジャは激昂すると、そう叫んで彼の頬を平手で打った。「貴方の気が済むのなら、いくらでも俺を殴ればいい。まぁ、俺は間違った事は言っていないがな。」「このっ!」再びリチャードを殴ろうとミジャが手を振りあげようとした時、ケイツビーが彼女の腕を掴んだ。「リチャード様に何をする!」「こいつが先にわたしを馬鹿にしたのよ、先輩として後輩妓生の指導をしてやっただけよ!」「暴力を振るう事が指導だと?」「ケイツビー、止せ。先にそっちが俺を馬鹿にしてきたが、その安い挑発に乗ったのは俺だ。」「ですが・・」「全く、あんたの顔を見ていると虫唾が走るわ!」 ミジャはそう言ってリチャードを睨みつけると、ケイツビーを軽く突き飛ばしてそのまま姿を消した。「ああ、こんなにお顔が腫れてしまって・・すぐに冷やさないと痣になってしまいます。」「構うな、ケイツビー。それくらいの事は自分でやれる。」リチャードは、慌てて自分の世話をしようとするケイツビーを中庭に残し、汗で濡れた身体をさっぱりとさせる為、自室で着替えの服を取りに行った後、ある場所へと向かった。 そこは、森で剣の稽古をしていた時に偶然見つけた泉だった。 森の奥にあるので殆ど人が来ず、誰にも自分の身体を見られる危険がないので、リチャードはこの泉が唯一安らげる場所だった。 木の枝に着替えと汗で濡れた服を掛け、リチャードはゆっくりと水の中へと入っていった。 ふとリチャードが上空を見上げると、雲ひとつない上空には一羽の鷹が飛んでいた。(鳥は自由でいいな・・世間の柵といったものに苦しめられなくていい。) 水浴びを終えてリチャードが泉から上がろうとした時、背後の叢からガサガサという音が聞こえてきた。 急いで岸に上がり、着替えのチョゴリを羽織ったリチャードが叢の方を警戒していると、中から昨夜森の中で会った青年が現れた。「やあ、また会えたね。」 青年は美しい刺繍が施された靴で草を軽く踏みながら、ゆっくりとリチャードの方へとやって来た。 彼の身なりからすると、彼は何処かの両班の子息らしい。「俺の着替えが終わるまで向こうを向いていろ。」「あ、ごめん・・着替え中だったんだね!」 青年は急に我に返った様子で、そう言うと慌ててリチャードに背を向けた。(変な奴だ。) 着替えが終わったリチャードがチラリと青年の方を見ると、彼は顔を覆った両手の隙間からチラチラと自分の様子を窺っていた。「着替えはもう済んだから、こちらを向け。」「そう。ねぇ、君はどうして女の子なのに、男の格好をしているの?」「パジを穿いている方がチマを穿いている時より動きやすいし、着替えの時間が短くて済むからだ。どうしてお前はここに?」「息抜きに来たんだ。ねぇ、君の名前を教えてよ。僕はヘンリー。」「俺はリチャードだ。ヘンリー、お前見た所何処かの両班の子息らしいが、こんな所で暇を潰していると家の者が心配するんじゃないか?」「いいんだ、家の者は僕の事なんて心配していないよ。それよりもリチャード、僕達友達にならないかい?」「お前、変わっているな・・」 リチャードはそう言いながらも、ヘンリーの笑顔を見て胸が甘く疼くのを感じた。 一方、王宮では女官達や兵士達が慌てふためいた様子で誰かを探していた。「中殿媽媽、あの方が何処にもいらっしゃいません!」「良く探しなさい、あの方が行きそうな場所を全て当たるのです!」 王妃・マーガレットはそう言うと、溜息を吐きながら美しい刺繍が施された椅子に座った。 (全く、これから朝議が始まるというのに、王は一体何処で油を売っているのやら・・)「媽媽、お呼びですか?」「そんな堅苦しい呼び方は二人きりの時はお止めなさいと言った筈ですよ、エドワード。」「申し訳、ございません・・」 鮮やかな真紅の衣を着た少年は、そう言うと蒼い瞳を伏せた。「王は頼りになりません。エドワード、こちらへいらっしゃい。」「はい、母上・・」 自分の方へと恐る恐るやって来た息子を、マーガレットは優しく抱き締めた。にほんブログ村
2019年10月14日
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人種差別問題を描いた作品。ターク達のような白人至上主義者の存在、そしてアメリカで発生している憎悪犯罪―肌の色だけで差別されているという厳しい現実を描いた作品でした。
2019年10月13日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「天上の愛地上の恋」の二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「誰だ、こんな夜中に・・」「ルドルフ、起きているか!」 ルドルフが寝室から出ると、農場の外が夜だというのに妙に眩しいことに彼は気づいた。「大公、一体何がどうなっている?」「さぁな、俺にも解らねえ。ただ、外に居る連中と一度話をした方がいい。」「そうだな。」 ルドルフとヨハンが母屋の外に出ると、そこには松明を掲げた五十人程の男達が母屋の前に立っていた。『お前達、何者だ?』『夜分遅くに申し訳ございません。わたしは、ゴンザレス=アルファと申します。』 男達の集団の中から、カソックを着た老人がルドルフとヨハンの前に現れた。『わたしは貴方方の農場から少し離れた所で、学校を運営しております。ですが、今は教師の数が足りません。』『それで? こんな夜遅くにわたし達に何かお願いをしに来たのですか、ゴンザレス殿?』 恋人と睦み合おうとしていた時に邪魔が入り、不機嫌な表情を隠そうともせずにルドルフはカルロス達を睨むと、早口のスペイン語でそう捲し立てた。『申し訳ありません、ヨハン様。詳しいお話はまた明日、伺う時に致します。』『解ってくださればいい。』 カルロス達が帰った後、ルドルフは溜息を吐きながら母屋のドアを閉めた。「夜中に頼み事とは、迷惑な輩だな。」「まったくだ。明日も早いっていうのに。」 ルドルフが寝室に戻ると、アルフレートはベッドに入って眠っていた。ルドルフはそっとアルフレートの髪を撫でると、彼の隣に潜り込んで眠った。「アルフレート、起きろ。」「ん・・」カーテンの隙間から射し込む朝日に照らされ、アルフレートがゆっくりと目を開けると、目の前には身支度を終えたルドルフの姿があった。「ルドルフ様、おはようございます。」「おはよう。アルフレート、すぐに支度をしろ。お前に客人だ。」「わたしに、お客様ですか?」「ああ。」 数分後、アルフレートが身支度を終えて寝室を出ると、ダイニングルームには黒いカソックを着た老人が座ってコーヒーを飲んでいた。『初めまして、わたしはゴンザレス=アルファと申します。貴方が、アルフレート=フェリックス様ですね?』『はい。あの、ゴンザレス様はわたしに何のご用でこちらに・・』拙いスペイン語でアルフレートがそうゴンザレスに尋ねると、彼は咳払いをしてこう答えた。『実は、わたしは教会で村の子供達に読み書きを教えております。ですが、教師の数が足りません。確か、フェリックス様は昔司祭をしていらしたとか・・』『ええ。』隣でアルフレートとゴンザレスの話を聞いていたルドルフが、“教会”という単語を耳にして柳眉を微かにつり上げた。 アウグスティーナで宮廷付司祭として働いていた事はこの村の者達は知らない筈だ。『ゴンザレス様、わたしの経歴をどなたが貴方に教えたのですか?』ゴンザレスはアルフレートの言葉を聞き一瞬目を泳がせると、ある人物の名を口にした。『カルロス=エルパソ様からです。』「やはりな・・あの男、一目見た時から只者ではないと解っていたが、わたしが駄目ならアルフレートを狙うか・・」ドイツ語でそう呟いたルドルフの目が笑っていないことに気づいたアルフレートは、嫌な予感がした。「アルフレート、行くぞ。」「ルドルフ様、暫くお待ちください。」 今、彼をカルロスの元へ行かせてはならない―アルフレートはそう思い、怒りで蒼い瞳を滾らせているルドルフを落ち着かせようとした。にほんブログ村
2019年10月13日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「天上の愛地上の恋」の二次創作です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「先ほどまであなたの話を聞いていたが、あなたは出鱈目(でたらめ)ばかり言うのだな。」「出鱈目だと?」「この新聞に、ルドルフ皇太子が棺の中で眠っている写真が載っているでしょう? 死んだ人間が何故あなたの目の前に居ると思うのですか?」「そ、それは・・」ルドルフの言葉を聞いた男の目が少し泳いだ。「申し訳ありませんが村長、あなたの戯言に付き合っている暇はないので、これで失礼いたします。行くぞ、アルフレート。」「はい。」ルドルフは男に背を向け、アルフレートと共に居間から出ようとした。「待ってください、ひとつだけ質問をしても良いですか?」「何ですか?」「その右手の火傷はどうされたのです? 随分と古いもののように見えるのですが・・」「ああ、これですか? 昔、銃が暴発して怪我をしてしまいましてね・・それが何か?」「いいえ、何も。わざわざお呼び立てしてしまってすいませんでした、お気をつけてお帰り下さい。」「では、失礼致します。」 ルドルフは慇懃無礼な口調でそう言うと、男―カルロスに愛想笑いを浮かべて居間から出て行った。「さっきは危なかったな。」「ええ。それよりもルドルフ様、あの人は何故ルドルフ様のことをご存知なのでしょう?」「さぁな。それよりもアルフレート、今日の夕飯は何だ?」「それは秘密です。あなた様が夕飯の準備を手伝ってくださるのならお教え致しますが。」アルフレートの言葉に、ルドルフは軽く舌打ちした。 カルロスの家から農場へと戻ったアルフレートは、キッチンでルドルフとともに夕飯の準備をしていた。「手際が良いな、お前。何処でそんなことを覚えたんだ?」「昔から、ローザと一緒に家事をしていましたから、料理も自然と覚えました。」「そうか・・」恋人の口から、幼馴染の少女の名を聞いたルドルフは少し不機嫌そうな表情を浮かべた。「ルドルフ様、もしかして嫉妬しました?」「ふん、嫉妬などするか、馬鹿らしい。」ルドルフはそう言って誤魔化したが、玉葱を潰す時に少し力が入ってしまった。「あら美味しそうね、またアルフレートが作ったの?」「はい。でもルドルフ様にも手伝って貰いました。」「へぇ、珍しいわね。どれどれ・・美味しいわ!」ミリはルドルフが作ったサラダを一口食べると、そう言って笑った。「ウィーンに居た頃は料理なんか全然しなかったお前が、料理を覚えるとはね・・人って変わるものだよな。」「少しはわたしを見直したか、大公?」「う、うるせぇ!」 楽しいひと時は、静かに過ぎていった。「アルフレート、今夜はゆっくりできるな。」「ルドルフ様、明日は朝が早いのですから、寝ませんと・・」「そんなつれないことを言うな。夜はまだまだ長いぞ。」 夜の帳が下りようとしている頃、ルドルフは寝室でそう言ってアルフレートに迫った。 ルドルフがアルフレートの唇を塞ごうとした時、母屋のドアが誰かに激しくノックされた。にほんブログ村
2019年10月13日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。有匡が父と共に自室に入ると、下座には土御門家の使者が二人座っていた。「夜分遅くに訪ねて来てしまい、申し訳ございませぬ。」「このような時間帯に我が家を訪ねてくるとは、それほどに火急の用なのだろうな?」有匡がそう言って使者の一人を睨みつけると、彼は蛇に睨まれた蛙のようにひぃっと情けない声を出した後俯いた。「お館様がお倒れになられまして、お館様はどうしても有匡様にお会いしたいと仰せになられております。」「それはまことか?」「わたくしどもがこの場で嘘など申し上げて、何の得がありましょうか?」「それもそうだな。貴殿らの望みはわたしに上洛して欲しい事だろう?残念だが、わたしは貴殿らの望みを叶えることは出来ぬ。」「そこを何とかお願い致します!」「父上、いかがいたしましょうか?」有匡がそう言って有仁の方を見ると、彼は溜息を吐いた後、こう言った。「兄上の容態がどのようなものなのかはわからないが、兄上が有匡を人質に取ろうとは考えておるまい。一度顔を見せるだけでもした方がよいな。」「父上・・」「かたじけない。それではわたくしどもはこれで失礼いたします。」 本家の使者達が帰った後、有仁は渡したい物があると有匡を自室へと呼んだ。「わたしに渡したい物とは何ですか、父上?」「これだ。」 有仁は紫の袱紗に包まれた十字を象った美しい首飾りを有匡に見せた。「これは?」「スウリヤがわたしに託したロザリオだ。」「このロザリオが母上の物であるならば、何故父上がお持ちなのですか?」「スウリヤは隠れキリシタンだった。お前と艶夜を置いて彼女がわたし達の前から姿を消したのは、あいつがキリシタンである事を周囲に露見する前にわたし達に迷惑を掛けまいと思ったのだろう。」 有匡は父の言葉が信じられなかった。「母上のロザリオをわたしに渡して、どうせよと言うのですか?」「京でスウリヤに会ったら、このロザリオを彼女に渡して欲しい。」「わかりました。父上、上洛するまでに火月と祝言を挙げたいと思うのですが・・」「構わぬが、祝言を挙げる前に火月と良く話し合うのだぞ。」 翌日、有匡は高原家を訪れ、火月と祝言を挙げることを先方に告げた。「それはめでたい事だ。早速日取りを決めよう。」「これで漸く有匡様と火月様が夫婦となられるのですね。これから家族が増えるのかと思うと、何だか嬉しく思います。」 火月の母・喜代はそう言うと、隣に座っている夫に微笑んだ。「ああ、そうだな。」祝言を挙げるのは数日後と決まった。「何だか今から楽しみだわ。有匡様と夫婦に早くなりたいわ!」「お嬢様、余り興奮なさってはいけませんよ。」「ねぇ久、わたしは有匡様にとって良い妻になれるかしら?」「それはお嬢様の御心次第でございますよ。」「そうね。」 妹と彼女の乳母がそんな話をしていると、美祢が蒼褪めた顔で彼女達の前に現れた。「姉上、どうかされたのですか?」「いいえ、何でもありません。それよりも火月、有匡様と祝言を挙げることになったのですね、おめでとう。」「有難うございます、姉上。」「有匡様と幸せになるのですよ。」そう言って自分に微笑んだ姉の様子が少しおかしい事に火月は気付いたが、何も言わなかった。 有匡と火月が祝言を挙げた日の夜、美祢が突然家族の前から姿を消した。にほんブログ村
2019年10月12日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「先ほど、兄上から文が届いた。」「叔父上から?」 京に住む父の兄にあたる叔父と、父・有仁(ありひと)が犬猿の仲である事を有匡は知っていた。 なので、有匡は父から叔父から文が届いた事を知り、嫌な予感がした。そしてそれは、見事に的中した。「その文には、急遽お前に上洛して欲しいと書かれてあった。」「叔父上がわたしに何の用でしょうか?」「さぁな。家督をお前に継がせたいのだろうよ。兄上の息子達は揃いも揃って出来が悪いと聞いているからな。」有仁は溜息を吐きながらも、自分の甥にあたる従兄弟たちの事を酷評することは忘れなかった。「わたしはあの家など継ぎたくありませんし、京へなど行きたくありません。もし叔父上の元へ行けば、二度と江戸には帰って来られぬような気がするのです。」「策士として名高い兄上の事だ、お前を人質にしてわたしと引き離す算段をしているのかもしれん。」「わたしから叔父上に上洛はせぬという旨の文を送ります。」「そうしてくれると助かる。それよりも有匡、最近火月殿とは会っているのか?」「ええ。火月との時間を作ろうとはしているのですが、最近仕事が忙しくてなかなか会えずにいます。」「火月殿を大切にしてやれ、有匡。祝言はいつ挙げるつもりだ?」「年明けまでには挙げるつもりでおります。」「そうか。火月殿は幼い頃からお前を想っていたから、年明けまでとは言わず、すぐにでも祝言を挙げてやれ。」「父上、戯言が過ぎます。」「済まない、お前と話しているとつい昔の事を思い出してしまってな。」そう言った有仁の目は、何処か遠くを―過ぎ去った日々の事を思い出しているかのようだった。「母上の事を思い出していたのですか、父上?」「ああ。」 有匡と艶夜の母、スウリヤと有仁は、周囲の反対を押し切って結婚したが、艶夜が三つになった頃、彼女は突然有匡達の前から消えてしまい、今は生きているのか死んでいるのかさえもわからない。「スウリヤがお前達を捨てたのは、わたしが至らない所為だとずっと思っていたのだが・・何か彼女にも事情があったのだろう。」「母上の話はもう止しましょう、父上。もう過ぎた事です。」「そうだな。だがスウリヤの事を忘れようとしても忘れられんのだ。私の所為でスウリヤは私達の元から去っていってしまった。有匡、火月殿を大事にしろ。私のようにならぬように。」「父上・・」苦渋に満ちた表情を浮かべながらそう言った父の手を、有匡はそっと握った。 数日後、有匡の元に叔父からの文が再び届いた。「何だと、スウリヤが京に居る?」「はい。真偽は確かではありませんが、叔父が母とよく似た女を見たと。父上、これは父上を謀る為の罠かもしれません。」「そうだな。」その日の夜、有匡が自室で読書をしていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。「どうした、何かあったのか?」「有匡様、先程京から使いが来て、有匡様にお会いしたいと申しております。」「このような時間に訪ねて来るとは非常識な輩だ、追い返せ。」「ですが、有匡様・・」「何だ、まだ何かあるというのか?」「その使いによれば、叔父上様がお倒れになられたと・・」「それはまことか?」 女中に有匡は使いを部屋へと通すように言うと、父の部屋へと向かった。「父上、有匡です。起きておられますか?」「どうした?」「先ほど京から使いが来て、その者によれば叔父上がお倒れになられたと・・」「その者は何処に居る?」「わたしの部屋に通すよう女中に命じました。」「そうか、わたしも会おう。」にほんブログ村
2019年10月12日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。二次創作が嫌いな方は読まないでください。(俺は、男になりたかった・・それなのに、どうしてこんな物がついているんだ。) ひとしきり泣いたリチャードは、そう思いながら晒しの下に隠された乳房をそのまま握り潰さんばかりに両手でそれを掴んだ。 自分が男と女、両方の性を以て生まれてきた事を知ったのは、13の時に初潮を迎えた日の朝の事だった。 下腹と腰に鈍痛が走り、違和感を抱いた後、褥の上に広がっている赤い染みを見たリチャードは、恐怖のあまり泣き叫んだ。その時慌てふためくリチャードを優しく宥め、処理の方法を教えてくれたのはケイツビーだった。 彼はリチャードの出産に乳母と共に立ち会い、彼が両性具有である事を知る数少ない人物の一人でもあった。『お前は知っていたのか?俺がこんな身体だと言う事を!』 そうリチャードがケイツビーを詰った後、彼は何も言わずに俯いた。『リチャード様、どうか貴方様のお傍に居ることをお許しください。』それから、ケイツビーは常にリチャードの傍に寄り添うように仕えていた。 妓楼には男の使用人が何人か居るが、ケイツビーの様に一人の妓生に仕える使用人の存在は稀で、妓楼内ではリチャードとケイツビーが恋仲ではないのかという事実無根の噂が飛び交う始末だった。 男でも女でもない自分を受け入れてくれたのはケイツビーだった。母親や周囲から疎ましがられ、常に孤独だった自分に寄り添ってくれたのはケイツビーだった。 冷たい夜風を頬に受け、リチャードはケイツビーに急に会いたくなり、先程飛び出していった邸宅へと戻ろうと、森の中を歩き始めた。 闇に包まれた森の中では、時折聞こえる鳥の鳴き声や、木々のざわめき以外何も聞こえず、静寂に包まれていた。 リチャードにとって、闇に包まれた夜の森は恐怖そのものだった。何故なら、母親のセシリーは幼い自分を夜の森に一晩中置き去りにし、そのまま姿を消してしまったからだ。 セシリーから疎まれている事を、リチャードは森に置き去りにされる前から薄々と感じていた。 王家の血筋をひいた両班の名家の妻として生きる彼女にとって、出来の良い息子達の後に生まれて来た「厄介者」は、邪魔な存在でしかなかったのだ。 一晩中森の中で夜を明かし、木の洞の中で寒さに震えているリチャードを見つけたのは、「瑠璃楼」の行首・チョンジャとケイツビーだった。 親に捨てられたリチャードを哀れに思ったチョンジャは、我が子同然にリチャードを育てた。 剣術や乗馬の腕もさることながら、舞や楽器、書画に於いても一流だったリチャードは、妖艶でありながら何処か謎めいた雰囲気を持った童妓として成長していった。 やがては名妓に成長するであろうリチャードの噂はたちまち都中に広がり、リチャードの水揚げをしたいと申し出たのは好色家として名高い両班の嫡男・エドワードだった。 その水揚げのお膳立てをしたのがチョンジャだと知っていながらも、リチャードはそれを蹴った―養い親の顔に、泥を塗ったのも同然の行為をしたのだ。 どんな顔をしてチョンジャと会えばいいのかわからなかったリチャードだったが、せめて白粉が崩れた顔で彼女と会いたくなかったので、近くにあった池の前に屈みこんでその水で顔を洗った。 その時、誰かが背後から自分を抱き締める感覚がしてリチャードが振り向くと、そこには美しく澄み切った宝石の様な蒼い瞳をした青年が自分を見つめていた。「駄目だよ、どんなに辛い事があっても、自分で命を絶とうとするなんて・・」青年はそう言ってリチャードの手を掴んで立ち上がらせると、突然自分の方へとリチャードを抱き寄せた。「何をする!」入水自殺しようとしていたと勝手に勘違いされた挙句、見知らぬ青年に抱きつかれた事に激昂したリチャードはそう叫ぶと、青年を突き飛ばしてその頬を平手で打った。「痛いよ・・」「それ以上俺に近寄ると殺してやる!」赤くなった頬を擦りながら、今にも泣きだしそうな顔で自分を見つめている青年に背を向け、リチャードは再び森の中を歩き出した。 一方、リチャードがエドワードを拒んだ事を知ったチョンジャは、溜息を吐いた後必死にエドワードに向かって平謝りした。「どうかリチャードの事をお許しくださいませ、エドワード様。あの子はまだ幼いのです、男女の艶事などを知らぬ子を貴方様に宛がったのが間違いでした。」「わたしも性急すぎたようだな。チョンジャ、わたしはあの子が大人になるまで待つとしよう。あの子という花はまだ固い蕾の中に隠れている。その花が開くまで、あの子の水揚げをわたしが貰うのは楽しみにしておこう。」「わかりました、寛大なるエドワード様に感謝致します・・」チョンジャはそう言ってエドワードに跪くと、彼の手の甲に接吻した。 リチャードが息を切らしながらエドワードの邸宅へと戻ると、彼の部屋からチョンジャが出て来た。「行首様、申し訳ございませんでした・・俺は・・」「エドワード様は、お前の事をお許しになられたよ。」チョンジャはそう言うと、リチャードの肩を優しく叩いた。「リチャード、お前の身体の事は知っている。いつかエドワード様に抱かれるその日まで、その身体を他人に開いてはいけないよ、わかったね?」「はい・・」「さぁ、帰るよ。」 チョンジャと共に邸宅を後にしたリチャードは、背後から視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。「どうしたんだい、リチャード?」「いいえ、何でもありません。」(何だろう、誰かに見られていたような気が・・) チマの裾を摘みながらリチャードがチョンジャとケイツビーの後をついていく姿を、先程の青年が木陰から見つめていた。 彼はそっと、リチャードに打たれた右頬を擦った。 そこはまだ、リチャードの手の温もりが残っているような気がした。(名前、聞いていなかったなぁ・・) 青年は、月に照らされた金色の髪を揺らしながら、森の中へと消えていった。にほんブログ村
2019年10月11日
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画像はコチラからお借りいたしました。「薔薇王の葬列」二次創作小説です。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。二次創作が嫌いな方は読まないでください。 ―俺には闇の中で生きるのが相応しい、何故なら俺は・・ 白く照り輝く月の下、ある貴族の邸宅では華やかな宴が開かれていた。 食べきれない程の料理が食卓の上には所狭しと並べられ、貴族達は談笑しながらそれらを時折摘みながら美酒に舌鼓を打っていた。 彼らの傍には、都一の妓楼である「瑠璃楼」の妓生達が侍り、彼女達が笑う度に纏っている色鮮やかなチマ(スカート)が衣擦れの音を立てていた。「今宵はあの麗しい妓生の姿はないのか?」「まぁ旦那様、この美しいわたくしを差し置いて、他の妓(こ)のお話をするのですか?」「そんなに気を悪くしないでくれ。わたしはこの世の美しい女人を全て愛でたいんだ。」「まぁ、悪いお方。」 貴族―エドワードにそう囁かれた妓生はすっかり気を良くしたようで、彼女はエドワードの空になったグラスに新たな酒を注いだ。「あの子なら、朝から姿を見かけませんわ。何処かで剣術の練習でもしているのでしょう。」「妓生が剣術の練習を?珍しい事もあるものだね。」「あの子は妓生なのに、宴席に行くことを嫌いますし、いつも男の格好ばかりして・・一体何を考えているのかわかりませんわ。」 そう言って溜息を吐いた妓生が空を見ると、そこには黒雲がかかって白く輝く月を瞬く間に覆い隠してしまった。 同じ頃、貴族の邸宅から少し離れた竹林の中で、一人の少年が剣術の練習をしていた。 敵に模した木型の人形を相手に、少年は一心不乱に剣を振るっていた。艶やかな黒髪を時折夜風に靡かせながら、額から流れ落ちる汗にも気づかずに、彼は剣を握る手が痺れて動かなくなるまでひたすらそれを振るい続けていた。 苦しそうに息を吐きながら、振るっていた剣を鞘におさめた少年は、その華奢な身体を竹の近くに預けた。「こちらにいらっしゃったのですね、お嬢様。」「その呼び方は止めろと言っただろう、ケイツビー。」「申し訳ありません、リチャード様。」 褐色の肌に深緑の瞳をした青年は、そう言うと主の前に跪いた。「このような所に居てはお風邪を召されます。早くお屋敷に戻りませんと・・」「言っておくが、俺は貴族の宴席には行かないぞ、ケイツビー。」「承知しております、リチャード様。」ケイツビーが恭しく自分の前へと差し出した手を、少年はしっかりと握った。 二人が竹林を出て向かった先は、「瑠璃楼」の中にある部屋だった。「お召し替えをしてくださいませ、リチャード様。汗で濡れた服を纏ったままではお風邪を・・」「わかった。」 少年―リチャードは汗で濡れたチマ(上衣)の胸紐を解くと、それをケイツビーに手渡した。 鏡に映っているのは、リチャードの胸に巻かれた白い晒しの下に隠された小ぶりな乳房だった。 溜息を吐きながら、リチャードが目障りなそれを見下ろした後、泥で汚れたパジ(袴)を脱ぎ捨てた。 ケイツビーが着替えとしてリチャードに手渡したのは、女物の服だった。「男の服はないのか?」「ここは妓楼です、リチャード様。地味な服はこれしかありませんでした。」「そうか、ならば仕方ないな。」 漆黒のチョゴリと白地に黒糸で薔薇の刺繍が施されたチマに着替えたリチャードは、ケイツビーに付き添われながらあの貴族の邸宅へと向かった。「ケイツビー、俺は宴席には侍らないと言った筈だが?」「リチャード様、わたくしの顔を立てると思って、暫く辛抱してくださいませ。」「わかった。」 リチャードは不快そうに鼻を鳴らすと、宴席が開かれている母屋の中へと入った。 そこには、数人の妓生を侍らせながら葡萄酒を飲んでいるエドワードの姿があった。「漸く来たか。さぁ、こちらへおいで。」 リチャードがエドワードの近くに行くと、彼の身体から酒の匂いが漂って来て思わずリチャードは顔を顰めてしまった。「どうした、気分でも悪いのか?」「いいえ。」 ここに来てから、やけに下腹と腰に鈍痛が断続的に襲ってきたが、リチャードはその痛みを隠す為、エドワードに向かって愛想笑いを浮かべた。「ここでは人目があるから、わたしの部屋へ行こう。」エドワードはリチャードにしか聞えないような声でそう囁くと、リチャードの華奢な腰を抱いた。 リチャードは細い肩を震わせながら、エドワードの言葉に頷いた。 エドワードとリチャードが宴席から抜け出すのを見た妓生達は、これからリチャードの身に何が起きるのかを知っていた。 見習いの童妓(トンギ)から卒業する為には、その操を捨てなければならない。その儀式―水揚げは、妓生として生きる為なら避けては通れぬ道なのだった。「エドワード様なら大丈夫だろうと思うけれどねぇ・・」「でも、あの子の秘密を知ったら、どうなるのかしら?」「さぁ・・」 エドワードの部屋に通されたリチャードは、すぐさま用意されていた褥の上に押し倒された。 彼の手が欲望を孕みながらチョゴリの胸紐を解くのを見ていたリチャードの脳裏に、幼き頃の悪夢が突如浮かんだ。“悪魔の子、汚らわしい!”「どうした?怖くて震えているのかい?」「嫌だ、嫌・・」 掠れた声でそう言ったリチャードは、自分を宥めようとしているエドワードを押し退け、チマの裾を乱しながら部屋から飛び出し、闇に包まれた森の中へと駆けだした。 息を整える為、近くの木の太い幹に両手をついたリチャードは、屈辱と怒り、そして恐怖の感情が内側から大きく溢れ出し、堪えていた涙が頬を伝い白粉によって施された薄化粧が台無しになるのも構わずに、彼はひたすら泣き続けた。にほんブログ村
2019年10月10日
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「ノートルダム・ド・パリ」を読む前に、作品の解説と時代背景についてわかりやすく書かれていたので良かったです。いつになるかはわかりませんが、「ノートルダム・ド・パリ」を読む際に、この本に書かれていたことを思い出そうかなと思っています。
2019年10月09日
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※BGMと共にお楽しみください。「この空色の布も、アンジェリーナ様にはお似合いかと思いますよ。」「そうか、ではあの緑の布もくれるかな?代金はいつもより二倍弾むから、最高に美しいドレスを作っておくれ。」「はい、かしこまりました。」 仕立屋のパウロは、アンジェリーナから金貨が詰まった袋を受け取ると、笑顔を浮かべながら去っていった。「近々、国王陛下主催の舞踏会が開かれるから、あたいらは休む暇がないね。:「いいじゃないか、働いた分給金が増えるんだからさ。」 パウロの工房では、貴族の令嬢達や貴婦人達が着るドレスを縫いながら、彼の使用人達はそんな事を話していた。「それにしても、今回の舞踏会にはクリスティーネ様はおいでになるのかねぇ?」「まさか!そんな事を陛下がお許しになる筈がないだろう!」「それもそうだね!」 使用人達がそう言って笑っていると、頭に美しい羽根飾りの帽子を被った一人の女性が入って来た。「失礼、こちらパウロさんの工房かしら?舞踏会で着るドレスをパウロさんに作っていただきたいのだけれど・・」「いらっしゃいませ。お客様、どのようなドレスをご所望でございますか?」「そうね、こんなデザインのドレスを作って下さらない?」 女性はそう言うと、ドレスのデザイン画をパウロに見せた。「ドレスの代金はいつもより三倍弾むから、急ぎでお願いするわね。」「かしこまりました、ではこちらの注文書にサインをお願い致します。」「わかったわ。」 女性が注文書にサインした名前を見たパウロは、驚きの余り声を出してしまいそうになったが、平静さを装いながら女性から注文書を受け取った。「じゃぁ、よろしくね。」 王妃の喪が明けてから数日後、国王主催の舞踏会が王宮で開かれた。 美しい宝石やドレスで着飾った令嬢達や貴婦人達は長椅子に座り、社交界のゴシップを互いに提供し合っていた。「アンジェリーナ様のドレスは素敵ね。どなたがお作りになったのかしら?」「パウロ様の工房よ、きっと。あんな美しい刺繍を刺せるのは、パウロ様の工房にしかできないもの。」「そうよね・・」「あら、あの方は?」「まさか・・クリスティーネ様ではなくて?」「そんな・・」 令嬢達の視線は、真紅のドレスに身を包んだクリスティーネに向けられていた。「クリスティーネ、余と踊ってくれるか?」「はい、喜んで。」 貴族達の輪の中で、クリスティーネとフェリペは優雅にワルツを踊った。(一体、何故この娘がここにいる!?) アンジェリーナは怒りと驚きの余り、持っていた扇子を握り潰してしまった。にほんブログ村
2019年10月09日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次創作小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「王妃よ、王の御前ですよ、控えなさい。」 突然声を荒げた王妃をそうテファ大妃は窘めたが、興奮した王妃はおもむろに目の前に置いてあった料理の膳を薙ぎ払った。 この宴の為に一流の料理人が贅を尽くした料理が、一瞬して床に散らばり無となる瞬間を火月は黙って見ているしかなかった。「気分が優れないのでこれで失礼いたします。」「王妃様、お待ちください!」 王妃が突然宴席を退出し、暫く周囲は騒然となった。「大妃様、その者は?」 呆然としている火月の前に、髪を結わず、夜着姿の王が現れた。「この者はハン大監の娘で、明日から尚衣院の女官となる火月です。」「火月と申します。」 そう王に挨拶した火月は、夜風にたなびく王の艶やかな黒髪に見惚れてしまった。「顔を上げよ。」「はい・・」 火月がゆっくりと顔を上げると、王の切れ長の黒曜石の双眸が、彼女の白皙の美貌を捉えていた。「美しい色の瞳をしているな。赤はわたしが一等好きな色だ。」 王はそれだけ言うと、宴席から去った。「火月、もう下がって良いぞ。」「はい、大妃様。失礼致します。」 大妃に一礼し宴席から去った火月は、チェヨンの顔を一目見るなり、その場にへたり込んでしまった。「お嬢様、大丈夫ですか?」「大丈夫な訳ないでしょう、すごく緊張したんだから!」「お嬢様、暗くなる前に帰りましょう。」「えぇ、わかったわ。」 火月とチェヨンが家路に着こうとしていた頃、都一の妓楼・蝶夢楼の一室では、一人の妓生(キーセン)が玄琴(コムンゴ)を奏でていた。「スンア翁主(オンジュ)、大妃様がお呼びです。」「その名で私を呼ぶな。」※翁主(オンジュ):王の側室が生んだ王女の呼び名※妓生(キーセン):朝鮮王朝時代、歌や舞、書画などで宴席に花を添えた芸者のこと。朝鮮王朝時代には、両班・中民・賤民という厳格な身分制度が存在し、妓生は賤民に位置する。にほんブログ村
2019年10月09日
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2006年に放送された、「結婚できない男」の続編です。最初から面白くて、ついつい引き込まれてしまいます。阿部寛のキャラがいいですね。
2019年10月08日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」二次創作小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 王は、雪で白く染まった宮殿の中庭を散策していると、何処からか美しい伽耶琴(カヤグム)の音色が聞こえて来ることに気づいた。 その音色に惹かれ、王が宴席へと姿を現すと、テファ大妃(テビ)の隣に座っていたクオク王妃が安堵の表情を浮かべていた。 王妃は、王の視線が自分ではなく、伽耶琴を奏でている娘に向けられている事に気づいた。「王妃、どうしたのです?」「媽媽(マーマ)・・」 王妃の様子が少しおかしい事に気づいたテファ大妃は、近くに控えていた女官の耳元に何かを囁いた。 無事演奏を終えた火月は、テファ大妃に向かって、養母・スアから教えられた宮廷式のお辞儀をした。「顔を上げなさい。」「はい、大妃様。」 火月が恐る恐る俯いていた顔を上げると、大妃は彼女に優しく微笑んでいた。「素晴らしい演奏であったぞ。」「有難きお言葉にございます、大妃様。」「わたしも伽耶琴を嗜んでいるが、其方ほどの名手は見た事がない。」「光栄に思います、大妃様。」「其方、名は何という?」「火月と申します、大妃様。」「火月よ、其方は明日から尚衣院(サンイウォン)の女官となれ。」「はい・・」 突然の大妃からの命令に火月は戸惑いを隠せなかったが、この場では彼女の命令に従うのが賢明であると思ったので、大妃の言葉にそう答えた後、再び大妃に向かって一礼した。「大妃様、そのような事を勝手に決められては困ります!」 大妃の隣に座っていたクオク王妃の棘が含まれた声が、火月の耳朶に突き刺さった。 火月は視線の端でちらりとおろおろとした様子で自分を見つめるチェヨンの姿に気づき、彼女の元へと戻りたかったのだが、足が急に萎えてしまったかのようにその場から動くことが出来なかった。「宮中の女官を決めるのは王妃であるわたくしの仕事です!」「王妃よ、この者を尚衣院へ入れると決めたのはこのわたくしです。」「ですが、納得がいきませぬ、大妃様!」 火月を中央に挟んで、互いに譲らぬ様子の大妃と王妃の姿に、周りの両班達は暫し酒を飲む手を止めて事の成り行きを静かに見守っていた。※尚衣院(サンイウォン):王の衣装などを作る部署。にほんブログ村
2019年10月08日
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長年ネット上で交流させていただいている、得津美恵子さんの新作です。 進学校で理不尽ないじめに遭う娘、夫の不倫…ページをめくるたびに、いじめの被害者に冷淡すぎる学校側の対応と、千春の夫・健介の身勝手さに腹が立ちました。 折しも、神戸須磨の小学校で教師同士の残酷な傷害暴行行為が明るみになりました。 彼らのした行為は、被害者の人権を侵害し精神を破壊した許しがたいものです。 この作品を通して、人間として一番大切なものは何かを、多くの方に考えて欲しいものです。
2019年10月08日
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多摩川沿いに住む、幸せそうな一家。しかし彼らには秘密があった。「辛口ホームドラマ」の原作小説ですが、余り嫌らしさなどを感じずにさらっと軽い気持ちで読めました。発表時は携帯スマホパソコンがない時代(1970年代)なので、現代に舞台を置き換えたらどうなるのか、考えると面白いです。
2019年10月07日
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